「魔を、喰らう…?どういう意味だそれは。
この都に、何がいると言うのだ?」
「何がいるのかは知らねぇさ。
だがな、何かヤベェ奴がいるのは確かだ。
オイラがこの竹林にずっと潜んでるのは、
別に居心地が良いからじゃねぇ。
ここ以外の場所を根城にしようもんなら、
直ぐに『消され』ちまうからさ。
この都に住んで三十年、オイラの他にも
色んな妖がここにやってきた。
だがそいつらは気が付いたら
忽然といなくなっていたんだ。
何の痕跡も残さず、まるで最初から
いなかったかのようにな。
大した事ねぇ妖怪なら縄張り争いに負けて
出て行ったんだろうと思うところだが……
他んトコで随分と腕を鳴らした妖も、
おんなじように消えちまうのを何度も見てきた。
なぜかこの竹林をナワバリにしてたオイラだけは、
今まで無事だったけどな」
この都に、何がいると言うのだ?」
「何がいるのかは知らねぇさ。
だがな、何かヤベェ奴がいるのは確かだ。
オイラがこの竹林にずっと潜んでるのは、
別に居心地が良いからじゃねぇ。
ここ以外の場所を根城にしようもんなら、
直ぐに『消され』ちまうからさ。
この都に住んで三十年、オイラの他にも
色んな妖がここにやってきた。
だがそいつらは気が付いたら
忽然といなくなっていたんだ。
何の痕跡も残さず、まるで最初から
いなかったかのようにな。
大した事ねぇ妖怪なら縄張り争いに負けて
出て行ったんだろうと思うところだが……
他んトコで随分と腕を鳴らした妖も、
おんなじように消えちまうのを何度も見てきた。
なぜかこの竹林をナワバリにしてたオイラだけは、
今まで無事だったけどな」
ふむ。最初からいなかったかのように、
忽然と消える……か。
「気付いたか、猫。これはまるで……」
「ウム。『消える子供達』と、まるで同じ状況じゃの。
痕跡ひとつ残さずに、妖すらも消し去るか。
間違いなく同じ者による犯行と見て良いじゃろ」
ワシと神楽坂の話を聞いて、
彼岸童子は少し驚いたように目を丸くする。
「オイオイ……妖だけじゃなく、子供まで
ソイツに消されてるってのか!?なのになんで
この都の奴らはこんなに大人しくしてんだ?
今の今までそんな事が起きてるなんて
全く気付かなかったぞ」
「この妖怪は誰にも気取られないよう、
気配を完全に消して行動している。
私とコイツはその理由を『人に紛れて暮らしている』
からだと推察したが…そこから捜査は一向に進展がない。
そこに現れたのがお前だったという訳だ」
「そうか…悪りぃな、助けになれなくてよ。
オイラはずっとこの竹林にいたから、
外の事はよく分からねぇンだ」
「三十年も竹林に一人でのぉ……。
ワシなら退屈でどうにかなっちまいそうだがの」
「ん?別にオイラは一人じゃねぇぞ。
確かにこの都に住んでる妖は知る限り
オイラ一人だけどな、アンタらみたいにあちこちを
転々としてるヤツがいるんだ。
ソイツがたまにここに顔を出してくれるから、
退屈なんてしないのさ」
あちこちを転々とする妖ぃ……?
それを聞いて、なぜか胸の奥がザワつく。
もしや、それは…………。
忽然と消える……か。
「気付いたか、猫。これはまるで……」
「ウム。『消える子供達』と、まるで同じ状況じゃの。
痕跡ひとつ残さずに、妖すらも消し去るか。
間違いなく同じ者による犯行と見て良いじゃろ」
ワシと神楽坂の話を聞いて、
彼岸童子は少し驚いたように目を丸くする。
「オイオイ……妖だけじゃなく、子供まで
ソイツに消されてるってのか!?なのになんで
この都の奴らはこんなに大人しくしてんだ?
今の今までそんな事が起きてるなんて
全く気付かなかったぞ」
「この妖怪は誰にも気取られないよう、
気配を完全に消して行動している。
私とコイツはその理由を『人に紛れて暮らしている』
からだと推察したが…そこから捜査は一向に進展がない。
そこに現れたのがお前だったという訳だ」
「そうか…悪りぃな、助けになれなくてよ。
オイラはずっとこの竹林にいたから、
外の事はよく分からねぇンだ」
「三十年も竹林に一人でのぉ……。
ワシなら退屈でどうにかなっちまいそうだがの」
「ん?別にオイラは一人じゃねぇぞ。
確かにこの都に住んでる妖は知る限り
オイラ一人だけどな、アンタらみたいにあちこちを
転々としてるヤツがいるんだ。
ソイツがたまにここに顔を出してくれるから、
退屈なんてしないのさ」
あちこちを転々とする妖ぃ……?
それを聞いて、なぜか胸の奥がザワつく。
もしや、それは…………。
「おぅい、彼岸花!久しぶりでござるな。
今日は珍しい唐物が手に入っ……て……」
今日は珍しい唐物が手に入っ……て……」
こ、の、声……は…………!!
「貴様ぁぁぁッッッ!!!!
のじゃ猫!!!!!!!!
ここで何をしておるのだ!!!」
のじゃ猫!!!!!!!!
ここで何をしておるのだ!!!」
「カッ、それはこっちの台詞じゃ、
ござる鼬!!!ここで会ったが百年目!!!
ケリをつけようではないか!!!!!!!」
ござる鼬!!!ここで会ったが百年目!!!
ケリをつけようではないか!!!!!!!」
「な、なんだなんだ!?お前らいきなり何を……!!」
全身の毛が針のように逆立つ。
血液が沸騰し、身体から蒸気が吹き出す。
血液が沸騰し、身体から蒸気が吹き出す。
こやつは『ござる鼬』。
ワシの肉片から分離した、
いわば分身とも言える存在の一人。
だが、厄介な事にワシらはそれぞれが
「己こそが最上位の存在である」と信じて譲らず、
人の世が始まるよりも遥か昔から戦いを繰り広げてきた。
しかし互いにほとんど不死のような存在であるワシらに
決着などなく、ただただどちらかが飽きるまでの
三日三晩、意味もなく殺し合うのが
日常茶飯事となっている。
ワシの肉片から分離した、
いわば分身とも言える存在の一人。
だが、厄介な事にワシらはそれぞれが
「己こそが最上位の存在である」と信じて譲らず、
人の世が始まるよりも遥か昔から戦いを繰り広げてきた。
しかし互いにほとんど不死のような存在であるワシらに
決着などなく、ただただどちらかが飽きるまでの
三日三晩、意味もなく殺し合うのが
日常茶飯事となっている。
ガキィィィン!!!
ワシの爪とござる鼬の苦無がぶつかり合い、
激しく火花が飛び散る。
「ふん、力は衰えておらんようじゃな……!
彼岸花、と呼んでおったか?
あの小僧と随分親しげではないか。カカカ、なんじゃ、
オヌシらまさかデキとるのか?」
激しく火花が飛び散る。
「ふん、力は衰えておらんようじゃな……!
彼岸花、と呼んでおったか?
あの小僧と随分親しげではないか。カカカ、なんじゃ、
オヌシらまさかデキとるのか?」
「減らず口を止めるでござる!!!
貴様には関係ない!!!!!」
貴様には関係ない!!!!!」
お〜こわ。いつも以上に気が立っておるの。
こりゃ藪蛇じゃったか。
ござるの苦無捌きは、視覚では捉えられない程の
凄まじい速度。ならばこちらも、
少々やり方を変えねばならんの。
こりゃ藪蛇じゃったか。
ござるの苦無捌きは、視覚では捉えられない程の
凄まじい速度。ならばこちらも、
少々やり方を変えねばならんの。
ザシュッ!!!
腕をあえて斬らせ、筋肉を固めて刃を受け止める。
鋭い刃は骨まで食い込んでおるが……
なに、切り落とされてもさほど問題はない。
それよりも……
この一瞬の隙が欲しかったのじゃ。
腕をあえて斬らせ、筋肉を固めて刃を受け止める。
鋭い刃は骨まで食い込んでおるが……
なに、切り落とされてもさほど問題はない。
それよりも……
この一瞬の隙が欲しかったのじゃ。
「ぐっ……刃が、通らぬ……!!
貴様、筋肉を操っておるな!!」
「カカカ、ワシと同じ肉体を持っておると言うのに、
これくらいで驚かれては困るぞ。
そら、これでも食らうが良い!!」
襟巻きの形を変え、巨大な顎を出現させる。
それはさながら絵巻物に見る龍のように、
大きく口を開いてござるを喰らわんとする。
貴様、筋肉を操っておるな!!」
「カカカ、ワシと同じ肉体を持っておると言うのに、
これくらいで驚かれては困るぞ。
そら、これでも食らうが良い!!」
襟巻きの形を変え、巨大な顎を出現させる。
それはさながら絵巻物に見る龍のように、
大きく口を開いてござるを喰らわんとする。
ガブッ!!!!
襟巻きの龍は素早くござるに噛み付いたが、
ほんの一瞬、奴の方が速く苦無を離して
その場から距離を取っていた。
「相変わらず無茶苦茶な真似をする……!!
だが!!変化の術が貴様だけの物だと思ったら
大間違いでござるよ!!」
ござるは凄まじい勢いで印を結び始めた。
忍が操る変化の術……!?あやつめ、
しばらく会わんうちにそんな物を……!!
襟巻きの龍は素早くござるに噛み付いたが、
ほんの一瞬、奴の方が速く苦無を離して
その場から距離を取っていた。
「相変わらず無茶苦茶な真似をする……!!
だが!!変化の術が貴様だけの物だと思ったら
大間違いでござるよ!!」
ござるは凄まじい勢いで印を結び始めた。
忍が操る変化の術……!?あやつめ、
しばらく会わんうちにそんな物を……!!
「変化の術:大蛇!!!」
ドロン!!と煙を上げ、
ござるの姿が消えたと思いきや……
そこには三、四丈はあろうかという巨大な大蛇が
とぐろを巻いていた。
「こ、れは……なかなか……」
じり、と半歩後ずさる。
まさか、ここまでのものに化けられるとは。
ござるの奴、また腕を上げたようじゃの。
ドロン!!と煙を上げ、
ござるの姿が消えたと思いきや……
そこには三、四丈はあろうかという巨大な大蛇が
とぐろを巻いていた。
「こ、れは……なかなか……」
じり、と半歩後ずさる。
まさか、ここまでのものに化けられるとは。
ござるの奴、また腕を上げたようじゃの。
「しゃあっっっ!!!!!」
一瞬の隙を見逃さず、ござるが化けた大蛇が
目にも止まらぬ速度で襲いかかる。
身体を捻って避けようとするが…遅すぎた。
一瞬の隙を見逃さず、ござるが化けた大蛇が
目にも止まらぬ速度で襲いかかる。
身体を捻って避けようとするが…遅すぎた。
ばくん!!!!
……とは言え、どうしたものか。
まるでぶ厚い肉の壁に包まれているよう。
大蛇の身体はグニグニと蠕動し、
ワシの身体を少しずつ奥へ奥へと
送り込んでいるようじゃの。
この大蛇……ござるの身体を無理やり
ぶち破っても構わんが、
流石にあの小僧の目の前でそれをやるのは躊躇われる。
ふむ……ま、ここはしばらくござるの動きを
見てみるとするかの。
消化しようとしたら遠慮なくぶち破るが。
まるでぶ厚い肉の壁に包まれているよう。
大蛇の身体はグニグニと蠕動し、
ワシの身体を少しずつ奥へ奥へと
送り込んでいるようじゃの。
この大蛇……ござるの身体を無理やり
ぶち破っても構わんが、
流石にあの小僧の目の前でそれをやるのは躊躇われる。
ふむ……ま、ここはしばらくござるの動きを
見てみるとするかの。
消化しようとしたら遠慮なくぶち破るが。
……………………
………………………………
…………………………………………
ん。
いかんいかん、眠ってしもうた。
全身を肉に包まれると言うのは案外悪くない
心地良さじゃったの。もはやいたのかどうかすら
覚えてはおらんが……母親の胎内に居る時のような
安心感と言うべきか。
いかんいかん、眠ってしもうた。
全身を肉に包まれると言うのは案外悪くない
心地良さじゃったの。もはやいたのかどうかすら
覚えてはおらんが……母親の胎内に居る時のような
安心感と言うべきか。
さて、と。
大きく伸びをして周りを見渡す。
どうやら五体満足で外に出られたらしい。
いや、放り出されたと言うべきか?
既に夜はとっぷりと更け、
竹林は静寂と暗闇に包まれていた。
「ようやっと気が済んだのかの?ござる鼬」
「……全く気に入らない奴でござるな。
拙者が遊ばれていたような言い方は止めるでござる」
近くの木の上に佇むござるに声をかける。
どうやら少しは落ち着いたようじゃの。
「貴様なら拙者の身体をぶち破って
脱出する事もできたであろう。それをしなかったのは
彼岸花を思い遣っての事でござるか?」
「カカカ、それもある。後は……オヌシは
ワシの分け身の中では比較的まともな方じゃからの。
ワシが食われる事で戦いに一応の決着が着けば、
話ができるくらいには落ち着いてくれると見たからじゃな」
「ふん、まるで最初から貴様の掌の上で踊っていたようで
気に食わん。つくづく性格が悪い猫でござる」
ふい、とそっぽを向き、ござる鼬はそれきり黙ってしまった。そんなにワシと話したくないのか。
大きく伸びをして周りを見渡す。
どうやら五体満足で外に出られたらしい。
いや、放り出されたと言うべきか?
既に夜はとっぷりと更け、
竹林は静寂と暗闇に包まれていた。
「ようやっと気が済んだのかの?ござる鼬」
「……全く気に入らない奴でござるな。
拙者が遊ばれていたような言い方は止めるでござる」
近くの木の上に佇むござるに声をかける。
どうやら少しは落ち着いたようじゃの。
「貴様なら拙者の身体をぶち破って
脱出する事もできたであろう。それをしなかったのは
彼岸花を思い遣っての事でござるか?」
「カカカ、それもある。後は……オヌシは
ワシの分け身の中では比較的まともな方じゃからの。
ワシが食われる事で戦いに一応の決着が着けば、
話ができるくらいには落ち着いてくれると見たからじゃな」
「ふん、まるで最初から貴様の掌の上で踊っていたようで
気に食わん。つくづく性格が悪い猫でござる」
ふい、とそっぽを向き、ござる鼬はそれきり黙ってしまった。そんなにワシと話したくないのか。
「……あの小僧、彼岸童子と言ったか。
先刻はからかって悪かったの。
あやつとはどういう関係なのじゃ?」
「………………昔、困っているところを助けられてな。
それ以来、妙な縁で時折会うようになった。
それだけでござる」
どう聞いてもそれだけの事ではなさそうじゃが……
ま、これ以上突っ込むのも野暮というものじゃろ。
「それと、あやつは小僧ではなくおなごでござる。
もし本人に小僧などと言おうものなら烈火の如く
怒るから注意するでござるぞ」
「んおっ、まことか。
ワシとした事が全っ然気付かなんだわ。
女児の匂いには敏感なんじゃがのぉ……」
「さ、もう話は終わりでござる。
次に会う時はこんな幕切れではなく、
完全に命を絶つつもりで行くから、
覚悟しておくでござるよ」
先刻はからかって悪かったの。
あやつとはどういう関係なのじゃ?」
「………………昔、困っているところを助けられてな。
それ以来、妙な縁で時折会うようになった。
それだけでござる」
どう聞いてもそれだけの事ではなさそうじゃが……
ま、これ以上突っ込むのも野暮というものじゃろ。
「それと、あやつは小僧ではなくおなごでござる。
もし本人に小僧などと言おうものなら烈火の如く
怒るから注意するでござるぞ」
「んおっ、まことか。
ワシとした事が全っ然気付かなんだわ。
女児の匂いには敏感なんじゃがのぉ……」
「さ、もう話は終わりでござる。
次に会う時はこんな幕切れではなく、
完全に命を絶つつもりで行くから、
覚悟しておくでござるよ」
ござる鼬はすっと立ち上がり、
その場を去ろうとする。
「あー、ちょっと待て。
最後に聞きたい事があるんじゃが。
あのこぞ……彼岸花曰く、
今この都は『魔を喰らう都』になっているとの事じゃ。
オヌシ、何か知らんか?」
「……拙者はつい先日まで日ノ本を離れて
大陸に行っていたのでな、力にはなれないでござる。
だが、魔を喰らうと言うなら、それは他の妖の力を
取り込む事ができる存在の仕業であろう。
つまり、無数の妖の気配を追って行けば
自ずと犯人に辿り着けるのではあるまいか?」
それだけ言うと、ござる鼬は一瞬でどこかへ飛び去ってしまった。相変わらず無愛想な奴じゃが……なるほど。良い情報を残して行ってくれたの。少しだけ、犯人探しに光明が見えた気がするわ。
その場を去ろうとする。
「あー、ちょっと待て。
最後に聞きたい事があるんじゃが。
あのこぞ……彼岸花曰く、
今この都は『魔を喰らう都』になっているとの事じゃ。
オヌシ、何か知らんか?」
「……拙者はつい先日まで日ノ本を離れて
大陸に行っていたのでな、力にはなれないでござる。
だが、魔を喰らうと言うなら、それは他の妖の力を
取り込む事ができる存在の仕業であろう。
つまり、無数の妖の気配を追って行けば
自ずと犯人に辿り着けるのではあるまいか?」
それだけ言うと、ござる鼬は一瞬でどこかへ飛び去ってしまった。相変わらず無愛想な奴じゃが……なるほど。良い情報を残して行ってくれたの。少しだけ、犯人探しに光明が見えた気がするわ。