『顔』
更新日:2020/07/06 Mon 22:14:53
ベーコンの焼けるいい香りが鼻を刺激する。
「……ん」
愛歩は目をあけた。
視界がまず写したのはピンク色の天井と見慣れてきたランプ。
「あれ、私……」
首を降りながら起き上がると、見慣れない黒い物体がベッドの隅にいた。
「にゃぁぁ」
「ふぁ?!」
身体が固まる。黒い物体は毎朝見慣れた物だった。
「え?え?」
急いで窓を確認すると、ベランダに繋がる金網が開いている。
「うそ、入ってきちゃったの?」
愛歩は恐る恐ると言った様子で手を差しのべる。
「ふにゃ」
「ヴェ!」
黒猫は自分から手にすり寄ってきた。
愛歩の口から思わず変な声が出る。可愛すぎて~と言うやつだ。
黒いモフモフが愛歩の手の中で踊る。愛歩はとても感動した。
「モフモフ……」
孤児院では動物と触れあう機会など全く無かったのだ。
『リンゴーン』
ぐるぐるぐる
家のチャイムが鳴ると同時に、愛歩のお腹も鳴る。
「あ~」
愛歩は残念に思いながら、黒猫から手を離したのだった。
「黒猫さん、窓閉めたいんだけど」
流石に伝わらないか……黒猫はベットから降りようとしない。
「よっこいしょ」
ひっかかれるかな?と思いながらも愛歩は黒猫に手を伸ばす。
「ふにゃ?!」
「ご、ごめんよー」
黒猫のモフモフに心動かされながらも、抱き上げて外に出してやった。
「にゃふ……」
「じゃあね黒猫さん」
残念そうに窓からこちらを見ている黒猫にさよならを言いつつ着替え始めた。
「あれ?」
パジャマを脱ぎ、肌着を脱いだとき、左腕の肘辺りに赤い傷が出来ている事に気づいた。
「うわ、なんだこれ気持ち悪い」
赤い傷が連なって、明確に言葉を表しているのだ。
『昇抜天閲感狐視雲来再憎』
愛歩はそれまで着ようと思っていたノースリーブをやめ、薄水色の長袖を着ることにした。
「ふしゃ~!」
窓の外の黒猫が明確な怒りを表していたのだが、窓を閉めきっていた為愛歩には届かなかった。
「あれ、私って確か教室にいたんじゃ……」
愛歩がようやくそこに違和感を持ったのは、着替え終わってリビングに行く時の事だった。
「……ん」
愛歩は目をあけた。
視界がまず写したのはピンク色の天井と見慣れてきたランプ。
「あれ、私……」
首を降りながら起き上がると、見慣れない黒い物体がベッドの隅にいた。
「にゃぁぁ」
「ふぁ?!」
身体が固まる。黒い物体は毎朝見慣れた物だった。
「え?え?」
急いで窓を確認すると、ベランダに繋がる金網が開いている。
「うそ、入ってきちゃったの?」
愛歩は恐る恐ると言った様子で手を差しのべる。
「ふにゃ」
「ヴェ!」
黒猫は自分から手にすり寄ってきた。
愛歩の口から思わず変な声が出る。可愛すぎて~と言うやつだ。
黒いモフモフが愛歩の手の中で踊る。愛歩はとても感動した。
「モフモフ……」
孤児院では動物と触れあう機会など全く無かったのだ。
『リンゴーン』
ぐるぐるぐる
家のチャイムが鳴ると同時に、愛歩のお腹も鳴る。
「あ~」
愛歩は残念に思いながら、黒猫から手を離したのだった。
「黒猫さん、窓閉めたいんだけど」
流石に伝わらないか……黒猫はベットから降りようとしない。
「よっこいしょ」
ひっかかれるかな?と思いながらも愛歩は黒猫に手を伸ばす。
「ふにゃ?!」
「ご、ごめんよー」
黒猫のモフモフに心動かされながらも、抱き上げて外に出してやった。
「にゃふ……」
「じゃあね黒猫さん」
残念そうに窓からこちらを見ている黒猫にさよならを言いつつ着替え始めた。
「あれ?」
パジャマを脱ぎ、肌着を脱いだとき、左腕の肘辺りに赤い傷が出来ている事に気づいた。
「うわ、なんだこれ気持ち悪い」
赤い傷が連なって、明確に言葉を表しているのだ。
『昇抜天閲感狐視雲来再憎』
愛歩はそれまで着ようと思っていたノースリーブをやめ、薄水色の長袖を着ることにした。
「ふしゃ~!」
窓の外の黒猫が明確な怒りを表していたのだが、窓を閉めきっていた為愛歩には届かなかった。
「あれ、私って確か教室にいたんじゃ……」
愛歩がようやくそこに違和感を持ったのは、着替え終わってリビングに行く時の事だった。
愛歩は呆気にとられた。料理をしていたその人が、愛歩を見た途端顔色を変えて近寄ってきたのだ。
「ああ、よかった。今様子を見に行こうと思っていたの」
大石夫人……お母さんが酷く安心した様子で愛歩を抱き締める。
「えっと、お母さん?」
状況が分からない愛歩はただただ戸惑った。
「昨日の事、覚えてないの?」
お母さんは手を娘の額に当てて熱を測りながら言う。
「ええっと、うん」
愛歩の曖昧な返事に、お母さんは心配そうな顔をした。
「あなた、学校で倒れたの」
「え?私が?」
愛歩は思い出そうと頑張ってみたが、どうしても思い出せない。
「迎えに行ったときも夜も目を覚まさなかったから、とても心配だったのよ」
「え、えっとごめんなさい……」
愛歩自身には倒れた理由も思い出せなかったが、謝っておくことにした。心配されて悪い気はしない。
「大丈夫かしら?病院とか…」
「大丈夫だよ、自分で着替えられたし…食欲もあるよ」
愛歩はキッチンの方を見て鼻を動かした。
「ベーコンエッグ?美味しそうだね」
「良かった。食欲もあるのね、パンも直ぐ焼くから…あ、そうだ。玲亜って子と龍香って子がさっき来てたの」
「あ…」
自室にいるときに家のチャイムが鳴っていたことを、愛歩は今思い出した。
「ど、どうしよう。二人はどこに…」
「近くの公園でちょっと待ってみますって。まだ公園にいるんじゃないかしら」
その言葉を聞いて、愛歩は朝御飯をマッハで平らげたのだった。
心配するお母さんを宥めながら靴を履き、玄関を飛び出す頃には、肘にある傷や昨日学校であった事など忘れていた。ただただ、スマホがあれば便利なのにと思うだけであった。
「ああ、よかった。今様子を見に行こうと思っていたの」
大石夫人……お母さんが酷く安心した様子で愛歩を抱き締める。
「えっと、お母さん?」
状況が分からない愛歩はただただ戸惑った。
「昨日の事、覚えてないの?」
お母さんは手を娘の額に当てて熱を測りながら言う。
「ええっと、うん」
愛歩の曖昧な返事に、お母さんは心配そうな顔をした。
「あなた、学校で倒れたの」
「え?私が?」
愛歩は思い出そうと頑張ってみたが、どうしても思い出せない。
「迎えに行ったときも夜も目を覚まさなかったから、とても心配だったのよ」
「え、えっとごめんなさい……」
愛歩自身には倒れた理由も思い出せなかったが、謝っておくことにした。心配されて悪い気はしない。
「大丈夫かしら?病院とか…」
「大丈夫だよ、自分で着替えられたし…食欲もあるよ」
愛歩はキッチンの方を見て鼻を動かした。
「ベーコンエッグ?美味しそうだね」
「良かった。食欲もあるのね、パンも直ぐ焼くから…あ、そうだ。玲亜って子と龍香って子がさっき来てたの」
「あ…」
自室にいるときに家のチャイムが鳴っていたことを、愛歩は今思い出した。
「ど、どうしよう。二人はどこに…」
「近くの公園でちょっと待ってみますって。まだ公園にいるんじゃないかしら」
その言葉を聞いて、愛歩は朝御飯をマッハで平らげたのだった。
心配するお母さんを宥めながら靴を履き、玄関を飛び出す頃には、肘にある傷や昨日学校であった事など忘れていた。ただただ、スマホがあれば便利なのにと思うだけであった。
息を切らせて公園まで駆ける愛歩の姿を、一匹の黒猫が見つめていた。
ーーー彼女は自分から厄介ごとに飛び込んでいく……母親と同じじゃのーーー
黒猫は苛立たしげに溜め息を吐き出した。
ーーーそれにしても、どうもあいつらの動きが活発化しとるの。特に狐のヤツーーー
黒猫が舌打ちしたかと思うと、その周りを黒い靄が包む。その中から猫が出てくる事は無かった。……代わりに巻き毛の少女が姿を表す。
「親子共々面倒を見させよって」
ーーー彼女は自分から厄介ごとに飛び込んでいく……母親と同じじゃのーーー
黒猫は苛立たしげに溜め息を吐き出した。
ーーーそれにしても、どうもあいつらの動きが活発化しとるの。特に狐のヤツーーー
黒猫が舌打ちしたかと思うと、その周りを黒い靄が包む。その中から猫が出てくる事は無かった。……代わりに巻き毛の少女が姿を表す。
「親子共々面倒を見させよって」
玲亜と龍香と合流した愛歩は、昨日の経緯を説明しながら図書館へと向かっていた。
「ところでさ、図書館って、図書室とどう違うの?」
「愛歩ちゃん、図書館に行ったこと無いの?」
玲亜の疑問に愛歩は頷く。
「うん、孤児院だとさ、家事とか手伝わなくちゃいけなくて、他の子と遊んだり色んな所行ったり出来なかったからさ」
「少しでも見つけられるといいね、事件の話」
真面目な顔で呟く龍香に、愛歩も同じような顔で頷くのだった。
「ところでさ、図書館って、図書室とどう違うの?」
「愛歩ちゃん、図書館に行ったこと無いの?」
玲亜の疑問に愛歩は頷く。
「うん、孤児院だとさ、家事とか手伝わなくちゃいけなくて、他の子と遊んだり色んな所行ったり出来なかったからさ」
「少しでも見つけられるといいね、事件の話」
真面目な顔で呟く龍香に、愛歩も同じような顔で頷くのだった。
予想の十倍大きい建物に、愛歩は目を見開いた。
「こ、これが図書館……」
見渡す限り本、本、本、本棚の山。
「先ず図書カードを作った方がいいよ」
「カード作らなきゃ本を借りれないものね。私、ちょっと本見てくる」
「分かった。じゃあ検索機の所で待ち合わせね」
興味深げに周りを見渡す愛歩を、玲亜はカウンターまで引き摺っていった。
「こ、これが図書館……」
見渡す限り本、本、本、本棚の山。
「先ず図書カードを作った方がいいよ」
「カード作らなきゃ本を借りれないものね。私、ちょっと本見てくる」
「分かった。じゃあ検索機の所で待ち合わせね」
興味深げに周りを見渡す愛歩を、玲亜はカウンターまで引き摺っていった。
「ここに生年月日と名前を書いてくださいね」
「えっと…」
愛歩は受付のお姉さんに教えてもらったとおり、書類に『5/13 大石 愛歩』と書き込んだ。
「えっと、ごめんね。お嬢ちゃん名前何て言うの?」
「あゆみです。愛に歩むって書いて」
「変わった名前ね。親御さんの素敵な想いがこもってるわ」
(そうなのかなぁ)
愛歩は首をかしげた。親といっても、してくれた事と言えば名前をくれたくらいだ。(昔、職員の前園が話してくれた)自分のルーツとして気になる事はあれど、何と言うか実感がわかない。
孤児院暮らしと言ってもそこまで不幸と言うような人生では無かったので、産んでくれた事にだけは感謝する事はできたが。
受付のお姉さんが教えてくれたので、愛歩はすぐにカードを作る事が出来た。
受付の近くで待っていた玲亜に駆け寄っていく。
「ちゃんと登録できた?」
「うんばっちり!」
愛歩は誇らしげにカードを見せると、玲亜は嬉しそうに笑った。
「えっと…」
愛歩は受付のお姉さんに教えてもらったとおり、書類に『5/13 大石 愛歩』と書き込んだ。
「えっと、ごめんね。お嬢ちゃん名前何て言うの?」
「あゆみです。愛に歩むって書いて」
「変わった名前ね。親御さんの素敵な想いがこもってるわ」
(そうなのかなぁ)
愛歩は首をかしげた。親といっても、してくれた事と言えば名前をくれたくらいだ。(昔、職員の前園が話してくれた)自分のルーツとして気になる事はあれど、何と言うか実感がわかない。
孤児院暮らしと言ってもそこまで不幸と言うような人生では無かったので、産んでくれた事にだけは感謝する事はできたが。
受付のお姉さんが教えてくれたので、愛歩はすぐにカードを作る事が出来た。
受付の近くで待っていた玲亜に駆け寄っていく。
「ちゃんと登録できた?」
「うんばっちり!」
愛歩は誇らしげにカードを見せると、玲亜は嬉しそうに笑った。
「ええっと、青空町の事件っと」
玲亜が検索機と呼ばれるパソコンで調べている。
「これで分かるの?」
「うん、この図書館以外の本も調べることが出きるよ」
愛歩の不思議そうな顔に、玲亜はにこりとした。
「ねえ、愛歩さん。これ……」
「ん、どうしたの龍香さん」
「手がかりがあったの?」
本棚の山から戻ってきた龍香は、三冊の本を抱えていた。
『怪猫誘拐譚』『奇怪喫茶逢魔時』そして『鐘明家・その血の呪い』と言う本だった。
「この二冊、事件に関係があると思うの」
龍香は前の二冊を差して言い、最後の本を恐る恐る開いて二人に見せた。写真が載ったページだ。白と黒しか色がない、モノクロ写真と言う物だろう。
随分と偉そうな格好の侍の横に写る女性。
長い髪を垂らして虚ろな眼で写真に写っている女。愛歩にはこの顔に嫌でも見覚えがある。
「これ、愛歩さんにそっくりじゃない…?」
そう、その女性は愛歩と全く同じ顔だったのだ。
玲亜が検索機と呼ばれるパソコンで調べている。
「これで分かるの?」
「うん、この図書館以外の本も調べることが出きるよ」
愛歩の不思議そうな顔に、玲亜はにこりとした。
「ねえ、愛歩さん。これ……」
「ん、どうしたの龍香さん」
「手がかりがあったの?」
本棚の山から戻ってきた龍香は、三冊の本を抱えていた。
『怪猫誘拐譚』『奇怪喫茶逢魔時』そして『鐘明家・その血の呪い』と言う本だった。
「この二冊、事件に関係があると思うの」
龍香は前の二冊を差して言い、最後の本を恐る恐る開いて二人に見せた。写真が載ったページだ。白と黒しか色がない、モノクロ写真と言う物だろう。
随分と偉そうな格好の侍の横に写る女性。
長い髪を垂らして虚ろな眼で写真に写っている女。愛歩にはこの顔に嫌でも見覚えがある。
「これ、愛歩さんにそっくりじゃない…?」
そう、その女性は愛歩と全く同じ顔だったのだ。