Cheers for your birthday
更新日:2020/10/22 Thu 23:49:08
「わぁ!」
それは9月3日の事……誕生日の朝、6歳の九(ここの)は、ベッドの上で歓声をあげていた。
朝目が覚めて、真っ先に開けたプレゼントボックス。
その中に新品のカメラが納められていたのだ。
「お母さんお母さん!プレゼント!」
あわただしくリビングへと降りていく愛娘の足音。
母親の桃花は朝食の用意をしながら耳にしていた。
「おはよう九、階段で走ると危ないわよ」
「えへへ、ごめん!でもでもプレゼント!カメラ撮ってきていい?」
興奮している妹を、今度は姉が宥めた。
「九ぉ、まずありがとうございますじゃない?」
「あそっか、プレゼント、ありがとうございます」
姉の言葉にならい、慇懃に90度のお辞儀をする九を見て、母は笑った。
「分かったから、朝御飯の準備手伝って、士、あなたもね」
それは9月3日の事……誕生日の朝、6歳の九(ここの)は、ベッドの上で歓声をあげていた。
朝目が覚めて、真っ先に開けたプレゼントボックス。
その中に新品のカメラが納められていたのだ。
「お母さんお母さん!プレゼント!」
あわただしくリビングへと降りていく愛娘の足音。
母親の桃花は朝食の用意をしながら耳にしていた。
「おはよう九、階段で走ると危ないわよ」
「えへへ、ごめん!でもでもプレゼント!カメラ撮ってきていい?」
興奮している妹を、今度は姉が宥めた。
「九ぉ、まずありがとうございますじゃない?」
「あそっか、プレゼント、ありがとうございます」
姉の言葉にならい、慇懃に90度のお辞儀をする九を見て、母は笑った。
「分かったから、朝御飯の準備手伝って、士、あなたもね」
朝御飯を食べたあと、九は父が働いている『かがやき音楽教室』まで、歩いてお礼をいいに行くことにした。
天気は快晴、車通りも少ない道が並ぶので、桃花はお使いも頼むことにする。はじめてのおつかいという事だ。
九のバッグに小さな財布をいれながら桃花は言う。
「あおぞら電気さんで乾電池、単5っていうの。天号ちゃんのお父さんに聞いたら持ってきてくれると思うから、お願いね」
「あおぞら電気、単5の乾電池、天号ちゃんのお父さんに聞く、了解」
九は母の言葉を復唱し、ラジャーのポーズを取った。
「あ、あと、帰りにみくもやで好きなお菓子買ってきていいからね」
「やったー!」
九は万歳をして駆け出した。
士も行きたかったが、今回ははじめてのおつかいだ。拗ねる姉を宥めながら、桃花は、初めて会った時よりも6年分成長した下の娘の背中を見つめていた。
天気は快晴、車通りも少ない道が並ぶので、桃花はお使いも頼むことにする。はじめてのおつかいという事だ。
九のバッグに小さな財布をいれながら桃花は言う。
「あおぞら電気さんで乾電池、単5っていうの。天号ちゃんのお父さんに聞いたら持ってきてくれると思うから、お願いね」
「あおぞら電気、単5の乾電池、天号ちゃんのお父さんに聞く、了解」
九は母の言葉を復唱し、ラジャーのポーズを取った。
「あ、あと、帰りにみくもやで好きなお菓子買ってきていいからね」
「やったー!」
九は万歳をして駆け出した。
士も行きたかったが、今回ははじめてのおつかいだ。拗ねる姉を宥めながら、桃花は、初めて会った時よりも6年分成長した下の娘の背中を見つめていた。
「ふんふんふーん♪」
九は鼻唄を歌い、スキップしながら歩いていた。
髪を撫でる風が気持ちいい。
自分を照らす太陽が温かい。
「あ、いい景色」
目の前はありふれた堤防だった。
しかし、九には何か特別に感じられた。
九は首から下げていた自分のカメラを覗き込んで、その景色をカメラに記録した。
「あ、きゅーばんちゃんやん」
誰かが九のあだ名を呼んだ。
振り向くと、最近引っ越してきたむらサメという名前の子供が。
「むらサメちゃんおはよー!あれ、そっちの子は?」
九は首をかしげる。むらサメちゃんの後ろに、隠れるようにしてもう一人女の子がいたのだ。
その女の子は一言も声を発すること無く、顔を真っ赤にしてむらサメの後ろに隠れた。
「あ、この子は最近友達になった子!名前は……えっと、美海田ユカイ!」
ユカイと呼ばれた女の子は、こくりと頷いて見せた。
「そうなんだ!わたし、きゅーばん!ねえ、二人とも、写真撮っていいかな?」
「構わへんで!ユカイもいい?」
ユカイはまたこくりと頷く。随分と無口な子だと九は思った。
「はい、チーズ!」
カメラを構え、レンズを覗き込んでシャッターを押す。
「あれ?」
これは九が撮る初めての人物写真になるはずだったが、なかなかうまく行かない。
もう一回カメラを覗く。
「あっれぇ」
九はがっかりした。何度撮り直しても全て手ブレしてたり、姿が滲んだり、色がついてなかったりしたのだ。
「うーん、おかしいなぁ」
九は訝しげにカメラを見つめる。
「あ、ごめん、うちらもう行かんと」
見るとユカイがむらサメの服の裾をくいくいと引っ張っていた。
「あ、うん、ありがとう!」
九は去っていく二人の背中をもう一度だけカメラに撮す。
「あれ?」
その中には、むらサメモが写っていたが、ユカイの姿はなく、代わりに下半身が魚のような形をしている異形が写し出されていた。
九は鼻唄を歌い、スキップしながら歩いていた。
髪を撫でる風が気持ちいい。
自分を照らす太陽が温かい。
「あ、いい景色」
目の前はありふれた堤防だった。
しかし、九には何か特別に感じられた。
九は首から下げていた自分のカメラを覗き込んで、その景色をカメラに記録した。
「あ、きゅーばんちゃんやん」
誰かが九のあだ名を呼んだ。
振り向くと、最近引っ越してきたむらサメという名前の子供が。
「むらサメちゃんおはよー!あれ、そっちの子は?」
九は首をかしげる。むらサメちゃんの後ろに、隠れるようにしてもう一人女の子がいたのだ。
その女の子は一言も声を発すること無く、顔を真っ赤にしてむらサメの後ろに隠れた。
「あ、この子は最近友達になった子!名前は……えっと、美海田ユカイ!」
ユカイと呼ばれた女の子は、こくりと頷いて見せた。
「そうなんだ!わたし、きゅーばん!ねえ、二人とも、写真撮っていいかな?」
「構わへんで!ユカイもいい?」
ユカイはまたこくりと頷く。随分と無口な子だと九は思った。
「はい、チーズ!」
カメラを構え、レンズを覗き込んでシャッターを押す。
「あれ?」
これは九が撮る初めての人物写真になるはずだったが、なかなかうまく行かない。
もう一回カメラを覗く。
「あっれぇ」
九はがっかりした。何度撮り直しても全て手ブレしてたり、姿が滲んだり、色がついてなかったりしたのだ。
「うーん、おかしいなぁ」
九は訝しげにカメラを見つめる。
「あ、ごめん、うちらもう行かんと」
見るとユカイがむらサメの服の裾をくいくいと引っ張っていた。
「あ、うん、ありがとう!」
九は去っていく二人の背中をもう一度だけカメラに撮す。
「あれ?」
その中には、むらサメモが写っていたが、ユカイの姿はなく、代わりに下半身が魚のような形をしている異形が写し出されていた。
「なんだったんだろう、あれ」
あおぞら電気で買い物を終え、かがやき教室でお父さんにお礼を言い終えた九は、駄菓子屋…みくもやに向かっていた。
「うーん、わたしの技術がまだ追い付いてないのかな?」
首をかしげながら歩いていると…
「あ、きゅーばんちゃんだ!」
女の子に声をかけられた。
「あ、サキ先輩!」
長く綺麗な髪を二つに結んだ、九よりちょっと年上な女の子がそこに立っていた。
大石早生(おおいし さき)……九の先輩だ。
「私、今からみくもやに行くんだけど、一緒に行かない?」
「いいよ!わたしもみくもやに行くんだ!」
あおぞら電気で買い物を終え、かがやき教室でお父さんにお礼を言い終えた九は、駄菓子屋…みくもやに向かっていた。
「うーん、わたしの技術がまだ追い付いてないのかな?」
首をかしげながら歩いていると…
「あ、きゅーばんちゃんだ!」
女の子に声をかけられた。
「あ、サキ先輩!」
長く綺麗な髪を二つに結んだ、九よりちょっと年上な女の子がそこに立っていた。
大石早生(おおいし さき)……九の先輩だ。
「私、今からみくもやに行くんだけど、一緒に行かない?」
「いいよ!わたしもみくもやに行くんだ!」
サキ先輩は、いつもお洒落だが、今日は一段と気合いが入っていた。
「これからね、友達と皆で遊びに行くの!その待ち合わせ!」
「わぁ、いいなぁ」
みくもやの店先に二人女の子が立っている。
「あ、ホノカとカコだ!やっほ~!」
「おはよ、サキ!あときゅーばんも」
「おはようサキ、あなた、寝癖着いてるわよ」
赤い髪を1つに結んだ浅黒い女の子、嵯峨穂香(さが ほのか)と、眼鏡をかけた生真面目そうな女の子、氷室果子(ひむろ かこ)だった。
「え、そう?ごめん」
あははと言いながら、サキは髪を撫で付ける。
そこにまた二人、女の子がやってきた。
「あらあら~♪もう来てたの♪」
「サキ……おはよ……」
「あ、おはよう二人とも!」
優しげな雰囲気の中にどこか冷たい物が混ざったような声の主の比護みどり(ひご)に、無表情でどこか弱々しいところのある甲斐美嶺(かい みれい)だった。
「そういえば檸檬は~?」
二人の顔を見て、サキは親友の姿を探した。
「れもんは……おやすみ……えっと、弟の……名前………」
「確か太郎くんね♪彼が熱を出しちゃったみたいで、付き添いで病院に行くんですって」
「えぇ…そっかぁ…くそ、太郎めぇ」
サキはここにいない寿太郎(ことぶき たろう)に対して恨み言を言った。と言っても冗談半分であり、少し心配しているようでもあったが。
「ところで、皆でどこに行くの?」
「お菓子のミュージィアムだよ!この秋限定、世界のお菓子食べ放題!まあ食べ物の展覧会だから、ブルーベルは連れてこれなかったけどね」
九の質問に、サキが嬉しそうな声で答える。
「甘い……お菓子…楽しみ」
「そうね~♪私も和スイーツが楽しみで……昨日はあんまり眠れなかったわ♪」
美嶺が表情筋は少ないながらも、嬉しそうに笑う。みどりがその言葉にニコニコしながら頷いた。
「私はそんなにお菓子好きじゃないけど、嵯峨やサキが何かしないか監視するの。何かあったら学校にも迷惑になるし」
「氷室はお菓子より規則だもんな!この前も職員室に入り浸って他の女子が嫌がってたし」
「嵯峨……なんですってぇ…」
このままでは喧嘩が始まってしまう。九は慌てて話題を変えた。
「そ、そうだ!みんな、写真撮っていい?」
きゅーばんの声に、皆が振り向く。
「あれ?きゅーばんちゃん、写真撮れるの?」
「うんサキちゃん!そうだよ!と言ってもまだ練習途中だけど……」
「あ、私はパス。カメラ苦手だし」
「氷室、そういうなよ!後輩が撮ってくれるんだから、お言葉に甘えようぜ!」
「嵯峨、あなたは目立ちたいだろうから好きそうだけど……フラッシュがいやなの」
「まあまあそう言わずに、このサキ様がカコちゃんを可愛く撮れるようにしてあげるって!」
「あらあら~♪皆楽しそうね♪」
「写真……楽しそう……」
口々にそんな事を呟きながら、先輩たちはポーズを取ってくれた。
「じゃあ、行くよ~!はい、チーズ!」
パシャリ。心地よいシャッターの音。
確認してみると、ばっちりと先輩たちの姿が写っていた。ブレ等全く見当たらない。
「わぁ、初めて上手く撮れた!」
「わぁ!おめでとう!」
跳び跳ねて喜ぶ九に、サキも一緒に喜んでくれる。
「これね、今度の月曜日までにプリントアウトして、学校で配るね!」
「わぁ!楽しみにしてるよ!」
九の言葉に、先輩達は喜んでくれた。(特にサキ先輩)
「これからね、友達と皆で遊びに行くの!その待ち合わせ!」
「わぁ、いいなぁ」
みくもやの店先に二人女の子が立っている。
「あ、ホノカとカコだ!やっほ~!」
「おはよ、サキ!あときゅーばんも」
「おはようサキ、あなた、寝癖着いてるわよ」
赤い髪を1つに結んだ浅黒い女の子、嵯峨穂香(さが ほのか)と、眼鏡をかけた生真面目そうな女の子、氷室果子(ひむろ かこ)だった。
「え、そう?ごめん」
あははと言いながら、サキは髪を撫で付ける。
そこにまた二人、女の子がやってきた。
「あらあら~♪もう来てたの♪」
「サキ……おはよ……」
「あ、おはよう二人とも!」
優しげな雰囲気の中にどこか冷たい物が混ざったような声の主の比護みどり(ひご)に、無表情でどこか弱々しいところのある甲斐美嶺(かい みれい)だった。
「そういえば檸檬は~?」
二人の顔を見て、サキは親友の姿を探した。
「れもんは……おやすみ……えっと、弟の……名前………」
「確か太郎くんね♪彼が熱を出しちゃったみたいで、付き添いで病院に行くんですって」
「えぇ…そっかぁ…くそ、太郎めぇ」
サキはここにいない寿太郎(ことぶき たろう)に対して恨み言を言った。と言っても冗談半分であり、少し心配しているようでもあったが。
「ところで、皆でどこに行くの?」
「お菓子のミュージィアムだよ!この秋限定、世界のお菓子食べ放題!まあ食べ物の展覧会だから、ブルーベルは連れてこれなかったけどね」
九の質問に、サキが嬉しそうな声で答える。
「甘い……お菓子…楽しみ」
「そうね~♪私も和スイーツが楽しみで……昨日はあんまり眠れなかったわ♪」
美嶺が表情筋は少ないながらも、嬉しそうに笑う。みどりがその言葉にニコニコしながら頷いた。
「私はそんなにお菓子好きじゃないけど、嵯峨やサキが何かしないか監視するの。何かあったら学校にも迷惑になるし」
「氷室はお菓子より規則だもんな!この前も職員室に入り浸って他の女子が嫌がってたし」
「嵯峨……なんですってぇ…」
このままでは喧嘩が始まってしまう。九は慌てて話題を変えた。
「そ、そうだ!みんな、写真撮っていい?」
きゅーばんの声に、皆が振り向く。
「あれ?きゅーばんちゃん、写真撮れるの?」
「うんサキちゃん!そうだよ!と言ってもまだ練習途中だけど……」
「あ、私はパス。カメラ苦手だし」
「氷室、そういうなよ!後輩が撮ってくれるんだから、お言葉に甘えようぜ!」
「嵯峨、あなたは目立ちたいだろうから好きそうだけど……フラッシュがいやなの」
「まあまあそう言わずに、このサキ様がカコちゃんを可愛く撮れるようにしてあげるって!」
「あらあら~♪皆楽しそうね♪」
「写真……楽しそう……」
口々にそんな事を呟きながら、先輩たちはポーズを取ってくれた。
「じゃあ、行くよ~!はい、チーズ!」
パシャリ。心地よいシャッターの音。
確認してみると、ばっちりと先輩たちの姿が写っていた。ブレ等全く見当たらない。
「わぁ、初めて上手く撮れた!」
「わぁ!おめでとう!」
跳び跳ねて喜ぶ九に、サキも一緒に喜んでくれる。
「これね、今度の月曜日までにプリントアウトして、学校で配るね!」
「わぁ!楽しみにしてるよ!」
九の言葉に、先輩達は喜んでくれた。(特にサキ先輩)
いってらっしゃ~い!とバスに乗り込む先輩達を見送ると、九はみくもやに入っていった。
駄菓子が沢山並んでいる棚でお菓子を物色している時も、お気に入りのお菓子を見つけた時も、みくもやのおばあちゃんと話してる時も、九は先輩達に、自分が撮った写真を渡す事で頭が一杯だった。
駄菓子が沢山並んでいる棚でお菓子を物色している時も、お気に入りのお菓子を見つけた時も、みくもやのおばあちゃんと話してる時も、九は先輩達に、自分が撮った写真を渡す事で頭が一杯だった。
次の月曜日に、プリントアウトした写真を先輩に渡したら、お菓子ミュージィアムの話を聞こう。
もしかしたら、お土産も貰えるかも。楽しみだな。
もしかしたら、お土産も貰えるかも。楽しみだな。
しかし、その月曜日は、九にも先輩達にも訪れる事は無かった。
お菓子ミュージィアムの帰りに、美嶺が突然倒れたのだ。
九は母親の桃花から聞いただけだが、なんとかかんとかの病気で、難治性………治るのは難しいらしい。
「写真、早く渡したいな……」
五つに分けた写真の一枚、最後に残った美嶺の分の物を眺めながら、九は呟く。
サキが美嶺のお見舞いに行くからと言って、写真も渡そうか?と何度か訪ねてくれたが、治ったミレイ先輩に自分で渡したいからと断っていた。
「きっと治るよね…」
自室のベッドでそれを眺めて、九は呟き、目を閉じる。
……舞台は学校。
わたしと、サキ先輩と、退院祝いの花束を抱えたミレイ先輩。
七色のテーブルに並べられた、退院祝いのごちそうに、沢山のフルーツが盛り付けられたケーキ。
病気の完治を祝して歌う鳥、笑う猫と狼、飾られた羊と二つの仮面、自ら出した糸で喜びを表現する蜘蛛さんに、ミレイ先輩に本を差し出す青リンゴ、ヒレを鳴らしてお祝いする魚さんと……あとは手招きするお猿さん。
わたしのお姉ちゃんや友達にも囲まれるミレイ先輩。
写真を渡したときの彼女の顔を思い浮かべていたら、現実よりも優しくあたたかな夢を見ていた。
お菓子ミュージィアムの帰りに、美嶺が突然倒れたのだ。
九は母親の桃花から聞いただけだが、なんとかかんとかの病気で、難治性………治るのは難しいらしい。
「写真、早く渡したいな……」
五つに分けた写真の一枚、最後に残った美嶺の分の物を眺めながら、九は呟く。
サキが美嶺のお見舞いに行くからと言って、写真も渡そうか?と何度か訪ねてくれたが、治ったミレイ先輩に自分で渡したいからと断っていた。
「きっと治るよね…」
自室のベッドでそれを眺めて、九は呟き、目を閉じる。
……舞台は学校。
わたしと、サキ先輩と、退院祝いの花束を抱えたミレイ先輩。
七色のテーブルに並べられた、退院祝いのごちそうに、沢山のフルーツが盛り付けられたケーキ。
病気の完治を祝して歌う鳥、笑う猫と狼、飾られた羊と二つの仮面、自ら出した糸で喜びを表現する蜘蛛さんに、ミレイ先輩に本を差し出す青リンゴ、ヒレを鳴らしてお祝いする魚さんと……あとは手招きするお猿さん。
わたしのお姉ちゃんや友達にも囲まれるミレイ先輩。
写真を渡したときの彼女の顔を思い浮かべていたら、現実よりも優しくあたたかな夢を見ていた。