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  • 壮烈砲塁奪取

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壮烈砲塁奪取

最終更新:2019年12月29日 04:16

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壮烈砲塁奪取
山本周五郎


【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)柳家屯《りゅうかとん》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)八|高地《こうち》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定]
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号またはUnicode、底本のページと行数)
(例)※[#感嘆符二つ、1-8-75]


[#3字下げ][#中見出し]一、面倒臭え※[#感嘆符二つ、1-8-75][#中見出し終わり]

 柳家屯《りゅうかとん》の六十八|高地《こうち》は砲煙に包まれていた。濛々《もうもう》と立舞う硝煙と土埃《つちぼこり》の間に、銃剣がきらめき小銃の火花がとんだ。白兵戦《はくへいせん》だ。
 守るは支那北軍《しなほくぐん》の雄《ゆう》、湯《とう》将軍|麾下《きか》の果敢な正規兵、攻《せめ》るはこれ葛木《かつらぎ》少佐|幕下《ばくか》の白骨大隊《はっこつだいたい》である。熱河《ねっか》討伐のため急遽《きゅうきょ》南下しつつあった大隊は、柳家屯においてはからずも頑強な敵部隊に遭遇し、苦戦連日――ついに最後の突撃を敢行したところだ。
「わあ――わっ!」ばあん! ぱりぱりっ※[#感嘆符二つ、1-8-75]
「突込め――っ※[#感嘆符二つ、1-8-75]」つんざくような喚声と、爆音と、悲鳴と、そして炸烈《さくれつ》する手榴弾《しゅりゅうだん》の閃光《せんこう》とが、六十八高地を血なまぐさく彩《いろど》っていた。
 この時、白骨大隊の最右翼に、先頭をきって突進する三人の二等兵があった。一人は背の高い大男で寒川勇作《さむかわゆうさく》といい、俗にのっぽ[#「のっぽ」に傍点]と呼ばれている。一人はずんぐり[#「ずんぐり」に傍点]と肥えた尾崎実《おざきみのる》で、綽名《あだな》を鞠《まり》。もう一人は痩《や》せた岡本忠太《おかもとちゅうた》でみんなは「骨左衛門《ほねざえもん》」と呼んでいた。彼等は右翼の長井小隊で、(無敵三人組)と異名される勇敢なひと組であった。
 三人は前進また前進、脇眼《わきめ》もふらず、前後左右に群《むらが》る敵を突伏せ撃伏せ、いつか飛弾をくぐって、六十八高地左端の、一ばん頑強な掩蔽堡塁《えんぺいほうるい》に肉薄していた。
「あ、いけねえ」寒川のっぽが大声に叫んだ。
「己達《おれたち》あきすぎちゃったぜ、見な! 本隊はどっかへいっちゃった」
「あれあれ」岡本の骨左衛門も振かえって、
「本当だあ、へへへ」
「どうしよう」
 鞠の尾崎がぴっ[#「ぴっ」に傍点]と、上手に前歯の間から唾《つば》を飛ばす。これが鞠の自慢の芸である。寒川はちらと堡塁を見あげた。とたんに三人のま近で迫撃砲弾が炸烈し、三人は頭から土煙をあびせられた。
「面倒臭え、やっちまおうか」のっぽ[#「のっぽ」に傍点]は口の中へとびこんだ泥を吐き出しながら、銃を取直して弾丸《たま》を籠《こ》める。
「なんでえ、何をやるんでえ」
「どうせここまできちゃったんだ。ついでにあの堡塁を取っちまおうてんだ」
「面白え――」
「よかろう」口の中から唾といっしょに、のみこんだ泥をぴっ[#「ぴっ」に傍点]! と飛ばしながら、鞠も手早く弾丸《たま》を籠め直した。
「じゃあ、やっつけよう」
「よかろ――あ! 痛《つ》つつつ」鞠があわてて背中へ手をやった。
「どうした」のっぽ[#「のっぽ」に傍点]が振返る。
「せ、背中を蚊に喰われちゃった」
「なによう、こんな戦《たたかい》のまっ最中に蚊なんぞがいるかってんだ。どれ見せろ」呆《あき》れながら骨左衛門が、鞠の背中を見るとすこし血が滲《にじ》んでいる。急いで軍服の破れへ指を入れてみる、と――まだ熱い小銃弾がひとつ、ぽろりと転がり出てきた、外《そ》れ弾があたったのだ、傷はほんのかすったばかり――。
「ははははは」骨左衛門は大声に笑った。
「なるほど蚊だあ、見な――こんなでけえ蚊だよ、はははは」
「出かけよう」寒川が叫んだ。三人は機関銃弾、手榴弾の雨下《うか》する中を、猛然と突喊《とっかん》していった。
 二時間後――。
 柳家屯高地を完全に占領した白骨大隊は、六十八高地の上に高く日章旗を掲げ、葛木少佐は幕下をしたがえて検閲にまわった。すると一番猛烈に抵抗して、我軍に多大の損害を与えた左端《さたん》掩蔽堡塁に、三人の日本兵が立番しているのをみつけ出しした。いうまでもない例の(無敵三人組)である。
「お前達はどうしたのか」少佐が近よってきくと、寒川のっぽ[#「のっぽ」に傍点]が一歩前進して答えた。
「は、自分らは、長井小隊の寒川二等兵、尾崎二等兵、岡本二等兵であります、この堡塁を占領したので、只《ただ》いま立番をしておるところであります、終り」
「小隊長はどうしたか」
「は――」寒川は困った顔で、
「し、知らんのであります」
「なに知らん――?」少佐が審《いぶか》しそうに、
「では、長井小隊はどこにおるか」
「そ、それも、知らんのであります、終り」
「まだ終りじゃない」少佐が苛《いら》って、
「こら、よく聞くんだ。いいか――この堡塁を占領したお前らの本隊はどうしているかときいているんだぞ!」
「そ、それが――なにしろ」

[#3字下げ][#中見出し]二、夜襲来《やしゅうらい》[#感嘆符二つ、1-8-75][#中見出し終わり]

 尾崎の鞠が活溌《かっぱつ》に進み出た。
「は、尾崎二等兵申上げます、我々は突撃中において本隊とはぐれました。そこで、その相談したのであります」
「相談――?」
「で――もうしようがないじゃないか、だから、面倒臭えから、やっちまおうてえ事になったのであります。はい」
 骨左衛門がその後を引受けた。
「で――そうなんで、そこでこの堡塁を占領しちゃったのであります、終り」
「うーん」少佐が唸《うな》った。
「では、お前ら三人で占領したのか」
「へへへへ」骨左衛門がだらしのない声で笑ったので、寒川が尻《しり》を捻《ひね》りあげた、吃驚《びっくり》して、
「あっ痛たたた」骨左衛門がとびあがると、少佐が振返ったので、鞠が傍からにこにこしながら、
「か、か、蚊であります」と愛相よく答えた。
 検閲の結果、北部低地に屯《たむろ》していた長井小隊が発見された時、三人の勇名は以前に倍して白骨大隊中に喧伝《けんでん》された。なにしろたった三人、それも――面倒臭えからてんで、一番堅固な敵堡塁を乗取ったのだ、これが有名にならぬはずはあるまい。まもなく三人に臨時|叙勲《じょくん》のお沙汰《さた》がくだり、揃《そろ》って一等兵に昇級した。
 柳家屯を抜いた白骨大隊は、退却する支那兵をおって、草原をいくごとく南下に南下をつづけ、月余《げつよ》にして長城《ちょうじょう》の要害にせまり、双城子《そうじょうし》に陣をしいた。
 柳家屯の激戦以来、大した戦争がないので、そろそろ例の三人組は退屈をしはじめた。
「おい、これじゃやりきれねえぜ」
「本当によ、かび[#「かび」に傍点]が生《へ》えちまわあ」
「おい――鞠!」
 鞠は離れたところで、のんきな顔で毎《いつ》ものとおり唾を飛ばしている。骨左衛門が舌打をしながらわめく、
「貴様、なんともねえのか」
「何をよ――」鞠はのほんとしている。
「何をって、べら棒め、こんなに戦争がなくっちゃ退屈しちゃうってんだ」
「へ、己《おら》あ平気だ」
「平気だっ※[#感嘆符疑問符、1-8-78]」寒川も、岡本も仰天した。鞠はにやりと笑って、
「見ろよ、己《お》らはこの間からな、唾を遠くへ飛ばす練習していたんだ。もう三|米《メートル》がとこすっ飛ぶぜ――それ」
 ぴっ! 尾崎は得意の芸をおこなった。なるほど前歯の間からとび出た唾は、三|米《メートル》たっぷり飛んだ。寒川も骨左衛門も吃驚して眼を剥《む》き出すばかり、鞠はにやっとして、
「なあ、もうすこしすりゃあ五|米《メートル》は飛ぶぜ、今度のオリンピックにゃあ唾飛ばしってんで優勝するつもりよ」
「嘘《うそ》をつきゃあがれ」
「とにかくさ、こいつの練習をやってりゃあ、退屈なんかおかしくって、芋虫の滝登りみてえなもんだよ」
「何でえ、芋虫の滝登りてえのは」
「したくてもできねえ――てんだ」
 二人ともすっかり煽《あお》られてしまった。その夜更《よふ》けてから骨左衛門がひそかに前歯の間から唾を飛ばそうと、苦心|惨憺《さんたん》していたのは奇観であった。
 更に十日ばかりたった、ある夜。
「ねえ寒川一等兵」兵站部《へいたんぶ》の炊事係がやってきた。
「四五日どうも肉がなくって弱ってるんだがね、何とか都合はつくまいか」
「己《おれ》にそんな事をいってどうするんだ」
「実はね」と炊事係が低い声で、「裏の谷間に野豚が三頭ばかりいるんだ、そいつを今夜、なんとか都合して貰いたいと思うんだがね、どうだろう」
「へえ、そいつは面白いぞ」
 寒川が乗出した。なにしろ後方兵站部との連絡の都合でみんな久しく肉にありつかないのだ。こんな時肥えきった野豚三頭――いや一頭でもいい、手に入ったらどんなに皆《みんな》が悦《よろこ》ぶだろう、よし引受けた。寒川は、鞠と骨左衛門を叩《たた》き起して、さっそく豚狩に出ていった。
 しかし、不運というものはいつやってくるか分らない。三人が野豚をおって谷間の奥へ下りていったころ、突如として、
「敵軍襲来!」の非常ラッパが鳴響いた。
 白骨大隊は瞬時に集合、戦闘位置につくと、猛烈な夜襲軍に対して、めざましい応戦を開始した。
 ――ばばあ――ん、ぱりぱり※[#感嘆符二つ、1-8-75]
「わあ――わっ」――たたたた! たたたたた※[#感嘆符二つ、1-8-75]
 はるかに聞える戦争のどよめきを知るや、豚狩に熱中していた無敵三勇士は、
「あっ、しまった!」と叫んで立竦《たちすく》んでしまった。

[#3字下げ]三、戦死の約束[#「三、戦死の約束」は中見出し]

 夜襲してきたのは二百人ばかりの匪賊《ひぞく》だったが、はじめの勢《いきおい》に似ず、統制のとれた白骨大隊の巧妙な応戦をくらうと、ひとたまりもなく総崩れになって、半数に余る死体を棄《す》てたまま退却してしまった。
 三人が必死になって駈《かけ》つけたのは、既に戦《たたかい》が終って、点呼もすんだ後である。葛木少佐は、しおしおと立っている、三人を見ると、
「寒川、尾崎、岡本!」と呼んで近寄った。
「は!」
「お前らはどこへいっていたのか」
「――」三人とも答えなかった。
「返辞をせい!」
 三人とも黙って俯向《うつむ》いた。少佐はしばらく三人をみつめていたが、つかつかと傍へよる――と見るや兵站部の炊事係が、
「大隊長殿!」と叫んだ、しかしそれを遮るように寒川が「自分等は野豚を狩りに谷間へ出かけておりました、申訳ありませぬ!」と答えた。
「――」炊事係が尚《なお》もなにかいおうとしたが、少佐はちらとそれに眼をやったまま、
「お前らは軍規に触れる行動をした、三人ともいずれ沙汰のあるまで謹慎しておれ」といって立去った。
 長井小隊長は即座に三人を一室へ連行すると、無念そうに三人の顔をかわるがわる見やりながら、
「情《なさけ》ない奴《やつ》だなあ、貴様ら――せっかく柳家屯で手柄を立てたのも今夜の失敗でめちゃめちゃじゃないか、長井の面目なんか構わぬ――しかし、小隊全部の不名誉をどうする!」
「――」三人の眼から涙が溢《あふ》れ落ちた。
「泣いて取返しのつくことじゃないぞ」
 そういいながら小隊長の眼からも涙が落《おち》ていた。と――その時突然、扉《ドア》があいて、兵站部の炊事係がそこへ入ってくるなり、
「小隊長殿、申訳ありません」
 といったまま、男泣きに泣きだした。
「どうしたんだ」
「わ、私が悪いのであります、寒川、尾崎、岡本の三人に罪はありません、大隊の戦友に肉を喰べさせたいと思ったので、私が野豚を獲《と》ってきてくれ、と頼んだのです」
「お前が?」
「はい、兵站部でみんなが相談した結果、三人に頼もうということになったのです。司令部へ届出ることを怠ったのは炊事係の罪です、三人が悪いのではありません」
「――」小隊長は初めて眉《まゆ》をひらきながら、ほっとしたように三人を見やった。
「そうか、兵站部に頼まれた仕事か」
「小隊長殿!」寒川一等兵は敢然と顔をあげた。
「しかし、この事はどうぞ内聞に願います。自分達三人はいずれにしても非常集合に遅刻したのです。この上兵站部から罪人を出す必要はないと思います。――炊事係もただ、我々に肉を喰べさせたいと思ったのですから」
「すまない、すまない」
 炊事係は腕で涙をこすりながら、何度もいった。
「よし、分った」小隊長はつと立つと、三人の肩をやさしく叩いてから、大股《おおまた》に外へ出ていった。
 間もなく、長井小隊長は帰ってきて、
「大隊長の御内意だ」と力強い声でいった。
「三人の行動は軍規に触れるが、柳家屯の功績と情状を酌量して、二三日謹慎の上日常通り従軍|差支《さしつかえ》なしという恩命だ。いずれ正式に申渡されるであろうが、取敢《とりあえ》ずこれだけ伝えておく」
「――」三人は黙って挙手の礼をした。
「確《しっか》りやるんだぞ!」小隊長は、涙を見せまいとして外を向いた。鞠は――咽《むせ》び泣いていた。
「おい鞠!」
 小隊長が出ていくと、骨左衛門が岡本の方を向いて、作り声でいった。
「己《おれ》あ――お前《めえ》をなあ、吃驚させることがあるぜ、ほんとうだ」
「己《おれ》あ――」
 鞠も涙声だ。
「大ていのことじゃ、吃驚しねえぞ」
「大丈夫きっとだ、きっと眼玉のとび出るほど吃驚さしてやるぞ――三人揃って戦死をする前によ」
 のっぽ[#「のっぽ」に傍点]は向うをむいて涙を拭《ふ》いていた。

[#3字下げ]四、北山《ほくざん》砲塁の決戦[#「四、北山砲塁の決戦」は中見出し]

 果然快報が飛んだ。
「長城線総攻撃!」わあっ、全部隊は歓呼の声でわき立った。越えて翌日、白骨大隊には、
「北山砲塁を占領せよ」という命令がきた。
 葛木少佐は直《ただち》に双城子を出発、白骨を描いた部隊旗を先頭に、長城線中もっとも難関とされる北山に向って、強行軍を開始した。
 道は嶮《けわ》しく、おまけに雨がつづくので、白骨大隊の進軍は難渋を極めた。しかも随処に出没する土匪《どひ》や馬賊のために困苦の上にも困苦が重なるのだ。その間にあって、例の(無敵三人組)はどんなに働いたろう、疲れた戦友を援《たす》けあるいは迫撃砲手を助け、弾薬車を押し、しかも夜間の行進にあたっては死を賭《と》して先行する。
「どうだい――」戦友達は舌を巻いた、
「まるで、悪鬼羅刹《あっきらせつ》だぜ」口々に驚き叫ぶのだった。
 難行五日にして、白骨大隊はついに北山砲塁に迫った。敵の前衛部隊は、大隊の前線を見るより、直《ただち》に砲撃を開始し、また重賊は密森に根拠をおいて、盛んに側面攻撃の手をのばし始めた。
 白骨大隊も敏速に隊の配置をして、まず第一回の突撃を敢行したが、北山砲塁の堅固な陣地はびくともせず、精巧な機関砲、機関銃を以《もっ》て、第一回の突撃隊はほとんど全滅の憂目《うきめ》をみた。つづいて第二、第三回と、突撃隊は息もつかせず、攻め登ったが、いずれも頑強な砲塁の猛射を受けて、失敗に終ったのである。その時左翼戦線からは、
「――飛龍関《ひりゅうかん》陥落す」
「――姑城台《こじょうだい》を抜く」続々と勝利の快報が伝わってきた。
「畜生!」骨左衛門は歯噛《はがみ》をして、「外《ほか》の部隊はずんずん長城線を破るのに、白骨大隊だけがまだ北山砲塁の下でまごまごしているなんて――癪《しゃく》だぞ!」
「何とか一番やっつけてえな」
「待て待て」鞠はぴっと唾を飛ばしながら、
「いまに突撃隊の順番がまわってきたら、眼のさめるような活躍をしてみせるんだ。急《せ》くな急くな――ぴっ[#「ぴっ」に傍点]!」骨左衛門は素晴しく飛んでいく鞠の唾を見やりながら、何やら口の内《なか》でもぐもぐやっていた。その夜だ――。
「長井小隊集れ!」の伝令がきた。
「いよいよ己達《おれたち》の順番だぞ!」
 みんな勇躍して集る。果してその夜、総攻撃が開始されるについて、長井小隊は先行突撃隊に選ばれたのである。
「しめた!」のっぽ[#「のっぽ」に傍点]が膝《ひざ》を打って、
「こう来なくちゃあ面白くねえ、おい――やろうぜ」
 鞠も骨左衛門もにっこり笑いながら、元気に立上った。
 深夜十二時を期して、長井小隊は北山砲塁へ肉薄した。小隊の後方には全白骨大隊が、虎視眈々《こしたんたん》総突撃の機会を狙《ねら》っている。長井小隊が敵の第一線にせまるや、闇夜《あんや》の空は俄然《がぜん》、砲火銃声にひき裂かれた。
「散れ――っ!」小隊は散兵《さんぺい》隊形になった。先行突撃隊は敵の戦線を惑乱させ、後続隊の突撃路をひらくのが任務だ。猛進また猛進、しゃにむに第一線の塹壕《ざんごう》へ雪崩《なだ》れこむ。せまい壕内は瞬時にして、凄《すさま》じい白兵戦の巷《ちまた》と化した。長井小隊長は日本刀をふるって斬《き》った、斬った。
「前へ――っ!」「わあ――っ※[#感嘆符二つ、1-8-75]」第一線を撃滅して更に第二、第三の塹壕を破り、砲塁下五百|米《メートル》の地点へきた時、長井小隊は残る者小隊長以下十二名のみである、見返れば小隊の通ってきた跡は血の河、屍《しかばね》の丘だ。
「さあみんな最後のひとふんばりだ!」
 小隊長が剣を高くあげて、北山砲塁を指した。
「笑って死のうぞ、前へ――!」塹壕から這《は》い出る、とたんに砲塁から猛烈な機関銃の集中射撃だ。たたたた! たたたたた※[#感嘆符二つ、1-8-75] ばあーん ぱりぱり※[#感嘆符二つ、1-8-75] 破裂する迫撃砲、刹那《せつな》! 長井小隊長はつきのめされたように倒れた。
「あ、小隊長殿!」寒川のっぽ[#「のっぽ」に傍点]が叫んで駈寄ろうとするとさらに三四名、ばたばたと倒れる、小隊長は剣を杖《つえ》に、
「止るな、前へ――前へ!」
「畜生!」のっぽ[#「のっぽ」に傍点]は砲塁を睨《にら》みあげて、敢然と起《た》った。
「前へ!」銃を握って、起ったのは三人! 長井小隊で生残ったのは、偶然にも寒川、尾崎、岡本の三人だけ、
「三人きりか、へ! 気が合っていいや、どうせここまできたんだ、なあおい、またこの砲塁を頂いちゃおうぜ」
「よかろ」鞠が頷《うなず》いて、ぴっ[#「ぴっ」に傍点]と唾を飛ばす。それを見るや骨左衛門が、「あ、忘れてた、おい鞠!」といった時、急霰《きゅうさん》のような機関銃の飛弾、三人はぴたっと地面に伏して、そろそろと前進を始めた。しばらくして骨左衛門が、
「おい鞠――己《おら》あ忘れてたが」いいかける、とたんに、
「前へ!」と寒川のっぽ[#「のっぽ」に傍点]が、立上りざま、喚《わめ》いた。
 三人は二米ずつの間隔をおいて、脱兎《だっと》のように急斜面を駈登った。五十米ばかり進むとまた機銃の射撃だ、三人は砲弾の炸裂孔へとびこんで飛弾を避けた。
「おや!」鞠が骨左衛門の脛《すね》を見て、
「おい、お前脛を蚊に喰われたな」
「うん、支那の蚊はでけえから、あとで血が出てしょうがねえ、へへへへへ」脛の貫通銃創だ、血が泉のように流れるのを、手早くしばった骨左衛門、
「おい鞠、己《おれ》あお前に約束したなあ」「なにを」
「お前をいまに吃驚させてやるって、それをいま思い出したんだ――」骨左衛門の言葉が終らぬうち、間近で迫撃砲弾が炸烈した。三人は頭から破片と土をかぶって打伏《うつぶ》した。
「くそッ! つまらねえ物をいつまでぶっ放すんだ、ちゃんころ奴《め》」骨左衛門が振返ると、のっぽ[#「のっぽ」に傍点]も鞠も動かない。
「や、どうした寒川、尾崎!」肩を掴《つか》んで揺動《ゆりうご》かしたが、二人ともすでにこの世の人ではなかった。骨左衛門は呆然《ぼうぜん》と見まもっていたが、やがて静かな声で呟《つぶや》いた。
「鞠、己《おれ》はなあ、前歯の間から唾を飛ばすことができるんだ。五|米《メートル》たっぷり飛ぶんだ。毎晩こいつを練習して、いつかお前を吃驚させよと思っていたんだ。そいつが、とうとうだめになっちゃった」骨左衛門の眼に涙が光った。
「見ていな、やってみせるからなあ」
 骨左衛門は唇をしめした、そして前歯の間から、ぴっ[#「ぴっ」に傍点]と唾を飛ばした。飛んだ飛んだ、素晴しくとんだ、五米どころか六米あまりも飛んでいった。
「どうでえ、へへへへへ」岡本は笑った。泣きながら、そしてもう一度上手に唾を飛ばすとすっくり立上って、
「あばよ、のっぽ[#「のっぽ」に傍点]に鞠、じきにあとから行くぜ」
 いいざま、急斜面を駈上《かけのぼ》った。
 数時間後。白骨大隊は北山砲塁に肉薄したが、砲塁からは何の抵抗もなかった。不思議に思って大隊長が占領後調べてみると、砲塁の内部で、敵兵をみな殺しにした上、壮烈な戦死をとげている岡本忠太一等兵を発見した。



底本:「周五郎少年文庫 少年間諜X13号 冒険小説集」新潮文庫、新潮社
   2019(平成31)年1月1日発行
底本の親本:「少年少女譚海」
   1933(昭和8)年9月号
初出:「少年少女譚海」
   1933(昭和8)年9月号
入力:特定非営利活動法人はるかぜ

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山本周五郎
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