軽い足取りで歩む男とは対照的に、ボーイは気が重かった。またとんでもなく凄惨なこととなっているだろう。ラブホテルの従業員の方が、遥かに気が楽だろうと思う。精液でべちゃべちゃに汚れたシーツを変える仕事を、ふと連想した。……少なくとも、グロテスクではないだろう。
 「こちらがお部屋です。もう説明は要りませんよね?」
 この男と一緒にいるのは、早々に切り上げたかった。再三確認するように言われた事項もすっ飛ばして、足早に立ち去る。男はボーイを細めた目で見つめてから、部屋に入り込んだ。
 見慣れた部屋だ。何せ、全く同じ構造の部屋は今日で四度目になるのだから。ちょっとした高級ビジネスホテルと一緒である。入り口を入ってすぐにある扉は、バスルームとトイレに繋がっている。奥はリビングになっていて、もう一枚、ドアを隔てて寝室だ。そして、獲物は必ず寝室で待っている。
 まっすぐに寝室に向かおうとした男は、自分の凄絶な笑みを姿見で見て、背筋が寒くなった。頬に手をやれば、血糊が飛び散った顔が、限界まで口を歪めている。どうみても殺人鬼だ。もし自分が街中で出会ったら、裸足で逃げ出すことだろう。三日月型の唇に、少々自嘲的な笑みが混ざった。
 寝室には、要望どおりのポケモンが縛り付けられている。何度も抵抗を試みた痕として、全身に傷や痣が残っているのは共通だ。そして、睨みつける眼光も。バクフーンは、首輪の力で、本来の能力を殆ど押さえつけられながらも、いきなり飛び掛らんとしてきた。鎖が引っかかって、無駄な足掻きではあったが。
 「ぐぇ……! くそぉっ! 解けっ! 返してくれよぉっ!」
 じたばたと首輪を引っかき続け、果ては自分の皮膚まで傷つけ、それでもなお脱出せんとする。その目には、今までのポケモン以上に希望と期待が満ちていた。どうしても生き残るという意思が、顕在化していた。
 面白い。その闘志、粉々になるまで打ち砕いてくれよう。男は自分でも悪寒を感じる能面のような笑みで、バクフーンに歩み寄っていった。





 腰のベルトから、モンスターボールを取り出す。そして、バクフーンに向けて放った。唐突な行動に、バクフーンは動揺した様子だったが、それでも冷静に鼻先で弾き返した。とはいえ、目的は捕獲ではない。
 バクフーンに叩き落されたボールからは、光を伴って一匹のモンスターが現れた。それはラフレシアだ。急な展開についていけないバクフーンは、少しでも抗がってみせようと、ラフレシアに襲い掛かった。姿勢を低くし、今まさに飛びかからんとする。だが、それでは男の思う壺だった。
 「ウゥー……う、ぐぁ……?」
 低い唸り声が、変調を来たす。バクフーンは身体の異常に気がついた。足が重くなり、眩暈がし、吐き気もする。
触れられてもいないのに、いつの間に何をされたのか、バクフーンは訳が分からない。重い瞼を辛うじて薄く開けば、そこにはきらきらと輝く粉のようなものが見えた。それが自分の体を蝕んでいるともしらずに、バクフーンは吸い込んでしまったのだ。ぐらりと視界が傾き、ベッドに転がったとき、既に体の自由はきかなかった。
 「ど……なて……?」
 呂律が回らない。男がゆうゆうとラフレシアをボールに戻すのを見届けるしかない。足先は痙攣し、嘔吐感で酸っぱいものが込み上げ、おまけに酷い眠気がする。今ここで力尽きたら、もう二度と目を覚まさないかもしれないという直感が、バクフーンの意識をすんでの所で保たせていた。
 「ラフレシアの痺れ粉、毒の粉、眠り粉を合成したもんだ。ちゃんと育てただけあって、中々の効果だろ?」
 バクフーンは、目前の敵に首の下を撫でられながら、虚ろな頭で聞く。その白い指に思いっきり噛み付いてやりたい衝動に駆られた。だが、そんなことは不可能だ。各種粉の効果は覿面だった。
 「やめ……こ……すぞ……」
 やめろ、[ピーーー]ぞと言いたいのだろうが、言葉になっていない。首を撫でられることで、ぞわぞわとした心地よさを感じた。しかし、男に気を許したら一生後悔するだろうことは分かりきっていた。賢いじゃないか、と男は敬服した。でも、調教の手を休めてやるつもりなど毛頭ない。
 さてと、これで拘束は要らない。次はどうしてやろうかな。
 「モンジャラ、出て来い」
 ラフレシアのボールを腰に。そして、新たにボールを取り出す。バクフーンは、懸命に這いずって無様に逃げ出そうとしているが、暫くは治るまい。バクフーンにとっては無念という他ないが、かつて男の毒牙から逃げ出せた獲物はないのだ。必然的に彼もまた、惨憺たる姿で発見されることだろう。
 男のボールはバクフーンの横で柔らかくバウンドした。中から現れたモンジャラを見て、バクフーンは引きつった。その大きさが、自分の記憶とは大分違う。せいぜい一メートル程度のモンジャラしか見たことはなかったが、
男のモンジャラはゆうに二メートルはあるかと思われた。その蔓がにょきにょきと這いずり、自分に寄ってくる。
 「ひ……!」
 「凄いだろ。自慢の一匹なんだ。ゆっくり楽しんでくれ」
 一体何をされるのか、そんなことはバクフーンには想像もつかない。だが、本能が危機を告げていた。シーツに爪を立ててツタに絡めとられないように踏ん張る。だが、痺れが強すぎていとも簡単に引き剥がされてしまうのだ。
バクフーンは、あっという間にがんじがらめにされ、宙吊りになってしまう。
 「やぁ……助け……!」
 足を振ろうが、噛み付こうが、そんなものモンジャラにはコラッタに噛み付かれた程度の意味もなさない。バクフーンの抵抗など意にも介さず、モンジャラは進んで動いた。手始めに、後ろの口と前の口にぬるぬると滑る比較的細い蔓を押し込む。
 「うぇっ!? いひぁっ……!」
 バクフーンは、ツタで言葉がまともに喋れなくなっている。ただでさえ嘔吐感があるというのに、気持ち悪さが倍増した。苦悶の表情で吊るされる彼を、男は蟲惑的な笑顔で見つめる。冷たい汗がバクフーンの背中を伝った。
 そんなやりとりの間も、モンジャラは休まずに素早く動いた。固く閉ざされた後ろの穴を、ぬるぬるとした分泌液で濡らしながら、無理やり突き進める。バクフーンは溜まらず、痛みで涙を流した。ぐちゅぐちゅと異物がピストンする感覚は、排便にも似て、バクフーンの羞恥心を膨れ上がらせる。
 「ひひゃいっ!? いひゃらぁっ!? うぁあっ!」
 「どうかね。まだまだ序の口なんだが、良い顔と声で鳴くもんだな」
 男がそれを満面の笑みで見つめる。その股間は、本日二度も達したにも関わらず、立派に屹立していた。バクフーンにとって僥倖だったのは、それに気がつく余裕もなかったことか。モンジャラは既に前立腺を何度も抉り、無理やりバクフーンを勃起させていた。 「ひぁ……ひぃ……やらっ! やらぁっ!」
 恥辱と苦痛。叫びは木霊して、男に悦楽のひと時を齎す。男は嬉しげに、モンジャラを見やって一言。
 「もう次にいけ」
 「にゃにす……いっ!?」
 次に狙われたのは、尿道だった。最も細い触手が、ずるずると一物に捻りこまれる。生物の、一番敏感とも言える粘膜を刺激されて、バクフーンは今までになく喚き散らした。
 「ひひゃいぃいいいいいっ! ひゃらぁああああっ! おぇええっ!」
 全力で前足を動かし、何とか自由を取り戻さんともがく。その様は、まるで虚空に逃げてしまった何かを掴むようで……でも、多分二度と掴めないのだ。男は、我ながら素晴らしい発想だと頷いた。悲鳴の最中での、冷酷とも言い得る落ち着いた思考だった。バクフーンはとうとう嘔吐してしまい、涙と鼻水で顔を汚していた。
 やがて、尿道からも前立腺に達する。バクフーンはもがけば痛みが増すことを学習し、既にぐったりと力を抜くことに専念していた。後ろや前の口が乱暴に掻き回されようと、出来るだけ動かぬように、じっと。更なる痛みが、間もなく襲ってくるのも知らずに。
 モンジャラは、尿道の奥まで到達したことを把握すると、ツタを回転させながら抜き出し、また奥まで入れる作業を淡々とこなし始めた。全ての行動を継続しながら。これは溜まったものではない。前後から前立腺を抉られ、しかもなお、ツルで栓がされるために達することは不可能。それによっていかに悶え苦しむか。
 バクフーンはもう、自分が何を言っているのか理解出来ない。
 「ひぎぃいいいいいっ! ひあゃぁああああああああっ!? らしひゃいいいっ! いひゃいいいいっ!」
 「三十分くらい、ゆっくりやってやれ」
 男はソファに腰掛けて、鑑賞の体制に入った。ぼたぼたと垂れる、バクフーンの先走りがシーツを汚した。

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最終更新:2011年06月30日 00:10