田中亘『会社法』東京大学出版会(☆2025年3月・第5版)……東大教授の手による、学生だけではなく研究者・実務家も読者対象とする体系書である。ケースやコラムを多用。特にコラムは数・内容ともに充実しているうえ、最新の実務に関する発展的内容を含み、読み応えがある。発展的内容のコラムには、★印が付されているので、初学者はそれを読み飛ばし、基本的な論点のみ読むこともできる。本書の特徴は、①諸制度や手続きの内容説明が、とりわけ丁寧である点、②目新しい記述がみられる点(たとえば、取締役の義務の基本的内容として、株主利益最大化の原則に加えて、株主の共同の利益を図る義務を項目として明記など)、③買収・結合・再編(Merger, Acquisition and Restructuring)という章立て、④会社法制に関係する範囲内で「法と経済学」の諸概念についても説明を加えている点、⑤株式会社の計算において、複式簿記の基本的なルールについて解説をしている点(司法試験には無関係だが、実務では非常に重要)、など。百選、商法判例集の判例番号、引用文献リスト、法令索引が付されており至便。以上のことから、司法試験受験生の基本書ないし辞書的に使用する書物として、有力な選択肢である。「受験新報」2019年12月号特集「合格者が使った基本書」会社法3位。 【改訂】第4版では、重要判例のアップデートと令和元年法改正に対応した。第5版では、改正金融商品取引法の反映、判例などをアップデートした。全12章。A5判、920頁。
黒沼悦郎編著『Law Practice 商法』商事法務(2020年3月・第4版)……重要判例をベースにした基礎的な問題集。分かりやすく丁寧な解説が付せられており、取り組みやすい。第4版は、令和元年改正会社法を踏まえた改訂版。「株主総会の権限」、「利益相反の特則としての補償契約」、「取締役の解任」の3項目が新たに追加され、判例と文献がアップデートされた。執筆者(中東正文・福島洋尚・松井秀征・行澤一人)。A5判、388頁。