女児ズ短編小説・群鮫編
『M&U -群鮫と初- 』
「何で久乱にあんな真似しやがった!?」
青空小に来て、まだ数週間しか経っていない頃。私がクラスメイトの一人、久乱さんを襲ったという疑いをかけられたあの日。
「酷いよ初ちゃん!久乱ちゃんが何したっていうの!?」
「お前最低だな!」
みっちゃんを始め、クラス内の何人かからはそんな言葉をぶつけられた。私には何のことだかさっぱり分からなかったし、結局犯人は私ではなかったんだけど、あの場で弁解の言葉が見つからなかった私はただただ圧倒されてばかりだった。
そんな時。
「自分らええ加減にせえや!!!初ちゃんがやったっていう証拠でもあるんか!?」
銀色の髪をポニーテールにした、私より少し背の高い女の子が他の子と一緒に庇ってくれたのを覚えている。
「黙って聞いてたら好き放題言いよって!!初ちゃんの気持ちも考えたれや!!!」
唇や拳を震わせ、誰にも負けないくらい大きな声で怒鳴り散らすその姿は、今になって思えば本当に救いだった。あの時は色々混乱していて、しっかりお礼は言えなかったけれど。
私を必死で庇ってくれた、あの銀髪の女の子。
名前は.................
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「群鮫さん。」
朝。教室の一角、メダカを飼っている水槽の前で、私の友達.....蟹乃 群鮫さんはメダカに餌をあげていた。
「あれ、初ちゃんやん!おはようさん♪」
「うん、おはよう。今日は群鮫さんが餌やり当番?」
「そうそう!まぁ誰かが忘れた時とかもやったげてるさかい、ほとんどウチが餌やり担当みたいな感じやけどな!」
そう言いながら、群鮫さんはニカッと明るい笑顔を浮かべた。前髪に着けた蟹のヘアピンが、窓から差し込む太陽光を反射してキラキラと光っている。
「ウチ、水の生き物が好きでな。こういう魚の世話とかも進んでやりたくなるねん。」
「そっか。これだけお世話して貰えたら、きっとメダカ達も群鮫さんの顔覚えてくれてるんじゃないかな?」
「あっははは、そりゃあ嬉しいなぁ!もういっそ毎日ウチが餌やりしよっかな?」
メダカの世話が終わると、まだホームルームまで時間もあるからという訳で私と群鮫さんは二人で少しお話することになった。
「にしても、初ちゃんって最近明るくなったよなぁ?」
「え?そう....かな?」
「うんうん、転校してきた時とはえらい違いやで!だいぶガチガチに緊張しとったし。」
「あはは、言われてみればそうかも.....でも、今みたいに話せるようになったのはクラスの皆のお陰でもあるんだよ。」
「せやなぁ、色々あったもんな。....あ、初ちゃんにとってはちょっち嫌な思い出もあるかもしれんけど......」
「ううん、今思い返せば、あの経験がなかったら今の私は居なかっただろうなって思ってるから....結果的にはプラスだったよ。」
「そうか?ならええんやけど........」
群鮫さんは、どこか不安げな表情を浮かべていた。
「.....どうかした?」
「あー、いや....ウチさ、一回初ちゃんの目の前でブチギレたことあったやろ?」
「あぁ.....そんな事もあったね。」
「うん、あの時さ、もしかしたら初ちゃんのこと怖がらせたかなぁってずっと不安やってん。」
「えっ?全然そんなことないよ、確かに勢いは凄かったけど....でも、あの時は私を庇ってくれたんでしょ?」
「まぁな、初ちゃんが好き放題言われてるの見てちょーっと堪忍袋の緒っぽが切れてもうて.....」
申し訳なさそうに眉を下げる群鮫さん。私はその顔をまっすぐに見つめ、今までずっと言えなかったことを伝える決心をした。
「....あの時は言えなかったけど、私凄く嬉しかったんだ。まだ知り合ったばかりで、お互いのこともあんまり分からないのに、それでも群鮫さんは一生懸命私を庇ってくれて.....」
「初ちゃん...........」
「ほんとはもっと早く言うべきだったんだけど、色々あってまだ言えてなかったから....今、言わせて貰うね。」
私は群鮫さんの顔を見つめたまま、柔らかく微笑みを浮かべてみせた。
「ありがとう、群鮫さん。凄くかっこ良かったよ。」
「.......!」
すると、群鮫さんは一気に耳まで赤くなりながら勢いよくそっぽを向いた。
「あ、あれ?群鮫さん?」
「あ、あああアホか自分は!面と向かってそんなん言われたら....ど、どうなるかくらい想像つくやろ!?」
「えっ、えーと.....どうなるのかな......?」
「〜〜〜っ!さては....自分タラシやろ!天然タラシやな!?」
「ええっ!?べ、別にそんなつもりじゃないよ!」
「せやったらどっからあんな台詞出てくんねん!?あーもうあっついわ、顔あっついわもう!」
「ご、ごめん!ちょっと外の風浴びよっか!」
群鮫さんがここまで照れるとは思っていなかった....というか、照れさせるつもりもなかった私は、慌てて謝ってしまった。
「うう......でも、初ちゃんがそう言ってくれるならウチも少しは救われたわ.......」
「そ、そう?それなら良かった.......」
「でも!あんな台詞は今後一切禁止!誰彼構わずあんなん言うて回ったらタラシや思われるさかいな!」
「う、うん.....気をつけます.......?」
何だかよく分からないまま、私は頷いた。
「はぁ....だいぶ落ち着いたわ。初ちゃんの意外な一面目撃してもうた......」
「な、何かごめんね....?」
「ええよええよ、ウチもウチやし.....まあそれよりも、初ちゃんがこのクラスに馴染んでくれてるみたいで良かったわ!こんなウチやけど、これからもよろしく頼むで♪」
「うん!こちらこそよろしくね、群鮫さん!」
お互い何となくはにかみながらも、私は群鮫さんとしばらく笑い合っていた。
「なぁ久乱、タラシって何だ?」
「貴方にはまだ早いと思います。」
「何が!?」
FIN.