7日目『寂しいのは...』
「ちゃばー、ご飯だよー。」
「にゃぁ〜」
「みゃぅ、みゃぅっ」
「はい、どうぞ。食べる前には何て言うんだったかな?」
「にゃ....ぅ、ぃ......いた、らき....まぅ....」
「よし。どうぞ召し上がれ。」
側から見れば、まだ少し辿々しく聞こえそうなちゃばの言葉。それでも、ずっと見てきた私からすればかなり喋れるようになってきた方だ。
「んっ....がふっ、ぐるる.....っ」
ご飯を食べる時のちゃばは、よく鼻息が荒くなる。特にお肉を食べている時は尚更だ。ちゃばは元々猫だから、お肉は生のままでも平気で食べられる。人間と同じく焼いたものも一応は食べられるけど、生に比べるとやっぱり好評じゃなかった。
「美味しい?」
「んにゃぅ」
「ふふ、良かった。それ、焔が送ってくれた良いお肉なんだよ。」
私の後輩で、青空小生徒会副会長の焔の実家である名門・華龍院家は、主に食肉を専門に取り扱う有力企業を多く束ねているそうだ。
「以前世話になったお礼に、我が華龍院家が誇る最高級の牛肉を用意した!遠慮は要らない、どうか受け取ってくれ!」
「......やっぱり真面目だなぁ、焔は。」
「みぃ....?」
「ううん、こっちの話。」
ちゃばには、どのお肉が良いだとかはあんまり分からないかもしれないけど、こうして喜んで食べているから美味しいことは間違いないんだろう。私も今晩、このお肉でお母さんにステーキを焼いて貰う予定だ。
「....ごち、そぅ.....さま」
「ん、全部食べられたね。偉い偉い。」
「ふにゃっ、みぅ.....」
「ふふっ、おいでちゃば。抱っこしてあげる。」
「みゃぁん.....♪」
「可愛い......よしよし........♪」
眠いのもあってか、いつも以上に甘えん坊なちゃば。「ここでなら寝て良いよ」と胸元に頭を寄せてあげると、すぐに寝息を立てて眠り始めた。
「おやすみ......」
ピクピクと僅かに震える耳元で静かにそう囁き、私も壁に背を預けて目を閉じた。ちゃばを抱きしめる力が弱くなり、少しずつ意識が遠のいていく.........
.....................
.................................
「........ん?」
目を開けると、私は広い野原のような場所に居た。少し辺りを見回すと、少し遠くにちゃばの姿があった。
どんなに呼びかけても、ちゃばは反応しない。ある一点だけをじっと見つめている。
「ちゃば....?」
「.....もしかして、ちゃばの兄弟.....?」
そう、ちゃばには他にも何匹か兄弟、姉妹が居た。それぞれ別の新しい飼い主や親猫の飼い主に引き取られ、今はバラバラだけど。
「......みゃっ」
すると、次の瞬間、ちゃばは元の猫の姿になり、その子猫達の元に走って行ってしまった。
「ちゃば!」
私も慌てて後を追おうとする。ところが、足が動かない。ツタのようなものが絡まって、千切ろうとしてもビクともしない。
「嘘っ、何で!」
焦っている私を他所に、ちゃば達子猫は更に先へと行ってしまう。
「待って!ちゃば!嫌だよ、置いていかないで....!」
「ちゃば..........!」
「..................ちゃば..............っ」
「.......はっ」
再び目が覚めると、私はいつもの自分の部屋に居た。窓から夕日が差し込み、部屋全体をオレンジ色に染めている。ふと目線を下げると、ちゃばは私の膝を枕にしてまだ眠っていた。
「.....夢.....か.........」
ほっと胸を撫で下ろし、私は膝枕で寝るちゃばの頭を優しく撫でてあげた。
「.......やっぱり.......兄弟に会えなくて、寂しいのかな..................」
少しだけ不安に駆られる。けど、ちゃばの寝顔は穏やかで、時折嬉しそうに口元を緩ませていた。
「................違うな。寂しいのは....きっと私の方だ.......」
「ちゃば..........」
私はちゃばの身体を少しだけ抱き起こし、ぎゅっと抱きしめた。仄かに香る柔らかな髪、小さく、そして華奢な身体。猫の命は、人間よりも遥かに短い。だから、ちゃばと一緒に居られる今この瞬間を、私はどうしても手放したくなかった。
「.......ごめんね......駄目なお姉ちゃんで.......私.....君が居ないと、もう.........」