この創られし世界にも夜が来る。
それは自然の摂理などではない。
昼と夜が循環するよう設計された、偽物の空の下。
定められた時刻が来れば、光は失われ、闇が降りる。
ただそれだけのことだ。
だが、それでも。
夜は等しく、終わりの匂いを運んでくる。
刑務作業の終盤。
残された時間は、もはや指で数えられるほどしかない。
恩赦を得る者、脱獄を狙う者、復讐を果たそうとする者。
それぞれの思惑が、同じ夜へと収束していく。
この島に閉じ込められた悪童たちは知っている。
夜が訪れるたび、状況は必ず一段、苛烈になることを。
秩序は薄れ、判断は遅れ、感情が牙を剥く。
そして何より――夜は『死』を呼びやすい。
人工の空が、ゆっくりと色を変えていく。
茜は滲み、紫は沈み、やがて群青が世界を塗り潰す。
天蓋の裏で誰かがスイッチを切ったかのように、
光は無造作に奪われていった。
夜の帳が、静かに、しかし確実に降り始める。
■
薄闇に沈み始めた路面を、鋼鉄の塊が抉るように転がっていく。
砕かれる岩。跳ね上げられる土砂。
夜気を引き裂く、暴力的な轟音。
闇の帝王ルーサー・キングを内包した、黒き鉄球。
その後を追って、若きギャングスター――ネイ・ローマンが駆ける。
全力で、躊躇なく、夜へと身体を投げ出す。
轟音は次第に遠ざかり、やがて完全に途絶えた。
そしてその頃には、ローマンの背中もまた、闇に呑み込まれていた。
その進路をなぞるように、三人の若者が北へと向かう。
エンダ・Y・カクレヤマ。
メリリン・“メカーニカ”・ミリアン。
北鈴 安理。
「私たちじゃ、追いつけそうにないね」
遠ざかる背を見送りながら、エンダが淡々と呟いた。
ネイ・ローマンは、ネイティブの中でも指折りの身体能力を誇る存在だ。
全力で疾走する彼に追いつける人間など、世界を見渡してもそう多くはない。
人類の極限たる只野であれば話は別だったかもしれないが、彼の進路は南東。
北西を目指す三人の足では、距離は開く一方だった。
ローマンとキング。
裏社会の皇帝と、ストリートの王。
その衝突に、今の三人が割って入れる余地はない。
彼女たちには、果たすべき役目がある。
北西の灯台を調査する――それが最優先事項だ。
キングの相手はローマンに任せ、三人は静かに北上を続ける。
北西へと続く道は、緩やかな起伏を描いて伸びていた。
冷えた風が肌を撫で、空の色は茜から群青へと沈んでいく。
地面に刻まれた削痕が、先行した鋼鉄の存在を雄弁に物語っていた。
鉄球が通り過ぎた痕跡を辿るように、三人は無言で歩く。
「……あの」
沈黙に耐えきれず、安理が声を出した。
「もし……ですけど」
言葉を慎重に選びながら、続ける。
「ローマンさんの戦いに、僕たちが出くわしたら……どうするんですか?」
キングはローマンに任せるという方針だが、進路上で戦闘が始まっていた場合、避けられない可能性もある。
加勢するのか、それとも無視して目的を優先するのか。
その選択は、命運を左右しかねない。
「その時の状況次第だね」
エンダは歩みを止めないまま答えた。
「ローマンが優勢なら、関わらない。そのまま灯台へ向かう」
ローマンが圧倒しているのなら、余計な介入は不要だ。
それは至極当然の判断だった。
「……なら」
歩調を合わせながら、メリリンが口を開く。
「ネイが……押されてるように見えたら?」
声が、わずかに揺れる。
安理は、その微細な変化を見逃さなかった。
エンダは一瞬だけ眉を寄せる。
「キングとの戦いは、被験体の時とは条件が違う」
視座の高い神の声が状況を冷静に分析する。
「前衛(タンク)が揃っていたあの戦いと違って、今は中距離を主戦場にするローマン一人だ。
私たちが軽々しく介入すれば、むしろ邪魔になる可能性が高いだろうね」
安理は無意識に拳を握る。
自分がその邪魔に含まれることを、否定できなかった。
だが、メリリンとしては簡単に納得はできない。
「……それって。ネイが不利だったとしても、見捨てるしかない……ってこと?」
彼女は、ローマンと共に生きると決めた。
任せることが信頼だと理解している。
それでも――目の前で大切な人が追い詰められているのに、何もせず背を向けられるかと言えば、それは別の話だった。
それは理屈ではなく、感情の問題だ。
神とは、己が選んだものにのみ恩寵を与える存在。
人間の情念など、取るに足らぬものとして切り捨てるべき存在――そう在るはずのエンダが、小さく首を振る。
「……君たちには難しいだろうけど、私なら違うかもしれないね」
二人の視線が、同時に彼女へ向く。
只野に最後に掛けられた言葉――『君もどうか、人を愛してほしい』
その一言が、エンダの在り方を、ほんの僅かに変えていた。
「少なくとも、足を引っ張ることはない。その程度の力はあるつもりだよ。
状況次第では、ローマンの援護くらいならしてもいい」
エンダの力は、恨みによって増幅される。
かつてその憎悪で、キングと同格の怪物――ドン・エルグランドを葬った。
ドンへの怨恨ほどではないが、キングが相手なら、相応の力は発揮できるだろう。
「だが、必要以上に消耗する気はない。あくまで、私が手を貸せばキングを仕留められるような状況なら、という前提だ。
それだけの労力でキングを倒せるのなら私にとっても悪くない話だからね」
エンダは素っ気なく続ける。
合理と感情が、辛うじて釣り合った結論だった。
「……状況次第、ね」
メリリンは苦く笑う。
確実ではないが、保険としては十分だった。
ローマンが完勝するのなら、それに越したことはない。
だが――その直後。
エンダの足取りが、不自然に鈍った。
「……どうしたの?」
異変に気付いたメリリンが、即座に声を掛ける。
エンダは、視線を宙に彷徨わせたまま告げた。
「すまないが、今の話はなしだ――――状況が変わった」
「え……?」
空気が張り詰める。
メリリンと安理が息を呑む。
エンダは、最悪の未来を口にする。
「……下手をすると、私たちだけでキングと戦うことになるかもしれない」
その言葉の意味を察し、メリリンの顔から血の気が引いた。
「まさか……ネイがやられたの!?」
「違う」
だが、その想像をエンダは即座に否定する。
「ローマンは健在だ。問題は……キングの動きだ」
困惑する二人を前に、エンダは静かに言葉を選び始める。
この闇の先で、何が起きたのか――それを説明するために。
【E-3/草原/一日目・夕方】
【メリリン・"メカーニカ"・ミリアン】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ(小)、薄黄色のボイラースーツ、帽子とゴーグル、流れ星のアクセサリー(R)
[道具]:デジタルウォッチ、フルプレートアーマー、銀鈴・宮本麻衣・ドンの首輪(使用済み)、ジェーンの首輪(未使用)、工場エリアで集めた機材、グロック19(装弾数22/22)、デイパック(手榴弾×2、催涙弾×2、食料一食分)
[恩赦P]:50pt
[方針]
基本.ローマンと共に、生き延びる。
1.「灯台」へと向かう。“サリヤ”に手を貸す。
2.可能であれば被験体の首輪を解析する。
※ドミニカと知っている刑務者について情報を交換しました。
※ジェーンの首輪を手作業で解析中です。
首輪にはシステムAが仕込まれていると見られ、メリリンの超力だけでは解体できないようです。
※サリヤ・K・レストマンの遺体から「流れ星のアクセサリー(R)」を中心とする物資を回収しました。
※流れ星のアクセサリー(R)に吸収されていた大金卸樹魂の超力は消滅しました。
【エンダ・Y・カクレヤマ】
[状態]:ダメージ(微小)、疲労(中)
[道具]:デジタルウォッチ、探偵風衣装、ドンのデジタルウォッチ、図書室の本数冊、治療キット(残量半分)
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.脱出し、『エンダの願い』を果たす。
1.「灯台」へと向かう。刑務を無力化する。
2.“エンダ”を殺そうとしていたルーサー・キングを殺す。ローマンは出来れば利用したい。
3.ジョニーとは一度別れ、再会したら殺す
※エンダの超力は対象への〝恨み〟によって強化されます。
※エンダの肉体は既に死亡しており、カクレヤマの土地神の魂が宿っています。この状態でもう一度死亡した場合、カクレヤマの魂も消滅します。
※黒靄による超力干渉でエルビスの腐敗毒をある程度遮断できます。
ただし〝恨み〟による強化が発揮しない限り、完全な無効化は出来ないようです。
【北鈴 安理】
[状態]:上半身インナー姿、右腕に打撲、疲労(中)、気疲れ(中)、脳への負担(中)、手足に呪いの浸食(小)
[道具]:デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本:自分の罪滅ぼしになる行動がしたい。自分なりに、調査を進め弱い人を助ける探偵として動きたい。
1.「灯台」へと向かう。この刑務作業の真実を知りたい。
2.バルタザールがまだ破壊の限りを尽くすようなら、被害をできるだけ抑えたい。
3.無実の人をボクが救えるというのなら……。
※イグナシオの過去、大金卸とのあらましについて断片的に知りました。少なくとも回想で書かれた全てを聞いているわけではありません。
まだ聞いていない部分について、今後間違った妄想や考察をする可能性もあります。
※超力が変化し、常時発動型の竜人となりました。
氷龍と比べ冷気の攻撃性能が著しく落ちる代わりに、安定した身体能力の向上を獲得しました。
※他人の記憶を追体験する力を得ました。
追体験出来るのは自身と直接会話をした事がある人物に限られます。
記憶の中では五感全てが再現されるため脳への負担が大きく、無茶な使用は精神の崩壊に繋がります。
また、記憶の持ち主が死亡する場面まで追体験を続けた場合、安理自身も廃人となります。
■
鉄球が、地を抉りながら転がっていく。
岩を砕き、土を跳ね上げ、夜気を引き裂くような轟音。
闇の皇帝を内包した剛鉄の球体は、まるで大地そのものを蹂躙するかのように進んでいた。
「……チッ」
それを追うネイ・ローマンは、低く舌を打った。
追いつけない。
転がる鉄球は、想定を遥かに上回る速度だった。
逃走のためだけに極振りされた運動性能。
転がるだけという単純な動作に特化したからこそここまでの速度を生む。
必死に喰らいついてはいるものの、如何にネイ・ローマンといえど、生身の脚力だけで追いつくのは容易ではない。
だが、胸に燻る苛立ちとは裏腹に、頭は冷え切っている。
熱に飲まれることなく、ローマンは冷静に状況を切り分け、思考を回していた。
(どこまで行くつもりだ…………?)
ルーサー・キングは、どこへ向かっている?
真っ先に浮かぶのはそんなシンプルな疑問。
それに紐づく疑問点はいくつもある。
ブラックペンタゴン、ひいては禁止エリアからの離脱が目的なのは明白だ。
だが、その目的は既に達成されている。
それでもなお転がり続けている理由は何だ?
単に距離を稼ぎたいだけなのか。
それとも、最初から定めた明確な目的地があるのか。
追ってくるネイ・ローマンから逃れるためと言うのが一番状況に即した予測だが。
まさか、あの闇の皇帝がローマン相手に逃げを打っているとでも言うのだろうか?
ローマンは自らの実力に、絶対の自信を持っている。
今の自分であれば、キングを仕留められるという確信がある。
だが、その評価をキングが共有しているとまでは思っていない。
キングからすればローマンは厄介程度の位置づけだろう。
ならば、なぜ逃げに徹している?
ブラックペンタゴンでのディビット・マルティーニとの戦闘で消耗したか?
それとも、何らかの方法でこちらが第二段階に至った事を悟ったか?
いや、それとも。
「まさか……」
ローマンの脳裏に、最悪の想像がよぎる。
時刻は第三放送直前。
刑務作業の残り時間は、およそ六時間。
大詰めに差し掛かろうと言う、逃げ切りも視野に入る段階。
もしキングが、些細な危険すら回避する思考に至っているのなら。
あの球体のまま――――六時間を逃げ回るつもりなのではないか。
ローマンは奥歯を噛みしめる。
その苛立ちは、赤黒い衝撃となって全身を駆け巡った。
「逃がす気はねえぞ――――キングッ!!」
ネイ・ローマンの超力は、攻撃に特化しすぎている。
感情をイコールとする超力は制御が困難であり応用は難しい。
だが――今は違う。
第二段階へ至り、指向性を得た今なら。
逃げ続ける目の前の敵への苛立ち。
その感情を、足裏へと集中させ、爆発させるように叩きつける。
瞬間。地を蹴る衝撃が炸裂し、ローマンの身体が弾丸のように加速した。
視界が流れる。
風圧が肌を削る。
距離が、目に見えて詰まっていく。
――追いつける。
このまま数歩踏み込めば、射程に捉えられる。
爆発的な加速を繰り返しながら、ローマンはその確信を掴んだ。
だが、その直後だった。
前方を転がっていた鉄球の表面が、不自然に脈動した。
「なっ――」
硬質なはずの鋼鉄が液体のように流動し始め、剛鉄の殻が花弁のように展開される。
球体は内側から押し広げられるように膨張し、次いで、引き裂かれるように二つへ分かれた。
――分裂。
液状の鋼が瞬時に再硬化し、二つの鉄球が地面を叩く。
片方は慣性を保ったまま北へ。
もう片方は、反発するように軌道を変え、鋭く東へ。
それぞれが、全く同じ重量感と速度を保ったまま、それぞれの方向へ転がり始める。
「……クソがッッ!!」
短く、吐き捨てる。
追手を撒くための陽動。
ローマンは決断を迫られる。
別方向へ転がる二つの鉄球の両方は追えない。
ルーサー・キングという中身の入った『当たり』は、どっちだ?
逡巡は一瞬。
ローマンは即座に東へと進路を切った。
根拠はない。
軌道を変えた方がそれらしいと言うただの直感だ。
だが、どう考えても根拠がない以上、迷ったところで意味はない。
迷わせることこそ、相手の術中。
ここで必要なのは、即断即決だった。
だが、駆け出す直前。
ローマンは球体から僅かに視線を逸らす。
その先にあるのは黒い靄の塊。
エンダの黒蠅だ。
声が届くは分からない。
だからローマンはジェスチャーで北へ転がる鉄球を指差し、短く合図を送る。
北側はそちらで追え。それだけの動作で、意図は十分に伝わる。
「この俺から、逃げ切れると思うなよ……牧師!!」
胸の奥で、殺意が燃え上がる。
東の森へと突撃していく鉄球を追い、ローマンはさらに加速を始めた。
ここで終わらせるという、揺るぎない決意と共に地を踏みしめる。
終末の大地を蹴り裂きながら、ギャングスターは夜を駆ける。
【C-4/森/一日目・夕方】
【ネイ・ローマン】
[状態]:全身にダメージ(中) 、治療キットで処置済み、疲労(中)、右腕肘から先欠損
[道具]:デイパック(幾つかの食糧と酒)、鋼鉄の義手(メリリン作成・修復済み)
[恩赦P]:99pt
[方針]
基本.やりたいようにやる。メリリンと共に生きる。
1. ルーサー・キングを追う。決着を付ける。
※ルメス=ヘインヴェラート、ジョニー・ハイドアウトと情報交換しました。
※サリヤ・"キルショット"・レストマンから超力の第二段階(プレシード)について知らされました。
※超力の第二段階(プレシード)へ到達しました。
衝撃波の出力が向上し、無効化を始めとする防御や干渉を貫通する“Liberty or Death”を使用可能になりました。
※エンダが生み出した黒蝿の導きでルーサー・キングを追跡しています。
【?-?/???/一日目・夕方】
【ルーサー・キング】
[状態]:疲労(大)、肉体の各所に打撲(小)・裂傷(小)、腹部にダメージ(小)、左手と顔左半分に火傷痕(処置済み)、左目失明(布を眼帯として巻いてる)
[道具]:漆黒のスーツ(新調)、私物の葉巻×1、タバコ(1箱)、応急処置キット(幾らか残量あり)
[恩赦P]:107pt
[方針]
基本.勝つのは、俺だ。
0.北上して体勢を整える。
1.生き残る。手段は選ばない。
2.使える者は利用する。邪魔者もこの機に始末したい。
3.ドン・エルグランドを殺ったエンダと只野を調べる。
4.ルーサー・キングを軽んじた以上、りんか達もいずれ潰す。手段手法は問わない。
5.ジャンヌ・ストラスブールも、第二段階に到達しつつあるのか?
※治療キットで負傷の回復をしていました。
※彼の組織『キングス・デイ』はジャンヌが対立していた『欧州の巨大犯罪組織』の母体です。
多数の下部組織を擁することで欧州各地に根を張っています。
※ルメス=ヘインヴェラート、ネイ・ローマン、ジャンヌ・ストラスブール、エンダ・Y・カクレヤマは出来れば排除したいと考えています。
※超力の第二段階に至った『到達者(プレシード)』です。
全身に漆黒の鋼鉄を纏い、3m前後の体躯を持つ“黒鉄の魔人”と化す超力『Public Enemy』が使用可能です。
※アビス内でラバルダ・ドゥーハンと面会し、彼女からシエンシアについて聞き出していました。
※C-3/道路とC-4/森に鉄球が転がっています、どちらの鉄球に本体が入っているのかは次話にお任せします。
■
「ひとまず、この辺でいいだろ」
先頭を走っていた只野が足を緩め、後方へ向けて手を上げた。
吹きさらしの草原を抜け、岩山へと続く斜面に差し掛かった地点。
その合図で、全員がようやく速度を落とす。
只野のすぐ後ろにはトビ・トンプソン。
その背後にジョニー・ハイドアウト。
さらに遅れて、息を切らしたヤミナ・ハイドが続いていた。
岩陰に身を寄せ、四人はそれぞれ浅く呼吸を整える。
日没に近づいた空気は急速に冷え始めていたが、それ以上に張り詰めていたのは神経だった。
「とりあえず、これで禁止エリアからは外れたはずだ――ここから、どうする?」
只野が改めて方針を確認する。
自然と視線が集まる先、作戦の音頭を取っていた脱獄王トビが応じた。
「このまま岩山を経由して南東の小屋を目指す。
ここまでは既定路線だ。問題はその『途中』だな」
「……被験体、だな」
只野が静かに口を開く。
視線は前を向いたまま、周囲への警戒は解かれていない。
「ああ。奴が健在である以上、どこで出てきても不思議じゃねぇ」
出来る限り、被験体が吹き飛ばされた方角は避ける。
だが、あの規格外の運動性能を思えば、その程度の配慮など慰めにもならない。
「それだけじゃない」
ジョニー・ハイドアウトが言葉を挟む。
砲身と化した腕を組み、鋼の巨体がわずかに軋んだ。
「この刑務作業に残っている脅威は、被験体だけじゃない。
キングも健在だ。ローマンが追っているとはいえ、どう転ぶかは分からん」
誰も反論しない。
被験体以外の刑務参加者だって曲者揃いのアビスの住民である。
全員が十分な警戒対象であることは、全員が骨身に染みて理解していた。
どうなるのかはわからない以上、常に最悪は想定しておくべきだ。
その警告に、トビは肩をすくめた。
「だからこそ、改めて確認しておく。俺たちの最優先は何だ?」
「小屋の調査だろ、分かってるよ」
只野が即答する。
だがトビは、はっきりと首を振った。
「違うね。優先すべきは『脱獄』って目的だ。
お前らも――このオレ様ですら、そのための駒の一つだ」
刑務官たちに一矢報いるための、一時的な共闘。
この呉越同舟はそのためにある。
「被験体の討伐でも、キングの追撃でもねぇ。優先順位を履き違えるな。
被験体は『障害』であって『目的』じゃねぇ。道を塞ぐなら排除する。そうでなけりゃ、相手にしない」
「……ああ。それでいい」
ジョニーが静かに同意する。
「いざとなりゃ、俺と仁成で足止めくらいはできる。その間にあんたは行けばいいさ」
その言葉に、ヤミナがびくりと肩を跳ねさせた。
無意識に首元へ手が伸び、黒い首輪の存在を確かめる。
「あ、あたしも……逃げていいんですよね? へへっ」
力の抜けた笑い。
だが、どこか上滑りしていて、場の緊張から微妙にズレていた。
「分かってる。お前も逃げればいい」
卑屈に笑うヤミナにジョニーは返す。
最初からヤミナに戦力的な働きは期待していない。
それよりもヤミナに期待するのは別の役割だ。
トビが一瞥を向けて言った。
「むしろお前には逃げてもらわなければ困る。お前に任せたいのは、生き延びることだからな」
きょとんとした顔でヤミナが瞬きをする。
「要は最悪の場合に情報を繋ぐ役だ。お前のしょぼさは、武器になる。特に逃げる時にな」
強さが常に生存戦略として正しいとは限らない。
殺す価値のない弱者としてのその生き汚さは十分に武器だ。
銀鈴やドン・エルグランドと言った怪物たちすら死に絶えたこの地獄で、生き残ってきたという事実こそが、それを証明している。
トビは生き延びるために脱獄を目指す只野たちとは根本的に違う。
脱獄という目的を果たせれば自分が死んでも構わない脱獄狂だ。
だからこそ脱獄という『結果』だけは、残さねばならない。
ヤミナはそのための保険である。掛け金の安い保険だが。
「……え、褒められてます?」
「半分な」
トビはそれ以上踏み込まず、話を切り上げる。
ジョニーは砲身の腕を組んだまま、トビをじっと見据えていた。
視線は鋭いが、どこか確かめるような色を帯びている。
「そろそろいいだろ……話せよ、脱獄王」
改めて方針確認が終わったところで、ジョニーが低く呼びかけた。
一瞬だけ、トビの視線が鋭くなる。
だがすぐに、何事もなかったかのようにいつもの軽薄さを被り直した。
「……何の話だ?」
「とぼけるな。懸念があるなら、今のうちに言っておけ」
「なんだ。なにかあるのか?」
只野も流れに乗ってきた。
面倒そうに、トビは舌打ちしそうになるのを堪えた。
「俺はそう踏んでる。アンリたちには話せないような懸念事項があるんじゃねぇかってな」
「……気遣ってくれてたってことか。まあ確かに。アンリもそうだが、エンダもあれで感情的なところがあるからな」
納得したように相槌を打つ只野。
だが、トビにとってはいい人のレッテルを張られることこそ背筋が痒くなるほどの屈辱である。
トビは小さく息を吐き、観念したように口を開く。
「別に気遣ったわけじゃねぇ。ただ降りられねぇよう慎重だっただけだ」
今さら、手を引かれちゃ困る。それだけの打算。
「安心しな。何を聞こうが今更イモは引かねぇよ。ここにいるのは――」
視線がヤミナに一瞬だけ向き、すぐに外される。
「……まあ、だいたい冷静に事実を受け止められる面子だ。懸念があるなら、共有した方がいい」
ヤミナはなんか視線逸らされたなという事には気づいた。
だが何故視線をそらされたのかは分からなかったから、とりあえず黙っていた。
「……先に言っとくが、確証はねぇ」
トビは前置きしてから、口を開く。
「オレ様はブラックペンタゴンを調査し、様々な情報を集めた」
「そうだな」
システムABC。異世界移住計画。サリヤの残した道筋。
トビの集めた情報は多岐にわたる。
それは誰もが認めるところだ。
「だがな。それは裏を返せば集められる情報が、この閉鎖空間にわざわざ用意されていたってことでもある」
只野の眉が、僅かに動く。
当然の話だが、ここにない情報は集めようがない。
この孤島自体がアビスが用意したものだ。
不要な物は排除できるどころか、そもそも用意しなければ存在できない。
全ての資料は、あえて置かれていたものだ。
「けど、サリヤみたいなイレギュラーは確かにいたはずだろ?」
只野が反論する。
本条清彦と言う殻を隠れ蓑にして、アビスに潜り込んだイレギュラー。
奴の存在はアビスが用意したものではないはずだ。
「だが、それすらヴァイスマンの想定内だとしたら?」
「なぜそう思う……?」
「もし『本当の想定外』が起きていたなら、どうなると思う?」
返された問いに、只野が答える。
「首輪が爆破されるだろうな」
その瞬間、ヤミナがはっきりと喉を鳴らした。
命を握られていることを今更思い出したように、指先が無意識に首輪へ触れ、すぐに引っ込められる。
「そうだ。首輪がある限り、看守側は失敗を即座に修正できる。
逆に言えば――それが起きてない以上、本当の想定外は起きてねぇと言う事になる」
事態は未だヴァイスマンの掌の上。
そう考えるのが妥当である。
「つまり、お前が懸念しているのは」
「ああ……この脱獄自体が罠、って可能性は否定できねぇ」
トビは、はっきりと言った。
明らかに御膳立てされた状況。
脱獄王が飛びつきたくなる筋道。
それこそが罠なのかもしれない。
「オレ様は脱獄王だ。それでも脱獄を目指す。それが性質(サガ)だ。
……だからこそ、その習性をヴァイスマンの野郎に利用されてる可能性は否定できねえ」
言い切った直後、沈黙が落ちた。
吹き抜ける風が草を揺らし、乾いた音だけが辺りに残る。
「……だったら、なおさら話すべきだったな」
沈黙を破ったのは、只野だった。
責めるでもなく、当然のことを言う声音で。
「……何故だ?」
「お前が盲目的になったら、止める役が必要だからだ」
答えたのは、ジョニーだった。
確信を含んだ声。
「脱獄王の性質が利用されるなら、それ以外の人間がブレーキになる。それが、集団(チーム)ってやつだろ」
一人で抱え込めば、越えられない壁がある。
だが複数の価値観と視点があれば、それを乗り越えられる場合もある。
集団作業に縁のなかった脱獄王にとって、そこは抜け落ちていた観点だった。
だからこそ、この場には意味がある。
だからこそ、情報は共有されねばならない。
「だけど、わからないな……刑務を仕切る側が、システムの破綻を望む理由があるのか?」
只野が、考え込むように言う。
自分で始めた刑務作業から脱獄を誘導するなどマッチポンプが過ぎる。
「この刑務作業には複数の組織や人間の意図が混じってる跡がある。
その中に、ヴァイスマンの意向と噛み合わねぇ思惑があっても不思議じゃねぇ」
背後が一枚岩ではない。
この刑務作業に付きまとう歪さの正体は、そこにあるのだろう。
「意にそぐわないからクーデターでも起こしたいってか? あの規律大好きな看守長がか? それこそないだろう」
「ま……確かにな」
トビも、率直に頷いた。
『異世界移住計画』がヴァイスマンのイメージにそぐわない以上に、秩序と規律を重んじるあの男が上の意向に真っ向から逆らう姿は、確かに想像しづらい。
「つまり――相手の目的が、まだ見えていない。それが一番の問題ってことだな」
只野が、話をまとめる。
目的が分からなければ、動機も読めない。
敵意なのか、誘導なのか、それとも単なる実験なのか。
判断材料が、決定的に足りていない。
「結局は……調査するしかねぇってことだ」
トビが静かに結論を口にする。
小屋か、灯台か。
あるいはその両方か。
いずれにせよ、答えは立ち止まっても、何も見えてはこない。
夜の帳が落ちる。
目の前が先の見えない闇に覆われていても、次に進むしかない。
【F-4とF-5の間/草原/一日目・夕方】
【トビ・トンプソン】
[状態]:健康
[道具]:H&K SFP9(12/20・永遠付与)、ナイフ、デジタルウォッチ、デイパック
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.脱獄する。例えそれがヴァイスマンの思惑だとしても。
1.「小屋」へと向かう。
2.システム攻略へと挑む。
※エンダが秘匿受刑者であることを察しています。
※デイパックの中に北西ブロック3階中央の部屋等から持ち出したものが入っているかもしれません。
※サリヤ・K・レストマンから何らかの情報を預かっているようです。
※この刑務にヴァイスマンのクーデターが仕込まれている可能性に行き当たりました。
[共通備考]
※被験体の戦闘不能に伴い、ブラックペンタゴンの出入口封鎖が解除されています。
既に破壊されている北西の出入口は引き続き通常の手段では通り抜け不可能です。
【ジョニー・ハイドアウト】
[状態]:疲労(大)、破損(大、鉄屑を吸収して幾らか回復)、ヤマオリ、永遠
[道具]:デイパック、紗奈のシステムAの手錠
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.受けた依頼は必ず果たす
1.「小屋」へと向かう。場合によっては被験体:Oの討伐へ向かう。
2.怪盗(チェシャキャット)の依頼を果たす。
※ルメス・ヘインヴェラートが掴んだ情報を全て伝えられています
※ヤマオリの遺物を取り込みました、永遠が付与されています
※右腕には脇差、サバイバルナイフ、剣ナタ、スレッジハンマーが取り込まれています
※左腕の銃器の弾数はグレネード(0発)、ハンドガン(5発)、アサルトライフル(20発)、スナイパーライフル(0発)
【只野 仁成】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、右足首と左足にダメージ(中)、いずれも応急処置済み、服の全面が溶けている、強い覚悟
[道具]:デジタルウォッチ、図書室の本数冊
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.生き残り、家族の安否を確かめたい。
1.「小屋」へと向かう。場合によっては被験体:Oの討伐へ向かう。
2.エンダと共に脱出への道筋を掴む。
3.ルーサー・キングとギャル・ギュネス・ギョローレンには警戒する。
4.生き延びて、エルビスの事をダリアに伝える。
※エンダが自分と似た境遇にいることを知りました。
※ヤミナの超力の影響を受け、彼女を侮っています。
【ヤミナ・ハイド】
[状態]:各所に腐食(小)
[道具]:ハンドガン、警備員制服(SSOGの徽章付き)、デジタルウォッチ、デイパック(食料1食分、エンダの囚人服、資料・書籍類)
[恩赦P]:22pt
[方針]
基本.強い者に従って、おこぼれをもらう
1.よくわからないので、ジョニー達についていく。
※H&K SFP9をトビに取られて悲しかったので、恩赦ポイントでハンドガンを確保しました。
■
草原は静まり返り、足音だけが淡々と夜を刻む。
黒い喪服に身を包んだ男と女が、沈みゆく夜の道を並んで歩いていた。
征十郎とタチアナ。
二人は、ブラックペンタゴンに穿たれた巨大な破孔から、被験体が吹き飛ばされた方向を割り出し、その推定線上を辿っていた。
吹き飛ばされた瞬間の衝撃波が、草原に歪な爪痕を残している。
抉れた地面に残る、一直線に薙ぎ倒された草。
衝撃で跳ね上げられた小石の向き、土の散り方――すべてが、空中での回転と落下角を物語っていた。
「しかしまあ……どこまで吹き飛ばされたんだかねー」
緊張感の欠片もない調子で、タチアナが呟く。
だがその視線は、軽い口調とは裏腹に鋭く、草の倒れ方から土の裂け目、微かな跡までを逃さず追っていた。
既にブラックペンタゴンからは一キロ以上離れている。
これほどの距離を一撃で吹き飛ばす力も異常だが、それでなお生存しているとすれば――相手もまた、常軌を逸した怪物だ。
やがて、二人はほぼ同時に足を止めた。
一見すれば、どこまでも続く穏やかな草原。
だが、空気が違う。
夜気に紛れて、肌を刺すような違和感が走る。
そこに、目に見えない境界線が引かれていることを、身体が先に理解していた。
――ここから先は、禁止エリアだ。
「どうすんのぉ?」
黒い首輪という『特権』を持つ被験体のみが、制限なく立ち入ることを許された領域。
ここから先の探索は出来ないがどうするのか、とタチアナが横目で問う。
「暫し、ここで待つ」
征十郎は一切の迷いなく答えた。
ここまで、被験体らしき影はどこにもなかった。
吹き飛ばされた被験体が生きているとすれば――この境界の向こう以外に考えられない。
ならば、無闇に踏み込むより。
自分たちを『餌』として晒し、相手の出方を待つ方が理に適っている。
「んー……なら、もうちょい下がった方がよくない?」
軽い口調で、タチアナが言う。
「何故だ?」
「場外に引きずり込める反則技持ちに、ロープ際はまずいっしょ」
指先で、見えない境界線をなぞるような仕草。
相手が勝負より任務を優先するタイプなら、正面から挑んでくるとは限らない。
禁止エリアに自由に踏み込める優位を使い、こちらを無理矢理引きずり込む――その可能性は十分にある。
「……なるほどな」
征十郎は短く頷いた。
正々堂々に拘るわけではないが、彼はできる限り尋常な立ち合いを好む。
この手のゲリラ戦的な発想については、タチアナの方が一日の長がある。
助言に従い、僅かに距離を取る。
征十郎は境界線の向こうへ一瞬だけ視線を投げ、剣の柄に置いた指先に力を込めた。
決戦を前にした高揚と緊張を吐き出すように、ゆっくりと息を吐く。
「……なあ、タチアナ」
「んー? どしたん?」
気の抜けた返事とは裏腹に、彼女の意識がこちらへ向いたのを、征十郎は感じ取っていた。
「本当にいいのか?」
「だから、何が?」
問いの意図が掴めず、タチアナが首を傾げる。
「私はな……」
「うん」
「被験体が何者であろうと構わん。だが――あれが、ヤマオリの延長線上にある存在なら。見過ごすわけにはいかん。ただ、それだけだ」
夜の草原に、短い沈黙が落ちる。
過去を暴くためでも、世界を救うためでもない。
自分が進むと決めた道が、嘘ではなかったと確かめるため。
被験体との戦いは、その確認を避けて通れない地点だった。
タチアナは、ふうん、と小さく相槌を打つ。
軽い調子だが、その瞳には冗談の色はない。
「だが、それは私の因縁であり、私の望みだ。お前がこの戦いにつき合う必要はない」
しばしの沈黙。
やがてタチアナは、呆れたように肩を竦めた。
「今更すぎなぁい~?」
「……それでもだ」
草を踏みしめ、爪先で小さく円を描く。
不満というより、今更そんなことを聞かれること自体が不服だという苛立ちだった。
「そりゃ、征タンとは決着つけないとですし? 面倒ごとはパパっと終わらせた方がいいっしょ」
互いに、決着をつけると誓い合った。
被験体戦も、そのための露払いに過ぎない。
そう軽口で誤魔化すが、征十郎は視線を逸らさない。
「……ならば」
その一言を置き、征十郎は一歩、前へ出る。
親指を鍔にかけ、静かに腰を落とす。
「貴様との決着。先んじて、ここで付けるか?」
刃のような気配が、夜気を切り裂いた。
この場で終わらせる覚悟が、言葉より先に伝わる。
この場に残る理由が決着だというのなら、この場で付けてしまえばいい。
被験体は息を潜め、周囲に人影はない。
今なら余計な邪魔は入らないだろう。
タチアナは、珍しく真剣な表情を浮かべた。
「私はもう、あの村に囚われてない。永遠も、楽園も、全部終わった」
あなたが、斬り捨ててくれた。
そう言って、彼女は指先で胸を軽く叩く。
「だからこそ、永遠を斬ったあなたと、永遠を齎したヤマオリの決着を――見届けたい」
今の彼女の執着は、そこにある。
永遠を終わらせた剣士。
自分の過去を共有できる唯一の存在。
その剣士が次に何を斬るのかを、特等席で見届けたい。
「つまり、野次馬根性か?」
「そーかもねん~☆」
悪戯っぽく片目を閉じる。
「……厄介な女だ」
「今さら?」
くすり、と笑う。
征十郎は大きく息を吐き、一歩、前へ出る。
剣にかけていた指を離し、代わりに膝を折った。
それは戦闘の構えではない。
斬り合いの所作でもない。
剣士が、自らの意志を定めるための姿勢だった。
静かに跪き、刀を両手で持ち、捧げるように掲げる。
「誓おう。この戦いが終われば――必ず、お前の首を斬り落とすと」
冗談の余地も、揺らぎもない。
生と死を賭けた、真剣な誓い。
「征タン…………」
タチアナは一瞬だけ目を見開き、次いで、婚姻を申し込まれた乙女のように頬を染める。
そして、にっと笑った。
「じゃあ私も誓うよ。征タンの心臓、容赦なく爆破するってさミ☆」
軽薄な口調。
だが、その奥にある覚悟は、征十郎にも痛いほど分かっていた。
二人は背中を預け合うことはしない。
だが、互いを疑うこともない。
来たる決戦の先にある『終わり』を互いに理解しているからこそ、
その終わりを、冗談と誓いに変えて、軽やかに口にできる。
草原を渡る風が、境界線の向こうから吹き抜ける。
その風が、二人に告げていた。
もはや『永遠』などここにはない。
死がふたりを分かつ。決着の時は、確実に近づいていた。
【F-4/草原 南部/一日目・夕方】
【タチアナ/ギャル・ギュネス・ギョローレン】
[状態]:疲労(中)、右拳欠損(即席で処置済)、出血による消耗(食事済で造血中)、胴体に打撲(中)
[道具]:デイパック(医薬品)、注射器、小瓶(医務室からくすねてきたやつ)、漆黒のゴシックパンク服、メモ帳、ジェイ・ハリックの首輪(未使用)
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.征十郎との決着をつける☆
1.横槍が入らない決着の舞台を整えたら、征十郎を燃やす。まあ整えなくても、機会があればチャレンジ☆
※刑務開始前にジョーカーになることを打診されましたが、蹴っています。
※ジョーカー打診の際にこの刑務の目的を聞いていますが、それを他の受刑者に話した際には相応のペナルティを被るようです。
※永遠は斬られたので、今後は年を取ります。
※心機一転、制服はもう卒業のようです。
※ブラックペンタゴン3Fの機密資料を殆ど閲覧していませんが、要点だけ目を通しているかもしれません。
【征十郎・ハチヤナギ・クラーク】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ(中)、超力第二段階?
[道具]:デイパック(医薬品)、日本刀、銘のない贋作の刀(永遠)、ルメス=ヘインヴェラートの首輪(未使用)、漆黒の喪服風スーツ
[恩赦P]:68pt
[方針]
基本.タチアナとの決着をつける。
0.被験体に仕掛ける機会はあるか
1.横槍が入らない決着の舞台を整えたら、タチアナを斬る。整う前でも、機会があれば斬ろう。
※二本の刀を腰に指しています。
※ブラックペンタゴン3Fの機密資料を殆ど閲覧していませんが、要点だけ目を通しているかもしれません。
■
夜闇が、ゆっくりと戦場を覆い始めていた。
爆ぜた鉄の臭いと、焼け焦げた土の匂いが、まだ空気の底に澱のように沈んでいる。
りんかはその場から動けずにいた。
涙はもう流れない。ただ、胸の奥に沈殿した感情が、重石のように息を圧迫している。
ジャンヌは一歩前に立ち、周囲へと意識を張り巡らせている。
バルタザールは去った。だが、戦いが終わったわけではない。
その時だった。
瓦礫の向こう、崩れた外壁の影から、ひとりの人物が姿を現す。
ブラックペンタゴンの内部から、外へと歩み出てくる影。
戦場にはあまりにも不釣り合いな、静かで整った足取りだった。
だが――その顔を認識した瞬間、りんかの喉が、ひくりと鳴った。
切れ長の瞳。
感情を抑え込んだ、冷静すぎる表情。
体格はバルタザールより一回り小さく、年若い。
それでも、その面差しには、つい先ほどまで死闘を繰り広げていた男――バルタザール・デリージュの影が、紛れもなく刻まれていた。
咄嗟に、ジャンヌが半歩前に出る。
りんかもまた、無意識に拳を握り締め、身構えていた。
「おや、どうかされましたか? 私の顔に見覚えでも?」
だが、相手はその反応を見越していたかのように穏やかに口を開く。
その落ち着いた声にジャンヌたちは聞き覚えがあった。
ブラックペンタゴン北西扉前。瓦礫越しに交渉を行った、あの声だ。
「あなたが、エネリットですね」
「ええ。初めまして。ジャンヌ・ストラスブール」
ジャンヌの確認に青年、エネリットは静かに頷いた。
「ディビット・マルティーニとは、対面の約束を果たせず残念です」
「おや。耳が早いですね。情報源は、征十郎さんたちでしょうか」
ブラックペンタゴンを先に離脱したのは、あの二人しかいない。
ジャンヌは否定せず、沈黙で肯定した。
キングと接触し、ディビット・マルティーニとジェイ・ハリックが死亡したこと。
征十郎から、大まかな状況はすでに共有されている。
「お聞きの通りです。こちらの戦力はキングによって瓦解しました。
私にも別の目的があり。これ以上キングを討つという目的には力添えできそうにありません」
これ以上の継続は困難であると、同盟の破棄を申し入れる。
ジャンヌは静かに首を振る。
「いえ。それに関してはこちらも同様です。
そちらにお譲りした枷について約束を果たせそうにありませんので」
首輪と引き換えに渡されたシステムAの手枷。
発動の鍵を握っていた紗奈の死により、それは起動不能となっていた。
互いに役割を果たせない以上、同盟は解消するしかない。
「対キングについては、ブラックペンタゴン内にネイ・ローマンがいるはずです。彼を頼られるのがよろしいかと」
「ご助言、感謝します」
同盟破棄の代替案を提示して、エネリットは視線をりんかへと移す。
「そちらのお嬢さんのお名前も、伺ってよろしいですか?」
「……葉月りんか、です」
面影のあるその顔、そしてある意味での場違いさ。
僅かに戸惑いながらりんかが名乗ると、エネリットは恭しく頭を下げた。
その所作は、戦場の人間とは思えぬほど洗練されている。
顔を上げると、さりげなく周囲を見回した。
交渉時、少女たちは三人いたはずだ。一人、足りない。
「お互い、色々あったようですね」
その言葉の意味を察し、りんかは視線を伏せる。
紗奈の死は、まだ簡単に言葉にできる傷ではなかった。
「差し支えなければ……ここで何があったのか、教えていただけますか?」
エネリットの問いは穏やかだった。
ただ事実を確認するための、乾いた問い。
ジャンヌは一瞬だけ視線をりんかに向け、沈黙を引き取るようにその問いに応じる。
ディビットたちの要請に従い、正門の調査へ向かったこと。
そこに潜んでいたバルタザールの奇襲を受けたこと。
そして、そこで起きた戦闘で――紗奈を喪ったこと。
つまり、紗奈の死はディビットからの依頼が遠縁にあるという事である。
そのリスクを含めての同盟だ、ジャンヌもそれを責めるような真似はしない。
必要最低限の言葉だけを選び、感情を削ぎ落とし簡潔に語り始める。
それでも、語られなかった空白の重さが、場の空気を沈ませた。
「……なるほど」
エネリットは短く相槌を打った。
眉一つ動かさず、そこに感情を挟む様子はない。
「紗奈さんの荷物を奪われたとの話ですが。もしかして、そこに通信機も含まれていましたか?」
「ええ。そうですが……それが何か?」
「いえ。ただの確認ですのでお気になさらず」
笑顔のまま何でもない確認事項のように流す。
「りんかさん」
突然名を呼ばれ、りんかの肩が跳ねる。
エネリットが、まっすぐに彼女を見つめていた。
切れ長の瞳。その奥に、バルタザールと同じ影が宿っている。
胸の奥に、言葉にできない感情が波立つ。
「不躾ですが。あなたに一つ、質問をお許し願えますか?」
「……え、ええ。何ですか?」
何を聞かれるのか。
覚悟を決める前に、問いは投げられた。
「あなたの大切な人間を殺したバルタザール・デリージュが憎いですか?」
爪が掌に食い込む感触。
りんかの拳が、無意識に強く握りしめられた。
胸の奥で、熱を持った感情がざわめく。
「……憎くない、とは言えません。でも――憎みたいとは、思っていません」
「では、復讐を果たしたいですか?」
畳み掛けるように逃げ場のない問いが投げられる。
エネリットは復讐の意思を、真正面から問う。
「……紗奈ちゃんを殺したことは、許せない」
声がわずかに震える。
「でも、それ以上に……憎しみであの人を塗り潰してしまったら、
紗奈ちゃんが命をかけて遺したものまで、一緒に壊してしまう気がするんです」
拳は握られたまま。
だが、それは誰かを殴るための形ではない。
憎悪を否定しない。
けれど、それに身を委ねもしない。
それがりんかの答えだ。
「だから私は、『憎いから』じゃなく、『救いたいから』動くって決めました」
エネリットは、静かに目を伏せた。
「……なるほど。ありがとうございます。
心の傷に触れる問いをお許しください」
深く、丁寧に一礼する。
それは、決して興味本位の質問ではなかった。
「目的が合えば、とも考えていたのですが……どうやら、そうではないようだ」
エネリットは言葉を飲みこんだりんから視線を外し、ジャンヌへと再び向き直る。
「ついでのようで申し訳ないのですが、ジャンヌさん。あなたにもお尋ねしたい。
あなたは、誰かに復讐したいと思ったことはありますか?」
正義のやり玉にあげられ、多くの重荷を背負わされた少女。
敗北と裏切りの果て、無実の罪を被され凌辱の限りを尽くされた悲劇の聖女。
そんな彼女に人を恨む思いが欠片でもあったのか。
「ありません」
即答だった。
揺らぎも、迷いもない。
「私の祈りと闘争は、過去ではなく、より良い未来のために捧げられるものです」
過去の清算ではなく、未来のために。
それが、聖女ジャンヌ・ストラスブールの在り方。
「尊敬に値する素晴らしい結論だ」
その答えを、エネリットは本心から称賛する。
だからこそ、彼とは相容れない。
「では……立ち去ったバルタザールが、どちらへ向かったか。お教え願えますか?」
その問いに、ジャンヌはすぐには答えなかった。
代わりに、静かに視線を返す。
「構いません。ですが、その前に――こちらからも一つ、お尋ねしてよろしいでしょうか?」
「ええ。構いませんよ」
促しながらエネリットは、すでに何を問われるのかを察しているかのような表情をしていた。
「あなたとバルタザール・デリージュは、どういうご関係なのですか?」
問いが落ちる。
バルタザールに対する喰いつきだけではない。
鉄仮面のとれたバルタザールの素顔はエネリットに余りにも似ている。
とても他人とは思えなかった。
「あの男は父の兄。つまり私の叔父にあたります」
逡巡も、言い淀みもない。
隠すほどの事でもないと言わんばかりに、あっさりと回答とする。
確かに言われてみれば面影が重なり、血の繋がりは確かに感じられた。
「……でも、お父さんがあの人の弟ってことは、それって……」
りんかは思わず息を呑む。
バルタザールは言っていた。
弟は王位を簒奪した裏切り者だと。
その血族を、皆殺しにしたのだと。
つまり目の前にいるこの青年は――――。
「どうしました?」
凪のように穏やかな微笑。
だというのに、りんかの背筋を僅かに冷たいものが走った。
バルタザールは憎悪と狂気の底に人間性が滲んでいた。
エネリットはそれとは対極の紳士的で理性的な青年である。
だが、どこか人間性が希薄に感じられる。
「これは私が叔父に会いに行くだけの事。
ですから――どちらへ向かったのか、行き先を教えてください」
エネリットが、改めて静かに促した。
その声音には迷いがなく、交渉の余地も感じられない。
そう悟り、ジャンヌは短く息を吐いた。
「……北東です。廃墟に続く道路方角へ向かいました」
「ありがとうございます」
それだけを言い、エネリットは踵を返す。
誰とも並ばず、振り返りもせず、ただ一人で歩き出した。
「――待ってください」
その背に――声が飛ぶ。
引き留めたのは、りんかだった。
エネリットは足を止め、静かに振り返る。
「叔父さんを……バルタザールさんを、追うんですよね」
「ええ」
否定も、言い換えもない。
ごく当たり前のように肯定する。
「復讐のために……ですよね」
バルタザールから聞いた話と、エネリットの関係。
そこから導き出される結論は一つしかない。
「さて、どうでしょう」
だが、エネリットの反応は素っ気ないものだった。
そこに宿る温度のなさが、りんかの胸に小さな違和感を残す。
「違うと言うんですか……?」
追及にエネリットはふむ、と僅かに考え込む。
「では、逆にお尋ねしたいのですが。あなたは――――私が叔父上を恨んでいるように見えますか?」
「それは…………」
その問いに、りんかは答える事は出来なかった。
バルタザールの激情。
弟に向けられた愛憎の歪みは、りんかにも理解できた。
だからこそ、否定し、救いの手を差し伸べる余地があった。
掴まれることはなかったが、それでも――差し出すことはできた。
だが、目の前の青年は違う。
理性的で、穏やかで、礼節もある。
それなのに、どこか決定的に噛み合わない。
違和感は確かにあるのに、何が異質なのかを説明できない。
その奥底を理解できないからこそ、否定も指摘もできなかった。
強いて言語化するのなら、どこか切実な『必死』さが感じられない。
青年の目の底には隠しきれない淀みがある。
だが、それは、恨みと言うより――――。
「これ以上ないのであれば、これで失礼いたします」
「……あっ」
りんかが次の言葉を探している間に、丁寧な別れの言葉を残しエネリットは歩き出していた。
今度は――引き留めることができなかった。
行く当てのなくなった手を伸ばしたりんかの肩にジャンヌが手を置く。
「私たちも行きましょう」
もうじきここも禁止エリアとなる。
立ち止まってもいられない。
二人はエネリットとは違う方向へと歩き始めた。
【F-5/草原/一日目・夕方】
【ジャンヌ・ストラスブール】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ・火傷(中)、超力成長中
[道具]:流れ星のアクセサリー
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.正義を貫く。
1.ネイ・ローマンと結託し、ルーサー・キングを討つ。
2.日月やりんかを次代のホープとして守りたい。
3.刑務の是非、受刑者達の意志と向き合いたい。
※ジャンヌが対立していた『欧州一帯に根を張る巨大犯罪組織』の総元締めがルーサー・キングです。
※ジャンヌの刑罰は『終身刑』ですが、アビスでは『無期懲役』と同等の扱いです。
※流れ星のアクセサリーには他人の超力を吸収して保存する機能があるようです。
吸収条件や吸収した後の用途は不明です。
※流れ星のアクセサリーに保存されていた『フレゼア・フランベルジェ』の超力を取り込みました。
フレゼアの超力が上乗せされ、ジャンヌの超力が強化されています。
完全に肉体に馴染んだ時、更なる進化を遂げる可能性があります。
【葉月 りんか】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(大)
[道具]:治療キット、紗奈の手錠&鍵、ハヤトの手錠
[恩赦P]:20pt
[方針]
基本.救って、救って、救い続ける。
0.紗奈のような子や、救いを必要とする者を探したい。
1.自分を救い、命を奪われたハヤトとセレナ、紗奈の分まで戦い抜く覚悟。
2.ジャンヌたちと協力してルーサーを討つ。
3.この刑務の真相も見極めたい。
※羽間美火と面識がありました。
※超力が進化し、新たな能力を得ました。
現状確認出来る力は『身体能力強化(自他)』、『回復能力』、『毒への完全耐性』、『精神強化』、『対超力の加護』です。
その他にも力を得たかもしれません。
■
北東へ向かって、一人歩くエネリット。
二人分だった足音が、一人分に減る。
草を踏む微かな擦過音だけが、夜の底へ沈んでいった。
彼はここに至るまで、復讐の道筋を緻密に組み上げてきた。
あの二人は戦力としては申し分なかった。
バルタザールと因縁のあるあの二人を、口八丁で連れ立たせることも出来ただろう。
だが、最後の詰めで必ず方針の違いが障害になる。
だからこそ、使える戦力は自分一人でいい。
最初から、自分一人でもやるつもりだった。
そこに変更はない。
夜風が頬を撫でる。
湿った草いきれの向こうに、焦げた鉄と血の匂いがまだ残っている。
エネリットは呼吸の深さすら一定のまま、その匂いを肺に通し、何事もなかったように吐き出した。
「一人か……」
誰に聞かせるでもない呟き。
その言葉は風に攫われ、夜へと溶けていった。
孤独は、罰ではない。
むしろ雑音が消える。
復讐に必要なのは、感情ではなく手順だ。
歩みは止まらない。
北東へ――廃墟へ続く道路の方角へ。
淡い群青の下で、青年は静かに通信機を手に取った。
【D-6/草原 西部/一日目・夕方】
【エネリット・サンス・ハルトナ】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ(大)、胴体に幾らかの骨折
[道具]:メアリー・エバンスの首輪(未使用)、マシンガン(弾倉残り1)、リモコン爆弾×1、デジタルウォッチ、通信機
[恩赦P]:10pt
[方針]
基本.バルタザール・デリージュと会う。復讐を成し遂げる。
※現在の超力対象は以下の通りです。
【徴収】などが対象に発覚した場合、信頼度の変動がある可能性があります。
①マーガレット・ステイン(刑務官)
信頼度:80%(徴収時の超力再現率40%)
効果上限:徴収(相手の同意なしの超力借り受け。再現度は信頼度の半分)
超力:『鉄の女』
②~④ジョニー・ハイドアウト、メリリン・"メカーニカ"・ミリアン、只野仁成
信頼度:全て5%前後(10%→5%に減少)
効果上限:献上(双方の同意による超力の一時譲渡。再現度は信頼や忠誠心に比例)
超力:『鉄の騎士(アイアン・デューク)』、『補え、私の愛する人工物質(モルデオ・アルティフィシアル)』、『人類の到達点(ヒトナル)』
■
夜は、よく似合う。
血と鉄と後悔を洗い流してくれるような顔をして、何も問わずに包み込んでくれる。
バルタザール・デリージュは岩山の麓を歩いていた。
鎖は引きずらない。音を殺し、影のように進む。
胸の奥が、異様なほど静かだった。
(……逃げた、か)
否定しかけて、やめた。
言い換える必要などない。それが事実だ。
あの手を、取らなかった。
否――取れなかった。
あれは逃亡だ。
己の存在を、根こそぎ揺さぶるものから目を背けた。
りんかの差し出した手は、小さく、温かく、あまりにもまっすぐだった。
あれは救済の形をしていた。
そして同時に、己の存在を否定する刃でもあった。
(救われる資格があるとでも?)
自嘲が、喉の奥で乾いた音を立てる。
弟を殺した。
血族を断ち切った。
正義を掲げ、王道を語り、最後には――自分自身の影に縋りついた。
それを、今さら。
やり直しなど、冗談にもならない。
仮面に触れようとして、指が宙を彷徨う。
鉄の感触は、もうそこにはなかった。
(……そうだ)
割れたのだ。
自分の殻は、もう。
記憶が、意志とは無関係に滲み出す。
幼い日の、弟の背中。
振り返ったときの、穏やかな目。
あの視線が、なぜ今になって蘇る。
(私は……何を恐れている)
王座を簒奪した弟への復讐は、果たしたはずだった。
だが、その先に待っていたのは解放ではない。
形を変え、膨れ上がった新たな憎悪が、今も己の内側を焼いている。
それを――あの少女は、見抜いた。
憎悪の炎は消えない。
だが、この炎こそが、バルタザールを前へ進ませる。
拳を、ゆっくりと握る。
力を込めれば、まだ壊せる。
まだ殺せる。
まだ進める。
もし、あの手を取っていたなら。
もし、あの言葉を受け入れていたなら。
自分は――『悪』でいられなくなる。
それは、あまりにも都合が悪い。
憎悪の炎が消えれば、進めなくなる。
為すべきは復讐だ。
恩赦を手に入れ、衆愚に裁きの鉄槌を下す。
出獄に必要なポイントは155pt。
二人殺せば届く。手を伸ばせば、現実的に掴める数字だ。
夜気を吸い込み、肺に鉄の匂いを満たす。
まだ戦場は残っている。
まだ血は流れる。
まだ、殺す理由はいくらでもある。
ならば――それでいい。
(……だが)
一瞬だけ、歩みが止まる。
もし。
本当に、もしも。
もう一度弟と対峙できたなら。
贖罪の機会が訪れたなら。
自分は、何を選ぶ。
「……馬鹿馬鹿しい」
吐き捨てるように呟き、再び歩き出す。
決して叶わぬ願い。
願ってはならぬ願い。
己自身で破壊してしまった未来。
そこに後悔はない。
悔罪も、ない。
救われなかった悪は、悪として歩き続けるしかない。
それが、自分に課された――『報い』なのだから。
夜の奥へ。
次の戦場へ。
歩き出そうとした、その瞬間だった。
ポケットの奥で、通信機が低く震え、
夜を切り裂くような電子音が鳴り響いた。
『聞こえますか、応答願います――――叔父上』
初めて聞く、懐かしい声が響いた。
【D-6/草原 東部/一日目・夕方】
【バルタザール・デリージュ】
[状態]:記憶復活、鉄仮面破損、左腕喪失、頭部にダメージ(大)、腹部にダメージ(中)、右脇腹にダメージ(大)
[道具]:通信機、ルクレツィアの首輪(使用済)
[恩赦P]:245pt
[方針]
基本.恩赦ポイントを手にして自由を得て、逆臣どもに報いを
1.エネリットを探す
2.スヴィアンともう一度話し合う
※記憶をさらに取り戻しました
■
夜は、舞台装置としてあまりにも優秀だった。
月明かりに洗われた草原は、昼の粗野さをすべて剥ぎ取られ、なだらかな起伏と淡い陰影だけを残して広がっている。
風に揺れる草は、観客席に立ち上るざわめきのようで、踏みしめるたびにかすかな音を立てた。それすらも拍子の一部だと錯覚させるほど、世界は静かに整えられている。
その中心を、完全なる偶像が歩いていた。
白と黒を基調とした衣装は月光を受けて淡く反射し、夜の闇に溶けるどころか、逆に周囲の暗さを際立たせる。
整えられた肌、引き締められた輪郭、艶を帯びた唇。
一歩進むたび、草原が『舞台』へと書き換えられていくようだった。
生き物としての気配は希薄で、代わりにあるのは完成された像の存在感。
誰に見られているわけでもないのに、背筋は伸び、歩調は一定。
鑑日月は既に舞台の上。見られている前提で世界を踏みしめていた。
その少し後ろを、氷月蓮が歩く。
二人の間に会話はない。
険悪――というよりも、冷え切った空気が自然に横たわっているだけだった。
日月はそれを意に介さない。
氷月は、そもそも気にするという発想がない。
同盟を結んだとはいえ、並んで歩く理由は利害だけだ。
距離も、感情も、必要以上に詰める意味はない。
沈黙が数分続いた後、先に口を開いたのは日月だった。
「……ジャンヌを標的にすると決めたのはいいけれど」
夜風に声を溶かしながら、前を向いたまま言う。
「どうやって出会うつもりなのかしら。
あの女は逃げ回るタイプじゃないけど、こちらから探し当てるのは簡単じゃないわ」
冷静に現実を積み上げる。
「それに、ジャンヌ一人を倒したところで、恩赦には届かない。他の受刑者も狩らなければならない。何か策があるのかしら?」
視線だけを横に流す。
問いというより、確認だった。
「そうだねぇ……」
気の抜けた声音で相槌を打ち、数秒だけ考え込む。
氷月は歩みを緩めることなく、手首のデジタルウォッチに目を落とした。
暗い画面をしばらく見つめ、指先で軽く操作する。
「もしかしたら……あれはテストだったのかもしれないね」
独り言のような呟きだった。
だが、その響きには明確な『心当たり』が滲んでいる。
日月は足を止めずに、わずかに眉を寄せた。
「どういうこと?」
「まあまあ。少し待ってくれ」
氷月は肩をすくめ、夜空を仰ぐ。
「僕の予想が当たっていれば、放送で答え合わせができる。
まあ外れていたら少し恥ずかしいので口にはしないでおくよ」
くすりと、楽しげに笑う。
恥の概念などありはしないだろうに。その軽さが、日月の神経を逆撫でする。
だが同時に、氷月が無意味な期待を口にする男ではないことも理解していた。
日月は、夜の草原に広がる闇を舞台袖のように見つめた。
「……いいわ。待ちましょう」
声は冷たく、だが揺れていない。
「その放送が、次の幕開けになるなら――私は、最高の状態で迎えるだけよ」
完全なる偶像は歩みを止めない。
氷月もまた、その一歩後ろを、変わらぬ距離で追う。
やがて訪れる放送を、
それぞれ違う期待と、違う悪意を胸に抱えながら。
【C-6/草原/一日目・夕方】
【鑑 日月】
[状態]:肉体の各所に火傷(傷隠しメイク)、《偶像》
[道具]:アイドル衣装、ワイヤレスイヤホンマイク、化粧品、香水、デジタルウォッチ(楽曲(タイトル不明)DL済み)
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.輝く。其の為に生きて、其の為に死ぬ。
1.――――ジャンヌ。
2.氷月蓮と協力して恩赦ptを稼ぐ。使い物にならなくなったら、すぐに棄ててやる。
3.アビスからの出獄を目指す。――――本当の意味で手段は問わない。
4.ルーサー・キングとの接触は可能な限り避ける。
※人生を舞台と見立て、常時超力を高出力で発動させています。
【氷月 蓮】
[状態]:健康
[道具]:Tシャツ、ナイフ3本、フォーク3本、遠隔起爆用リモコン、デジタルウォッチ、空の金属缶(容積は500mlほど)、ロープ(使い古し)
[恩赦P]:0pt(残り特権70pt)
[方針]
基本.殺す。其の為に生きて、其の為に死ぬ。
1.ジョーカーとして、ミッションを達成する。
2.鑑日月と協力して、殺人を行う。輝かなくなったら、すぐに殺してやる。
3.被験体:Oに対抗する為の集団を探し、潜り込む。
4.鑑日月、君を殺したいと心から思ったんだ。
※ジョーカーの役割を引き受けました。
恩赦ポイントとは別枠のポイント(通称特権ポイント)を200pt分使用可能です。
また、以下の指令を受けています。
① 刑務作業に消極的なグループに紛れ込み、6時間以上過ごす。(達成済)
② 刑期に関係なく最低でも3人以上の参加者の殺害。(残り1人)
最終更新:2026年02月05日 22:07