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花火まであと少し

212 :パック ◆JuT3jsxZbo :2006/12/06(水) 01:46:55 ID:M5kMeqM5
お久しぶりです。
今更になってしまって申し訳ありませんが、前スレでレスをくれた皆様ありがとうございます。
正直長く続け過ぎてしまって不安になっていたので、大げさかもしれませんが救われる想いがしました。
本当にありがとうございます。

都合が付きましたので、今夜から予告していたハセ志乃を投下します。
例によって、連載形式です。
一応以前書いた「夢から覚めても」の続きという形になっていますが、
捏造だったリアル設定を公式に合わせたので厳密には繋がっていません。
微妙な例えを使えば、仮面ライダークウガとアギトみたいな関係ですか。

「オーヴァン失踪後、紆余曲折を経てハセヲと志乃はくっ付いた」程度に認識してもらえれば
今までのを読んでいなくても楽しめるようにしたつもりですので、
最近このスレを見始めたという方でも楽しめるようになっている・・・・・・はずです。

それでは、前書きはここまで。本編行きます。


213 :花火まであと少し 1:2006/12/06(水) 01:48:08 ID:M5kMeqM5
網戸だけを残して窓を開くと、少しだけ冷たい外気が入り込んできた。
季節は初夏。
花が咲き、木々が緑に揺れる季節だが、
窓の外に見えるのは芝生が植えられた庭とその先にある住宅街だけだった。
既に太陽は沈み、見慣れたその景色は街灯の薄明かりに照らされている。
初めてこの家にやってきたあの日以来、この窓から見える風景は変わっていない。
今年もきっと、変わらないのだろう。
そんな益体もない事を考えて、窓際の少年――三崎亮は溜息をついた。
別に、大仰な青春の悩みとやらを抱えているわけではない。
むしろ、今の亮はこの上なく幸せなはずである。
ただ時間を食いつぶしていくだけだった去年までとは違い、今の自分には夢中になっているものがある。
体の調子もよく、学業も問題なし。
親は忙しく家にいる事が少なくなったが、裏返せばそれは仕事が順調だと言う事である。
そして何より、今の亮には相思相愛の恋人がいるのだ。
しかも年上だ。
本当に、これで不幸だといったら罰が当たるだろう。
にもかかわらず、亮の心は都会のスモッグのように翳っていた。
理由ははっきりしている。
その年上の恋人――七尾志乃のせいだった。


214 :花火まであと少し 2:2006/12/06(水) 01:49:39 ID:M5kMeqM5
志乃のせい、といっても彼女に冷たくされたとか言うわけではない。
彼女はいつだって優しく、そして正しい。
亮が彼女の事で悩むとすれば、それは大抵独りよがりな袋小路にはまっているだけなのだ。
「はぁ……」
再び溜息をつき、亮は自分自身に絶望した。
思えば今までの悩みも相当のものだったが、それも今度のに比べればまだましだろう。
今回の悩みは――会えないこと、ただそれだけだった。
会えない苦悩と言っても、織姫と彦星のように一年に一度しか会えないと言う訳ではない。
亮の家は都内。志乃が住んでいるのは埼玉だから、電車を乗り継げば二時間程度で行ける。
この程度の距離で遠距離恋愛と言ってしまったら、
全国遠距離恋愛同盟(そんなものがあれば、の話であるが)に撲殺されてしまうだろう。
それに、直接は会えなくても声は毎日聞いているし、会話だってしている。
彼女と亮は、同じMMORPG・The Worldをプレイしているのだ。
それでも。亮は、志乃に会いたくて仕方が無かった。
我侭なのは自分でもわかっている。
片道二時間という距離は学校の事を考えれば日帰りできるものではないし、
最後に会ってからまだ五日しか経っていない。
―――志乃と初めてリアルで会ってから、もうすぐ一月。
その間に本当に色々なことがあった。小説を書いたら、原稿用紙百枚では足りないぐらいのことが。
亮が今いる場所は、その結果としては望みうる最高のものだろう。
しかし。
「はぁ……」
三度目の溜息をついて、亮はようやく椅子に座った。
机の上の置時計に目を落とすと、時計の針は午後八時を示していた。
大学から帰った志乃が、そろそろログインしてくる時間である。
亮は顔を俯かせ、心の中で中途半端な気分で会いたくないと言う想いと
話だけでもしたいという想いを秤にかけた。
三十秒ほど考えたところで、亮はPCの電源を入れた。



215 :花火まであと少し 3:2006/12/06(水) 01:50:17 ID:M5kMeqM5
ローディング画面を経て、M2D(マイクロ・モノ・ディスプレイ)の視界に幻想的な青空が広がった。
野晒しの草原に石畳を引いただけの町並みなど、現代ではそうそうあるものではない。
しかし、最先端の情報工学によって造りだされた架空の世界は、時として現実よりもリアルに感じられる事があった。
舞い散る木の葉がハセヲ――PCの体に触れるような錯覚を覚えながら、亮はメニューバーを呼び出した。
「パーティ」の項目を選択し、彼女の状態がOnline――呼び出しOKなのを確認してパーティに誘う。
程なくしてショートメールの返事が届き、黒衣を纏った短髪の呪療師(ハーヴェスト)――志乃が姿を現した。
どういうわけか、彼女はPCにリアルの自分と同じ名前を付けている。
「こんばんわ、ハセヲ」
「こ、こんばんわ」
女神と言うのがいるとすればこんな声をしているのだろうか。
亮は彼女の声を聞くたび、そんな事を考えてしまう。
「最近ずっとハセヲの方から呼んでくれるね。ふふっ、何だか嬉しいな」
「……」
少し複雑な気分になって、亮は口をつぐんだ。
以前はいつも志乃がハセヲを冒険に誘うと言うと言う形が多かったが、最近はそれがすっかり逆転してしまっている。
元々亮自身が志乃に好意と言うか、憧れに近い感情を持っていた事を考えれば当然のことなのだが。
今の亮は、それが少しだけ悔しかった。


216 :花火まであと少し 4:2006/12/06(水) 01:51:07 ID:M5kMeqM5
「どうしたの?なんか、元気ないね」
「っ!何で、わかるんだよ……!」
「ふふっ、誘導尋問。ハセヲ、やっぱり素直だね」
志乃が笑って、亮はようやく自分が引っ掛けられた事に気づいた。
「………っ!」
腹は立ったが、無邪気に笑う彼女の姿――たとえそれがグラフィックだとしても――は信じられないぐらい可愛くて、
亮はそれを見た瞬間何も言えなくなってしまう。
「ごめんね、でもこれでちょっとは元気出たでしょ?ゲームなんだから、楽しくやらなきゃ。ね」
少し声のトーンを落として、志乃が言う。
亮はそれに答えないで、顔を背けた。
「もう、拗ねないで。茶化したのは謝るから。ね」
「……別に拗ねてなんかねぇよ」
拗ねていますと言外に認めているような口調で、亮は答えた。
志乃がその声を聞いて、小さく笑う。
「ふふっ、良かった。ハセヲに嫌われたら私、生きていけなくなっちゃうよ」
「なっ……」
志乃の言葉に、亮の胸が高鳴った。
しかし、その口調が冗談めいたものだった事を思い出し、すぐに高揚は焦りに変わった。
「ね、今日はちょっと行きたいところあるんだけどいいかな?」
「あ、ああ。別に、いいよ」
焦りを隠そうと、亮は一も二も無く志乃の言葉にうなずいた。
リンクからエリアワードを呼び出し、エリア情報を見もしないで決定ボタンを押す。
程なくして転送が始まり、二人のPCが光に変わる。
ローディング画面を見ながら、亮はもう数えるのも億劫になった溜息をついた。
全く、どうしてこう空回ってしまうのだろう。
一週間前までは、志乃さえ居てくれれば全てうまくいくと思っていたのに。


251 :花火まであと少し 5:2006/12/10(日) 01:45:45 ID:dhLYjlBk
「あのー、志乃サン?」
「どうしたの、ハセヲ。急に他人行儀になっちゃって」
「このエリア……やば過ぎじゃね?」
目に映るのは、見ただけで冷たさを感じてしまいそうな寒色の回廊。
視線を床に落とすと、罠と言う言葉を具現したような伸縮式の鋸や剣山が蠢いている。
それだけでも気が滅入るのに、エリア自体のレベルもハセヲからすればかなり高い。
まだ一回しか戦闘していなかったが、HPは既に三分の一を切っている。
今更ながら、亮はエリア情報をまともに見なかった事を悔やんだ。
そこにはちゃんと、「今のあなたのレベルではここのモンスターには勝てないでしょう」と書いてあったはずなのに。
とはいえ、それを見ていたとしても今の亮が志乃のお願いを拒めたかどうかは怪しい。
むしろ、志乃が行きたいとさえ言えば適正レベル150の最上級エリアであろうと着いていってしまいそうな気がする。
「うーん、私は好きなんだけどな、回廊型。ハセヲは嫌い?」
「い、いや……その……」
思わぬ質問に、言葉が詰まる。
正直に言えば、回廊型は嫌いだ。
一本道な分通常のダンジョンに比べれば時間はかからないが、その分トラップが多く戦闘の回避も困難になっている。
最深部にはボスが待っているし、それを倒さなければ当然ミッション目標である獣神像には到達できない。
受けるダメージとストレスは、間違いなくゲーム中最高だろう。
それこそ、こんなエリア好きなやついるのかと思っていた。
今の今までは。
隣を見れば、志乃が好きって言って言ってオーラを溢れさせてこちらを見ている。
実際にM2D越しの視界に映っているのは単なるグラフィックに過ぎないのだが、なんとなく気配でわかった。
「あー、その……嫌いじゃなかったって可能性があるとも無いとも言えないことも無い、かな」
「うーん、何だかはっきりしないなぁ……まあ良いや。このエリアをクリアしたら、ハセヲもきっと好きになるよ」
唇を尖らせながらそう言うと、志乃はハセヲの背中を叩いた。
先に進もう、という意思表示のようだ。
「そうなるといいな……行くぜ!」
熱愛自棄という心の新境地を感じながら、ハセヲは回転鋸へ向かって走りだした。


252 :花火まであと少し 6:2006/12/10(日) 01:47:08 ID:dhLYjlBk
「旋風、滅双刃!」
既に何度目かわからなくなったアーツをお見舞いして、ようやくボスモンスターは沈黙した。
戦闘リザルトが表示される中視線を後ろに流すと、戦闘中援護と回復に徹していた志乃が拍手をしている。
一瞬苛立ちを感じて視線をそらし、亮は目を閉じて呼吸を整えた。
「……死ぬかと思った」
そのまま小さく呟いて、コントローラーを持った右手を振る。
このボス戦に限らず、エリアの難易度とストレスは相当のものだった。
レベル差は後半ハセヲのレベルが上がったおかげでさほど感じることは無くなったが、それでようやく五分。
トラップは相変わらず悪質に配置されていたし、エリアのモンスターは甲殻系が主だった。
甲殻系モンスターは本来のHPとは別に殻自体の耐久力が設定されており、それを削りきらなければまともにダメージが通らない。
巡り合わせが悪い事に、ハセヲの得物は殻へのダメージにマイナスの補正がかかる双剣だった。
「これだから甲殻類は嫌いなんだ……」
殻が剥けなくて海老が苦手だった子供の頃を思い出して、小さく呟く。
思えば黄昏の旅団が解散する前は、オーヴァンに連れられて様々なエリアで特訓を受けた。
その中にはおいおい、ちょっとこれ初心者の行くエリアじゃねぇだろと言うような場所が高頻度で含まれていたが、
今回の回廊はそれらと比べても遜色ないレベルの場所だった。
亮とてゲーマーの端くれである。別に高難度エリアが嫌いなわけではない。
しかし、普段志乃と行くのはオーソドックスな草原タイプのエリアが主だった。
プレイングも、経験値稼ぎやアイテム集めよりお喋り――ここ一週間はデートと言っても差し支えないだろう――がメインとなる。
良く言えば牧歌的、悪く言えば生ぬるい日々だったが亮はそんな志乃との時間にそれなりに――いや、
本音を言えばかなり充足していたのだ。
それなのに、志乃の方からこんなエリアに、それもだまし討ちのような形で引っ張ってこられるなんて。
文句を言おうとして、亮は視界を後ろに立つ志乃に移した。
「志乃、あのさ」
「なぁに、ハセヲ」
呼びかけると同時に、目と目が合った。
志乃が答える。いつも通りの、優しい声音。
「……っ!何でもない……」
耳朶を包み込むようなその声が響いた瞬間、亮は何も言えなくなってしまう。
そんなハセヲの姿を見て、志乃が小さく笑う。
天使のようなその笑い声が、少しだけ苛立たしくて。
ハセヲは踵を返して、獣神像に向かって歩き出した。


253 :花火まであと少し 7:2006/12/10(日) 01:50:25 ID:dhLYjlBk
多くのエリアでは、そこに置かれた宝箱を開けることがクリア条件になっている。
亮はターゲットアイコンをクリックし、蹴り飛ばすようなモーションで宝箱を開いた。
「はぁぁぁ……」
中から現れたアイテムに、溜息が漏れる。
宝箱に入っていたのは、光式・忍冬(スイカズラ)。
デフォルトで光の属性を持ち、このレベル帯では最高の攻撃力と使い勝手を誇る希少な双剣である。
「これ、俺が貰っていいのか?」
ようやくこのエリアに連れてこられた意図を理解し、亮は再び志乃を振り返った。
「もちろん。ごめんね、いきなり連れ出したりして」
肩をすくめて、志乃が答える。
連れ出すような形になった事を気にしてか、それとも単に内緒にしていた事が恥ずかしいのか。
その口調には、照れとも後ろめたさとも付かない響きがあった。
「そんな……謝る事なんてないよ」
先ほどまでの不満は何処へやら、そう言われて亮は本気で気後れしてしまう。
はっきりって、この双剣は実用性という観点からすれば微妙である。
確かに単独の武器としては優秀だが、
レアアイテム扱いになる為他の武器と練成して攻撃力を上げる事が出来ない。
またデフォルトで光属性とクリティカル補正のアビュリティが付与されている為、
自分の裁量でカスタマイズする事も不可能。
要するに、発展性が無いのだ。
そして、この種の道具は使い手にとってはあまり望ましいものではない。
それが真理である事は第四世代MS(ドーベンウルフやゲーマルクと言ったネオジオン紛争期の恐竜的進化を遂げた機体)
が15mサイズの小型MSに取って代わられていったように、人類の歴史における現実が実証している。
それでも。亮は、志乃が自分のために希少な双剣を送ってくれたと言うだけで、嬉しかった。
「そう言ってくれると嬉しいな……ね、ハセヲ。その双剣――スイカズラの花言葉、知ってる?」
「え?」
突然、志乃が話題を変えたる。
比較的一般的な男子高校生である亮は、当然スイカズラなどというマイナーな花言葉など知らない。
おそらく志乃も、それをわかっていて聞いたのだろう。
程なくして、志乃の形の良い唇が答えを紡ぐ。
「愛の絆……」
「……っ!?」
リアルで顔を真っ赤に染め、亮が声にならない叫びを押し留めた。
「ふふっ」
そんなハセヲを見て、志乃が優しく笑った。
その眼差しは、弟を見守る姉とも年下の恋人を見守る淑女ともつかない。
亮が調子を取り戻すまでの間、志乃はずっとそうやってハセヲを見つめていた。


275 :花火まであと少し 8:2006/12/14(木) 00:39:09 ID:xSoBfF/v
「ねぇハセヲ、明日は暇?」
プラットホームからタウンに戻ると、志乃は唐突にそんな事を聞いてきた。
「別に……予定は無いけど」
もしかして……
仄かな期待に胸を高鳴らせながら、亮は答えた。
実は現在公開中のガンダムUC・劇場編集版を見に行くつもりだったが、志乃の誘いに比べれば瑣末なものである。
予定の内にすら入らない。
「なら、じゃあお昼ぐらいから付き合ってくれない?神田に本買いに行きたいの。あ、もちろん、リアルの方ね」
「う、うん……わかった」
待ち望んでいた、志乃からの誘い。
飛び上がるほど嬉しいはずなのだが、照れが邪魔してそれだけしか言えない。
無意識に、ハセヲは志乃から目を逸らした。
少し前まで、亮は志乃の目を見るのが苦手だった。
初日にPKされて人間(PC?)不信ぎみになっていた事もあったが、
旅団に入って仲間たちと普通に話せるようになってからも志乃に対してだけは直らなかった。
正確なところは今でもわからないが、おそらく――彼女の声と言うか、話し方のせいなのだろう。
志乃の声は可憐で、囁くような調子で話す。
それは彼女のお姉さん気質と言うか、冷静で温厚な態度と相まって心に否応無く響いた。
一言で言えば、誠実で一途なのだ。
感情過多な面を隠そうとクールで無気力な仮面をつけていた以前のハセヲには、それがたまらなかったのだろう。
あくまでこれは、後付けの自己評価に過ぎないが。


276 :花火まであと少し 9:2006/12/14(木) 00:39:57 ID:xSoBfF/v
「良かった。買いすぎちゃった分の本持ってもらうかもしれないけど、いいかな?」
「そんなの……別に、気にしないから」
普段なら叱られる所だが、志乃は気にせず言葉を続けた。
それが少し不満で、亮はぶっきらぼうな調子になる。
呆れられたのか、それとも内心を見透かされたのか。
どちらにせよ、余りいい気分では無かった。
「それじゃ、待ち合わせとかは後で携帯の方で送るね。私は今日中に大学の課題片付けちゃいたいから、今夜は落ちるね」
「う、うん。じゃあ……」
そういって、志乃は足早に姿を消した。
ハセヲは、一人タウンに残される。
別に引き止めるつもりは無かったが、こうなると少し寂しい。
「ログアウトして、メールでもチェックするか……」
思わず口に出して、そう呟いた瞬間。
「やっほー!ハセヲー!」
亮の耳に、無駄に元気な叫びが聞こえた。
反射的に振り向くと、そこには猫の意匠の拳術士(グラップラー)――元黄昏の旅団のメンバー、タビーが立っていた。


325 :花火まであと少し 10:2006/12/21(木) 00:48:21 ID:UAA6LRSJ
線路と車輪が軋み、振動を反響させながら地下鉄が走る。
地下鉄都営新宿線の車内で、亮はポケットから携帯電話を取り出した。
画面に映った時間は午前十一時四十三分。
今九段下を過ぎたあたりだから、志乃との約束には十五分近い余裕を持って間に合う事になる。
しかし、亮の心は梅雨時の日本列島のように沈んでいた。
溜息を付く代わりに吊革を握る手に力を込める。
折角のデートだというのに、昨日志乃が気を遣ってくれたというのに。
それもこれも、昨日あんな事があったせいだ。


326 :花火まであと少し 11:2006/12/21(木) 00:49:45 ID:UAA6LRSJ
「おまえなぁ……恥ずかしいから大声出さないでくれよ」
「ごめんごめん。久しぶりだったからさー」
タビーはそういって、招き猫のように片手を上げて手首を曲げた。
ハセヲは苦々しい気分でそのアクションを見る。
周囲のチャットに耳を澄ますと、何人かのPCが二人の事を喋りはじめていた。
以前は余り意識しなかったが、二人がかつて所属していた黄昏の旅団というのはこのゲームの中ではかなり有名な存在だった。
そんな現状は、以前目立ったおかげで散々な目にあったハセヲにとっては余り歓迎するべきことではない。
まあ、今はタウンなのですぐにどうこうということはないだろうが。
「で、何だよ。もしかして挨拶する為だけに俺を呼び止めたのか?」
「別にそれでも良いんだけど……そうだ、ハセヲ。よかったらこれからどっか行かない?」
早めにログインして志乃からのメールをチェックしたい為か、ハセヲの言葉は自然と少し荒くなる。
しかし、タビーはそれを気した様子もなく言った。
基本的に根暗の亮は、彼女のこういう明るさが時々羨ましくなる。
もちろん、タビーにもそれなりの影はあるのだろうが。
「わりぃ、今日はもう寝ないといけないんだ。お袋が門限に煩くってなw」
少しも悪いと思っていない調子で、ハセヲは答える。
そう、自分はこれから志乃のメールを待たなければいけないのだ。
それ以外にも明日着ていく服の選定、交通案内の調査などやらなければならない事は少なくない。
野良猫に構っている余裕などないのである。


327 :花火まであと少し 12:2006/12/21(木) 00:50:17 ID:UAA6LRSJ
「そっかー……ねー、もしかして志乃さんとデート?」
「いっ!?」
タビーの言葉に、思わず亮が声にならない叫びを漏らした。
何で、と言いそうになるのを寸前で思い留まったが、うろたえてしまった時点でもうアウトだろう。
「あー、瓢箪から駒が出ちゃった……いやー、ハセヲも隅には置けないね」
それを証明するように、タビーはにやにや笑いながらハセヲに体を寄せてきた。
「うーん、やっぱりあたしは正しかった。だからハセヲ志乃さんの目見れなかったんだね」
指でハセヲの二の腕のあたりをつつきながら、タビーが耳元で囁く。
ここまで来たら誤魔化すことも出来ないので、ハセヲは思い切って開き直る事にした。
「ああそうだよ。デートだよ。だからお前と遊んでる暇はないんだ」
ハセヲはそういってそっぽを向いた。
それを聞いたタビーは何を思ってか、無言で体を離す。
……少し言い過ぎたか?
俯いた猫娘の姿を横目に、ハセヲは舌打ちした。
苦手ではあったが、この少女(多分)の事は決して嫌いではない。
取り立てて好きでもなかったが、知り合いを傷つけて平気なほど亮は無神経ではなかった。
そうしてハセヲがとるべき態度を決めかねていると、タビーが唐突に口を開いた。
「……そんなに志乃さんの傍にいたい?」
「は?」
意味がわからない。
確かに、自分は志乃の傍にいたい。
だが、それは――好きなら当たり前ではないだろうか。
大体、その言葉はこっちの台詞だ。
旅団にいた頃から、タビーはずいぶん志乃に懐いていた。
時々それで都合がある志乃を困らせた事もあった。
苛立ちながらハセヲがそう言おうとした瞬間。
「でも、ハセヲにオーヴァンの代わりは無理だよ」
タビーが小さく、そう言った。
「お前、それどういう」
「じゃあね、ハセヲ」
反射的にハセヲが激昂した時、タビーの姿は既に消えていた。


328 :花火まであと少し 13:2006/12/21(木) 00:51:28 ID:UAA6LRSJ
「くそ……」
昨夜の会話を反芻して、亮は片手の携帯電話に力を込めた。
ここが自分の部屋だったら、壁を殴っていただろう。
オーヴァンの代わり、だと。
確かに姿を消した黄昏の旅団のギルドマスター、オーヴァンと志乃は親密な関係だった。
リアルでも面識があったらしいし、彼の失踪による志乃が酷く沈んでいるのも事実だ。
しかし、それは亮と志乃が付き合いだした事とは関係ない。
他でもない、志乃本人がそう言っていた。
だが――
亮は目を閉じた。
今の関係が、オーヴァンの失踪なしには成り立たないのは事実だった。
彼がいたら、二人の距離がここまで近づく事は無かっただろう。
(――違う!)
首を振って、亮はその考えを打ち消した。
それはあくまで時間の問題に過ぎない。
オーヴァンがいても、自分はいつか志乃に想いを告げていただろうし、彼女はきっとそれに応えてくれていた。
それに、自分と志乃は既に一度体を重ねている。
仮にオーヴァンの事で彼女の心が弱っていたとしても、そんな理由で彼女は好きでもない男に体を許したりはしないだろう。
志乃はそんなに安い女ではない。
それでも。
(なのに、どうして俺はこんなに不安になるんだ)
目を開いて、列車の無機質な天井を見上げる。
そうしないと、亮は泣いてしまいそうだった。


329 :花火まであと少し 14:2006/12/21(木) 00:52:12 ID:UAA6LRSJ
そんな少年の感傷に、やけに気の抜けた停車案内が水を差した。
(ん?浜町?)
聞きなれない単語に、亮が思わず視線を動かす。
神保町は九段下の次の停車駅だったはずだ。
と言う事は……
真っ青になって、亮は携帯の時刻表示を見た。
時刻は、十一時五十六分になっていた。


339 :花火まであと少し 15:2006/12/24(日) 01:28:31 ID:z7xTQSsv
結局、待ち合わせの場所――神保町の地下鉄A6出口に辿り着いたのは正午を十五分以上過ぎてからだった。
慌てて階段を駆け上がり地上に出ると、すぐに志乃の声が聞こえた。
「おそーい」
「ご、ごめん!」
慌てて振り向くと、一週間ぶりになるリアルの志乃の姿があった。
明るい夏の日の中で、彼女はシンプルな黒いワンピースの上に
白い半袖のジャケットを着込み、大きなピンク色のバックを抱えている。
初夏という季節をそのまま衣装にしたような、彼女らしいいでたちだったが、
今の亮にはそれに見惚れる余裕はなかった。
「電車、乗り過ごしちまって……」
「遅れそうなんだったら連絡くらい入れてよ。心配したじゃない」
そういって、志乃は亮を睨んだまま唇を尖らせた。
まさか、悩み始めて気がついたら浜街に着いていましたとは言えない。
馬鹿の考え休むに似たりとはよく言ったものである。
俯いたまま黙った亮を見て、志乃は溜息をついた。
「……まあ、いいよ。待たされるのはThe Worldで慣れちゃってるしね」
「ほんとにごめん!お詫びになるなら何でもするから」
「そこまで言わなくても……そうだ、じゃあ今日買う本持ってもらえる?」
「ああ、そんなことでよければ」
ようやく穏やかになった志乃の言葉に、亮は一も二もなく頷いた。
本など余りかさばるものではない。
むしろ、その程度でいいのだろうか。
「じゃあ、行こうか」
そう思いながら、亮は促す志乃と並んで歩き出した。


340 :花火まであと少し 16:2006/12/24(日) 01:29:28 ID:z7xTQSsv
そう、本などかさばるものでもなければ、重くもない。
それが亮の紙の書籍に対する認識だった。
しかし、それは一時間もしないうちに覆された。
(お、重い……)
いくつかの書店を回るうちに志乃が買い込んだ本は相当の量だった。
神保町にはいくつかの大型書店に加え、様々な分野に特化した小規模な古書店が林立している。
それが神保町を日本が誇る「本の町」に成さしめているわけであるが、そこで扱われているのはかなり専門的なものだ。
そして、その手の専門書はほぼ例外なく、分厚いハードカバー――つまり、重いのである。
元々、亮はそれほど本を読むタイプではない。
自宅の本棚にあるのはいくつかの漫画のシリーズぐらいで、活字は現代文の教科書を除けば図書館で文庫本をたまに借りる程度だ。
だから、この手の本の存在を知ってはいても実感してはいなかったのである。
志乃が買い込んだ専門書はハロルド・ヒューイック、番匠屋淳という著者のものが合わせて三冊だったが、
いずれも厚さは三センチを超えている。


341 :花火まであと少し 17:2006/12/24(日) 01:32:06 ID:z7xTQSsv
それに加え、志乃は大型書店でいくつかの新書版の小説(ノベルス、というらしい)を買った。
その中には亮が名前だけは聞いた事のある直木賞作家の新刊が含まれていた。
百鬼だったか、今昔徒然だったか、とにかくそんな古典の授業でしか聞いた事のないような題の小説だ。
これがとにかく分厚い。
なぜ分冊しないのか理解に苦しむが、志乃曰に言わせるとノベルスでは珍しい事ではないらしい。
それどころか、彼女は本を持つ亮に「今回は軽いと思うよ。短編集だからね」とまで言い放っている。
これが短編集?
冗談ではない。何本収録すればこんな厚さになるのだろう。
それともこの作家の尺度からすれば普通の長編が短編になるのだろうか。
それに加え、志乃はジャンルを問わず大量の本や雑誌を買い込んだ。
水原遥「彼岸花と連星」、「エマ・ウィーラントの謎」、
「月刊ネットワークミステリー」の2010年と13年のバックナンバー……
彼女が看護系の大学生なのは知っていたが、いずれもそのイメージとは合致しないものばかりである。
いわゆる書痴、ビブリオマニアというやつなのだろうか。
意外な一面を見た気がした。
だからといって、両腕にかかる負担が減るわけではないが。
「大丈夫?少し持とうか?」
「い、いや、いいよ。これぐらい」
おかげで少し遅れがちな亮を、志乃が振り返る。
ありがたい申し出ではあったが、ここで受けては面子が立たない。
「そう?ごめんね、久しぶりだから思わずはしゃいじゃって」
志乃はそういって、少しだけばつが悪そうに笑った。
それがひどく愛らしくて、亮の体に少しだけ力が戻る。
この表情が見れただけでも、本を持った甲斐があった。
「じゃあ、そろそろお昼にしようか。カレーでいいかな?」
「ああ」
亮が頷くのを見て、志乃は静かな古書街を再び歩き出した。


352 :花火まであと少し 18:2006/12/28(木) 10:50:11 ID:18PET9wN
志乃に連れられた店は、神保町の中ほどにあるビルの二階にあった。
亮はカレーと聞いてエキゾチックなアジア風の店を想像していたが、
店の内装はシックな洋風のインテリアで統一さたものだった。
メニューは確かにカレー中心だったが、喫茶店と言っても通りそうな佇まいである。
大学生と高校生のカップルが昼食をとっても違和感のない雰囲気である。
少し考えた末、亮はアサリカレーを中辛で注文した。
カレーは味に関してはどう作っても外れることのない万能メニューであるが、辛さに関してはふり幅が激しい。
これの何処が辛口なのやらと言いたくなるくらいマイルドな店もあれば、
絶対中辛じゃないだろというぐらいピーキーに味付けされているカレーも存在する。
この店がどちらの傾向を強く持つかはわからないので、中辛という選択は必然だった。
ちなみに具にアサリを選んだのは、単なる趣味である。
年頃の少年らしく肉は嫌いではなかったが、それより亮は魚貝類の方が好きだった。
向かいに座る志乃は、チーズカレーの中辛。
別段理由はないが、なんとなく志乃らしいチョイスのような気がした。
「ふぅ……」
注文を取り終え店員が去ると、亮は小さく息を吐いた。
ようやく人心地ついた気がした。
まさか本でこんな目にあうとは。
元をただせば自分に原因があることなので文句は言わないが、それで受けたダメージは結構なものだった。
普段亮が余り重いものを持たないと言うこともあったが、それを差し引いても志乃が買い込んだ本は相当の重量である。
それを証明するかのように、亮の掌は真っ赤に染まっていた。
「ほんとにごめんね、重い物ばっかり買い込んじゃって」
そんな亮の思いを見透かしたかのように、志乃が少し伏目がちに口を開いた。
「いいよ、別に……でも、こんなの何に使うの?志乃って、看護系だろ」
気を遣われるのも嫌だったので、亮は話題を少しずらした。
学術書はともかく、ネット関係のオカルト雑誌などが志乃と縁があるようには思えない。
まさか、そういう趣味なのだろうか。
354 :花火まであと少し 19:2006/12/28(木) 10:56:58 ID:18PET9wN
「うーん、まあ旅団の活動の延長って言うか……個人的な趣味、って言うのが近いかな」
「旅団?」
「まあ、その内説明するよ。まだちゃんと纏まってる訳じゃないから」
「ふーん……」
彼女にしては珍しい曖昧な説明に、亮は少しだけ不満になった。
旅団と言うキーワードも引っかかった。
昨日のタビーの言葉は志乃と歩いているうちに大分気にならなくなったが、
それでもこうしていざ旅団と言う語が出されると少しだけ地下鉄での欝気分が蘇るような気がした。
亮は無言のまま唇を尖らせたが、志乃はそんな年下の恋人の姿を微笑みながら見ていた。
すぐにその視線には気づいたが、口は開かなかった。
志乃の曖昧な態度が気に入らなかったし、彼女にオカルト趣味があったこともちょっとショックだった。
そう意識して、亮は小さく息を吐いた。
こんな風に考えるのも、空腹で頭が回っていない証拠だ。
とにかくまずはカレーを食べて気を落ち着かせよう。
亮がそう気を取り直した時、丁度店員がテーブルに飲み物と小さな皿を運んできた。
飲み物は注文どおり、志乃にアイスコーヒー、亮には紅茶が運ばれてきたが、隣の皿は一体何なのか。
恐る恐る覗き込んでみると、そこには大粒のふかしたジャガイモが皮付きでそのまま鎮座していた。
一瞬、亮は目の前が真っ暗になった。
なぜジャガイモ?俺はカレーを頼んだはずだ。
注文したのはアサリカレーだし、メニューにはジャガイモなんて一文字も書いていなかった。
だとすると、これは付け合わせなのだろうか。
そういえば、ハンバーガーでも大抵付け合せにポテトがついてくる。
しかしあれはあくまでフライドポテトと言う形で食べ易くされているし、ちゃんとメニューの中で独立している。
「どうしたの、ハセヲ?」
囁くような志乃の声に、目をぐるぐるさせてジャガイモを凝視していた亮がようやく我に返る。
「いきなりジャガイモすごい視線で見ちゃって。もしかして苦手だった?」
「い、いや、そういうわけじゃねぇけど……何でこんなの出てくるの?」
「さぁ……このお店何度か行ってるんだけど、いつも出てくるんだよね。前菜兼舌休め、ってかんじじゃないかな」
そういって、志乃は細くしなやかな首をかしげた。
こういう仕草が嫌味にならず、いちいち様になるのは一種の才能だろう。
「ふーん、そうなんだ。じゃあ、遠慮なく頂くか」
一瞬頬に差した赤みを誤魔化すように、亮はジャガイモを掴んだ。
「あんまり食べ過ぎちゃうとカレーが入らなくなっちゃうからね、気をつけて」
美しい管弦楽のようにも思える志乃の声を聞きながら、亮はとりあえずジャガイモにスプーンを指した。


364 :花火まであと少し 20:2006/12/30(土) 20:43:53 ID:oT8HlgYE
「ふふ、それにしても不思議なものだね。初めて会ったときはハセヲと付き合うなんて想像もしなかったよ」
舌休めだろうか、志乃はスプーンを一旦収めて唐突にそんなことを言った。
手元には、星雲のように広がったチーズを乗せたカレーが半分ほど残ったまま置かれている。
亮はそれを直ぐには答えずに、口を閉ざしたままカレーを噛み締めていた。
別に志乃の言葉が反発した訳ではない。
単純にものを食べている最中に口を開くと、にちゃにちゃと不快な音が立つからだ。
しばらくして口の中のカレーを飲み込み、水で一息ついてからやっと亮は口を開いた。
「俺もあの頃の自分に教えてやりてぇよ、お前は志乃と付き合うようになるんだぜって」
「あはは、そしたらどんな顔するだろうね、あの頃のハセヲは」
亮の冗談に、志乃が声を立てて笑う。
夏場の水撒きのような笑顔を見ながら、亮はおもむろに口を開いた。
「あ、そうだ、志乃。前から思ってたんだけど……」
「なぁに?」
「その、ハセヲって言い方、そろそろ変えね?」
本名はちゃんと教えているにもかかわらず、リアルで会っている時も彼女は亮の事をThe WorldでのPC名で呼ぶ。
それが、亮には少しだけ嫌だった。
少し前までならともかく、今の二人は恋人同士なのだ。
別に親から貰った名前にそこまで愛着があるわけでもなかったが、
PC名というのは何だかあだ名みたいで、恋人同士という言葉が持つ甘い響きからは遠い。
「うーん、それもそうかもね……じゃあ、なんて呼んで欲しい?」
「え!?べ、別に……本名だったら何でもいいよ」
いきなり聞き返され、亮は混乱した。
本当は、そう、自分が彼女を呼ぶのと同じようにして欲しかったのだが……
それを口に出せるほど、亮はまだ素直ではなかった。
「うーん、それじゃ……三崎君?」
「……今更それはねぇだろ」
「三崎?」
「それはそれで味があるけど、志乃のキャラとはちょっと……」
志乃は口元を少し吊り上げて、亮に一つ一つ呼び方を上げていく。
亮は先ほどの言葉は何処へやら、それに一つずつ駄目出しをしていった。
「亮君?」
「それだけはやめてくれ……」
志乃のキャラクターを考えれば妥当な線かもしれないが、母親と同じ呼ばれ方はされるのはなんとなく嫌だった。
これならまだ名字呼び捨ての方がいい。
「じゃあ……亮?」
志乃が少し声のトーンを落として、呟いた。
雲の白さと空の蒼さしかない天上から響いてくるような、余りにも綺麗なその響き。
それが自分の名を呼ぶものだということを意識した瞬間、亮の心臓が一瞬止まった。
心臓は直ぐに動き出したが動悸は不安定で、喉が急に渇く。
多分、今の脳波は強化人間のように滅茶苦茶だろう。
「ご、ごめんっ!やっぱり、ハセヲでいいよ」
「そう?ふふふっ」
やっとの思いで、亮はどもりながら言葉を吐き出した。
駄目だ、この呼ばれ方は。別の意味で精神衛生上よろしくない。
亮はしばらく意味もなく息を吐くと、志乃から顔をそらし手元のカレーに視線を移した。
そのままスプーンをつかむと、亮は一心不乱にカレーの盛りを崩し始めた。
そんな亮の姿を見ながら、志乃は絡めた両手に頭を乗せて微笑んだ。


365 :花火まであと少し 21:2006/12/30(土) 20:46:21 ID:oT8HlgYE
「ねえ、ハセヲ」
「……何?」
「あのさ、これから何処か行きたい所とか、ある?」
しばらくして亮がカレーの皿を空けると、それを待っていたかのように志乃が再び口を開いた。
亮が話を聞こうと視線を上げると、その瞬間志乃の手元の皿が目に入った。
いかなる手品を使ったのか、亮より長くスプーンを置いていたはずの彼女のカレーは綺麗に片付いている。
自分が食べるのに集中していたから断言はできないが、慌てて食べているような様子はなかったはずなのだが……
不思議に思ったが、亮はとりあえずそれを無視して会話を続けることにした。
まあ、女と付き合っていれば不思議な事の一つや二つ、無い方がそれこそ不思議だろう。
「……別に、ないけど」
「じゃあさ、良かったらでいいんだけど」
亮の答えが終わる前に、志乃が少しだけ上ずらせた声で口を開いた。
顔をよく見ると、頬に赤みが差し呼吸が少し乱れている。
「そ、その……ハセヲの家に行ってみたいんだけど、良いかな?」
「…………!!」
その言葉を聴いた瞬間、亮の心臓がまた止まった。
一瞬してすぐに鼓動は蘇ったが、呼吸はやはり乱れたままである。
助けを求めるように志乃を見ると、彼女は耳まで真っ赤に染めて俯いてしまっていた。
「べ、別に大したものがあるわけでもないけど……その、志乃が来たいんだったら……別に、いいよ」



409 :花火まであと少し 22:2007/01/05(金) 01:01:33 ID:aZjNgRK7
「……ど、どうぞ」
「うん。それじゃ、お邪魔します」
どもりながら部屋の扉を開けると、志乃はすっかり落ち着き払った様子で亮の部屋に足を踏み入れた。
(……ああ、畜生)
部屋に他人を招くなど別段特別な事でもないのに、酷く緊張する。
神保町から電車を乗り継いで一時間弱。
その間、亮は殆ど無言で、志乃が話しかけてきても生返事しか出来なかった。
家に入ってからも、志乃の控えめな足音が響くたび心臓が止まりそうになった。
「へぇ……ここがハセヲの部屋なんだね」
部屋に入るなり、志乃は辺りを見回してそう言った。
その呟きに、亮は何も答えず突っ立ったまま俯いていた。
先ほどまで停止しかけては動き出してと繰り返していた心臓は、今度はやたらと短いリズムで鼓動を刻んでいる。
「意外と……って言ったら失礼だけど、綺麗だね。もう少し、散らかってるのかと思ったよ」
志乃はそんなハセヲを真っ直ぐ見つめると、少し悪戯っぽくそう言った。
「最近、片付けたから……」
亮は短くそう答えるのがやっとだった。
喉にも力が入らない。先ほどまで大量の本が入った鞄を抱えていたせいか、手首に痛みがあった。
せっかく志乃が部屋に来てくれたと言うのに、酷い体たらくだった。
このままでは、間が持たない。
「志乃、さ……何か飲みたいものとか、ある?下から持って来ようか?」
僅かでも時間を稼いで気持ちを落ち着けたくて、亮はそんなことを言った。
志乃は花が風にそよぐ様に首を少しだけ傾げ、口を開く。
「うーん……そうだね、冷たいものなら何でもいいよ」
「わ、わかった……じゃあ、ちょっと行って来るよ。どっか適当に、座ってて」
志乃の答えを聞いて、亮はフライングしたランナーのように足早に部屋を出た。
「はーい。あ、居ない間に押入れの中にありそうな雑誌とか探したりしないから、安心してね」
扉を閉める瞬間、彼女がそう言ったのが聞こえた。


426 :花火まであと少し 23:2007/01/07(日) 00:25:43 ID:Fzy1u8oz
亮は見つかった泥棒のように大音量を立ててキッチンへ駆け込むと、冷蔵庫の前でようやく立ち止まった。
「落ち着け、俺。落ち着け、俺」
声に出して自分に言い聞かせ、深呼吸をする。
冷蔵庫を開けて、人工的な冷気が肌を冷ますのを感じて、ようやく亮は平静を取り戻した。
全く、情けないにも程がある。
恋人が自分の家に来たぐらいで、まるで隕石が落ちたみたいに慌てふためいて。
先週と主客が入れ代わっただけではないか。
先週――そこまで考えて、志乃の部屋での出来事が幻燈のように蘇った。
志乃は浴衣を着ていて、彼女とキスをして、それから――
思い出しただけで体が熱くなる。
いつものことだが、今日は確実に両親は帰ってこない。
「…………」
ひたすら緊張していたおかげで意識する事がなかったその事実に、亮はようやく思い当たった。
キッチンの壁にかかった時計を見ると、時刻は午後四時。
まだ夕方だから少し早いかもしれないが、別に時間は関係ない。
志乃の部屋に行った時だって、朝日が差す中で……
「って。おい」
大声にならないように口に出して、亮は自分のよこしまな欲望を抑えようとした。
いくら家に来たからと言って、即その手の方面に結びつけるのは如何なものか。
中学生か発情期の動物でもあるまいし。
しかし……昨夜志乃は今日中に課題を片付けたいと言っていた。
それは、亮と週末をずっと一緒に過ごしてくれるという意味なのではないか?
そもそも先週の時だって、志乃の方は……
「いや、だから」
先ほどより少し大きい声で、亮は再び自分の考えを否定する。
課題を終わらせたのはThe Worldをプレイする為かもしれなし、先週とは色々と違う。


427 :花火まであと少し 24:2007/01/07(日) 00:27:14 ID:Fzy1u8oz
こんな色ボケした頭でいたら、向こうも迷惑だろう。
(とにかく落ち着け。クールに)
頭の中で呟いてから、亮は冷蔵庫の中に視線を移した。
母親があまり帰っていないおかげでそんなに物は入っていなかったが、
飲み物に限って言えば充実してた。
亮が買い込んだジュースのペットボトルが何本か残っていたし、ミネラルウォーターもある。
少し考えて、亮はミネラルウォーターのボトルの隣に置かれていた琥珀色の水差しを取った。
中には母親が自作した梅のジュースが入っている。
一般に夏の飲み物の定番といえば麦茶か冷やし飴だが、三崎家では何故かそれは梅ジュースだった。
六月に母の実家から送られてくる青梅で作られたこの飲料は、爽やかなのど越しで夏の暑気を払うだけでなく
豊富なクエン酸で疲労を回復させアルコールの分解を助ける効果まで持つ。
砂糖水でなく焼酎を用いて漬け込めば梅酒になり大人の飲み物としても楽しめるという、まさに夏の万能飲料である。
折角なので、亮はこれを二回の志乃に持って行く事にした。
グラスを二つ取り出し、冷凍室から取り出した氷を入れて梅ジュースを注ぐ。
冷蔵庫を閉じて両手にグラスを持って、亮はキッチンを出た。
そして、今度は少しだけ落ち着いた足取りで階段を上り始めた。


428 :花火まであと少し 25:2007/01/07(日) 00:28:36 ID:Fzy1u8oz
「志乃、飲み物取ってきたけど」
「あ、ハセヲ。ありがとう」
「いいって……って!?」
腕を器用に動かしてドアを開けた瞬間、ハセヲは目を大きく見開いた。
志乃がワンピースの上に着ているジャケットを脱いでいたのだ。
普段であれば少々色っぽくても気にするような事ではなかったが、
色欲に惑った今の亮には散弾銃の直撃にも勝る衝撃だった。
目の前の光景が妄想を加速させ、それによって体が暴走する。
暴走は足のもつれという形で現実になり、結果――亮は見事にすっ転んだ。
「うわぁ!?」
「きゃっ!?」
グラスがカーペットの床に転がる軽い音と共に、二人が同時に声を上げる。
「痛てて……」
床にぶつけた頭をさすりながら、亮が体を起こす。
視界の先には、ワンピースを濡らした志乃がいた。
「だ、大丈夫かよ!?」
「うーん、ちょっと大丈夫じゃないかも……」
両手をぶらりと伸ばして、志乃が言う。
ジャケットこそ無事だったが、志乃は頭からグラスの中身を見事に被っていた。
髪からは水滴が滴り、濡れた胸元は下着が透けてしまっている。
「とにかく、まずは部屋を掃除しないとね。ハセヲ、タオルと布巾ある?」
「わかった。下にあるから、取ってくるよ」
亮が慌てふためきそうになった瞬間、志乃が髪の水を払って言った。
それで亮も落ち着きを取り戻し、すぐに体を動かす事が出来た。
床のグラスを拾い上げ、台所に駆け込んで洗い場に放り込む。
そして道具棚から新しい布巾を取り、衣類置き場に寄ってタオルを回収。
そのまま部屋に戻る。
志乃にタオルを渡すと、亮は濡れた床を布巾で抑えた。
「ありがと。ふぅ……服、どうしようかな」
頭を拭きながら、志乃が小さく呟く。
確かに、体は拭いたが一度濡れた服はどうしようもない。
放っておけば染みになるだろうし、濡れた服を着ているだけでも気持ちのいいものではないだろう。
幸い亮の家にある洗濯機は最新型で、家事技能皆無の亮でもワンピースを洗濯する事は出来る。
今の季節と時間なら、陰干しでも一時間もすれば乾くだろう。
問題はその間どうするかだが……

A:風呂に入っていてもらう
B:着替えを貸す
508 :花火まであと少し 26:2007/01/14(日) 01:07:39 ID:tOIrLVrY
「……ハセヲ、もういいよ」
「う、うん」
かくれんぼをする子供が出すような志乃の声に、亮が振り返った。
そのウィスパーボイスがいつもより小さく聞こえるのは、錯覚だろうか。
志乃は濡れたワンピースを脱いで、亮が貸した青い星の模様が入ったパジャマに身を包んでいた。
「やだ、ハセヲ。そんなに見ないで」
「ご、ごめん」
そういわれて、やっと亮は志乃をまじまじと見つめている事に気づいて目を逸らした。
亮が貸した寝巻きは彼女にはやや大きく、手足は余ったままの袖で隠されている。
足を組んで床に腰掛けるその姿が妙に色っぽくて、亮は目を逸らした後もちらちらと横目で見てしまった。
「そ、それじゃ洗い場に案内してくれる?」
「あ、ああ」
志乃に促されて、亮は立ち上がった。
部屋のドアに手を掛けて振り返ると、丁寧にたたんだワンピースを持った志乃の姿が見える。
無言のまま階段を下り、洗い場に着くと亮は部屋の大部分の面積を占領している大型洗濯機を示した。
「こ、これ。多分洗えるはずだから」
「うん……大丈夫みたいだね、じゃあちょっとやらせて」
志乃は洗濯機の表示を確認すると、頷いてワンピースを洗濯機に放り込んだ。
ボタンを操作し、洗剤をいれずにふたを閉める。
程なくして、洗濯槽が鈍い音を立てて動き始めた。
並んで洗い場を出ると、亮は志乃に向かって振り返った。
「志乃、俺飲み物取ってくるから先に部屋戻ってて」
「あ、私も行くよ。二人で持てばもうこぼさないでしょ?」
そう言われては返す言葉はなく、亮は無言でキッチンに向かって歩き出した。
丈の合わない服を着た志乃は、ぺたぺたと音を立てて亮に着いてくる。
素足が響かせるその足音が妙に可愛らしくて、亮は不意に気分が軽くなった。
見たことはないが、座敷わらしというのがいたらこんなかんじなのだろうか。


509 :花火まであと少し 27:2007/01/14(日) 01:08:20 ID:tOIrLVrY
やがてキッチンに着くと、亮は冷蔵庫の前で足を止めた。
それに合わせて志乃の足音も止まりそれが少しだけ残念だったが、
亮は顔には出さず無言で棚からグラスを取り出した。
冷蔵庫を開いてジュースを注ぎ、志乃にグラスを渡す。
「ありがと、ハセヲ」
「き、気にしないで」
彼女がそう言った瞬間グラスを通じて指先が僅かに触れ、亮は一瞬体が熱くなった。
「志乃、今日はごめん」
「え?」
その熱に当てられたように、亮は口を開いた。
グラスに口をつけていた志乃が、その声にきょとんとする。
「服、汚しちゃって……それに、待ち合わせにも遅れたし」
「そんなこと?もう気にしてないよ、おかげでハセヲのパジャマも着れたしね」
志乃はそう言って笑いながら自分が着ている服を撫でた。
こちらの気持ちを和らげようとしてくれたのだろう。
それはわかったが、それではいそうですかといえるほど亮は軽い性格ではなかった。
大体、問題は遅刻したりとか服を汚してしまったとかそういう次元にはないのだ。
どちらも志乃との関係に不安を抱き、戸惑う自分の不注意が原因だった。
それを思うと、自分はやはり志乃とちゃんと付き合えているのか不安になってしまう。
志乃はそんな自分でも、優しく微笑んで受け止めてくれる。
だから余計、亮の心は痛む。
「そんなに気にしなくても……そうだ、じゃあね」
志乃は黙り込んだ亮の顔を覗き込み、唇を人差し指で抑えた。
男物の寝巻きで細い体を包んだその姿は妙に非現実的で、まるで古い戯曲の妖精の女王のように映る。
「私のお願い、聞いてくれる?」


532 :花火まであと少し 28:2007/01/18(木) 00:02:10 ID:zzFZaTUu
「ねぇハセヲ、最初のドラクエってやった事ある?」
「い、いや、俺FF派だったから……」
「そう。じゃあ知らないかな。あれはね、お姫様を助けてその後魔王を倒す話ゲームなんだけど」
志乃は亮を半ば置いてきぼりにして、志乃は上機嫌で言葉を紡ぐ。
「ローラ姫と竜王だろ?それぐらいは知ってるよ」
「そう?そのお姫様の気持ちが、わかった気がするよ」
「意味わかんねぇんだけど……」
「機会があったらすると良いよ。ワンダーホークのドラクエコレクションがお勧め。
古いゲームだけど、一周回って面白いから」
そういって、志乃はくすりと笑った。
場所は三崎邸、二階の廊下。
この建造物の暫定的な主である三崎亮の両手(念のため断っておくが、駄洒落ではない)に、
この日の客人である七尾志乃は体を預けていた。
より平易な表現を使えば、お姫様抱っこされていた。
ハイティーンの恋人同士の平均値からすればいささか気障に過ぎる感のあるこのスキンシップが、
志乃の「お願い」だった。
亮は恥ずかしくて仕方がないものだったが、志乃はこのシチュエーションが相当気に入っていたようで終始上機嫌だった。
全く脈絡のないレトロゲームの話(実際はそうでもないのだが)と言う彼女らしからぬ振りからも、それは伺う事が出来る。
そんな志乃を照れと喜びを四割ずつ、そして一割の後悔を(残りの一割は亮自身にもよくわからない)と共に抱きながら、
亮は台所から自分の部屋に戻った。
いつもなら一分もかからない距離だったが、人生最大の熱戦であった中二の体育祭の時より疲れた気がした。
「ふふっ、ハセヲ、ありがとうね。遅れた事とかワンピースの事とかもう本当にどうでもいいぐらい、楽しかったよ」
部屋の中に張った瞬間、亮に抱かれたままで志乃がそう言った。
「今度はこっちがお礼をしてあげる。ハセヲ、右手上げてくれる?」
「こうか?」
亮は言われたとおりに肘に力を入れ、右手を上げた。
志乃の顔が、近づく。
「うん……ありがとう、ハセヲ」
そういって、志乃が唇を重ねてきた。
柔らかい感触とおそらく香水のものだろう、百合の花の香りに亮の意識が一瞬飛ぶ。
「ハセヲ、可愛い」
そんな言葉が聞こえた時には、唇は既に離れていた。
「……褒め言葉だと思うようにするよ」
「うん!」


533 :花火まであと少し 29:2007/01/18(木) 00:03:22 ID:zzFZaTUu
「さて、次はどうしようか。歌でも歌うか?それとも、チェスのお相手でも?」
「うーん、どっちも良いけどハセヲ、お昼寝したくない?」
満面の笑みから逃げるような亮の言葉に、腕の中の恋人は囁き声で答えた。
「一緒に?」
流石にここで志乃が猫のように昼寝がしたいだけだと思うほど亮は鈍感ではなかったが、
一応確認の意味で、聞いた。
「一緒に。いや?」
「嫌なわけは……ないな」
疑問形を返した志乃に亮は律儀に答えて、亮は今度は自分からキスをした。
志乃は無言のまま目を閉じ、舌を伸ばす。
滑らかな感触が下唇を這うように触れ、その動きに答えるように上唇で志乃の唇を甘咬みする。
腕の中の体が震え、顔が近づきより深く唇が重なる。
「……はぁ。ねぇハセヲ、ベッドに行こう?」
先ほどのものよりも長いキスを終え、志乃が甘えるような声でささやく。
亮は無言のまま、彼女の体をベッドに運んだ。
テストの時の見直しでもここまでは、と言う慎重さでその華奢な体をベッドに降ろす。
そうして手を離した瞬間。
志乃に体を引かれ、亮はベッドに倒れこんだ。
「ふふっ……」
志乃が悪戯っぽく笑う。
その表情に誘われ、亮はパジャマ越しに志乃の胸に触れた。
少しだけ力を込め、包み込むように指を動かす。
「やぁん……」
形の良い咽が震え、女と言うには少しだけ幼い体が揺れる。
そのままもう片方の手を動かし、やや性急にももの辺りを掴む。
「あぁ……」
潤み始めた大きい瞳に見つめられながら、亮は志乃の下半身を覆っていた大き目の布地を脱がした。
白くきめ細かな素肌があらわになり、思わず視線が釘付けになる。
亮は少し冷たいその足を暖めるように撫でながら、ボタンをひとつだけ外し右手をシャツの中に滑り込ませた。
下着を着けていない裸の乳房に触れ、熱がいっそう股間に集まっていく。
「やっ、あはぁっ!ハセヲ、気持ち良いよ……」
亮の愛撫に、志乃は濡れた声で答える。
湿り始めたショーツに指先が触れた瞬間、志乃が硬く勃ち上がった亮の足の間に触れた。


534 :花火まであと少し 30:2007/01/18(木) 00:04:12 ID:zzFZaTUu
「ハセヲも……きもちよく、なって……」
熱に浮かされたようにささやく志乃の声に、亮の手が止まる。
その間に、志乃は器用に亮のズボンを下着ごと引きおろした。
外気に触れ、晒された亮のペニスが一瞬震える。
「おおきい……」
確かめるように志乃のしなやかな指先が肉の塊を撫でまわす。
その動きだけで亮の背筋に痺れるような快感が走り、ペニスが震える。
「ねぇ、ハセヲも……」
熔けた宝石のように蕩けきった眼のまま、志乃が亮に唇を合わせてきた。
無心に差し出された舌を絡めながら、亮は再び手を動かし始めた。
志乃は男が自分でする時の様にペニスを擦り始め、亮が指先をショーツの中に潜らせる。
口元が唾液で汚れるのも構わずに、二人は愛撫を重ねた。
突き出した舌と舌だけを絡め、亮の情欲がこらえられなくなった時。
「もう駄目……ハセヲ、お願い……」
志乃が舌を離し、亮を上目遣いに見つめた。
「ああ……」
喋るのももどかしい様な興奮の中で、亮は短くそう答えた。
手早く上に着ていたシャツを脱ぎ捨て、下着がかかったままの志乃の足を抱える。
亮は腰を進めて、蜜を溢れさせている志乃の秘裂を一気に貫いた。


535 :花火まであと少し 31:2007/01/18(木) 00:04:49 ID:DJa8hUO1
「あぁぁん!ふぁ、ぁぁ……はいってきた……」
二人の腰が触れた瞬間、志乃は自分の指をくわえてあえぐ。
絡みつくような、締め付けるような膣の感触を意識した瞬間、亮はそれだけで達しそうになった。
気を逸らす為に手近にあった胸に触れ、もう片方で結合部に程近い肉芽を押す。
「やっ、だめ、ハセヲ、おかしくなっちゃう……」
自分が志乃を悦ばせているという状況で少しだけ余裕が生まれ、亮は滑らかな足を軸にその体を横に向けた。
「あぁん、あっ、はぁ、いいっ、ああん!」
側位の姿勢で腰の動きを早め、その嬌声が頂点に達したところで、もう一度体を回す。
「え?やだ、ハセヲ、こんなの恥ずかしいよ……」
獣のような姿勢に志乃が抗議する声を無視して、亮は腰の動きを更に早めた。
「あぁ、やだぁ、ああっ、ああっ!」
犯されているような乱暴な動きに、志乃が啼く。
その声から彼女が昂ぶっている事を確信し、亮は揺れる尻を掴んだ。
一旦抜ける寸前までペニスを引き抜き、一気に奥まで貫き通す。
「あぁっ、あああっ、もう、だめ、ほんとうにだめ、ああっ、あぁぁぁ!」
甲高い声が上がり、志乃の体から力が抜ける。
その瞬間、亮は限界寸前の肉棒を引き抜き、パジャマから覗く背中に射精した。


536 :花火まであと少し 32:2007/01/18(木) 00:05:57 ID:zzFZaTUu
「結局、さっきより汚れちゃった……」
情事が終わり、体を拭いた志乃は膝をついてそう言った。
既に日は沈み、ベッドの隅にある窓の外は昼夜の狭間の薄闇――twilightに包まれている。
薄暗闇にパジャマを脱いだ志乃の裸身が映え、亮には神秘的にさえ見えた。
「わかってたくせに」
「ふふっ、そうだね。お風呂、入りたいな……」
「俺が服乾かしとくから、入ってなよ」
魅入られそうな彼女の姿から目をそらし、亮は何気なく言った。
その言葉を受け、志乃が立ち上がる。
「うん。洗い場の隣だよね。それじゃ、お風呂で待ってるから」
「どういう意味だよ!」
脊椎反射で怒鳴った亮に笑い声だけを残して、タオルを巻いた志乃は出て行った。
残された亮は首を振って立ち上がると、身支度をしようとクローゼットを開けた。
その時。
「ああ、そうだ、ハセヲ」
扉が再び開き、志乃が顔だけを出した。
「何だよ」
少し低めに意識して、声を出す。
「大好きだよ」
決して大声でないが、しかしはっきりと聞こえる声で。
志乃はそれだけを言って、再び扉を閉めた。
最終更新:2007年11月25日 10:26