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『
吉良吉影』
【午前5時47分】サンモリッツ廃ホテル 大広間
「厄日だ…今日という日は本当に人生最悪の一日だ…
仗助のみならず、あの忌々しいクソチビ…『
広瀬康一』までもが私の前に現われるだとッ!」
食堂を一人出た吉良は大広間へと赴き、胸に溜まった鬱憤や不満と共に自身の心情を吐き出した。
他人と争うことは虚しくキリがない行為だと考える彼も、この会場に飛ばされてからはストレスが溜まる一方。
イライラとした感情で壁の蝋燭に掛かった灯火をジッと見つめ、フゥと息を吐いた後、ゆっくりと後ろの壁を振り向いた。
「……なぁ、
東方仗助。そして、広瀬康一。
一体お前らはどこまで私の人生を狂わせてくれるんだ…?ん?」
キザな白スーツをバサリと翻し、その闇のように黒く沈んだ瞳をいつの間にか後ろに立っていた二人に突き刺す。
「吉良吉影…!言葉を返すがテメーの人生とやらは『杉本鈴美』を殺したその日からとっくに狂っていたんだぜ…ッ!
まさかテメーの方からひとりになってくれるとはよォー。
さっきまでは皆がいたから迂闊に手も出せなかったが、今ならテメーを遠慮なくぶちのめせるぜッ!覚悟はいいんだろーなッ!!」
「吉良ッ!とうとう…とうとう捕まえたぞッ!
鈴美さんと重ちーくんの仇…今ここでとってやる!お前なんかにこれ以上好き勝手させないぞッ!」
吉良の背後で蝋燭の光によって長く伸ばされた東方仗助と広瀬康一の影があった。
杜王の正義のスタンド使いと最凶の殺人鬼がホールの赤絨毯を挟んで対峙する。
やがて二人の少年の背後にそれぞれ大と小のスタンドが浮き出て並んだ。
彼らの闘気溢れるスタンドはすぐにファイトポーズを構え、今にも敵を討ち取らんとグッと吉良を見据える。
しかしその敵意を全身に受ける吉良は、何と自身のスタンドすら出さずに手をポケットに入れて余裕の空気を漂わせているではないか。
そのふざけているともいえる相手の態度に仗助は疑問を浮かべつつも、声に覇気を纏わせて張り叫んだ。
「おいテメーッ!!なにカッコつけてやがるッ!!
そっちにヤル気がなくともこっちはテメーをブッ飛ばす理由は充分すぎるほどにあるんだぜーッ!!
さっさと出しな……テメーの『キラークイーン』を…ッ!」
「いや…その必要は無いよ。何故なら私は既に君達と闘う気など毛頭『無い』からね。
そして君達自身も私に手を出すことは『ありえない』んだ。これがどういうことか分かるかい…?」
なに…?と仗助は吉良の放った意味不明な言葉への疑問を小さく口にする。
康一も吉良の真意が掴めずにスタンドは構えたままポカンとなる。
「テメー……あまりに追い詰められたせいで頭がイカレちまったか…?
それとも観念して自首でもするってのか?」
「仗助…お前は本当に厄介な男だった。
金魚のフンの様に鬱陶しく付いてまわるお前のせいで私はここまでの道中、碌に安心できなかったし、
それに加えて康一…まさかお前までこの場所に居るとは完全に私の誤算だった。
涼しい顔をしていたように見えて私の心はずっと『絶望』に包まれていたんだ。いや参ったよ、本当に。
だが、『一手』早かったのは私の方だったようだ。私の『執念』がお前達を一手上回った。
仗助…お前がさっき我を見失って暴れていた時に少し『細工』させてもらったよ。
これでお前達は私に手を下すことは出来ない。勝ったのは私だ」
コツコツと吉良の革靴の気持ち良い足音がホール内に響く。
ついさっきまで絶望に暮れていた吉良の表情は、いつのまにか嬉々として仗助らを見下していた。
ギリリと、仗助の歯軋りの音が隣の康一の耳に届く。
「吉良……ッ!テメー、だからさっきから何が言いてえんだ…ッ!
言いたい事があるならハッキリ言いやがれコラァーーーッ!!!」
「この私の『キラークイーン』の能力はご存知だろう?
触れたものを爆弾にする能力…。それがたとえ『物』だろうが『人間』だろうが…だ。
爆弾の起動条件は実に簡単な行為……右手の指の起動スイッチをカチリ、と押すだけだ。そうすればいつでも対象を粉微塵に爆破できる。
ここまで言えばわかるよな…?お前達なら…」
タラリと一筋の汗が仗助と康一の頬を伝い、顎から垂れ落ちた。
動揺と困惑を孕む瞳は正しく真っ直ぐに吉良を睨み続けるが、その視線に先ほどまでの覇気は既に失われている。
今や相対する三人の上下関係は完全に逆転していた。
吉良は不気味に口の端を吊り上げ、ポケットから手を取り出してすぐに右手のスイッチを押せる態勢に入り、仗助たちを挑発する。
「ばか…な……俺は…『キラークイーン』が俺に触れたのを見てねえ…ぞ……
康一にしてもむざむざ吉良に触れられるようなマヌケじゃあねえ……
ハッタリ抜かすなよ…ッ!吉良…!」
「吉良…!お前…『まさか』……ッ!
な、なんて卑怯な奴だ…!一体、『誰』を…ッ!」
「一手早かったのは私だ。仗助…おまえは最初に私に会った時点ですぐに私を『再起不能』にすべきだったのだ。
たとえ仲間の『和』を乱そうとも、強引にでも私を倒しておかなかったお前の『甘さ』が招いた結果なのだコレは。
私がやった行為はとても『シンプル』なこと……実に古典的で、陳腐で、馬鹿馬鹿しい行為だが…
キラークイーンは『人質』をとるのに最も適した能力ともいえる。この私にお前のような『甘さ』は無い。
もし私に歯向かったり、私の正体を誰かに喋ってみろ。その瞬間、人質は木っ端微塵にしてやる」
「吉良吉影――――――ッッ!!!!
テメェ一体『誰』を爆弾に変えやがったァーーーッ!!!」
「それをお前らに言う必要は無い。とにかく私に手を出すようなら人質は迷わず殺す。
これは取り引きじゃない。お前らは従わなくっちゃあいけない……
なに、いいじゃあないか。私も元々この馬鹿げたゲームに乗ってやるつもりなど無い。
お前たち二人が余計な事をしなければ私も殺しはしないさ。
私の願いはさっさと誰かがあの主催者共を始末し、元の『平穏』な日常に戻ることだけだ。
そのためなら何だってするし、なんなら君達と多少は手を組んだっていい。
これから少し、忙しくなりそうだからね。フフフフ……」
最後に笑いながら吉良は仗助と康一の横を何事も無く通り過ぎる。
その後ろ姿を仗助は攻撃する事も出来ずに、無念の情で見送ることしか出来なかった。
吉良が廊下の突き当りを曲がって姿を消し、しばらくホール内を蝋燭の炎がゆらゆらと揺れる時間だけが過ぎていった。
やがて堰を切ったように仗助は大声を出し、拳を床に思い切り叩きつける。
「チクショオッ!!!あの野郎……ッ!
人質だと…!?ナメた真似しやがってッ!!一体誰を爆弾にしやがった…!?」
仗助は怒り狂う思考の中、必死で自分の記憶を掘り起こしていた。
ここへ来るとき、吉良はずっとぬえのすぐ後ろを歩いていた。ならば爆弾は彼女か?
いや、そもそもそれ以前に吉良はぬえの他に慧音とも行動を共にしていた。だったら慧音なのか。
いや違う。吉良はハッキリ『仗助が暴れていた時』と言っていた。その瞬間に吉良が動いたというのならもはや誰が爆弾なのかも分からない。
パチュリーか、夢美か、にとりか、はたまた天子なのか。まるで見当が付かない。
「仗助くん、落ち着いて!ボクだってあいつが許せないよ!
確かにこれでボクたちはあいつに対して迂闊に攻撃出来なくなった。でもまだ負けたわけじゃない!
二人で考えようよ、あいつへの対抗策!」
「康一……」
康一は膝を崩した仗助の肩を掴み、その強い意志を持った瞳で勇気付けるように言う。
彼の心に潜む『黄金の精神』は、崩れかけた親友の心を即座に立て直すと同時に大きく感心させた。
「お前って奴は…どこまでも頼りになる男だぜ、康一!
確かに今までの俺はちとグレートじゃなかった……さっきからお前には助けられっぱなしだったな。
男・東方仗助!ダイヤモンドのように固い意志を持つナイスガイだぜッ!」
すくりと立ち上がり、一転して強気な笑顔を見せる仗助の顔にさっきまでの弱さは無い。
親友との友情を再び確かめ合った二人は冷静になって現状を顧みてみる。
キラークイーンの能力、そして二人が持つ記憶の中からある『事実』を仗助は思い出す。
「そういえば思い出したぜ…キラークイーンの爆弾化の能力にはひとつ『穴』があったことを…!
康一…お前は知らねーだろうが、奴が一度に爆弾化させることの出来る数は『ひとつ』だけなんだ。
つまり奴はひとりしか人質に出来ねーうえに、その爆弾を解除するか爆発させるまでは爆弾化の能力は使えねーってことだ」
「そっか…仗助くんは既に吉良と戦って『倒した』んだっけ。
ボクは吉良の最期には出会えてないけど、一度倒したんならもう一度倒せるはずだよ!吉良吉影を!」
「おう!言うじゃねーか、康一ッ!
吉良は俺達と戦う意思はねーと言っていたがありゃ大ウソだ!
アイツは自分の正体を知っている奴は最終的に必ず全員『始末』するつもりだ。
だからこそこれまでアイツは捕まらなかったし、人を殺し続けられるんだ。そういう奴だぜ、あのヤローはよォーッ!」
「うん。ボクがにとりちゃんから見せてもらった『記憶DISC』から考えても、この会場に連れてこられた参加者には『時間軸のズレ』があるんだと思う。
その理屈なら仗助くんとボクの記憶の『食い違い』も辻褄が合うし、吉良が生きているというのも納得できるんだ。
尤も、それだと主催者の能力の『格』がとんでもないことにはなるんだけど…」
「時間軸のズレねぇ…確かにそれならお前が吉良の姿を知らなかったのも納得だぜ。
まぁあの主催者のことについてはパチュリーさんや夢美さんたちも正体を探ってくれていることだし、任せておいても大丈夫だろう。
俺たちには俺たちにしか出来ねーことをやるだけだぜッ!」
「うん!吉良の好きなようには絶対させるもんか!
それにボクはにとりちゃんを守るって約束したんだ。彼女を危険な目に会わせられないよ」
「おっ!康一ィ~~お前…まさか由花子というものがありながらにとりちゃんに……」
「ち…違うよ仗助くんッ!!ボクはただ、彼女を守るって約束して、だから――」
「あーー……男同士仲良くしてるとこ、邪魔しちゃって申し訳ないけど…
本人の前でそういう話はやめてくんないかな……声を掛けにくい」
二人の会話が熱を出してきた中、なんともいえない表情で割って入ってきたのは河童のにとり。
声の主を見やった康一の顔に朱が差しているのは、彼が思春期の少年たる所以か。
しどろもどろになりながらも康一はこの場ににとりが登場したことに慌てふためいた。
「に、にとりちゃんッ!?どうしてここに…ていうか、今の話聞いてたの!?
あ、い…いや、にとりちゃんを守るどうこうじゃなくて…その、吉良との会話を……!」
「まぁ…そこの陰でこっそりとね。
私は事前に康一からアイツの話を聞いてたからそんなに驚かなかったけど…
しかし『人質』とられてるってのは流石にね……誰が『爆弾』になってるか分からないんだろう?
私だってアイツに触れられてないなんていう保障はないもん……正直、気が気じゃないさ…」
科学技術に詳しい河童族であるにとりだからなのかは知らないが、どうやら彼女も爆弾という脅威は充分に理解しているらしい。
自分がいつ爆破されてもおかしくない状況にあり、その殺人鬼がチームの中で何食わぬ顔をしている。
これほど恐ろしい状況があるだろうか。にとりはどこか青い顔をして下向き加減に話す。
「にとりちゃん、吉良のことは俺と康一が必ずなんとかしてやる。
それより吉良の正体については絶対に他言無用だぜ。アイツは自分の正体を知ってる奴は誰であろうと存在ごと消してきた男なんだ」
「う…しょ、承知したよ……」
未だ仗助に吹き飛ばされたことについて恐怖が拭えてないのか、にとりは彼の言葉に力無く答えた。
「まぁ吉良の件は二人に任せるとして、私は別件で康一に用があってきたのさ」
「ボクに…?」
「そ。覚えてるだろ?私の目的地である『玄武の沢』へ付き添ってくれることを。
あそこ、ここからかなり近いからさ。今からちょっくらお前と一緒に向かおうと思って。
パチュリーにも既に許可は取ってある。放送時までに戻りたいから急ごうよ」
「あ…あぁ、そういえば河童のアジトがあったら工具とかを回収したいとか言ってたっけ」
確かに康一はこのホテルに到着する前、あるかも分からないアジトへと赴くにとりの付き添いをすると約束していた。
これだけの人間と出会ってうやむやになりかけていたが、約束をした手前反故にするわけにもいかない。
それにここからアジトへはかなり近いらしい。危険も少ないだろう。
ならばと康一は、仗助に事を伝えてひとまずにとりと同行し、玄武の沢まで行くことになった。
「仗助くん、ボク今からちょっとだけにとりちゃんについて行くね。
こっちの方は大丈夫だとは思うけど、吉良のこと…気を付けて。放送までには戻ってこれると思うから」
「おう。お前ももし何かあったらにとりちゃんをしっかり守って男見せろよ。んじゃ、また後でな」
友人と短い会話を交わし、康一はにとりと玄関を出て玄武の沢へと向かった。
これからのこと。吉良のこと。
解決すべき課題はたくさんある。
全てひとりで解決する必要など無い。彼らは自分に出来ることを精一杯成し遂げれば良いのだ。
それはこの河童の少女、
河城にとりも例外ではない。
彼女は康一や仗助とは別に、自分に課せられた命題をどう成し遂げるか…心中ではそれを考えていた。
放送まで、あと少し。
【東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:頭に切り傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いの打破
1:吉良をどうにかしてぶちのめす。
2:仲間達と協力し殺し合いを打破する。
3:承太郎や杜王町の仲間たちとも出来れば早く合流したい。
4:天子さんの舎弟になったっス!
[備考]
※参戦時期は4部終了直後です。
※幻想郷についての知識を得ました。
※時間のズレについて気付きました。
【広瀬康一@ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品×1(ジョジョ・東方の物品・確認済み)、ゲーム用ノートパソコン@現実
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。
1:河城にとりを守る。にとりと共に河童のアジトへ向かう。
2:仲間(億泰、露伴、承太郎、ジョセフ)と合流する。
露伴に会ったら、コッソリとスタンドを扱った漫画のことを訊ねる。
3:吉良吉影を止める。
4:東方心綺楼の登場人物の少女たちを守る。
5:
エンリコ・プッチ、
フー・ファイターズに警戒。
6:
空条徐倫、
エルメェス・コステロ、
ウェザー・リポートと接触したら対話を試みる。
[備考]
※スタンド能力『エコーズ』に課せられた制限は今のところ不明ですが、Act1~Act3までの切り替えは行えます。
※最初のホールで、
霧雨魔理沙の後ろ姿を見かけています。
※『東方心綺楼』参戦者の外見と名前を覚えました。(
秦こころも含む)
この物語が幻想郷で実際に起きた出来事であることを知りました。
※F・Fの記憶DISCを読みました。時間のズレに気付いています。
【吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:ストレス
[装備]:スタンガン@現実
[道具]:不明支給品(ジョジョor東方 確認済み、少なくとも武器ではない)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:平穏に生き延びてみせる。
1:東方仗助、広瀬康一をどうにかして抹殺する。
2:他の参加者同士で精々潰し合ってほしい。今はまだは様子見だ。
3:無害な人間を装う。正体を知られた場合、口封じの為に速やかに抹殺する。
4:
空条承太郎らとの接触は避ける。どこかで勝手に死んでくれれば嬉しいんだが…
5:慧音さんの手が美しい。いつか必ず手に入れたい。抑え切れなくなるかもしれない。
[備考]
※参戦時期は「猫は吉良吉影が好き」終了後、川尻浩作の姿です。
※自身のスタンド能力、及び東方仗助たちのことについては一切話していません。
※慧音が掲げる対主催の方針に建前では同調していますが、主催者に歯向かえるかどうかも解らないので内心全く期待していません。
ですが、主催を倒せる見込みがあれば本格的に対主催に回ってもいいかもしれないとは一応思っています。
※吉良は慧音、天子、ぬえ、パチュリー、夢美、にとりの内誰か一人を爆弾に変えています。
また、爆弾化を解除するか爆破させるまでは次の爆弾化の能力は使用できませんが、『シアーハートアタック』などは使用可です。
※能力の制限に関しては今のところ不明です。
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『河城にとり』
【午前5時46分】サンモリッツ廃ホテル 食堂
「放送時間まであと20分あるからそれまでは各々出発の支度なり心の準備なりでもしておきなさい。
恐らく他の危険な参加者とも何度か遭遇することになるでしょうから……ねッ!」
夢美の脳天をパチュリーの拳骨が襲ったのを合図に、周りの奴らも続々と席を立っていく。
あの殺人鬼もそそくさと部屋の外へ出て行ったけど、私の気はさっきから一向に休まることなくざわついたままだ。
パチュリーの存在だけでも四苦八苦してる有様だってのに、ここへ例の殺人鬼までが現れたとあっちゃあいよいよ余裕が無い。
私たちの中であの殺人鬼の正体に気付いてる奴は恐らく私と康一、仗助の三人だけだろう。
康一が言うにはあの吉良という人間…正体を知った奴らは例外なく殺してきたらしい。
ってことは私も殺害対象に入ってるって事じゃないか、冗談じゃないよ!
私が吉良の正体知ってるってこと、絶対にバレちゃ駄目だッ!この秘密は墓まで持っていく!…まだ死ぬ気は無いけど。
ふと部屋の隅を見れば康一と仗助が何やらボソボソと話している。
オイオイ、話したいことは幾らでもあろうがあの殺人鬼はちゃんと見張ってろよ。第一級の危険人物だろう。
……しかし、私はこれからどうするべきなんだ?
吉良も危険だが、アイツは少なくとも私に敵意は無いはずだ……今のところはだけど。
それより私が今、最も懸念すべき人物は吉良じゃあない。
依然、パチュリーは私に対して疑念を抱いているはず。
その事実が私の心に重く圧し掛かり、自分でも分かりやすいほどに焦り、慄き、そして凶行に向かわせようとしている。
そうだ。私は何とかしてパチュリーを始末したいと思ってるんだ。
康一たちがホテルに着く直前のパチュリーの行動と言動は、完全に私を怪しんでいた。
それはもう間違いの無い事実として、私は今崖っぷちに立たされている。
パチュリーはこの後メンバーを2組か3組に分けると言った。
上手くパチュリーと離れる事が出来ればそれでいい。それがべストだ。
でももし、私とパチュリーが同じ組になってしまったら…?
それは四六時中パチュリーに見張られることと同じだし、始末されるまではないにしてもメンバーから外され、追い出されるかもしれない。
こんな化け物だらけの会場で孤立するということは、それだけで死に直結しかねない事態だ。それは避けたい。
とはいえ、この集団の中も決して安全というわけじゃあない。
この二人は私にとっての危険人物…脅威そのものなのだ。
(団全体から見れば、私も危険人物だって事は変わらないか…ははっ……)
自嘲気味に笑う私は傍から見れば滑稽な河童に見えるんだろう。自分でもそう思う。
向かうべき指針も見えないまま、私はこうして庇護されている。
ただただ、生きたい。死にたくない。
その想いだけで私は動いている。
康一と仗助が吉良を追う様にして部屋を出て行った。
吉良と接触するんだろうか…?気になるけど、精々私に火の粉を撒き散らさないで欲しい。
さて…ひとまず私にもやることはある。
『河童のアジト』で通背やらを回収して万全を整えておきたいけど、流石にコッソリ抜け出すわけにもいかないしな。
気は全ッッ然進まないけど、パチュリーに許可を取らないといけない。
私は温くなった紅茶を一気に飲み上げると、席を立ってパチュリーの前まで来た。
「あら…随分浮かない顔してるわね、にとり?……私に何か用?」
「あのー……私、これからちょっと妖怪の山の麓にある玄武の沢まで康一連れて行きたいんだけど…良いかな?
通背がないとどうにも落ち着かないし…準備だけは万端にして行きたいから、さ」
…………沈黙。
パチュリーは私の問いかけに何も返すことなく、その冷たい瞳で私を束縛するみたいに見つめている。
これだ。パチュリーのこの瞳がキライ。
心を覗き見るような瞳がキライ。
今すぐコイツから逃げ出したい。
コイツを目の前から消し去りたい。
私は身体から漏れているらしい『負』の気配を必死で抑える。
私には見えもしない『気』だけども、魔法使いなんて連中はみんな普段から他人の気を読んで生きているのか?
だとしたら本当に気持ち悪いよ。そんなのサトリ妖怪と大差無いじゃん。
あーもう、なんか言うなら言ってくれないかなぁ…この沈黙が耐えられないんだよ、ホントに。
果たしてそんな空気を読んだのか、パチュリーはおもむろに口を開き、その透き通るような声を出した。
「―――行くのは構わないわよ。ちゃんと戻ってきてくれるのならね。
放送まで時間も無いから目的を果たしたらすぐに帰ってくること。玄関はキチンと閉めていってね」
うっさいなぁ…あんたは私のお母さんか。
「――ありがと。すぐそこだし、多分誰にも会わないと思うよ。…それじゃ、ちょっと行ってくるね」
私は逃げるようにこの場から離れる。
河童のアジトに向かいたいというのは勿論本当だし、通背が有ると無いとでは全然違う。
でも、もしかしたら私は単にこれ以上パチュリーと一緒に居たくないだけなのかもしれない。
とにかくさっさと行こう。ここに居ると息が詰まりそうだ。
「ねぇ、にとり……貴方は……」
背を向けて歩き出す私の後ろからまたしても声が降りかかってきた。
ドクンと脈打つ心臓。まだコイツは何か言い足りないのか。
勘弁してよ、そう吐き出すのをグッと抑えて私は振り向いた。
「貴方は……本当は――」
「ねぇパチュリー。ちょっといい?これなんだけど……」
横から入ってきた夢美の呼ぶ声がパチュリーの言葉を遮った。
会話が中断されたパチュリーは一瞬舌打ちでもするように不満気な顔に変わったが、すぐにいつもの冷淡な顔に戻る。
「……何でもないわ。気をつけていってらっしゃいな」
そう言って夢美の方へだるそうに歩いていくパチュリーを私は少しの間呆然と見送った。
気付いたら私の額は既にタラタラと汗が伝っていた。心臓の音も聞こえそうなぐらい早鐘を打っている。
アイツ…やっぱり完全に私を疑っているなぁ…
いや、こんなザマを見れば誰だって怪しむか。
どうしようか…パチュリーは本当に……本当に面倒くさい。
どうしよう…どうすれば…?
いっそ、ホントの事を話せば気は楽になれるかな……いやいや、それじゃ駄目だろ。
うぅ…頭痛い……パチュリーさえ居なくなってくれればなぁ…
とりあえず、康一を連れてアジトへ行こう。考えるのはそれからだ。
………くそぉ。
【河城にとり@東方風神録】
[状態]:精神疲労(中)
[装備]:火炎放射器
[道具]:基本支給品、LUCK&PLUCKの剣@ジョジョ第1部、F・Fの記憶DISC(最終版)
[思考・状況]
基本行動方針:生存最優先
1:康一に盾になって貰いつつ、妖怪の山の麓にあるはずの河童のアジトへ向かう。
2:パチュリーをどうにかしたい。
3:知人や利用できそうな参加者がいればある程度は協力する。
4:通背を初めとする河童製のアイテムがほしい。
5:吉良吉影を警戒。自分が吉良の正体を知っていることは誰にも言わない。
[備考]
※F・Fの記憶DISC(最終版)を一度読みました。
スタンド『フー・ファイターズ』の性質をある程度把握しました。
また、スタンドの大まかな概念やルールを知ることが出来ました。
他にどれだけ情報を得たのかは後の書き手さんにお任せします。
※幻想郷の住民以外の参加者の大半はスタンド使いではないかと推測しています。
※自らの生存の為なら、他者の殺害も視野に入れています。
※パチュリーの嘘を見抜く能力を、ひどく厄介に思っています。
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『
岡崎夢美』
【午前5時47分】サンモリッツ廃ホテル 食堂
「何よ…コレ……」
PC画面から映し出された一枚の画像を見た私の率直な感想は、そんな短いモノだった。
私は普段の生活で『嫌悪』って感情はあんま抱かない。
まぁ、そりゃあ学会の頭がお固いジジイ共は嫌いだし?あいつらの物言いにはカッとなったりもする。
それでも次の機会には『見てろこのクソ野郎共!』と向上心とアンビションを燃やし、自説をより高く昇華させるためのバネにしたりもする。
だからあいつらに対しては酷い不快感、という念は持ちえてない。
だけど…だけどこの画像を見た途端、私の中には嫌悪、怒りという感情がフツフツと湧いて出てきた。
康一の持ち物であるゲームPCにはメール機能が搭載されていた。
生まれ持った学者肌である私は、後に『見なきゃよかった』と後悔する事になるそのメール欄をちょっとした好奇心から覗いただけだった。
次の瞬間、私の目に飛び込んできたショッキングな見出しが
『花果子念報メールマガジン』
――ガンマン二人の決闘風景!――
とデカデカ飾った物騒な記事。これには流石の私も息を呑む。
映画にでも出てきそうなガンマン風な男やカタギには見えない男が、互いに銃を構えて相対している。
それだけならまだいい。記事の下部へ目を向けると、その男の死体が無情にも倒れていた。
どうやら『決闘』に敗れた、というわけらしい。ふざけている。
こんな記事を書いた狂人はどこのどいつだろう?
死んでいる男は当然ながら、私が知る由も無い赤の他人。
だけども、まるで殺人を自分の食い扶持にしか思ってないような下劣な書き方に、私の腕は怒りに震えた。
これじゃああの主催者達とやってることは同じようなもんじゃない。吐き気がするわ。
この記事からは悪意などは殆ど感じない。
どこぞの俳優が誰々さんと電撃結婚しました、みたいに日常によくあるひとコマを取材したような、他人事みたいな雰囲気で書かれている。
メール送信者の欄を見てみると、そこには『はたて』なる者が記事作成者だと分かる。
こいつがこんな底辺もいいとこな記事を書いた下衆ってわけね。
怒気を孕んだ声が後ろで見ていた慧音さんからも発せられる。
腕を組んで画面を見入る彼女は、容姿のツノのせいもあってか威圧感が物凄い。彼女もかなり高い力を持った妖怪なんだということが背中越しで感じる。
「慧音さん、このはたてって奴、知り合いですか?」
「あぁ…幻想郷の鴉天狗の妖怪であり、新聞記者だ。
普段は陰湿で知られる天狗だが…ここまで来るとそれでは済ませられなくなる。これは生ある者の倫理を侮辱した記事だ…ッ!」
うわぁ…穏健だと思っていた慧音さんが結構キレてる。
いや、そりゃそうか。私ですらかなりキテるもん。
どうやらマガジンの記事はコレだけではないみたいね。画面を操作して二報目の記事を開く。
今度は二人の女だ。頭を団子のように結った女と半泣きの金髪少女がクロスカウンターのような対比でお互いの攻撃がぶつかり合っている。
こっちは殺人の記事じゃないみたいだけど、やっぱり見ているだけで不快……ってあれ?
「この『霧雨魔理沙』って子…やっぱ私知ってる。間違いない、あの時の子よ。
…いや、でもやっぱ微妙に違うような…?ん~~~……?」
う~ん、と記憶の糸を辿る私の横で慧音さんが今度は少し大きな声を出した。
「魔理沙じゃないか!あいつまではたての取材を受けているのか!?」
おや、やっぱり慧音さんとも知り合いだった。
しかもさっきより大きく反応しているとこをみると、それなりに知り合った仲とみた。
「魔理沙は無事なのか…!?女性と交戦している様に見えるが…!」
「……この記事を見た感じじゃあ、二人は気絶してるだけで死んでるわけじゃあないみたいですよ。
場所はC-4、時間は…だいぶ前だねこりゃ。深夜1時ぐらいの出来事だ」
「…むぅ。それだけ時間が経てば二人はもうその場を離れているだろう。…死体になっていなければだが。
魔理沙も異変解決のエキスパート。無事ならばなるべく合流したい所なのだが…」
「私たちには優先すべき『目的』がある…ですよ、慧音さん。
正直私もこの魔理沙にはすごく会いたいけど…今は後回しになります」
「…分かっているさ」
そう言った慧音さんは顔を歪ませて歯痒そうに一息だけ吐いた。
結局この記事を見た私たちが得たものは、はたてに対する嫌悪感ぐらいだ。見なきゃよかった。
この記事に関して、我が愛しのパチュリーの意見もふと聞きたくなった。
彼女なら何て言うかしら?下らない底辺ゴシップ記事ね、と一蹴して終わりかもしれない。
パチュリーは向こうでにとりちゃんと何やら重苦しい空気になっている。
ふーむ。やっぱりあの二人、どうも『確執』があるみたいね。
後でそれとなしにパチュリーに聞いてみようかしら?
と、昔から勘の良い夢美ちゃんは思うのでした。
二人の雰囲気がいよいよ危うくなってきたっぽいので、助け舟を出す意味でも私はその空気に切り込んだ。
「ねぇパチュリー。ちょっといい?これなんだけど……」
あっ。今パチュリー心の中で絶対舌打ちした。
うんうん。不機嫌なパチュも可愛いぞ。拳骨はもうイヤだけど。
そそくさと部屋から出るにとりちゃんを視界の端に入れながら私はパチュリーに気楽に話しかけた。
「なになに?にとりちゃんとなんか話してた?」
「別に。魔女界と河童界の親睦を深めようとしただけよ」
「え~~?河童界も素敵だけど教授界とも親睦を深めようよ~パチュリぃ~~」
スリスリと頬に擦り寄る私は早速頭にゴツンと拳骨をもらった。
ぷくりと膨らんだたんこぶを涙目で擦る私を無視し、パチュリーは鼻をフンと鳴らして椅子に座る。
「…どうも、きな臭いわね。貴方はどう思うの?夢美」
「あいたた……そうねー。パチュリーはあの河童さんが気になるんでしょう?」
図星を突かれたからか、パチュリーは動揺を誤魔化すように右手で髪をクルクルと弄り回している。
うんうん。動揺を誤魔化すように髪をクルクル弄るパチュも可愛いぞ。
などと余計な雑念を交えながら私は更に言葉を続けた。
「まー河童さんのこともそうだけど、私たちの間にはどうも得体の知れない空気、みたいなのを感じるわね。なんとなーく」
「どうせ科学者の適当な『勘』でしょう?その意見には同意だけど」
「パチュリー。それは私たちのことをやはり完全には信頼していない、という意味か?」
後ろに立ってた慧音さんも会話に参入してきた。
ま、私も基本信頼はしてるけど、完全に…ていうのはちょっと、ね。
無理かもねー、パチュリーは特に。
「慧音。貴方の事は信頼できる。
でもそれが『個』ではなく『集団』ならば話は全く別…それだけの理屈よ。
相手をどんどん疑っていかなければ絆は作り得ない。分かるでしょう?」
「む…確かに一理ある。
一理あるが…疑う相手との『距離』を計り違えば絆は簡単に綻び、『傷跡』を残すぞ」
「それも一理あるわね。…とにかく今は目標に向けて動きましょう。放送まで残り10分。
そろそろ腹帯を締めてかからなくちゃね」
「……放送までになんにも起こらなきゃいいけどねー」
「夢美、不吉な事を言うな。
…………ん?そういえばぬえの姿が見えないが…パチュリー、彼女を見てないか?」
「知らないわよ、お手洗いかなんかじゃないの。
にとりも康一を連れて外に出ちゃうし、ホントみんな自分勝手ね」
パチュリーは溜息を出しながら私の紅茶を自分勝手に飲む。
あっ。間接キッスだ。
なんてつまらないことを思いながら、私は時計の秒針に視線を向ける。
カッチコッチと時間は5時50分を迎え、その規則正しい旋律は私たちの心に薄い雲を覆わせるような、そんな不気味さを表現するようだった。
ちなみにはたてマガジンを見たパチュリーの第一声はやっぱり
「下らない底辺ゴシップ記事ね」
と一蹴して終了した。ドライだなぁ。
【岡崎夢美@東方夢時空】
[状態]:たんこぶ
[装備]:スタンドDISC『女教皇(ハイプリエステス)』
[道具]:基本支給品、不明支給品0~1(現実出典・確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:『素敵』ではないバトルロワイヤルを打破し、自分の世界に帰ったらミミちゃんによる鉄槌を下す。
パチュリーを自分の世界へお持ち帰りする。
1:能力制限と爆弾の解除方法、会場からの脱出の方法、外部と連絡を取る方法を探す。
2:パチュリーが困った時は私がフォローしたげる♪はたてやにとりちゃんにも一応警戒しとこう。
3:パチュリーから魔法を教わり、魔法を習得したい。
4:パチュリーから話を聞いた神や妖怪に興味。
5:霧雨魔理沙に会ってみたいわね。
6:私の大学の学生に
宇佐見蓮子、
マエリベリー・ハーンっていたかしら?
[備考]
※PCで見た霧雨魔理沙の姿に少し興味はありますが、違和感を持っています。
※宇佐見蓮子、マエリベリー・ハーンとの面識はあるかもしれません。
※「東方心綺楼」の魔理沙ルートをクリアしました。
※「東方心綺楼」における魔理沙の箒攻撃を覚えました(実際に出来るかは不明)。
【
上白沢慧音@東方永夜抄】
[状態]:健康、ワーハクタク
[装備]:なし
[道具]:ハンドメガホン、不明支給品(ジョジョor東方)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:悲しき歴史を紡がせぬ為、殺し合いを止める。
1:仲間と協力し、脱出及び主催者を倒す為の手段を探す。弱者は保護する。
2:殺し合いに乗っている人物は止める。
3:出来れば早く妹紅と合流したい。
4:姫海棠はたての行為をとっ捕まえてやめさせたい。
5:魔理沙は無事なのか…?
[備考]
※参戦時期は未定ですが、少なくとも命蓮寺のことは知っているようです。
※吉良を普通の人間だと思っています。
※満月が出ている為ワーハクタク化しています。
※能力の制限に関しては不明です。
【パチュリー・ノーレッジ@東方紅魔郷】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:霧雨魔理沙の箒、ティーセット、基本支給品、考察メモ
[思考・状況]
基本行動方針:紅魔館のみんなとバトルロワイヤルからの脱出、打破を目指す。
1:霊夢と紫を探す
2:能力制限と爆弾の解除方法、会場からの脱出の方法を探す。
3:紅魔館のみんなとの再会を目指す。
4:岡崎夢美の知識に興味。
5:この先困ったことがあれば、夢美にキッチリ助けを求める…なんて勝手な約束で指切りされちゃったわ。
6:河童のことも含め、嫌な予感はするわね。
[備考]
※参戦時期は少なくとも神霊廟以降です。
※喘息の状態はいつもどおりです。
※他人の嘘を見抜けるようです。
※河城にとりの殺し合いのスタンスをかなり疑っており、問いただしたいと思っています。
※「東方心綺楼」は
八雲紫が作ったと考えています。
※以下の仮説を立てました。
- 荒木と太田、もしくはそのどちらかは「東方心綺楼」を販売するに当たって八雲紫が用意したダミーである。
- 荒木と太田、もしくはそのどちらかは「東方心綺楼」の信者達の信仰によって生まれた神である。
- 荒木と太田、もしくはそのどちらかの能力は「幻想郷の住人を争わせる程度の能力」である。
- 「東方心綺楼」の他にスタンド使いの闘いを描いた作品がある。
- 荒木と太田、もしくはそのどちらかの本当の名前はZUNである。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
『
封獣ぬえ』
【午前5時50分】サンモリッツ廃ホテル 女子トイレ
「ハァ…、ハァ…、ハァ…、ハァ……ッ!」
ホテルの女子トイレ内の個室から漏れるのは封獣ぬえの、恐怖に怯え縮み上がるような囀りだった。
よほどの恐怖だったのか、心の髄から戦慄し、声にもならぬ叫びを絞り出す。
ガタガタと肩は震え上がり、顔も白く強張って、唇も青紫に変色している様は、死神にでも遭遇したかのように震撼しているようだ。
焦点も合わぬ目で膝を曲げ、両腕で体を包み込むように抱く彼女には既に大妖怪の威厳は皆無。
震える声で独り呟く彼女の声は、監獄のように冷たく孤独なホテルのトイレ内に響き渡る。
「あ…あの『吉良吉影』って男……私たちの誰かを『爆弾』に変えたって…言ってた…ッ!
キラークイーンですって…?そんな…なによ、その能力…!うそ…嘘よ…ッ!」
ぬえは、『彼ら』の会話の一部始終を陰で聞いていた。
廊下に出た彼女は偶然にも仗助たちのやり取りを目撃、思わず陰に隠れてこっそり聞き入っていたのだ。
殺人鬼――それが吉良吉影の正体だった。
自分はもしかしたら『爆弾』になっているのかもしれない。
そう考えた途端、頭の中が真っ白になって気付けばこのトイレの個室に駆け込んでいた。
すぐに吐き気と気持ち悪さがぬえを襲い、胃の中のモノを激しく嘔吐する。
「ウッ……オェ…ッ!………くっ…ハァ…、ハァ…、ハァーー……っ!うぅ……」
なによ…コレ…!こんなこと…あっていいわけがないっ!
この私が…たかだか人間の男一人に、恐怖して身震いするなんて……ッ!ふざけんなっ!
確か、仗助が言っていた…!吉良の爆弾化は一度に『ひとり』までだって…!
誰よッ!吉良は誰を爆弾にしたのよッ!?
そういえば私、吉良の前をずっと歩いていた…!可能性が高いのは、私…!?
アイツに触れられた記憶なんて全然無いッ!でも、そんな根拠も…どこにもない…
もしかしてこっそり触れられた…!?分からない……どうしよう…怖い…こわい…!
死ぬかもしれない!いやだいやだいやだそんなの絶対いやだッ!!
手に持ったメスがキラリと光った。
そうだ…自分には暗殺にはうってつけのスタンド能力『メタリカ』がある。
この能力を使えば、もしかしたら吉良を殺せるかも…!
いや、それにしたってリスクが大きすぎる。
相手はスイッチひとつで人間を簡単に爆破できる、げに恐ろしき殺人鬼なのだ。
もし自分が爆弾になっていたら…それを考えると足がすくんでしまう。
(どうしよう!アイツを何とか殺さなきゃ…!でも、どうやって!?いやだ…もういやだ…!ぅあ、あぁ………!)
「あああぁぁぁぁあああああああッッ!!!」
気付けば私は頭を抱えて走り出していた。
勢いよくドアを開け、何処を目指すでもなく、夢中で廊下を駆けた。
どうしてあんな奴がこの場所に居るのだろう。
どうしてあんな奴を仲間に引き込んでいるのだろう。
怖いよ…聖…!
助けて…マミゾウ…!
何も分からず、何も考えず、正体不明の鵺はその威厳も捨て去り、ただの少女のように喚く。
「あら?ぬえじゃない。どうしたのよ素っ頓狂な悲鳴上げて…って、痛ッ!」
角を曲がった先を歩いていた天子に肩をぶつけた。
訝しげる彼女にぬえは向け処の無い感情を怒りへと変換し、当たり散らした。
「邪魔よ天人ッ!殺すわよッ!?」
「………は!?あっ、ちょっと待ちなさいお前、コラッ!!」
わけもわからず敵意を向けられた天子は逃げるように去るぬえを呼び止めるが、あっという間に見えなくなる。
そのただごとではない様子に天子は呆然となるも、その無駄に鋭敏な嗅覚は事件のニオイを嗅ぎ取った。
「ふーむ。なーんか、胸騒ぎがするわね……三脈の法でもやってみようかしら?」
誰に届けるでもなく吐いた呟きは、薄暗い廊下の闇に溶けて消えた。
ぬえの走り去った方向をじっと見つめながら、天子はフゥ、と小さく息を吐いてまたマイペースに歩き出す。
放送の6時まで、残り8分での出来事だった。
【封獣ぬえ@東方星蓮船】
[状態]:精神不安定、恐怖
[装備]:スタンドDISC「メタリカ」@ジョジョ第5部、メス(スタンド能力で精製)
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:聖を守りたいけど、自分も死にたくない。
1:今は慧音達と同行する。でも、どうしたら良いか分からない。
2:吉良吉影…何とかして殺さなきゃ…!
3:聖を守る為に他の参加者を殺す?皆を裏切って自分だけ生き残る?
4:この機会に神霊廟の奴らを直接始末する…?
5:あの円盤で発現した能力(スタンド)については話さないでおく。
[備考]
※参戦時期は神霊廟で外の世界から
二ッ岩マミゾウを呼び寄せてきた直後です。
※吉良の正体を知りました。
※メスは支給品ではなくスタンドで生み出したものですが、周囲にはこれが支給品だと嘘をついています。
※能力の制限に関しては今のところ不明です。
【
比那名居天子@東方緋想天】
[状態]:健康
[装備]:木刀@現実(また拾って直した)、龍魚の羽衣@東方緋想天
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに反抗し、主催者を完膚なきまでに叩きのめす。
1:仲間たちとともに殺し合いをおじゃんにする。
2:主催者だけではなく、殺し合いに乗ってる参加者も容赦なく叩きのめす。
3:自分の邪魔をするのなら乗っていようが乗っていなかろうが関係なくこてんぱんにする。
4:紫には一泡吹かせてやりたいけど、まぁ使えそうだし仲間にしてやることは考えなくもない。
5:仗助を下僕化、でも髪のことだけは絶対触れない。
6:事件のニオイね!
[備考]
※この殺し合いのゲームを『異変』と認識しています。
※ぬえに対し、不信感を抱いてます。
※9人の『方針』について
この9人は互いの基本的な情報は渡しあっており、パチュリーの考察も聞いてます。
各自の支給品はまだ見せておりません(東方心綺楼など一部見せているものもあります)。
一行の目的は取りあえず『霊夢・紫の捜索』で合致しています。
今後、2組あるいは3組に分けて行動を開始、まずは地図北部の『A-1からF-3』を手分けして探索し、
12時正午にC-3のジョースター邸に集合する方針です。
○支給品説明
<ティーセット@現実>
パチュリー・ノーレッジに支給。
洋風の白い陶器のティーセット。
上品な造りでパチュリーは結構気に入っているらしい。
主催者の気遣いか、カップも10人分あり、紅茶もついている。
最終更新:2014年09月23日 20:54