594 :名無しさん@ピンキー:2006/10/01(日) 22:53:28 ID:gMEqbl/I
「あー、今日から一人暮らしか…。かったるいな…」
今しがた設置したばかりのベッドに寝転がりながら、三崎亮は天井を眺めていた。
お昼過ぎには荷物の搬送が終わって、アパートの管理人への挨拶も済ませている。
今は、特に何もする気が起きないので、そのままぼんやりとしていたのだが…
「腹へった…」
時刻はもうじき午後6時に差し掛かろうとしている。
本来ならば、そろそろ夕食を作らなければならない頃合だが、いかんせんやる気が全くといっていい程出ない。
仕方がないので、近所のコンビニにでも行こうかなどと考えていると、不意に玄関のドアがノックされた。
コンコン、コンコン
「はーい。今出まーす」
起き上がって、玄関に向かう。
今日引っ越してきたばかりの自分に来客というのは少し変だが、どうせ管理人か誰かだろう。
お昼に挨拶に行った時に、言い忘れていた事があったとか…
「どちらさまですか?」
ドアの向こうに声を掛ける。
返事はすぐに返ってきた。
「えと、隣に引っ越してきた者ですけど…」
管理人さんの声じゃなかった。
まだ若い、自分と同じくらいの年齢の女性の声だ。
そういえば、隣の部屋の住人も昨日引っ越してきたばかりらしい。
まだ会ってはいないが、挨拶の際に管理人さんがそんな事を言っていたのを思い出した。
けど、隣の住人が俺に何の用なんだろう…?
「失礼ですけど、どのようなご用件で?」
「そのですね…引越しのご挨拶も兼ねて、牛丼を持ってきたんですけど…」
疑問はあっさりと氷解した。
丁度、お腹がすいている時にこの偶然はとても嬉しい。
けど、引越し蕎麦の代わりに牛丼を持ってくるなんて、隣の住人は少し変わった人の様だ。
蕎麦と牛丼、どちらが食べたいかと言われれば、今は牛丼の気分だけど…。
「分かりました。今、開けます」
ドアノブに手を掛けて、外側に開く。
重い鉄製の扉がゆっくりと開いて、目の前には、手に袋を提げた女の子が―――
「えーーーーーーっ!?」
「こんにちは、ハセヲさん。これからどうぞよろしくお願いしますwキョッキョ♪」
アトリ、もとい日下千草がいた。
3
595 :名無しさん@ピンキー:2006/10/01(日) 23:13:29 ID:gMEqbl/I
「いや、マジで驚いた…」
「うふふ♪びっくりしましたか?」
「心臓が止まるかと思った…」
つぐみ荘202号室、つまり亮が新しく越してきた部屋で、彼とアトリは夕食を摂っていた。
アトリのドッキリは以前から仕組まれていたものらしい。
どうやら彼が留守にしている間、わざわざ実家に訪ねにきて母親からアパートの住所を聞き出したらしい。
それで、こちらの引越しに合わせて転居した、と…。
「普通、そこまでするかよ…」
予想外の事態にため息を吐く。
本当に、頭を抱えたいくらいの気分だ。
だって、あのアトリが隣の住人だなんて…そんなのいろんな意味で不吉すぎる。
これからどうしようかと考えながら途方に暮れていると、再び玄関のドアをノックする音がした。
コンコン、コンコン
「今度は誰だよ…」
流石にもう、これ以上のドッキリは勘弁して欲しい。
そう思いながら、ドアの向こうに声を掛ける。
「どちらさまですか?」
「えと、隣に引っ越してきたものですけど…」
なんか今、眩暈が…。
強烈なデジャヴを感じた…。
何しろ、つい今しがた、全く同じ台詞を聞いた覚えがある…。
そういえば管理人さんは、両隣りの部屋に新しい住人が入ったと言っていたっけ。
「…どのようなご用件で?」
「その…引越し蕎麦とか持ってきたんだけど」
「………」
これもつい先程、似たようなのを聞いたばかりだ。
何だか終末的に嫌な予感がする。
心臓がバクバクとうるさい。
もちろん、新たな出会いに胸膨らませてときめいている訳ではなく、この冷や汗は背筋を這う悪寒から来るものだ。
それでも、なんとか勇気を振り絞ってドアノブに手を伸ばした。
「今、開けま―――」
「あ、いいよ。アタシが開けるから」
勝手にドアが開く。
重い鉄製の扉が軋んだ音を立てて、ゆっくりと開いていく。
果たして、その向こうには―――
「オッス、ハセヲ。久しぶりだね、元気してた?」
揺光、もとい倉本智香がいた。
601 :KANNNA:2006/10/02(月) 00:05:02 ID:7RPOIFeh
「マジで心臓に悪い…」
「まぁまぁ、気にするなってw仲良くしようよ、亮くん」
「そうですよ。全然、気にする必要なんて無いじゃないですかw」
「オマエラはそうでも…この、俺が、気にするんだよ!!」
時刻は午後7時過ぎ。
夕食の席は、いつの間にか揺光こと倉本智香も交えて、三人になっていた。
女二人のテンションの高さに比べて、亮のそれは非常に低い。
もはや不機嫌を通り越して、その顔にはほとんど生気というものが感じられない。
たまに、二人の発言に突っ込みを入れる時だけ生き返るが、その後は余計にやつれていく有様だった。
「そういえばさ、何で牛丼なんだよ」
不意に智香が、今晩のたった一品だけのメニューにしてメインディッシュでもある牛丼に話の矛先を変えた。
彼女が持ってきた引越し蕎麦は保存が利くので、今は冷蔵庫の中である。
「いいじゃないですか牛丼w美味しいですし♪」
千草は嬉々として、彼女の大好物である牛丼を褒め称える。
「んー、確かに美味しいけど、牛丼だけってのもねぇ。あ、そうだ。なんなら私がおかずを作ってやるよw」
そう言って立ち上がった揺光が台所に向かう。
これには、危うく三途の川で舟を漕いでいた亮も反応した。
「待て、揺光。オマエ、料理できるのか…?」
冷蔵庫から取り出した食材を包丁で刻み始めた智香に恐る恐る尋ねる。
振り向いた彼女は、さも心外そうな顔をしていた。
「いや、こう見えて私、料理は得意なんだよ。将来の夢はいいお嫁さんになることだしなw」
後半は少し恥ずかしそうに、俯く智香。
つられて、亮の方も段々と赤面していく。
ふたりの間に漂う雰囲気を敏感に察知した千草は、急に立ち上がって冷蔵庫の方へと向かう。
「あ、おい、アトリ…何を―――」
「私だっておかずくらい作れます!待ってて下さい、ハセヲさんが思わずビックリするようなもの作っちゃいますから!!」
別の意味でビックリするものを作らなければいいが…。
かくして、三人揃っての夕食は千草と智香の料理対決という様相を呈してきた。
そして、亮は―――
「ゴクッ、ゴクッ、ぷはぁっ…」
揺光が部屋から持ってきた大量のビールでも飲まないと、やってられなかった。
612 :KAN・NA:2006/10/02(月) 21:55:43 ID:7RPOIFeh
コテハンを微妙に変更しますた。以下続き。
あれから更に二時間後、時刻は午後九時を回ったところ―――
事態はますます混迷を極めていた。
「ゴキュ、ゴキュ、っぷはぁ!…大体れすねぇ、ハセヲさんは…もっとまわりをよく見るべきだと、いつもいつもぉ…ヒック…」
「アハハハハハハ!ほぅ~れ、もう一杯。グイッといけ、ぐいっと!それ、イッキイッキ!!」
「うぅ~ん、うぅ~ん…」
きっかけは些細なことだった…。
亮が自棄になって飲み始めたビールを、まもなく料理を終えて戻ってきた智香も一緒になって呷り、あっさり酩酊。
同じく料理を終えた千草に無理やり酒を薦め、更に部屋から日本酒などを持ってくる始末。
終いには、最初は遠慮していた千草も自らが作った料理が何故か全て牛丼味になっていたことにショックを受け、ヤケ酒を始めてしまった。
夕飯の席はいつしか宴会へ。
もはや取り返しのつかない泥沼状態である。
「うぅ…飲みすぎた、頭いたい」
過剰なアルコール摂取に早くも音を上げる亮。
「あはははははー!なんか暑いねぇ…よいしょっ、と…」
まだ四月だというのに上着を脱ぎ捨てるほど体が火照ってしまっていて、絶好調の智香。
「ハセヲさぁ~~ん。ひとの話をききなさぁ~~~い!」
完全に酔っ払ってしまい、絡み酒ぎみな千草。
三者三様。
辺りは最早、空き缶と瓶が散乱し、罵詈雑言と悲鳴と奇声が飛び交う混沌と化していた。
615 :KAN・NA:2006/10/02(月) 23:16:10 ID:7RPOIFeh
「うぅ…オマエら、もういい加減そのくらいで止めとけよ」
イマイチ意識がはっきりとしない頭を抑えながら、手のつけられない酔っ払い二人に注意する亮。
一方、当の二人はというと、常日頃から募っていた誰かさんへの不満などを互いに愚痴っていた。
「そうなんですよぅ。全然、話を最後まで聞いてくれなくて~…」
「だよなぁ…。アレきっと、将来お嫁さんになる人は苦労するだろうな…」
「基本的に、ツンデレですからねぇ。貴方もハセヲさんも…」
「そうそう…」
「でも、‘ツン’の後には‘デレ’がある筈なんですけどねぇ。ハセヲさんはいつもツンツンしてます」
「ああ、そりゃ…きっと、照れ隠しなんだよw」
「けど、どれだけこっちが隙を見せても、無防備にしてても、全然喰らいついてこないんですよねぇ。せっかく誘ってるのに…」
「鈍感だからね。仕方ないよねー」
最早、言いたい放題である。
その頭を抱えたくなる話の内容にため息を吐いた亮は、文句の一つでも言ってやろうとして、二人が自分をじっと見つめていることに気が付いた。
「な、なんだよ…」
思わず、たじろく亮。
二人はジト目で彼を睨んだまま、ジリジリと詰め寄ってくる。
「う……」
背筋に悪寒を感じた亮は、急いでその場から逃げようとするが間に合わない。
壁際に追い詰められた彼を見つめながら、二人はクスリと―――不吉に笑った。
「…剥いちゃおっか?」
661 :KAN・NA:2006/10/04(水) 03:54:47 ID:pJmoTbV5
>>615の続き。
「…剥いちゃおっか?」
「そうですねぇ…。乙女心の機微が分からないハセヲさんには、やはり何らかの罰を与えるべきだと…」
「おまえら、いい加減にしろおぉぉぉぉおッ!」
壁を背にしながら、これ以上後退することのできない亮は必死の抵抗を試みる。
目の前の酔っ払い二人は、もはや自分たちが今何をしているのかすらよく分かっていない様子だ。
リミッターが外れたのか、妙にテンションが高く、興奮しっぱなしの智香。
千草にいたっては酒の飲みすぎで、目が完全に渦を巻いている。
(酔いで)顔を赤く染めながら、荒い息を吐く美少女二人に迫られるという絶好のシチュエーションも、状況によってはこれ程に恐ろしくなるのか…!
「(あー…オレ、これからどうなるんだろ…)」
フフフフ…と不気味な笑い声を上げる二人を前にして、全く生きた心地のしない亮だった。
最終更新:2007年11月25日 10:51