伊東研祐『刑法講義・総論(法セミ LAW CLASS シリーズ)』『同・各論(同)』日本評論社(2010年12月、2011年3月)……夭折の天才・藤木英雄(東大最後の行為無価値論者)の弟子。団藤・大塚ラインとは一線を画する、洗練された行為無価値論を採る。法学セミナーでの連載を単行本化したもので、著者曰く未修者向け。総論は、著者の講義を聴講しない独習者にも理解できるよう著者の特異な独自説はあえて載せていないが、自説主張が全くないという意味ではなく、著者の法哲学見地(『総論』第1章参照)からまとめられた体系に沿った主張もある。学説の引用元を表示していない点、類書に比べ判例の紹介・引用がやや少ない点は賛否がわかれるところだろう。各論も総論と同じく特異な独自説は少なめだが、新たな視点からの記述も多く参考になる。判例に批判的な箇所も多いが実用上支障はない。著者の文体は非常に難解であり、容易に読み進められないが、一方で読み応えがあるという評価もある。A5判、480頁・488頁。 なお、同著者による、より初学者向けの基本書として『刑法総論(新法学ライブラリ 17)』新世社(2008年2月)がある。
松原芳博『刑法総論(法セミ LAW CLASS シリーズ)』『刑法各論(同)』日本評論社(2022年3月・第3版、☆2024年8月・第3版)……曽根門下だが、行為を独立の犯罪要素としない三分体系をとり、構成要件については西田説と同様、違法構成要件と責任構成要件に分割する体系を採用し、共同正犯論においては共同意思主体説を採用しないなど、その立場は平野門下の立場に近い。内容は高度であり、山口説や西田説をふまえて最新の論点(たとえば具体的法定的符合説における故意の個数)を盛り込みつつ、事例を用いて平易に解説している。『各論』は保護法益論などで理論的に詰められており、名誉毀損罪の真実性の錯誤についての故意阻却説、財産罪の保護法益についての本権説(適法占有説)などが特徴的。学説・論文を広く引用しているので調べもの用途に適している。条文索引があるのは至便。各論第2版より巻末に重要裁判例の事例集が付された。各論第3版において、性犯罪、侮辱罪、逃走罪および自由刑に関する法改正その他重要な判例をフォロー。A5判、632頁(本文597頁)、784頁(本文745頁)。
高橋則夫・杉本一敏・仲道祐樹『理論刑法学入門 刑法理論の味わい方 (法セミ LAW CLASS シリーズ)』日本評論社(2014年5月)……杉本と仲道が毎回設定されたテーマについて理論刑法学の観点から自由に語り下ろし、それに高橋がイントロダクションとコメントを付すというスタイル。現代哲学などの隣接諸科学の知見を採り入れるなど、その内容は非常に興味深く刑法学専攻志望の学生にはオススメできるが、司法試験とは無関係。全11講。A5判、360頁。
佐久間修・高橋則夫・松澤伸・安田拓人『Law Practice 刑法』商事法務(2021年7月・第4版)……基本問題56問と発展問題12問から成る、学部~ロースクール1年生向けの演習書。問題はいずれも事例問題ではあるが、事案の分析・処理が求められるようなものではなく、実質的に1行問題に近いものも散見される。A5判、320頁。