『力の意味は』
更新日:2020/07/15 Wed 22:21:43
目次
裸マフラーになったアルロリパンダは、顔面についた泥を乱暴に拭い、唾を吐いた。
「人間に恋した妖怪がいた。妖怪に愛された人間がいた」
「え?」
襲いかかってくるものだと思っていたが、アルロリパンダは何かを語り始めた。
「妖怪の名を孫悟空と言った。人間の名を三蔵法師と言った。」
愛歩とむらサメはその名前に聞き覚えがあった。
西遊記というお話だ。
「食えば時を操れると言われていた。アタシは強さを求めて三蔵法師を襲い、孫悟空に負けた。妖と人の絆の強さに負けたのだ」
アルロリパンダははあとため息をついた。
「今のその光景、あの時とそっくりある」
「勝負は…?」
背を向けたアルロリパンダに、のじゃロリ猫は問いかけた。
「不意打ちをされて萎えたからいい。だが愛歩。アタシは諦めた分けじゃ無いから!必ずお前の肝を食べて見せるからな!」
そう捨てゼリフを吐くと、アルロリパンダの全身が白い霧に包まれ、まるで雨の日のガラスのように滲んでいく。愛歩とのじゃロリ猫を睨み付けながら、それはゆっくりと姿を消していったのだだた。
「人間に恋した妖怪がいた。妖怪に愛された人間がいた」
「え?」
襲いかかってくるものだと思っていたが、アルロリパンダは何かを語り始めた。
「妖怪の名を孫悟空と言った。人間の名を三蔵法師と言った。」
愛歩とむらサメはその名前に聞き覚えがあった。
西遊記というお話だ。
「食えば時を操れると言われていた。アタシは強さを求めて三蔵法師を襲い、孫悟空に負けた。妖と人の絆の強さに負けたのだ」
アルロリパンダははあとため息をついた。
「今のその光景、あの時とそっくりある」
「勝負は…?」
背を向けたアルロリパンダに、のじゃロリ猫は問いかけた。
「不意打ちをされて萎えたからいい。だが愛歩。アタシは諦めた分けじゃ無いから!必ずお前の肝を食べて見せるからな!」
そう捨てゼリフを吐くと、アルロリパンダの全身が白い霧に包まれ、まるで雨の日のガラスのように滲んでいく。愛歩とのじゃロリ猫を睨み付けながら、それはゆっくりと姿を消していったのだだた。
「はぁ、疲れた…」
むらサメが地面にペタリと座り込む。
「私もだよ…」
愛歩は微笑んだ。
「すまんのぉ、あいつ、まあまあ厄介な相手での。様子を伺っておったんじゃ……決して寝取った訳じゃ無いぞ」
疑わしげな二人の目線に、のじゃロリ猫はぐぬぬと唸った。
「日頃の行いか…」
「よう分かっとるやん」
「あはは、でも最期にはちゃんと助けにきてくれて嬉しかったよ」
「だから寝取らんかったって!」
三人の談笑は、人混みの山を掻き分けてやってきたきゅーばんと天号の出現により終わりを迎えた。
「大変なの!古代ちゃんがいないの!」
「探したんだけどね……どうすればいいのか…」
愛歩達は他の人の事を見た。
「おい!どうなってんだ!パンダはどこだ!」
「こっちには来てないんでしょうね!」
「さっき、女の子がパンダに服を破られて逃げていったって聞いたよ」
「なにそれ怖…!でもその光景ちょっと見たかったな」
等と、まだまだパニックが続いていた。
「探しに行けるかな?この人の数」
「しかもここ、えらい大きさやで、迷子センターとかもやっとらんだろうし…」
その時、天号ちゃんのスマホが鳴った。
「あ、リックン放送局が緊急生放送してる」
「リックン放送局~?」
耳なれない言葉に、のじゃロリ猫が聞き返す。
「うん、毎週水曜日の夜からやってるんだけど……」
スマホの再生ボタンをタップすると、Vtuberらしき明るい声の女の子が喋っていた。
『きょうのリックン放送局は今起きてるパンダ騒動について!ネットでトレンドになってるから知らない人は見てみて!それでね、私思ったんだ。皆大丈夫かなって、パニックになって、大事な事を忘れてないかなって』
「これって……」
のじゃロリ猫が何かに気付いたように口を開くが、直ぐに閉じた。
『大事な事って言うのはね、他人を労る事。自分だけ助かればいいなんて考えてない?思わず他の人を押し退けてない?まずお年寄りや子供連れの人を優先してみない?大丈夫。パンダはお腹一杯で人間が騒がなければ、人間を襲ったりしないんだ。あ、時間!こんな事でごめんね!皆、飼育員さんの言うことを聞いて!落ち着いて行動してね!』
愛歩は急に静かになった辺りを見渡す。
「この人凄い……」
混乱していた人達が、この配信を見て落ち着いてきていたのだ。
「ほんとやなぁ流石人気配信者やで」
「格好いいよね~リックン放送局。私も毎週水曜日見てるよ」
皆が謎の人気配信者に注意を引き付けられている中、のじゃロリ猫が誰にも気付かれないように呟いていた。
「フフ…古代……こんな事しとったんじゃの。どれ、わしも今度参加してみるか」
むらサメが地面にペタリと座り込む。
「私もだよ…」
愛歩は微笑んだ。
「すまんのぉ、あいつ、まあまあ厄介な相手での。様子を伺っておったんじゃ……決して寝取った訳じゃ無いぞ」
疑わしげな二人の目線に、のじゃロリ猫はぐぬぬと唸った。
「日頃の行いか…」
「よう分かっとるやん」
「あはは、でも最期にはちゃんと助けにきてくれて嬉しかったよ」
「だから寝取らんかったって!」
三人の談笑は、人混みの山を掻き分けてやってきたきゅーばんと天号の出現により終わりを迎えた。
「大変なの!古代ちゃんがいないの!」
「探したんだけどね……どうすればいいのか…」
愛歩達は他の人の事を見た。
「おい!どうなってんだ!パンダはどこだ!」
「こっちには来てないんでしょうね!」
「さっき、女の子がパンダに服を破られて逃げていったって聞いたよ」
「なにそれ怖…!でもその光景ちょっと見たかったな」
等と、まだまだパニックが続いていた。
「探しに行けるかな?この人の数」
「しかもここ、えらい大きさやで、迷子センターとかもやっとらんだろうし…」
その時、天号ちゃんのスマホが鳴った。
「あ、リックン放送局が緊急生放送してる」
「リックン放送局~?」
耳なれない言葉に、のじゃロリ猫が聞き返す。
「うん、毎週水曜日の夜からやってるんだけど……」
スマホの再生ボタンをタップすると、Vtuberらしき明るい声の女の子が喋っていた。
『きょうのリックン放送局は今起きてるパンダ騒動について!ネットでトレンドになってるから知らない人は見てみて!それでね、私思ったんだ。皆大丈夫かなって、パニックになって、大事な事を忘れてないかなって』
「これって……」
のじゃロリ猫が何かに気付いたように口を開くが、直ぐに閉じた。
『大事な事って言うのはね、他人を労る事。自分だけ助かればいいなんて考えてない?思わず他の人を押し退けてない?まずお年寄りや子供連れの人を優先してみない?大丈夫。パンダはお腹一杯で人間が騒がなければ、人間を襲ったりしないんだ。あ、時間!こんな事でごめんね!皆、飼育員さんの言うことを聞いて!落ち着いて行動してね!』
愛歩は急に静かになった辺りを見渡す。
「この人凄い……」
混乱していた人達が、この配信を見て落ち着いてきていたのだ。
「ほんとやなぁ流石人気配信者やで」
「格好いいよね~リックン放送局。私も毎週水曜日見てるよ」
皆が謎の人気配信者に注意を引き付けられている中、のじゃロリ猫が誰にも気付かれないように呟いていた。
「フフ…古代……こんな事しとったんじゃの。どれ、わしも今度参加してみるか」
「みんな!」
「あ、古代ちゃん!」
古代がこちらに歩いてきた。スマホを手に、ヘッドフォンを首にかけている。
「よかった。探しに行こうと思ってたんだ」
心配そうな天号に、古代はあははと笑いながら目をそらす。
「それでパンダはどうなったか知ってる?」
「むらサメちゃんとのじゃロリ猫ちゃんが倒してくれたよ」
愛歩が言うと、古代はやっぱりと呟いた。
「檻を壊すパンダなんてそういないからね、はじめから妖怪の類いか何かだと思ってたんだ」
「あ、古代ちゃん!」
古代がこちらに歩いてきた。スマホを手に、ヘッドフォンを首にかけている。
「よかった。探しに行こうと思ってたんだ」
心配そうな天号に、古代はあははと笑いながら目をそらす。
「それでパンダはどうなったか知ってる?」
「むらサメちゃんとのじゃロリ猫ちゃんが倒してくれたよ」
愛歩が言うと、古代はやっぱりと呟いた。
「檻を壊すパンダなんてそういないからね、はじめから妖怪の類いか何かだと思ってたんだ」
「今日は皆大変だったみたいだね。仕事がなければ一緒に行けたんだが」
夕食の時、お父さんが暗い顔をした。
「本当にね。でも楽しかったよ。皆とお話しできて」
愛歩はお母さんが作ってくれた、普段なら美味しいシチューをぐいっと飲み込んだ。
「ご馳走さま!」
「え?もういらないの?」
「うんお母さん。二人ともおやすみなさい!」
両親の心配をよそに、愛歩は早々に部屋に引きこもった。
ベッドに潜り込んだ時、やっと一人になれたと安堵する。
「はぁ」
今日、自分はむらサメが死ぬ所を見た……
魂が抜けたむらサメの顔を思い出し、愛歩は身震いする。
本当なら今頃、むらサメは冷たい遺体になって家族と対面していただろう。もう喋る事も、ご飯を食べる事も出来ない。真っ白な死に装束を着て、炎で焼かれて肺になるしかない。
だが愛歩が運命を変えた。時間を巻き戻してむらサメを助けた。
むらサメは昨日の夜と同じ様に家族と夕食を食べ、談笑し、あと数時間もすればベットで寝ている筈だ。
「私は人を助ける事が出来た……正しい選択が出来たんだ」
愛歩は何度も何度も繰り返し呟いた。
夕食の時、お父さんが暗い顔をした。
「本当にね。でも楽しかったよ。皆とお話しできて」
愛歩はお母さんが作ってくれた、普段なら美味しいシチューをぐいっと飲み込んだ。
「ご馳走さま!」
「え?もういらないの?」
「うんお母さん。二人ともおやすみなさい!」
両親の心配をよそに、愛歩は早々に部屋に引きこもった。
ベッドに潜り込んだ時、やっと一人になれたと安堵する。
「はぁ」
今日、自分はむらサメが死ぬ所を見た……
魂が抜けたむらサメの顔を思い出し、愛歩は身震いする。
本当なら今頃、むらサメは冷たい遺体になって家族と対面していただろう。もう喋る事も、ご飯を食べる事も出来ない。真っ白な死に装束を着て、炎で焼かれて肺になるしかない。
だが愛歩が運命を変えた。時間を巻き戻してむらサメを助けた。
むらサメは昨日の夜と同じ様に家族と夕食を食べ、談笑し、あと数時間もすればベットで寝ている筈だ。
「私は人を助ける事が出来た……正しい選択が出来たんだ」
愛歩は何度も何度も繰り返し呟いた。