崩壊─ゲームオーバー─(5) ◆gry038wOvE




 ディバインバスターの爆風の中から、ダークアクセルが無傷で顔を覗かせる所までは、全員読んでいた。感情的になりつつも、心のどこかでは相手にどこか余裕を持てない所があるのだった。
 飛びかかるには躊躇が要る──。
 ダークアクセルの一撃の手ごたえを忘れていない。あの時の恐怖も、脳裏を掠めた絶望の未来も、確かに今再現されている。
 だが、選択肢はない。逃げかえる事はできない。立ち上がったからには、戦う。

「──いくぞ!」

 最初に飛びかかるのは、エターナルであった。
 鉄砲玉の役割を、常に他の相手に任せてしまう事をジョーカーは申し訳なく思う。
 しかし、彼らが前に出てくれる分、ジョーカーは後ろから補助で彼らを守る事ができる。

──Eternal Maximum Drive!!──

 青白い螺旋の輝きとともに、エターナルの右足がアクセルに激突する。
 本来ならば、T2以外のガイアメモリを全停止させる能力がある。それに準じる設定ならば相手はアクセルの装着を解除して石堀を丸腰にする事ができただろう。
 しかし、ここに来て厄介なのは「制限」の働きである。例によって、この時も、ダブルやアクセルのガイアメモリが停止される事はなかった。アクセルが照井竜、エターナルが大道克己の所有物であった頃ならば心強かったかもしれないが、アクセルが敵で、エターナルが味方という状況に反転してからは、この能力を呪いたくなる。

「ハァッ!!」

──Metal Maximum Drive!!──

 右腕を硬質化させたエターナルは、ダークアクセルの胸を何度も殴る。
 鈍い音が何度も響くが、手ごたえなしである。
 アクセルにどれだけ適合したとしても、アクセル本来の能力ではここまでの硬質化は望めないだろう。これは通常ではありえない事であった。
 中の石堀光彦こそが、人間ではないのだ。

「獅子咆哮弾、大接噴射ッッッ!!!!」

 殴った腕から、一気にエネルギーを放出する。
 良牙にも強い負荷が掛かった事だろう。獅子咆哮弾を腕と胸板が接触した状態で放つという荒業であった。だが、その荒業は成功したらしく、獅子咆哮弾の負のエネルギーが、ダークアクセルを飲み込んでいった。
 一瞬で、体を覆い尽くすそのエネルギーである。

「絶望は俺の力だ……俺に餌をくれるのか、音痴の響良牙くん」
「フン……そんなつもりはねえ。そして、俺は音痴じゃねえ……方向音痴だ!」

 膨大なエネルギーは、ダークアクセルの体にダメージを与えるのではなく、そのまま天空に向けて舞い上がった。ダークアクセルの体へと攻撃を向けたのはフェイクだったのだ。
 ダークアクセルは、思わず大量のマイナスエネルギーが舞う空を見上げた。
 そこには、まるで巨竜のようにこちらを見下ろしている気の柱がある。

「……なるほど、こちらが狙いか」

 そして──。

「……そう、完成型だッッ!!!」

 完成型・獅子咆哮弾である。
 天空に舞い上がった重い気は、一本の柱となった。
 そこに蓄積されたエネルギーが、一気に落下せしめるのがこの獅子咆哮弾の完成型だ。
 ダークアクセルは憮然とする。それが、自分にとってどんな一撃か確かめてみる価値があると思ったのだろう。

「────」

 エターナルこと良牙は、それを遂行する為、溜めていた気を落とす。
 本来ならば、それと同時に、全身から怒りや憎悪を全て除きとるのだ。ここで気を抜くのに失敗すれば、自分さえも巻き添えにしかねないのがこの獅子咆哮弾の完成型である。
 ──とはいえ、おそらくはこの目の前の敵への憎しみは除外できない。

(あかねさん……)

 早乙女乱馬は、ダグバとの戦いで、その点において大失敗を犯したのであった。己の感情をコントロールしきれずに自爆するのはやむを得ない事かもしれない。彼はまだ少年だった。
 そして、良牙もまた少年であった。良牙は、あかねを死に追いやった目の前の敵を相手に、──しかもこの距離で──気を抜く事など不可能であった。
 己の感情がそう簡単に意の物にできない矛盾を理解している。

 ────しかし。

 今の状況には、乱馬と良牙とで決定的な違いがある。
 それは、あらゆる攻撃や事象を全て無効化できる「エターナルローブ」の有無である。乱馬にはこれが無く、また生身であった。良牙のアドバンテージとなるのは、この変身能力の活用であった。
 エターナルの装備の一つ一つを活用すれば、それが良牙自身の感情面での不覚を補える。
 エターナルは、己の真上から降りくる負の感情のスコールを、未然に防ぐべく、その全身にエターナルローブを纏った。

「────」

 そして、────気を、落とす。
 この場に出ている全ての気は、響良牙から発された物であり、彼の意のままである。

「喰らえッッ!!!!」

 振りくる獅子咆哮弾の中で、一瞬だけの強気を甦らせ、そう叫んだ。
 空まで登っていた獅子咆哮弾の気柱が、一斉に地上目掛けて落ちていった。塞き止めた滝の水が一斉に降りかかると言えばわかりやすいだろうか──そんな音がした。
 おそらく、この一撃と同時にエターナルは、持っている殆どの気力を使い果たし、気の抜けた男になるだろう。
 だが、ここで確実に一打を与える。この状況は、いうなれば百対ゼロの逆境に立たされているようなものであるが、それでも塁を踏むのに全力を尽くすくらいでなければもはや勝利はありえないのだ。

「くっ」

 目の前のダークアクセルも、余裕のない様子であった。

「この量なら飲み込みきれねえだろ……そんくらい、てめえは誰かに恨まれるような事をしてるんだよッ!!」

 その言葉とともに、濁流が完全にダークアクセルを捕えた。
 気は一斉に地面へと叩きこまれ、ダークアクセルとエターナルに圧し掛かり、凄まじい轟音とともに地面を抉った。その振動は、その数百メートル四方を全て大きく揺るがすほどであった。
 エターナルが、殆ど万全といっていいほどの微弱なダメージであった事が幸いしたのだろう。この威力の完成型獅子咆哮弾を放てたのは、最後に回復をしてくれた美樹さやかのおかげでもあった。

「こいつでまず一撃だ!」

 エターナルは、エターナルローブの恩恵もあり、地に両足をつけたままそれを受ける。ノーダメージである。これほど頑丈な傘はこの世にあるまい。
 一方のダークアクセルは、その攻撃には平伏し、地面に倒れこんでいた。その姿だけ見て思わず喜びさえ覚えたが、これが決定的とはいかない。
 ここに来て初めて手ごたえを感じたが、それだけである。始まりに過ぎない。

 それに……致命傷とも行かないようだ。

 すぐにダークアクセルは、重い腰を上げるようにして、エターナルの方を向いた。
 ダークアクセルは、嗤った。






 孤門は木陰から、杏子たちの戦いを覗いていた。
 波動が重力に叩き落とされるのを間近で見ても、杏子は構わずにキュアピーチの攻撃をいなし続けている。よく意に介さずいられる物だと思う。
 敵方の拳がこちらに向かってくる瞬間に、槍を突きだし、拳を真横から叩く。それによってキュアピーチの腕が固定され、拳が己の体に到達するのを防ぐ。
 安易にその体を串刺すわけにもいかず、満足なダメージも与えられないまま、防戦一方、自分の体を守らなければならないというのだから、殆ど泥試合である。
 両者の力は拮抗しているか、或はキュアピーチが勝っているという所だろう。時間がかかれば危険である。こちらから支援すべきだろうか。
 孤門は、パペティアーメモリとアイスエイジメモリを見つめた。いざという時はこれを使うしかなさそうである。

「……孤門さん」

 戦意を喪失していたキュアベリーが、ふと孤門に声をかけた。
 いつの間にやら、誰かに声をかけるだけの気力を取り戻していたらしい。
 しかし、それも空元気かもしれないと孤門は思った。
 キュアベリーの顔には、仄かな絶望の色が灯っていた。慰めの言葉をどうかければいいのか、孤門にはわからない。

 そんな時、誰かが二人に声をかけた。

「ねえ、二人とも……聞いて。まだ、こちらにも勝機はあるわ」

 そう言って横から現れたのは、巴マミであった。
 その隣には花咲つぼみがいる。マミが介抱して意識を取り戻させたのだろう。つぼみの頭部の出血を止める為に、早速、先ほど良牙から預かったバンダナが額を一周している。つぼみの性格を考えると、折角の貰い物を血に汚してしまう事を申し訳なく思っているだろうか。しかし、その場にある物で最も手頃に頭の出血を止められるのはそれだけだった。
 マミは、続けた。

「……私や美樹さんを助けた時のように、今度はキュアピーチに声を届かせるのよ。彼女になら絶対届くはずだわ」
「──それには、私たちがプリキュアの力を尽くす事が必要です」

 マミ自身がそれを実感している。
 もはや、それは立派な作戦の一貫であった。人間を闇に引きずり落とす力と同様、人間を闇から掬い上げる力もまた何処かに存在している。それがプリキュアの力であり、その能力を注ぐ事に全力を尽くすならば、不可能ではないはずだ。
 そこには、本気で誰かを救いたいという想いが必要になる。

「それなら、石堀隊員は……」
「──それは」

 つぼみは口を閉ざした。
 同様に石堀光彦という存在を浄化するのは、おそらく現状不可能である。砂漠の使徒の幹部たちの数倍の邪悪なエネルギーを持っているのが彼だ。

「……できるかわかりません。ただ、今の私たちの力では、きっと……」

 彼女は正直に述べた。
 孤門が同僚を想う気持ちにもまた共感はできるが、あそこにあったのは、おそらく誰にも手を施す事のできない強烈な憎悪と本能である。つぼみたち全員がどれだけ力を尽くせば、今の石堀を救う事ができるだろうか。

「……そうか。わかった。それなら、みんな……ラブちゃんをよろしく」

 そう気高に言う孤門を、全員が少し気の毒そうに見つめた。
 孤門も石堀と共に過ごした人間である。可能性があるならば諦めたくはなかったが、そうも言い続けられないのだ。
 キュアベリーもまた不安そうだった。

「……本当に、ラブを救えるかしら」
「それは大丈夫だ!」

 そう言って、ひょっこりそこに現れたのはシャンゼリオンである。
 先ほど、キュアピーチに攻撃を受けて、こちらまで避けてきたのだろう。
 誰も気づかぬうちにこうして姑息的な逃げ方をするあたり、やはり彼の生命力は半端な物ではなさそうである。
 しかし、彼の持っている情報は非常に有効な物である。

「今のラブちゃんを操っているのは、あの胸についてる反転宝珠だ。あれが原因で、愛情が憎悪に変わってしまったんだ。あれを奪うか、もしくは逆につければ問題ない」
「なら、なんでそれを早く──」
「実行しようとして失敗したんだっ! まあ、とにかく誰かがあれを壊すのが一番手っ取り早い。反対につける余裕はないしな……」

 そういえば、キュアピーチが暴走を始めてから、シャンゼリオンはそれを止めようとして失敗し、しばらく姿を消していたような気がする……と、全員ふと思い出したようだった。
 案外、その解決策自体が簡単であった事を知り、マミは緊張を噛みつぶし、ほくそ笑んだ。

「これで、策は二つ出来たわね。──どう? これなら、勝てる気がしない?」

 キュアベリーが固唾を飲み込んだ。






 エターナルとダークアクセルは相対する。

「フッハッハッ……確かに今ので初めて一撃貰ったな……。貴様は他の奴らとは体のつくりが違うらしい」
「貴様なんぞに褒められても嬉しくない」

 そう言うエターナルも、こう返しているのはいいが、殆ど気力を使い果たしてしまったような状態だ。絞り出すほどもない。あまりダークアクセルには悟られたくないが、もう一度同じ技を繰り出すのは不可能。──いや、それどころか、獅子咆哮弾の一発も撃てないかもしれない。
 全身にそれだけの力が漲らないのである。

「いや。俺はお前を評価してるぜ。……この俺以外で最後に生き残るのは、貴様かドウコクか……って所だろう」

 ダークアクセルは、良牙が地球人としては桁違いとしか言いようのない身体能力の持ち主であると認めている。
 おそらく、彼らの世界にはそれだけの逸材はいなかったはずだ。
 気の性質が違うとはいえ、今の絶望の力を飲み込み切れなかったのは全く、誰にとっても意外としか言いようがない。

「さて、そろそろ時間もない。……さっさと残りを片づけて、次のカードを使わせてもらいますか」

 その直後にダークアクセルが取り出したのは、「挑戦」──トライアルのメモリである。
 エターナルの後方でジョーカーがぎょっとする。

(まずい……トライアルを使われたら!)

 トライアルの世界は補足不可能だ。音速を超えた世界に突入し、ジョーカーやエターナルでは及ばない所での奇襲が始まる。

──TRIAL!!──

 ガイダンスボイスが響くとともに、エターナルが我先に奮い立った。
 気力はないが、技ならばまだ──。

──Nazca Maximum Drive!!──

 T2ナスカメモリのマキシマムドライブが発動する。
 ナスカもまた、超高速移動が可能となるガイアメモリである。

「来れば斬るぜ──」

 瞬間、アクセルが背後から剣を抜いた。総重量20kgのエンジンブレードだ。ナスカのマキシマムドライブを利用する事を読んでいたというのか。

 近づいた瞬間にエターナルを斬るのが目的であろう。先ほど、杏子に見せた剣術を思い出せば、ナスカの力も決定的意味をなせない可能性が高い。

 しかし──。

「──良牙、今です!」

 レイジングハートが上空から拘束魔法を放つ──。彼女の姿は既に、ダミーメモリによってユーノ・スクライアへと変身している。
 放たれた拘束魔法がダークアクセルの手首足首を全て封殺し、魔法陣に磔にした。
 意表を突いて発動された魔法に、ダークアクセルも策を潰されたようだった。

「なるほど……今度はお前か。指を咥えて見ていたかと思えば、このタイミングか……!」

 突然の奇襲では、ダークアクセルは身動きが取れない。
 エンジンブレードがダークアクセルの手から落ちる。本来なら、喰らったとしてもこれしきの魔法を打ち破るのにそう時間はかからないが、その必要時間よりも早く、エターナルが動きだした。

 ダークアクセルは、総合的な能力ではそれぞれが束になっても敵わない。
 しかし、相手が多勢であるのが、彼の余裕に相対する死角が幾つもある。
 敵全員を完全には把握しきれず、十以上の敵が持つ無数の能力への対抗策を完全に持っているわけではないのだ。
 ナスカのマキシマムドライブまでは読めても、次にレイジングハートが拘束魔法を使うところまでは読めなかった。
 ただ、そのどれもが石堀光彦の命を消し去るには到底及ばないので、普段は存分な余裕を持って相手にできてしまえるのだが、こうした策略の際には不発もあり得る。
 ダークアクセルの余裕は、今、隙となった。

「これ以上厄介になられてたまるかよっ!!」

 ナスカウィングをその背に出現させたエターナルは、そのまま高速でダークアクセルの手から落ちたエンジンブレードを空中で掴む。
 未だマキシマムドライブは有効である。
 このエンジンブレードをナスカブレードに見立て、その胸部を切り裂く。
 ナスカウィングを最大まで巨大化させると、エターナルはダークアクセルの体を一閃した。──エターナルの手に嫌な感触が広がる。
 火の粉が地に落ちて溶けると同時に、エターナルは後退しようとする。手ごたえはこれまでよりはあったはずである。勿論、それがダークアクセルにとっては、大きな一撃ではなかったのだが。

「ハァッ!!」

 右腕の拘束魔法を自力で打ち開いたダークアクセルは、その右腕をエターナルの頭部目掛けて突き出した。──「ッ!?」と、エターナルが声を出せないほどに驚く。直後には、エターナルの顔全体をダークアクセルの指がからめとっていた。
 そして、そのまま、右腕を振り上げると、腕力でエターナルを放り投げる。
 地に叩きつけられたエターナルが土の上を滑る。飛距離も確かであったが、速度も相当であった。先ほど、杏子の体を投げつけたのと同様だ。──エターナルは、地面と激突して、転げていく。

「良牙っ!」

 だが、それでダークアクセルがトライアルの姿に変身するのを未然に防げたという物だ。十分な快挙である。エターナルは、擦り減った地面の向こうで、こちらに右手のサムズアップを送っていた。後は任せた、という意味なのか、それとも、俺は大丈夫、という意味なのか。
 ジョーカーは両方の意味と解釈する。

 ──直後。ダークアクセルは、全身の拘束を解除する。レイジングハートの魔法の力を、それを中和する方程式なしに打ち破るのは到底出来る事ではないが、息を吐くようにそれを行えるのが今の強敵だ。

「──残念。勇敢な方向音痴にトライアルは奪われたが、まだこっちがある」

 ダークアクセルを見れば、今度はガイアメモリ強化用アダプターがどこからか取り出された。ダークアクセルの手に握られているその灰色の器具は、ガイアメモリの能力を三倍に引き上げる力があるという。
 思わず、舌打ちしたくなる。──強化アダプターなどという非合法なガイアメモリの予備パーツを作った犯罪者は誰だ、と。
 おそらく園咲家からの流出かと思われるが、これほどの化け物の手に渡り、一層厄介な能力を分け与えてしまうなど、彼らも想像してはいなかっただろう。

「三倍パワー!!」

 そんな声が、その場に轟き、ジョーカーは目を大きく見開いた。
 能力が三倍──その言葉には、厄介すぎるダークアクセルの姿が思い浮かぶ。よもや、ダークアクセルが発した一声かと思って驚いてしまった所である。
 しかし、現実ではその声を発したのはダークアクセルではなかった。当然ながら、ダークアクセルはこれほど間の抜けた声で叫ばない。

「──超光戦士シャンゼリオン、改め、ガイアポロン!!」

 先ほどまで戦場から一歩引いていたシャンゼリオンが、真っ赤なフォルムに身を包んで新生していた。まさしく、先ほど聞こえたのは彼の声色である。こちらに加勢に来たのだ。
 ガイアポロン──それは、パワーストーンの力を受け、能力が三倍に退きあがった超光戦士シャンゼリオンであった。ダークザイドの幹部級とも互角に渡り合えるシャンゼリオンが、更にその能力を三倍に計上したとなれば、ダークアクセルを前にしてもまだ先ほどよりは戦える。
 変身しながら不意打ちの一回と、キュアピーチを相手にした一回しかこの場で変身していないシャンゼリオンにとっては、隠し種ともいえる変身形態だ。

 そして、彼がいるのは──

「後ろ……か」

 通常の三倍の速度でダークアクセルの後方に回りこんだガイアポロンは、ダークアクセルの脇から腕を絡ませ、羽交い絞めにする。勿論、長時間それが保たれないのはガイアポロンにも理解できている事である。
 問題となるのは、ガイアポロンの両腕の力が有効なこの一瞬で何ができるのか。
 ヒーローの力で拘束されたダークアクセルの正面にいるのは、仮面ライダージョーカーである。

 ジョーカー、左翔太郎は考えを巡らせる。
 右腕を構えた。──真っ直ぐ、ダークアクセルの方へと、まるで照準でも合わせるかのように。
 その動作は、理解の証であった。

「……そう言う事か。わかったぜ、暁」

 暁が期待しているのは、おそらく必殺の一撃ではない。
 翔太郎と暁がかつて交わした会話の通りだ。これまでのとある会話が、ダークアクセルの弱点を示していた。



────いや、そんな事はあるね。見ろ、このハンドルの部分と、それからメモリのスロットだ。いかにも怪しい。この要になる部分に何かの細工を施したはずだ。ここを弄れば何かあるんだろ? なぁ、もう一人の探偵



 そう、要は、そういう事だ。
 あの黒い怪物の腹部にあるガイアメモリとアクセルドライバーが敵の力の源。ジョーカーもエターナルも同様だ。それが仮面ライダーらの共通の弱点ともいえる精密部である。破壊、あるいは細工されればアクセルメモリの作動が止まる。
 おあつらえ向きに、ジョーカーの右腕には、今はアタッチメントが埋め込まれている。
 その一つに、今現在の状況に有効な物が一つあるはずだ。

「マシンガンアーム!! ──硬化ムース弾!!」」

 右腕のマシンガンが、ダダダダダ、と音を立てる。
 弾丸がどこか遮蔽物にぶつかると、それは爆ぜて粘り気を持った白い液体となり広がる。存分に広がったムースは、それから十分の一秒も待たずに大気の冷たさを染みこませて固まっていく。
 そんな弾丸の成れの果ては、ダークアクセルの体表を順々に固めていく。
 おそらく、ダークアクセルに殆どの物理攻撃は受け入れられまいし、ベルトに装填される小さなガイアメモリをこの距離から撃ち抜くのは余程のまぐれがなければ不可能だ。しかし、到達とともに大きく広がり、その体を飲み込んで石膏になる硬化ムース弾ならば、ジョーカーの射撃の腕と無関係に、高確率でベルトを封じられる。
 つい先ほどまで暁が噛んでいたガムを思い出された。──あれも、考えてみればこのアタッチメントを指しての事だったのか。

「フンッ」

 ──が。

 紫煙の障壁がダークアクセルの前方に展開される。固形ではなく、まるで大気が寄せ集まったような、あるいは蜃気楼に色と境界線とが生まれたようなバリアであった。しかし、それが展開されるや否や、硬化ムース弾はその到達位置を勘違いするようになる。

「何だとっ……!?」

 ダークアクセルの体表へと届いたのは、ほんの二、三発のみ。そこから先は、何発撃ったとしても、その全てがバリアの視界を白く塗りつぶしていくだけであった。実態がないはずのその障壁が、一時、「壁」として確かに有効になっていたのである。
 ダークアクセルがその紫煙の幻を解いた時、そこにあるのは、地上から積み重なった白い硬化ムースの積み重なりであった。
 邪魔に思ったのか、ダークアクセルの咆哮とともにそれは音を立てて崩壊する。
 ダークアクセルとジョーカーは目を合わせる。

「この程度で勝利を確信しない方がいいぜ。世の中、そう上手くは行かないもんさ。なあ、二人の名探偵」

 ダークアクセルは言う。
 しかし、ジョーカーはこの時、ある余裕を持つ事ができた。

「くそっ。確かにそうだな……!」

 敵の強力さに、ジョーカーも自分の作戦の不発を感じた。
 しかし、ジョーカーの心は曇らなかった。

「だが、俺に勝利の女神が舞い降りたのは、今この瞬間からだぜ? ──世の中はあんたにだって上手く行かないものだろ、アイリーン・ウェイドちゃん」

 ジョーカーも、この時、彼らの来訪がなければ、これほど勝気な気分にはなれなかっただろう。──頭上の日差しを、巨大な影が隠した。
 見上げれば、そこには、魔導馬・銀牙の巨体が嘶き、空を飛びあがっていた。
 乗り合わせているのは、銀牙騎士ゼロと仮面ライダースーパー1である。銀と銀とが寄り添い合い、眩く光った。

「チェンジ、エレキハンド!」

 スーパー1は、腕をダークアクセルの方に向け、エレキ光線を放った。
 その電圧は3億ボルトと言われている。たとえ、ダークアクセルがその攻撃を受け切れたとしても、強化アダプターの方がその電圧に破損を起こしてもおかしくはない。
 また、その数値を考えれば、ダークアクセルたれども、少しは指先に衝撃を受けても全く不自然な話ではないだろう。
 しかし、その電流が到達するよりも早く、ダークアクセルの意識は対抗策を生みだす。
 ──バリアが展開。
 電流は真っ直ぐにバリアへと向けられ、地に跳ね返る。

「今だっ!」

 ゼロが伏兵に声をかけた。



 ダークアクセルがゼロの視線の先にあった茂みを見やると、そこから顔を出したのは外道シンケンレッドである。
 その右手が必殺武器の代わりにショドウフォンを構えており、空に文字を書いた。

──解──

 その一文字のモヂカラが発動。
 解……それは、「解除」「開錠」などの能力を持つモヂカラである。
 激突した「解」のモヂカラは、バリアに向けて有効化され、スーパー1の電流の行く手を作り出す。




「何──っ!?」

 電撃。ダークアクセルの腕に稲妻が襲い掛かる。
 激流のようにダークアクセルの全身を雪崩れ込んだスーパー1の一撃は、その指先の機械をも帯電させる。
 指先でショートしたダークアクセルの強化アダプター。それは、ダークアクセルの手を離れて、地に落ちた。
 ダークアクセルがいかに強力であろうとも、その手に持っている機械は違う。爆散して、最早ばらばらに砕け散ったその物体は、決してもう、ダークアクセルをこれ以上強化する器とはなりえない。

「貴様ら……っ!」

 ダークアクセルの余裕が崩れるのが見て取れた。
 この余裕が崩壊するのを見届けただけでも、今の防衛は価値があった。
 ジョーカーの真横に人影が並んでいく。

 仮面ライダースーパー1。
 血祭ドウコク。
 外道シンケンレッド。
 銀牙騎士ゼロ。
 仮面ライダーエターナル。
 超光戦士ガイアポロン。
 上空には、レイジングハート・エクセリオンも配置されている。

 ばらばらな存在だが、一列に並びながら、ダークアクセルへの反撃の意思をなくさない。
 力を合わせれば、こうして一杯食わせられる。それほどに寄り添い合う人間は強い。
 各々が思う以上に、熱く。
 それぞれの手がダークアクセルと相対し、「次」を待つ。

「どいてもらうぜ、雑魚アクセル。俺たちのゴールは、分裂による絶望じゃない。お前がいるその先だ……!」





時系列順で読む

投下順で読む


Back:崩壊─ゲームオーバー─(4) 左翔太郎 Next:崩壊─ゲームオーバー─(6)
Back:崩壊─ゲームオーバー─(4) 外道シンケンレッド Next:崩壊─ゲームオーバー─(6)
Back:崩壊─ゲームオーバー─(4) 涼村暁 Next:崩壊─ゲームオーバー─(6)
Back:崩壊─ゲームオーバー─(4) 石堀光彦 Next:崩壊─ゲームオーバー─(6)
Back:崩壊─ゲームオーバー─(4) 桃園ラブ Next:崩壊─ゲームオーバー─(6)
Back:崩壊─ゲームオーバー─(4) 蒼乃美希 Next:崩壊─ゲームオーバー─(6)
Back:崩壊─ゲームオーバー─(4) 孤門一輝 Next:崩壊─ゲームオーバー─(6)
Back:崩壊─ゲームオーバー─(4) 佐倉杏子 Next:崩壊─ゲームオーバー─(6)
Back:崩壊─ゲームオーバー─(4) 巴マミ Next:崩壊─ゲームオーバー─(6)
Back:崩壊─ゲームオーバー─(4) 花咲つぼみ Next:崩壊─ゲームオーバー─(6)
Back:崩壊─ゲームオーバー─(4) 響良牙 Next:崩壊─ゲームオーバー─(6)
Back:崩壊─ゲームオーバー─(4) 涼邑零 Next:崩壊─ゲームオーバー─(6)
Back:崩壊─ゲームオーバー─(4) レイジングハート Next:崩壊─ゲームオーバー─(6)
Back:崩壊─ゲームオーバー─(4) 沖一也 Next:崩壊─ゲームオーバー─(6)
Back:崩壊─ゲームオーバー─(4) 血祭ドウコク Next:崩壊─ゲームオーバー─(6)
Back:崩壊─ゲームオーバー─(4) ゴ・ガドル・バ Next:崩壊─ゲームオーバー─(6)
Back:崩壊─ゲームオーバー─(4) 加頭順 Next:崩壊─ゲームオーバー─(6)
Back:崩壊─ゲームオーバー─(4) カイザーベリアル Next:崩壊─ゲームオーバー─(6)
Back:崩壊─ゲームオーバー─(4) 高町ヴィヴィオ Next:崩壊─ゲームオーバー─(6)


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2015年07月23日 21:46