地下通路に男とエテボースが座っている。警戒しつつも素直に渡されたあまいミツを食べているエテボースを眺めつつ、男はため息をつく。
エイパムを育てようと思った、だがこの近所ではこの近所ではエイパムは捕まえられない、だから知り合いに借りて卵を産ませよう。
そう思ってトレーナー仲間にメスのエテボースを借りた。そこまではよかった。だがこのエテボースは一向に卵を産んでくれない。
 男は目を閉じ、このエテボースを借りたときのことを思い出す。
あいつは確か「産む道具か」とか言いながら渡してくれた。それで数日後、このエテボースが送られてきたってわけだ。
そういやその時にあいつは「少し植えつけさせてもらったが」と言っていた。どうやらエテボースに変な教育を施したらしい。
 男の胸にふつふつと怒りがこみあげてきた。よし、それなら上等。俺がこいつを調教して淫乱に仕立て上げてやろう。
その状態であいつにエテボースを返してやる。あいつはそれを見てどういう反応をするだろうか。
 そう心に決め、男はエテボースを見た。エテボースはミツを食べ終わったらしい。まだ警戒は解けていないようだ。

さて、まずこいつをどうしようか?




ひみつきちに、1人の男が入ってきた。そして男は手にした二つのモンスターボールを放り投げた。その二つから出てきたのは、オスの「ミミロップ」と友人に借りた「エテボース」だ。現在男はこのエテボースを調教して仕上げ、友人の元に返してやろうともくろんでいる。どうも変な教育を施されたようなので、その仕返しと言ったところだ。

 そして男は素早く出てきたエテボースの首に首輪の様なものをとりつけた。これを装着するとある程度の感情が分かるというものだ。それの子機の表示は(好奇心)(興味)(疑問)・・・そして少しの(警戒)。前回あまいミツを与えたのがよかったらしい。

 次に男は辺りを見回しているミミロップに声をかけた。
「ミミロップ、指示通りやれ」
ミミロップはすぐに動き始めた。静かに、そして力強く耳を振り動かす。同時に軽く、優雅に足を踏む。その洗練された動きは、普段芸術というものに全く関心の無い男ですら簡単の息を漏らすほどの代物だった。男である上に、技の対象となっていない彼ですら思わず魅了されたのだ。メスであり、技の対象となったエテボースはひとたまりも無い。

 エテボースは目を輝かせてミミロップに見入っている。彼の手にした子機が表示を変える。現在エテボースの感情は(好意)(興味)、そしてほんの少しの(愛情)。
ミミロップは最後に強く耳を振り、動きを止めた。これで終わったらしい。その一振りが止めだったようだ。現在エテボースの感情は(愛情)(好意)(喜び)。技の名前通りメロメロである。


エテボースは少しミミロップに近寄り、何度か鳴いた。男には理解できないが、ミミロップには分かったらしい。低い声で一声鳴いた。
―――現在の感情、(愛情)(好意)(喜び)、そして少しの(焦り)。

 エテボースはもう一度ミミロップに鳴きかけるが、ミミロップは無視した。エテボースは尻尾を差し伸べるが、ミミロップはそれを耳で振り払う。手を使えよと男は思うのだが、そんなことはつゆ知らず二匹はしばらく押し問答を続ける。
―――現在の感情、(愛情)(失望)(未練)、そして(悲しみ)。

 それを暫く続けてから、ミミロップは男のほうをちらりと見た。男はかすかに頷く。それをみてミミロップは最後にエテボースを耳で押しのけると、自分の入っていたボールに戻ってしまった。当然後には失恋中のエテボースが残される。
「振られたようだな」男はエテボースのほうを見ずに一言呟く。エテボースはずっとうなだれている。大分がっかりしているようで少し無気力な面もある。うまいこといったなと内心男は思った。男の指示は「エテボースに『メロメロ』をかけ、その後興味がないように振る舞い、しばらくしてからボールに戻れ」。要は最初から仕組まれた失恋だったのだ。

男はまだがっかりしているエテボースを見た。現在の無気力状態なら調教にも抵抗しないかな、と男は考える。

さて、次はどうしよう?

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最終更新:2010年02月27日 11:19