268 :ツンデレ サイドハセヲ:2006/08/29(火) 03:48:49 ID:baNQVsGb
初めの印象は勝気でプライドの高い、人を見下した発言をする彼女のことを疎ましく思った。
今までの自分をイカサマの一言で否定する彼女のことを嫌いでさえいた。
しかし、彼女と何度か交流する内に、彼女への感情は変わっていった。
一途で純粋、ストイックにプレイする彼女は、楽しいから、好きだから『このゲーム」をプレイしているのだろう。
当たり前で、しかし自分の居る世界では出来ないこと。
だからこそ、彼女やシラバス、ガスパーといった普通のプレイヤーに世界の闇の部分を見せたくなかった。
異変が起きた今も尚、自分の知っている真相の一片すら彼等に伝えるつもりはなかった。
クーンがシラバス等に言った「巻き込みたくない」という感情を、ハセヲもまた抱いていた。
しかし、その願いが叶うことはなかった。
現在PCがいるサーバーAIDAの反応のある。
クーンと、もう少ししたらログインしてくるパイを連れて早急にそのサーバーに向かい、排除して欲しい。
クーンに連れられ、レイヴンのHOMEに訪れたハセヲは、その用件を半ば予想していた。
一般PCがいるのは予想外だったが、それでもハセヲは冷静に話を聞いていた。
しかしそのPCの名前を聞いたハセヲは、知らず知らずの内に走り出していた。
「ちょっと待てハセヲ!!」
と後から追いかけながらクーンが叫ぶが、気にも留めなかった。
揺光。守りたい世界の中に居る少女。もう昔に戻れない自分にとって眩し過ぎる存在。
その彼女が、闇に喰われ、物言わぬ未帰還者になる。そんなことは許せなかった。
彼女を助ける。ただその事だけを考え、走る。
269 :ツンデレ サイドハセヲ:2006/08/29(火) 03:49:38 ID:baNQVsGb
カオスゲートの近くまで来た所で、やっと追いついたクーンが言う。
「落ち着けハセヲ。まだパイも来ていない。一刻も早く助けたい気持ちは分かる。だけどな、確実に助ける為にパイが来るのを待って、全員で行った方がいい。もう少しだけ待て。」
その言葉はある意味正しい。異変が起こっている中どんなAIDAが発生しているかわからない為、最大戦力で望むべきだとは分かる。しかしそれでも感情がそれを否定した。
「そんな悠長なことしてる場合かよ!!もしあいつが未帰還者になったらどうすんだ!!」
しかし、クーンはハセヲの言葉を自信たっぷりに否定する。
「そんな展開はあるはずがない。だから待てハセヲ」
「はぁ?」
『そんな展開。この言葉はおかしい。どういう意味だ?』ハセヲは疑問に思い、聞き返す。
「どういう事だよ、それ?」
「それって、どういう意味?」
「甘いなハセヲ。いいか?良く聞け。今揺光は取り巻きがおらず、一人でいる。そこに謎の生物が襲い掛かる。この場合のその後の展開はHなこと以外ありえない。だから待て。」
「なっ!!!テメェふざけんな!!んな冗談言ってる場合か!さっさと行くぞ!!!」
「だから待て。もう少ししてから行くと美味しい展開になる。お前もその方がいいだろ。」
「そんなことある訳ないだろ!!本気で言って・・・」
「本気で言ってるの?貴方。」
「本気だ。今俺たちはこのPCの動き、感覚を肌で感じている。当然エロい事になればそっちの方も感じるだろ。」
「ふーん。じゃあ貴方はそんな事だけの為に一国を争う時に無駄な時間を過ごすというの?」
「ああそうだ・・・ってパイ何時の間に来てたんだ!!!」
心底驚いた様子でパイを見る。顔色までは表現できないPCが、少し青ざめて見えた。
パイは溜息をつきながら答える。
「ちょっと前から。そんなことより、ハセヲの事で貴方の事、見直してたのだけど・・・ちょっと見込み違いだったようね。」
「待てパイ!良いか?さっきの話はハセヲをお前が来るまで引き留める為に言ったんだ。あのままじゃ、一人で行っちまいそうだったからな。ほれ、ハセヲ早く俺等をパーティに誘え。・・・ふぅ」
と言ってハセヲに話をそらす。その様子に呆れながら、パイもハセヲに向かって話しかける。
「ふーん。まぁ別に良いけど・・・ハセヲ?早くしなさい。」
「クーン。」
「どうした?問題発生か?」
トレード。
癒しの水 1 兄貴分の威厳 50
虎乱襲 3 ストレス 50
TradeOK
クーンの悲鳴が響く。
「さっさと行くぞ。無事でいろよ。揺光!!!」
270 :ツンデレ サイドハセヲ:2006/08/29(火) 03:50:45 ID:baNQVsGb
初めてAIDAの調査に行った時と違い、途中でAIDAと接触することが無かったハセヲは、最短ルートで目的地に向かった。
無数の黒点によって所々見えない視界から、彼女を見つける。
そして、彼女の様子を見て言葉を失う。クーンとパイも同様だった。
触手に犯され、様々な液体で全身を彩り、正気を失いかけた彼女の淫らな姿は、普段の彼女とは正反対の姿だった。
様々な感情が、胸に渦巻き、ハセヲはただ叫ぶ。
「揺光!!!」
今の彼女の姿から、反応を期待しても無駄だと思っていたが、彼女はハセヲの声に彼女は反応した。
AIDAがハセヲに意識を反らした為、口から触手を離す事が出来た彼女はハセヲの姿を見つけ、弱々しく、しかしはっきりと言った。
「見るな!!頼むから・・・見ないで」
その姿に、その声に胸を締め付けられるようだった。返す言葉が思いつかず、とりあえず傍らで彼女を凝視するクーンの足を踏む。
「早く、逃げて・・。お前じゃこいつには・・」
彼女の言葉にはっと思い出す。彼女の姿に意識を奪われ、忘れていた。
言葉は要らない。そんなモノは今は必要ない。自分の今すべき事に意識を向けると、体の内側から力が湧いてくる。
『そうだ。俺はここにいる。来い。来い!!!』
圧倒的な力を宿るのを感じながら、彼はただ一言、傷ついた彼女から目を逸らさず、言う。
「待ってろ!今助けてやる!!」
AIDAは油断していい相手ではない。まだその存在について自分は何も知らない。
しかし、例え相手が三爪痕を超える力を持っていたとしても、今の自分は負けないと言う自信が有った。
圧倒的な力が、自分の全てを包むのを感じた時、その名を叫ぶ。
「スケエエエエエエエエエエエエエエイス!!!!」
倒す。奪う為でも、倒す為でもない。助ける為、守る為に。その心がハセヲの憑神を強くしていた。
271 :ツンデレ サイドハセヲ:2006/08/29(火) 03:51:35 ID:baNQVsGb
彼女から触手が離れ、こちらに向かう。体積の差から彼女を盾にしても無意味だと悟ったのかもしれない。
己の力の全てをハセヲに意識を集中しなければ、確実に消されると感じたのだろう。
その選択は間違ってはいないが、それでもハセヲはその行動に嘲笑を浮かべ、攻撃に移った。
向かってくる触手を撃ち落し、本体を斬る。そしてデータドレイン。それだけで終わった。
どんな対応をしても、今の自分には無駄なのだ。いつかの暴走とは違う。圧倒的な力を心で制御した自分には、誰にも勝てない。そう思った。
AIDAが消滅し、視界が正常に戻る。
ハセヲは彼女の格好、弱々しい姿を改めて見て、心の中で本当に、本当に少しだけ先程のクーンの言葉に同意した。
しかし、今はそれ所ではない。まだ体を強張らせている彼女に安心させる為、話しかける。
「大丈夫・・・な訳ないよな。とりあえずその服と体を何とかするか。」
仕様外の相手に襲われた所為か、所々服装が破れ、体は濁液に包まれ、不思議な匂いに包まれていた。これは本来なら有り得ない事である。
「おい!!」
クーンとパイを呼ぶとハセヲは彼らから八咫を通じて彼女のPCデータを元に戻すように頼んだ。パイはすぐに承諾し、走り去っていった。
クーンは揺光を名残惜しそうにちらりと見たが、思い切り睨むと諦めたように承諾し、とぼとぼと帰って行った。
改めて揺光へ振り返ると、彼女はロクに動かない体で無理やり歩こうとしていた。慌てて、
「ちょっと待ってろ。もうすぐPCデータ元に戻るから。」
と言いつつ、止めようと彼女の手を?み引き寄せる。その瞬間脳裏に犯されていた彼女の姿が甦り、自分でもよく分からないまま彼女を抱き締めていた。
彼女はすぐに「バっ!やめろっ、離せよ!!」
と言いつつ、どこにそんな力が残っていたのか抵抗する。そんな彼女に言う。
「暴れんな!お前が勝手にどっか行かないようにする為だ。大人しくしてろ。」
今にも壊れてしまいそうな彼女をほんの少しだけ力を込めて、出来る限り優しく抱き締める。
彼女はこれに抵抗せず、それ所か、こちらを戦った時とは比べ物にならない弱く震えた手で、抱き返してきた。
「大人しくしてられるはずないだろ。怖くて、辛いのにあんなになっちゃって、アタシ、アタシは・・・」
彼女は泣いた。その姿が愛しくて、ハセヲは静かに、優しく彼女を抱き続けた。
272 :ツンデレ サイドハセヲ:2006/08/29(火) 03:52:37 ID:baNQVsGb
「それで、何なんだよあいつは」
PCデータが元に戻ってからしばらくして、落ち着きを取り戻した彼女が言う。
その当然の質問に、
「・・・バグだろ。THEWORLDがこんな状況だし、あんなのだって出ることあるだろ。」
ハセヲは正直に答える事が出来なかった。真実は、確実に彼女を傷つけ、巻き込むだろう。それだけは絶対に出来ない。しかし、
「じゃああいつを倒した時のアレは何だ?アレがアタシを倒したイカサマの正体だろ?」
彼女は聞き返す。当然だ。彼女はそこにある真実を恐怖と嫌悪から避けるような性格ではない。
しばらく話し続け、ついにハセヲの方が折れ、話す。
AIDAのこと、碑文や碑文使いのこと、意識不明者が出る原因がこれらであること、これらは話そうという意思があればすぐに話せた。
だが、三爪痕の事、志乃の事を話す時、少しだけ胸に痛みを感じた。
「彼女を何としても助けたかった。だから何としても勝ち進みたくて、だから俺はお前に・・・」
揺光に負ければエンデュランスと戦えない。少の手掛かりの為に犯した大きな過ちを自ら認め、口にするのは少し抵抗があった。
彼女はしばらく呆然としていたが、下手したら意識不明、未帰還者になっていた事実をまず飲み込んだのか怒る。そんな彼女を何とかなだめる。
落ち着き、改めて何かを考える彼女の様子に、何となく予感があったので、覚悟を決める。彼女がやられっ放しで終わる訳がない。だとしたら彼女はきっと・・・
彼女が不意にこちらを向き、口を開く。出てきた言葉は予想とほぼ変わらない言葉だった。
もちろん、嫌な事には変わりはない。彼女はこの世界ではあまりにも無力だ。自分も何時でも守ってやれる保証は出来ない。
それでも、承諾の言葉をあっさり口に出来たのは、もしかしたら、彼女の傍に居たかったからかも知れない。彼女は自分が戻れない、日常なのだから。
もう用事はない。彼女に言う。
「もう帰るぞ。お前もこんな所に何時までも居たくないだろ。」
そう言うと、彼女が顔を俯かせながらも立ち上がった。立ったのを確認し、プラットホームへ歩こうとすると、彼女が顔を真っ赤にして言葉を紡いだ。
「アタシ・・・お前の事―――・・・」
空耳か、幻聴か、妄想か、それとも夢か・・・いや、全部違う。これは本当に・・・
顔が熱い。おそらく目の前に居る彼女と同じか、それ以上に赤くなってる。揺光が、俺の事を?
頭が熱と様々な感情で暴走する中、彼女はさらにもう一言
「アタシは一途でしつこいぞ」
もう駄目だ。ハセヲは走り去る彼女を呆然と眺めていた。
最終更新:2007年11月25日 10:30