レニア「さて…」
雨はもう止んでいる。
俺はフィーと別れた後、半壊した建物の影に隠れつつジャバウォックを探すことにした。
見つけたらおびき寄せる為に。
ちなみに今頃フィーは武器庫で準備をしている。仕留めるのはアイツの役目だ。
しかし、あちこちから悲鳴が上がっているのは聞こえるものの、ジャバウォックはなかなか見つからない。
もしかしたら、武器庫に向かっているのかも…
俺は少し焦りつつ、道具屋の角を曲がろうとする…が。
俺が曲がろうとした角からぬうっと藍色のトカゲのような頭が出てくる。
見つかった…!
その目が俺をしっかりと捉えているのに気付くと、俺は一目散に引き返した。
多少計算違いだが、もうフィーも準備が済んでる筈だ。
俺が走り出すと、ヤツもズシン、ズシンと俺を追いかける。
その途中で、ヤツの巨大な尻尾が道具屋をなぎ倒す。
俺とジャバウォックの追いかけっこが始まった。
ジャバウォックは巨体に合わない速さで俺に詰め寄る。
が、体のデカさ、歩幅では勝てても、人間には小回りでは負ける。
俺は建物の影や曲がり角を利用したり、ヤツの足を掻い潜ったりと、どうにか攻撃をかわしていく。
そうして俺は少し危なかったが、待ち合わせ場所の時計台にたどり着いた。
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
時計塔広場までたどり着くと、真ん中に移動式の大砲が3つ並んでいるのが見えた。
そしてその後ろには、フィーが。
どうやら準備が間に合ったようだ。
俺はフィーに向け、手を振って合図を送る。
フィーも手を振り返す。
だがそうしている間にも、ある程度距離は離せたとは言え、ジャバウォックが追いかけてきている。
俺は走って大砲の射線に入り、振り返ってヤツと対峙した。
ジャバウォックは構わず突っ込んできて…口を広げ、俺を丸呑みにしようとする!
そして…!
レニア「…撃てぇーーー!」
俺は叫び、横っ飛びにヤツの口…いや、大砲の射線から逃れる。
そして、フィーは縄を引き、ジャバウォックの口腔に三台同時に大砲を放つ!!
どおぉォォォォん
爆発。俺は直前にギリギリ着地、伏せる形で何とか巻き込まれずに済んだ。
煙があたりを包み、よく見えない。
フィー「---あ…レニア君…!」
フィーの声が頭に響く。爆音で耳がよく聞こえないが…
声のする方へ俺はよろよろと歩いた。
そして、金属の腕に抱き抱えられる。冷たいが、少し快い。
レニア「へ、へへ…やったな、フィー…」
だんだん煙が晴れていく。
----------------------------------------------------------------------------------------
ジャバウォックはもう動かない。耐熱性の高いハズの表皮も、至近距離からの大砲の集中砲火は耐え切れなかったようだ。
頭から前脚あたりにかけて爆熱で焼けただれている。
俺はフィーの腕から離れ、地面に膝を付けた。
フィーは一息吐くと、空を見上げた。
フィー「……」
…虚ろな感じだ。無理もない。辺りを見れば大損害、廃墟同然だ。
俺はそんなフィーを見てると、その奥で…死んだハズのジャバウォックが起き上がり、一矢報いろうとフィーにのしかかった!
レニア「……!!!」 フィー「……!?」
俺はジャバウォックが立ち上がろうとするのを見ると、地面に転がった予備の砲弾を抱え---
フィーを突き飛ばし、同時に再びジャバウォックの口内に砲弾を突っ込み---
フィーと反対の方向に飛んで突進を回避---
この間、俺は何十秒もあったように感じたが、後でフィーに聞いてみるとほんの3,4秒だったらしい。
砲弾を加えたジャバウォックはそのままズルズルと地面を滑り、壁に激突…砲弾が爆発し、今度こそ息の根が止まった。
------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
レニア「はぁっ、はぁっ…」
フィー「す、すみません…」
終わった。今度こそ。
俺とフィーは二人共湿った地面に大の字になって倒れていた。
…すると、足音が地面を伝って聞こえてくる。こちらに向かってくる。
レニア「な、なんだ!?」
俺とフィーは上半身だけを起こし、足音がどこから来るのか、辺りを見回した。
足音の主はすぐにわかった。馬に乗った青い鎧と白いマントの騎士が二人。マントの裏には、青い翼と盾、椿が描かれている。
二人の騎士は、俺とフィーの近くまで来て、馬を止めた。
騎士の片方…女の方が馬から降り、口を開く。
騎士A「フィー様!ああ、ご無事で…!!」
フィー「…ケセラさん!来てくれたんですね…!」
…フィー、様?
ケセラと呼ばれた騎士は俺に気付いたようで、
ケセラ「…フィー様、そこの男は…?」
フィー「ええ、あそこの魔物を討伐するのを手伝って頂いて…」
騎士B「魔物…?うわぁっ!」
もう一人の騎士が驚く。 …?
レニア「…あんた達は、あれの討伐に派遣されたんじゃないのか?」
ケセラ「いえ…我々は、フィー様を連れ帰るために…」
フィー「…何か、あったんですか?」
フィーが女騎士に尋ねる。
ケセラ「はっ、ヴァンツ国、エルド国が交戦を開始、戦火が我が国にも…!」
フィー「そ、そんな…兄上は!?」
ケセラ「それが…交戦が始まる前日に皇帝陛下に召還されて…」
フィー「じゃあ今は誰が指揮を?」
ケセラ「アス…サダルスウド副騎士団長が!」
俺をよそに、何やら深刻な会話が続く。
レニア「あ、あのさ…ちょっといいか?」
フィー「…何ですか?」
レニア「お前…一体何者?」
その質問には、ケセラが答えた。
ケセラ「この方は、ファーランド領国公子、ファーランド騎士団長でもあらせらるフィー・F・ファーランド様だ!」
レニア「なっ…!」
ファーランド。北方に館を構える領国だ。
大陸1、2を争う強さの騎士団、魔術師団を擁し、領主フォガー・F・ファーランドは属性魔法の分野で世界的な発見をしている。
国力、国土面積はそれほどではないものの、軍事力と領主フォガーを恐れ、40年間中立を保っている。
フィー「…このミュヴェールが王都に隣接しているので、私は一時的に警備をしているのです。」
レニア「そう、だったのか…」
ケセラ「フィー様、そろそろ参りましょう。」
ケセラはそう言うと、自分は馬を降りもう一人の騎士の馬に乗る。
そしてフィーは空いた馬に跨った。
立ち去ろうとするフィーに、俺は…
レニア「フィー!また会おうぜ!!」
フィー「…ええ!また!」
そうしてフィーと二人の騎士はファーランドへ向かった。
2年後、俺とフィーは再開し、交流所を訪れ、多くの仲間と出会うのは、また別の話。
翌日から、街の復興を手伝わされたのも、別の話。