今の時代は素晴らしい。人間達は最早全てを支配できるまでに科学を発展させていた。
植物の成長を自由に促進、退化することができ、さらには天候だってボタン一つで晴れからに雨へ変えられた。
人間達はあんなに恐れていた台風やスコールなどの天災に怯える必要はなくなった。
異常なほど発達した科学は異常なほど人間達に全能感を与え、ついに一人の男が、禁断の領域へと足を踏み入れたのだった。


「何をする!」


無機質な白に包まれている部屋に響いているのではなかった。
耳を塞いでも脳内に響くテレパシーに俺をうんざりしていた。
さっきからずっとこの調子で、いい加減頭が痛くなってくる。
俺は自分の頭を保護するためにも、今すぐにコイツを調教することを決めた。

 この日のために10年……そう、10年もかけて今やっとこの時を迎えられたのだ。興奮しないわけがない。
いきり勃つ息子を隠すこともせず、俺は鎖に縛られ宙ぶらりん状態のアルセウスに近付いた。


「お、お前……!来るな!」


まあ、妥当な反応だろう。突然おっ勃っているペニスを見せられては、警戒する。
当たり前だな。俺も突然そんなものを見せられたら、悲鳴の一つはあげるだろう。

アルセウスは鎖をガチャガチャと言わせこの場から逃げようともがくが、鎖はびくともしない。
あのアルセウスの力ですら壊れることのないこの鎖は、人間が発展させた科学の力の結晶だ。
人間はすでに神すら意のままに抑えられるようになっていたのだ。


「今の気分はどうだい?“神様”」


もしこの鎖がアルセウスの力を抑えつけていなければ腰を抜かしてしまうような眼光が俺に向けられた。
しかし恐れる必要はなんてない。今はボタン一つでアルセウスの生死を左右できるのだ。


「まったく自分の立場がわかっていないね」


ま、建前はアルセウスの“研究”だからな。まずは手始めに、薬物投与でもやってみるか。
……ん?ああすまないね。紹介が遅れてしまった。俺は一応ポケモン研究員、てやつで
職業柄色々な道具やら怪しい薬やら何やらが自由に使えるのだ。誠に都合が良い。

だからこうやって過去にも……エフンエフン、どうやら口が過ぎたようだ。



そうこうしている内に、アルセウスは何発が技を撃ったらしい。
しかしこの部屋は特殊加工が施してあるので、何の影響もない。
強いてあると言うのならば、撃った技がこの部屋の壁により跳ね返り、己自身に返ってくるということだけだ。


「ぐあああっ………!」


鎖に拘束された白い身体をしなやかに反らせ、アルセウスは苦しげな声を漏らした。

「おいおい。セルフで調教かよ。俺の出番がないじゃないか」

「ちょ、調教!?」


あちゃー。俺は額に手を当てる。思わず言ってしまった。
調教、という言葉を聞いたアルセウスの顔からは怒りの感情が消え、
そのかわりに怯えた表情が映し出された。


「……この私を調教だと!何故そのようなことをするのだ!」


いい加減うざったらしくなってきた。俺はさっさとコイツを黙らせるため、注射器に容れた薬物を投与することにした。

白い部屋に溶け込むような白い階段を登り、アルセウスの後ろ脚に近付く。
近くによるとアルセウスはやっぱりでかい。3mだっけ?俺の1.5倍以上もある。
少し量が少なかったかも、と思ったが足しにいくのも面倒だから、まずはこの量から始めることにする。
中毒を起こされて死なれるのも困るからな。あ、コイツは不死なんだっけ。

ゆっくりとピストンを押して中の液体を注入していく。アルセウスがうめき声をあげ、
ブルルと身体を震わしたが俺はお構いなしにあるだけの量を注入した。

 すぐに変化が現れるはずだ。この前、これをコラッタに実験として与えたところ
ほんの数秒で涎を垂らしながらラリった。こいつをアルセウスで見られるだなんて、想像しただけでイきそうになった。


「お前……、私に何をしたのだ!」


あれ?おかしいな。意外と平気そうだ。やっぱり量が足りなかっのだろうか。
もう一度階段を登り、ありったけの量を注射する。

しかしアルセウスは依然として平気な顔をしている。むしろアルセウスは怒り、
高いエネルギーがアルセウスの額の前に集まっていく。

 これはやばい。ピンポイントに狙われては俺の身が………と思った瞬間、激しい光を伴った光線が迫ってきた。
とっさにモンスターボールからポケモンを出し、盾にした。



バーンという爆音と共に俺が盾にしたバンギラスの上半身が吹き飛び、
俺の顔にそいつの脳髄がべちゃりとぶつかった。

前が見えない……。俺の身体は無事だったが、バンギラスが死んでしまった。
別に未練はないんだけどね。アルセウス調教のためならバンギラス100匹はくれてやる。
問題は俺の顔に張り付いているバンギラスの脳髄だ。


「おい。どうしてくれるんだ」


口をあけると、変な味の脳髄が入ってくる。おぇっ。


「ぁ…ぁ……私はあのポケモンをころし……て」


アルセウスはバンギラスを殺してしまったことに
ショックを受けているようだ。これは丁度いい。調教に使えるのでは。


「舐めてきれいにしろ」


よく安っぽい男優が安っぽい女優にちんこを差し出して言う安っぽい言葉だが
これは違う。脳みそをアルセウス様に舐めていただくための言葉だ。

当然、アルセウスは嫌がった。
俺はこっそりと違う注射器を後ろ手に隠し、反対側の階段をふらふらと昇った。


「お前が殺したバンギラスの脳みそだ。お前が責任を持ってきれいにしろ」


俺はアルセウスの目の前に立ちはだかった。


「無理だ!そんなこと、私にはできない!」

「強情なやつだな。そうか。お前はこっちの方がいいと」


目の前にあるのは、脳みそにまみれた人間の顔とよくわからない液体の入った注射器。
なかなか究極な二択だ。さて、神はどちらを選ぶのだろうか。
万が一アルセウスが俺を撃ち殺そうとした時のために、ハピナスの入ったモンスターボールが白衣のポケットに忍ばせてある。

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最終更新:2010年09月07日 19:57