【基本書】
〔メジャー〕
- 金井貴嗣・川濵昇・泉水文雄編著『独占禁止法』弘文堂(2018年4月・第6版)……司法試験受験生経済法選択者の中で多くのシェアを誇る。「不公正な取引方法」はガイドラインの解説に留まる箇所も存在する。したがって、ガイドラインを見つつ読むと、より理解が深まる。記述自体はガイドライン・判例・通説に沿って書かれている穏当なものであり、経済法選択で白石説を採らない場合は、最も有力な選択肢となる。執筆者(鈴木孝之・武田邦宣・田村次朗・土田和博・宮井雅明・山部俊文・和久井理子)。全11章。A5判、616頁。
- 根岸哲・舟田正之『独占禁止法概説』有斐閣(2015年11月・第5版)……大家二人による、緻密な解釈論に定評のある一冊。やや薄く、記述も平板だが、上記金井・川濱・泉水編『独占禁止法』には記載のないことが記載されていることもある。第5版出版後の重要判例やガイドラインの改正を受けた、補遺が作成されている。縦書き。全7章。A5判、464頁。ちなみに、根岸は考査委員になる前、所属事務所のHPで司法試験問題の解答例を公開していた(独禁法つれづれ草)。
- 白石忠志『独禁法講義』有斐閣(☆2023年2月・第10版、2025年3月第11版予定)……著者は東京大学教授、松下満雄・中山信弘門下。おおむね2年ごとに改訂されており、薄めなので通読にも適する。論旨明快であり、著者の頭脳明晰さを随所に感じることができるが、通説ベースで答案を書くには使いにくい。また改訂の度に解説や語法の変更も多く、常に最新版を使うことを心がけたい。改訂予定などは、筆者ホームページに記載されている。白石説を採るときの注意点としては、体系の違いもさることながら、「市場支配”的”状態の形成・維持・強化」(白石)・「市場支配力の形成・維持・強化」(通説)などに代表される用語法の違いが挙げられる。もっとも、通説の立場を充分に理解してからであれば、本書を読むことで、より独占禁止法の理解を深めることができるため、白石説を採用しない場合であっても、時間に余裕があれば副読本として読むと有用である。一通り他科目の学習が終わっている者にとっても、既存の学説や経済分析に依拠することの少ない本書はとっつきやすいだろう。下掲『独禁法事例集』は、本書が薄いこともあり、白石説の理解のためには必須である。全12章、A5判、268頁。
〔その他〕
- 白石忠志『独占禁止法』有斐閣(2023年11月)……実務家を中心に支持を集める体系書。調べ物やゼミ用に至便。A5判、908頁。
- 村上政博『独占禁止法』弘文堂(2022年11月・第10版)……国際標準の競争法へと変貌する日本の独占禁止法の実体ルールおよび手続を、判審決のみで解説した実務型基本書(弘文堂HPより引用)。ほとんどのことが詳しく記述されており、改訂も比較的頻繁になされている。著者は実務家、公取勤務ののちに教鞭を執り始めた経歴の持ち主であるためか、論理的一貫性よりも実務との関連を重視する傾向がある。そのため通説、特に京大学派からの批判を呈されるような「少数有力説」にとどまる見解を採る記述も少なくない。全4章、全39節。A5判、664頁。同著者による試験対策に有用な本としては、後掲の『独占禁止法における事例分析——司法試験経済法過去問の検討と評価』等がある。
- 泉水文雄・土佐和生・宮井雅明・林秀弥『経済法(LEGAL QUEST)』有斐閣(2015年4月・第2版)……筆者が重なる金井貴嗣・川濵昇・泉水文雄編『独占禁止法』を選ばずに、こちらを選ぶ理由は特に無いと思われる。強いて言えば、章末にケースが付いていることくらいか。第2版において、公正取引委員会の審判制度廃止といった平成25(2013)年改正等が踏まえられた。序章(独占禁止法とは何か)+全8章。A5判、438頁。
- 岸井大太郎・大槻文俊・中川晶比兒・川島富士雄・稗貫俊文『経済法——独占禁止法と競争政策(有斐閣アルマSpecialized)』有斐閣(2022年3・第9版補訂)……判型はアルマなので小さいが、約500頁あり、内容も充実している概説書。判例・通説および公取委の実務運用(ガイドライン)にも沿っているため、必要な知識は本書で概ね得られるだろう。改訂も比較的頻繁になされるので、法改正や重要判例にも対応している。受験対策としては試験委員が執筆陣に入っている金井=川濱=泉水がベストかもしれないが、肌に合わない場合は、本書を試してみてもよいかもしれない。第9版において、CPTPP発効に伴う確約手続の導入、2019年改正による課徴金減免の柔軟化などが織り込まれたほか、最新の審判決例が追加。巨大IT企業に対する規制といった新たな動向にも言及。全8章。四六判、510頁。
- 菅久修一編著、品川武・伊永大輔・原田郁著『独占禁止法』商事法務(☆2024年4月・第5版)……元も含む、公正取引委員会の担当者による独占禁止法の概説本。通称”赤本”。公取委の担当者執筆だけあって、実際の運用などについての信頼性は極めて高い。また、事例も多く引用されている。ただし、やや文章がくどく感じられるのが難点か。また、同じ事柄を複数の箇所で説明していることも稀にある。第3版において、平成29年の流通・取引慣行ガイドラインの全面改正や、TPP協定整備法による確約制度の導入など、独占禁止法の最新の実務を解説。全11章。A5判、451頁。(第5版については評価待ち。)
- 波光巖・栗田誠編『解説 独占禁止法』青林書院(2015年3月)……本書の前身は学部学生向けの解説書として刊行された佐藤一雄ほか編『テキスト独占禁止法(2010年4月・再訂2版)』であるが、今回の改訂を機に、書名を『解説独占禁止法』に改めることとされた。平成25年改正を盛り込んだ最新版。執筆者(松山隆英・横田直和・中出孝典・波光巖・鈴木恭蔵・滝川敏明・栗田誠・鵜瀞惠子)。全11章。A5判、550頁。
- 泉水文雄『独占禁止法』有斐閣(2022年6月)……筆者は公正取引委員会委員・元神戸大学教授。数少ない京大学派系単著の体系書。判例・ガイドライン・学会通説から大きく逸脱することのない、手堅い内容となっている。A5判、832頁。
- 谷原修身『独占禁止法要論』中央経済社(2011年2月・新版第3版)……A5判、320頁。
- 松下満雄『経済法概説』東京大学出版会(2011年6月・第5版)……東大名誉教授。日本の経済法制を、競争政策と産業政策の調和という観点から捉えたテキスト。はしがきによると、今後の改訂はないとのことである。全2部、全12章。A5判、400頁。
- 川越憲治『独占禁止法 競争社会のフェアネス』きんざい(2010年6月・第4版)……課徴金の適用範囲の拡大、不公正な取引等に対する罰則強化、企業結合規制の見直し、秘密保持義務違反への罰則強化、その他各種ガイドラインに対応。A5判、488頁。その他、『実務経済法講義(実務法律講義)』民事法研究会(2005年8月)がある。なお、著者は、2011年7月に逝去された。
- 神宮司史彦『経済法20講』勁草書房(2011年5月)……著者は、2013年1月に逝去された。A5判、440頁。
- 岩本章吾『独占禁止法精義』悠々社(2013年3月)……通産省・公取委勤務を経た著者が、300件の判審決例と学説の分析を通して独禁法を体系化。絶版。A5判、640頁。
(古典)
- 今村成和『独占禁止法(有斐閣法律学全集)』有斐閣(1978年6月・新版〔2007年2月・OD版対応〕)……著者は日本学士院会員。行政法の研究者としても高名。A5版、482頁。
- 実方謙二『独占禁止法(有斐閣法学叢書)』有斐閣(1998年12月・第4版)……A5版、486頁。
- 正田彬『経済法講義』日本評論社(1999年9月)……著者は元公正取引委員会顧問。A5版、352頁。
【その他参考書】
- 公正取引委員会事務総局編『独占禁止法関係法令集』『同 コンパクト版』公正取引協会(2015年7月・平成27年版、2019年10月・令和元年版)……「コンパクト版」は、『独占禁止法関係法令集』から主要法令を抜粋収録したもの。令和元年版では、同〔2019〕年6月に成立した「独禁法の一部を改正する法律」による改正内容を織り込んだ新たな独禁法全条文を補遺として収録。本書には独禁法のほか、下請法、景表法、官製談合防止法及び消費税転嫁対策特措法と関連政令・規則を収録。A5判、1300頁・460頁。
- 村上政博『独占禁止法における事例分析——司法試験経済法過去問の検討と評価』中央経済社(2016年4月)……急速に積み上がった判例の蓄積が、過去10年20問の司法試験経済法論述問題に反映されているとの認識から分析を行う。議論が始まった裁量型課徴金制度などにも言及。A5判、202頁。
【入門書・概説書】
- 川濵昇・瀬領真悟・泉水文雄・和久井理子『ベーシック経済法 独占禁止法入門(有斐閣アルマBasic)』有斐閣(2020年3月・第5版)……平易に書かれ、ケーススタディを多用している。分量も適当で、読みやすい入門書。高度な内容を考える際に取っ掛かりとなる問題意識も随所にちりばめられており、体系書への橋渡しとしても有効。「不公正な取引方法」についての記述には定評がある。判例・通説で書かれた入門書を探しているなら、お薦めの一冊。第5版において、確約手続の導入、課徴金制度の見直しといった令和元年改正や、各種ガイドラインの創設・改定などに対応。 序章+全7章。四六判、398頁。(第5版については評価待ち。)
- 土田和博・栗田誠・東條吉純・武田邦宣『条文から学ぶ独占禁止法』有斐閣(☆2024年4月・第3版)……我が国の独占禁止法制の全体像をおおまかにとらえ、学習上重要な条文の存在意義を具体的イメージ(重要判例)とともに理解するためのテキスト。概ね条文の並び順に各条文中のキーワード、概念・原則を中心として独占禁止法を逐条で解説。第3版において、令和元年改正等に対応。序章(独占禁止法の全体像)+全9章。A5判、402頁。
- 厚谷襄児『独占禁止法入門(日経文庫)』日本経済新聞出版社(2012年1月・第7版)……元公取委事務局長による平易かつ簡潔な入門書。分量も比較的少ないので、最初に読む1冊としてはお薦め。新書判、272頁。
- 村上政博『独占禁止法-国際標準の競争法へ(岩波新書)』岩波書店(2017年1月・新版)……元公取委勤務経験を持つ研究者によるアカデミックな入門書。日本の独禁法がどのように変わってきたのか、また、どう変えるべきなのかを論ずる。新書判、256頁。
- 根岸哲・杉浦市郎編『経済法(NJ叢書)』法律文化社(2010年5月・第5版)……執筆者(根岸哲・泉水文雄・杉浦市郎・武田邦宣・泉克幸・土佐和生・瀬領真悟)は、関西経済法研究会のメンバーである。全4章。A5判、328頁。
- 鈴木加人・大槻文俊・小畑徳彦・林秀弥・屋宮憲夫・大内義三『TXT経済法』法律文化社(2016年5月)……国民経済全体の秩序を形成する「独禁法」が「経済法」の中心ないし基礎であることを前提とし、平成25年改正・27年施行の改正独禁法(審査制度の廃止、排除命令等に係る抗告訴訟の裁判管轄、適正手続の確保)を踏まえ解説。全10章。A5判、312頁。
- 菅久修一編著『はじめて学ぶ独占禁止法』商事法務(☆2024年3月・第4版)……公正取引委員会の担当者らが、判決・審決、公取委運用実務に基づき解説した入門書。独占禁止法の重要な部分についての基本的な考え方に焦点を当てて記述するとともに、外国の主な競争法の概要も紹介。執筆者(南雅晴・天田弘人・小室尚彦・田邉貴紀・稲熊克紀・五十嵐俊子)。全11章。A5判、228頁。
- 酒井紀子『独占禁止法入門─基礎知識の修得から実務での活用まで─』民事法研究会(2016年6月)……公正取引委員会審判官である著者が独禁法の理念、基本的な概念をはじめ、要件・効果・論点を網羅的に解説した入門書。全16章。A5判、329頁。
- 久保成史・田中裕明『独占禁止法講義』中央経済社(2014年3月・第3版)……前講+全15講。A5判、320頁。
- 田中裕明『要説 独占禁止法 経済法入門』晃洋書房(2017年4月)……A5判、208頁。
- 公正取引協会編集『独占禁止法ガイドブック-研修用テキスト-』『下請法ガイドブック-同-』『景品表示法ガイドブック-同-』『入札談合と独占禁止法-同-』公正取引協会(2021年7月、2023年7月、2021年7月、2022年9月)……企業内や団体内での研修会・講習会など用テキスト。B5判、80頁・80頁・76頁・72頁。
- 泉水文雄『経済法入門(法学教室ライブラリィ)』有斐閣(2018年12月)……法学教室の連載に大幅な加筆修正が施され単行本化したもの。『ベーシック経済法』よりは厚いが金井ほか『独占禁止法』よりは薄い、初中級レベルの概説書。序章+全8章。A5判、420頁。
- 菅久修一『独禁法の授業をはじめます』商事法務(2021年7月)……A5判、256頁。
- 河谷清文編著、中川寛子・西村暢史著『経済法(有斐閣ストゥディア)』有斐閣(☆2023年9月)……A5判、254頁。
(古典)
- 根岸哲・舟田正之・野木村忠邦・来生新『独占禁止法入門(有斐閣新書)』有斐閣(1983年5月)……絶版。新書判、238頁。
- 今村成和『独占禁止法入門(有斐閣双書)』有斐閣(1993年12月・第4版)……全7章。四六判、266頁。
- 谷原修身『独占禁止法の解説』一橋出版(2006年3月・6訂版)……A5判、112頁。
- 鵜瀞恵子編『独占禁止法実務の手引き』判例タイムズ社(2006年1月)……B5判、221頁。
【注釈書・コンメンタール】
- 村上政博編集代表『条解独占禁止法(条解シリーズ)』弘文堂(2022年2月・第2版)……5大法律事務所と研究者の協働による独占禁止法の逐条解説書。「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」及び「下請代金支払遅延等防止法」の全条文について逐条解説。A5判、1260頁。
- 根岸哲編『注釈独占禁止法』有斐閣(2009年12月)……独禁法実務家・研究者に圧倒的な支持を集める。「補遺」として、平成21(2009)年改正法の解説も収められている。改訂がない分少し内容が古くなりつつあるが、理論面での信頼度は他の追随を許さない。仕事として独禁法を使う場合は必読となる。全12章+補遺(平成21年独禁法改正法)。A5判、968頁。
- 白石忠志・多田敏明編著『論点体系 独占禁止法』第一法規(2021年5月・第2版)……逐条形式で、条・項ごとに問題となる論点を実務的な切り口から取り上げて解説した書。裁判例・審決例に加えて、公取委の企業結合審査事例・相談事例やガイドライン、日頃の法律実務の中で醸成された事実上の留意点を踏まえて詳解。収録情報は、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」及び「下請代金支払遅延等防止法」。A5判、856頁。
(古典)
- 今村成和ほか編『注解経済法 上巻・下巻』青林書院(1985年3月、1985年7月)……絶版。A5判、693頁・697頁。
- 田中誠二・菊地元一・久保欣哉・福岡博之『コンメンタール独占禁止法』勁草書房(1981年1月)……絶版。A5判、961頁。
- 菊地元一・佐藤一雄・波光巖・滝川敏明『続コンメンタール独占禁止法』勁草書房(1995年4月)……第1条から第26条を解説した正編に引き続き、「第8章公正取引委員会」以下(第27条以下)の手続法について近時の審判例・学説を織り込みながら逐条解説したもの。絶版。A5判、384頁。
【判例集・ケースブック】
〔判例集〕
- 金井貴嗣・泉水文雄・武田邦宣編『経済法判例・審決百選』有斐閣(2017年10月・第2版)……初版(2010年4月)から7年振りに全面改訂。133件を収載。初版から大幅な事案の入替えがある。さらに、判例や審決が少ない(若しくはない)分野については、相談事例が追加されている。B5判、276頁。
- 舟田正之・金井貴嗣・泉水文雄編『経済法判例・審決百選』有斐閣(2010年4月)……「独禁法審決・判例百選」を内容の一新に伴い改題。事案や判旨の引用に不安がある判例・審決例が複数ある。判例集としては『ケースブック独占禁止法』の方が事案や判旨が長く引用されているうえ、取り上げられている件数も多く、よいと思われる。同一の判例・審決例を複数の項目で扱うことがある(同一の筆者になるよう配慮されているようである)ので、見かけの厚さほど収録判例・審決例は多くない(ただし、手続きに関するものなどは、1.2分の1頁に収められているものもある)。142件を収載。B5判、288頁。
- 白石忠志『独禁法事例集(法学教室ライブラリィ)』有斐閣(2017年12月)……旧著『独禁法事例の勘所』(2010年4月・第2版)のコンセプトを引き継ぎつつ新規事例を40件以上追加したもの。100件を超す事例を収録しており、評釈はどれも鋭い指摘と示唆に富むが、著者の興味のある事例を取り上げるというコンセプトのため、比較的最近の事例はほぼ網羅しているが、百選掲載レベルの重要判例(例えば東芝ケミカル事件など)が掲載されていない場合があることに注意が必要。A5判、658頁。
- 鈴木満・鈴木深雪『経済法-判審決の争点整理』尚学社(2009年7月・第2版)……元公正取引委員会首席審判官が自分の講義の教科書として書いた本。第1部:経済法の解説(概説)、第2部:判審決の争点整理、第3部:適用条項別主要審決(一覧)という構成になっている。第2版は、2009年の独禁法改正を反映しての改訂。B5判、310頁。
- 泉水文雄・長澤哲也編『実務に効く 公正取引審決判例精選』有斐閣(2014年7月)……元試験委員と、実務家が編集した判例集。実務家が中心に執筆しており、分野毎に審決例が整理されている。もっとも、他の『精選』シリーズ同様、タイトルからも分かるように実務向けの一冊であり、司法試験には向いていないと思われる。B5判、248頁。
- 鈴木孝之・河谷清文『事例で学ぶ独占禁止法』有斐閣(2017年5月)……具体的な事例(裁判例・公取委事例に加え、ガイドラインや報告書等も広く扱う)を素材としたテキスト。補遺(「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」改正への対応)あり。全6部、全24章。A5判、584頁。
- 公正取引委員会事務総局編『公正取引委員会審決集(第1巻-第65巻)』公正取引協会(1970年月-2020年2月)……本書(第65巻)は、平成30年4月から平成31年3月までに出された、公正取引委員会の審決・決定・排除措置命令及び課徴金納付命令に加え、裁判所の判決・決定を全件かつ全文収録されている。第1分冊・第2分冊の2分冊。A5判、頁。
〔ケースブック〕
- 金井貴嗣・川濵昇・泉水文雄編『ケースブック独占禁止法』弘文堂(2019年6月・第4版)……判例百選よりも判旨の引用が多く、事実認定のトレーニングにも使用できる。また、判例集としても百選より使い勝手が良い…が、選択科目にここまで分厚い判例集が必要かと言われればやや疑問。もっとも、経済法の試験は過去の事案をそのまま引き写したかのような出題も多く、いかなる事案にいかなる条文を適用したか、ということを知っておくことは必須である(特に不公正な取引方法。また、私的独占・不当な取引制限・不公正な取引方法の複数が適用可能な事案も多く、それについて公正取引委員会がどのような当てはめをしたかを知っておくことも極めて重要である。)ため、ここまでおさえておくことが望ましいといえば望ましい。第4版は、第3版刊行(2013年4月)以降の重要判例が追加される一方、使いやすさが考慮された結果、ページ数(約80頁)を大幅に減らしコンパクトに。執筆者(河谷清文・瀬領真悟・武田邦宣・中川寛子・平山賢太郎・宮井雅明)。全9章。A5判、560頁。
【演習書】
- 川濱昇・武田邦宣・和久井理子編著『論点解析 経済法』商事法務(2016年10月・第2版)……実際の司法試験問題を含む長文事例を提示し、それに関わる独禁法上の問題点を解答させる形の演習書。全分野を網羅しているうえ、今まで明確な形で十分に示されているとは言い難かった具体的な概念の使い方・あてはめ方が示されているため、この一冊を潰せば独禁法について穴はなくなると思われる。ただし、解説というより答案例に近いものが各問題6頁程度付けられているのみで、独習には向いていないとの評価もある。ロースクールの教科書として、または勉強会などを開いて複数人で検討することが最も効果的な使い方である。体系は金井貴嗣・川濵昇・泉水文雄編『独占禁止法』に近く、同書と相性がよい。第2版の刊行にあたり、学生が理解しにくいポイント等を踏まえて解説を書き改め、さらにわかりやすいように解説。問題文も一部改訂するとともに、新たな問題も追加された。第2版において、Ⅰ 共同行為が1問増え、Ⅰ 共同行為:12問、Ⅱ 企業結合:4問、Ⅲ 私的独占・不公正な取引方法:12問の合計28の演習用事例を収める。執筆者(池田千鶴・河谷清文・中川晶比兒・中川寛子・西村暢史・林秀弥)。A5判、316頁。
- 大久保直樹・伊永大輔・滝澤紗矢子編著『ケーススタディ経済法』有斐閣(2015年4月)……研究者と実務家がタッグを組んだ演習書。A5判、324頁。
(古典)
- 白石忠志『事例教材独禁法』商事法務(2007年10月)……白石による唯一の、そして経済法分野における数少ない演習書…かと思いきや、平成21年改正に対応していないため、やはり現在は使えない一冊。白石自身もこれに言及することもない(ホームページの改訂予定にも記載はない)。絶版。A5判、189頁。
- 土田和博・岡田外司博編『演習ノート 経済法』法学書院(2014年10月・第2版)……数少ない演習書。法学教室に連載されていた「演習」10問とあわせて利用したい。第2版において、2009(平成21)年の排除型私的独占・優越的地位の濫用等に対する課徴金制度の導入、2013(平成25)年の審判制度の廃止という二度にわたる独占禁止法の改正を受け、また、この間、2010(平成22)年12 月のNTT 東日本事件、2012(平成24)年2月の多摩談合事件という排除型私的独占と不当な取引制限に関する基本的な最高裁判決が下されるに及んで、これらの内容を取り込んだ形で問題等の見直しが行われ、大幅な内容の改訂が施された。66件を扱う。出版社廃業のため絶版。A5判、224頁。
(参考:法学教室における演習経済法)
- 武田邦宣『法学教室 2006年5月号(No.308) 演習 経済法』、『同 2007年5月号(No.320) 同』有斐閣(2006年4月、2007年4月)……
- 河谷清文『法学教室 2006年7月号(No.310) 演習 経済法』、『同 2007年7月号(No.322) 同』、『同 2008年1月号(No.328) 同』有斐閣(2006年6月、2007年6月、2007年12月)……
- 和久井理子『法学教室 2006年9月号(No.312) 演習 経済法』、『同 2007年1月号(No.316) 同』、『同 2007年9月号(No.324) 同』有斐閣(2006年8月、2006年12月、2007年9月)……
- 中川寛子『法学教室 2006年11月号(No.314) 演習 経済法』、『同 2007年3月号(No.318) 同』、『同 2007年11月号(No.326) 同』有斐閣(2006年10月、2007年2月、2007年10月)……
最終更新:2025年01月27日 15:03