崩壊─ゲームオーバー─(11) ◆gry038wOvE
『────みなさん、正午になりました。残った参加者は、7名。あなたたちの勝利です』
加頭順のホログラムが上空に現われ、音声がそこから発された。
ダークザギと戦う戦士たちの前に、その音が鳴り響く。
怪物が暴れ狂う音にかき消されるが、それが正午を超えた事によるメッセージだというのはすぐにわかった。
『勝利を祝し、あなたたちを────』
その時、──地上では、
蒼乃美希と
孤門一輝が、忘却の海レーテから帰還した。
そして、
佐倉杏子のソウルジェムが彼女自身の身体へと帰り、彼女は目を覚ました。
しかし、そんな事にも気づかず、加頭は、その先の言葉を告げた。
『────強制送還します』
空が裂け、そこから、奇怪なブラックホールが誕生する。
地上で暴風が吹き荒れ、参加者たちを吸いこもうとしていた。
参加者たちを識別し、それを吸収しようとする奇怪なブラックホール。
それは外の異世界と繋がっている。遂に、あれだけ求めていた外の世界とのコネクトが始まったのだ。
◇
赤い光に導かれるまま、孤門一輝と蒼乃美希の前で、巨大化したダークザギが暴れていた。圧倒的に規格外に巨大であり、二人も威圧感を覚えていた。
彼らの周囲には、ブラックホールの影響による強風が渦巻いている。
「……」
孤門は、自らの手に、“それ”を握りしめた。
エボルトラスター。
姫矢准が、千樹憐が、佐倉杏子が、蒼乃美希が──、共に戦っていたウルトラマンの力が、今度は孤門のもとにあるという事だった。
彼らの戦いが──彼らの魂が、そのエボルトラスターの鼓動を感じて、孤門の胸の中に蘇った。
孤門は、美希の方を振り返った。
そんな孤門の様子を見て、美希は、何も言わずに頷いた。
──孤門は、美希に任されたのだ。
ウルトラマンとして、このダークザギを倒す力を。
「絆……」
ならば……今、孤門一輝は戦う。
ダークザギを……
石堀光彦を倒す為に。
「────ネクサス!!!!」
エボルトラスターが強く引き抜かれる。
空にエボルトラスターを掲げると、“赤”と“青”の光がその中に収束し、孤門の中でウルトラマンが覚醒する。
────共に戦ってきたウルトラマンが、自分と共にある。
その初めての感覚に──、孤門は、不思議な暖かさを覚えていた。
「デュアアッ……!!」
Nexus……それは、受け継がれる光の絆。
◇
佐倉杏子が、目を覚ました。
そして、ふと、その瞬間、ダークザギと戦闘中であった仮面ライダージョーカーと、目が合った。
ダークザギに攻撃しながらも、杏子の肉体に傷がつかないよう、彼が常に気を配っていたらしい。
そんな状態で戦うなよ……と、杏子は思う。
「杏子……!」
ジョーカーは、思わずその事実に驚き、戦いを忘れて杏子のもとに駆け寄った。
それは嬉しいのだが、杏子はすぐに立ち上がった。
アカルンと、キュアパインのリンクルンが傍らに転がっている。
キュアパインのリンクルン──まるで、置手紙のように残されたそれを見て、杏子は一人の仲間の事を思い出した。
(マミは──)
彼女は、どこにもいなかった。
だが、彼女がどこにいるのか、杏子はもうわかっているような気がした……。
そうだ、彼女はもう……どこにもいない。
「良かった、杏子ぉっ! 目を覚まさないかと思っちまった……」
そんな切ない気分を味わっていた杏子であったが、目の前の黒い仮面ライダーは、思わず、杏子に抱きついていた。
孤門を信用していたとはいえ、いざ杏子がこうして目を覚ますとなると、嬉しくて仕方がないらしい。
心配してくれたのは嬉しかったが──、今は、杏子も大団円をしている場合じゃなかった。
「おい、こんな時にこんな所でくっつくなよ。それどころじゃないだろ……なんだよ、あのデカいのは」
わざと鬱陶しそうに突っぱねて、巨大なダークザギの方へと注意を向けた。
ジョーカーも、そこで、やっと我に返ったように、空を見上げた。巨人ダークザギと、仲間たちが戦っている真っ最中だった。ジョーカーもまたすぐに、あそこで仲間たちを助けなければならない。
「ああ……、あれは……ダークザギの、本当の姿だ……。俺たちの力をどう使っても敵わねえ……ガドルと沖さんはもうやられちまった」
「……そうか、あいつらが」
既にダークザギが犠牲者を出している事が杏子に伝えられる。
一也は勿論、ガドルの敗北も、杏子の中ではショックな事象に感じられた。
ダークザギは強い。それは、あの巨体を見ても明らかだが、仮にダークザギが同じ規格だったとして、誰がそのエネルギーに敵うだろうか。
「でもな、もう大丈夫だ」
まだ、彼が現れていない空を見上げながら、杏子は言った。ジョーカーはそんな杏子の姿を見て少し怪訝そうにした。彼女の横顔は、決して強がりじゃない自信に満ち溢れていた。
──大丈夫だ。
ダークザギは確かに強い。──だが、確かに“光”は、繋がった。
杏子はソウルジェムを通じて、レーテの中でそれを感じていた。
「──銀色の巨人(ウルトラマン)は、負けない」
◇
「花よ輝け……ッ!!」
高く飛び上がったキュアブロッサムが、ダークザギの胸のエナジーコア目掛けて、攻撃を仕掛けようとしていた。
それでもまだ……石堀を救いたい──。そんな想いを胸にしながら、これで、ダークザギに対して通算三度目のピンクフォルテウェイブを放とうとしていた。
体力は限界で、花の力も既に、使い果たされようとしている。
(──石堀さん……っ!!)
たとえ、拒む力が働いたとしても。
いつか、無限の力でダークザギに力を浄化してみせたいと。
だが、無情にも、そんなキュアブロッサムの姿が、ダークザギの手によって叩き落とされる。
ブロッサムの全身をダメージが駆け巡り、彼女の変身エネルギーを消耗し、キュアブロッサムの変身が解けた。
花咲つぼみの姿が現れる。
ダメージも大きいが、体力の限界だったのだろう。
「つぼみぃ……っ!!!!!!」
思わず、彼女の本当の名を叫びながら、仮面ライダーエターナルが飛び上がる。
攻撃の為ではなく、キュアブロサムを空中で抱きとめる事で、地面に直接激突するのを避ける為であった。──変身が解けた状態の彼女が地面に激突すれば、確実に死んでしまう。
つぼみの身体は、上空でエターナルに包まれるが、勢いが強すぎたために、今度はエターナルの身体も纏めて地面に向けて突き飛ばされてしまった。
──勿論、エターナルが下になれば助かるかもしれないが、二人が受けるダメージは大きい。それは、ほとんどこの戦いでの再起不能を意味する。
「くそっ……!!」
エターナルが叫び、激突の瞬間、目を瞑った。いくら良牙とはいえ、強いダメージが全身を襲うスピードである事は間違いないと悟ったのである。
歯を食いしばり、激突の衝撃に耐えようとする。
「くっ……──」
しかし……。
──いつまで待っても、地面と激突する事はなかった。
「────…………」
それを奇妙に感じて、おそるおそる目を開けたエターナルが見たのは、──巨大な銀色の顔であった。
それは、こちらと目を合わせていた。──不思議な安心感が、
響良牙の中に湧きあがってくる。
ここは、その顔を持つ巨人の掌の上だった。彼は、エターナルとつぼみをその手で優しく包んでいた。
二人は、その姿を、どこかで見た事がある。
「ウルトラマン──」
つぼみも、瞼を開いて、その顔に向けて呟いた。
そう、彼はウルトラマンだ……。杏子が変身していた戦士である。
だが、見た事があるというのは、決してウルトラマンの姿の話ではない。──そこにある、誰かの面影の事だった。
「孤門……なのか?」
エターナルは、こちらを見つめるウルトラマンの巨大な顔に、孤門一輝の面影を感じていた。
つぼみも同様に、それが孤門であると気づいていたが、驚きのあまり、閉口していたように見上げていた。
そして、次の瞬間、エターナルとキュアブロッサムの身体が浮き上がる。
「あっ……」
二人の身体は、ブラックホールによって吸い込まれようとしているのだ。
だが、二人を見て、ウルトラマンは頷いた。
後は任せろ、と。
──響良牙と花咲つぼみが、この殺し合いを終えようとする中、孤門一輝の笑顔がそこに見つかった気がした。
「おいっ!」
良牙が、大きな声で孤門を呼びかけた。ネクサスが空を見上げる。
エターナルは、最後に、この場所で
五代雄介や
一条薫から教わった“サムズアップ”を見せて──空に消えていく。
良牙は、言葉ではなく、それを見せたかったのだ。
その想いは、ウルトラマンの──ウルトラマンネクサス、孤門一輝の胸で勇気へと変わる。
「デュアッ!!」
ウルトラマンネクサスは、目の前の敵──ダークザギと向き合い、構えた。
二人のサイズ差は大きくない。ようやく、同じ土俵に立って戦える相手同士になったというわけである。
そんなネクサスを見て、ダークザギは少なからず動揺していた。
「バカな……ッ! 奴は闇に沈んだはず……! あの闇の中から抜け出せるはずがない……! まして……人間ごときがッ!!!」
こうして、レーテを抜け出してくる者が現れるはずはない。
あの闇は人間は決して戻る事ができない絶望の淵にある。
その中で人は苦しみ、もがき、諦め、恐れ、絶望する。
そんな場所であるというのに──。
「────バーカ!! お前ごときが人間に勝とうなんざ、100万年早えんだよ!!!」
エターナルたちと共に空に浮きあがっていく、ガイアポロン──
涼村暁が、ダークザギの横顔に向けて叫んだ。
その声は、確かにダークザギの耳にも聞こえた。
奴は、この状況でおどけようとはしていなかった。しかし、今は、それまでの暁の調子に戻ったようにも見える。
つまり、奴らは──勝利を、確信しているのだ。
「おのれ……っ!!」
ダークザギは、苛立ちを胸に秘め、駆けだす。そして、ネクサスめがけてパンチを放った。
アンファンスのネクサスなど、ダークザギどころかダークファウストですら葬れる相手だ。そう。まだ慌てる段階ではない。まだ、“奴”は復活していないのだ。
真の力を使っていないネクサスは、敵ではない。──ならば、真の力を使う前に撃ち倒すのみ。
「くっ……!」
ダークザギの一発のパンチで、ネクサスの身体は、大きく吹き飛ばされる。
ネクサスは、周囲の森を巻き込んで大きな尻もちをつき、大地を鳴動させる。
──アンファンスの力は、確かに、ダークザギに立ち向かうには弱かった。
まだ、ウルトラマンの力を使い慣れていない孤門の変身であるせいもある。
だが──
(────立て、孤門! お前は絶望の淵から何度も立ち上がった……だから俺も戦えた)
その時、姫矢准の声が、ウルトラマンネクサスに呼びかけた。
姫矢がネクサスの中にいる……。姫矢が力をくれる……。
ネクサスは、痛みにも負けずに、地面を握りしめて立ち上がる。
(姫矢さん……!)
そうだ……こんな所で倒れている場合じゃない。
諦めない……。
立って、奴と戦うんだ……。
「……聞こえたか? ザルバ……」
『ああ、あれは姫矢准って奴の声だ。──どうやら、あいつが奴に力を貸してるみたいだぜ』
空に昇っていく零とザルバは、そんな事を言い合った。
一見すると頼りのないウルトラマンであったが、彼は諦めない。
ここにいる誰もがそうであったが──、諦めずに立ち向かっていく勇気がある。
「フン……ッ!」
────その瞬間。
ウルトラマンネクサスのエナジーコアが光り、姫矢准の想いが、はっきりとした形で力を貸した。
──赤く熱い鼓動が、ネクサスをまさしく赤色に変える。
ネクサスは、ジュネッスの姿へと変身したのである。
ネクサスの力は確かに撮り戻っていく。
「……ッ!」
ダークザギも、立ち上がった彼の新しい姿に構えた。
ネクサスは、ジュネッスの命の色を全身で感じ、姫矢准が使っていた技を再現する。
大地に向けて、二つの腕を重ね、エネルギーをためて腕を十字に組む。
瞬間──、一瞬だけ、ネクサスの全身に、パッションレッドのラインが駆け巡る。
「ハァァァァ…………フゥッ!!!!!」
オーバレイシュトローム──、その光線が、ダークザギに向かっていった。
ダークザギは、それを両手で受け止めようとする。
ほんの一瞬だけ苦戦するが、ダークザギは、それをあっさりと打ち消した。
この程度では、まだ温い──!
「ハァッ……!」
「フンッ……!」
それでも、今度は肉弾戦でダークザギに立ち向かっていくネクサス。二人の距離は縮まり、ダークザギはネクサスに向けてパンチを放とうとしている。
ダークザギの拳を避け、脇腹に蹴りを叩きこんだネクサス。
だが、その直後、ダークザギの圧倒的な連撃を受け、ネクサスは、肩で息をするようになってしまう。やはり、肉弾戦には慣れていないのだ──。かと言って、光線はダークザギには通じない──。
「……チッ。嫌な姿を見せやがって」
ブラックホールに飲み込まれようとしている
血祭ドウコクと外道シンケンレッドも、その姿を遠目で見ていた。
ドウコクが、それをどういう意味で言ったのかはわからない。
姫矢と同じジュネッスのネクサス、そして、一瞬だけ見せた杏子と同じジュネッスパッションのネクサスを嫌悪したのか、それとも、ダークザギに押されているネクサスに不快感を示したのか。
それはわからない。
ただ、生還という目的を前に、気を緩め、彼もいつも以上に思わぬ事を口にしてしまう状態であった事だけは、確かだった。
◇
ベリアルたちによって“管理”された一つの世界──、孤門の故郷でもあったこの世界で、一人の青年・千樹憐がモニターを見上げていた。
街頭に設置された巨大モニターは殺し合いの様子を映していたが、それを率先して見ようとする者など、殆どいなかった。多くの人は、この世界の真実を知り、この殺し合いを目の当りにして、“管理”に屈し、死んだ目でされるがままの作業を行っている。
しかし、憐は、そんな中でも、管理者たちに屈せず、裏の世界で反乱するメンバーの一人として戦っていた。和倉英輔や平木詩織などのTLTの人間もこちらについている。
その日は、孤門たちの最後の戦いを目にするべく、隠れて町に出ていた。
そして、今、孤門がウルトラマンとなって戦っているのを、憐は今、見ている。
(そうだ、孤門……俺も孤門のお陰で……、こうして管理なんかに負けずに、運命にだって逆らって、俺は生きてる! だから……)
憐は今日、この世界で一人の少年に出会ったのだ。
まるで憐と同じような境遇である。彼も先天的に不治の疾患を患い、それによって病弱でありながらも、パイロットを目指しているらしい。
彼も諦めなかった。彼も管理には負けなかった。彼も前を見ている。
憐は、そんな彼の姿に勇気づけられている。支えられている。
「……あれは、パパと見た銀色の流星だ」
その少年──真木継夢は、今、憐の隣で言った。
管理されている人間たちも、呆然とモニターを見つめていた。
もしかしたら、勝てるかもしれない……。
誰もがそんな想いを少なからず持っていた。
風向きが変わっている気がする。
「────負けるなッ!! 孤門!!!! 俺も孤門のお陰で戦えた!!!! ウルトラマンとして!!!!」
憐の声が街頭で響いた。人々の目が、そこに注目した。
それは、町中に管理者の目がある中で、自らの正体を明かしてしまうような物だった。
孤門一輝が千樹憐の名前を出したのを見ている者もいる。──そして、憐は今、この世界ではお尋ね者なのだ。
しかし、その直後に、継夢が叫んだ。
「がんばれぇぇぇぇぇぇぇっ!!!! ウルトラマン!!!!!!!」
それは、二人による明確な反逆だった。
管理された世界の時が止まる──。彼らは何者だろう──、と、誰もが思った。
しかし、やがて、どよめいた周囲は、そんな事を気にしなくなり、彼らの想いがどんな物であるのかを胸の中に思った。
そして、彼らも次々と声を張り上げた。
「そうだ、負けるなっ!! ウルトラマン!!!」
「がんばれーっ、ウルトラマン!!!」
「行けぇっ!! ウルトラマン!!!」
今、この世界で、管理の力を越える人々の反乱が起こったのだ。
彼らの管理を任された財団Xたちは、それを鎮静化しようとするが、そんな邪魔は全く、人々には通らなかった。
ましてや、財団Xの中にさえ、別の組織による管理を快く思わない者が何人もいたようで、それを止めようともせず、無言の反逆をする者がいるという有様だ。
騒ぎの波紋はだんだんと大きくなっていく。
人々はだんだんと、ウルトラマンを大声で応援するような形で結託していった。
「……人間の力は、イッシーが──ダークザギが思っていたほど弱くないみたいですね」
「ああ。俺たち人間を敵に回した事こそが……奴の、そして、管理者たちの最大の誤算だ!」
憐や継夢と同じく町に出ていた平木詩織と和倉英輔も、その光景を見て、そう言った。
この世界の人間たちの希望が、時空を超えてウルトラマンに届いていく。
それはウルトラマンだけの力ではなく────人とウルトラマンとが支え合う事で、初めて生まれる力であった。
◇
孤門に憐の声が届いた。
時空さえも超えて、憐の“青”がウルトラマンネクサスに力を貸す。
ネクサスの身体が、光に包まれる。
「──ハァッ!!!」
姫矢の赤いジュネッスの姿だったネクサスは、時空を超えて届いた力を借りて、今度は憐のジュネッスブルーに変身する──。
新米ウルトラマンに、新しい力を貸す為に──。
それは、この場にいる者たちは初めて見る光だった。
「命の光……生きる者たち全てが違う、光の色……」
「ぶきっ!」
参加者ではなく、“支給品”であるレイジングハート・エクセリオンは、子豚を抱いて、空へと自力で飛んでいた。
彼らは、ブラックホールに自ら向かわなければ、元の世界に帰る事が出来ないのだ。
しかし、このまましばらく、彼の戦いを見ていたいと、その姿を空中に留まらせている。
「デュア……ッ!!」
孤門に力を貸すのは、姫矢准や千樹憐──そして、ここで生還している参加者たちだけではなかった。
かつて、ダークザギに操られていた
溝呂木眞也も、その声を孤門に届かせる。
────孤門、俺の過ちを正してくれ。
────人の心は弱く、世界は闇で満ちている。
────だから人はたやすくそれに呑まれてしまう。
────だがな……。
溝呂木は、その先は何も言わなかった。
だが、──孤門は、恋人を殺した溝呂木眞也の罪を、許そうと思う。
孤門もまた、闇にその身を落とそうとした事がある。
人間は弱い。
だが……だが──
孤門がかつて尊敬した先輩──
西条凪の声が、孤門を助ける。
────ダークザギ、お前は私たちには勝てない!!
────私たちは決して諦めたりしないから……!!
────そして、
────人と人との絆は、光そのものだから……!!
「シャァッ……!!」
ウルトラマンの光と共に吸収された、キュアベリーの光が駆け巡り、一瞬だけ、蒼乃美希だけが持つ色を──ネクサスは、現出した。
ネクサスの右腕のアローアームドネクサスにエナジーコアの光が投影され、アローが形成される。
光の弓──アローレイ・シュトロームに、美希の想いが現出した剣が重なり、今誕生した新たなる技がダークザギを狙う。
オーバーアローレイ・シュトローム。
不死鳥の矢が、ダークザギに迫っていた。
「ウウガァッ……!!」
だが、その一撃を、ダークザギは片手で跳ね返してしまう。
流れ弾となり、地面に1エリア分ほどの大きなクレーターが出来た。──それを見て、そこにいる者たちは、決してネクサスの攻撃が弱かったわけではない事を理解する。
遠くで、爆発音が遅れて聞こえた。
「全然効いてねえのか……!? でも……それなのに……負ける気がしねえ……ッ!!」
仮面ライダージョーカーがその姿を見て感服する。
彼は──
左翔太郎は、以前にも、銀色の巨人に助けられた。
あの時、思わず「銀色の巨人」と言ってしまった翔太郎は間違っていなかったのだ。
そう、杏子が言った通り──ウルトラマンは負けない。
ウルトラマンは、仮面ライダーと同じくらいに強い。
「まだだっ! まだ……まだウルトラマンは戦える……ッ!! ウルトラマンは、私たちの絆がある限り、もっと強くなる……ッ!!」
「私たちも、孤門さんの優しさと、強さに何度も助けられてきた……だから、──」
佐倉杏子と蒼乃美希が、空へと登り、ブラックホールの中へ消えていった。
左翔太郎もまた、ブラックホールに吸い込まれていく。
────がんばれぇぇぇぇぇぇぇっ!!!! ウルトラマン!!!!!!!
だが、そんな声が、あのブラックホールが繋いでいる異世界から洩れてきた。
ウルトラマンを応援している歓声が外の世界から聞こえてくる。
その祈りが、その希望が、その声が、その力が──ウルトラマンを強くする。
絆が、光に変わっていく……。
「あれは……」
ジュネッスブルーのウルトラマンネクサスが、全身を光に包み、真の姿へと変身する。
彼の背中に羽が生える。
赤と青の力が重なり、やがて、その姿に銀色の光が灯される。
ダークザギが最も恐れた戦士が、今、人々の祈りを経て爆誕した。
「ハァァァァァァァァ……ッ!!!!!!! ハァッ!!!!!!!」
──光の戦士の究極の姿、ウルトラマンノア
最強のウルトラマンの姿へと、今、孤門一輝が変身したのである。
ブラックホールの中で、血祭ドウコクも、外道シンケンレッドも、涼村暁も、
涼邑零も、レイジングハートも、響良牙も、花咲つぼみも、鯖から生まれた子豚も、佐倉杏子も、左翔太郎も、蒼乃美希も、その輝きを目にする事になった。
その姿を前に、ダークザギは──強い興奮を覚えた。
奴が……奴が復活してしまった。
ダークザギが、最も恐れて、最も憎んでいた敵が。
「────ウグァァァァァッァァァァァァァァァァァォッッッッ!!!!!!!!!」
ダークザギは、気づけばウルトラマンノアへと駆け出していた。
実は、ダークザギは、ウルトラマンノアのコピーとして作られた巨人である。──あるいは、それは
ダークプリキュアや
相羽シンヤと同様、彼もまた、「コピー」である事へのコンプレックスを、このノアに対して、常に感じ続けていたのだ。
その苦しみが、その苦悩が──ダークザギを、冷酷な破壊神にしたのである。そして、彼は、ダークプリキュアやシンヤのようにそれに打ち勝つ事はできなかったのだ。
「ハァッ!!」
ダークザギは、ウルトラマンノアに向かっていくが、伝説の神が現れた瞬間、二人の形成は完全に逆転していた。
ダークザギのパンチはノアに回避され、逆にノアがダークザギに蹴りの一撃を見舞う。
ウルトラマンノアのキックは、ダークザギを数十メートル後方まで吹き飛ばす。──これまでとは全く逆の、圧倒的な孤門の優勢。
「グァァ……ッ!!」
ダークザギが反撃しようとするが、ノアは悠然とそれを避けてしまう。
ノアは、まるでひらりと身をかわすように、ダークザギの攻撃を全て回避し続けた。
次の瞬間には、ノアのパンチやキックがザギの身体を傷つける。ネクサスの攻撃に比べて、なんと強い──。
そして────。
「シュッ…………ハァァァァァァァァァ…………」
ウルトラマンノアは、左腕にエナジーコアのエネルギーを蓄積した。
ダークザギは、ノアの攻撃を連続して受けた事で、反撃をする事ができなかった。
ノアは、一周回転して、ふらついているダークザギに、1兆度の炎を纏ったパンチ──ノア・インフェルノを叩きこんだ。
ノアの腕からダークザギの身体に向かって、火柱が上がる。
「オアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ダークザギの身体は、火柱に押されて、島の向こうに吹っ飛んでいく。
──やがて、雲を超える。
────大気圏を超える。
──────そして、遂にダークザギの身体は、果てしない宇宙空間まで吹き飛んでいった。
ノア・インフェルノの力がそこで消える。ザギもノアの攻撃に打ち勝ったのだ。
ダークザギは、真っ黒な宇宙から、その惑星にいるウルトラマンノアを見下ろしていた。
ウルトラマンノアも、宇宙にいる彼を睨んでいた。
「「──ハァァァァァァァァァァァァァァァァ」」
──ウルトラマンノアが、エナジーコアからのエネルギーを受け、腕を組み、ライトニング・ノアを放つ。
──ダークザギもまた、ノアに向け、最終必殺光線ライトニング・ザギを放つ。
二つの光線は、この数千キロの果てしない距離を超えて真っ直ぐに敵に向かっていき、その中点でぶつかった。
宇宙空間で、二つの光線が激突。
ザギのライトニング・ザギが一瞬だけライトニング・ノアを圧倒した。
だが──
「闇を恐れることなく、乗り越えていく力……それこそが────僕たちの強さだ!!」
ウルトラマンノアの力は、圧倒的であった。
ノアが更に力を込めると、ライトニング・ザギのパワーは、ライトニング・ノアの希望の力に押し負けていく。
そして──ダークザギの身体は、次の瞬間にライトニング・ノアに飲み込まれていった。
◇
ライトニング・ノアの力に飲み込まれる最中──ザギの目には、殺し合いが行われたあの星が、遠くに輝いて見えた。
幾つもの星々が輝く宇宙の果てで、かつて、“来訪者”たちの希望として作られたダークザギは、思った事がある。
──この宇宙に二度と苦しみが生まれない為には、何を成せばいいのだろう。
──永遠の平和とは何だろう。
そうだった……。彼もまだ、その時は一人の平和を守る戦士として、宇宙の平和の事を真っ直ぐに考えていたはずだった。
M80星雲。──かつて、そのある星で、ダークザギは、人々の為に戦っていた。
ビーストの脅威に立ち向かう“来訪者”たちが、ビーストを倒したウルトラマンノアを作りだした人工生命ウルティノイド──その名が、「ザギ」。
ビーストと戦い、来訪者たちを助け、平和を守る──それが、ザギの使命だった。
彼らの命令を聞き、彼らの為に生きる事こそ、ザギの誇り。
彼は、来訪者たちの思う通りに生きてきた。
やがて、ウルティノイドの中に自我が芽生え、自分で考える事が出来るようになった。
すると、今度は、来訪者たちの為に戦うウルティノイド・ザギの中にも、ウルトラマンノアの模造品として作られた自分自身への苦悩が、どこからともなく湧き出た。
どれだけビーストを倒しても、人々が求めるのは、ザギではなくノアの力である事に、彼は気づいてしまったのだ。
自分は誰にも求められていない。「ノア」の代わりに作られ、「ノア」の代わりに生きる。
自分の命とは何だろう。
自分の存在意義とは何なのだろう。
自分は何の為に生まれ、何の為に生きるのだろう。
ザギはそれでも戦い続けた。しかし、ビーストと戦っていく中で、争い合う人々や、不安に駆られ、絶望に飲み込まれ、他者を傷つける者たちを何人も目にする事になった──。
そして、その戦いを超えていくうちに、彼は、結論した。
──「永遠の平和」とは「虚無」!!
──心が存在しなくなれば、生命が存在しなくなれば、苦しみも悲しみも消え失せる……!!
ゆえに、彼は、いつしか、来訪者たちの英雄から、宇宙の脅威へとなり下がり、落ちぶれていく事になった。ビーストを使役し、人間を利用し、あらゆる手段を使って宇宙の全てを滅ぼす悪の戦士となってしまった。
自分は、ノアの代わりにはならない。
ノアの“敵”となればいい。ノアの“逆”になればいい。
ノアが誰かを救うならば、ザギは何かを壊せばいい。
それによって、“虚無”の中で世界に平和を齎せばいい……。
そうすれば、争いもなくなる。殺し合いも、死も、死に至る生の存在もなくなるのだ。
だが。
宇宙を全て無に返し、全ての命を奪う事が──いかに、残酷な事なのか。
それは、平和と呼ぶには、生ける者たちにとって、最も無責任な行為であると、彼はまだ知らなかった。
永遠の命を持っているが為に、彼は、“虚無”が、彼には正確にはわからなかったのだ。
そして今。
遠く、宇宙の深淵に消え、この世界の外に弾かれ出され、「虚無」の世界に落ち込んでいく時────彼は思った。
(消えたくない……!! 俺は……、俺は、こんな所で……!!)
虚無になってしまえば、苦しみが消えるが、喜びも消える。
自分自身の何もかもが消えていく。
この想いも。この、“消えたくない”という気持ちも。
だが──
「グァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!!!!!!!!」
俺の喜び……ふと思ったが、それは何だったのだろう。
そう、ダークザギの頭に何かが過った時──
──この宇宙ので、巨大な爆発が起きた。
ダークザギの身体が、ライトニング・ノアの光に包まれた瞬間だった。
彼の身体が崩壊していく。
体はばらばらになり、その中にあった意識も、ノアの光の中に消えてしまう。
「 」
……何もない宇宙の果てで、ダークザギの意識は、虚無の世界に途絶えた。
虚無に飲み込まれた時、彼は、自分自身の存在意義を考え、答えに辿り着く喜びを得る事も──そして、それを感じさせてくれた何かに気づく事さえできなくなってしまったのだ。
いや、今、それに気づいたとしても、遅すぎたのだが──せめて、最後に一瞬でも気づく事が出来れば、彼自身は何かに救われる事ができたかもしれない。
しかし、それが出来なくなるのが、“虚無”。
暗黒の破壊神が、ずっと求めてきたものだった──。
【石堀光彦/ダークザギ@ウルトラマンネクサス 死亡】
【残り10人】
◇
遠いいつか、“彼女”が言ったのを、孤門一輝は思い出した……。
「────私、信じてる。孤門くんなら、きっと守ってくれるって……」
◇
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最終更新:2015年12月27日 23:09