刑事訴訟法


【基本書】

〔メジャー〕

  • 宇藤崇・松田岳士・堀江慎司『刑事訴訟法(LEGAL QUEST)』有斐閣(☆2024年12月・第3版)……鈴木茂嗣門下3名による共著テキスト。判例・通説を満遍なく紹介しており、判例分析はとりわけ詳しい。重要な41判例の要旨を掲載しているのが特徴。各制度の理論的根拠を示しつつ、個々の要件解釈にもきちんと触れている。訴因論で独自説を一部含むが、全体的に完成度は高く、特に堀江執筆の証拠法部分は評価が高い。「はしがき」によると、全体の分量が増えすぎないように削らねばならなかった記述も少なくないため、情報量は詳細な体系書と有斐閣アルマの中間程度である。捜査・公訴・証拠パートは詳しく、司法試験はこれでカバーできる。しかし、その他の手続きは詳しくないため、予備実務科目の受験者は、下掲の吉開ほか『基本刑訴Ⅰ』や、三井ほか『入門刑事手続法』などを併用する必要がある。「受験新報」2019年12月号特集「合格者が使った基本書」刑訴1位。
    【改訂】第2版で、2016(平成28)年刑訴法改正に加え、近年の重要判例に対応。第3版では、被害者等の個人特定事項の秘匿措置,被告人等の逃亡防止措置などの法改正や新判例に対応した。序章+全8章。A5判、622頁。

  • 吉開多一・緑大輔・設楽あづさ・國井恒志『基本刑事訴訟法1—手続理解編』『同2—論点理解編』日本評論社(同1 2020年6月、☆同2 2025年4月第2版)……受験生に人気のある『基本シリーズ』の刑事訴訟法編。法曹三者と研究者による共著。「徹底的にわかりやすいテキスト」のうたい文句はだてではなく、予備校本を含めて分かりやすさでは、本書に勝るテキストはないといっても過言ではない。
    『同1』は、三井・酒巻『入門刑事手続法』などのように全体の手続きを条文とともに分かりやすく説明する。簡潔・平板すぎる『入門刑事手続法』と比べると、伝聞法則の「表現と叙述」の違いなどをコラムで説明するなど、程よく深掘りされており、読み手を飽きさせない。なお、IT化など法改正は、後日の改訂を期すとのこと。
    『同2』は、予備・司法試験論文の分析を踏まえた答案の指南書・演習書の性格が強い。独自な説明も一部にあるため、百選や下掲演習書・古江「事例演習刑事訴訟法」などで、適宜補充するとよい。第2版では、最新裁判例を網羅した。簡易問題集あり。全14講・16講。A5判、392頁・394頁。

  • 酒巻匡『刑事訴訟法』有斐閣(☆2024年9月・第3版)……松尾門下。法学教室での連載(「基礎講座・刑事手続法を学ぶ(1)~(26・完)」)に、大幅な加筆を行って書籍化したもの。酒巻説は東大系研究者の学説を盛り込んだ学界通説に近い学説である。第一人者である井上正仁が体系書を執筆しない(有斐閣オンラインで連載記事(酒巻も本書・文献案内で紹介)があるが終了するかどうかは未定)ため、緻密な判例の規範分析と分厚い自説論証を特徴とする本書は、現在の最高水準の体系書である。さらに教育的配慮も行き届いている(はしがき)。また、刑事訴訟法の解釈にとどまらず憲法の刑事手続関連条項を踏まえると、どこまでの法改正が許されるのかという立法論にまで言及している。短所としては、A説、B説があって、自説はこれであるというスタイルを採らないため、①他説紹介がほとんどないこと、②学説名の記述がなく脚注もないため、オリジナルの文献に遡るのが困難であること、③上訴・再審の記述が薄いこと、などがある。下級審裁判例の情報は、厳選してあえて載せていない節がある。「受験新報」2019年12月号特集「合格者が使った基本書」刑訴2位。
    【改訂】第2版では、旧版(2015年11月)刊行以降の重要な新判例と法改正が織り込まれ、編末や章末に参考文献が掲げられた。第3版では、令和5年改正に対応。IT化の要綱(骨子)に言及し、旧版(2020年7月)刊行以降の重要な判例の解説を追補した。序(刑事手続の目的と基本設計図)+全7編。A5判、744頁。



〔その他〕

  • 田中開・寺崎嘉博・長沼範良『刑事訴訟法(有斐閣アルマSpecialized)』有斐閣(☆2024年12月・第7版)……定評あるスタンダードなテキスト。基本的事項と判例の説明に重点が置かれており、全体的にコンパクトかつ穏当な見解でまとめられている。しかし、寺崎執筆部分は、独自説の押しが強く意味不明な記述が散見されるため、この部分だけは他の本で代替すべきである。初~中級者向けのテキストではあるが、薄いながらも情報が凝縮されていることから、上級者のまとめ本としても好適である。序章・1章・5章・7章・8章を長沼が、2章を田中が、3章(公訴)・4章(公判手続)・6章(判決)を寺崎がそれぞれ担当している。『演習刑事訴訟法』とは、著者が重なっている。
    【改訂】第6版では、刑事手続にかかわる近時の動向をふまえ、各所をアップデートし、GPS捜査最高裁判決(平成29年3月15日)など、重要な新判例を収載した。第7版では、令和4年・5年の法改正に対応し、判例をアップデートした。序章+全8章。四六判、454頁。

  • 上口裕『刑事訴訟法』成文堂(2021年2月・第5版)……福田平門下。司法試験受験生のために執筆された体系書(はしがき)。論点は網羅的に取り扱われており、各分野について丁寧な解説がなされている。とりわけ受験生にとって「迷宮」となりやすい訴因・公訴事実の同一性・伝聞・裁判の効力などについては基礎から詳述されており、確実な理解が目指されている。第5版において、2016年改正および第4版(2015年2月)以降の重要判例(最判令和2.3.10まで)をフォロー。また、記述を見直した結果、旧版よりも100頁ほどコンパクトになった。近年では、基本刑訴・リークエ・酒巻などの登場によりシェアを落とし、改訂も予定されていない。「受験新報」2019年12月号特集「合格者が使った基本書」刑訴3位。全18章。A5判、576頁。

  • 池田修・前田雅英『刑事訴訟法講義』東京大学出版会(2022年7月・第7版)……通称『イケマエ』。最高裁調査官や高裁長官も経験した元刑事裁判官と平野門下の刑事法学者による共著。各節毎に関連条文を提示し、図や表を多用するなど、ビジュアル面で読みやすい配慮がなされている。また、起訴率等の各種データを記載し刑事手続の現実的理解を図っている点も特徴。判例を豊富に取り上げており、記述も読みやすいため、初学者でも手を出しやすい。しかし、理論的な精緻さには欠け、判例の分析もかなり独自色が強い点には注意が必要である。全体的に実務寄りの見解だが、著者の法解釈は、判例・実務と完全にイコールというわけではなく、行き過ぎの部分もあるため、本書の見解をうのみにするのは危険である。ただし、裁判員裁判制度の導入前における典型的な検察官寄りの裁判官と警察の御用学者による著書という意識を事前に持ったうえで、割り切って読めば、まだ有用かもしれない。
    【改訂】第5版で事実認定の項目が追加された。第6版において、平成28(2016)年改正に対応。序章+全9章。A5判、600頁(本文579頁)。

  • 田口守一『刑事訴訟法(法律学講義シリーズ)』弘文堂(2017年3月・第7版)……西原門下。旧司時代の定番書。改訂により、かなり増頁したが、コンパクトな記述が特徴。そのため、理論的な深みに欠け、論点の掘り下げも浅いが、無難な見解で基本事項を網羅的に解説している点で、旧試験対策的には良書だった。短所は、①訴因変更で特異な見解がとられている点、②判例の引用数こそ多いが、最新の基本書と比べると分析が甘い点、③折衷説的でおよそ論理的とは言い難い記述が散見される点、など。また、前述のように論点の掘り下げが浅く、試験頻出の論点についても記述が薄い箇所があるため、本書をメインの基本書として利用する場合は、他の参考書などを併用しての補充が必須となってしまい、効率が悪い。第7版において、平成28年改正に対応。なお、改訂の予定はない。全8章。A5判、552頁。

  • 白取祐司『刑事訴訟法』日本評論社(2021年3月・第10版)……田宮孫弟子(能勢門下)。白取説は、徹底して被疑者寄りの少数説で貫かれており、本書では実務の世界からおよそかけ離れた独自の白取ワールドが、展開されている。もっとも、判例・通説・実務の現状や原理・原則をある程度踏まえた展開となっているため、白取説を採らない者でも、刑事手続について、立体的に理解するには有用である。全くの初学者が利用するのは難しいが、判例・通説をあらかじめ理解したうえであれば、新たな視点を獲得するという意味で、本書に手を出してみるのも良い。また、著者が少数説を採っているということもあってか、学説の紹介に詳しく、調べものなどの役には立つ。ただし、捜査や公判についての記述は詳細であるが、証拠、特に自白の記述が弱い。実務寄りではないために試験対策としては使いづらいが、それに物申す系の人権派の本であり、それゆえに面白い。第9版において、2016年刑訴法改正に対応。序章+全5章。A5判、588頁。

  • 安冨潔『刑事訴訟法講義』慶應義塾大学出版会(2021年1月・第5版)……二色刷りで図表を多用し、各章末に「論点とまとめ」と題された論証カードのようなものが付されているなど、「学者の書いた予備校本」といった趣向。ただし、論証を含めて文章は、生硬で読みにくい。また、不正確な記述も散見される。第4版において、平成28年刑事訴訟法改正に対応。序章+全19章。A5判、464頁。

  • 椎橋隆幸・安村勉・洲見光男・加藤克佳『ポイントレクチャー刑事訴訟法』有斐閣(2018年12月)……元司法試験考査委員らによる共著。講義のコマ数に合わせ、全体が30のUNITで構成されており、講義の進み方に沿って、読み進めることができるようになっている。各UNITでは、本文は従来の教科書のように法制度や理論を解説し、重要な点は「POINT」として取り上げて構成して記述にメリハリをつけており、学習しやすいよう工夫されている。A5判、514頁。

  • 亀井源太郎・岩下雅充・堀田周吾・中島宏・安井哲章『プロセス講義刑事訴訟法(プロセスシリーズ)』信山社(2016年6月)……1.「趣旨説明」2.「基本説明」3.「展開説明」の3ステップ解説。平成28年5月に成立した刑訴法改正法の改正ポイント解説が適宜織り込まれたテキスト。全28章。A5変型判、460頁。

  • 加藤康榮・滝沢誠・宮木康博・三明翔『ケース刑事訴訟法』法学書院(2019年11月・第2版)……元最高検検事と新進気鋭の若手学者による共著。ケース(具体的事例)を足掛かりに解説した基本テキスト。第2版において、2016年の刑事訴訟法等の改正が盛り込まれた。序章(刑事手続総観)+全4編、全19章。A5判、344頁。

  • 植村立郎『骨太 刑事訴訟法講義(骨太シリーズ2)』法曹会(2017年10月)……著者は元刑事裁判官。刑事訴訟法に関する理論と実務の基本的な事項がすっきりと骨太に理解できるように、判例を中心とした視点からわかりやすく説明した教科書(はしがき)。実務的に興味深い見解が多々述べられており、受験生にも参考になる。もっとも、司法試験的には典型論点の理論的説明が物足りないため、初学者向けではない。また、事項索引がないのが難点。全10章。A5判、538頁。
    同著者による著書として、他に『実践的刑事事実認定と情況証拠』等がある。

  • 中川孝博『刑事訴訟法の基本』法律文化社(☆2023年3月・第2版)……アクティブラーニング型授業での使用を念頭に置いた新しいタイプの教科書。著者のサイトでは、授業時間外学習が容易にできるよう講義動画が公開されているとともに、基本知識の理解・定着を図る「これだけは!シート」がアップされている。このように、著者のサイトで多くをアウトソーシングした結果、頁数を300頁ほどに抑えつつ、司法試験の準備に使えるだけの情報量も確保できたとのこと(はしがきより)。論点の網羅性は、基本的には高いものの、判例集の参照を指示するのみの箇所もある。(例えば、任意捜査の限界など。本書12-13頁。)各論点において、著者の立場が強く打ち出されているが、論拠がしっかりと書かれているので、思考を深める契機になるだろう。
    本書を補完する判例教材として、葛野尋之・中川孝博・渕野貴生編『判例学習・刑事訴訟法』があり、連動が図られている。序+全15章。A5判、322頁。

  • 辻本典央『刑事訴訟法』成文堂(☆2024年3月・第2版)……函入り。A5判、418頁。

(平成28年改正未対応)
  • 裁判所職員総合研修所監修『刑事訴訟法講義案』司法協会(2015年12月・4訂補訂版)……通称『講義案』。裁判官による書記官向けの本だけあって、実務寄り。条文・定義・手続を淡々と説明している。証拠法には定評があるが、捜査が非常に薄く、他の本での補充が必須である。その場合には、後掲の幕田英雄『実例中心 捜査法解説』など、実務の立場から書かれた書籍を用いるとよいだろう。序論で刑事訴訟法の基礎原理について、本論で訴訟手続について一連の流れに沿って解説がなされている。4訂補訂版において、旧版(2011年5月・4訂版)刊行以降の判例等が多数補充された。全11章。A5判、564頁。

  • 小林充原著、植村立郎監修、前田巌改訂『刑事訴訟法』立花書房(2015年5月・第5版)……原著者の小林充は元仙台高裁長官(2013年に逝去)。第5版の改訂は現役判事の前田巌が担当し、植村立郎(元東京高裁部総括判事)によって監修者補注が付されている。実務家による著作ということもあり、取調べ受忍義務肯定説・別件基準説・証拠能力付与説などいわゆる実務説を採っており、「説得力と安定感ある論証・叙述」(改訂者あとがき)となっている。学説対立の記述はあっさりしており、東大系学説(出頭滞留義務・取調べ受忍義務区分説、実体喪失説、伝聞性解除行為説など)への言及はない。論点は広く浅く(時には深く)拾っており、判例もコンパクトにまとめていることから、まとめ用に向いている。その反面、記述があっさりしているため、初学者にはとっつきにくいかもしれない。全14章。A5判、416頁。

  • 安冨潔『刑事訴訟法』三省堂(2013年6月・第2版)……若手法曹向けに執筆された書籍。判例を約1500件収録するなど、情報量が類書と比べ圧倒的に多い。受験生にとっては、辞書としての使用が主となるだろう。増刷の際に改訂頻繁。序章+全20章。B5変型判、712頁。

  • 寺崎嘉博『刑事訴訟法』成文堂(2013年7月・第3版)……田宮孫弟子(能勢門下)。イラストや図表を豊富に使用し、重要な用語には適宜マークを付すなど、視覚的な工夫を随所に散りばめた予備校本を思わせるビジュアルが特徴的である。もっとも、肝心の内容は、判例や通説の論理に対して徹底的な批判を加える一方で、説得的な理由付けもなしに独自色の強い自説を延々と展開するなど、読者の混乱を招きかねないものとなっているため、注意が必要である。長所としては、論点および学説を豊富に取り上げており、他の基本書においてはあまり取り上げられることが少ない論点およびその意義について、学生と教授という設定で、ダイアローグ演習形式によって詳しく解説している点があげられる(ただし、女子学生F子の独特の口調のせいで、非常に読みづらいものとなっている)。A5判、582頁。

  • 上口裕・後藤昭・安冨潔・渡辺修『刑事訴訟法(有斐閣Sシリーズ)』有斐閣(2013年3月・第5版)……新旧の司法試験考査委員が共同で執筆。コンパクトな本に独自説を詰めこんでしまい、受験勉強に使いやすい本とはいえない。なお改訂予定はないとのこと。序章+全7章+終章。四六判、360頁。

  • 福井厚『刑事訴訟法講義』法律文化社(2012年6月・第5版)……非常に分かりやすく読みやすい叙述であり、また、判例の正確な紹介と批判、学説の位置づけの的確さ、バランスのとれた解釈論に定評がある。序論(刑事訴訟法の意義と目的)+全9編。A5判、570頁。

  • 川端博『刑事訴訟法講義』成文堂(2012年3月)……団藤門下。刑法学者として有名な著者による刑訴法の基本書。『刑法総論講義』、『刑法各論講義』と併せて「刑事法三部作」を構成する(はしがきより)。レジュメ調で基本事項に重点を置いて説明しているが、議論水準は一昔前のものに留まっており、論点落ちも多い。特に捜査は薄く、現在の司法試験の傾向とは合致していない。A5判、540頁。

  • 平良木登規男『刑事訴訟法I・II』成文堂(2009年10月、2010年11月)……著者は元刑事裁判官。同著者による『捜査法』成文堂(2000年4月・第2版)の改訂版ではなく、全面的に新しく書き下ろされた新著。著者曰く未習者向けテキスト。『捜査法』よりも内容の密度は濃い(文字のポイントも小さくなっている)。なお、上訴・再審はない。『捜査法』は『講義案』との組合せで用いると良いとの声あり。A5判、278頁・343頁。

  • 光藤景皎『刑事訴訟法I・II』、『口述刑事訴訟法 下』成文堂(2007年5月、2013年7月、2005年11月)……『刑事訴訟法I・II』は『口述刑事訴訟法 上・中』の改訂版。IIIに当たる下(上訴・再審)の改訂は未定。旧司法試験時代から、証拠法分野には定評がある。IIの証拠法パートでは、アメリカ証拠法の判例・学説を多数引用しており、参考になる。自説は基本的に人権尊重であるが、判例の分析はきちんとしており、役に立つ。A5判、390頁・332頁・150頁。
    オーラルヒストリー『一筋——いつも今を出発点として(ERCJ選書)』日本評論社(2022年1月、四六判、176頁)も参照されたい。

  • 長井圓『LSノート刑事訴訟法』不磨書房(2008年10月)……全体的にレジュメ形式で書かれており、やや読みづらい。特に前半はレジュメそのままであり、重要事項であっても説明が軽く流されてしまっている。後半からは説明が丁寧になり、詳細な理由付けがなされている。「判例の理論化」というコンセプトの通り、内容は判例・実務寄り。A5変型判、432頁。

  • 加藤康榮『刑事訴訟法』法学書院(2012年3月・第2版)……元最高検検事による教科書(概説書)。検察寄りの立場。捜査法が詳しい。A5判、448頁。

  • 加藤康榮『マスター刑事訴訟法』立花書房(2012年10月・改訂版)……平成23年改正に対応。A5判、448頁。

  • 大久保隆志『刑事訴訟法(法学叢書 14)』新世社(2014年4月)……元検察官による基本書。実務の一端を知るには有用だが、試験には使いにくい。身柄拘束中の被疑者取調べにおいて、出頭・滞留義務を否定しつつ、取調べ受忍義務を肯定する異説を採る。全17章。A5判、480頁。

(古典)
  • 團藤重光『新刑事訴訟法綱要』創文社(1967年・7訂版〔2023年3月:OD版〕)……著者は2012年に逝去。現行法の立案者による重厚な体系書。戦後の現行法施行直後に出版された初版は、実務家に広く受け容れられ、ほどなく学界が平野・全集を起点として再出発、発展していく一方で、実務では今でもなお團藤説(権力分立・適正手続保障を基礎にしつつも、捜査を除き裁判所職権主義構造論+審判の対象として訴因に公訴事実を折衷的に加える折衷説)が随所で多大な影響力を残していると言われる。刑訴法における團藤説そのものは、刑法における團藤説と異なり、もはや学界で支持されることはほとんどないが、平野説と並び、ほとんどの文献における記述の下敷きになっている。現行法に関する最重要文献のひとつであることに間違いはなく、名著である。7訂版は第13刷で2ページほど文献等の追補、第17刷で最高裁判事に任命されたため、はしがきが加わっている。電子書籍版あり。

  • 平野龍一『刑事訴訟法(有斐閣法律学全集)』有斐閣(1958年12月〔2006年1月:OD版〕)……著者は2004年7月に逝去。有斐閣法律学全集の中でも三ケ月章『民事訴訟法』と並び称される不朽の名著。アメリカ寄りの体系に立ち、團藤・上掲書(とくに職権主義構造論と折衷説)を徹底的に批判し、学界で圧倒的な支持を得た結果、戦後の刑事訴訟法「学」の礎として、團藤・上掲書と双璧をなす存在となっている。訴因論などは、今でも一読の価値がある。A5判、373頁。
    なお、著者が学部生向けの教科書として執筆した『刑事訴訟法概説』(東京大学出版会、1968年3月、A5判、248頁)もあるが、平野説に触れたい場合には、より詳細な本書を読むべきであろう。
    他に、『刑事訴訟法(法律学講座双書)』弘文堂(1961年11月、OD版:2004年12月)がある。全3編、全13章。A5版、212頁。

  • 松尾浩也『刑事訴訟法上・下(法律学講座双書)』弘文堂(上:1999年11月・新版〔2021年4月:OD版〕、下:1999年3月・新版補正第2版〔OD版:2021年4月〕)……平野門下。2017年に逝去。著者は「精密司法」という用語の発案者であり、ここからもうかがえるとおり、平野ほど現行刑事訴訟に絶望しておらず、アメリカ寄りにもなっておらず、我が国の刑事訴訟法のありようを直視したものとなっている。実務家の視点に立った独自の章立てとなっており、当事者ごとに螺旋状に手続過程を辿っていく形になっている。網羅的で記述にムラがない分、いわゆる重要論点の論述も相対的に薄くなっている。文章は、客観的かつ平易で極めて読みやすいが、かなり考えられたうえで書かれているため、早く読み進めない方がよい。平成12年以降の新判例、法改正、最新のホットトピックについての記述はないが、新しい判例との親和性は概ね高い(ex.訴因変更の要否に関する最決平成13・4・11と松尾上261頁以下を比較してみれば分かる)。酒巻連載や『演習刑事訴訟法』との相性も抜群である。理論的に最も頼れる参考書と言えよう。なお、2004年までの法・規則改正に関する補遺は、弘文堂HP「訂正表・補遺」からダウンロードできる。A5判、360頁・400頁。

  • 田宮裕『刑事訴訟法』有斐閣(1996年3月・新版)……田口と並ぶ旧司時代の定番書。著者は1999年に逝去。制度社会学的な観点から刑事法システム全体に目配りしつつ、原理原則に立ち返る明快かつわかりやすい記述が特徴。特に伝聞法則の基礎理論の解説に定評がある。田宮説といえば、アメリカ判例法に強い影響を受けた適正手続主義が特徴的であるが、本書は、教科書という特性から、我が国の判例の解説を重視しており、結論の落とし所も必ずしも実務から離れているわけではない。新しい強制処分説、違法排除説で有名。増刷に伴い1998年12月までの動向が補訂されたが、それ以後の新判例、法改正、論点については記述がないため、記載内容は古く、現在は基本書とするには向かない。しかしながら、その記述は刑事訴訟法の理解に今なお資するもの(とくに訴因、伝聞など)であり、副読本として根強い人気がある。A5判、588頁。

  • 高田卓爾『刑事訴訟法(現代法律学全集)』青林書院(1984年2月・2訂版)……理論面は今となっては古いが、手続的規定についての記載はコンメンタール並みに詳しい。A5判、720頁。

  • 鈴木茂嗣『刑事訴訟法(現代法律学講座)』青林書院(1990年4月・改訂版)……A5判、394頁。

  • 土本武司『刑事訴訟法要義』有斐閣(1991年4月)……元最高検検事。検察よりの実務刑訴。論点落ちあり。A5判、622頁。

  • 臼井滋夫『刑事訴訟法』信山社(1992年3月)……元検事。A5変型判、410頁。

  • 井戸田侃『刑事訴訟法要説』有斐閣(1993年3月)……訴訟的捜査観ないし訴訟的構造論、公訴権濫用論など。A5判、362頁。

  • 内田文昭・河上和雄・垣花豊順・長井圓・安富潔『刑事訴訟法(青林教科書シリーズ)』青林書院(1993年4月)……A5判、412頁。

  • 庭山英雄・岡部泰昌編『刑事訴訟法(現代青林講義)』青林書院(2006年7月・第3版)……A5判、約384頁。

  • 三井誠『刑事手続法1・2・3・(4)』有斐閣(1997年6月・新版、2003年7月、2004年5月)……「4」は未刊。法学教室での連載をまとめたもの。連載としては完結している。B5判、216頁、A5判、490頁・444頁。

  • 渥美東洋『刑事訴訟法』有斐閣(2009年4月・全訂第2版)…著者は2014年に逝去。反実務説・反多数説を求めるならば、渥美説は避けて通れない。憲法を基礎にした体系を構築。独自の体系と用語法、そしてその拙劣な日本語により、司法試験の基本書にはまったく向かない。したがって、読むならば司法試験合格後ということになろうが、上記のとおり反実務・反通説を貫く本書を修習中に読破することの意義もまた見出し難い。もっとも、渥美説そのものはなかなか面白いので、純然たる趣味と割り切ってその晦渋な文章と付き合うならば、良き思い出ともなろう。序章+全10章。A5判、688頁。

  • 渡辺直行『刑事訴訟法』成文堂(2013年3月・第2版)……西原門下。田口の弟弟子。著者は2017年に逝去。ロースクールの実務家教員による司法試験受験生向けの教科書。コアカリキュラムにも対応している。著者が田口と同門ということもあってか、田口『刑事訴訟法』の記述を敷衍したような内容となっており、基本事項・重要論点の解説・系統立ても田口より丁寧である。実務にあまり重要でない学説・判例等への言及がやや薄いため、判例集・演習書を併用するのがよい。全15章。A5判、684頁。
    なお、同著者による論点解説本として『論点中心 刑事訴訟法講義』成文堂(2005年3月・第2版)がある。


【その他参考書】

  • 斎藤司『刑事訴訟法の思考プロセス(法セミ LAW CLASS シリーズ)』日本評論社(2019年10月)……法セミの同名連載〔735(2016年4月)-758(2018年3月)号〕の単行本化。本書の特徴は、①暗黙知の言語化を心掛けたこと、②各章の内容を「共通編(基本概念、通説・判例)」と「展開編」に分けていること、③通説・判例の思考プロセスを明示した点、④判例を説明する際、可能な限り当該判例の原文を引用したこと(以上、はしがき)、などが挙げられる(「展開編」は司法試験レベルを優に超えていることに注意)。難易度は公式には初級とされているが、東大系学説を中心とする最新学説をとても詳しく紹介しており、中・上級者にとっても参考になる(特に酒巻・川出ユーザーの副読本に適している)。斎藤説は判例実務に批判的な学説だが、本書ではそのような自説は控え目で、客観的な記述に努めている。同意録音、おとり捜査、訴因変更の可否、伝聞例外規定の一部など紙幅の都合で省略されている主要論点があるのは残念。脚注の参考文献は文献リストとして秀逸。全24章。A5判、440頁。改訂による補充が待たれるところ。

  • 緑大輔『刑事訴訟法入門(法セミ LAW CLASS シリーズ)』日本評論社(2017年9月・第2版)……書名に「入門」とあるが、初学者のための入門書というよりは、一通り基礎知識を修得した学生向けの論点解説書といった趣。基礎から応用へのステップアップとして有用。全25講。A5判、372頁。

  • 大澤裕「刑事訴訟法の基本問題」(法学教室連載・439号~456号〔※現在休載中〕)……刑事訴訟法の基本に関わる重要問題について、制度や原理・原則の根本に立ち返りつつ、できる限り丁寧な解説・検討を加えることにより、読者の理解を深める一助となることを目指す(以上、筆者まえがき)連載。毎回「補論」として発展的内容の議論を教員・学生・院生の対話形式で取り上げている。既存の原理・原則を所与のものとせず、再検討・再構築していく高レベルな内容のため、大澤説をそのまま答案にするのは極めて難しい。しかし、頭の体操としては有用。ケースや雑談(冗談)に頼らない正統派ストロングスタイルの講義内容。

  • 酒巻匡「論点講座・刑事手続法の諸問題(1)~(19・完)」(法学教室連載・283号~306号)……通称「酒巻連載」(法学教室355号~394号に連載された「基礎講座・刑事手続法を学ぶ(1)~(26・完)」と区別するために「酒巻旧連載」とも呼ばれる)。捜査法・訴因論の重要論点を学生向けに解説したもので、かつて司法試験受験生に広く読まれていた。証拠法はほとんど扱っていないため、本連載のみでの学習は困難である。また、連載が2004年であることから内容が古い。各回の目次など→目次

  • 「事例から考える刑事証拠法」(法学教室連載:469号~493号)……東大系研究者による刑事証拠法演習講義。毎回事例問題につき解説がなされるスタイルで現在の司法試験の出題傾向に合致しているので是非ともチェックしておきたい。全12講+座談会〔第1講:笹倉・伝聞証拠の意義上中下、第2講:成瀬・伝聞供述上下、第3講:池田・検察官面前調書(2号後段)に関する問題、第4講:川出・証明力を争う証拠、第5講:笹倉・犯行再現実況見分調書上中下・補講、第6講:成瀬・取引に関する書面、第7講:池田・同種前科・類似事実による立証、第8講:川出・科学的証拠、第9講:笹倉・自白法則、第10講:成瀬・取調べの録音・録画記録媒体の証拠としての利用、第11講:池田・違法収集証拠排除法則上下、第12講:川出・派生証拠の証拠能力、座談会 刑事証拠法の考え方と学び方(1)-(4)、全22回〕

  • 井上正仁『強制捜査と任意捜査』有斐閣(2014年12月・新版、2023年10月・OD版対応)……団藤門下。第一人者による捜査法に関する論文集。捜査法における最重要文献の一つ。新版の改訂にあたっては、新たに3つの論文が追加され、既収録の論文についても、判例や文献がアップデートされるなど加筆修正が施された。捜査分野における諸論点を重要判例とともに詳細に解説している。論文集ではあるが、収録されている論文には百選や争点に掲載されたものも含まれており、また、法学教室413号の書評で「しっかり刑事訴訟法を学ぶには最適の教材」と評されていることからも、試験対策としても得るところがある。A5判、526頁。
    なお、同著者による『捜査手段としての通信・会話の傍受』有斐閣(1997年10月・絶版、A5判、274頁)及び『刑事訴訟における証拠排除』弘文堂(1985年12月、OD版:2015年1月、A5判、602頁)も刑訴法における重要文献である。

  • 井上正仁・酒巻匡編『刑事訴訟法の争点(新・法律学の争点シリーズ6)』有斐閣(2013年12月)……B5判、208頁

  • 水谷規男『疑問解消 刑事訴訟法(法セミ LAW CLASS シリーズ)』日本評論社(2008年3月)……序章+全6章+終章。A5判、272頁。

  • 中川孝博・葛野尋之・斎藤司『刑事訴訟法講義案』法律文化社(2012年3月・第2版)……講義パートと短答パートの2パートで構成されている。講義パートは大学の講義や教科書の副読本としての使用を目的としており、重要な点に絞った解説がなされている。短答パートは知識の定着を目的としている。全8部、全17章。B5判、230頁。

  • 田口守一・佐藤博史・白取祐司編著『目で見る刑事訴訟法教材』有斐閣(2018年3月・第3版)……B5判、146頁。

  • 太田茂『応用刑事訴訟法』『実践刑事証拠法』成文堂(いずれも、2017年9月)……著者は元検察官・法科大学院実務家教員。『実践~』は著者の法科大学院における講義録となっており、ソクラテス・メソッド形式で書かれている。B5判、348頁・450頁。

  • 守屋克彦編『刑事訴訟法における学説と実務 初学者のために(法セミ LAW CLASS シリーズ)』日本評論社(2018年11月)……法セミ同名連載の単行本化。裁判官及び裁判官経験ある弁護士・研究者が学説と実務を解説する内容であるが、現在主流の東大系学説に対する分析がそこまで多くない(深くない)こと、連載時以降の法改正・新判例につき最低限の補訂にとどまっていることがやや残念。なお、編者は2018年に逝去。序章+全15章。A5判、216頁。

  • 粟田知穂『規範あてはめ刑事訴訟法——事案処理に向けた手続法の解釈』立花書房(2021年9月)……A5判、416頁。

(古典)
  • 平野龍一・鬼塚賢太郎・森岡茂・松尾浩也『刑事訴訟法教材』東京大学出版会(1977年10月)……小説立ての教科書。平野がハーバードに留学した際にアメリカの証拠法の教科書を見て思いついた一冊。刑事訴訟の権威、最高裁調査官経験者が執筆者として名を連ねているが、弁護士、警察官等刑事訴訟に関係する役職全てが目を通しているため、非常にリアルなプロセスを体験できる。書式も全て挿入されている。脚注には問題も設定されており演習書としての機能も備えている。読み物としても面白い。出版されてから大分経つが、今なお亀井源太郎等が参考書として挙げている。A5判、298頁。

  • 「リレー連載 刑事訴訟法の基本問題」(法学教室連載・259号~279号)……東大系研究者による刑訴法論点講義。いまや法改正により古くなった論点もあるが、大澤「公訴事実の同一性と単一性上下」などは一読に値する。全11回〔川出・行政警察活動と捜査、酒巻・おとり捜査、池田・逮捕・勾留に関する諸原則、佐藤・被疑者の取調べ、田中・接見交通、笹倉・自己負罪拒否特権、長沼・事前準備と予断の防止、大澤・公訴事実の同一性と単一性上、長沼・科学的証拠の許容性、大澤・公訴事実の同一性と単一性下、田中・証人の保護〕

  • 渡辺直行『論点中心 刑事訴訟法講義』成文堂(2005年3月・第2版)……「基礎理論、本質論に遡って理論と実務を考えていく」との視点に立った法科大学院実務家教員のテキスト。なお、著者は2017年に逝去。全15講。A5判、386頁。

〔実務関連書〕

  • 幕田英雄『実例中心 捜査法解説——捜査手続・証拠法の詳説と公判手続入門』東京法令出版(2019年4月・第4版)……第4版(2019年4月)から、書籍の副題が「捜査手続から証拠法・公判手続入門まで」から現在のものに変更された。第3版補訂版(2017年11月)において、平成28年の刑事訴訟法改正に対応。第4版は、平成31(2019)年1月31日現在の内容。全5編。A5判、824頁。

  • 司法研修所検察教官室編『検察講義案』法曹会(☆2023年7月・令和3年版)…司研テキスト(白表紙)。実務科目や口述対策として受験生に一定の人気を博しており、「隠れた名著」とも言われている。条文から出発して判例・検察実務の考え方を簡潔に記述した点、定義がしっかりしている点が特徴である。もっとも、本書はあくまで司法修習生に対して「実務的」な知識を習得させることを目的とした書籍であり、試験範囲を逸脱した内容も含まれている。また、本書には独自説も見受けられ、特に訴因については未だに公訴事実対象説を採るなど現在の学説と乖離している点には留意されたい。刑事手続を概観するための参考書として使用するのがよいだろう。全8章。A4判、256頁。

  • 石丸俊彦・仙波厚ほか『刑事訴訟の実務 上・下』新日本法規出版(2011年3月・3訂版)……裁判官の共著による実務家向けの刑事訴訟法の体系書。刑事訴訟手続部分だけでも、上巻726頁+下巻680頁の大著(本文)。学説については必要最小限の解説しかないが、その分、実務の運用や判例の引用が多い(少数意見まで収録している)のが本書の特徴である。書式例の掲載も豊富であり、実務のイメージを掴むのに便利である。学説を知らない初学者には向かないが、学説対立に辟易した上級者にならば本書は有用だろう。A5判、1510頁。

  • 三井誠・渡邉一弘・岡慎一・植村立郎編『刑事手続の新展開 上・下』成文堂(いずれも、2017年9月)……三井誠編『新刑事手続I・II・III』悠々社(2002年6月)の実質的な改訂版。刑事手続の各論点について、裁判官・検察官・弁護士のそれぞれの立場から論じており、実務家の考え方を知ることができる。A5判、606頁・694頁。

  • 新関雅夫・佐々木史朗ほか『増補 令状基本問題 上・下』判例時報社(2002年9月、原著1996年6月、1997年2月)……捜査法の実務的な論点について一行問題・簡単な事例問題の形式で実務家が解説。一粒社倒産のため、判例時報社が引き継いだ。長らく出版社品切れ状態であったが、2020年2月に増刷された。A5判、472頁・333頁。

  • 高麗邦彦・芦澤政治編『令状に関する理論と実務I,II(別冊判例タイムズ34,35号)』判例タイムズ社(2012年8月、2013年1月)……令状関連実務について実務家が解説。全2冊。I・・総論、逮捕・勾留。II・・保釈・鑑定留置等・勾引・捜索・差押え・検証等・準抗告・抗告。

  • 石井一正『刑事実務証拠法』判例タイムズ社(2011年11月・第5版)……元裁判官。証拠法分野では他の追随を許さない。実務家必携。もっとも、記述があまりにも実務的かつ各論的すぎるので、司法試験受験生が読みこなせる本ではない。本書を玩味して理解を深めることのできる者は、既に合格水準を優に超えているといえるので、使いどころが難しい。A5判、600頁。
    なお、同著者の論文集として、『刑事訴訟の諸問題』判例タイムズ社(2014年6月、A5判、720頁)がある。

  • 大阪刑事実務研究会『刑事公判の諸問題』『刑事実務上の諸問題』『刑事証拠法の諸問題上下』判例タイムズ社(1989年8月、1993年12月、2001年4月)……関西の刑事裁判官による論文集。『刑事証拠法の諸問題上』所収の三好幹夫「伝聞法則の適用」は、伝聞法則を理解するのに有用。

  • ☆丸山嘉代・三井田守・武井聡士・笹川義弘・久保庭幸之介・石川雄一郎編著『任意捜査ハンドブック』立花書房(2023年11月)……渡辺咲子『任意捜査の限界101問』のリニューアル・改題版。A5判、256頁。

  • 廣上克洋編『令状請求ハンドブック』立花書房(2021年9月・第2版)……司法研修所検察教官室の公式本で『令状請求の実際101問』の改訂版。A5判、336頁。

  • 伊丹俊彦監修、倉持俊宏ほか著『適法・違法捜査ハンドブック』立花書房(2017年5月)……通信傍受法の改正にも対応。A5判、432頁。


【入門書・概説書】

  • 三井誠・酒巻匡『入門刑事手続法』有斐閣(☆2023年7月・第9版)……入門書の定番。最初に条文とともに読むべき一冊。解釈論に深入りせずに、条文に沿って簡潔平板に刑事手続の制度・運用について説明する。豊富な統計・書式等により、読者の基礎知識の理解と整理に役立つものとなっている。あまりの平板・淡白さのために脱落する者も多い。第7版(2017年3月)において、2016年改正法に対応。全9章。A5判、454頁。

  • 中島宏・宮木康博・笹倉香奈『刑事訴訟法(日評ベーシック・シリーズ)』日本評論社(2022年3月)……関連コラム。全30章。A5判、320頁。

  • 池田公博・笹倉宏紀『刑事訴訟法(有斐閣ストゥディア)』有斐閣(2022年12月)……井上正仁門下による入門テキスト。情報の網羅性は欠けるものの、講学上の重要な概念について、言葉を尽くした丁寧な解説をしており、上級の基本書や演習書への橋渡し的な位置付けとなる。初学者や刑訴法が不得意な向きにオススメできるし、理論的説明は妥協していないので、上級者が読んでも新たな気づきがある。評価の高い書籍である。A5判、306頁。

  • 廣瀬健二『コンパクト刑事訴訟法(コンパクト法学ライブラリ)』新世社(2017年3月・第2版)……著者は元刑事裁判官(学部時代は田宮ゼミに所属)。「判例・通説に則ったうえ、私の実務経験を盛り込んで実務の実情を踏まえて概説」(はしがき)していることが特徴。本書は初学者を念頭に執筆されたもので、本文291頁とコンパクトながらも、主要な論点はほぼ網羅している。基本的に田宮説に依拠し、新しい強制処分説(ただし、盗聴等の権利侵害性の重大なものについては立法による規制を要するとする。この立場が判例実務により整合的であるとされる)、本件基準説、違法排除説を採るが、実体喪失説にも言及している。記述は平板であるが、小文字フォントを使い分けているため、初学者もメリハリをつけて読むことができる。ただし、条文を読めばわかる箇所は記述を省略していること、判例の引用数は多いものの判決内容の引用は少ないことから、六法や判例集に当たることが必要である。上級者のまとめ用としても好適である。第2版において、2016年刑訴法等改正に対応。全15章。2色刷。四六判、368頁。

  • 田淵浩二『基礎刑事訴訟法』日本評論社(☆2024年3月・第2版)……九大教授。A5判、348頁。

  • 椎橋隆幸編『プライマリー刑事訴訟法』不磨書房(2017年3月・第6版)……第6版において、平成28年改正法に対応。全27章。A5変型判、392頁。

  • 関正晴編『刑事訴訟法(Next教科書シリーズ)』弘文堂(2019年2月・第2版)……全8章。A5判、340頁。

  • 河村有教『入門刑事訴訟法』晃洋書房(2022年3月・第2版)……A~Fレベルで例えると、C・Dレベルを目指した入門書。刑訴法の初学者が総じて学習すべき事項は何かという観点から採り上げる学説を厳選し、客観的に叙述している。海上保安大学校准教授ということもあってか、逮捕のための実力の行使(の限界)、取調べ(取調べ技法含む)に各1章を割いているのが特徴。なお、著者は学部時代は田宮ゼミに所属。第2版において、頁数が140頁ほど増加した。全27章。A5判、554頁。

  • 津田隆好『警察官のための刑事訴訟法講義』東京法令出版(2019年4月・第4版)……著者は現役の警察官(現鳥取県警本部長、元警察大学校刑事教養部長)であり、「警察官の、警察官による、警察官のための」概説書。学説や公判に関する記述は最小限で、捜査実務の解説が中心。第4版では、実務の動向に合わせて、裁判例や本文が見直された。平成31(2019)年2月1日現在の内容。全10章。A5判、320頁。

  • 加藤康榮編著、城祐一郎・阪井光平著『警察官のためのわかりやすい刑事訴訟法』立花書房(2019年10月・第2版)……警察官向けの概説書。編者は元最高検検事。コンパクトに刑事手続を巡る最新の動向や法改正のポイントを盛り込みつつ、捜査に関連する重要事項や判例を解説。第2版において、平成28年の刑事訴訟法改正に対応したほか、「証人出廷を求められた際の心構え」について新たに書き下ろし、証人尋問のための準備等について解説。全19章。A5判、288頁。

  • 福島至『基本講義 刑事訴訟法(ライブラリ法学基本講義 14)』新世社(2020年4月)……概説書。「無辜の不処罰」を基本に据える立場で、全般に被疑者・被告人寄り。ただし、判例・通説と自説は分けて書かれており、混乱する心配は少ない。簡潔ながら明快で、論点の網羅性も高い。また、頁数に比して多くの判例を掲載していることも特徴。全22章。2色刷。A5判、344頁。

  • 椎橋隆幸編者『よくわかる刑事訴訟法(やわらかアカデミズム・〈わかる〉シリーズ )』ミネルヴァ書房(2016年4月・第2版)……第2版において、刑事訴訟法の一部改正(取り調べの録音・録画、合意制度の導入、通信傍受の合理化、裁量保釈判断の明確化、弁護人援助の充実ほか)を反映。全11章。B5判、226頁。

  • 渡辺咲子『刑事訴訟法講義』不磨書房(2014年3月・第7版)……著者は元検察官。197条から国民の捜査協力義務を導くなど、独特な記述も散見されるが、全体としては検察実務の考え方を平易に示した好著である。記述も口語調で非常に分かりやすい。書式(34の書式例)が豊富であることも特徴のひとつ。基本書として使えないこともないが、基本的には入門書のため、メインとして据えるには情報量がやや心許ない。全9章。 事項・判例・法令索引あり。A5変型判、400頁。

  • 福井厚『刑事訴訟法(プリマ・シリーズ)』有斐閣(2012年10月・第7版)……序章(刑事訴訟法の意義と目的)+全10章。四六判、468頁。

  • 福井厚編著『ベーシックマスター刑事訴訟法』法律文化社(2013年4月・第2版)……全7章。A5判、314頁。

  • 椎橋隆幸編『ブリッジブック刑事裁判法』信山社(2007年4月)……入門書。訴因論については大澤裕が担当しており、分かり易い。訴因論がどうしてもわからないという人や、訴因論で特異な見解が採られている基本書を使用している人は、大澤執筆箇所だけでも読むとよい。全5編、全17Chapter。四六判、300頁。

  • 山本正樹・渡辺修・宇藤崇・松田岳士『プリメール刑事訴訟法(αブックス)』法律文化社(2007年11月)……序章(刑事裁判の基礎)+全9章。A5判、320頁。

  • 司法研修所監修『刑事第一審公判手続の概要——参考記録に基づいて』法曹会(2009年11月・平成21年版)……司法研修所の刑事裁判テキスト(白表紙)。実際の事件記録を題材に第一審の刑事訴訟手続を解説したもの。手続の流れをつかむのに最適。予備試験の口述対策に有用であるとの声がある。A5判、284頁。

  • 裁判所職員総合研修所監修『刑事訴訟法概説』司法協会(2012年9月・3訂補訂版)……全8章。A5判、120頁。

  • 安冨潔『やさしい刑事訴訟法』法学書院(2013年4月・第6版)……全19章。A5判、324頁。

  • 渡辺直行『入門 刑事訴訟法(入門シリーズ)』成文堂(2013年9月・第2版)……刑事手続きの全体像を鳥瞰した入門書。「です・ます調」で書かれている。基本的用語について、できる限りその定義を明らかにしており、初めて刑事訴訟法を学ぶ法科大学院未修者や学部学生向けの本である。なお、著者は2017に逝去。全15章。A5判、372頁。

  • 岩下雅充ほか『刑事訴訟法教室』法律文化社(2013年7月)……執筆者(岩下雅充・大野正博・亀井源太郎・公文孝佳・辻本典央・中島宏・平山真理)。全8章。A5判、332頁。

  • 渡辺修『基本講義 刑事訴訟法』法律文化社(2014年9月)……法学部生向けのテキスト。序章(概観)+全8章。A5判、318頁。

  • 小木曽綾『条文で学ぶ刑事訴訟法』法学書院(2015年1月)……序章(現代社会における刑事手続の役割とそれが守る価値、法の文脈)+全18章。A5判、244頁。


【注釈書・コンメンタール】

  • 松尾浩也監修『条解刑事訴訟法(条解シリーズ)』弘文堂(☆2024年7月・第5版増補版)……実務家必携の中型コンメンタール。弁護士以外の実務家中心で合議して匿名執筆しているのが特徴で、そのため、記述内容に安定感がある(顕名執筆の「大コンメンタール刑事訴訟法」や「注釈刑事訴訟法」と比べると比較的客観的な記述である。)。条文の注釈に加えて刑事訴訟規則の注釈までついており、規則用の索引までついている。また、文献の引用を基本的に省略している。さらに、文字ポイントが小さく、情報量は多い。試験頻出の条文をさほど詳しく解説しているわけではないものの、条文の文言ごとの実務上の解釈を丁寧に解説している。そのため、刑事訴訟実務の授業や修習などで、実務の考え方を知りたいときに辞書的に用いるのであれば、大いに力を発揮する。執筆陣も豪華で信頼性が高く、実務家が最初に参照するのは本書であろう。第5版は、第4版増補版で巻末に収録されていた大規模な法改正に係る注釈を織り込むと共に、全条文について最新の運用状況を踏まえた改訂注釈を施したもの(はしがき)。A5判、1504頁。

  • 伊丹俊彦・合田悦三編集代表、上冨敏伸・加藤俊治・河本雅也・吉村典晃編集委員『逐条実務刑事訴訟法』立花書房(2018年11月)……現役の裁判官・検察官が執筆した実務家のための逐条解説書。近時の判例の展開(身体拘束の厳格化)等も踏まえた記述になっている。条解刑事訴訟法が刑事訴訟法改正に十分対応できていないことや、初版の記述を修正して改訂していることにより、やや古さが出てきていることから、今後は本書が実務家必携コンメンタールとして活用されていくのではないかという意見もある。条解に比べて記述が平板で読みにくく、論理性も条解より一段落ちるように思われる。A5判、1408頁。

  • 河上和雄・中山善房・古田佑紀・原田國男・河村博・渡辺咲子編『大コンメンタール刑事訴訟法〔全11巻〕』青林書院(☆第1巻:2022年6月・第3版、☆第2巻:2024年8月・第3版、第3巻:2010年7月・第2版、第4巻:2012年4月・第2版、第5巻:2013年2月・第2版、☆第6巻:2022年8月・第3版、第7巻:2012年10月・第2版、☆第8巻:2021年5月・第3版、☆第9巻:2023年5月・第3版、第10巻:2013年9月・第2版、第11巻:2017年10月・第2版)……これまでに蓄積された膨大な判例・学説を集大成した一大コンメンタール。公判前整理手続,即決裁判手続,裁判員制度,被害者参加制度の創設など,初版刊行後数次に渡る法改正と判例・学説の最新動向をつぶさに取り入れる(出版社の案内より)。本邦最高峰の大型コンメンタール。図書館での調べ物用とするのは勿体ない。大部なのは論理展開が非常に丁寧だからであり決して難しいものではない。中途半端な引用だらけで論理展開がない予備校系のテキストを読むくらいならこちらをお勧めする。顕名形式であるが記述にややムラがあり、とくに検察官執筆部分において客観性に疑問のある記述がないではないという見解もあるようだが、主観的なものに過ぎない。第11巻は裁判員の参加する刑事裁判に関する法律、犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律、国際捜査共助等に関する法律の逐条解説。A5判、第1巻〔第1条~第56条〕:730頁、第2巻〔第57条~第127条〕:600頁、第3巻〔第128条~第188条の7〕:560頁、第4巻〔第189条~第246条〕:936頁、第5巻〔第247条~第281条の6〕:516頁、第6巻〔第282条~第316条〕:706頁、第7巻〔第316条の2~第328条〕:824頁、第8巻〔第329条~第350条の14〕:704頁、第9巻〔第351条~第434条〕:944頁、第10巻〔第435条~第507条〕:514頁、第11巻〔刑事訴訟特別法〕:874頁。

  • 河上和雄・小林充・植村立郎・河村博編『注釈刑事訴訟法〔全8巻〕(予定)』立花書房(第1巻:2011年5月・第3版、第2巻:2020年6月・第3版、第4巻:2012年8月・第3版、第6巻:2015年4月・第3版、第7巻:2012年10月・第3版)……第6巻(2015年4月・第3版)について、10年ぶりの全面改訂。新版発刊以降の法改正・制度改革等を織り込み,実務の動向を正確に記述することを主眼に,実務を支える理論的な支柱を実務の内側から明らかにする(出版社の案内より)。大コンメンタールと同じく顕名形式をとるが、こちらは一家言ある裁判官執筆部分の記述内容が特徴的であり、大コンメとは若干趣を異にしている。A5判、第1巻〔第1条~第56条〕:706頁、第2巻〔第57条~第188条の7〕:778頁、第4巻〔第271条~第316条〕:634頁、第6巻〔第317条~第350条の14〕:890頁、第7巻〔第351条~第418条〕:642頁。

  • 三井誠・河原俊也・上野友慈・岡慎一編『新基本法コンメンタール刑事訴訟法(別冊法学セミナー)』日本評論社(2018年3月・第3版)……実務家の手による比較的安価な中型コンメンタール。編者の三井以外の執筆者は全て現役の法曹三者(裁判官、検察官、弁護士)であり、「裁判および検察の分野は、司法研修所の刑事裁判教官室、検察教官室が軸」となり構成されている。現実の解釈に直結しない学説対立についてはほとんど言及されていないが、法曹三者で意見が対立する箇所には【COLUMN】を挿入している(計15本。弁護人の立場からの提言14本+三井によるエッセイ的コラム1本)。『条解』と比べると、執筆者が全体的に若い。執筆者が明示されている点と値段の安さが魅力。『条解』とほぼ同じ記述の箇所が多々みられる。逐条実務、条解、大コメに比べると論理の流れが悪く、分かりにくいため、メインには使いにくい印象がある。第3版において、第2版(2014年4月)以降の判例がフォローされ、取調べの録音録画や協議合意制度を導入する2016年法改正に対応。事項索引・判例索引あり。B5判、768頁。

  • 後藤昭・白取祐司編『新・コンメンタール刑事訴訟法』日本評論社(2018年7月・第3版)……TKCのインターネットコンメンタールのコンテンツを書籍化した、学生向けの中型コンメンタール。第3版は、2016年の法改正で盛り込まれた取調べの録音・録画制度や協議・合意制度等、改正法を踏まえたもの。A5判、1330頁。

  • 井上正仁監修、河村博・酒巻匡・原田國男・廣瀬健二編集代表、大島隆明・三浦守編集委員『裁判例コンメンタール刑事訴訟法〔全4巻〕』立花書房(第1巻:2015年4月、第2巻:2017年6月、☆第3巻:2024年8月、第4巻:2018年6月)……研究者執筆箇所はよくまとまっているが、実務家執筆箇所は裁判例をそのまま引用するだけで規範を抽出していなかったりする。H28年改正については、第2巻・第4巻において付録として改正内容の概要を解説。R5年性犯罪関連改正、刑訴法改正については、第3巻において付録として改正内容の概要を解説。A5判、第1巻〔第1条~第188条の7〕:720頁。第2巻〔第189条~第270条〕:720頁、第3巻〔第271条~第350条の29〕:1312頁、第4巻〔第351条~第507条〕:720頁。

(古典)
  • 田宮裕『注釈刑事訴訟法』有斐閣(1980年5月)……田宮が学生向けに書きおろした学習用コンメンタール。分厚い新書。今となってはさすがに古い。刑事訴訟規則まで引用しているため、条文自体の注釈はさほど多くない。新書判、544頁。

  • 平場安治・高田卓爾・中武靖夫・鈴木茂嗣『注解刑事訴訟法 上中下』青林書院(1987年5月、1982年4月、1983年2月・いずれも全訂新版)……研究者執筆による注釈書で手堅い中にもアカデミックな内容。A5判、569頁、929頁、400頁。

  • 小野清一郎、栗本一夫、横川敏雄、横井大三『刑事訴訟法(ポケット註釈全書3)上下』有斐閣(1986年1月、1986年6月・いずれも新版)……今となっては古いが条解刑訴法が出版される以前に実務家に愛用された注釈書。小野が序説を担当。残る大部分を判検事が執筆。小B6判、662頁、676頁。

  • 小田中聰樹・大出良知・川崎英明編『コンメンタール刑事訴訟法』現代人文社(1998年1月)……刑事訴訟法の解釈・運用を、当事者主義、適正手続の保障など憲法理念から徹底的に見直した逐条解説。B5判、522頁。


【判例集・ケースブック】

〔判例集〕

  • 大澤裕・川出敏裕編『刑事訴訟法判例百選』有斐閣(☆2024年3月・第11版)……他の百選に比べて実務家の執筆者が多い。全体的に穏当な解説がされているので、司法試験受験生は、事案と判旨のみならず、解説まで読み込むべきである。総じて、評釈の内容は、百選シリーズのなかで、最も評価が高い。第11版では、100件+Appendix56件を収録。B5判、284頁。
    【改訂】第9版(2011年4月)は、101件+上訴・再審+Appendix41件を収録。第10版(2017年4月)は、100件+Appendix56件を収録(井上正仁による6頁にも及ぶGPS大法廷判決の解説も収録されている)。なお、刑事訴訟法判例百選は、「執筆者が変われば、異なった視点、異なった見方が与えられ得る」との考えの下、第6版以降は改訂の度に解説を一新し解説者を総入れ替えしている。

  • 川出敏裕『判例講座 刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕』『同 〔公訴提起・公判・裁判・上訴篇〕』立花書房(2021年10月・第2版、☆2023年8月・第2版)……
    「捜査・証拠篇」は、警察学論集誌上での全25回にわたる同名連載に追加・修正を施して単行本化したもの。捜査法及び証拠法に関する重要なテーマにつき、判例を素材に検討。警察幹部向けの連載ということもあって、判例の緻密な分析がなされており、判例の内在的な理解を深めることができる。必要な限度において、学説の解説も行われており、控えめながら自説主張がないわけではない(分かる人には分かる)。全体的に極めて明快かつ論理的な文章で書かれており読みやすい。捜査法と証拠法に関する重要論点はほぼ網羅されており、司法試験の論文対策として、非常に有用である。【改訂】第2版では、GPS捜査について新たに1講が追加された。全20講。A5判、576頁(本文547頁)。
    「公訴提起・公判・裁判篇」は、刑事法ジャーナル(51号~55号)にて連載されたもの。重要判例を12講に分けて解説。【改訂】第2版において、「被告人の訴訟能力」、「量刑と余罪」、「控訴審の審査」の3講を新たな項目として取り上げて「公訴提起・公判・裁判・上訴篇」と改題。2冊セットで刑事訴訟法のほぼ全分野を網羅。全15講。A5判、352頁(本文325頁)。

  • ☆松田岳士・宮木康博編著『刑事訴訟法判例集』有斐閣(2023年9月)……各判例の解説<事実の概要・裁判理由・コメント>に加え、各章の冒頭に刑事手続に関する制度・規範の内容および趣旨について解説を付す。見出し判例数計200件。
    本書の特徴は、通説的な説明を所与のものとしていないこと。これは、①無理に通説にひきつけて判例を解説しようとすると誤解を招きかねないこと、②通説の立場を真に理解するためにも、通説とは異なる別解を知っておくことが有益であること、などによる(はしがき)。
    判例集としての使用はもちろんのこと、解説のコメントが中上級者が読んでも、新たな気づき・知見が得られる内容となっており、オススメできる。序章+全22章。A5判、498頁。

  • 三井誠編『判例教材刑事訴訟法』東京大学出版会(2015年6月・第5版)……圧倒的な判例の掲載数。解説なし。判例百選の重要判例を本書で詳細に検討する読み方が、司法試験受験生には、有益であろう。追加判例として、サプルメント1、2が出版会ウェブにある。A5判、770頁。

  • 田口守一『最新重要判例250 刑事訴訟法』弘文堂(2016年7月)……単独著者による1頁に1判例の判例ガイドシリーズの「刑事訴訟法」版。最新の重要判例を中心に251判例を収載。B5判、300頁。

  • 葛野尋之・中川孝博・渕野貴生編『判例学習・刑事訴訟法』法律文化社(2021年6月・第3版)……若手から中堅の研究者による判例教材。取り上げられた判例は、102項目。これらの判例について、主に論点と結論→事実の概要→法の解釈→法の適用→コメントという順番で書かれている。法の解釈・法の適用・コメントは、論文の際のあてはめに有用であると思われる。B5判、406頁。

  • 平良木登規男・椎橋隆幸・加藤克佳編『判例講義 刑事訴訟法』悠々社(2012年5月)……刑訴法学者24名が執筆。平成21年9月までの187判例を収録。

  • 前田雅英・星周一郎『刑事訴訟法判例ノート』弘文堂(2021年5月・第3版❳……1判例を見開き2頁に整理した判例学習書。刑事訴訟法講義(池田・前田)において大きく省かれてしまった学説の解説や理解に重点を置いた編集となっている。A5判、424頁。

  • 河上和雄『刑事訴訟法基本判例解説』東京法令出版(2008年6月・改訂版)……警察官の実務に特に関連が深い重要判例を精選し、初版以来の73件に、最新判例24件を追加。A5判、280頁。

  • 椎橋隆幸・柳川重規編『刑事訴訟法基本判例解説』信山社(2018年4月・第2版)…… 1項目見開き2頁で解説。第2版は200件の重要判例を収録。A5変型判、432頁。

〔ケースブック〕

  • 井上正仁ほか『ケースブック刑事訴訟法』有斐閣(2018年3月・第5版)……設問には難解なものが多いが、他のケースブックに比べれば使いやすい。独学には向かないので、授業やゼミでの利用を勧める。第5版において、構成・設問の見直しと最新判例の追加が行われた。執筆者(井上正仁・酒巻匡・大澤裕・川出敏裕・堀江慎司・池田公博・笹倉宏紀)。全24章。B5変型判、728頁。

  • 笠井治・前田雅英編『ケースブック刑事訴訟法』弘文堂(2012年4月・第3版)……全30講。執筆者(亀井源太郎・菊池則明・木村光江・清水真・星周一郎・堀田周吾・丸橋昌太郎・峰ひろみ)。A5判、674頁。

  • 加藤克佳ほか編者『法科大学院ケースブック 刑事訴訟法』日本評論社(2007年4月・第2版)……編者(加藤克佳・川崎英明・後藤昭・白取祐司・高田昭正・村井敏邦)。なお、正誤情報あり。B5判、268頁。また、本書(第1版)の補助テキスト(学生の自習用にも)として、『刑事訴訟法(ティーチャーズマニュアル(CD-ROM版))(法科大学院ケースブックシリーズ)』(2006年7月、B5判)があった。ただし、書籍の第2版では、一部の箇所で未対応とのこと。

  • 後藤昭・白取祐司『プロブレム・メソッド刑事訴訟法30講』日本評論社(2014年8月)……はしがきにもあるように、上記『法科大学院ケースブック 刑事訴訟法』を発展させた事実上の後継シリーズ。独習向きではない。A5判、488頁。

  • 高野隆『ケースブック刑事証拠法』現代人文社(2008年11月)……刑事弁護人による証拠法ケースブック。証拠法分野はこれ一冊で完璧。問題集というより、判例集的な性格が強い。B5判、708頁。

〔その他判例〕

  • 渡辺咲子『判例講義 刑事訴訟法』不磨書房(2009年8月)…… 重要判例につき、地裁から最高裁まで丁寧に判決の論理の変化を追うことで判例に対する理解を深めさせ、当事者・裁判官としての実践的思考方法を学ぶことを目的としている。著者は元検察官だが、中立的な立場で判例分析を行っている。解説が詳しく、しかも講義調でとても分かりやすいため、独習も可能。全15章。A5変型判、504頁。

  • 田口守一・寺崎嘉博編『判例演習刑事訴訟法』成文堂(2004年9月)……刑事訴訟法の各分野における主要な重要判例32件を解説。問題の所在や判例の射程等の分析を行っている。A5判、416頁。

  • 長沼範良・大澤裕「判例講座・対話で学ぶ刑訴法判例」(法学教室連載・307号~340号〔全18回〕)……最近の判例を巡って学者と著名な実務家との対談形式で分析する。上掲「酒巻連載」に登場するような近時の学説に対する実務からの評価・論点に関する参考文献一覧も充実しており、新判例と高水準の理論との勉強に有用。全18回〔1:刑訴法判例の読み方・学び方、2:ホテルの客室における職務質問とそれに付随する所持品検査、3:別件逮捕・勾留と余罪取調べ、4:任意同行後の宿泊を伴う取調べと自白の証拠能力、5:捜索の範囲、6:強制採尿と強制採尿令状による採尿場所への連行、7:おとり捜査、8:逮捕直後の初回の接見と接見指定、9:覚せい剤使用罪の訴因の特定、10:共同正犯の訴因と訴因変更の要否、11:再現実況見分調書の証拠能力、12:違法収集証拠の排除、13:一事不再理効の範囲、14:再逮捕・再勾留、15:コンピュータと捜査、16:検察官の訴因設定権と裁判所の審判範囲、17:類似事実の立証、18:約束による自白の証拠能力〕

  • 川出敏裕『刑事手続法の論点』立花書房(2019年8月)…「刑事訴訟法に関わる比較的最近の裁判例を素材として、未だ最高裁による判断が示されていない問題や、今後、立法的な解決が求められる問題などを取り上げ、検討を行ったもの」(はしがき)。警察学論集(71巻5号・2018年5月号~72巻3号・2019年3月号、全10回)連載の単行本化(書き下ろしを含む)。高レベルな内容で司法試験のレベルを優に超えているが、実務でどのような論点が問題となっているかを知る意味でチェックするに値する。(GPS捜査、偽計を用いた証拠収集、採尿のための留め置き、おとり捜査、サイバー犯罪の捜査、接見の際の電子機器の使用、被告人の訴訟能力、刑事手続における証人の保護、取調べの録音・録画記録媒体の証拠としての利用、量刑と余罪)。全10講。A5判、248頁。


【演習書】

  • 古江賴隆『事例演習刑事訴訟法(法学教室ライブラリィ)』有斐閣(2021年9月・第3版)……著者は元検察官。法学教室の連載の単行本化。学生が混乱するポイントについての解説を加えてあるだけではなく、事例問題の解き方についても冒頭で書かれており、参考になる。検察官出身であるが、実務を追認しているわけではなく、近時の判例のみならず東大系学説の動向(それらの多くは基本書レベルを超えており、論文等を参照しなければならないので初学者が理解するのは困難である)をも踏まえた内容となっており、かなり理論的に詰めて書かれている。主要論点の全てを網羅しているわけではないものの、重要なものは概ねカバーしており、演習書というよりも論点解説集といった趣が強い。また、各設問の解説の後に参考文献として当該設問に関連する主要な文献が一通り掲げられており、文献ガイドとしても至便。第3版では頁数が旧版よりも100頁ほど増えた。A5判、590頁。

  • 井田良・田口守一・植村立郎・河村博 編著『事例研究 刑事法Ⅱ 刑事訴訟法』日本評論社(2015年7月・第2版)……刑訴の最重要論点について、現役の裁判官・検察官らを中心とした執筆陣が、かなり自由度の高い解説をしている。設問の数は捜査5問・公判9問と少ないが、各設問の末尾の関連問題まで潰せば、広い範囲の論点をカバーできる。A5判、412頁。

  • 亀井源太郎『ロースクール演習刑事訴訟法』法学書院(2014年3月・第2版)……受験新報の巻末演習の単行本化。連載時は、似た問題が本試験でも出るということで評判となっていた。設問はいずれも近時の重要(裁)判例をモデルにした長文事例問題であり、解説も概ね穏当で参考になるが、ほとんどの設問の事案が判例そのままとなっているため、上級者の実践訓練用としては、やや物足りないかもしれない。全30問。A5判、306頁。

  • 佐々木正輝・猪俣尚人『捜査法演習——理論と実務の架橋のための15講』立花書房(2018年3月・第2版)……検察官派遣教官による捜査法の演習書。憲法解釈や抽象的命題をそぎ落とし、問題をもっぱら刑訴法の条文解釈に局限することで、徹底的に捜査の便宜を重視した解釈論を展開する(同じく検察官出身でありながら、古江・演習が主流学派に依拠してバランスの取れた解釈論を展開しているのとは対照的である)。内容はかなりハイレベルだが、立場の偏りを意識して批判的に取り組めば、相当なレベルアップが期待できる。特に、本書で示されている判例の射程については、著者の見解をたたき台として、よく分析されたい。第2版は問題・設例はほとんど変わっていないが、解説において最新判例や学説の補訂がなされている。また、GPS判決やエックス線検査判決を受けた補講(強制処分と任意処分の区別をめぐる教員と学生の対話)が付されている。A5判、540頁。

  • 廣瀬健二編『刑事公判法演習 理論と実務の架橋のための15講』立花書房(2013年5月)……公判手続と証拠法を扱う演習書。全国の法科大学院で派遣教員を務める著名な刑事裁判官らが一堂に会し、普通の教科書を読んでいるだけでは学習が難しい公判及び証拠の諸問題について解説している。下記『実例刑事訴訟法』への橋渡し的な位置づけであり、学生向け参考書としては最高水準である。内容はかなり高度であり、極めて実務的であるが、図表を駆使することで非常に分かりやすくなっている。特に、訴因や証拠法はしっかりと押さえておきたい。各問の解説の後に参考判例と参考文献(実務家による文献が多い)が掲げられており、参考になる。A5判、386頁。

  • 長沼範良・酒巻匡・田中開・大澤裕・佐藤隆之『演習刑事訴訟法(法学教室ライブラリィ )』有斐閣(2005年4月)……法学教室の連載の単行本化。一行問題が多く、問題集というよりも論点解説集に近いが、東大系主流学派の問題意識がよく分かるので、学生向けの参考書としてなかなか使い勝手がよい。ただし、解説者によって解説の書き方がバラバラであるため、若干の読みにくさはある。A5判、372頁。

  • 松尾浩也・岩瀬徹編『実例刑事訴訟法I・II・III』青林書院(2012年9月-11月)……定評ある演習書の全面改訂版。執筆陣には著名な刑事裁判官が名を連ねている。帯等には「刑事手続上の重要問題を掘り下げて解説」と記載されているが、内容は極めて高度であり、司法修習生向きである。もっとも、司法試験受験生にとっても、気になる論点については一読の価値はある。Iは「捜査」を、IIは「公訴の提起・公判」を、IIIは「証拠・裁判・上訴」を扱う。A5判、416頁・360頁・412頁。

  • 新庄健二『司法試験論文過去問LIVE解説講義本 新庄健二刑訴法(新Professorシリーズ)』辰已法律研究所(2016年3月・改訂版)……著者は元東京高検検事・元司法研修所教官。辰已での新司法試験過去問解説講義を書籍化。平成18年から平成27年までの問題を収録。非常に平易な解説がなされている。特に、多くの受験生が苦手にしている伝聞については、記述が具体的かつ詳細で分かりやすい。A5判、452頁。

  • 高田昭正『基礎から学ぶ刑事訴訟法演習』現代人文社(2015年10月)……刑事訴訟法を学ぶうえで、迷ったり、躓いたり、誤りやすい重要な論点24項目について解説したもの。B5判、464頁。

  • 小木曽綾監修『設題解説 刑事訴訟法(二)』法曹会(2015年11月)……初学者が理解しておくべき刑事訴訟法上の一般的、基本的な問題を設題として取り上げ、具体的な事案に即して、判例・通説の立場から平易に解説したもの。全5章、全25問。新書判、320頁。

  • 粟田知穂『エクササイズ刑事訴訟法』有斐閣(☆2021年6月・第2版)……著者は元検察官(司研教官・考査委員経験あり)。全18問からなる長文事例問題集。判例をベースとした簡にして要を得た解説が特徴。A5判、186頁。

  • 峰ひろみ『刑事訴訟法演習』法学書院(2017年5月)……長文事例問題25問を収録した演習書。「受験新報」にて連載されていた「誌上答案添削教室」の問題と解説をまとめたものであるが、単行本化にあたり、各問題に答案構成や留意点についてコメントされた具体的な「答案例」が加えられている。A5判、445頁。

  • 安冨潔・清水真編『事例演習 刑事訴訟法』法学書院(2013年11月)……刑事訴訟法の基本的論点について、判例を中心として、主要な学説を整理した基礎編と、具体的な事例問題を通して分析・応用能力を身に付けるための応用編を収録する演習書。A5判、424頁。

(古典)
  • 田宮裕『演習刑事訴訟法(法学教室選書)』有斐閣(1983年6月)……2001年9月オンデマンド対応(1991.2.25初版第5刷)。四六判、374頁。

  • 上口裕・後藤昭・安冨潔・渡辺修『基礎演習刑事訴訟法(基礎演習シリーズ)』有斐閣(1996年4月)……有斐閣Sシリーズ『刑事訴訟法』の執筆者による演習書。 四六判、320頁。

  • 平野龍一・松尾浩也編『新実例刑事訴訟法I・II・III』青林書院(1998年7月)……上記『実例刑事訴訟法』の旧版。旧司時代には種本と呼ばれていた。執筆者は、法曹三者。法改正もあったが、今もなお有用である。A5判、350頁・440頁・370頁。

  • 安冨潔『旧司法試験 論文本試験過去問 刑事訴訟法』辰巳法律研究所(2004年5月)……旧司法試験過去問解説講義を書籍化。問題解説・受験生答案・答案の検討からなる。全34問。 絶版であったが、オンデマンド版で復刊された。丁寧かつ論理的に問題を検討しており、解説は信頼がおけるものになっている。しかし、受験生答案に細かく注文をつけるスタイルは、好みが分かれるだろう。なお、平成12年度の旧版に平成13-15年度の解説を加えただけなので、新判例に対応できていない。

〔伝聞法則〕

  • 工藤昇編著『事例でわかる伝聞法則』弘文堂(2023年6月・第2版)……伝聞法則に特化した演習書。横国ローの実務演習科目における「伝聞ノック」を書籍化したもので、伝聞が問題となる事例を網羅しているといっても過言ではない。イラスト例や書式例も豊富でわかりやすい。付録として第2版では平成20年-令和3年の司法試験刑事系科目第2問(のうち伝聞関連の問題)につき著者(弁護士)による模範解答例を付している。執筆者(飯田信也・近藤俊之・鈴木大樹・成田信生・渡部俊太)。A5判、200頁。

  • 後藤昭『伝聞法則に強くなる(法セミLAW CLASSシリーズ)』日本評論社(☆2023年12月・第2版)……伝聞法則に特化した演習書。法セミ連載の書籍化(2018年4月号・759号~2019年3月号・770号、全12回)であるが、内容は高度。非伝聞の類型(①供述でないもの、②供述ではあるが供述証拠ではないもの、③供述証拠ではあるが、政策的な理由で伝聞証拠禁止原則の対象外とされるもの)が通説的見解とは異なるが、司法試験の過去問を素材にするなど豊富な例題で、分かりやすく解説している(巻末に司法試験出題と例題の対応表を付している。平成18-令和5年の伝聞問題を例題として使用。)。【改訂】第2版は、2023年の刑訴法改正に対応。序章+全13章(伝聞法則を学ぶ意味、伝聞証拠とは何か、伝聞証拠禁止原則の意味、伝聞・非伝聞の区別、伝聞例外の体系、伝聞例外としての検面調書、検証調書の伝聞例外、実況見分調書と立会人の指示説明、供述のビデオ記録の伝聞例外、被告人の公判外供述、業務上書面・伝聞供述・再伝聞、当事者の意思による伝聞例外、共同被告人と伝聞法則、供述の証明力を争うための証拠)。A5判、224頁。


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