ここに作品タイトル等を記入
更新日:2021/03/09 Tue 09:01:45
今回のあらすじ担当の赤羽よ。前回は私が参戦し、白鳥のシードゥス、アルビレオを倒しトドメを刺そうとした瞬間別のシードゥス、フェニックスが現れ、そのアルビレオを助ける。
そして暴走するフェニックスを止めるべく戦うがピンチに陥った龍香の前に白いシードゥス、プロウフが現れる。
流石にシードゥスも一枚岩ではないようね。
誰が敵で誰が味方か、混迷を極める十五話。始まるわよ。
そして暴走するフェニックスを止めるべく戦うがピンチに陥った龍香の前に白いシードゥス、プロウフが現れる。
流石にシードゥスも一枚岩ではないようね。
誰が敵で誰が味方か、混迷を極める十五話。始まるわよ。
「俺を始末するため…か。」
事態は混迷を極めていた。シードゥスを追いかけ交戦したかと思えば、今度はシードゥスが龍香を守っている。
天に浮かぶフェニックスが攻めあぐねる中、プロウフはチラリと龍香を一瞥する。
「母親そっくりですね。……良い顔をしている。」
「!…あなた、お母さんを知ってるの!?」
「よそ見をしている暇があるのか!」
フェニックスが炎をプロウフに向けて放つ。だがプロウフは龍香の方を向いたままパチンと指を鳴らして、氷の壁を出現させその炎を防ぐ。
プロウフはフェニックスの方を向く。
「私が貴方に対してよそ見をする余裕がないとでも?」
「くっ。」
プロウフはフェニックスに向けて指を向ける。次の瞬間指から放たれた細い青白い光がフェニックスの翼を貫き、指を上に向けると同時に翼が切断される。
「な、うぉおっ!?」
翼を切断されて浮力を失ったフェニックスが地面に墜落する。
「この程度…!」
フェニックスが炎を噴き上げ再生しようとするが、炎に勢いがなく龍香の攻撃を受けた時に比べて明らかに再生スピードが遅い。
「な、に?」
フェニックスが困惑する中、プロウフは追撃と言わんばかりに指先から光線を放ち、その全てがフェニックスを貫く。
「ぐはっ…!」
フェニックスは明らかに光線によってダメージを受けており、地面に膝をつく。
そしてプロウフにつけられた傷はフェニックスの炎でも修復出来ていない。
「な?何故再生が…!?氷を操るだけのお前に…!?」
「何か勘違いをしているようですね。」
プロウフは指を突きつけたまま言う。
「私の能力は氷を操るではなく、厳密には“凍結させる”能力ですよ。」
「凍結…?」
龍香が何が違うのかよく分からず小首を傾げる。それに気づいたのか、プロウフは龍香にまるで講義でもするかのように説明する。
「例えば先程の氷の壁は氷を私が発生させた、ではなく周囲の水分子を“凍結”させて作り上げたものなのです。そして今彼、フェニックスの再生が遅くなっているでしょう?」
「う、うん。」
「あれは私が彼の再生能力を“凍結”させたからですよ。まぁ熱を絡んでいるから完璧に凍結は出来てませんが。ですがあれだけ遅れれば再生する前に息の根を止める位は出来ますよ。」
「つまり、色んなものを凍らせることが出来る…?」
「まぁ、そんな認識で良いですよ。あながち間違いではありませんし。」
プロウフが龍香に講義をする中、カノープスが尋ねる。
《何故、そんなことを敵である俺達に教える?自分のタネを明かすなんて馬鹿のすることだぞ。》
「簡単です。“身内贔屓”と明かしたところで私に勝てないから、ですよ。」
カノープスの問いにプロウフはあっさりと答える。だが、その答えに龍香とカノープスはあながち間違いではない、と直感で感じる。今この敵を倒すことは不可能である、と。
さて、講義も終わったところですし。そろそろお別れの時です。」
プロウフは龍香からフェニックスの方に振り向く。光を放とうとするプロウフの指先にフェニックスが歯ぎしりをした瞬間。
ポンッと何かが打ち上がる音が何処かから聞こえる。音がする方に目をやると煙の尾を引いて光が空へ向かって飛んでいた。
そしてその光は三人の上に来ると弾けて炎を撒き散らす。
「なに!?」
「おっと。」
プロウフが手を空に翳すと氷の壁がドーム状に現れ、プロウフとすぐ側にいた龍香を炎から防ぐ。
一方のフェニックスは炎が降り注ぐ中、これ幸いとばかりにプロウフに向けて手を構える。
「プロウフ!俺は…生きるぞ!」
フェニックスから火炎が放たれる。放たれた火炎が地面を溶かしながらプロウフに向かっていく。
「…“使者の祈り《サントゥ・オラシオン》”」
プロウフがそう呟くと氷のドームの前に雪の結晶の如く優美かつ複雑な氷の壁が現れる。その炎はプロウフの作り出した氷の壁にぶつかると大爆発を起こし、辺り一面に水蒸気が立ち込める。
そしてその水蒸気が消えるとフェニックスの姿は影も形もなかった。
「逃げられましたか。」
プロウフは氷のドームの中で呟く。そして今度は龍香の方を振り向く。
龍香がビクッとなって身構える。相手はシードゥス。こちらにいつ牙を剥いてもおかしくない。
二人の間に緊迫した空気が張り詰める中、プロウフが口を開く。
「貴方達はその剣を使いこなせていない。」
「へ。」
プロウフは剣を指さしながら言い、龍香は困惑する。そして今度はカノープスに言う。
「思い出すことですね。貴方の真の力を。」
《真の…力だと?》
プロウフの言葉にカノープスもたじろぐ。プロウフはそれだけ言うと龍香達に背を向ける。
「精々精進することですね。」
プロウフがそう言い残すと氷の結晶がプロウフを包み込み、そして砕ける。するとプロウフの姿は消えていた。
起こった出来事に二人は呆然とする。
《奴は…何を。》
「カノープス…。」
二人が呆然としているとドラム缶を蹴飛ばして黒鳥が起き上がる。どうやら今まで気絶していたらしい。
「敵は!?あの鳥は何処に!?」
「あ、黒鳥さん。敵はその…取り逃がしちゃいました。」
「む…すまない。俺が気絶していたばっかりに。」
黒鳥はペコリと頭を下げる。二人がどうするかふと考えて、あ、と同時に声を上げる。
「「赤羽」さん!!」
一方の赤羽は攻撃が届かない空中から一方的に風の刃を放たれていた。
アルビレオが腕を振るう度に放たれる風の刃は避けると赤羽の足場を壊してくる。なので必然的に赤羽はその攻撃を受け止めるか、弾いて足場以外に飛ばさなくてはならない。
「…チッ。」
しかもアルビレオの方も流石に前の戦いで手酷くやられたのが相当堪えたのか赤羽の投擲する“椿”が飛んできても対応出来る距離を取っている。
つまり、赤羽からアルビレオに対して有効打が一切無いのだ。かと言ってアルビレオも赤羽に対して風の刃を放つも全て防がれ、決定打を決める事が出来ない。
だが、アルビレオに取ってこの状況は悪くない。要するにフェニックスのために足止め出来れば良いのだ。後はフェニックスの作業が終わるのを待てばいい。
(…とか思ってるんでしょうね。)
この膠着状態は赤羽に取ってあまり好ましくない。そしてそれを打開するには勝負に打って出るしかない。
(こんな状況も打開出来ないようなら…私に父の仇を取ることは…出来ない。だから)
「勝負ッ!」
赤羽は“椿”を取り出すとアルビレオに向けて投擲する。その一投は充分に距離を取っていたアルビレオには容易くかわすことが出来た。
だが続いて放たれた二投目の“椿”が一投目に投げてアルビレオの横を翔んでいた“椿”に接触する。
次の瞬間衝撃を受けたことで“椿”の信管が作動し、爆発を起こす。
「んなっ!?」
既に投げた物に対して物を当てる神業とも言える攻撃によって不意打ちを受けたアルビレオの体勢が崩れる。
それを好機と見たか、赤羽は足場を蹴りアルビレオへ跳躍し、肉薄する。
だがアルビレオは歯を食い縛り、翼を翻すと無理矢理身体を捻ってギリギリのところで赤羽の攻撃をかわす。
「あ、危なかった…!だが、これでお前は…!」
当然赤羽に飛翔能力はない。宙へとその身体を出した赤羽は重力によって下へと落ちる。
だが、赤羽の目は鋭くアルビレオを睨み続ける。赤羽は同じように身体を捻らせ両腕をアルビレオに向ける。すると次の瞬間両腕の装甲に仕込まれた特殊ワイヤーが射出され、アルビレオの身体に巻き付く。
「んなっ」
「はあぁッ!」
そして赤羽はそのワイヤーを渾身の力でグイと引っ張ると空中で縦にジャイアントスイングする要領で振り回す。
振り回されたことで完全に平衡感覚を失ったアルビレオがなんとか持ち直そうとするが時既に遅く、地表が目の前に来ていた。
次の瞬間衝突音とともに砂煙が巻き上がる。
赤羽は華麗に着地すると同時にアルビレオから外れたワイヤーを巻き取って刀を構える。
凄まじい勢いで地面に叩きつけられたことで苦痛に喘ぐアルビレオに赤羽は近づくと。
「これで終わりよ。」
赤羽が刀を振り下ろそうとした瞬間。何処からか殺気を感じた赤羽がバッと後ろを振り返ると、ポンポンと軽快な音と共に放たれた円筒状の物体が弧を描いて赤羽の足元へと着弾し、地面を転がる。
「?」
それと同時に円筒から煙が噴き出し、辺り一面を煙で覆ってしまう。
「ッ!新手!」
煙によって辺り一面が見えなくなり、敵が何処に潜んでいるかも分からなくなってしまう。だが赤羽は左目を閉じ、右目に意識を集中させる。すると“サダルメリクの瞳”がぼんやりと淡い光を発生させ、煙の中でも辺りを鮮明に確認出来るようになる。
そして赤羽がアルビレオの方を振り返ると、ヨタヨタと逃げ出そうとするアルビレオの姿が見えた。
「逃がすか…!」
赤羽がトドメを刺すべく刀を抜いて走りだそうとした瞬間、バンッと破裂音と共に足元の地面が弾ける。
赤羽はその弾けた地面の後から攻撃してきたと思わしき方向を向く。
そして“サダルメリクの瞳”を通して見えた攻撃手を認識した瞬間思わず赤羽の動きが止まる。
「!」
「た、退散なのだ。」
その攻撃手に赤羽が気を取られた一瞬の隙にアルビレオは風と共に消えてしまう。
そしてその一拍置いた後に。おーい、と声を上げながら黒鳥と龍香が赤羽の元に来る。
「赤羽、大丈夫か?」
「ご、ごめんなさい。取り逃がしちゃいました。」
「別にいいわ。こっちも逃がしちゃったし。それよりも、少し気になる事があったのだけれど。」
「?」
二人が赤羽の発言に二人が頭の上に疑問符を浮かべる中、赤羽は耳に仕込んだ通信機に指を当て、通信先にいる山形と連絡を取る。
「山形さん。報告があるのだけど。」
『何かしら。流石にそろそろ人がそこに集まりつつあるから、撤退しながらでいいわ。』
「では。…先程のシードゥスと戦った時に横やりが入ったのだけれど。」
「あ、私達もそう言えば。」
《何か飛んで来たな。別のシードゥスかと思ったが。》
先程のフェニックスとの戦いで飛んで来た炎を思い出した二人も声をあげる。
そして赤羽は驚愕の言葉を言い放つ。
「その横槍を入れたのは…“人間”だったのよ。」
「そう、人間が。」
どよめく作戦室で赤羽からの報告を受けた山形が呟く。
そしてその直後に火元の手元のモニターのディスプレイに着信が表示される。その着信先を見た火元に山形は頷いて返すと赤羽との通信を切ると同時に火元が通話を開始し、モニターに通信相手の顔を映す。
そこに映っていたのは少し痩せぎすな青年だった。
「よくここの通信先が分かったわね。」
『お久しぶりです。山形さん。』
通話から聞こえる男の声に山形の顔が険しくなる。
「…単刀直入に言うけど有栖川。これは何のつもりかしら。」
山形の言葉に有栖川は当然のことだと言わんばかりに悪びれもなく返す。
『彼を殺させる訳にはいかないのでね。それに子ども達に人殺しをさせないようにしてあげただけですよ。』
「…人殺しの怪物を討伐することの何が悪いのかしら。」
『元は“人”ですよ。彼らは。』
有栖川がそう言った瞬間、山形の顔がより一層険しくなり、声に怒気がこもる。
「彼らは怪物よ。父と彼を奪った、ね…!」
その言葉にその場にいた全員の顔が険しくなる。
『それは貴方の復讐ですよ。それに子どもを付き合わせるのは、如何なものかと。そうは思いませんか?金髪の君?』
有栖川は視線の先にいる雪花に尋ねる。雪花は腕を組んで俯いて壁に寄りかかっていたが、有栖川に声をかけられるとその顔を上げる。
『君は知ってましたか?シードゥスは“元人間”?』
「…そうね。正直知らなかったわ。」
雪花が答えると有栖川は続ける。
『そう、君は知らず知らずの内に人殺しに加担していたんだよ。シードゥスは人間なんだ。僕達はシードゥスを元に戻す方法を探してる。だから』
「だから何?」
有栖川の話を聞いていた雪花の瞳が怒りと憎悪が溢ればかりに鋭くなる。
「アンタらがちんたら元に戻す方法を探している間アイツらのやることに黙ってろとでも言うの?」
『…』
「アイツらのせいで、どれだけの被害が出たと思ってんの?風見は子供を、林張と黒鳥は友達を、火元は弟を、山形は父親と恋人を、嵩原の奴は父親を、龍香は先生を、私は姉さんを殺されてんのよ、アイツらに!今もアンタが庇ったアイツは被害を出しているじゃない!私はアイツらを絶対に許さない。一匹残らず根絶やしにしてやるわ。」
雪花の憎悪に有栖川は何処か憐れむような瞳で彼女を見つめる。
険悪なムードが流れる中、山形が有栖川に言う。
「…有栖川。アンタの理想を壊すようで悪いけど。シードゥスになった時点でもうその人間は死んだのよ。…鳳凰堂はもう死んでるのよ。」
『違う!アイツは…アイツは死んじゃいない!アイツは…』
山形のその言葉に初めて有栖川が激しく感情を表に出す。そんな有栖川を見て、山形は目を伏せて言う。
「…話は平行線のようね。ただこれだけは言っておくわ。私達の意見は変わらない。そして、“次邪魔をするなら私達も強硬手段に出るわ。”」
その言葉に有栖川も口をつぐみ、そして去り際に言い残す。
『残念ですよ。本当に。』
そう言い残すと通信が切れてしまう。ブラックアウトしたモニターを見ながら山形は呟く。
「……有栖川。もう引き返せないのよ。人も。シードゥスも。」
夜空に星が煌めき、窓から月光が差し込む部屋の中でアクエリアスは時折咳をしながらも、二人の帰りを待っていた。
先程自分達を支援してくれる“朧月”から連絡があり、フェニックスの行動に“新月”も強硬手段に出ると言う話を聞き、メンバーも危険かもしれないということで迎えに来ると言う通達を受けたのだ。
「…アルビレオ、フェニックス…。」
不安げにポツリとアクエリアスが呟く。すると玄関が開く音がし、足音が近づいてきてコンコンと部屋がノックされる。
「“朧月”の方ですか?」
「はい。護衛の件で参りました。」
アクエリアスが尋ねると、返事が返ってくる。女性の声だった。聞いた事のない声であったが、護衛の話を知っているということは新入りか、関係者なのだろう、そう思いアクエリアスは言う。
「鍵は開いています。」
「畏まりました。では、」
その声と共にドアが開く。そしてその直後にアクエリアスは驚愕する。そこにいたのは人間ではなく、桃色の仮面にライトグリーンの十字状の目をした貴婦人のドレスに身を包んだ怪物だったからだ。
「失礼しちゃうわね。」
「!どなたですか!」
アクエリアスがすぐに攻撃態勢に移って両手に発現させた水を相手に発射する。
「おっと。」
だが、その怪物はその水を人差し指から発生させた障壁で防いでしまう。
「ふふっ。面白いわねアナタ。シードゥスでもなければ、人間でもない。見たことない生き物だわ。」
「どうして護衛の話を…!」
アクエリアスは疑問を口にする。何故、この怪物はこの場所を、護衛のことを知っているのか。
アクエリアスの質問に怪物…スピカは愉快そうに笑って窓の外を指差しながら答える。
「あぁ、そうね。当然の疑問よね。まぁ、簡単に言うとさっきその辺で聞いたのよ。とても“親切”に教えて貰ったわ。ホント、色々とね。」
「まさか…!」
アクエリアスの顔が青ざめる。
「嘘じゃないわよ。あー、ちょっと入ってきて。」
スピカがそう言うと廊下から音もなく二体の一つ目の人形が入ってくる。
そしてスピカが頭を捻りながらむーむー、唸った後パチンと指を鳴らすと二体の人形に異変が起こる。
グニャリと身体が歪むと同時にその身体の骨格が変形していく。そして次の瞬間その場には長い髪の男と橙色の短髪の女に変身する。
その姿を見たアクエリアスは絶句する。
「そんな、」
「ね?嘘じゃないでしょ?…ってそんなことはどうでも良いのよ。私、研究肌だから貴方のことスゴく興味があるのよ。色々お話を聞かせてくれない?そしたら私は貴方に対して一切の危害を加えないし、すぐ帰ると約束するわ。」
「…ホントに、ですか。」
「ええ。私約束は守る女だから。」
一瞬の俊巡の後、アクエリアスはスピカの提案に応じる。
「…分かりました。」
「物分かりが良い子は好きよ。じゃ、まずは貴方のルーツから、聞いていきましょうか。」
スピカにアクエリアスは自分が知る限りの情報を話す。自分の生い立ち、自分が連れ去られたオウマがトキという場所のこと、自分はそこでリビングスイーツというお菓子の怪物に変えられてしまったこと、そしてそこで偶発的に出会ったフェニックスのこと、そしてアルビレオを生んだこと。
その事をフンフンとスピカは興味深そうに聞いていた。相槌を打ち、時に何処から取り出したのかメモまで取り始めた。
「…んで、そのオウマがトキとやらはどうやって行けるのかしら。」
スピカが尋ねるとアクエリアスはすぐ側の箱から掌サイズの赤い珠を取り出す。
「…この、宝玉があれば行ける、とは。私はもう戻る気はありませんが。」
「あ、そうなの。ふーん。いや、実に興味深いわね。リビングスイーツ。オウマがトキ。是非行ってみたいわね。」
スピカはペラペラとメモ帳をめくってもう、質問することはないと判断したのかそれをしまう。
「ま、これで貴方から聞きたいことは大体聞いたわ。ホントは解剖したいとこだけど危害は加えないと約束しちゃったし。そろそろ帰るわね。」
「…そう、ですか。」
「ま、精々フェニックスと子供と一緒に仲良くしなさいな。」
そう言うとスピカはパチンと指を鳴らす。
「“あの世”でね。」
次の瞬間窓を、天井を、床を、突き破り現れた人形達が持つ槍が次々とアクエリアスの身体を貫いた。
「え、は」
突然のことでアクエリアスは呆気に取られるが、徐々に現状が把握出来、やってくる激痛に悲鳴を上げる。
アクエリアスを貫いた槍からは滝のように白濁した液体が流れ出す。それをスピカは一すくいすると匂いをかぐ。
「へー、ホントに貴方体液がアクエリアスなのね。」
「な、んで。危害は加えない、って。」
アクエリアスの責めるような瞳にスピカは顔を近づけて、嘲る。
「えぇ。約束したわ。だから“私は”危害を加えてないじゃない。“私は”、ね。ま、安心しなさい。フェニックスはプロウフが、子供は“新月”の連中が始末してくれるわよ。」
「そん、な…。嫌…死に…た…ない…死…」
槍が刺さり、モゾモゾと力なく蠢くアクエリアスからスピカは顔を離す。
「あと、私水瓶座嫌いなのよね。貴方が“アクエリアス”じゃなきゃ見逃したんだけど。」
「まだ、何も、出来てない」
スピカがそう言うと同時に人形達の口に当たる部分が、バギンという音ともに開き、鋭い歯を備えた口が露になる。
「ま、お菓子らしく食べられなさいな。それではごきげんよう。」
「フェニックス…ヒバリ…!」
次の瞬間、人形達が一斉にアクエリアスに食らいつく。鳥葬が如く人形達が群がりアクエリアス捕食する様は筆舌に尽くしがたい光景であった。
液体が辺りに飛び散り何かが砕ける音がする。しばらく悲鳴と共に音が鳴っていたが、それも悲鳴と共にドンドンと小さくなり、ついには聞こえなくなる。
そんな様子をスピカが面白そうに眺めているとコツンと足元にアクエリアスが言っていた赤い珠が転がってきた。
「これは…確か。」
スピカはそれを拾い上げる。そしてフフッと笑って変身している人形二人に言う。
「貴方達はそのまま“朧月”に行きなさい。ええっと確か彼らの喋り方は、と。」
スピカがその人形達の頭に手を翳すと、人形達の目に光が灯る。
「す、スピカ、様。」
「仰せのままに、っと。」
「あらあら。途端に可愛くなくなったわね。ま、確かこんなモンでしょ。」
二人はすっとした足取りで部屋を後にする。
スピカはくるくると珠を手で回したりして弄びながら夜空を見上げる。
「にしても、私達が元人間。そして彼らは私達を元に戻す…ね。ふふっ。プロウフが隠したがるのも無理はないかも。」
フェニックス達との戦いから数日後、“新月”の基地内の廊下を雪花は歩いていた。
鼻唄を歌いながらふとトレーニングルームを通りかかった時だった。誰かの息遣いが聞こえた。
「?」
誰が使っているのか気になった雪花はトレーニングルームを覗く。
するとそこにはランニングマシンで走っている龍香の姿があった。
「はぁ、ぜぇ…ぜぇ」
「珍しいわね。アンタがそれ使うの。」
「ぜぇ、あ、雪花、ちゃん。」
雪花の姿を見た龍香は一旦機械を止めて降りる。ぜぇぜぇと荒い息を吐きながらも、深呼吸を繰り返して落ち着いたのか喋り出す。
「いや、ほら。あの力あるんだけど、途中で切れちゃって。なんか白いシードゥスからも、力が使いこなせてないって言われたから。」
「で、筋トレ?まぁ体力つけるのは悪くない考えね。」
《真の力…力…。》
机の上の方に目を向けるとカノープスがブツブツと一人で何かを呟いていた。
「こっちもこっちで忙しいみたいね。」
龍香は疲れたのかペタンと座り込んでまた一息つく。そしてあ、と何かを思い出したように声をあげる。
「そう言えば風見さんが“デイブレイク”の修理終わったから作業場来てくれって言ってたよ。」
「ホントに!?」
それを聞いた雪花が龍香に詰め寄る。あまりのテンションの上がりっぷりに龍香は呆気に取られる。
「う、うん。」
「ようやく出来たのね。待ってたわ!」
雪花はそう言うとトレーニングルームを後にする。そんな雪花をポカンとした顔で龍香は見送った後、カノープスに近づいて、手に取る。
「ねぇ、カノープス。」
《ん、なんだ龍香。》
「あのシードゥス。お母さんを知ってたみたいなんだけど…覚えて、ないの?」
《…すまない。でも確かに奴とは一度会った…ハズだ。》
「そっか…。」
龍香は黙ってしまう。母を知っているシードゥス。龍香は母のことは覚えていない。そもそも龍香が物心つく前に死んでしまった、と龍香は冴子から聞いている。
「お母さん…、どんな人だったんだろ。」
龍香の呟きにカノープスが言う。
《なら聞いてみるか?》
「へ?」
カノープスは呆気に取られている龍香にこう続けた。
《いるだろう。身近でよく知っている人間が。》
広々とした応接室。いくらするのかも想像がつかない革張りのソファに龍香は座っていた。
そして対面には兄、龍賢の姿があった。龍賢は出されたお茶を飲みながら言う。
「珍しいな。龍香から尋ねてくるなんて。」
「ごめんね。突然尋ねて来ちゃって。」
「気にするな。一段落着いたところだ。」
龍賢はそう言うとお茶の入った湯飲みを机に置く。
「で、聞きたいことはなんだ?」
「えっと、その。お母さんのことについて、知ってるシードゥスがいて。白い身体に紫の仮面の。それで、お母さんのこと聞きたくなっちゃって。」
「母の事を知ってるシードゥス?」
龍賢が聞き返すと同時に別の声がする。
《なんだ、オマエらプロウフに会ったのか。》
「トゥバン。」
それは龍賢に宿るトゥバンの声だった。
《お前、知っているのか?》
カノープスが尋ねるとトゥバンは何言ってんだと言わんばかりに答える。
《知っているも何もオマエがその、コイツらの母親と戦ったシードゥスのボスだろうが。》
「シードゥスの」
「ボス?」
あまりにも衝撃的な言葉に龍香と龍賢に緊張が走る。
《オマエらの母親は結構善戦したらしいぜ。確かにプロウフの奴には今一歩及ばなかったが、アイツの左腕を持っていき、長期間療養が必要な程の手傷を負わせたんだって話だ。》
《プロウフ…!》
トゥバンの言葉にカノープスは何かを思い出すかのように反応を示す。
「そうだったんだ…。」
「……。そうか。そうだったのか。」
龍賢はトゥバンの話を聞いて、何かを納得する。そして龍香の顔を見つめなて、言う。
「お前が生まれた日。母は生まれたばかりのお前を抱きながら俺に言ったんだ。“これから先何があっても兄妹力を合わせて生きていけ”とな。」
「そう、だったんだ…。」
「母は優しい人だった。そして、利口な人であったと思う。それこそ自分の死期を悟る位には。」
「…。」
龍香と龍賢の間に何とも言えない空気が漂う。しばらくして、龍賢が口を開こうとした瞬間コンコンと部屋がノックされる。
「どうしましたか。」
「すみません社長。どうしても見て頂きたい案件がありまして。」
「分かりました。すぐに向かいます。」
龍賢はそう言うと立ち上がる。
「すまない龍香。急用が出来た。」
「ううん。ありがとね。話せてよかった。」
《早く終わらせよな。早く俺も暴れてぇんだワ。》
「分かった分かった。…そうだ龍香。」
龍賢はポケットから何か巾着袋のようなものを取り出す。そしてそれを龍香に手渡す。
「?」
「お守りだ。気休め程度だが一応持っておけ。」
龍賢はそう言って龍香にそれを渡すと部屋を後にし、龍香も会社から出て帰路につく。その道中龍香はカノープスに尋ねる。
「どう、カノープス。何か思い出せた?」
《…何と言うか、何だろうなこの、思い出せそうで思い出せない、このもどかしい感じ。この辺まで出てるんだが。》
「どの辺か分かんないよ。」
龍香が笑って返す。そして辺りもそろそろ日が暮れ始めて周りが茜色に染まった時、龍香の携帯に着信が入る。携帯を開くとそこにはばあやの文字が。
「もしもし。ばあや?」
『龍香お嬢様。そろそろ晩御飯が出来ますゆえ早めにお帰りを。』
「あ、そうなの?今日は何?」
『今日の献立は』
冴子の献立を聞こうとした瞬間、キキィという音ともに龍香の隣に黒色のボックスカーが止まる。
「?」
龍香が黒色の車に気を取られた瞬間後ろから手が伸び、何か布のようなものを口と鼻に押し付けられる。
「ッ!!?」
突然のことに龍香はパニックになり、ジタバタと暴れるが、何かツンとした鼻をつくような匂いがしたと知覚すると同時に徐々に身体から力が抜けていく。
「む…ぐっ…」
《龍香!おい!龍香!俺に》
カノープスの声が遠くなる。そして龍香の意識が完全に暗闇に沈み、身体から力が抜けて倒れる。
そして車から降りた人物達は龍香を抱えると車に乗せ、その場を後にする。
『龍香お嬢様?龍香お嬢様!?』
路上に落ちた携帯から冴子の声が響く。だが、その声に答える者はいなかった。
何処かの寂れた神社の境内。寺の渡り廊下に腰をかけ、プロウフは夜空の満月を眺めていた。
(それにしても、よく似ている。)
プロウフは数日前の戦いでたまたま会ったカノープスをつけた少女のことを思い出していた。
あの容姿、髪の色。そしてあの雰囲気。数年前に戦ったカノープスをつけた女性を彷彿とさせ、ふと笑みが溢れる。
(彼女は良い子を産んだようですね。)
思い出に耽っている時だった。後ろから気配を感じ、振り返るとそこにはスピカがいた。
「スピカ、ですか。」
「ええ。どうやら貴方はまだ、フェニックスを見つけられてないみたいね。」
「そうですね。」
スピカはピッと指を立てて言う。
「私を味方につけといて良かったわねプロウフ。私ならアイツをおびき出すことが出来るわ。」
「…ほう。」
スピカは地図を取り出すとピンを刺す。その場所にプロウフは見覚えがあった。
「ここは…」
「良い場所でしょ?」
「中々悪趣味ですね。貴方も。」
「お褒めに預り光栄だわ。プロウフ。」
「別に褒めてはいませんがね。」
スピカが刺した場所。そこはかつてフェニックスが焼き払った“研究所”だった。
「ここは…。」
龍香が目を覚ますとそこは知らない場所だった。倉庫のような家具など一つもない殺風景な部屋だ。
「…確か。」
後ろから口に何かを当てられ、気絶していたのだと思い出す。そして龍香は髪の毛を触ってあることに気づく。
「カノープス?」
そう。いつも髪についているカノープスがいないのだ。慌てて全身をまさぐってみるが、ある種当然とも言えるかもしれないがカノープスはいなかった。
「カノープス!?そんな…。」
龍香が悲観していた時だった。ドアが開く音がする。するとそこにはあのシードゥス、アルビレオがいた。
「あなたは…!」
思わず龍香は身構えるが、アルビレオは慌てたように言う。
「落ち着くのだ。別に攻撃したりする気はないのだ。」
「誘拐するような人の言うことなんて信用できない!カノープスは何処!?私達をどうする気!?」
「まぁまぁ落ち着いて下さい。」
龍香がアルビレオに食ってかかると、アルビレオのに長い髪の青年が現れる。
「人…間?」
「僕は森嶋恒河。君に聞いてほしいことがある。」
森嶋、と名乗った青年は龍香を外に出るように促す。従うのは癪だが、カノープスがいない今龍香に出来ることはたかが知れている。
仕方なく龍香はその誘導に従い外へと出る。
「聞いて欲しいことってなんですか?」
龍香が尋ねると森嶋は言う。
「勿論、アルビレオとフェニックスの邪魔をしないことをお願いしたいのです。彼らはただ、自分の妻であり母を助けようとしてるだけです。」
「そうなのだ!ただ、ボクは母上を救いたいだけで」
「…でも、人が犠牲になってる。」
龍香の言葉にアルビレオがうっとなる。一方の森嶋は特に表情を崩す様子はない。
「他の人にも嫌な思いをさせることが正しいとは私は思わない。」
「それは…」
「それは、あなたの大切な人がその立場に置かれても、ですか?」
森嶋の問いに龍香は一瞬詰まる。だが、すぐに真っ直ぐな瞳で森嶋に言う。
「私はしようとするかもしれない。でも、お兄ちゃんは絶対にそんなことは望まない。だから私も“しない”。もしそうなったらせめて最期の時まで一緒にいる。」
「…!」
龍香の言葉でアルビレオの脳裏にアクエリアスの言葉が甦る。もしかしたら、自分は。アルビレオの顔が暗くなるが一方の森嶋の表情はやはり、変わらない。
「貴方達は人間?なら何でシードゥスと手を組んでいるの?」
龍香が尋ねると昴は笑みを浮かべたまま、言う。
「それは“彼”が答えてくれますよ。」
そう言うと森嶋は部屋の前のパネルを操作して、目の前の扉を開ける。
開けられた扉から奥へと進むと、怪しげなビンやフラスコがあり、青い光を放つモニターが一面にならんでいる部屋に出る。龍香はなんとなくそこは研究所というのが分かった。
そして、龍香の目に部屋の中央の台の上に転がっているカノープスが映る。
「カノープス!」
龍香が近寄ろうとするが、その前に横から一人の男が現れ、道を塞ぐ。
「“朧月”にようこそ紫水龍香ちゃん。歓迎するよ。」
「貴方は誰?」
「私の名前は有栖川星彦。一応ここのリーダーってとこかな。」
そして星彦の隣に炎の鳥のような怪物、フェニックスも現れる。その身体はすっかり元通りになっており、プロウフにつけられた傷の痕は微塵も残っていない。
「貴方は…!」
「自己紹介がまだだったな。俺はフェニックス。シードゥスだ。」
フェニックスの登場に龍香は身構える。だが、有栖川は龍香に笑いかけながら言う。
「安心してくれ。君に危害を加えるつもりはない。まぁ、誘拐したのは悪かった。謝るよ。」
「…何で私のことを?」
「“新月”のことは調べさせて貰ってね。まぁそうでなくてとも宇宙開発の若きエースでもあった紫水昇鯉(しょうり)氏のご息女ともあれば、知らないハズもない。」
「……お父さんのこと?」
「その通り。」
龍香の問いに有栖川は笑顔で答える。
「そもそも、君はシードゥスは何故生まれたのかを知っているかい?」
「…。」
有栖川の問いに龍香は答えることが出来なかった。シードゥスが何故生まれたのか、確かにそのことは知らないし、考えたこともなかった。
「そもそもの始まりは君の父、紫水昇鯉氏率いる調査隊がとある隕石の調査に向かった事が発端だ。」
「…お父さんが?」
困惑する龍香。それも当然だ。いきなり何を言い出すかと思えばこのシードゥス騒動に自分の父が関係していると言うのだから。
「その隕石には宇宙から来た粘液生命体、フュージが付着していた。その生命体が人間に寄生し、変貌したのがシードゥス。そしてそのフュージは調査隊に寄生した。そして各地に散らばり数々の人々をシードゥスへと変えていった。」
「ち、ちょっと、待って。そ、それって。」
有栖川の言葉に龍香の脳裏に嫌な予測が立つ。それは考えうる限り最悪の予測だった。
「そうだ。君の父はシードゥスとなった。何のシードゥスかは知らないが、確実にね。」
「そんな…じ、じゃあ。」
「そう、君は元人間をその手で倒してきた。もしかしたら、君が倒したシードゥスの中にお父さんがいたかもしれない。」
「…!!」
龍香の顔が青ざめる。今まで戦ってきたのは元人間。そしてもしかしたら、父だったかもしれない。それは龍香の精神を削るのに充分だった。
ショックのあまり膝から崩れ落ちる龍香の肩にポンと有栖川が手を置く。
「…だが、勘違いしないでくれ。君を責めている訳じゃない。君は何も知らない。仕方がなかった。戦えと言われたら、どうしようもないだろう。それに私達は今、シードゥスと人間を切り離す方法がないか考えている。つまり、もしかしたら君の父を戻せるかもしれない。」
「お父さんを…?」
茫然とする龍香に有栖川は続ける。
「あぁ。その通りだ。だから君も私達に協力してくれないか?君がいてくれれば百人力だ。君がシードゥスを、皆を救うんだ。」
有栖川が握手を求める手を伸ばす。
「私が…」
追い詰められた龍香は恐る恐る有栖川に手を伸ばす。そしてその手が結ばれようとする、その瞬間だった。
《黙って聞いてりゃ…勝手な事を言いやがるな。》
全員がその声の主に目をやる。その先にいたのは…カノープスだった。
「カノープス?」
《龍香。コイツらの言うことを聞く必要はない。何故ならシードゥスを人から分離するのは…不可能だからだ。》
「え」
カノープスの言葉に有栖川の眉がピクリと動く。
「…何を根拠に、そんなことを。」
《俺がシードゥス当人だからだが?フェニックス。テメェも知ってるだろうが。》
「……。」
カノープスに話を振られるがフェニックスは黙ったままだ。
《龍香。残酷な話だが、心して聞け。フュージに寄生されてシードゥスになった時点で、その人間はもう死んでるんだよ。》
「違う!」
有栖川が声を荒げる。隣で大声を出された龍香はビックリする。そしてそんな有栖川を見たことないのか、アルビレオも困惑している。
「ほ、星彦博士?」
「フェニックス、鳳凰堂ヒバリは死んじゃいない!今も生きている!」
有栖川がフェニックスに手をやる。だが当のフェニックスは黙ったままだ。
その様子を見てカノープスは嘆息する。
《フェニックス。お前も悪趣味な野郎だな。こんなに歪む前にどうして一言不可能だって言ってやらなかった?》
「…お前には関係のない話だ。」
《いや、ある。何せ今こうして俺と龍香はお前らの訳の分からん話に付き合わされてる。それに有栖川とか言ったか?お前の話が仮にホントだとしてもお前らのような“醜い”奴らに龍香を近づけさせる訳にはいかない。》
カノープスの言葉に龍香とアルビレオ以外の顔が険しくなる。
「私達が醜いだと?シードゥスを救おうとする私達が?」
《あぁ。醜いね。人の親の過去を利用し、たらしこみ、騙し、操る。シードゥスを救いたい、分離する方法を探す。そりゃ結構。だがお前らはその研究とやらが完成する間に犠牲になる人々のことをまるで考えていない。どれだけの被害が出たと思う?今、お前がやっていることを教えてやるよ。お前は鳳凰堂とやらが死んだことが受け入れられなくて現実から逃げて意味がない研究のために無駄に犠牲を出す最低なことをしているんだよ!》
「オマエェェェェ!!」
カノープスの暴言に激高した有栖川はカノープスを掴むと思いっきり投げ飛ばす。投げられたカノープスは壁にぶつかると地面に落っこちる。
「カノープス!」
「落ち着け有栖川!」
龍香は慌てて投げられたカノープスの元へ向かい、森嶋が有栖川を抑える。
フェニックスは黙ったまま、アルビレオはどうしていいやらおろおろとしている。
「カノープス大丈夫!?」
《いってて、マジで投げやがって…!》
龍香はカノープスを拾い上げる。怒りが冷めやらず肩で息をする有栖川を龍香はキッと睨み付ける。
「何が真実で、何が正しいのか、正直私には分からない…だけど、これだけは分かる。こんなことをする貴方達は信用出来ない!」
龍香の叫びに有栖川がプルプルと震える。
「紫水の連中はどいつも、コイツも…!」
怒りの有栖川を制するようにフェニックスが前に出る。
「交渉は決裂、だな。」
「ち、父上?」
「離れていろアルビレオ。」
フェニックスの身体から焔が噴き出す。どうやらやる気らしい。龍香も応戦するべくカノープスを頭につけて叫ぶ。
《いくぞ龍香!》
「うん!ダイノフォーゼ!」
次の瞬間隠れ家の壁を突き破り二人の人影が飛び出す。変身した龍香とフェニックスは“タイラントアックス”と炎の剣で鍔迫り合いをする。
そして一旦切り払って二人は距離を取る。フェニックスは炎の翼を広げると、羽根を龍香に向けて放つ。
「!」
羽根が炸裂し、爆発を引き起こす。だが、その爆炎を切り裂きさらに鎧を纏った強化形態ティラノカラー・アトロシアスに変身した龍香が現れる。
「またソイツか。」
だがフェニックスは飛翔すると炎の剣を振る。龍香もその剣を“タイラント・ブレイド”で受け止める。
「それでは俺に勝てないと分かっているだろう!」
フェニックスがさらに攻撃の手を強め、龍香に猛攻を仕掛ける。
「くっ!」
確かに必殺の一撃もフェニックスには通用しない。さらにこの形態は猛烈に体力を奪う。つまり長期戦に持ち込まれると龍香は完全に勝ち目を失う。
だが、フェニックスに対して有効打がない。焦る龍香にフェニックスは手を翳す。
「!」
翳した手から炎が噴き出し、龍香を吹き飛ばす。なんとかギリギリのところで防いだ龍香だが、大きく吹き飛ばされて地面を転がる。
「うううううう!」
龍香が衝撃に呻く。“タイラント・ブレイド”を支えに何とか立ち上がるが依然として状況は変わらない。
「どうしよカノープス?やっぱり逃げる?」
龍香が撤退を提案する。だが、カノープスは意外な発言をする。
《いや、龍香。もう一度打ち合って見てくれ。》
「?」
《癪だが、トゥバンの野郎、プロウフの奴のお陰でコイツの使い方を少し思い出した。》
「…信じるよ!」
《応ともよ!》
カノープスの言葉を信じ、龍香は“タイラント・ブレイド”を改めて構え直す。その様子をフェニックスはため息まじりに眺める。
「無駄な足掻きを…。」
フェニックスは再び炎の剣を構え、翼を広げて龍香に向けて突っ込む。
龍香もフェニックスに向けて大きく跳躍し、駆け出す。
「何度やっても同じだぞ!」
「それは、どうかな!」
龍香は“タイラント・ブレイド”を振りかざし、フェニックスと再び激突する。
剣と打ち合う度に、徐々に“タイラント・ブレイド”の刃の部分が徐々に紫の光を放ち始める。
「剣が…!」
「光ったから何だと言うんだ!」
フェニックスが炎の剣を振り下ろす。だが、勝利を急いた大振りを見切った龍香は身を捻ってその一撃をかわす。
「何!」
「これでも喰らえ!」
“タイラント・ブレイド”を龍香が振り上げる。振られた刃はフェニックスの炎の翼に直撃する。
その瞬間刃の光が妖しく輝き、何かを噛み砕くような音が鳴り響き、翼が切り裂かれる。
「たかが翼を…!」
フェニックスが龍香に切断された翼を再生しようとする。だが、いつまでたっても翼が再生する様子は見られない。
「な、に?」
「これは?どういう、こと?」
その様子に攻撃した当の龍香も状況をよく掴めていないのか唖然とする。
《この剣は、斬った相手の能力を捕食し、無効化する。そして》
カノープスの目が光ると同時に刃から炎が噴き出す。
《その能力を俺達のモノにする!》
龍香はそのまま刃を振り下ろし、フェニックスを斬り伏せる。斬られたフェニックスは揉んどり打って地面を転がる。
「なん…だと…!?」
「形成逆転…だね。」
龍香はフェニックスに燃える刃を突きつける。フェニックスの思わぬ苦戦にアルビレオ達も不安の顔を見せ始める。
「ち、父上…!」
だがフェニックスは立ち上がると全身から更に焔を噴き出し、龍香達を威嚇する。
「!」
「再生能力が封じられようが、まだ俺が負けた訳じゃねぇ!」
能力が封じられても尚衰えぬ闘気とその気迫に龍香も思わず気圧される。
そして再び二人が互いにどう攻撃を仕掛けるか間合いを図っている、その時だった。
「た、大変だフェニックス!」
声がした方に目をやるとそこには橙色の髪の女と緑の髪の男がいた。
「ステラ!悪いが今忙しい!要件は後に…」
「アクエリアスが拐われた!」
その言葉にフェニックスを含め、“朧月”のメンバー全員が驚愕する。
「私達が駆けつけた時には…もう拐われてて、返して欲しかったらここに来いって…!本当にすまない!」
「場所は何処だ!?」
フェニックスは最早龍香など眼中にない程必死なようで、ステラ達の方へと向かう。
ステラはフェニックスにポケットから取り出した地図を渡す。
「ここか!待っていろ!アクエリアス!」
地図を受け取ったフェニックスは必死の形相で何処かへと飛翔してしまう。
「どうしたんだろ?」
《どうやらあちらさんにとって予期せぬトラブルらしいな。ま、何んにせよ。》
フェニックスがいなくなったのを確認するとカノープスはアトロシアスを解除し、元の姿に戻る。
《これで逃げれる。さっさと帰って山形に報告だ。》
「うん。」
フェニックスがいない以上龍香を止めれる者は誰もいない。だが、彼らは今龍香など眼中にない程混乱している。
「ご、ごめん。」
「ステラ、昴!どうしてもっと早く連絡を…」
「ご、ごめん。」
「通信機だってあったろう!?」
「ご、ごめん。」
「謝ってばかりじゃな」
謝罪を繰り返す二人に話し掛けていた森嶋の言葉が途切れる。見れば森嶋の身体を二本の槍が“貫いていた”。
「え」
「ご、ごめ、ごめめめめごめごめごめごめめめめめめめめめめめめめめnajhpmftql@くたkgmwんらてあhjpm」
まるで誤作動を起こしたロボットのようにステラと昴と呼ばれた二人が震え始め、その顔が崩れる。
そして二人は一目の人形へと変貌する。
「Excution」
妖しく目を輝かせる人形は森嶋の身体から槍を引き抜く。槍を引き抜かれ、鮮血を滴らせる森嶋はまるで糸が切れた人形のようにその場に倒れ込む。それを見た有栖川とアルビレオの顔が驚愕の色に染まる。
「森嶋!?」
「あ、あ、ああああ」
二体の人形が次はお前だと言わんばかりに二人へと目を向ける。
「あれは!?」
《スピカの人形!?どうなってやがる!》
その惨状を見た龍香は慌てて二人の元へと向かう。だが二体の人形は槍を二人に向ける。
有栖川は歯ぎしりをするとドンッとアルビレオを突き飛ばす。
「うわっ」
「お前は逃げろ!アルビレオ!」
次の瞬間。二本の槍が有栖川を貫く。串刺しになった有栖川を見て、アルビレオの頭は恐怖でパニック状態に陥る。
「あ、ああああうわああああああ!!?」
パニックになったアルビレオは人形達に背を向けて走り出す。
人形は槍を引き抜くと今度はアルビレオに狙いを定めたのか、追い掛け始める。
槍を引き抜かれ、倒れた有栖川に龍香は駆け寄る。だが、素人目で見ても致命傷であると龍香達には分かってしまう。
「有栖川さん…」
血に塗れ、いつ死んでもおかしくない状況であるにも関わらず、有栖川は龍香の方を見ると手を伸ばし、掠れた声で言う。
「た、頼む…ア…ルビ…」
そう言うと有栖川の手から力が失われ、ぺチャリと水音を立てる。
そんな有栖川の手を、屈んで両手で掴むんで龍香は言い聞かせるように有栖川に言う。
「任せて。彼は私が助ける。」
歪んで、やり方は間違っていたかもしれないが、それでも誰かを想っての行動であったとは最期の行動で分かった。
彼もシードゥスによって人生を狂わされた被害者だったのかもしれない、とも。
《…行くぞ。》
「うん!」
龍香はそっと手を置くと人形達を追い掛けて走り出す。
「はぁ、はぁ…星彦博士…!森嶋…!」
アルビレオは走った。訳が分からない。ステラと昴が変身して二人を殺した。
何故、何故こうなってしまったのか。
「母上…!」
母の言っていた報いという言葉が思い浮かぶ。これはその報いなのだろうか?母を救うために他人の命を奪った自分達への?
頭の中がぐちゃぐちゃになり、考えてが纏まらず逃げて逃げて逃げ続けたその時、横からまた別の人形が現れる。
「んなっ!?」
アルビレオはギリギリ尻餅をつくことでその攻撃をかわす。だが、そのせいで後ろの人形にも追い付かれた。
三人の人形に囲まれ、アルビレオは絶対絶命に陥る。
「う、うわわっ」
槍が振り上げられ、思わず目を瞑ったその瞬間、目の前の人形の顔に刀が突き刺さる。
「へ?」
前からから走る音が聞こえる。その方に目をやると同時に自分を飛び越え一人の人影が飛び出す。
赤と黒の髪に右目に三つの目を組み合わせた特徴的な眼帯をした女。
「ふっ」
女、赤羽は擦れ違い様に左右にいる人形に両腕のアンカーを射出しつつ刀を投げて突き刺した人形に膝蹴りを叩き込みながら押し倒すと腕を思い切りクロスさせ、アンカーが突き刺さった二体を引き寄せ、まるでアメリカンクラッカーのように二人をぶつけ、ひしゃげさせる。
「すっ、スゴいのだ…」
あっという間に三体の人形を戦闘不能に追い込んだ赤羽にアルビレオが思わず見とれていると、最初に刀を突き刺した人形から刀を抜き取った赤羽がこちらに振り向く。
「また会ったわね…クソシードゥス。」
殺す気満々と言った赤羽にアルビレオは自分が勘違いしていたと思い知らされる。そう、自分は助かったのではなくただ状況が悪化しただけだと言うことに。
「今度こそ切り裂いて手羽先にしてやるわ。」
「ひ、ひぇ…」
「ストップ!ストッープ!」
赤羽がアルビレオに斬りかかる寸前に龍香が現れ、赤羽に待ったをかける。
「…邪魔をする気?」
当然その行為は赤羽からすれば敵を庇う行為で、赤羽は明らかに龍香にも敵意を見せる。
「い、いや!その。そう!そのシードゥスは降伏したんです!敵意ももう無いんです!」
「信用出来るものですか!相手はシードゥスよ!」
赤羽が叫び返し、龍香は思わず萎縮する。赤羽の鬼気迫る表情は直接向けられてなくても滅茶苦茶怖い。
龍香がどう説得するか思案していると、代わりにカノープスが赤羽に言う。
《龍香の言っていることは本当だ。ソイツはただの“父親想い”の無害なシードゥスだ。》
「……。」
その言葉に一瞬赤羽から殺気が消える。さらにカノープスは続ける。
《もしソイツが変な真似をすれば俺達が切り捨てる。だから、ここは一旦待っちゃくれないか?》
「……チッ。仕方ないわね。」
赤羽は刀を鞘に納める。態度の軟化ぶりにポカンとする龍香はカノープスに尋ねる。
(ねぇ、なんで急に…)
《アイツは言葉の端々から何となくファザコン染みた匂いがしたからな。父親って言葉に弱いかもとな。》
(へぇ~)
カノープスの言葉に納得した龍香は、ふとあることが疑問に思い浮かぶ。
「あれ?そう言えば赤羽さん何でここに?」
「…あなたのお兄さんから“新月”に連絡があったのよ。あなたが拐われたようだから発信機の反応を追ってくれって。今自分は動けないからってね。」
「発信機?」
《…あ、あのお守りか。》
龍香はポケットからお守りを取り出すと袋を開ける。すると中には赤い点滅を放つ黒い長方形の機械が入っていた。
「お兄ちゃんったら…」
気遣われて嬉しかったのか、龍香は照れ照れと頬を染めてはにかむ。だが、逆にカノープスと赤羽はドン引きする。
《不安だからって普通発信機を持たせるか…?》
「…今回はそれで助かったみたいだけど、私正直引いてるわ。」
三人がやいのやいのしていると、アルビレオが恐る恐る話し掛けてくる。
「そ、そのいいかな。」
「あ?話し掛けないでくれる?」
「ひゅ…」
《威嚇すんな。で?何だアルビレオ。》
どうやら赤羽はまだアルビレオのことは信用しきってないようで徹頭徹尾塩対応だ。
代わりにカノープスがアルビレオの話を聞く。
「そ、その。母上を助けてに行った父上のところに行きたいのだ。」
「あ、そうだった。」
フェニックスは戦闘を中断してまでアルビレオの母を助けに行った。余程大切に想っているのだろうということは想像に難くない。
《って言っても場所分からんしなぁ。》
「ば、場所は覚えているのだ。僕も地図を見たし。」
アルビレオが取り出した地図に指した場所。それは
「…宇宙科学研究所?」
宇宙科学研究所跡地、そこの屋上でプロウフとスピカはフェニックスを待ち構えていた。
すると、スピカが何かを受け取ったのかプロウフに言う。
「ねぇ、プロウフ。さっき“朧月”って言う組織に潜り込ませた人形から連絡があったんだけど。」
「何ですか?」
「ま、取り敢えずこれ見てよ。」
スピカはプロウフに空中に写し出した光のメモ用紙みたいな物を渡す。それを受け取ったプロウフはそれを読む。そして読んでいる内に目がドンドンと鋭くなる。
「フェニックスもエグいことするよね~。シェダルの奴をこんな形で再利用するなんて、ねぇ。」
「…スピカ。貴方は」
プロウフが問おうとするとスピカは察したのか。
「あぁ、私達が元“人間”って話?別にどうでもいいし、戻りたいとも思わないわ。だってこの身体は最高ですもの。」
「…そうですか。」
スピカの言葉にプロウフが何処かホッとしているのをスピカは見逃さなかった。
(ふふっ、プロウフも心配性ね。仮に人間に戻れる、と分かっても戻りたい奴なんてここにはいないわよ。)
などとやり取りをすると、夜空に炎の翼が見える。そしてその翼は徐々に近づくと炎を撒き散らしながら着地する。
「プロウフ…!それにスピカ!」
「あら。ちゃんと来たのね。エラいエラい。懐かしい場所でしょ?貴方が初めて“人を殺した場所”よ?」
スピカがからかうように言うが、フェニックスは全く取り合わず、叫ぶ。
「アクエリアスは何処だ!?卑怯な真似を…!」
「卑怯?」
プロウフはフェニックスを見下ろしながら、言う。
「シェダルの身体をあんな使い方をしておいてよく言えますね。」
「…!」
「シェダルのコアを死体に埋め込み、それを子供にするなど、悪趣味の極みですよ…。そして、そういう行いをする者は“報い”を受けるのです。」
プロウフはやれやれとスピカから渡された資料を叩きながらため息をつくと、スピカに振り返って言う。
「スピカ。彼にアクエリアスを返してあげなさい。」
「えー、プロウフったらやっさしい~」
スピカはそう言うとゴソゴソと何かを探し始める。
「…何のつもりだ。」
「返してあげるだけですよ。君の愛する者を。ただ」
スピカは何かを見つけたようで嬉しそうそれを“手に持つ”とポイッとフェニックスに向けて放り投げる。
「生きて返すとは言っていませんがね。」
フェニックスが放り投げられたモノに目をやる。すると“そのモノと目が合う”。そしてそれが何なのかを理解した瞬間、思わずフェニックスは絶句する。
「あ、ああ。」
それは、恐怖と苦痛に歪んだ顔をしたアクエリアスの“生首”であったからだ。
「その子。最期まで貴方の名前を叫んでいたわ。私、健気過ぎて涙がちょちょ切れちゃった。」
「あああああああああああああああ!!」
フェニックスは炎を纏うとプロウフに向けて飛翔し、思い切り振りかぶると拳をプロウフに叩き込む。
だが、その一撃をプロウフは片手で受け止める。
受け止めたまま、スピカに聞く。
「この戦闘をツォディアの面々に見せなさい。この戦いで私の力を、示してあげましょう。」
「もう、回してるわ。今頃皆この様子を眺めているでしょうね。」
それを聞くと、プロウフはフェニックスに向き直り、フェニックスの拳を受け流すとそのままフェニックスの顔面に裏拳を叩き込む。
「がっ」
プロウフはフェニックスが怯んだと同時に蹴りを叩き込んでフェニックスを吹き飛ばす。
フェニックスが地面に叩きつけられ土煙が上がるが、すぐに土煙を突き破り炎の羽根がプロウフに向けて放たれる。
だが、それもプロウフが呼び出した氷の壁によって防がれる。
「悲哀の剣《トゥリステサ・エスパーダ》」
お返しと言わんばかりにプロウフの周りに無数の氷の剣が現れるとフェニックス向けてドンドンと飛んで行く。
フェニックスはその一撃を飛翔することで、かわす。
「憐憫の火砲《ラスティマ・レボルメル》」
だが、飛翔したフェニックスの軌道を読んだプロウフの指先から放たれた細い青白い光がフェニックスを貫く。
「がはッ!くっ!」
光に貫かれ、グラリと体勢を崩した瞬間下から先程避けたハズの剣がフェニックスに向けて急上昇する。
フェニックスは慌てて下に向けて火炎を放つ。氷の剣は放たれた火によって何本かは溶けて消えてしまう。だが何本かは炎を貫き、フェニックスに向かう。
そしてその剣の数本がフェニックスの左腕、右足、左翼に突き刺さる。
そして突き刺さった先から徐々に氷ついていく。
「ぐっおっおおお!?」
フェニックスはそうはさせまいと全身から炎を噴き出ふことで刺さった氷の剣を無理矢理溶かす。
「流石ですね。普通ならこの二つの技を喰らえばもう終わりなんですがね。」
「エッグい技を使うわね。」
プロウフの戦い振りを間近で見ているスピカが呟く。プロウフの言うとおりの必殺の性能をしていながらプロウフにとってこの技は軽いジャブ程度の感覚なのだから末恐ろしい。
フェニックスは負傷しながらもプロウフに向けて火炎を放つ。だが、その攻撃も氷の壁を貫くには至らない。
だがそれは目眩ましだったようで、フェニックスはその炎に紛れてプロウフに接近する。
「プロウフ…!貴様ァ!」
「ほう。遠距離の撃ち合いは不利だと判断しましたか。」
そう言いながらもプロウフはフェニックスが繰り出す拳や蹴りを悉く受け流す。
「貴様…!何故アクエリアスを殺した!?彼女は俺達とは関係無いハズだ!」
「戦いに巻き込んだのは貴方ですよ。貴方が大人しくしていれば我々もこんな事をせずに済んだ。同胞を殺し、敵と組んだ者を見逃す程私は優しくはありません。」
「何を!」
「貴方は死ななくてはならない。今、この場で!」
プロウフはそう叫ぶとフェニックスの振りかぶった腕を掴む。そして次の瞬間掴まれた腕が凍り始める。
「ぐっ!」
フェニックスは炎を振り撒き、プロウフの腕を払うとそのまま後ろへと下がる。
再生が追い付かない程のダメージを負い、肩で息をし始めるフェニックスにプロウフは言う。
「そろそろ決着をつけましょう、フェニックス。」
龍香達はアルビレオの案内の元、宇宙研究所へと向かっていた。研究所は山の中にあり、流石に山中を行くのは時間がかかりすぎるという事でプテラカラーに変身した龍香が赤羽を牽引して飛び、その横をアルビレオが飛翔する。
「宇宙研究所…また研究所かぁ」
龍香は飛びながらぼやく。今日はどうもそういう場所と縁があるらしいと。
《おい!アルビレオ!あとどれくらいだ?》
「あと、もう少し…のハズなのだ!」
などとやり取りをしていると山頂の方から爆発音が聞こえる。見れば少し炎が噴き出してあるのも観測出来た。
「あれは…」
「父上!あれは父上の炎なのだ!」
そう言うとアルビレオはスピードを上げて山頂へと向かう。龍香も速度を上げて向かおうとするが、如何せん人一人抱えているのだからそこまで速度は出ない。
「お、おも…」
「は?」
思わずポツリと漏れた言葉に赤羽がギロリと龍香を睨む。
「何か言ったかしら?」
「い、いえいえ!何も!何も言ってないよね!ねぇカノープス!」
《お、おう!早く先急ごうぜ。》
そう言うと遅れながらも龍香達はアルビレオに着いていく。
そして研究所近くに来ると、攻撃を受けた場合機動力の無いこの状態では的になることを憂慮して、赤羽を下ろすと同時に龍香も地上に降りる。
と同時にさらに激しい戦闘音が鳴り響く。二人が急いで音がした方へと向かうとそこではフェニックスとプロウフが対峙しているところであった。
フェニックスは息を切らしているのに対し、プロウフは全くと言って良い程冷静を保っている。
だが、フェニックスが再び炎を巻き上げ、プロウフに向かおうとした瞬間。
「父上ー!」
「!アルビレオ!?」
上空からアルビレオが叫ぶ。その声に全員の視線が一斉に集まる。
「ほぉ。彼が…」
「馬鹿野郎アルビレオ!早く逃げろ!ここは危険だ!」
フェニックスが叫ぶ。だがアルビレオはフェニックスの傍に降り立つと泣きそうな顔で言う。
「で、でも、前に見た一つ目のせいで、有栖川が…!」
「何!?星彦が…!?」
アルビレオの言葉にフェニックスが動揺する。だが、目の前にいる敵は、そんなことを許してくれる相手ではない。
「お取り込み中の所、悪いですが…。」
プロウフは掌から青白い球体を出現させ、上空へと放つ。
「決着を着けさせて貰います。」
その光は一定の距離に到達すると大きく膨らむと爆発し、無数の青白い光を放つ。
放たれた青白い光が地面を撫でるとその場所が凍っていく。
さらに光はフェニックスとアルビレオに向かっていく。
「苦悶の雨《アゴニーア・ジュビア》」
無数の光の雨がフェニックス達に襲い掛かる。フェニックスはそれを見ると、アルビレオの前に出る。
「アルビレオ!お前だけでも生きろ!」
「父上!」
泣きそうな顔をするアルビレオにフェニックスは微笑みかける。
「見ておけ、アルビレオ。これが父の。男フェニックス最期の生きざまを!!」
その瞬間フェニックスは今までに無い程の輝きの炎を全身から漲らせる。そして光の雨へと駆け出す。
(アルビレオ。お前は一人になる。だが、強く、強く生きろ!)
光の雨と炎が激突する。その瞬間閃光と共に大爆発が起こり、光の雨が次々とフェニックスを貫く。だが炎の勢いは衰えずプロウフに向かって一直線に飛んで行く。
「ひっ」
「…。」
スピカが驚きの声をあげる。だがプロウフは黙ってその炎を見つめたままだ。
そしてその炎は勢いそのままプロウフに炸裂し、さらなる大爆発を起こす。
二つの力がぶつかり合って生じた閃光と爆風は凄まじく、龍香と赤羽にも強烈な衝撃を与える。
「!伏せなさい!」
「!」
赤羽の言葉に従い、龍香は地面に伏せる。
「父上…!父上ェ!」
どこからアルビレオの叫び声がする。フェニックス決死の一撃を受けながらプロウフは呟く。
「貴方の役目は終わりました。眠りなさい。」
そして閃光と爆発が止む。伏せていた龍香達が止んだと判断か、恐る恐る目を開くとそこには氷の柱が乱立しある種の幻想的な風景を醸し出していた。
「プロウフは…!」
プロウフがいた方に目をやるとそこには所々焦げているが、健在のプロウフがいた。
「い、今のはマジでビビったわ…。大丈夫?プロウフ。」
瓦礫をはね除けスピカがプロウフに尋ねる。
「ええ、平気ですよ。」
プロウフはパンパンと埃を払いながらスピカに答える。
そしてふと足元に炎の羽根が落ちていることに気づく。だが、その羽根もフッと風に吹き消され、消えてしまう。
それを見下ろしながらプロウフはスピカに言う。
「帰りましょう。」
そう言うとプロウフはその場をスピカと共に去る。端から見ていた龍香達にその力の一端をを存分に見せつけて。
To be continued…
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(続編や派生作品が有れば、なければ項目ごと削除でもおk)