崩壊─ゲームオーバー─(7) ◆gry038wOvE




「でかしたぜっ、二人とも……やっぱり今、勝利の女神は俺たちに微笑んでるってワケか」

 仮面ライダージョーカーが、まさに、良牙に影響されて前に出た戦士だった。
 年下の響良牙に先を越されてしまったゆえに少々焦りを覚えているのかもしれない。
 義手の右腕は、切り札のメモリを掴み、それをマキシマムスロットへと装填する。

──Joker Maximum Dirve!!──

「じゃあ、俺も行くぜ!」

 仮面ライダージョーカーは駆けだすと同時に、カセットアームをマキシマムドライブのエネルギーを携えた右腕に装填する。固く握っていたはずの義手の右腕は、すぐに別の腕へと交換される。
 ドリルアーム。
 ──固い装甲さえも貫くアタッチメントだ。マキシマムドライブは、右腕の姿が変わっても尚、そこにエネルギーを充填し続けた。それまでにそこに通ったエネルギーもどこにも逃げておらず、ドリルアームの周囲に在り続けている。ドリルアームもまた、それを内部の機械で吸収し、激しく駆動する。
 ジョーカーは、高く飛び上がった。

「はあああああああああっっ!!」

 腕が空中で強く引かれ、真っ直ぐダークアクセルの体表目掛けて叩きつけられた。
 黒い胸板に突き刺さるマキシマムドライブの光とドリル。
 かつての戦友、照井竜が愛用した仮面ライダーアクセルが悪の力に利用される事──その事への嫌悪。

(くっ……)

 若干の不快感は覚える。彼が仮面ライダーアクセルの外形を模していなければ、もう少し、この時の気分は変わっただろう。しかし──アクセルを壊しつくす覚悟は、左翔太郎の胸の内には確かにあった。
 ドリルアームによるライダーパンチの発動が終わるまで僅か数秒であるにも関わらず、妙に長い時間に感じたが──あるタイミングで、ジョーカーは後方に退いた。
 やはり、これだけでは勝てないらしい。
 ダークアクセルは立ったまま俯いたように、そこにあり続けた。
 ──思いの外、手ごたえがない。

「はぁっ!」
「おらっ!」

 ゼロとガイアポロンが続くようにダークアクセルのもとへ駆ける。
 先んじて辿り着いたゼロがダークアクセルの体目掛けて、大剣の鋭利な刃を叩きつける。すると、激しい金属音が鳴る。体表を振動するエネルギーがアクセルの装甲全体に行き渡った。
 遅れて辿り着いたガイアポロンも、同様にガイアセイバーを彼の懐に向けて叩きつけた。どこかに攻撃していない“隙”があるのではないかと彼も考え、人体でも弱そうな部分を斬りつけようと思ったのだろう。

「──残り八分」

 ダークアクセルが、まるで気にしていないかのように小声で呟くのを、二人はふと聞いてしまった。
 その瞬間、二人はショックを受けると共に、焦燥感も覚えた。彼の告げた時間はおそらく正確だ。こんな所で油を売っている暇はないのだ。自分たちは目の前にある主催本部へと直行すべきである。

 ──それを、「彼」が裏切ったばかりに。

 そんな彼は、自分たちをものともしていないとばかりに、時間を気にしている。
 苛立ちを覚え、その余裕を打ち壊してやろうと更なる一打を与えようと意気込んだ。

「くっ……銀牙! 力を貸してくれっ!」
「リクシンキ! クウレツキ! ホウジンキ!」

 二人は自分たちだけが召喚する事の出来る強力な仲間を呼び出す。
 彼らの味方はここだけにいるわけではない。
 嘶く声と、蹄の音。──銀色の巨体、魔導馬・銀牙が、魔法陣を通過して魔界から召喚される。
 空を超え、海を渡り、陸を駆けて現れる(?)三つのマシーン。──超光騎士たちが、空から光線を発し、ダークアクセルへと的確な射撃を行い、飛来する。

「──超光合体! シャイニングバスター!」

 ガイアポロンが呼んだリクシンキ、クウレツキ、ホウジンキの三体の超光騎士は、呼び出しと共に空中で合体する。

「頼むぞっ!」

 主人が飛び乗る。
 超光戦士シャンゼリオン──いや、プログラムを変更、彼はガイアポロン──を乗せ、敵に止めを刺す為のフォーメーションを空中で展開。
 青い空の下であった。
 彼ら三体のメカにとって、石堀光彦は──起動を手伝った恩人であるのは人工知能も理解している。だが、これは主人の命令でもあり、決してこの時ばかりは拒んではならない使命である事もまた、了解していた。

「バスタートルネード!!」

 ──超光騎士は、目覚めて、最初の砲火を浴びせる。

 リクシンキの放つショックビーム。
 クウレツキの放つクウレツビーム。
 ホウジンキの放つスーパーキャノン。
 その三つの力はある一点で混ざり合い、その全てが相乗され、三つのエネルギーの特性を合わせた強い砲撃となって、一直線にダークアクセルの身体を狙う。
 主人である涼村暁の最初の命令が、まさか、あの時に一緒にいた仲間への攻撃であるとは、この時、この超光騎士のいずれも思わなかっただろう。
 しかし、一切その砲撃には容赦という物が感じられなかった。容赦をする必要のない相手だと、機械である彼らも本能で悟ったのだ。

「『──烈火炎装!!』」

 ゼロも負けてはいない。魔導火のライターでその身を青の炎に包み、ソウルメタルの性能を引き上げる。涼邑零も、銀牙騎士の鎧も、腕にはめられた魔導輪も、彼が繰る魔導馬も──全てがその炎の中で精神が研ぎ澄まされる。
 魔戒に携わり、魔を絶つ者たちだけが感じる力。──それ以外の者にとっては、それはただの身を焦がす炎にしかならない。
 ゆえに、魔戒騎士はこの殺し合いで圧倒的に有利な存在と言えた。
 銀牙に跨ったゼロは、銀牙銀狼剣を構え、ダークアクセルへと駆ける。

「「────はああああああああああああああああああああああああッッッッ!!!!!」」

 涼村暁と、涼邑零。
 二人の声が重なった時、二人の攻撃はダークアクセルの目の前まで迫っていた。依然として、ダークアクセルはその攻撃に対して、それぞれの前にバリアを展開して応戦する。ワンパターンだが、有効打だ。
 しかし──。
 石堀の予測より、その攻撃は幾許か強力であり、また──。

──解──
──解──

 彼の有効打には、こんな対抗策も存在した。
 バリア解除のモヂカラである。──外道シンケンレッドと、それを模したダミー・ドーパントの「白い羽織の外道シンケンレッド」。
 二人が、モヂカラを用いて、障壁を強制解除する事が出来る。今この時のように、バリアのタイミングが事前に予測できた場合は、タイミングを合わせてすぐに行う事が出来る。

「くっ……!!」

 ────炸裂。

 巨体が青い炎を纏いながら、ダークアクセルの真横を横切る。
 ダークアクセルの体に纏わりつく青い魔導火の残滓。
 それを描き消すのは──、ガイアポロンと超光騎士たちが放ったシャイニングトルネードの渦巻く一撃。

「──ッッッ!!!!」

 ダークアクセルの体表で、小爆発が連続して起きる。一つのシステムの崩壊が、別の部位で誘爆を起こす。
 石堀光彦が耐えたとしても、遂にアクセルの方が攻撃の連鎖に耐えかねているらしく、その装甲から火花が散った。──第一、石堀もまた、「耐えた」と言っても、それは確かに一杯喰わされたと言って相違ないダメージである。
 これもまた、想定を上回る攻撃である。

「残り七分──ッッ!!」

 それでもまた、どこか我慢を噛みしめているように、タイムリミットを呟くダークアクセル。
 そんな彼の全身から煙が生じているのを、ドウコクが皮肉的に見守っていた。

「エレキハンド!!」

 次の瞬間、スーパー1の腕は金の光を示し、ダークアクセルの体へと電流を放った。
 雷が落ちたような強烈な金属音が鳴り響いた。電流はダークアクセルの体に直撃し、全身を駆け巡っている。大剣が齎した振動をなぞるように電流はダークアクセルの体を流れていき、時に先ほどのエネルギーと反発しながら石堀光彦の体にダメージを与える。

「──ッ!」

 確かな手ごたえ。
 スーパー1の攻撃と同時に、全身を駆け巡った電気のエネルギー。
 それは、勿論、先ほど同様に、石堀光彦だけではなく、やはり“アクセル”にまで火花を散らさせた。彼の耳元に、両腕、両足、頭──と、全身の装甲を崩壊させていく音が鳴り響いていく。
 あらゆる攻撃が、装甲の防御性能や攻撃性能をダウンさせ、それをただの重い鎧に変えていく。

 ダークアクセルは、“アクセル”に巻き込まれるようにして、自らの膝をついた。
 これならば変身を解除した方が確実に良いと、石堀も内心で思った。そして、その思考通り、次の瞬間にはアクセルドライバーに装填されているアクセルメモリを取りだそうとする。
 しかし──。

「何──ッ!?」

 ──変身が、解除できない。
 アクセルメモリにその手を近づけるなり、全身で装甲が火花を散らし、装甲の内部で石堀にダメージのフィードバックが発生するのだ。
 二度、試したが、やはり同様に、解除が何かによって拒否されている感覚があった。
 アクセルが石堀を弱体させている状況下、変身が解除できないのは痛手である。
 ──何故こんな事が起こるのか。

「どういう、事だ……ッ!!」

 そう、“アクセルメモリ自身”が、ダークアクセルの手を拒んでいるのだ。
 過剰適合と正反対だ。非適合者に捻じ伏せられる形での変身であった為に、“メモリ自体”が石堀光彦に抵抗しているのである。

「まさか、この機に乗じて……」

 誰かを裏切る者は誰かに裏切られる。
 それは時として、“誰か”ではなく、“何か”であったりもする。
 そう、この時。──石堀は、ただの一個の変身アイテムとしか認識していなかった“アクセルメモリ”に裏切りを受けていたのである。

「……いや、この機を待っていたのか、──アクセルゥゥゥゥゥーーーーッッ!!」

 石堀も解したらしいが、それは既に手遅れだ。
 自分は、このまま追い詰められる。いや、既に殆ど、彼らに追い詰められている。
 その彼らの中には、もしかすると──この、加速のメモリも含まれているのかもしれない。

 ──ガイアメモリは元の世界で、その未知の専門家を含め、誰も解明しきれていないほどの未知の性質を持っている。
 時として、メモリ自身が使用者を選ぶのも──また、その性質の中で最も不可解な部分の一つである。
 石堀光彦は、決してアクセルに選ばれてはいなかった。いや、仮に選ばれたとしても、この時、おそらくその資格は亡くしていたのだ。
 本来の装着者──“照井竜”のような、「仮面ライダー」をアクセルが求める限り──。

「照井……!」

 仮面ライダージョーカー──左翔太郎だけがそれを理解し、どこか感慨深そうに、アクセルの崩落を見つめていた。
 井坂深紅郎が無数のメモリを使った実験によって、自壊した時にも似た光景だった。
 照井竜の──仮面ライダーアクセルの最後の意地を垣間見ているような気がして、彼は息を飲んだ。

 照井竜を殺害したのは、実は間接的には石堀光彦である。彼による洗脳を受けた溝呂木眞也美樹さやかの襲撃がなければ、照井竜とその同行者である相羽ミユキは死なずに済んだといえる。
 アクセルメモリは、今、ある意味で、その“復讐”を行っているのかもしれない。

「……何だかわからねえが、絶好の機会って奴らしいな」

 そんな時、言葉を発したのは、血祭ドウコクであった。
 昇龍抜山刀を抜き、全く遠慮を示さず、全く恐怖を覚えず──ダークアクセルへと、のろのろと歩きだす。
 ダークアクセルの視界に、鈍い動きで迫るドウコク。
 反撃の機会を見出そうとするが、そんなダークアクセルの体を蝕む電流。装着者を戦わせない──、“変身システムによる反撃”が石堀光彦を襲う。
 これは、もはや──拘束具である。

「折角だからな、俺の借りも返させてもらうぜ」

 呟くように告げるなり、眼前で、ドウコクは昇龍抜山刀をアクセルの左半身目掛けて振り下ろした。
 ねらい目は、青色の複眼であった。ここが叩かれる。──破壊音。
 メットの青いバイザーのみが砕かれ、中の機械が外に露わになった。その痛みは仮面の下の石堀にもフィードバックする。──左目に電流。
 目の前の血祭ドウコクが受けた痛みに似ている。

「ぐぁっ……ッッ!!」

 この一撃がドウコクの返答であった。
 彼は真正の外道である。
 弱っている相手にも躊躇はない。たとえ、それがかつて味方であった者だとしても、どれだけ弱り果てていたとしても──それが彼の感情を僅かでも痛めたり、揺さぶったりする事はない。
 これは、「外道」であるがゆえに成せる技だ。彼が外道であるがゆえに、一方的に敵を痛めつける事にも躊躇は払われない。

 そして、そんなアクセルに誰かが救いの手を差し伸べる事も、この時ばかりはなかった。
 更にドウコクはアクセルの角を左手で掴み、強引に立たせるようにして持ち上げた。手足がだらんとぶら下がる。──石堀もどうやら、限界のようである。



「んラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



 そこから、横に真一文字。
 刀が凪いだ。深々と斬りつけられた刃は、アクセルを確かに“斬った”手ごたえをドウコクの手に伝えていた。
 ──アクセルの装甲に黒い生傷が生じ、そこからアクセルの全身を覆うような真っ白な煙があがった。耳を塞ぎたくなるような金属音が鳴る。

「……っと、」

 ドウコクはこの一撃とともに、アクセルと距離を置く。できれば攻撃を続けたかったが、それはやめた方がいいと気づいたらしい。
 ──何故ならば、既にトドメを刺す為の前兆が始まっていたのを背中で聞いていたからである。
 彼らが攻撃してくる事はないと思うが、巻き添えを食らうのはごめんだ。
 まあいい。譲ってやろう。

──Joker!!── 
──Eternal!!──

──Maximum Drive!!──

 重なって聞こえた二つのガイダンスボイス。
 仮面ライダージョーカーと仮面ライダーエターナルの二人の仮面ライダーがマキシマムドライブの音声を奏で、膝を曲げ、腕を横に広げて構えていた。
 仮面ライダークウガの変身待機時のポーズであった。

 彼らが、同じ仮面ライダーとして、ダークアクセルの最後を飾ろうとしているのだ。
 マキシマムドライブのエネルギーはベルトのメモリから膝へと伝っていく──。

「照井……これ以上、お前のアクセルを、こんな奴に利用させねえよ」

 そんな言葉に反応して、ダークアクセルの動きが硬直する。──反応したのは、ダークアクセルといっても、“石堀光彦”ではなかった。
 ──全身の神経が逆らえない、装甲の圧迫。内部を駆け巡る電流のような衝撃。
 この一撃だけはなんとか通そうと、アクセルメモリが──照井竜の魂が邪魔をしているかのように。

「くっ……!」

 彼は、二人の仮面ライダーが自らの目の前で、こちらへ向かって駆けてくる事も、飛び上がり、回転する瞬間も、見ているだけしかできなかった。
 抵抗は全くの無意味だ。メモリの拘束力が強い。
 次の瞬間──





「「ライダー、ダブルキィィィィィィィィーーーーーーーッッック!!」」





 ダークアクセルの身体を貫く、二人の仮面ライダーの同時攻撃──マキシマムドライブ。
 炸裂。──目の前で視界を覆う光。
 即席とは思えぬ、見事に息の合ったコンビネーションで、それはダークアクセルの胸にクリティカルで命中した。
 アクセルの装甲で耐える事は不可能な膨大なエネルギーが流しこまれる。

「ぐっ……ぐああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!」

 鳴り響く悲鳴。──そして、遅れて爆音。
 それはアクセル自身の内部の音だった。
 アクセルの装甲が弾け飛び、爆発する。ナイトレイダーの制服をぼろぼろに焦がした石堀光彦が中から現れ、膝をついて倒れる。──彼にしてみれば、牢から解放されたともいえるかもしれないが、その時に被ったダメージはその代償としては大きな痛手であっただろう。
 空中で、アクセルのメモリが罅を作り、心地の良い音と共に割れた──。

 ──メモリブレイク。

 仮面ライダージョーカーにとって、それは仕事の一つだった。
 仕事を完了した彼は、恰好をつけた決めポーズをするのが癖だったが、今日はそれを忘れていた。
 勿論、それは、照井竜の遺品ともいえるガイアメモリを砕いてしまったからに違いない。

(……これで、本当の意味で風都のライダーは……俺一人になっちまったな)

 爆炎を背に、彼はしみじみと思った。
 アクセルを継ぐ者は現れない。何人もの仮面ライダーが支え合い、風都を守って来た伝説は、今日から、孤独のヒーローの話になる。
 ──それを、翔太郎は実感した。

「がっ……がはぁっ……ッッッ!!!」

 溺れたような声が耳に入り、ジョーカーたちは振り返った。
 常人はメモリブレイクのダメージに耐えてすぐに起き上がる事は出来ないのだが、石堀はそれが可能だった。まだ地面から煙がそよいでいるという中でも、土を握って立ち上がっている。

 それは、生身の人間のように見えるが、──いや、そうではない。
 石堀は、ウルティノイドだ。宇宙で作られた人工生命体である以上、その姿が人間だからといって侮ってはならない相手なのである。──この中に、それを知る者は一人もいなかったが。

「……まさかッ……この俺が……!! この俺が……ッ!!」

 石堀は既に包囲されていた。
 ここにいる者たちは、容赦なく石堀を攻撃する覚悟を持っている。
 その武器を固く握りしめ、彼を倒す事を誰しもが考えていた。息の根を止める、という末恐ろしい事を実行しようとしている。
 しかし、その時。

 ──ふと。

 石堀の視界に、包囲している人間たちとは別の物が、見え、石堀はそちらを注視した。
 それは、確かにこちらに接近している。──物体、いや、人間。
 誰だ……? あれは……?
 自らが置かれている状況を忘れて、彼は目を見開いた。

「…………!」

 その時。石堀に対して、またも予想外のアクシデントが起きたのである。
 しかし、そのアクシデントはこれまでとは決定的に違う性質の物であった。──なぜなら、それを謀った物は誰もいないからだ。
 対主催陣営も、石堀光彦も、主催者側も──実際のところ、まるで感知しなかった事実が襲来した。

「────」

 石堀が、何かを見ている……という事に他の全員が気づいたのは、そのもう少し後の事だった。彼の次に、零が、──次に、ドウコクが、──沖が、──レイジングハートが、──翔太郎が、──良牙が、気づいた。
 そこで、誰かが言った。

「待て……! なぜお前が……」

 誰が言ったのかはわからない。しかし、誰もが同じ事を言おうとしていた。
 彼らは、どうやら、このタイミングで、今の戦闘よりも遥かに注意を向けなければならない事象に立ち会ったらしい。
 誰かが空を見上げた。
 いや、しかし──空は、思いの外、明るかった。だからこそ奇妙だった。
 ──何か、恐ろしい物が背を這うような感覚を、その場の全員が覚えた。

「……貴様、生きていたのか……!」

 それは、石堀光彦でさえ一度息を飲んでしまう相手だという事。
 本来、死んでいるはずの存在であるという事。──放送でも、名前は呼ばれたはずだった。
 そして、自ずと見えてきた敵の姿。

 あれは見た事のある白い体表。
 その体表を飾る金色の装飾。
 四本角。
 吊り上がった怪物の眼。



 究極の闇ン・ダグバ・ゼバ──。

「イシボリ……カメンライダー……やはり、生きていたか」

 ──いや、「ン・ガドル・ゼバ」であった。



「どうして……お前が……いるんだ……」

 彼は、翔太郎が、フィリップや鋼牙と共に完全に倒したはずなのに。
 何故、ここにいる。彼らの犠牲によってやっと倒したはずの相手だ。
 それは、ダグバの姿をしていたが──左翔太郎には、それがガドルなのだとすぐにわかった。左腕が失われているのがその最たる証拠だ。

 だが、左腕を失った宿敵は、永久に死んでいて欲しかった。
 彼を倒す為に出てしまった犠牲の重みを思えば、そうでなければ理不尽である。──ジョーカーは固く拳を握る。

 ──何故、こんな時に。

 そう問いたい気持ちが本来湧き出るはずだが、それさえ出なかった。
 彼が、何故こうして生きているのかは誰にもわからなかったからだ。

 しかし、少なくとも、彼は、「死んだ」ように見せかけながら、何度でも彼らの前に現れた敵であった。
 それと同じだ。もう驚き慣れたほど──。
 そして、また、こうして彼らの前に現れてしまったのである。



「──確かに、俺は、貴様らに何度となく敗北した……! そして、死さえも経験した……! 世界には俺よりも強い者が何人もいたのだッ!! もはや、勝者となり、究極の闇を齎す資格はどこにもないのかもしれん……」



 ガドルが右腕を目の前に翳す。
 次の瞬間──。

「……!」

 超自然発火能力によって、彼らの周りに炎が上がる。
 炎は無差別に燃え上がった。自らを巻き添えにする事も辞さないほどである。

「……しかし、俺はグロンギの王だ。ゆえに、グロンギ以外の者に負けたままで終わる事は出来ない! この俺の為に、王となった俺の為に──グロンギの王が、他の種にやられた事実を覆す為に……敗北し、葬られた全ての同胞が力を貸しているに違いないのだ……! ならば、それに応える事こそが、王たるこの俺のさだめ……!」

 その精神は、果てしないほどに「戦士」であり、「強者」であった。
 その誇りは、まさしく「王」に相応しい物であった。

「俺は、貴様らを倒すまで、死ぬわけにはいかん……!!」

 外見は、まだその体の全てを完治しておらず、はっきり言ってしまえば満身創痍といっていいかもしれない。気力だけで体を動かしているという言葉がこれほど似合う者もいまい。
 究極の闇としての脅威は、そこにはなかった。

 しかし、この場に現れた第三勢力に、多くの者が戦慄した。
 その執念に、そのしぶとさに……。

「──まずは貴様だ、イシボリ!」

 着々と過ぎていく残り時間の中で、敵も味方も、第三者もまた──思いもよらぬ出来事の連続を体感していた。






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最終更新:2015年07月13日 21:49