刑法


【基本書】

〔メジャー〕

<行為無価値論①>

  • 大塚裕史・十河太朗・塩谷毅・豊田兼彦『基本刑法Ⅰ—総論』『同Ⅱ—各論』日本評論社(総論2019年3月・第3版、各論☆2024年12月・第4版)……「判例説」とする立場から書かれた共著の教科書。受験生におけるシェアは圧倒的である。その記述の分かりやすさから「学者が書いた予備校本」とも評される。事例判断の集積である判例の内在的な理解を主たる目的とし、学説対立等の議論は試験対策上必要な範囲で説明するにとどめている。判例のエッセンスを抜き出して、平易に解説することについては、類書のなかで最も評価が高い。著者の一人である大塚は本書を「学説から出発する『理論刑法学』ではなく、判例実務から出発する『実務刑法学』の視点に立ったもの」(法学セミナー729号74頁)と表現している。
    本書は全体として、学説を概説した上で、事例判断である判例の立場を分析し、その考慮要素などを最後にまとめるという構成をとる。答案のように、どの段階の問題なのかを一つ一つ省略せずに具体的に記述し、重要度に応じてフォントサイズを変えるなどして、学習者の理解への配慮がなされている。類書にない本書の特徴として、設例に対する学説のあてはめをきちんと行っている。コラムでは、試験対策上つまずきやすいミスなども指摘する。特に初学者・独習者には、分かりやすさの面で本書に勝る類書はない。
    本書を使う上での注意点として、「判例説」は、学界における通説とは必ずしも一致しないことに留意されたい(例えば、不能犯)。また、アドホックな事例判断の集積である「判例説」をとる以上仕方ないが、本書は学問的に厳密な意味での体系的一貫性があるとはいえない。また、割り切って「判例説」と断定しているためか、判例の前提事実の整理や判示事項の理解、射程の取り方、学説の整理や理解に、見解の相違を超えた少なくない誤りが含まれているというような学者からの指摘もある。ただし、本書における誤りとされる点は、試験対策上は単に見解の相違として処理して良いものがほとんどであり、明白な誤り自体は少ないため、本書のとる立場や記述は、答案を作成する上で非常に参考となる。本書の主要論点では、他の基本書及び参考書を参照し、判例・通説・有力説の視点を把握することが望ましく、また学説問題対策にもなる。例えば、クロロフォルム事件における整理が、本書では「1個の殺人行為」だが、有力説(橋爪)では「一連の行為」(下掲・安田『基礎』34頁参照)となっている。
    『総論』の錯誤における「共謀の射程」を初めて提唱した十河執筆の共犯論は、特に必読である。
    『各論』は定義編と論点編に分かれており、特に論点編は事例を検討する形式のため試験対策として実践的である。特に大塚・十河執筆の財産犯に関する記述は、判例の考え方を平易な文体で分かりやすく解説しており、一読の価値がある。もっとも、強盗あたりの記述は、上位ローでは、要注意とされている。
    【改訂】総論第3版では、法改正・新判例が踏まえられ、「正当防衛」「実行の着手」「共犯」が全面改訂された。各論第3版では、侮辱罪の法定刑引上げ等の法改正を反映。同時傷害の特例に関する最高裁判例(最決令和2・9・30)など重要な新判例をアップデートした。
    各論第4版では、性犯罪及び逃走罪改正・拘禁刑一本化への対応と重要判例のアップデート。「詐欺罪における挙動による欺罔行為」「背任罪における事務処理者」「業務妨害罪における公務の業務性」などの記述が見直された。全30・23講。A5判、536頁・610頁。

  • 井田良『講義刑法学・総論』『同・各論』有斐閣(総論2018年10月・第2版、各論2023年12月・第3版)……著者は「伝統的行為無価値論」(団藤・大塚・大谷等)と一線を画する「新しい行為無価値論」(=道徳的価値観から切り離された行為無価値論、行為規範の立場)の旗手である。井田説は、消極的構成要件要素の理論・責任故意/責任過失の否定・緊急行為での有責性考慮・緊急避難の類型論など行為無価値論の中でも、理論的に高度で極めて独自色が強い。ただし、本書は判例・通説の解説を目的とした書籍であり、行為無価値論に立つ体系書としては司法試験にも向いている。自説を主張する場合にはその旨を明記しており、なぜそのように考えるべきなのかも判例・通説の立場を踏まえて説明されているため、読み手が戸惑う心配は少ない。叙述の論理は明快であり、社会倫理規範や社会的相当性といった曖昧な概念をマジックワードとして議論の解決を図ることはない。論点や学説も豊富に取り上げ、その解釈は秀逸である。学説の整理も行き届き、近年論文式試験に出題される学説の知識を問う問題にも対応できる。『基本刑法』を読んで違和感を感じる者は、一貫した理論に貫かれた本書を手にとると良い。
    【改訂】総論・各論ともに第2版にて、性犯罪規定の改正ならびに初版刊行以降の判例をフォローした。各論第3版では、2022年・23年刑法改正に対応。全30・41章。A5判、700頁・762頁。
    同著『死刑制度と刑罰理論——死刑はなぜ問題なのか』岩波書店(2022年1月、四六判、240頁)は、直接的には死刑制度を論じた著作で刑罰理論としてヘーゲルを起源とする規範保護型(いわゆる「行為規範」)の応報刑論を提唱する。

<結果無価値論①>

  • 山口厚『刑法』有斐閣(☆2025年2月・第4版)……元最高裁判事による一冊本。通称「青本」。学部の講義用テキストとしても結果無価値・行為無価値問わずかなりの普及率である。本書は初学者を主たる対象とし、判例および判例を理論的に理由付ける学説の解説を目的とした教科書(はしがき)である。そのため下記二分冊の体系書と比べると、一部に自説への誘導を図るような記述もあるが、総じて自説主張は控えめになっており、記述も淡白で読みやすい。短所としては、①記述が平板かつ広く浅い掘り下げのため、初学者には正確な文意が理解しにくいこと、②(試験対策の意識が全くないため)試験で重要な点の掘り下げが浅い箇所があること、などがある。もっとも、刑法の第一人者が判例・通説を網羅的に解説していることから、初学者がざっと目を通す程度に読んだり、一通り学んだ後や試験直前期のまとめ用として使用したりするには良い書籍である。
    【改訂】第4版は、10年ぶりの改訂となった。法改正反映や判例のアップデートに加え、不作為犯など記述全般を見直した(はしがき)。A5判、562頁。

  • 木村光江『刑法』東京大学出版会(☆2025年3月・第5版)……一冊本。著者は前田門下で、司法試験考査委員の経験もある。下掲・前田『刑法講義』からの引用が多く同書と相性が良い。しかし、自説や前田説の主張はかなり控えめで、判例通説の客観的な記述に徹しており、司法試験に必要十分な知識をコンパクトにまとめている。試験対策を強く意識(はしがき)しており、説明も学生の目線に合わせ、理解が容易である。上掲の山口『刑法』と比べて、文章が分かりやすいため、初学者や刑法に苦手意識がある人でも取り組みやすい。改訂により、今後、使用者が増加すると見込まれる。A5判、504頁。
    同著者による演習書として、『演習刑法』東京大学出版会(2016年3月・第2版)があり、第5版巻末ではリンクが示されている。

  • 山口厚『刑法総論』『刑法各論』有斐閣(総論2016年3月・第3版、各論☆2024年8月・第3版)……著者は平野門下。東大系結果無価値論刑法学の到達点を示す2分冊の体系書。総論・各論ともにレベルは高く、使いこなすには相応の実力が必要である。
    『各論』は分厚い分解説が丁寧であり、判例を基にした緻密な分析が特徴的である。総論で山口説以外をとる場合でも、辞書的に利用する価値は大いにある。山口自身も総論より各論の教科書の完成度に自信がある旨をコメントしている。(sourceを示す)
    『総論』は、基本的な事項を大幅に省いており、体系書としては内容が薄くなっているにもかかわらず、正犯性など従来の教科書には詳しい説明のなかった新しい議論を記述している。そのため、本書に取り組むには山口『刑法』や西田『刑法総論』などを一通り通読するなどして、あらかじめ従前の議論を一定程度理解することが望ましい。版を重ねるごとに、判例の立場に沿う方向での改説が随所でなされ、基本書として使いやすくなっている。改訂内容が期待される。
    【改訂】各論第3版は、14年ぶりの改訂となり、不同意性交罪関係(解釈論上の問題点指摘は、判例・裁判例の集積がないことからあえて回避)などの法改正対応と判例のアップデートがなされた。A5判、428頁・706頁。
    総論における山口説をより深く理解したい場合の参考書として、『犯罪論の基底と展開』成文堂(2023年)、『危険犯の研究〔新装版〕』東京大学出版会(2024年)。

  • 西田典之(橋爪隆補訂)『刑法総論(法律学講座双書)』『刑法各論(同)』弘文堂(☆2025年4月・総論第4版、各論第8版)……著者は平野門下。原著者の西田は2013年に逝去。
    『各論』は、結論の妥当性や実務で使える議論であることを強く志向し、分かりやすさとバランスの良さで、最も定評のある基本書とされる。判例解説や論文で、代表的な見解として引用されることも多い。ただし、西田は少数説をとることもあり、特に総論で西田を使わない場合は、食い合わせには注意すべきである(例えば、身分犯の共犯など)。
    『総論』は学生有志によって録音された著者の東大での講義のテープ起こしが元になっており講義録的な要素が強く残っているため、各論とは大きく趣が異なっている。洗練された各論と比べると記述は冗長であり、ページ数の割にその内容は薄く、体系的な整理も各論ほど丁寧ではない。各論と比べれば完成度という面では劣るが、講義を基にしたというだけあって読み手を飽きさせない。体系は平野説に比較的忠実であり、山口に比べて全体的に穏当な見解にまとまっている。なお、平野体系とは異なり、構成要件を違法構成要件と責任構成要件に分割する独自の体系(違法構成要件→違法阻却事由→責任構成要件→責任阻却事由という判断プロセスをたどる体系)をとっていることには注意を要する。
    【改訂】総論第3版及び各論第7版の改訂は、弟子の橋爪によって行われ、旧版の記述は基本的に原形のまま残し、新たな動きを補訂したものとなっている。新法令や法改正については本文を直接修正し、最近の判例・裁判例についての加筆箇所は、本文とは異なるレイアウト・フォントで追記している。補訂にあたり、橋爪個人の見解を示すことは避け、客観的な記述に徹している。総論第4版、各論第8版も同様の補訂内容。「はしがき」から、橋爪による今後の改訂可能性が低いことが推察される。A5判、520頁・588頁。


〔その他〕

<行為無価値論②>

  • 裁判所職員総合研修所監修『刑法総論講義案』司法協会(2016年6月・4訂版)……通称『講義案』。本書は、元裁判官の杉田宗久(2013年逝去)による書記官への講義レジュメが元になっている。書記官の研修用テキストという成り立ちもあって、判例及び「伝統的な行為無価値論」に基づいて、淡々と平板にまとめられている。もっとも、学術的な議論には深くは立ち入らないため、学説の知識が必要な近年の論文出題傾向への対応は難しい。新司施行直後は、判例と一致する結論を導きやすいことから人気があったが、長らく改訂がなく、その間に『基本刑法』シリーズなど他の選択肢が増えたため、本書をメインの基本書とする必要性は低い。
    しかし、下掲参考書・仲道ほか『刑法の「通説」』(総論)で、実務側の見解としてはどう考えられているのかを示す注で、本書が多く引用されている。そのため、総論での激しい学説対立の迷宮に陥った受験生にとっては、判例の立場を再度見直すことができるという点では、一読の価値がある。
    【改訂】4訂版は、3訂補訂版(2008年9月)以降の法改正に伴う修正が行われた。また、危険の現実化、退避義務論、中立的行為による幇助など、近時の判例・実務の展開を踏まえつつ、新たな判例が補充され、大幅な加筆修正が行われた。A5判、514頁。

  • 大谷實『刑法講義総論』『同・各論』成文堂(☆2025年3月・新版第6版)……下掲前田『刑法講義』と並ぶ旧司時代の定番書。大谷説は、刑法の機能では法益保護に加えて社会倫理的価値の保護も含まれるとする「伝統的な行為無価値論」に立つ。現在も改訂は続けられており、コラムなどで最近の論点も網羅的に取り上げている。
    『総論』において、大谷説では「社会的相当性」というマジックワードにより、大半の論点で強引な解決を図っているという批判があるが、「社会的相当性」による強引な解決箇所は、正当業務行為と自招防衛の二つ程度である。それらについても、最高裁判例のある今日では、あまり問題とはならない。しかし、著者高齢(1934年生90歳)のため、相当因果関係説などで、議論に古さを感じさせる部分(折衷的相当因果関係説をとり、判例に反対)がある上、改訂されるたびに当該部分と他の箇所との整合性が取れていない事例が増えている。特に総論の体系的一貫性については、しばしば疑問が呈されており、現在の版と旧版(特に第4版より前の版)とは、半ば別物と言ってもよいほど記述内容が変わっている。大谷門下の他の学者が改訂作業を行なっているのではないかとされ、「大谷説は改説が多い」のは、そのためと言われている。
    『各論』は、収録判例数が多く、大谷が実務との関連を意識していることから、比較的判例・通説寄りであり、結論も穏当なものが多く、記述も整理が行き届いているため使いやすい。西田・山口などが肌に合わないという者は、大谷を用いるのも選択肢の一つである。A5判、640頁・732頁。

  • 大谷實『刑法総論』『刑法各論』成文堂(2018年4月・第5版、2018年4月・第5版)……『刑法講義』を判例・通説中心にコンパクトにまとめた通読向きの概説書。量としては必要十分であり、試験直前の総まとめに向く。A5判、352頁・464頁。

  • 高橋則夫『刑法総論』『刑法各論』成文堂(2022年10月・第5版、2022年10月・第4版)……西原門下。新しい行為無価値論。『総論』は、最新の学説や問題意識が随所に織り交ぜられており、それらが著者の深い法哲学の素養と相まって、行為無価値論の最先端を示すものに仕上がっている。いわゆる総論の総論部分だけでも50頁超にわたるなど、近年では珍しい真剣勝負の理論書。特に、客観的帰属論に関する記述は秀逸であり、明確な判断基準が示されているため論証化しやすい。総論・各論ともに、判決文の紹介に紙面を割き、判例解説も充実している。また、具体的事案の処理に際しての思考過程も適宜示されている。「行為規範と制裁規範」という独自の体系をとるなど、著者の独自性が前面に出ているが、結論自体は、概ね判例・通説に近い。もっとも、結論よりも論証過程が重要である試験では、この点において使いにくい。他の基本書に比べ独自色が強いため、中上級者向けである。A5判、676頁・816頁。
    著者による一般向けの入門書『刑の重さは何で決まるのか』筑摩書房(2024年4月、ちくまプリマー新書、新書判、208頁)も参照されたい。

  • 中森喜彦『刑法各論』有斐閣(2015年10月・第4版)……旧著『刑法各論(有斐閣法学叢書)』の全面改訂版。第3版からは「有斐閣法学叢書」シリーズから独立し単行本となった。著者は、関西における行為無価値論の第一人者。本書は、あまりシェアは高くないものの、その内容には定評がある。他の基本書に比べて非常にコンパクトにまとめられており、基本的に穏当な見解が採られながらも論点への鋭い踏み込みもあるなど、「簡にして要を得た」という表現がふさわしい基本書となっている。なお、刑法総論は執筆しないことを著者自ら公言している。A5判、348頁。

  • 小林充原著、植村立郎監修、園原敏彦改訂『刑法』立花書房(2015年4月・第4版)……実務家による一冊本。原著者は著名な元刑事裁判官(2013年に逝去)。第4版は、第3版(2007年4月)以降の関係法令・判例・学説等の進展を踏まえて、植村立郎(弁護士・元裁判官)監修のもと、現役判事の園原敏彦が改訂。実務経験基に判例の考え方を簡潔に説明。自説は少ない。A5判、512頁。

  • 伊東研祐『刑法講義・総論(法セミ LAW CLASS シリーズ)』『同・各論(同)』日本評論社(2010年12月、2011年3月)……夭折の天才・藤木英雄(東大最後の行為無価値論者)の弟子。団藤・大塚ラインとは一線を画する、洗練された行為無価値論を採る。法学セミナーでの連載を単行本化したもので、著者曰く未修者向け。総論は、著者の講義を聴講しない独習者にも理解できるよう著者の特異な独自説はあえて載せていないが、自説主張が全くないという意味ではなく、著者の法哲学見地(『総論』第1章参照)からまとめられた体系に沿った主張もある。学説の引用元を表示していない点、類書に比べ判例の紹介・引用がやや少ない点は賛否がわかれるところだろう。各論も総論と同じく特異な独自説は少なめだが、新たな視点からの記述も多く参考になる。判例に批判的な箇所も多いが実用上支障はない。著者の文体は非常に難解であり、容易に読み進められないが、一方で読み応えがあるという評価もある。A5判、480頁・488頁。
    なお、同著者による、より初学者向けの基本書として『刑法総論(新法学ライブラリ 17)』新世社(2008年2月)がある。

  • 橋本正博『刑法総論(法学叢書12)』『刑法各論(同13)』新世社(2015年2月、2017年2月)……著者は福田門下。最近の問題意識に応接しながらも、全体的に安定感がある記述となっている。著者は「違法性とは実質的に全体としての法秩序に反することである、と解する規範違反説的考え方に基づく定義が基本的には妥当である。……社会的相当性からの逸脱が違法性の重要な部分を占める」と明言しており、福田の影響が見てとれる。また、結果無価値論と行為無価値論は「原則として排他的なものではない」と述べているが、試金石ともいうべき偶然防衛については「行為者に行為規範を与えることも考慮する行為無価値論の視点を含める以上、防衛の意思で行われるからこそ正当化が認められる」としている。共犯論は、著者の有名なモノグラフィー『「行為支配論」と正犯理論』有斐閣(2000年2月)の内容を踏襲したものとなっており、説明の仕方にはやや独自色が見られるが、結論自体は現在の刑法学界の共通認識を踏み越えない穏当な所に収まっている。なお、細かな解釈論については井田『講義刑法学』及び『刑法総論の理論構造』を参照させる場面が多いため、それらが手元にあると便利。A5判、392頁・576頁。

  • 川端博『刑法総論講義』『刑法各論講義』成文堂(2013年4月・第3版、2010年3月・第2版)……団藤門下。最新の議論にはあまり触れられていないが、基礎的な理論や論点については詳細かつ丁寧な説明がなされている。記述はレジュメ調に整理されており、判例・学説・自説を歯切れよい文章でたんたんと説明する。A5判、798頁・814頁。

  • 川端博『刑法』成文堂(2014年3月)……1冊本。放送大学テキストの改訂版。判例・通説を中心にコンパクトにまとめられている。特に上記の2冊本を基本書としている者にはまとめ本として好適。A5判、428頁。
    なお本書は、著者の門下生による改訂・2分冊化が施され、川端博・明照博章・今村暢好『刑法総論』『刑法各論』成文堂(2024年9月、2024年3月、A5判、240頁・240頁)として再出版されている。

  • 佐久間修『刑法総論』『刑法各論』成文堂(2009年8月、2012年9月・第2版)……大塚仁門下。いわゆる団藤=大塚ラインの系統。改訂により文章の読みにくさはかなり改善されたが、結果無価値論からの批判に対する目新しい再反論はあまりみられない。A5判、516頁・512頁。
    他に『刑法総論の基礎と応用——条文・学説・判例をつなぐ』成文堂(2015年10月、A5版、410頁)、雑誌「警察学論集」の連載に増補・加筆して単行本化した『実践講座・刑法各論』立花書房(2007年3月)等がある。

  • 斎藤信治『刑法総論』『刑法各論』有斐閣(2008年5月・第6版、2014年3月・第4版)……「社会心理的衝撃性」なる独特の概念を用いる。学説紹介が詳細。巻末にユニークな設例つき。A5判、470頁・488頁。

  • 高橋則夫ほか『法科大学院テキスト刑法総論』『同・刑法各論』日本評論社(2007年10月・第2版、2008年4月)……行為無価値論者による共著。執筆陣は豪華だが、総論はちぐはぐ感が否めない。各論はよくまとまっており、論点ごとの判例・学説・文献カタログとして使い勝手が良い。A5判、432頁・392頁。

  • 大谷實編著『法学講義 刑法1 総論』『同2 各論』悠々社(2007年4月、2014年4月)……主に大谷門下の関西系行為無価値論者による共著。刑法の基本部分の解説を中心としつつ、従来の教科書から一歩前へ進めた議論も紹介しており、行為無価値論版リークエとも呼べる一冊。A5判、400頁・404頁。

  • 立石二六『刑法総論』成文堂(2015年3月・第4版)……A5判、438頁。

  • 伊藤亮吉『刑法総論入門講義』『刑法各論入門講義』成文堂(2022年9月、2022年4月)……著者は野村稔門下。「入門」とあるがちゃんとした基本書。総論・各論とも、多くは条文の指摘程度であるが、各節の末尾で関連する特別刑法にも言及しているのが特徴的。ですます調。A5判、492頁・552頁。

(古典)
  • 団藤重光『刑法綱要総論』『同・各論』創文社(1990年6月・第3版、1990年6月・第3版。創文社オンデマンド叢書にてOD版対応。)……著者(2012年に逝去)は、長く刑法学界を牽引し、最高裁判事も務めた。日本の行為無価値刑法学におけるバイブルと言える一冊。実務的影響力は今なお大きく、現在でも刑法実務で通説といえば、おおむね団藤説(ないし大塚説)を指す。定型・形式を重視するシンプルですっきりした体系(例えば、『「実行の着手」とは、実行行為の一部を開始することをいう』といった定義など)。法律論としての美しさには定評があるものの、最高裁判事に任命された後、共謀共同正犯を肯定したことで若干の綻びもみられる。半世紀前の初版の時点で体系そのものは完成しており、それがそのまま現在の刑法解釈学の基礎をなしている。実行の着手・不能犯、因果関係、不作為犯、共犯論など多くの分野において、近時の判例・学説はさまざまな実質論を展開しており、形式を重視する団藤説は発展的に解消されつつある。電子書籍版あり。A5判、623頁・696頁

  • 大塚仁『刑法概説・総論』『同・各論』有斐閣(2008年10月・第4版、2005年12月・第3版増補版)……著者は伝統的行為無価値論の大家。行為無価値論の論客として長く主導的地位にあり、団藤とともに伝統的通説(いわゆる「団藤・大塚ライン」)を形成した。実務的な影響力は今なお大きく、刑法実務で通説といえば、概ね大塚説ないし団藤説を指す。ただし、本書では、論理的一貫性の観点から、優越支配共謀共同正犯説(団藤綱要も支持)、不法領得の意思不要説など、実務通説と一部異なる見解をとる。人格的行為論をはじめとして団藤説の多くを継承しているため議論が古く、特に、総論は最新の議論に対応しきれていない部分も見受けられる。しかし、伝統的通説の立場から、終始一貫した論理で刑法を網羅的に解説する本書は、刑法の理解にいまだ有用である。特に『総論』(第4版)は、大塚刑法学の完成形と言えよう。なお、概説、入門共に改訂予定はあったが、著者逝去(2020年)のため白紙になった。A5判、658頁・782頁。

  • 福田平『刑法総論』『刑法各論』有斐閣(2011年10月・第5版、2002年5月・第3版増補)……団藤門下。2019年に逝去。著者は、戦後昭和期の代表的な目的的行為論者であり、井田も私淑している。厳格責任説、共謀共同正犯否定説といった立場を採り、論理の一貫性においては師である団藤を上回るとも言われる。曖昧さや倫理性を排し、基礎理論に根ざした福田説は、現在でも説得力を持つ。団藤・大塚らの伝統的学説を立体的に理解するためにも有用である。なお、各論は非常に簡潔な構成となっている。A5判、408頁・340頁。

  • 藤木英雄『刑法講義・総論』『同・各論』弘文堂(1975年11月、1976年12月、OD版:2003年10月)……団藤門下の夭折の天才。1977年に逝去。実質的犯罪論、可罰的違法性論、新・新過失論、誤想防衛の違法性阻却、間接正犯類似説など、現在の学説にも示唆を与える啓発的内容が特徴だが、その理論体系には師匠ほどの緻密さはないと言われている。A5判、458頁・466頁。
    入門書として、板倉宏との共著『刑法案内1・2』勁草書房(2011年1月)がある。

  • 板倉宏『刑法総論』『刑法各論』勁草書房(2007年4月・補訂版、2004年6月)……団藤門下。2017年に逝去。判例を重視した学説。A5判、432頁・400頁。
    概説書として、1冊本『刑法(有斐閣双書プリマ・シリーズ)』有斐閣(2008年2月・第5版)がある。

  • 平川宗信『刑法各論』有斐閣(1996年1月)……団藤門下。仏教思想を元にした独自の刑法学を構築。保護法益による3分体系をとらず、憲法を基準に個人の重要な生活利益を選び出し体系化。刑罰規定の解釈論に加えて、立法論・法政策論を含むのが特徴。A5判、598頁。

  • 西原春夫『刑法総論 上巻・下巻』成文堂(1998年5月・改訂版、1993年1月・改訂準備版)……早稲田大学第12代総長。信頼の原則の提唱者。交通事犯における過失論で有名。A5判、354頁・540頁。

  • 木村龜二著・阿部純二増補『刑法総論(有斐閣法律学全集)』有斐閣(1978年4月・増補版、OD版:2004年3月)……名著。目的的行為論の古典。著者は1972年に逝去。A5判、502頁。

  • 阿部純二『刑法総論(BUL双書)』日本評論社(1997年11月)……木村龜二門下。2017年に逝去。目的的行為論、厳格責任説、違法性阻却事由の一般的原理における目的説、緊急避難の法的性質における二分説(生命対生命、身体対身体の場合に責任阻却)、不能犯論における主観的危険説、正犯と共犯の区別における決意標準説、共犯と身分における義務犯説など。コンパクトながらもドイツの学説も紹介している。B6判、320頁。

  • 野村稔『刑法総論』成文堂(1998年10月・補訂版)……西原門下。A5判、526頁。
    他に、学生向けの参考書として『刑法演習教材』成文堂(2007年11月・改訂版)がある。

<結果無価値論②>

  • 前田雅英『刑法総論講義』『刑法各論講義』東京大学出版会(☆総論2024年6月・第8版、各論2020年2月・第7版)……平野門下。かつて大谷とシェアを二分した旧司時代の定番書。前田説は論理的な体系の構築よりも判例法理の抽出に重点を置いた学説であり、規範・考慮要素がしっかりと提示されているため論述に用いやすく、かつ判例と一致する結論を導きやすい。法律の体系書として初めて横書きを採用したり、二色刷りで図表を多用するなど視覚的効果に富んでおり、記述も詳しいことから非常に理解しやすい。ただし総論体系において、著者は結果無価値論者であるものの行為無価値論者の藤木と同様の実質的犯罪論に基礎を置き、西田・山口といった結果無価値の主流派とは異なる独自の犯罪論体系から書かれているため、他の学説と比較して考えると混乱するおそれが大きい。前田説をとると論文式試験での記述内容が通説と大きく変わることもあるため、つまみ食いは試験対策としては危険である。旧試時代には、本書を利用するのであれば前田説と心中する覚悟が必要とされていた。総論は第6版および第7版、各論は第6版の改訂時に全面リニューアルし、大幅な減頁(総論は計176頁、各論は192頁)がなされ、司法試験に必要最小限の論点のみを凝縮した書となった。A5判、488頁・576頁。

  • 今井猛嘉・小林憲太郎・島田聡一郎・橋爪隆『刑法総論(LEGAL QUEST)』『刑法各論(同)』有斐閣(2012年11月・第2版、2013年4月・第2版)……伝統的論点から最新の議論までコンパクトにまとめられた学生向けの教科書。西田・山口門下による共著であるため、共著の弊害としてしばしば挙げられる立場のばらつきは少ない。しかし、総論については、橋爪執筆の正当防衛論や島田執筆の共犯論及び罪数論が秀逸である一方、今井執筆部分が総じて微妙であったり、小林の執筆部分がもはや教科書レベルを超えていたり(特に構成要件論は高度で難解)など、執筆者によって内容の質にばらつきが大きいという点で、共著の弊害が強く出ている。各論は、西田・山口をコンパクトに整理したような趣になっているため、こちらは、やや使い勝手がいい。なお、内容が古くなってきているが、島田の逝去及び残る共著者の不和から、今後の改訂予定はない。A5判、500頁・516頁。

  • 小林憲太郎『刑法総論(ライブラリ 現代の法律学A13)』『刑法各論』新世社(総論2020年6月・第2版、☆各論2024年11月)……著者は西田門下。原理的かつ高水準の議論を展開しており、薄いながら東大系結果無価値論の最先端を紹介する書籍である。初版(2014年10月)は、非常に簡潔な記述が特徴であったが、読者から「もっと親切な教科書にしてほしい」という要望があったことから、第2版ではレベルの高さは保ちつつも、自説の解説がわかりやすいものとなり、さらに他説紹介もかなり丁寧になるなど、初版に比べると学生の使いやすさが向上した(そのため頁数も192頁と大幅に増加した)。若干の文献引用もあり、そのほとんどは当該分野に関する最新あるいは代表的な研究書であるため参考になる。また、コラムの内容も、実務に対するメッセージを意識しているとみられるものが多く、非常に示唆的である。主要な論点はほぼカバーしているが、その水準は体系書のレベルすら優に超えており、著者の論文を参照しなければ、その真意を理解できないのではないかと思われる箇所も少なくない。本書を読んで理解できない箇所については、著者の論文に加え後掲の『ライブ講義 刑法入門』『刑法総論の理論と実務』、本書を補完する判例教材である『重要判例集 刑法総論(ライブラリ 現代の法律学 JA13)』を参照するとよい。『各論』は、シリーズではなく単行本として『総論』と同じ出版社から刊行された。先述の『総論』とは執筆方針が異なり、極力著者の独自の主張を消したものとなっている(はしがき)。もちろん著者の独自の主張がないわけではないが、判例・通説の記述とは、きちんと切り分けられているため、学派の違いを選ばず使用することができる。また、著者にしては珍しく、司法試験(予備試験)の合格ラインをクリアするための実践的なアドバイスが付されているのも特徴の一つ。本書を補完するものとして『刑法各論の理論と実務』がある。A5判、416頁・496頁。

  • 松宮孝明編『ハイブリッド刑法総論』『同・各論』法律文化社(2020年4月・第3版、☆2023年3月・第3版)……法学部とロースクールを架橋するテキスト。関西刑法読書会のメンバーによる共著だが、関西結果無価値論の主張は控えめ。最新の論点にもそれなりに言及している。リーガルクエストに比べ情報量は劣るが、クセは少ない。「総論」の第3版において、性犯罪規定の改正など各論分野における法改正を反映させ、正当防衛・過失の共同正犯、実行の着手などに関する重要判例を盛り込んだ。「各論」の第3版において、令和4年刑法改正に対応。A5判、338頁・400頁。

  • 町野朔『刑法総論(法律学の森)』信山社(2020年1月)…… 平野門下。「もはや教科書のレベルを超え、極めて優れた高度な学術書」(小林憲太郎)と評されていた『刑法総論講義案I』信山社(1995年10月・第2版)の全面改訂版。刑法の問題がどのような形で起き、実務はどう考えたかを知るために、判例を約800件と極めて多く引用している。条件関係における論理的結合説、抽象的事実の錯誤における不法・責任符合説、片面的共犯全面否定説などの異説が特徴的。本書で従来の見解を改説した箇所がいくつかあるので注意されたい。なお、罪数論を含む刑罰論が収録されていない(著者曰く準備不足のためとのこと)ので、基本書とする場合にはその点に留意する必要がある。A5変型判、480頁。
    同著者による他の書籍として、『プレップ刑法』弘文堂(2004年4月・第3版)、『犯罪各論の現在(いま)』有斐閣(1996年3月)がある。

  • 浅田和茂『刑法総論』『刑法各論』成文堂(☆2024年2月・第3版、☆2024年1月・第2版)……著者は2023年に逝去。関西結果無価値論。原理原則を重視する理論派で、背景知識もしっかり書かれている本格的体系書。社会的行為論、主観的違法要素否定説、違法性阻却の一般原理における法益衡量説、緊急避難の法的性質における違法性阻却中心の三分説、厳格故意説などが特徴だが、具体的事実の錯誤における構成要件上の客体の同一性を基準とする具体的符合説、抽象的事実の錯誤における形式的構成要件的符合説、原因において自由な行為における否定説など自説の落としどころとして疑問を感じる箇所がままみられる。共犯論においても、要素従属性において、正犯なき共犯を広く認め、間接正犯を認めない一般違法従属形式を採る(いわゆる関西共犯論)ので使いづらい。A5判、600頁、634頁。

  • 松原芳博『刑法総論(法セミ LAW CLASS シリーズ)』『刑法各論(同)』日本評論社(2022年3月・第3版、☆2024年8月・第3版)……曽根門下だが、行為を独立の犯罪要素としない三分体系をとり、構成要件については西田説と同様、違法構成要件と責任構成要件に分割する体系を採用し、共同正犯論においては共同意思主体説を採用しないなど、その立場は平野門下の立場に近い。内容は高度であり、山口説や西田説をふまえて最新の論点(たとえば具体的法定的符合説における故意の個数)を盛り込みつつ、事例を用いて平易に解説している。『各論』は保護法益論などで理論的に詰められており、名誉毀損罪の真実性の錯誤についての故意阻却説、財産罪の保護法益についての本権説(適法占有説)などが特徴的。学説・論文を広く引用しているので調べもの用途に適している。条文索引があるのは至便。各論第2版より巻末に重要裁判例の事例集が付された。各論第3版において、性犯罪、侮辱罪、逃走罪および自由刑に関する法改正その他重要な判例をフォロー。A5判、632頁(本文597頁)、784頁(本文745頁)。

  • 松宮孝明『刑法総論講義』『刑法各論講義』成文堂(☆2024年10月・いずれも第6版)……著者は中森門下だが、採る立場は結果無価値論(違法一元論)。理論刑法学を究めたい刑法マニア向けの一冊。著者の研究成果がふんだんに盛り込まれ、理論的にかなり突っ込んでいるため、内容は非常に高度かつ難解。少数説も多く、司法試験的には使いづらい。ドイツや日本における学説の変遷や法律の改廃の歴史といった背景的知識も記述されており、基本書でそうした知識を得るにはこの本をおいて他にないが、それが司法試験合格に無用であるのは言うまでもないことである(ただし、本書は刑法”学”を学ぶための教科書として執筆されたことを意識する必要がある)。章末には演習問題と題した設問が付されているが、そのいずれもが理論面や体系面を問うものであり、あくまでも刑法”学”を意識した出来となっている。なお、松宮説はドイツのヤコブスの説に基づいた見解を採ることが多く、こうした松宮説を理解するには『レヴィジオン刑法I-III』成文堂(1997年11月-2009年6月)の松宮執筆(発言)部分を用いるのが吉。ただし、司法試験のレベルを遥かに超えていることに注意。A5判、426頁・574頁。
    著者のブログはこちら

  • 日髙義博『刑法総論』『刑法各論』成文堂(☆2022年5月・第2版、2020年6月)……著者は不作為犯の研究で著名。ドイツの学説も比較的詳しく紹介されているなど、本格派の体系書となっている。本書の最大の特色は「跛行的結果反価値論」の主張にある。跛行的結果反価値論とは「法益侵害説を土台にした結果反価値論を出発点にしているが、二次的に違法性を減少・滅失させる方向で行為反価値性の判断を機能させようとするものである」(204頁)。例えば、可罰的違法性では、絶対的軽微は「結果反価値の減少により可罰的違法性が欠ける」が、相対的軽微は「結果反価値性はあるものの……、行為反価値性が減少して可罰的違法性を欠く」(211頁)。また、緊急避難を責任論に位置づけている点も注目される。これは、「跛行的結果反価値論の立場からすると、転嫁行為には法益侵害性が認められることから違法性を否定しえず、危険回避の行動を責任の領域で評価し、責任阻却として処理することが適切」であるとの理由からである(381頁)。著者の代表的著作である『不真正不作為犯の理論』が、本書でどのように展開されているかも注目されるところであるが、「構成要件的等価値性」を提唱し(150頁以下)、学説の批判も考慮してか「先行行為説」は強調されていない。錯誤論では、師である植松正に倣って「合一的評価説」を採る。これは「錯誤論の使命が刑の不均衡を是正すること」から出発し、「結果の抽象化を排除し故意の抽象化を推し進める一方、観念的競合を排除して合一的評価を取り入れて1個の重い罪だけで処罰する」ものである(322頁)。この説は、結論の妥当性を重視するあまり、なぜこのような合一的評価が可能なのかが説明されていないように思われる。最後に形式面であるが、全部で38の設例を用意し、それに解説を加えることで、初学者にも配慮している。また、重要判例については、事実の概要を詳しく記し、それに対してコメントを加えている(いわば百選スタイル)。これは新しい形の教科書と云えよう。このような事情で、判例・学説の引用は必ずしも網羅的ではない。A5判、636頁・792頁。

  • 大越義久『刑法総論(有斐閣Sシリーズ)』『刑法各論(同)』有斐閣(2012年12月・第5版、2012年12月・第4版)……平野門下。細かい議論には立ち入らず、結果無価値論の立場から刑法理論をコンパクトに解説。試験対策としてはさすがにこれだけでは薄すぎるが、結果無価値論を採る学生の通読用としては適している。四六判、262頁・256頁。

  • 曽根威彦『刑法総論(法律学講義シリーズ)』『刑法各論(同)』弘文堂(2008年4月・第4版、2012年3月・第5版)……著者は齊藤・西原の弟子だが、結果無価値論者。全体的に非常に簡潔な記述となっている。行為を独立の犯罪要素とする四分説を始めとして、所々で少数説を採っているが、そのような少数説もあっさりとした記述で流すことがあるので注意。A5判、324頁・356頁。

  • 曽根威彦『刑法原論』成文堂(2016年4月)……一冊本ではなく、曽根刑法学の集大成となる重厚な刑法総論の体系書。なお、刑罰論は含まれていない。学説紹介がとりわけ詳しく、ところどころで少数説を採っているものの(主観的違法要素否定説、共謀共同正犯否定説など)、通説や有力説も詳細に解説しているので調べ物用にも耐える。上掲『刑法総論』から重要な改説をしている箇所(形式的構成要件的符合説に改説、383頁。構成要件的過失と責任過失との区別について、337頁)があるので注意。A5判、698頁。

  • 関哲夫『講義 刑法総論』『同・各論』成文堂(2018年11月・第2版、2017年10月)……著者は住居侵入罪の研究で有名。口語調で設例を用いて丁寧に基本原則を解説していく。各章末に格言が書かれており、刑法の学習者を鼓舞している。判例や学説の整理が類書とは比べ物にならないほど丁寧で判例の引用数も多いが、少数説をとったり、通常とは違う独自の用語を用いたりするので注意が必要。A5判、592頁・734頁。

  • 山中敬一『刑法総論』『刑法各論』成文堂(2015年8月・第3版、2015年12月・第3版)……2冊合わせて2000頁を超える浩瀚な体系書。著者は結果無価値に加えて危険無価値によって違法性を判断する立場(結果無価値論に近いが、違法一元論ではない)を採る。客観的帰属論を全面的に展開。共犯はいわゆる関西共犯論。なお、総論(第3版)の正誤表あり。A5判、1224頁・944頁。
    他に『ロースクール講義・刑法総論』成文堂(2005年4月、A5判、498頁)がある。

  • 須之内克彦『刑法概説各論』成文堂(2014年4月・第2版)……学部生や未修者向けの各論のテキスト。著者は関西系の結果無価値論者だが、比較的中立的な立場で講じられている。自説を明示しない箇所が多い。各節の冒頭に簡単なレジュメを掲げているのも特徴。A5判,474頁。

  • 林幹人『刑法総論』『刑法各論』東京大学出版会(2008年9月・第2版、2007年10月・第2版)……平野門下。著者は財産犯研究の第一人者。著者の学説は、「許された危険」の法理を多用することで知られる非常に独自色の強いものであり、その独特の体系が故、総論はあまり使い勝手がよくない。一方、各論の記述は非常に簡潔であり、その意味内容を正確に把握するためには著者の論文を読む必要があるため、こちらも使いこなすのは難しい。A5判、536頁・536頁。
    他に同著者による判例集・演習書として、『判例刑法』東京大学出版会(2011年9月、A5判、440頁)がある。

  • 大野真義ほか『刑法総論』『刑法各論』世界思想社(2015年4月・新装版、2014年6月)……総論はオーソドックスな因果的行為論、結果無価値論の立場から一貫して読むことができる。ただし、自説を明記しない箇所が多いので初学者は混乱するかもしれない。また、加藤執筆部分(有責性〔故意・過失含む〕、責任阻却事由)のできはイマイチ。A5判、434頁、472頁。

  • 生田勝義・上田寛・名和献三・内田博文『刑法各論講義(有斐閣ブックス)』有斐閣(2010年5月・第4版)……学部生向けの教科書。総論はない。第4版において、凶悪・重大犯罪の厳罰化等の法改正を織り込むとともに重要な判例等を補充。 A5判、362頁。

  • 齋野彦弥『基本講義 刑法総論(ライブラリ 法学基本講義 12)』新世社(2007年11月)……学士助手時代の指導教官は内藤謙。実行行為概念を否定するなど、その立場は山口・刑法総論の初版時に近く、結果無価値論と親和性が高い。もっとも、著者は「行為無価値論と結果無価値論の対立」として問題を扱うことを党派刑法学であると断じ、予め刷り込まれた立場から解釈論の帰結を導くことは自分自身で考えることを放棄するものだと指摘する。このような立場ではあるが、決して独自説の主張を強調するわけではなく、初学者の理解を目指すため判例・通説を厚く扱っている。A5判、400頁。

(古典)
  • 佐伯千仭『刑法講義総論』有斐閣(1981年3月・4訂版、OD版:2007年9月)……平野刑法に多大な影響を与えた名著。著者は2006年に逝去。社会的行為論、客観的違法論、可罰的違法性論、可罰的符合説、準故意説、規範的責任論、期待可能性の国家標準説、共犯論における行為共同説、一般違法従属形式説、共謀共同正犯否定論など。A5判、496頁。なお、本書は『佐伯千仭著作選集 第1巻 刑法の理論と体系』信山社(2014年11月、A5変型判、584頁)にも収録されている。

  • 平野龍一『刑法総論Ⅰ・Ⅱ』有斐閣(1972年7月、1975年6月、OD版:Ⅰ・Ⅱともに2004年8月)……著者は2004年に逝去。法益侵害説中興の祖。日本の結果無価値論刑法学におけるバイブル的存在。定義が少なく、問題意識をつらつらと散文的に書いているが、指摘がするどく、インスピレーションとなる記述が多い(例えば、因果関係で「目をつぶれば地球はなくなる」、違法論で「法は、立ち居振舞いを教えるために存在するのではない」など)。平野体系は、いわゆる結果無価値論の中でもスマートで理解しやすく、西田や山口に対してとっつきにくさを感じる人には現在でもお薦め。平野刑法学のエッセンス抽出がされたと言うべき本なので、深く理解したい時は、平野執筆の論文に当たった方がいい。A5判、208頁・232頁。『刑法概説』東京大学出版会(1977年2月、A5判、328頁。MJリバイバル(丸善・ジュンク堂限定販売)によるOD版あり。)も、簡にして要を得た今もなお参照に値する一冊本。かなり高度な議論を前提とした記述になっているので、ある程度勉強してから読み返すと、有意義である。

  • 荘子邦雄『刑法総論(現代法律学全集25)』青林書院(1996年3月・第3版)……刑罰の本質は応報にあるとする。純粋な結果無価値論ではないが、行為は主観と客観とを統合した全一体であるとして、主観的違法要素をきわめて限定的にしか認めない(処罰し得る絶対的不能未遂の場合の未遂故意のみ主観的違法要素とする。)。正当防衛において積極加害意思ある防衛者について急迫性を否定する判例を支持する。防衛行為は、避難し得る不正に対する「反撃」の手段として認めるべきであるとして、過失による侵害行為者や責任無能力者の侵害行為に対して正当防衛を認めない異説(緊急避難しか認めない)を採る。因果関係の因果性(条件関係)における合法則的条件説、緊急避難の法的性質における二分説(生命対生命の場合に責任阻却)、故意と過失の区別における動機控制説、共謀共同正犯の限定的肯定説など。A5判、527頁。

  • 内田文昭『刑法概要 上巻・中巻』『刑法各論』青林書院(上巻:1995年4月、中巻:1999年4月、1996年3月・第3版)……上巻・中巻は刑法総論に相当(ただし刑罰適用論は含まれない)。下巻として上記刑法各論を改訂予定だったが未完。客観的目的的行為論、新過失論などを採るが、主観的違法要素否定説などその内容はむしろ結果無価値論の立場に近い。『概要』で従来の見解(『改訂 刑法I 総論(現代法律学講座)』青林書院(1997年4月・補正版、A5判、426頁)における)を改説した箇所がいくつかあるので注意されたい。A5判、467頁、690頁、714頁。

  • 内藤謙『刑法講義 総論 上・中・下1・下2』有斐閣(1983年3月~2002年10月、OD版対応)……著者は2016年に逝去。団藤弟子だが徹底した結果無価値論者(主観的違法要素否定説)。法教に長期連載された「基礎講座・刑法総論講義」を書籍化したもので4分冊、1502頁の大著。上(刑法の基礎理論、行為論、構成要件論)、中(違法性論)、下1(責任論)、下2(未遂犯論、共犯論、刑罰論)。各学説を詳細に検討しており、調査目的に至便。A5判、308頁・454頁・492頁・306頁。
    他に、1冊本として『刑法原論』岩波書店(1997年10月、A5判、236頁)がある。

  • 堀内捷三『刑法総論』『刑法各論』有斐閣(2004年4月・第2版、2003年11月)……平野門下。体系は師説に比較的忠実。責任の本質を非難ないし非難可能性に求めるのではなく、犯罪の防止という実質的観点から理解しようとする実質的責任論を採り、責任の判断においては一般人を基準に据える客観説が妥当であるとする。専門である不作為犯論では、具体的依存性説を採る。因果関係論につき基本的には客観的相当因果関係説が妥当としながらも、相当性の判断において考慮されるのは一般人が利用可能な事情にかぎるとする。不能犯も予防目的の下で検討されるので、危険の有無は(理性的な)一般人を基準にして行われ、具体的な事情を基礎にして一般的・類型的に判断されるとする(修正された)具体的危険説を採る。A5判、420頁・410頁。

  • 中山研一『新版 口述刑法総論』『同・各論』成文堂(2007年7月・新訂補訂2版、2014年9月・補訂3版)……関西結果無価値論。著者は2011年に逝去。各論は2014年に松宮孝明によって補訂された(松宮は中山門下ではないが、中山主催の刑法読書会の一員)。A5判、358頁・384頁。『刑法総論』成文堂(1982年10月・A5判・638頁)は名著。

<その他>

  • 佐久間修・橋本正博・上嶌一高『刑法基本講義——総論・各論』有斐閣(☆2023年4月・第3版補訂版)……一冊本。ケースメソッド形式。初版時(2009年4月)には「『いわゆる』通説・判例ベースの体系だが、佐久間・橋本(行為無価値論者)執筆部分と上嶌(結果無価値論者)執筆部分とにズレがある」との批判があったが、第2版の改訂時に記述の統一が図られた。体裁や形式が、佐久間毅『民法の基礎』と似ているため、同書の愛読者は親しみやすいと思われる。第3版補訂版において、拘禁刑の創設や侮辱罪等の法改正に対応。A5判、584頁。

  • 伊藤渉ほか『アクチュアル刑法総論』『同・各論』弘文堂(2005年4月、2007年4月)……主に西田・山口門下の結果無価値論者と中森門下の行為無価値論者による共著。齊藤と島田は各論のみ執筆。総論は行為無価値論に立つ成瀬・安田により、最近の行為無価値論的に仕上がっているものの、他の結果無価値論の筆者との関係でチグハグ感が残る。基本概念・基本判例よりも新しい判例・学説の展開に重点が置かれており、かなり深い議論も取り扱われている。使い勝手の良いところだけつまみ食いで使うのがベスト(特に安田の責任論などは必読である)。A5判、368頁・576頁。

  • 葛原力三・塩見淳・橋田久・安田拓人『テキストブック刑法総論』有斐閣(2009年7月)……関西系学者による、比較的初学者向けの共著テキスト。葛原(結果無価値論)が因果関係・主観的構成要件・共犯、塩見(行為無価値論)が客観的構成要件・未遂犯・罪数と、立場の違いが顕著に現れる分野を異なる論者が執筆しているため、論理の一貫性に欠けるという難点がある。学説検討がかなり詳しく、最先端の議論にまでフォローしているが、学説相互の批判に欠ける。A5判、366頁。

  • 町野朔・中森喜彦『刑法1・2(有斐閣アルマSpecialized)』有斐閣(2003年4月・第2版)……内容的に中途半端で、共著の悪い面がでてしまっている。四六判、278頁・336頁。

  • 鈴木茂嗣『刑法総論』成文堂(2011年8月・第2版)……著者は京大系刑事訴訟法学の大家。本書では、著者独自の犯罪体系である「二元的犯罪論」が展開されている。著者の主張の大筋は、伝統的刑法学が陥っているとする認識論的犯罪論からの脱却であり、刑法学は単に「犯罪とはなにか」を究明する性質論を志向すべきであるというものである。そこでは、ドイツのベーリングによってもたらされた構成要件論を基軸とする性質論から認識論への転換を「失敗」であったとし、再度構成要件論以前の体系への再転換を図るべきであるとする著者の主張が述べられている。このため、従来の教科書とは構成を大きく異にしており、必然的に試験対策的観点からは本書は無用と言わざるを得ない。したがって、本書は専ら研究者や刑法マニアを読者として選ぶものだと言える。A5判、358頁。なお、鈴木説を簡潔に叙述したもの(論文集)として『二元的犯罪論序説』成文堂(2019年10月・補訂版、四六判、120頁)がある。『序説』という言葉で入門書的役割を期待しがちだが、内容的には刑法を一通り修めた者がその価値を理解できるレベルである。

(古典)
  • 高窪貞人ほか『刑法総論(青林教科書シリーズ)』『刑法各論(同)』青林書院(1997年2月・全訂版、1996年4月・全訂版)…… 刑法総論執筆者(高窪貞人・石川才顕・奈良俊夫・佐藤芳男)、同各論執筆者(高窪貞人・佐藤芳男・宮野彬・川端博・石川才顕)。平成7年改正刑法に対応。A5判、344頁・384頁。


【その他参考書】

  • 大塚裕史『応用刑法I——総論』『同II——各論』日本評論社(2023年1月、☆2024年4月)……下掲『思考方法』の実質的な後継シリーズ。同名の法学セミナー誌連載(総論:729~760号・全32回、各論:761~818号・全54回)の単行本化。「個々の事案に対する裁判所の解決方法を分析し、そこから判例実務に共通の思考枠組みを抽出し、それを既存の刑法理論を参考にしつつ理論化し、さらにその射程や限界を明らかにする」(はしがき)実務刑法学の入門書という位置付け。そのため、判例の立場をもっともよく説明できるのは、これこれの見解であると言い切ってくれているので、安心して使用できる。また、そのまま論証に用いることができる記述が多く、いわゆる論証パターンこそ付されてはいないものの、何をどう論証すればよいのかが書かれており、試験対策に特化した内容である。なお、実行行為の着手時期における進捗度説、一部実行・全部責任の根拠付け法理としての全体行為説などの有力化する学説への言及はない。各論は、上記54回の中から重要度のより高い38回分をセレクトし大幅に加筆修正を行ったもの。A5判、576頁・592頁。著者は、法学セミナー誌にて、入門刑法Ⅰ[総論](2023年4月(819号)~2025年3月(842号)・全24講完結)・入門刑法Ⅱ[各論](2025年4・5月号(843号)~連載中)も連載。今後の単行本化が期待される。

  • 大塚裕史『刑法総論の思考方法』『刑法各論の思考方法』早稲田経営出版(2012年4月・第4版、2010年12月・第3版)……著者は学者だが、かつて若宮和彦名義で予備校で指導していた経験を持つ。大谷・前田が受験生のメジャーな基本書だった時代に、それらに親和的な内容の副読本として広く読まれていた。現在でも刑法が苦手な学生には有用。これ以上ないほど、丁寧で平易な説明がなされており、学説の整理も詳しく、あてはめのやり方までしっかりと示されているなど、至れり尽くせりの内容となっているため、手元にあると何かと役に立つ。なお、総論・各論ともに出版社品切れ。A5判、690頁・604頁。

  • ☆仲道祐樹、樋口亮介編『刑法の「通説」』日本評論社(2025年3月)……法学セミナーで話題となった特集の単行本化。法学セミナーの809号(総論)、821号(各論)の特集に、新たに3編を書き下ろし、必要な加筆・補充をしたもの。図表が多く、主要な論点で、多様化した最新の学説状況を客観的に概観できる。総論、各論ともに、実務家も投稿している。受験生にとっての「通説」とは、判例実務・学説において、結論を異にする反対説や、結論は同じでも異なる法律構成を含めた、考査委員の採点で減点されないような「基本的な共通の理解事項」である。その意味で最新学説への深入りは不要だが、判例を目安に自説の位置付けや反対説の把握などには役に立つため、図書館(バックナンバーでも可)等での参照が推奨される。A5判、264頁

  • ☆樋口亮介・十河太朗・豊田兼彦・佐藤拓磨・松尾誠紀・冨川雅満・大関龍一「刑法研究者が作った論証パターン」(法学セミナー2024年12月号・839号)……研究者が予備校の論証パターンの問題点を指摘し、判例・学説を踏まえた望ましい論証パターンを提示するという受験生必読の特集。予備校の論証集まで引用して、批判検討している。「不作為犯の論証パターン」での論考を、後から出版された山口『刑法』(4版)での不作為犯の記述が、きれいになぞっているように読めるのが、印象的である。本号は、異例の版元品切れだが、特集のみ「Kindle e-book」でも購入が可能である。また、大学図書館などには、必ず蔵書されている雑誌である。なお、当然ではあるが、自説との異同などを批判的に検討すべきである。

  • ☆安田拓人『基礎から考える刑法総論(法学教室ライブラリィ)』有斐閣(2024年12月)……法学教室連載(刑法総論の基礎にあるもの・487号~510号・全24回)に一章を加筆し書籍化したもの。著者は中森門下、京大系二元的行為反価値論者。ひととおりインプットを終えた中上級者向けで、学説論争に深く立ち入り、ドイツや最新学説を引用するなど、そのレベルは非常に高い。本書のタイトルの「基礎」とは団藤『法学の基礎』と同じ用法とみるべきである。結果無価値論と行為無価値論の対立は、いまや重要ではないとの見解が有力であるが、なぜ二元的行為反価値論でなければならないかを積極的に論証する。また、「行為規範」の立場から「裁判規範」に立つ実務・学説への理論的批判を展開している。ところどころ、論証例や定番書の学説への批判があり参考となる。本書を参照する場合には、下掲演習書・安田ほか『ひとりで学ぶ刑法』との併読が、基礎事項の確認によく、試験対策的には、むしろこちらのほうが有効である。なお、著者は現考査委員(R7)であり、「はしがき」にある通り、学説問題の出題は継続すると思われる。全5部、全25章。A5判、486頁。

  • 橋爪隆『刑法総論の悩みどころ(法学教室ライブラリィ)』『刑法各論の悩みどころ(同)』有斐閣(2020年3月、2022年12月)……同名の法学教室連載(総論:403号~426号)(各論:427号~450号+業務妨害罪、文書偽造罪につき書き下ろし。)の単行本化。刑法学修にとり「悩みどころ」となる重要論点について学生にもわかりやすく自説を展開。「悩み過ぎ」の感はあるが、学説の分かれ目や議論の状況が分かるため、参照する受験生は多い。A5判、全19章・480頁。全23章・544頁。
    また、警察幹部向けの連載として「判例講座・刑法総論」(警察学論集連載・2016年1月号~2017年12月号、全18回)、「同・刑法各論」(警察学論集連載・2019年10月号~2021年9月号、全20回)あり。こちらは、「悩みすぎ」の感はないため、参照の価値がある。

  • 佐伯仁志『刑法総論の考え方・楽しみ方(法学教室ライブラリィ)』有斐閣(2013年4月)……平野門下。法学教室での連載(283-306号)に、正当防衛論(3)、責任論、共犯論(3)(共犯と身分、必要的共犯、過失犯の共同正犯、不作為と共犯)を新たに書き下ろして単行本化したもの。総論のほとんどの論点を解説しているが、罪数論や刑罰論は内容に含まれていない。「はしがき」にもある通り、あくまで「刑法総論の基本的な考え方を理解し、自分で考えることの面白さをわかる」ことが本書の目的であり、受験的な効用を過度に期待することは禁物である。佐伯説は、故意・過失を責任要素としつつ構成要件にも含む3分説を採り、兄弟子である西田や山口に比べ、行為無価値をとる読者にも馴染みやすい体系となっている。因果関係論、不作為犯論、正当防衛論、被害者の同意論は、著者の論文のダイジェスト版ともいうべき内容であり、とくに不作為犯論と正当防衛論は試験対策でも有用と言える。全22章。A5判、458頁。
    なお、各論編(法教355号-378号)は校正作業を続けている段階であり、出版の具体的な目処は立っていないとのことである。

  • 髙橋直哉『刑法の授業上・下』成文堂(2022年2月)……著者がロースクールで行っている授業を、できるだけリアリティを保ちながら紙上で再現するというコンセプト(はしがき)。基本事項と課題判例を素材とする刑法講義の実況中継の趣で基本書と演習書のいいとこどりしたような内容(上巻=総論、下巻=各論)。①アカデミックでありつつも、試験戦略的な内容(例えば、間接正犯の正犯性の一般的説明はいわゆる道具理論のフレーズで十分)も含まれていること、②何説を採るべきかという空中戦よりも、具体的にどういう要件要素を書くべきかに注力していること、③注において著者自身の率直な悩みを見せていること、などが特徴。答案作成に有用で実践的な内容が盛り込まれており、オススメできる。A5判、298頁・292頁。

  • 井田良『刑法総論の理論構造』成文堂(2005年6月)……井田が自説を詳細に展開した『現代刑事法』誌上での連載を単行本化したもの。いわゆる「新しい行為無価値論」における代表的文献。本書で井田は、それまで"停滞"していた違法性をめぐる議論に一石を投じており、結果無価値論を徹底的に批判し、ドイツにおける議論を参照しながら、曖昧さを許さない透徹した理論によって、行為無価値論(違法二元論)の正当性を主張している。例えば、行為無価値論が重視する一般予防の観点から、刑罰法規は、国民に個別状況下で「行為規範」を示すものでなければならず、また、その規範に従って行動する限りは、その行為が違法と評価されることはない。そう解することで、違法と適法の境界が明確になり、罪刑法定主義の要請に応えることができるとする。そのため、法益侵害結果を因果的に惹起したことを理由に、行為規範に適合する行為を違法と評価し、ただ責任が否定されて処罰を免れるに過ぎないとする結果無価値論は、犯罪の成立条件を明確にするあまり、国民に対して違法行為と適法行為との分水嶺を提示することができず(一般予防や罪刑法定主義の要請を果たせず)「ふろの水と一緒に赤ん坊まで流してしまう」理論であるとして、激しく非難する。また、このような行為規範は、行為者の認識した事情を基に与えられるものであり、客観的には、殺人罪の構成要件に該当する行為でも、行為者が客体を人ではなく熊だと認識していた場合には、殺人罪の行為規範は行為者に対して無力(規範は行為者の認識を正すことについて無力)であるから、違法性の錯誤のうち、事実に関する錯誤は、直ちに構成要件的故意を阻却するとする(制限責任説のうち違法性阻却説)。これに対し、違法性の錯誤は、一般予防の観点から、まさしく刑法が保護しようとする規範の安定性が動揺される場面であるから、行為者が、錯誤に陥ったことに相当の理由がある場合(→違法性の意識の可能性の問題として責任が阻却される)を除いて、これに寛容であることはできないとする。なお、本書は総論に関する「コンパクトな論点書」として刊行されたものであり、総論の体系を全体的に網羅するものではない。さしあたり、行為無価値論版の『問題探求』といったところか。A5判488頁。

  • 山口厚『問題探究 刑法総論』『同・刑法各論』有斐閣(1998年3月、1999年12月)……刑法学界の碩学が、犯罪論・犯罪各論の重要論点を深く掘り下げ、文字通り問題探究を行った難解かつ意欲的な書であり、「我が国の刑法学史における最も重要な業績である。」(小林憲太郎)と評する声もある。もっとも、現在では改説されている部分も多々ある。縦書き。A5判、302頁・358頁。

  • 川端博『刑法総論(新・論点講義シリーズ)』弘文堂(2008年9月)……ケース・メソッドで刑法総論の重要論点を解説。模範解答の書き方まで学ぶことができる珍しい著作。B5判、288頁。

  • 井田良・佐藤拓磨『刑法各論(新・論点講義シリーズ)』弘文堂(2017年12月・第3版)……ケース・メソッドで刑法各論の重要論点を解説。刑法総論の内容を多く取り入れ、各論と総論を有機的に関連付けながら学習できるように工夫されている。また、一般的な体系書には十分な説明がない、それぞれの犯罪類型に関する基礎的な事項が詳述されている点に特色がある。2色刷で、図表を豊富に取り入れるなど、初学者でも理解できるよう配慮されている。本書は初学者から中級者への橋渡しを目的として執筆されたものであるが、司法試験に対応できる水準は、十分に確保されている。第3版から弟子の佐藤が執筆者に加わった。B5版、306頁。

  • 塩見淳『刑法の道しるべ(法学教室ライブラリィ)』有斐閣(2015年8月)……法教連載を元に新たに三つの章(第6章 間接正犯・不作為犯の着手時期、第9章 住居侵入罪の保護法益・「侵入」の意義、第13章 偽造の概念)を書き下ろしたものを単行本化。理論的に明快な有力説(侵害回避義務論、法益関係的錯誤説など)を批判的に検討し、通説的な理解からさらに一歩進めた自説を示すというスタイル。司法試験的には有力説をとれば明快で書きやすいと思われるが、実際には、そう簡単に割り切れるものではないというのが塩見説。したがって、答案には書きにくく難易度は高いものの、一読の価値はあると思われる。全14章。A5判、274頁。

  • 西田典之・山口厚・佐伯仁志編『刑法の争点』有斐閣(2007年10月)……全130項目。 B5判、264頁。

  • 山口厚・佐伯仁志・井田良『理論刑法学の最前線1・2』岩波書店(2001年9月、2006年5月)……現在の刑法学をリードする三人の論文集。決まったテーマごとに一人が論文を執筆し、残りの二人がその論文を批評するという形式。佐伯執筆部分は連載と合わせると面白い。司法試験レベルは遥かに超えている。A5判、248頁・264頁。

  • 川端博・山口厚・井田良・浅田和茂編『理論刑法学の探究 1-10』成文堂(1:2008年5月、2:2009年6月、3:2010年6月、4:2011年5月、5:2012年5月、6:2013年6月、7:2014年6月、8:2015年6月、9:2016年6月、10:2017年7月)……国内外の優れた学者による論文と書評を収録。刑法理論の深い理解に資すると思われる。A5判、224頁・222頁・241頁・256頁・274頁・302頁・318頁・247頁・334頁・306頁。

  • 川端博『集中講義刑法総論』『同・各論』成文堂(1997年6月・第2版、1999年7月)……中・上級者向けの論点本。A5判、486頁・494頁。

  • 大谷實・前田雅英『エキサイティング刑法 総論』『同 各論』有斐閣(1999年4月、2000年3月)……かつて基本書のシェアを二分していた大谷と前田が、刑法の重要論点についてそれぞれの立場から議論を展開した対談集。A5判、340頁・354頁。

  • 曽根威彦『刑法の重要問題 総論』『同・各論』成文堂(2005年3月・第2版、2006年3月・第2版)……A5判、412頁・412頁。

  • 曽根威彦・松原芳博編『重点課題刑法総論』『同・各論』成文堂(2008年3月)……A5判、276頁・286頁。

  • 高橋則夫・杉本一敏・仲道祐樹『理論刑法学入門  刑法理論の味わい方 (法セミ LAW CLASS シリーズ)』日本評論社(2014年5月)……杉本と仲道が毎回設定されたテーマについて理論刑法学の観点から自由に語り下ろし、それに高橋がイントロダクションとコメントを付すというスタイル。現代哲学などの隣接諸科学の知見を採り入れるなど、その内容は非常に興味深く刑法学専攻志望の学生にはオススメできるが、司法試験とは無関係。全11講。A5判、360頁。

  • 高橋則夫・田山聡美・内田幸隆・杉本一敏『財産犯バトルロイヤル——絶望しないための方法序説(法セミLAW CLASSシリーズ)』日本評論社(2017年5月)……全24講。A5判、340頁。

  • 井田良・丸山雅夫『ケーススタディ刑法』日本評論社(2019年9月・第5版)……丸山は町野門下。「ケーススタディ」とあるが、ケースそのものの解説というよりも、ケースに関連する刑法総論上の諸論点を淡々と解説する論点解説集となっている。全32章。A5判、424頁。

〔実務関連書〕

  • 幕田英雄『捜査実例中心 刑法総論解説』東京法令出版(☆2022年10月・第3版)……旧書名は『実例中心 刑法総論解説ノート』。著者は元最高検刑事部長。著者の言うところの実務通説である、いわゆる団藤=大塚ラインをベースに書かれている。警察官や検察官向けの書籍であり、一般的な教科書とは性格を異にするが、具体的事案の処理を強く意識した内容となっており、司法試験受験生の参考書としても有益な一冊である。ただし、団藤=大塚ラインがベースになっているだけあって、理論的に古さを感じさせる部分も散見される点には注意されたい。第2版では、判例がアップデートされ、初版(2009年11月)では言及されていなかった危険の現実化など最新の議論についてもフォローされた。全43設問。A5判、792頁。

  • 司法研修所検察教官室『捜査実例中心 刑法各論解説』東京法令出版(2020年6月)……現役の検察官によって執筆された、上掲『捜査実例中心 刑法総論解説』の姉妹本。平成29年6月から令和元年5月までにわたって「捜査研究」(東京法令出版)に連載された「刑法各論」に加筆・修正を加え、通貨偽造罪、犯人蔵匿罪・逃走罪及び競売入札妨害罪に関する設問を新たに追加して単行本化したもの。捜査実務上扱うことが多い犯罪類型に絞って解説されている。全28設問。A5判、392頁。

  • 河村博『-実務家のための-刑法概説』実務法規(✩2024年12月・10訂版)……実務家用の一冊本。著者は元名古屋高等検察庁検事長。実務に直結した実例と判例を中心とした解説。判例は令和5年10月までの1300件以上を掲載。総論と各論の解説が参照頁で紐付けされているなど関連した内容が統一的に理解できる。刑法以外の関連特別法も内容に多く盛り込まれており、かつ、解説中の特別法の条文がすべて掲載されているので特別法との関連がわかりやすい。事項索引が詳細に作られており、辞書としても使いやすいものとなっている。10訂版で令和5年刑法改正に対応し、また、判型を変更するなど内容を刷新。A5判、719頁。

  • 粟田知穂『条文あてはめ刑法 事案処理に向けた実体法の解釈』立花書房(2019年8月)……警察官向けの書籍だが、法曹志望者にとっても有益。A5判、384頁。

  • 小林憲太郎『刑法総論の理論と実務』『刑法各論の理論と実務』判例時報社(2018年11月、2021年5月)……判例時報連載「刑法判例と実務【総論編】(1)-(30)」に新章(第31章 犯罪論の体系)を書き下ろしし、加筆修正して単行本化したもの。主な読者層が法曹実務家であるため、「本書では、刑法総論の理論と判例実務に関する基本的に穏当な解釈が述べられている(はしがき)」と理解してよいとする。毎章リードとなる仮想対話に引き続き本編解説が付されるというスタイルで、毎回クスッとさせられる内容で、著者にしては読みやすく、実務的にも参考になる内容となっている。小林説は構成要件を不法類型とし、構成要件的故意・過失を認めない古典的な結果無価値論だが、過失責任を犯罪論のベースとし、「故意責任=過失責任+α(故意)」とする。すなわち、故意犯にも過失犯の客観的要件及び主観的要件(=結果の予見可能性)の具備が必要であるとする異説を採る。受験対策上、本書を通読するのはオーバースペックだが、上掲の小林『刑法総論(ライブラリ 現代の法律学)』を読んでわからなかった箇所をチェックするとよいだろう。『各論』は同連載【各論編】(31)-(60)の書籍化。体系的な順序にこだわらず、重要な論点を採り上げている。巻末には「イチケイのカラス」で有名な漫画家浅見理都氏の漫画「あるスーパーでの出来事」が収録されている。A5判、790頁、654頁。

  • 松宮孝明『先端刑法総論——現代刑法の理論と実務』『同各論』日本評論社(2019年9月、2021年9月)……法学セミナー連載〔『現代刑法の理論と実務・総論』759(2018年4月)-771(2019年4月)号、全13回〕の単行本化。実務を目指す読者に「実務にとって刑法総論の理論がどういう意味で重要か」を理解して、考えることを楽しんでもらう(はしがき)内容であり、大塚裕史らの「実務刑法学」の対極に位置する著作。刑法総論の主要テーマ13(責任の本質、不真正不作為犯については著者の研究不十分のため現時点では論じられていない。)につき考究。「刑法の学習を一通り終えている方」を想定読者としており、その内容は高度で、ドイツ刑法の基礎知識がないと理解できない箇所もある。近年の司法試験の傾向とは全く合致しないし、松宮説が判例実務に採り入れられる可能性は低いものの、実務家にとっても有益・示唆的な内容が多数含まれており、一読の価値がある。全13章・全20章。A5判、288頁・284頁。

  • 佐伯仁志・高橋則夫・只木誠・松宮孝明編『刑事法の理論と実務』成文堂(1:2019年7月、2:2020年6月)……研究者および実務家対象の最新かつ高度な専門書。研究者・実務家執筆の論文を収録し、理論刑法学と判例・実務の架橋を目指した著作。A5判、312頁・282頁。


【入門書・概説書】

  • 亀井源太郎・和田俊憲・佐藤拓磨・小池信太郎・薮中悠『刑法Ⅰ 総論(日評ベーシック・シリーズ)』『同Ⅱ 各論(同)』日本評論社(☆いずれも2024年2月・第2版)……慶應系中心の5名の研究者による共著。『総論』では、初学者への配慮から、体系を一部崩して解説しているが、個々の解説そのものは、オーソドックスであり、安定感がある(各論も同様)。情報量も司法試験との関係では必要かつ十分なもの。第2版はR4(侮辱罪の法定刑引上げ、拘禁刑の創設等)、R5(性犯罪規定の改正等)刑法改正に対応。全10章・17章。A5判、296頁・336頁。

  • 内田幸隆・杉本一敏『刑法総論(有斐閣ストゥディア)』有斐閣(2019年11月)……曽根門下による共著。初学者向けの「ハンディ地図」を目指したテキスト。司法試験的にも必要十分な内容にまとめられている。著者らは結果無価値論者だが、構成要件的故意・過失を認めるなど、実務にも配慮した立場を採る。ケースや図表を用いて学説を整理しており、初学者にも理解しやすいと思われる。序章(刑法総論の見取り図)+全11章。A5判、294頁。

  • 井田良『入門刑法学・総論(法学教室ライブラリィ)』『同・各論(同)』有斐閣(2018年11月・第2版、2018年3月・第2版、☆2024年12月・第3版)……法教連載(「ゼロからスタート☆刑法”超”入門講義」)の単行本化。著者の立場は行為無価値論(違法二元論)。『各論』第7講・危険犯は、体系的整合性の観点から、通説的理解とは異なる立場から説明されている。「総論(第2版)」において、「各論(第2版)」とのクロスレファレンスに対応。全12講・12講。A5判、288頁・282頁。
    なお、同著者による刑事法全体を通覧する入門書として『基礎から学ぶ刑事法(有斐閣アルマBasic)』がある。

  • 辰井聡子・和田俊憲『刑法ガイドマップ(総論)』信山社(2019年5月)……コンセプトは「歩きながら考える」。実務刑法学入門とされている。入門書だが、刑法総論を一通り勉強した者のまとめノートとしても使える。著者の一人が和田であることもあり、後掲『どこでも刑法』と相性がいい(もっとも、細かいところで説明が異なる箇所はある)。「初学者のための答案の書き方」、「平成22年・23年司法試験〔第1問〕の解答例」あり。序章(「犯罪論」をイメージしよう)+全13章。A5変型判、212頁。

  • 和田俊憲『どこでも刑法#総論』有斐閣(2019年10月)……著者の講義レジュメを元にした概説書。本書の特徴は1冊で刑法総論を2巡させるところにある(あとがき)。基本的には初学者向けの体裁であり、刑法総論の主要な分野を、すべての項目において4~6頁でわかりやすく解説しているが、その内容のレベルは高い。最新の判例実務の上澄み(たとえば、相当因果関係説などの過去の学説には言及していない)も解説されており、上級者の総まとめ用としても使える。なお、構成要件の概念の説明なしに、因果関係の説明に入るなど、わかりやすさを重視するあまり、体系的な視点が犠牲にされている点には(特に初学者は)注意されたい。四六判、208頁。
    放送大学の講義テキスト『刑法と生命(放送大学教材)』放送大学教育振興会(2021年3月、A5判、196頁)もある。

  • 島伸一編著、山本輝之ほか『たのしい刑法I 総論』『同II 各論』弘文堂(☆2023年3月・第3版)……二色刷り・図表多用。解答例付きのケーススタディあり。A5判、368頁・416頁。

  • 高橋則夫『<授業中>刑法講義——われ教える、故にわれあり』信山社(2019年12月)……行為無価値論者による一冊本。ライブ的な色彩を持った刑法概説(はしがきより)。冒頭に法的三段論法についての説明があるなど、本書は法学初学者のための入門書として執筆されたものだが、まとめ用途に使われることも想定されている(著者曰く、学部生にとっては「一夜漬けでマスターできる刑法本」、司法試験受験生にとっては論点チェックに便利かもしれないとのこと)。著者による体系書である『刑法総論』『刑法各論』成文堂(2018年10月・第4版、2018年10月・第3版)の参照ページが適宜挿入されているが、本書自体はオーソドックスな内容なので、高橋説を採らない読者でも特に支障はない。難点は判例を事件名で呼称し、年月日等の記載がないこと。序(刑法が得意になるための方法序説)+全43講+最終講(ルールの学習―野球のルールから法をみる)。四六変型判、240頁。

  • 仲道祐樹『刑法的思考のすすめ——刑法を使って考えることの面白さを伝えたいんだよ!』大和書房(2022年3月)……高橋門下。縦書き。四六判、272頁。

  • 小林憲太郎『ライブ講義 刑法入門(ライブラリ 法学ライブ講義4)』新世社(2016年11月)……結果無価値論者による1冊本。「ですます調」と著者による手書きの板書書きが相俟って刑法入門講義の実況中継といった趣。コンパクトながらも重要判例の要旨も載っている。また、高水準の内容を保ちながらも、著者が執筆した文献の中では比較的わかりやすい。ただし、本書はあくまで「小林説」の入門書であることに注意が必要である。本書を導入として上掲『刑法総論』その他発展的な基本書を読むとよいだろう。2色刷。A5判、264頁。

  • 川端博『レクチャー刑法総論』『同・各論』法学書院(2017年10月・第3版、2018年2月・第5版)……団藤門下による入門書。学部生やロースクール未修者を対象としている。わかりやすさを重視した、噛み砕いた説明が特徴。全35講・12講。A5判、368頁・336頁。

  • 浅田和茂・内田博文・上田寛・松宮孝明『現代刑法入門(有斐閣アルマBasic)』有斐閣(2020年3月・第4版)……関西結果無価値論の学者による入門書。全6章。四六判、354頁。

  • 只木誠『コンパクト刑法総論(コンパクト 法学ライブラリ 10)』『同各論(同11)』新世社(2022 年10月・第2版、2022年3月)……著者は罪数論・競合論の大家。ケースや設問を用いて、初学者向けに刑法総論の基礎を解説する。基本的に行為無価値論(違法二元論)ベースだが、独自説はあまり見られず、比較的中立的な立場から解説しているため、読み手を選ばない。学説の位置づけについての指摘が的確で、設問に対する解答も各説に対応させている。2022年刑法改正に対応。『各論』は風俗に対する罪が載っていない難点がある。総論:全34章・設問30問、各論:全20章・設問28問。2色刷。四六判、360頁・384頁。

  • 大塚仁『刑法入門』有斐閣(2003年9月・第4版)……検察事務官の研修用テキストとしても使われていた良書。口語体で、かつ、わかりやすく書かれている。入門書というよりは、実務や通説的見解の解説を刑法全体についてコンパクトにまとめたものであり、内容は濃い。全2部、全21章。A5判、380頁。

  • 山口厚『刑法入門(岩波新書)』岩波書店(2008年6月)……全4章。新書判、238頁。

  • 中山研一『刑法入門』成文堂(2010年10月・第3版)……著者は2011年7月に逝去。全7章。A5判、194頁。

  • 木村光江『刑事法入門』東京大学出版会(2001年3月・第2版、オンデマンド版:2013年5月・第2版)……刑事法をとおした入門書。全20章。A5判、256頁。

  • 町野朔・丸山雅夫・山本輝之『ブリッジブック刑法の基礎知識(ブリッジブックシリーズ)』信山社(2011年7月)……全9章。四六判、264頁。

  • 高橋則夫編『ブリッジブック刑法の考え方(ブリッジブックシリーズ)』信山社(2018年11月・第3版)……刑法学習の基礎体力づくりのために。執筆者(川崎友巳・高橋則夫・中空壽雅・橋本正博・安田拓人)。全20講。四六変型判、272頁。

  • 井田良・佐藤拓磨編著『よくわかる刑法(やわらかアカデミズム・〈わかる〉シリーズ)』ミネルヴァ書房(2018年5月・第3版)……第3版は、平成29年刑法一部改正ほか最新情報を踏まえて改訂された。B5判、240頁。

  • 藤木英雄・板倉宏『刑法案内1・2(勁草法学案内シリーズ)』勁草書房(いずれも、2011年1月)……1と2を併せて刑法総論全般を扱う。藤木が1977年7月に急逝した後は板倉が引き継いで執筆した。2019年10月にオンデマンド版。全22章。 B6判、256頁・260頁。

  • 藤木英雄著、船山泰範補訂『刑法(全)(有斐閣双書)』有斐閣(2013年9月・第4版)……はじめて刑法を学ぶ読者のために、学習上必要とされる基本的な事項を解説。平成23年・平成25年の通常国会で成立した刑法改正の内容(強制執行妨害罪の細分化、不正指令電磁的記録に関する罪、刑の一部の執行猶予に関する規定等)を盛り込んだ最新版。四六判、310頁。

  • 船山泰範『刑法がわかった』法学書院(2017年7月・改訂第6版)……平成29年法改正「性犯罪厳罰化等」に対応。A5判、400頁。なお、同著者による入門書として他に、『刑法を学ぶための道案内』法学書院(2016年10月、A5判、272頁)、『刑法の礎・総論』、『同・各論』法律文化社(2014年5月、2016年5月、A5判、268頁・288頁)がある。

  • 船山泰範編著『ホーンブック新刑法総論』、『同各論』北樹出版(2017年4月・改訂2版、2015年4月・改訂3版)……全12章・16章。A5判、236頁・260頁。

  • 船山泰範編『刑事法入門(Next教科書シリーズ)』弘文堂(2014年2月)……刑法哲学入門。全12章。A5判、224頁。

  • 設楽裕文編『法学刑法1 総論』『同2 各論』信山社(2010年4月)……B6判、144頁・208頁。

  • 設楽裕文・南部篤編『刑法総論(Next教科書シリーズ)』、沼野輝彦・設楽裕文編『刑法各論(同)』弘文堂(2018年8月、2017年4月)……全11・11章。A5判、292頁・308頁。

  • 裁判所職員総合研修所監修『刑法概説』司法協会(2017年1月・8訂版)……A5判、190頁。

  • 佐々木知子『警察官のためのわかりやすい刑法』立花書房(2015年8月)……著者は元検察官。警察官を始めとする初学者を念頭に置いて、学説には深入りせず、判例を中心とした実務的な内容で、刑法の全体像をつかめる。A5判、336頁。同著者によるその他の書籍として『誰にでも分かる刑法総論』『同・刑法各論』立花書房(2011年4月、2012年2月)がある。

  • 渡辺咲子『基礎から学ぶ刑法』立花書房(2015年11月)……著者は元検察官。「警察公論」の連載が元となっている。A5判、480頁。

  • 津田隆好『警察官のための刑法講義』東京法令出版(2022年7月・第2版補訂2版)……著者は現役の警察官(警察政策研究センター所長)。「警察官の、警察官による、警察官のための」概説書。第2版において、平成29(2017)年12月までの情報(法改正、裁判例)を反映。全2編、全57章。A5判、368頁。

  • デイリー法学選書編修委員会編『ピンポイント刑法』三省堂(2018年4月)……法学部生・ビジネスマン・一般読者向けの最新法学教養シリーズの刑法編。四六判、192頁。

  • 松原芳博『刑法概説』成文堂(☆2024年8月・第3版)……総論は全9章、各論は全7章。A5判、250頁。

  • 佐久間修編著『はじめての刑法学』三省堂(2020年5月)……刑法総論・各論の基本的な26の問題を解説した入門書。執筆者(小野晃正・川崎友巳・品田智史・十河太朗・豊田兼彦・安田拓人)。全26項目。A5判、320頁。

  • 佐久間修・橋本正博編、森永真綱ほか著『刑法の時間』有斐閣(2021年4月)……四六判、268頁。

  • 飯島暢・葛原力三・佐伯和也『定義刑法各論——財産犯ルールブック』法律文化社(2021年12月)……A5判、186頁(評価待ち)。

  • 山中敬一・山中純子『刑法概説I [総論]』『同II[各論]』成文堂(2022年4月・第2版、☆2023年4月・第2版)……第2版より山中純子が新たに著者に加わった。A5判、316頁・342頁。

  • 本庄武編著『ベイシス刑法総論』『同・各論』八千代出版(2022年4月、2022年10月)……A5判、360頁・388頁。(評価待ち。)

  • 小島秀夫編著『刑法総論——理論と実践』法律文化社(2022年5月)……増田豊門下による行為無価値一元論を採る総論教科書。凡例の引用文献は増田のモノグラフィ4冊と判例百選のみとかなり硬派な内容となっている。志向的行為論、故意犯における法的因果関係論としての故意帰属論、過失の標準における個人的過失(個別化)説、主観的違法性論、行為無価値一元論、違法性阻却原理としての行為価値衡量説、正当防衛権の正統化根拠としての個人主義的アプローチ、認識的自由意志論に基づく批判的責任論、正当化事由の錯誤における法律効果指示説、不能犯における修正された客観的危険説、共犯の処罰根拠における惹起志向説、共謀共同正犯論における共謀行為=実行行為説、正犯と共犯の区別に関する自己答責性原理、具体的な処罰行為の正統化根拠としての消極的応報刑論、制度としての刑罰の正統化根拠としてのコミュニケーション的一般予防論などが特徴。全15章。A5判、264頁(本文249頁)。

  • 葛原力三・佐川友佳子・中空壽雅・平山幹子・松原久利・山下裕樹『ステップアップ刑法総論』法律文化社(2022年10月)……犯罪の基本型→変化型→理論という順序で叙述。まず判例・通説の立場を説明し、理論面の解説は最後に行うことにより、実務刑法学と理論刑法学のいいとこ取りを狙った内容となっている。短文の網掛けテーゼ(例:狭義の相当性について、判例・学説ともに危険現実化説を採用している。)と囲み事例により初学者にも理解しやすい内容でオススメできる。A5判、234頁。

  • ☆照沼亮介・足立友子・小島秀夫『一歩先への刑法入門』有斐閣(2023年12月)……法学部でこれから刑法を学ぶ学生を対象とした入門書。体系については中立的な立場から両論併記しており読み手の立場を選ばない。総論・各論の主要論点(網羅的ではない)を採り上げており基本的論点にとどまらず発展的な論点にも言及している。また刑法学を学ぶ意義や論述式答案の書き方も載っている。刑法講義や基本書独修のサブテキスト用途としても使える内容となっておりオススメできる。全29Unit。A5判、364頁。

【注釈書・コンメンタール】

  • 大塚仁・河上和雄・中山善房・〔佐藤文哉〕・古田佑紀編『大コンメンタール刑法〔全13巻〕』青林書院(第1巻:2015年7月・第3版、第2巻:2016年8月・第3版、第3巻:2015年9月・第3版、第4巻:2013年10月・第3版、第5巻:2019年7月・第3版、第6巻:2015年12月・第3版、第7巻:2014年6月・第3版、第8巻:2014年5月・第3版、第9巻:2013年6月・第3版、第10巻:2006年3月・第2版、第11巻:2014年9月・第3版、第12巻:2003年3月・第2版、第13巻:2018年7月・第3版)……我が国最大級の刑法典注釈書。実務法曹及び研究者による顕名執筆。判例・裁判例は公刊物未登載のものも含めて網羅的に収録されているが、学説紹介についてはムラがあり、一世代前の学説の紹介にとどまっている解説がある。しかし司法試験・予備試験の合格のためには最新の学説よりも使い古された通説をまずは学ぶべきであり、網羅性ある本書はいわゆる基本書よりは使いやすい。A5判、第1巻〔序論・第1条~第34条の2〕:824頁、第2巻〔第35条~第37条〕:780頁、第3巻〔第38条~第42条〕:618頁、第4巻〔第43条~第59条〕:502頁、第5巻〔第60条~第72条〕:912頁、第6巻〔第73条~第107条〕:530頁、第7巻〔第108条~第147条〕:488頁、第8巻〔第148条~第173条〕:484頁、第9巻〔第174条~第192条〕:312頁、第10巻〔第193条~第208条の3〕:596頁、第11巻〔第209条~第229条〕:680頁、第12巻〔第230条~第245条〕:504頁、第13巻〔第246条~第264条〕:930頁。

  • 西田典之・山口厚・佐伯仁志編『注釈刑法(有斐閣コンメンタール) 第1-4巻〔全4巻(予定)〕』有斐閣(第1巻 総論 §§1~72:2010年12月、第2巻 各論(1) §§77~198:2016年12月、第4巻 各論(3)§§235~264:2021年12月)……旧版(団藤重光責任編集『注釈刑法』全6巻)に比べ、大幅にスリム化された。理由として「はしがき」によると、①読者対象に法科大学院生や学部学生をも考慮に入れたこと、②原則として戦後の重要な判例・裁判例のみとりあげる方針としたこと、③判例・裁判例の引用を極力控えたことが挙げられている。執筆者はいずれも編者らの門下生であり、したがって、東大系結果無価値論の立場からの記述で一貫しており、立場のばらつきは少ない(ただし、執筆者間に意見の相違がある箇所もないではない。因果関係の錯誤など)。また、そのレベルは高く、最新の理論刑法学の研究成果が盛り込まれているといっても過言ではなく、東大系結果無価値論の一つの到達点である。ただ、これに対し、現在、樋口亮介教授らの批判により、体系的綻びが生じつつあることに注意が必要である。また、刑法学界を総動員して執筆された旧版に比べ、量的にも内容的にも網羅性が損なわれているとの評価も少なくない。現時点で、第3巻のみが未刊行。A5判、1038頁・892頁・頁・696頁。

  • 前田雅英編集代表、松本時夫・池田修・渡邉一弘・河村博・秋吉淳一郎・伊藤雅人・田野尻猛編集委員『条解 刑法(条解シリーズ)』弘文堂(☆2023年3月・第4版補訂版)……実務家向けのコンパクトな注釈書。執筆者は、ほぼ全て実務家で占められており、条解刑訴と同じく編集委員らの合議による修正がなされているため、各執筆者の分担区分は、掲記されていない。文字が大きく余白も多いため、他の条解シリーズに比べ情報量がやや少ない。A5判、960頁。

  • 浅田和茂・井田良編『新基本法コンメンタール 刑法(別冊法学セミナー)』日本評論社(2017年9月・第2版)……第1版(2012年9月)は、刑の時効、強制執行を妨害する犯罪、サイバー犯罪に関する改正など、平成23年までの法改正に対応。第2版は、2017年通常国会で成立した性犯罪規定の改正までが反映され、第1版(2012年9月)以降の判例・学説の動きもフォローされた。事項索引・ 判例索引あり。B5判、688頁。

  • 松宮孝明・金澤真理編『新・コンメンタール 刑法』日本評論社(☆2021年1月・第2版)……伊東研祐・松宮孝明編『学習コンメンタール 刑法』(2007年)を改題のうえ改訂したもの。改題後も、初版は伊東と松宮が編者であった。インターネット・コンメンタールとしても提供されている。A5判、544頁。

  • 川端博・西田典之・原田國男・三浦守編集代表、大島隆明編集委員『裁判例コンメンタール刑法 第1巻・第2巻・第3巻』立花書房(第1巻:2006年7月、第2巻:2006年9月、第3巻:2006年11月)……刑法全条文の意義・要件等を下級審から上級審までの裁判例を探ることによって解説する。A5判、第1巻〔第1条~第72条〕:680頁、第2巻〔第73条~第211条〕:664頁、第3巻〔第212条~第264条〕:664頁。


【判例集・ケースブック】

〔判例集等〕

  • 佐伯仁志・橋爪隆編『刑法判例百選Ⅰ 総論』『同・Ⅱ 各論』有斐閣(いずれも、2020年11月・第8版)……解説付き判例集の筆頭。百選の評釈内容ではなく、「百選に掲載されていること」自体が、当該判例の試験における重要度を示すメルクマールになるので、まずは百選から始めるのが無難ではある。ただし、解説は、憲法百選と並ぶ玉石混淆(判例の解説でなく、論点解説をしているようなものも散見される。憲法では執筆方針を内在的分析に変えたが、刑法では評釈内容を執筆者の裁量にまかせ、立場がバラバラでもおかまいなしである。佐伯は、「はしがき」でバラバラな評釈の中で「お気に入り」の判例を見つけて……と記述。「目次だけ把握し他の判例集を活用」又は「事案と判旨のみ参照」するのは、旧試以来の伝統的な方便である)。第8版から編者の一人が、山口厚から橋爪隆に変更された。Ⅰ 総論:107件、Ⅱ 各論:124件を収載。B5判、224頁・256頁。

  • 前田雅英・星周一郎『最新重要判例250 刑法』弘文堂(☆2023年3月・第13版)……260判例を収録。コンパクトに多くの判例を解説している。ただし、前田説に沿う形で判例を取り上げ、解釈する傾向があるので、前田『講義』や木村『刑法』を基本書としていない者が使用する場合には、注意を要する。2色刷。B5判、298頁。

  • 西田典之・山口厚・佐伯仁志・橋爪隆『判例刑法総論』『同・各論』有斐閣(☆2023年3月・第8版)……解説なしの判例集。下級審裁判例まで網羅しており、総論・各論を合わせると収録数は1000件を超える。山口青本、西田刑法など、クロスリファレンスがなされている基本書を使用するなら、便利ではある。それらを利用しない場合でも、解説は一切不要だと考える学生なら、こちらを選択すべきだろう。A5判、574頁・592頁。

  • 山口厚『基本判例に学ぶ刑法総論』『同各論』成文堂(2010年6月、2011年10月)……単一著者による重要判例の解説本。事案の解説のみならず、当該判例を起点に、関連する重要論点も平易に解説。必読。A5判、316頁・340頁。

  • 山口厚『新判例から見た刑法(法学教室ライブラリィ)』有斐閣(2015年2月・第3版)……最近の判例を題材にした解説。山口説に立たなくても、鋭い問題意識や分析は、判例の重要性や出題可能性と相まって参照する価値がある。A5判、386頁。

  • 井田良・城下裕二編『刑法総論判例インデックス』(2019年12月・第2版)、『刑法各論判例インデックス』商事法務(☆2023年3月・第2版)……見開き2ページで簡潔に説明している。事実関係をイラストにより図示しており、イメージを持ちやすい……というか「笑える」。また、解説は簡潔であるが、判プラ同様に項目ごとに執筆分担がなされているので、一貫した理解が進むと思われる。総論175件、各論184件を収載。A5判、400頁・416頁。

  • 井田良ほか『刑法ポケット判例集』弘文堂(2019年3月、☆2025年3月・第2版改訂予定)……文字通りポケットサイズのコンパクトな判例集。事実の概要と判旨のみ。総論・各論の基本判例240件強、概要のみのAppendix120件強を収録。四六判、272頁。

  • 成瀬幸典ほか編『判例プラクティス刑法I』『同II』信山社(2020年3月・第2版)……通称「判プラ」。Iは総論、IIは各論。Iの収録判例は481件、IIは543件と上掲『判例刑法』に迫る収録件数。1頁に事案・争点・判旨・解説と盛り込み過ぎである。若手・中堅の学者が、特定の分野の複数の判例の解説を執筆しているので、判例理論の一貫した理解には資すると考えられる。B5判、470頁・558頁。

  • 十河太朗・豊田兼彦・松尾誠紀・森永真綱『刑法総論判例50!(START UPシリーズ)』『刑法各論判例50!(同)』有斐閣(2016年12月、2017年12月)……刑法を初めて学ぶ学生に向けた判例教材。予備校本のようなポップな体裁。2色刷。B5判、156頁・150頁。

  • 高橋則夫・十河太朗編『新・判例ハンドブック刑法総論』『同各論』日本評論社(いずれも、2016年9月)……重要判例の概要・判旨・解説を1頁でコンパクトに紹介。総論203件、各論175件を収録。四六判、240頁・208頁。

  • 大谷實編『判例講義刑法1 総論』『同・2 各論』悠々社(2014年4月・第2版、2011年4月・第2版)……大谷門下による判例集。刑法総論は、平成24年末までの29件の新判例を取り込み、合計154判例を、各論は、平成21年3月までの153判例を収録。出版社廃業により絶版。

  • 林幹人『判例刑法』東京大学出版会(2011年9月)...…著者が『判例時報』などに掲載した判例研究を項目別にまとめ直し、各項目に複数の設問を付したもの。設問は「~(判例)は、どういう事実につきどういう判断を示したか」といった事案分析型のものが中心で、著者による判例研究は設問に取り組む際の参考にして欲しいとのこと。いわゆる「ケースブック」と異なり、そのままの判決文等が掲載されていないので、判例研究や設問で指示されている(一項目につき複数の判例が指示される)判例については、別途、判例集なり裁判所HPからのダウンロードなりで入手したうえで取り組む必要がある。A5判、440頁。

  • 松原芳博編『刑法の判例 総論』『同 各論』成文堂(2011年10月)...…A5判、326頁・302頁。

  • ☆松原芳博編『続・刑法の判例 総論』『続・同 各論』成文堂(2022年11月)...…A5判、262頁・288頁。

  • 川端博『刑法基本判例解説』立花書房(2012年7月)...…総論66件、各論90件、合計156件を収録。A5判、352頁。

  • 奥村正雄・松原久利・十河太郎・川崎友巳『判例教材刑法I 総論』成文堂(2013年4月)...…B5判、512頁。

  • 小林憲太郎『重要判例集 刑法総論(ライブラリ 現代の法律学 JA13)』新世社(☆2022年7月・第2版)……小林『刑法総論』における判例情報の不足を補う趣旨で作成された判例教材。しかしながら、単体の教材としての使用も想定されている。著者によると、「できる限り客観的な説明を心がけ」ており、また「判例の数も、引用の分量も、そして解説の量もかなりスリム化されている」(はしがき)とのことであるが、"コバケン節"とでも言うべき衒学的な独特の文体は相変わらず健在である、すなわち読みにくいのである。A5判、240頁(本文231頁)。

  • 船山泰範・清水洋雄編『刑法判例ベーシック150』法学書院(2016年3月)...…A5判、336頁。

  • ☆成瀬幸典・安田拓人編『判例トレーニング刑法総論』信山社(2023年3月)……B5判、224頁。

〔ケースブック〕

  • 岩間康夫ほか『ケースブック刑法』有斐閣(2017年3月・第3版)……京大系。法科大学院の双方向型授業を想定した学習教材。設問は判例分析よりも、理論面や細かな学説を問うものが多く、司法試験対策としてはほとんど無用の長物と言ってよいものだったが、近年、司法試験に学説問題が出題されるようになったことによって、そうとも言えなくなった。第2版(2011年4月)で総論・各論をまとめて一冊になった。第3版において、判例、設問が厳選され、大幅なコンパクト化が図られた。全20章。B5変型判、390頁。

  • 笠井治・前田雅英編『ケースブック刑法』弘文堂(2015年3月・第5版)……主に前田門下の学者らによるケースブック。全30講。A5判、594頁。

  • 町野朔・丸山雅夫・山本輝之編『ロースクール刑法総論』『同各論』信山社(2004年4月、2004年10月)……2冊計25テーマ、計80の判例を取り扱う。B5判、160頁・156頁。

  • 山口厚編著『ケース&プロブレム刑法総論』、『同刑法各論』弘文堂(2004年12月、2006年9月)……生きた法である判例を素材にした演習書。「ケースブックとは異なり、基礎的な設問から応用的な設問へとステップをふみながら、法的思考力と事案解決能力が身につく自習も可能な演習書」とされている。全12章・11章。A5判、410頁・336頁。

(古典)
  • 町野朔・堀内捷三・西田典之・前田雅英・林幹人・林美月子・山口厚『考える刑法』弘文堂(1986年10月)……A5判、384頁。


【演習書】

  • 十河太朗『刑法事例演習——メソッドから学ぶ』有斐閣(2021年4月)……事例問題を解くためのルールや手法をMethod、その手順をStepとして解説。基本書には載っていないが、論文答案を作成する際に当然のこととされている約束事を言語化しており、初学者にとり有用と思われる。まずはここから。A5判、270頁。有斐閣ウェブサポートあり。

  • 嶋矢貴之・小池信太郎・品田智史・遠藤聡太『徹底チェック刑法—基本をおさえる事例演習』有斐閣(2022年6月)……刑法をひととおり勉強した人・勉強中の人が、長文の事例問題を解けるレベルに至るまでの橋渡しをすることを目的とした短文事例演習書(はしがき)。総論・各論の主要論点をほぼ網羅している。また、解説も判例およびその標準的理解をベースにしているため、論点まとめ本・論証集としても使用できる内容となっている。大塚『応用刑法総論・各論』のエッセンスを凝縮して、一冊本にまとめたようなイメージ。論点の抽出ができない、論証の仕方がわからないという人にオススメ。全43講。A5判、310頁。

  • ☆嶋矢貴之・小池信太郎・鎮目征樹・佐藤拓磨『刑法事例の歩き方——判例を地図に(法学教室ライブラリィ)』有斐閣(2023年12月)……法教連載(法教463-486号・全22回)の単行本化。『徹底チェック刑法』(基礎的な事例演習本)と『刑法事例演習教材』(発展的な事例演習本)の間を埋める中級レベル向けの事例演習本。徹底チェック刑法よりアカデミック(実行の着手における進捗度説や共謀共同正犯での全体行為説など、有力化しつつある学説の紹介及び参考文献引用など)かつ、刑法事例演習教材よりも、実務刑法・司法試験を意識した内容である。①参考答案こそないが、判例・学説の現状の解説のみならず、事例へのあてはめのやり方もきちんと解説していること、②司法試験の出題動向等にも触れていること、などが特徴となっている。全20講。A5判、554頁。

  • 井田良・佐伯仁志・橋爪隆・安田拓人『刑法事例演習教材』有斐閣(2020年12月・第3版)……第一線執筆陣による、司法試験を意識した長文の事例問題集。設例は52個で、その一つひとつに遊び心が込められており、学生を飽きさせない。巻末には、事項索引と判例索引も付いていて便利。難易度としては、中級者以上向けで、独習することができる程度の解説はある。しかし、その理論水準はかなり抑えられており、相応に高度な論点が問題に含まれているのに、ほとんど言及がなかったり、多少におわせるにとどめたりするので、要注意である。また、解説では、あてはめについて基本的にスルーしているので、別途補完する必要がある。以上から、独学には、全く適さない書籍である。B5変型判、290頁。

  • 只木誠編著、北川佳世子・十河太朗・髙橋直哉・安田拓人・安廣文夫・和田俊憲著『刑法演習ノート——刑法を楽しむ21問』弘文堂(2022年3月・第3版)……司法試験考査委員や元最高裁調査官といった豪華な執筆陣による司法試験向けの長文事例問題集。司法試験合格者が書き下ろした実践的な解答例が全ての設問に付されている。ただし、解答例は、学者による当該設問の解説と必ずしも一致していない部分もあるので注意が必要である。あくまで参考答案の一つと捉えるのが適当であろう。A5判、436頁。

  • 井田良・大塚裕史・城下裕二・髙橋直哉編著『刑法演習サブノート210問』弘文堂(☆2024年4月・第2版)……上掲『刑法演習ノート』の姉妹本。刑法の基本中の基本を網羅的に学ぶことができる、初学者向けの演習書。設問・解説ともに1頁ずつで主要論点をコンパクトに網羅している。解説が判例ベースの穏当な見解でまとめられている点は評価できるが、1頁という紙幅の都合のためか、全体的に舌足らずの感は否めない。そのため、基本書を一周した程度の初学者にとってはやや取り組みにくいであろう。他方、網羅性が非常に高くコンパクトであることから、中級者以上が論点を総ざらいするのには好適であると思われる。A5判、460頁。

  • 佐久間修・高橋則夫・松澤伸・安田拓人『Law Practice 刑法』商事法務(2021年7月・第4版)……基本問題56問と発展問題12問から成る、学部~ロースクール1年生向けの演習書。問題はいずれも事例問題ではあるが、事案の分析・処理が求められるようなものではなく、実質的に1行問題に近いものも散見される。A5判、320頁。

  • 島田聡一郎・小林憲太郎『事例から刑法を考える(法学教室ライブラリィ)』有斐閣(2014年4月・第3版)……法教連載を書籍化した事例問題集。問題文は長めだが、司法試験ほどではない。答案作成を意識した実戦的なアドバイスも豊富に盛り込まれている。設問もよく練られており、司法試験対策の演習書としての完成度は非常に高い。ただし、司法試験のレベルを優に超えた問題もあるなど難易度は非常に高く、使用者の実力によっては消化不良に陥る可能性がある。また、解説が非常にマニアックになってしまっている箇所もある。なお、第3版の改訂作業は、島田の急逝以後は小林のみによって行われた。A5判、518頁。

  • 井田良・田口守一・植村立郎・河村博編著『事例研究 刑事法I 刑法』日本評論社(2015年7月・第2版)……現役の裁判官・検察官を中心とした執筆陣が事例問題を解説。設問の数は総論8問・各論9問と少なめで、論点を網羅することはできないが、各設問末尾の関連問題まで潰せば、重要論点については広範囲をカバーすることができる。主要な判例・学説の対立のみならず、先例的価値の大きな判例については、それが掲げる具体的な考慮要素にも多く言及がなされている。実務家の解説が多いこともあり、あてはめを鍛えるのにも有用。A5判、460頁。

  • 大塚裕史『ロースクール演習刑法』法学書院(2022年6月・第3版)……受験新報の誌上答練を書籍化した、全36問からなる司法試験を意識した長文事例問題集。もっとも、問題文の長さ自体は本番ほどではない。答案例こそ付されていないが、「解説を要約すればそのまま答案が完成できるようになっている」(出版社の紹介文より)ため、独習用の教材としても好適。難点をあげるとすれば、論点相互が絡み合うような捻りの効いた問題が少なく、論点をただ単に足し合わせただけのような、もっぱらボリュームで勝負してくる問題が多いことか。また、問題文の表現にあいまいな部分も散見され、解説を読んで思わぬ論点落とし(?)に驚かされることも。A5判、544頁(本文519頁)。

  • 池田修・杉田宗久編『新実例刑法〔総論〕 刑法理論と実務を架橋する実例33問』青林書院(2014年12月)……下掲『新実例刑法総論』の「設問や執筆者を変え〔替え〕、近時の学説・判例を踏まえた内容に改めた全面的な新版」(はしがき)である。「裁判員制度による影響とその可能性について意識したため、執筆者は裁判員裁判を担当した経験のある、実務経験十数年以上の裁判官」(はしがき)が執筆している。旧版と比べて新たな学説への目配りが効いているが、特定の学説に偏ることなく判例・裁判例を尊重しつつ手堅く解説しており、その姿勢は答案作成上参考になるだろう。裁判員裁判を踏まえてどのように裁判員に説示すべきかを論じているのも特徴のひとつ。とりわけ、最新判例をフォローした、正当防衛関連(5問)、共謀共同正犯の成否、承継的共犯などは必読である。目次及び設問。A5判、500頁。

  • 池田修・金山薫編『新実例刑法〔各論〕』青林書院(2011年6月〔2014年12月2刷にて、その後の法改正についての補注あり〕)……法科大学院を意識して、総論よりも事例はやや長め。こちらもすべて実務家(ほとんどが現職の刑事裁判官36名)が執筆している。百選改訂の折には新たに選出されることが予想される、直近の重要な最高裁判例をモデルにした事例(全36項目)が並んでおり、できる限り目を通しておきたい。A5判、500頁。

  • 前田雅英『司法試験論文過去問LIVE解説講義本 前田雅英刑法(新Professorシリーズ)』辰已法律研究所(2016年2月・改訂版)……司法試験論文本試験解説書。平成18年から平成27年までの問題について、「模範答案」1通と、「再現答案」2通を使いながら解説。A5判、294頁。

  • 松宮孝明編『判例刑法演習』法律文化社(2015年3月)……刑法総論と各論を有機的に結びつけ、応用できることを目標とした演習書。まず、判例の事案と判旨が示され、次に当該判例において問題となる論点を検討し、最後に判例の射程を検討するという形式となっており、書名のとおり、判例の内在的理解に重きを置いた内容となっている。執筆者は、松宮、安達光治、野澤充、玄守道、大下英希の5名。A5判、346頁。

  • 田中康郎監修、江見健一編集代表『刑事実体法演習 理論と実務の架橋のための15講』立花書房(2015年11月)……司法試験の刑事系科目である刑法(総論・各論)に関する主要なテーマについて、現役の刑事裁判官が、理論と実務の架橋をめざして学説と判例の接点を分かりやすく解説した演習書(はしがき)。「捜査法演習」・「刑事公判法演習」の姉妹書である。刑法の修学と題した序説では、司法試験の採点実感等を掲げて刑法学修のポイントを示す。問題は全15講。いずれも長文の事例問題に、解説を付すスタイル(答案例は付されていない)。「実務と学説の双方に通じた裁判官の事案解決型の思考過程を追体験」(はしがき)することができる。特徴は、犯罪事実記載例を掲げていること。なお、現在出版社品切れ。A5判、560頁。

  • 木村光江『演習刑法』東京大学出版会(2016年3月・第2版)……全23問からなる長文事例問題集。全問に答案例が付されている。著者が前田門下ということもあり、前田の基本書との相性が極めて良い。A5判、480頁。

  • 安田拓人・島田聡一郎・和田俊憲『ひとりで学ぶ刑法』有斐閣(2015年12月)……3段階に分類された問題群(Stage 1 Schüler(概念と論点を正確に理解する):全20問、Stage 2 Sänger(事例問題を解く基礎的な力を身につける):全11問、Stage 3 Meister(複雑な事例を解く):全3問 )からなる演習書。A5判、422頁。

  • 町野朔・丸山雅夫・山本輝之編『プロセス演習 刑法〔総論・各論〕(プロセスシリーズ)』信山社(2009年4月)……全24章。B5判、362頁。

  • 植村立郎監修『設題解説 刑法(二)』法曹会(2014年11月)……刑法総論の重要テーマを含む短文の事例問題(全30問)につき裁判官(裁判所職員総合研修所の教官?)が解説し、これに監修者の植村が辛口の【補論】を付すスタイル。設問の前に、いきなり当該設問において問題となる論点が一通り示されているため、論点抽出能力は全く養われない。裁判官が執筆しているため、概ね判例に沿った解説で信頼できる。なお、因果関係は相当因果関係説の立場から解説がなされている。雑誌『法曹』連載を単行本化したもので、題名に(二)とあるが本巻のみで総論の主要論点はカバーされている。全30章。新書判、536頁。なお、(一)は絶版の模様。

  • 関根徹『実戦演習 刑法——予備試験問題を素材にして』弘文堂(2020年3月)……平成23年度~平成30年度までの司法試験予備試験論文問題の解説。参考答案付。A5判、264頁。

  • 高橋則夫編、岡部雅人・山本紘之・小島秀夫『<授業中>刑法演習——われら考える、故にわれらあり』信山社(2021年3月)…… 上掲『<授業中>刑法講義——われ教える、故にわれあり』の姉妹本。レアケース・例外事例、あるいは長文で複雑な事例を挙げてある演習書に進む前に、典型的・基礎的な事例を処理する能力を身につけるための演習書。したがって、司法試験で問われる発展的な論点(例えば、因果関係の錯誤や共謀の射程)は省略されている。そのため初学者向け。四六変判、248頁。

  • 佐久間修『新演習講義刑法』法学書院(2009年8月)……旧試対策問題集だった旧著『演習講義 刑法総論』法学書院(1998年5月)及び『同 刑法各論』法学書院(1997年10月)の改訂版。問題は旧試をイメージしたものであるが微妙にズレたものが多い。さらに、解説は難解なうえに、問題から離れた派生論点についての説明を延々と続けたり、少数説よりの自説の主張に終始したりしている面もあり、使い勝手は悪い。A5判、368頁。

  • 設楽裕文編『法学刑法3 演習(総論)』『同4 演習(各論)』信山社(2010年8月)……B6判、216頁・232頁。

  • 船山泰範・清水洋雄・中村雄一編著『刑法演習50選 入門から展開まで』北樹出版(2012年4月)……刑法を初めて学ぶ人と、法学部を卒業したレベルの人のための刑法演習書。刑法総論と各論について、それぞれ、入門編と展開編が設けられている。A5判、254頁。

  • 甲斐克則編『刑法実践演習』法律文化社(2015年10月)……第I部から第III部までの構成のうち、第I部は精選された計24件(総論12件、各論12件)の最新重要判例の解説、第II部・第III部は司法試験の過去問(論文・択一)の解説となっている。第II部・第III部については、「司法試験問題(論文・択一)を徹底的に解剖」と謳っている割には、論文問題の解説はお世辞にも徹底的になされているとは言えず、択一問題に至っては体系順に問題が並べられているだけで、解説がほぼ皆無なうえに取り上げられている問題も少なすぎるなど、謳い文句からは程遠い中途半端な内容となっている。A5判、328頁。

(古典)
  • 大塚仁・佐藤文哉編『新実例刑法〔総論〕』青林書院(2001年2月)……刑法の論点本。すべて実務家(ほとんどは現職の刑事裁判官30名)が執筆している。イメージ的には、論点ごとの重要判例の調査官解説をほどよく要約したようなもの。したがって、必ずしも斬新な議論が紹介されている訳ではないが、団藤・大塚らの伝統的行為無価値論とは親和性が高いので、これらの本を使用する者であれば、参考書として座右に置くのも良いだろう。編者が交代した新版が出たものの、設問によってはいまだに使える。A5判、460頁。

  • 船山泰範『司法試験論文本試験過去問 刑法』辰已法律研究所(2004年5月・新版補訂版)……旧司法試験の過去問集。船山教授の解説講義を書籍化。問題解説、受験生答案検討、教授監修答案からなる。平成1-15年度の問題30問、昭和の問題13問の全43問。絶版だったがオンデマンドで復刊された。少数説が多い。

  • 川端博『事例式演習教室 刑法』勁草書房(2009年6月・第2版)……初版(1987年5月)から22年ぶりに全面改訂された総論・各論全45問からなる短文問題集。元々が旧司500人時代に出版されたものであることから、「事例式」と銘打ちながらも事例は短いうえに、一行問題も混ざっているなど、問題形式がかなり旧司チックな演習書となっている。論点整理には有益。縦書き。現在、出版社品切れ。A5判、328頁。

  • 斉藤誠二・船山泰範編『演習ノート刑法総論』法学書院(2013年4月・第5版)……全100講。A5判、276頁。

  • 岡野光雄編『演習ノート刑法各論』法学書院(2008年7月・第4版)……全110講。A5判、240頁。

  • 藤木英雄『刑法演習講座』立花書房(1984年1月)……藤木説を理解するためには必読の演習書。出版社在庫なし。

  • 石川才顯・ 船山泰範編『刑法1 総論(司法試験シリーズ )』、『刑法2 各論(同 )』日本評論社(1993年12月・第3版、1994年1月・第3版)……B5判、頁・頁。

  • 福田平・大塚仁『基礎演習刑法(基礎演習シリーズ)』有斐閣(1999年8月・新版)……総論・各論あわせて66問。出版社在庫なし。四六判、308頁。

  • 前田雅英『刑法演習講座』日本評論社(1991年4月)……A5判、518頁。

  • 前田雅英『Lesson刑法37』立花書房(1997年4月)…解答例付き。A5判、446頁。


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最終更新:2025年04月24日 23:47
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