ここに作品タイトル等を記入
更新日:2021/11/25 Thu 13:23:40
今回のあらすじを担当するレグルスだ。前回は……クソ!思い出しただけでも腹立たしいが、赤羽、雪花、黒鳥の三人と絶戦を繰り広げたカストル。だがついに三人がカストルを撃破したのだ!
おのれ奴らめ!しかし私の敬愛するプロウフ様も何やら動いているようで……
きっと素晴らしい考えをお持ちなのだろうな……
続きが気になる!どうなる第二十一話!
おのれ奴らめ!しかし私の敬愛するプロウフ様も何やら動いているようで……
きっと素晴らしい考えをお持ちなのだろうな……
続きが気になる!どうなる第二十一話!
「龍斗。正しくありなさい。誰かに優しく寄り添い、肩を貸せる人間になりなさい。」
子供の頃、親から事あるごとにに言われた言葉。綺麗事を凝縮した吐き気がする程甘い言葉。
けれど子供の時はそれを素直に受け入れていた。足の不自由な姉のために尽くした。親の期待に添えるよう尽くした。友達のために尽くした。
……あの男と会うまでは。
「龍斗。貴方の従兄弟の龍賢君よ。龍賢君、龍凛、龍斗の二人と仲良くしてね。」
「はい。」
「はいお母様。よろしくね。龍賢。」
「…うん。」
従兄弟の龍賢。アイツは……俺よりも優れていた。賢かった。強かった。今まで俺に向けられていた視線をアイツは一気に掻っ攫っていった。
その癖アイツは優しかった。俺の隣に立ち続け、声をかけてきた。
「龍斗。一緒に遊ばないか。父さんが新しいゲームを買ってきてくれたんだ。」
「龍斗、良い釣り堀を見つけた。きっと大物が釣れる。」
「お前は将来絶対凄い奴になる。俺にはわかる。」
なんの疑いも、曇りもなく微笑んでアイツは俺に言う。
……俺は、お前のその優しさが嫌いで仕方なかったよ。龍賢。
子供の頃、親から事あるごとにに言われた言葉。綺麗事を凝縮した吐き気がする程甘い言葉。
けれど子供の時はそれを素直に受け入れていた。足の不自由な姉のために尽くした。親の期待に添えるよう尽くした。友達のために尽くした。
……あの男と会うまでは。
「龍斗。貴方の従兄弟の龍賢君よ。龍賢君、龍凛、龍斗の二人と仲良くしてね。」
「はい。」
「はいお母様。よろしくね。龍賢。」
「…うん。」
従兄弟の龍賢。アイツは……俺よりも優れていた。賢かった。強かった。今まで俺に向けられていた視線をアイツは一気に掻っ攫っていった。
その癖アイツは優しかった。俺の隣に立ち続け、声をかけてきた。
「龍斗。一緒に遊ばないか。父さんが新しいゲームを買ってきてくれたんだ。」
「龍斗、良い釣り堀を見つけた。きっと大物が釣れる。」
「お前は将来絶対凄い奴になる。俺にはわかる。」
なんの疑いも、曇りもなく微笑んでアイツは俺に言う。
……俺は、お前のその優しさが嫌いで仕方なかったよ。龍賢。
ザァザァと降る雨が窓を打ち付ける音が響く館の廊下をアンタレスが歩いていると、ふと窓をジッと見つめる魚のような怪物、アルレシャがいるのに気づく。
「どうしたの?柄にもなく考え事?」
「んお、アンタレスか。」
アンタレスが声をかけるとアルレシャが反応してアンタレスの方を向く。
「いや、ちょっと考え事をな。」
「考え事?」
そう言うとまた思案し始めたアルレシャにふと、アンタレスが思い出したように尋ねる。
「そう言えば、アンタ確か紫水の身内の一人と融合していたわね。」
「あぁ。そうだが。」
「いや、アンタがあの男と意識を残したまま、浸食じゃなくて融合するのを不思議に思って。アンタあの男を見下していたでしょうに。」
そう、アンタレスの言う通り龍香達によって肉体を失ったアルレシャは今その身内、龍斗と一体化している。
あれ程までに心底見下していた人間と一体化するとはどういう心変わりなのか。
「まぁ、確かに最初は乗っ取ってやろうと思ったさ。けどよ。コイツの中に入った時、中々面白いものを見ちまってよ。」
「面白いもの?」
余程面白かったのかククク、と思い出し笑いをしながらアルレシャはアンタレスに言う。
「自分で、自分を絞め殺している様さ。」
アルレシャが龍斗の中に入った時、龍斗がもう一人の龍斗を殺害している様子に出くわしたのだ。
動かなくなった自分を見下ろす龍斗をアルレシャが見つめていると、彼はアルレシャに気づいてこちらに歩み寄る。
その目は以前のような、中途半端な男の目ではなく……ドロリと闇を濁らせた悪意を全身に染み渡らせた男の目であった。
あまりの変貌ぶりにアルレシャは思わず尋ねる。
「…お前、あのボンボンじゃねぇな?誰だ?」
「俺は本物の龍斗。紫水龍斗……。こんな中途半端な奴じゃない。俺は、俺の手でアイツを……紫水龍賢を……殺す。邪魔はさせないぞ。」
「へぇ。…成る程。これが本来のお前、か。初対面よりも好印象だぞ。」
龍斗のドロリとした闇にアルレシャは興味を惹かれる。
「俺も龍賢とやらにくっついているトゥバンをブチのめす……お互い、今のところ目標は一致しているな。にしても、お前は何故あの男を恨んでるんだ?」
「何故…?」
アルレシャの問いに龍斗は目を大きく見開き身体の中に溜まりに溜まった憎悪を吐き出すように叫ぶ。
「アイツは俺から全てを奪った!アイツがいるだけで……俺は……!だから、俺はアイツを殺す!俺を否定する全てを……!」
叫ぶ顔はまさに悪鬼の如し。おどろおどろしい生の感情をぶつけられたアルレシャは、その様子をしばらく見た後、スッと手を差し出す。
「良いだろう。少しだけ、貴様のことを気に入った。その憎悪と俺が手を組めば……無敵だ。」
「………。」
龍斗はその差し出された手を無言のまま握る。その瞬間、龍斗の肉体に変化が起き、水を溢れさせ骨を砕き、肉を潰したような音が鳴り響く。そしてそこには更に禍々しく、凶悪な外見に変化したアルレシャがいた。そしてその口を開く。
「「俺達は、“一心同体”だ。」」
アルレシャの話に、アンタレスはへぇ。と感心する。あのアルレシャの心を動かす程の憎悪……最初は利用されるだけの頼りないボンボンかと思ったが、予想以上のポテンシャルを秘めていたらしい。
アンタレスが感心していると、今度はアルレシャがふと、尋ねてくる。
「……ところで、俺も一つ質問があるんだが。」
「なんだ?」
「二年前の襲撃……アレを手引きしたのは、誰だ?」
「?ソイツじゃないの?」
アンタレスがアルレシャ…龍斗を指を指す。しかし、アルレシャは首を振る。
「コイツの行動ログを見たが、レグルスの野郎が事前に知っていた情報とは大分違っていた。」
「?じゃあ私以外にスパイがいたとか?」
アンタレスがそう言うと、アルレシャはまたも首を振り…アンタレスに耳打ちする。
「……これは仮説で、もしかしたらだが。あの事件、俺達シードゥス、そして“新月”とは違う第三勢力が絡んでいるかもしれねぇ。」
「……第三勢力?」
「そうだ。あの戦い、おかしな点がいくつもある。誰がレグルスに情報を流した?それに、レグルスもアホじゃない。裏取りだってしたハズだ。なのに俺達ツォディアは半壊、他の奴らの被害もかなり出ている。」
「……なに、つまりアンタはこう言いたいの?あの戦いは“誰かに仕組まれた”ことだって。」
アルレシャの推測にアンタレスは怪訝な顔つきになる。だが、アルレシャはあくまで推測だ、と言う。
「だが気をつけた方がいいことは確かだ。…スピカ、カストルが死んだことさえ、仕組まれたことかもしれねぇ。」
アルレシャはそう言うと、また雨が降り頻る窓の外を見やる。
雨は更に勢いを増し、窓の外は何も見えない白い世界が広がっていた。
「どうしたの?柄にもなく考え事?」
「んお、アンタレスか。」
アンタレスが声をかけるとアルレシャが反応してアンタレスの方を向く。
「いや、ちょっと考え事をな。」
「考え事?」
そう言うとまた思案し始めたアルレシャにふと、アンタレスが思い出したように尋ねる。
「そう言えば、アンタ確か紫水の身内の一人と融合していたわね。」
「あぁ。そうだが。」
「いや、アンタがあの男と意識を残したまま、浸食じゃなくて融合するのを不思議に思って。アンタあの男を見下していたでしょうに。」
そう、アンタレスの言う通り龍香達によって肉体を失ったアルレシャは今その身内、龍斗と一体化している。
あれ程までに心底見下していた人間と一体化するとはどういう心変わりなのか。
「まぁ、確かに最初は乗っ取ってやろうと思ったさ。けどよ。コイツの中に入った時、中々面白いものを見ちまってよ。」
「面白いもの?」
余程面白かったのかククク、と思い出し笑いをしながらアルレシャはアンタレスに言う。
「自分で、自分を絞め殺している様さ。」
アルレシャが龍斗の中に入った時、龍斗がもう一人の龍斗を殺害している様子に出くわしたのだ。
動かなくなった自分を見下ろす龍斗をアルレシャが見つめていると、彼はアルレシャに気づいてこちらに歩み寄る。
その目は以前のような、中途半端な男の目ではなく……ドロリと闇を濁らせた悪意を全身に染み渡らせた男の目であった。
あまりの変貌ぶりにアルレシャは思わず尋ねる。
「…お前、あのボンボンじゃねぇな?誰だ?」
「俺は本物の龍斗。紫水龍斗……。こんな中途半端な奴じゃない。俺は、俺の手でアイツを……紫水龍賢を……殺す。邪魔はさせないぞ。」
「へぇ。…成る程。これが本来のお前、か。初対面よりも好印象だぞ。」
龍斗のドロリとした闇にアルレシャは興味を惹かれる。
「俺も龍賢とやらにくっついているトゥバンをブチのめす……お互い、今のところ目標は一致しているな。にしても、お前は何故あの男を恨んでるんだ?」
「何故…?」
アルレシャの問いに龍斗は目を大きく見開き身体の中に溜まりに溜まった憎悪を吐き出すように叫ぶ。
「アイツは俺から全てを奪った!アイツがいるだけで……俺は……!だから、俺はアイツを殺す!俺を否定する全てを……!」
叫ぶ顔はまさに悪鬼の如し。おどろおどろしい生の感情をぶつけられたアルレシャは、その様子をしばらく見た後、スッと手を差し出す。
「良いだろう。少しだけ、貴様のことを気に入った。その憎悪と俺が手を組めば……無敵だ。」
「………。」
龍斗はその差し出された手を無言のまま握る。その瞬間、龍斗の肉体に変化が起き、水を溢れさせ骨を砕き、肉を潰したような音が鳴り響く。そしてそこには更に禍々しく、凶悪な外見に変化したアルレシャがいた。そしてその口を開く。
「「俺達は、“一心同体”だ。」」
アルレシャの話に、アンタレスはへぇ。と感心する。あのアルレシャの心を動かす程の憎悪……最初は利用されるだけの頼りないボンボンかと思ったが、予想以上のポテンシャルを秘めていたらしい。
アンタレスが感心していると、今度はアルレシャがふと、尋ねてくる。
「……ところで、俺も一つ質問があるんだが。」
「なんだ?」
「二年前の襲撃……アレを手引きしたのは、誰だ?」
「?ソイツじゃないの?」
アンタレスがアルレシャ…龍斗を指を指す。しかし、アルレシャは首を振る。
「コイツの行動ログを見たが、レグルスの野郎が事前に知っていた情報とは大分違っていた。」
「?じゃあ私以外にスパイがいたとか?」
アンタレスがそう言うと、アルレシャはまたも首を振り…アンタレスに耳打ちする。
「……これは仮説で、もしかしたらだが。あの事件、俺達シードゥス、そして“新月”とは違う第三勢力が絡んでいるかもしれねぇ。」
「……第三勢力?」
「そうだ。あの戦い、おかしな点がいくつもある。誰がレグルスに情報を流した?それに、レグルスもアホじゃない。裏取りだってしたハズだ。なのに俺達ツォディアは半壊、他の奴らの被害もかなり出ている。」
「……なに、つまりアンタはこう言いたいの?あの戦いは“誰かに仕組まれた”ことだって。」
アルレシャの推測にアンタレスは怪訝な顔つきになる。だが、アルレシャはあくまで推測だ、と言う。
「だが気をつけた方がいいことは確かだ。…スピカ、カストルが死んだことさえ、仕組まれたことかもしれねぇ。」
アルレシャはそう言うと、また雨が降り頻る窓の外を見やる。
雨は更に勢いを増し、窓の外は何も見えない白い世界が広がっていた。
「……ちょっと。しばらく出撃不可ってどういうこと?」
ツンと鼻をつくアルコール臭が漂う白く清潔な病室のベッドの上で横たわって上半身だけを起こす赤羽が不満げに風見に言う。
風見は林檎を剥きながらはぁとため息をつくと。
「当然でしょ?“雨四光”の損傷具合もそうだけど、アンタ自分の身体見てみなさいよ。」
「……これくらい、何ともないわ。健康よ。」
「どこの世界に全身包帯だらけの健康があるの。アンタのその状態は世間一般では怪我人って言うのよ。」
風見の言う通り、赤羽は至る所に包帯を巻かれ、ガーゼを貼られ…控え目に言っても健康とは真反対に位置する状態となっていた。
「全身に擦り傷に痣を拵えて、挙句の果てには骨にヒビが入っているのよ。安静にしときなさい。」
「ちっ……あのパチモン、今度会ったらタダじゃおかないわ…。」
赤羽は風見が剥いた林檎を一切れ口に運びながらブツクサと文句を言う。
「な、何かごめんなさい……私の偽物が…。」
《お前が謝ることじゃないだろ…。》
「まぁ、怪我して何も出来ない気持ちは私分かるけど、今くらい休憩したっていいんじゃない?だって幹部の一人を討ち取ったんだし、私達。」
「藍、それ赤羽のだぞ…。」
龍香が申し訳なさそうに目を伏せ、カノープスが注意し、風見が剥いた林檎一切れを横取りしながら雪花が言い、黒鳥がそらを嗜める。
「カノープスの言う通り、別に貴女は謝らなくていいわよ……。」
赤羽ポスっと布団に身体を沈ませて、龍香を見るとふと、あの偽物……白龍香が言っていたことを思い出す。
『私は普段表に出ていないもう一人の龍香、って訳。』
あの歪んだ笑みをする一面を目の前の少女がするとは思えない。
(いや……もしかしたら。)
もしかしたら本当に龍香の中にはあの恐ろしい感情が眠っているのかもしれない。だが、それは何も龍香に限った事ではない。人間誰しも憎悪と怒りの感情を持つ。
ここにいるメンバーの境遇を考えれば、持つなと言う方が無理な話だ。
「……普段大人しい人程溜め込む、か。」
「?アカチン、何か言った?」
「別に。何でもないわ。それより林檎頂戴。」
「はいはい。」
「にしても、シードゥス由来の装備つけてるアンタ達ちょっと羨ましいわね。ちょっと時間置いたらすぐ治るんでしょ?」
雪花が林檎を食べながら龍香、黒鳥、赤羽を少し恨めしそうに見る。
《まぁ、龍香と黒鳥は肉体も回復出来るし装備も変化だからなぁ。》
「そうそれ、ホント羨ましいわ。だって私と赤羽が一々装備のメンテナンスの時間あるのに、アンタ達は特に気にしなくてもいつでもどこでも、でしょ?」
「あら、それはアタシ達に対する嫌味かしら?」
「アタシは事実を言っただけだしー、メンテナンス時間かかって面倒なのは事実じゃん。ねぇ赤羽。アンタもそう思うでしょ?」
雪花が赤羽に話を振る。赤羽は少し間を置いて。
「いや、いつもメンテナンスしてくれる風見や林張さんに感謝の気持ちはあれど、面倒だなんてことは一回も思ったことはないわ。」
白々しく若干棒読みでそう答えた。
「そう思ってるのはユッキーだけみたいよ?」
「嘘ッ!絶対嘘じゃん!!見てよあの顔あの態度!絶対面倒くさいって赤羽も思ってるってちょ、まっいだだだだだだだ!!?こめかみグリグリはやめいだだだだ!!」
何てやり取りをしていると、龍香の携帯に着信がかかる。
「あ、龍香携帯鳴ってるわよ。」
「ホントだ。誰からだろ?」
そう言って龍香がポケットから携帯を取り出して電話をかけた人の名前を確認すると、驚く。
「えっ、お兄ちゃん?」
龍香は確認するやいなや、ぴっと着信ボタンを押して、携帯を耳に当てて電話に出る。
「あっ、もしもしお兄ちゃん?」
『龍香。今何か取り込んでいるか?』
「いや、特にないよ。今赤羽さんのお見舞いに来てるの。どうかした?」
『いや、少し手伝って貰いたい要件があってな。』
「手伝う?」
兄からの急なお願いに龍香は思わずキョトンとする。
『実はな……』
ツンと鼻をつくアルコール臭が漂う白く清潔な病室のベッドの上で横たわって上半身だけを起こす赤羽が不満げに風見に言う。
風見は林檎を剥きながらはぁとため息をつくと。
「当然でしょ?“雨四光”の損傷具合もそうだけど、アンタ自分の身体見てみなさいよ。」
「……これくらい、何ともないわ。健康よ。」
「どこの世界に全身包帯だらけの健康があるの。アンタのその状態は世間一般では怪我人って言うのよ。」
風見の言う通り、赤羽は至る所に包帯を巻かれ、ガーゼを貼られ…控え目に言っても健康とは真反対に位置する状態となっていた。
「全身に擦り傷に痣を拵えて、挙句の果てには骨にヒビが入っているのよ。安静にしときなさい。」
「ちっ……あのパチモン、今度会ったらタダじゃおかないわ…。」
赤羽は風見が剥いた林檎を一切れ口に運びながらブツクサと文句を言う。
「な、何かごめんなさい……私の偽物が…。」
《お前が謝ることじゃないだろ…。》
「まぁ、怪我して何も出来ない気持ちは私分かるけど、今くらい休憩したっていいんじゃない?だって幹部の一人を討ち取ったんだし、私達。」
「藍、それ赤羽のだぞ…。」
龍香が申し訳なさそうに目を伏せ、カノープスが注意し、風見が剥いた林檎一切れを横取りしながら雪花が言い、黒鳥がそらを嗜める。
「カノープスの言う通り、別に貴女は謝らなくていいわよ……。」
赤羽ポスっと布団に身体を沈ませて、龍香を見るとふと、あの偽物……白龍香が言っていたことを思い出す。
『私は普段表に出ていないもう一人の龍香、って訳。』
あの歪んだ笑みをする一面を目の前の少女がするとは思えない。
(いや……もしかしたら。)
もしかしたら本当に龍香の中にはあの恐ろしい感情が眠っているのかもしれない。だが、それは何も龍香に限った事ではない。人間誰しも憎悪と怒りの感情を持つ。
ここにいるメンバーの境遇を考えれば、持つなと言う方が無理な話だ。
「……普段大人しい人程溜め込む、か。」
「?アカチン、何か言った?」
「別に。何でもないわ。それより林檎頂戴。」
「はいはい。」
「にしても、シードゥス由来の装備つけてるアンタ達ちょっと羨ましいわね。ちょっと時間置いたらすぐ治るんでしょ?」
雪花が林檎を食べながら龍香、黒鳥、赤羽を少し恨めしそうに見る。
《まぁ、龍香と黒鳥は肉体も回復出来るし装備も変化だからなぁ。》
「そうそれ、ホント羨ましいわ。だって私と赤羽が一々装備のメンテナンスの時間あるのに、アンタ達は特に気にしなくてもいつでもどこでも、でしょ?」
「あら、それはアタシ達に対する嫌味かしら?」
「アタシは事実を言っただけだしー、メンテナンス時間かかって面倒なのは事実じゃん。ねぇ赤羽。アンタもそう思うでしょ?」
雪花が赤羽に話を振る。赤羽は少し間を置いて。
「いや、いつもメンテナンスしてくれる風見や林張さんに感謝の気持ちはあれど、面倒だなんてことは一回も思ったことはないわ。」
白々しく若干棒読みでそう答えた。
「そう思ってるのはユッキーだけみたいよ?」
「嘘ッ!絶対嘘じゃん!!見てよあの顔あの態度!絶対面倒くさいって赤羽も思ってるってちょ、まっいだだだだだだだ!!?こめかみグリグリはやめいだだだだ!!」
何てやり取りをしていると、龍香の携帯に着信がかかる。
「あ、龍香携帯鳴ってるわよ。」
「ホントだ。誰からだろ?」
そう言って龍香がポケットから携帯を取り出して電話をかけた人の名前を確認すると、驚く。
「えっ、お兄ちゃん?」
龍香は確認するやいなや、ぴっと着信ボタンを押して、携帯を耳に当てて電話に出る。
「あっ、もしもしお兄ちゃん?」
『龍香。今何か取り込んでいるか?』
「いや、特にないよ。今赤羽さんのお見舞いに来てるの。どうかした?」
『いや、少し手伝って貰いたい要件があってな。』
「手伝う?」
兄からの急なお願いに龍香は思わずキョトンとする。
『実はな……』
「だぁーっ!またハズレだぁ!」
桃色の髪をクルリと後ろで纏めた少女、桃井かおりはそう叫ぶと手にしていたゲーム機をポイっとベッドの上に放り投げる。
「確率渋すぎでしょ、ゲームやるってレベルじゃないわよもぉ……」
どうやら上手いことゲームが進行しなくてもブツクサ文句を言いながら部屋で項垂れていると、コンコンと部屋の扉をノックされる。そして続けて母がかおりを呼ぶ。
「かおりー?いるー?」
「なにぃー?」
「お友達が来てるわよー。」
「友達?うん、分かった。今行くー。」
自分の母の言葉にかおりは今日遊ぶ約束してたっけな?と小首を傾げながらトテトテと階段を降り、玄関の扉を開ける。
「はーい。誰ですかー?」
そしてかおりが扉を開けると……そこには親友の龍香と、その兄の龍賢が白い紙袋を持ってそこにいた。
「へ?」
「かおり。突然だけど遊びに来ちゃった!」
「突然の訪問ですまない。これは手土産だ。お口に合うと良いんだが…。」
「え、あ、これはまたご丁寧にどうも……じゃなくて、何でお兄さんが!?」
かおりが何故親友の兄が来ているのか尋ねると、龍賢は申し訳なさそうに微笑んで。
「いや、君には以前記憶喪失の時に世話になったからな。それに、俺がいない間龍香を支えてくれた事もある。少しゴタゴタしていて遅れてしまったが、一度キチンと礼を言いたくて。」
「そ、そんな。支えたのは私一人じゃないし、それに全然私大したことはしてないですし、こんな大層な……」
畏まった態度の龍賢にかおりが慌てていると、龍賢は少しシュンとした顔になる。
「その……もしかして迷惑だったろうか。」
その表情にかおりはうぐっと揺さぶられる。このいじらしさは間違いなく龍香の兄だな…となるがとは言えこうまで言われてしまっては龍賢の気遣いを無碍にするのも気が引けた。
「わ、分かった分かりました!だからそんな顔しないで下さい!」
根負けしたかおりがそう言うと、兄妹の顔が明るくなる。
(ホント可愛いわねこの兄妹……)
なんてやっていると家の奥の方からかおりの母が顔を出す。
「あら、龍香ちゃん、それと……」
「申し遅れました。龍香の兄の龍賢と言います。かおりさんには妹が随分とお世話になっているそうで……そのお礼の方を言わせて貰いたいと思い。」
「あらあら、そうなの?わざわざご丁寧にありがとうございます。」
龍賢はそう言って菓子折りを包んだ袋を母に渡す。そして、受け取ったかおり母は頬に手を当て。
「こちらこそ世話になっているのに申し訳ないです。かおりったらずっと龍香が龍香が、って家でも言うものですから。」
「ちょっ、お母さん!」
かおりが抗議の声を上げるが、一度世間話というアクセルを踏み込んだ母が止まることはない。
「龍香ちゃんには私がついてないと、とか龍香ちゃんと何して遊んだのかを話す時はとても嬉しそうにするもので…。」
「えっ…なんか、照れるなぁ。」
赤裸々に暴露される自分の事情に、かおりは顔を真っ赤にして、龍香は照れる。
「もーっ!!お母さん!!」
そう叫ぶとかおりは靴を履いて龍香の手を取って家を出る。
「え、か、かおり?」
「ちょっと外出てくる!」
「お夕飯までには帰ってくるのよー。」
「分かった!!」
そう言うとのしのしとかおりは龍香を連れて、どこかへ行ってしまう。
すみません、とペコリとお辞儀をして龍賢もそれに続く。
その様子を微笑んで見送りながら、母は仲良さげに手を取り歩いていく二人を見て、微笑むのであった。
桃色の髪をクルリと後ろで纏めた少女、桃井かおりはそう叫ぶと手にしていたゲーム機をポイっとベッドの上に放り投げる。
「確率渋すぎでしょ、ゲームやるってレベルじゃないわよもぉ……」
どうやら上手いことゲームが進行しなくてもブツクサ文句を言いながら部屋で項垂れていると、コンコンと部屋の扉をノックされる。そして続けて母がかおりを呼ぶ。
「かおりー?いるー?」
「なにぃー?」
「お友達が来てるわよー。」
「友達?うん、分かった。今行くー。」
自分の母の言葉にかおりは今日遊ぶ約束してたっけな?と小首を傾げながらトテトテと階段を降り、玄関の扉を開ける。
「はーい。誰ですかー?」
そしてかおりが扉を開けると……そこには親友の龍香と、その兄の龍賢が白い紙袋を持ってそこにいた。
「へ?」
「かおり。突然だけど遊びに来ちゃった!」
「突然の訪問ですまない。これは手土産だ。お口に合うと良いんだが…。」
「え、あ、これはまたご丁寧にどうも……じゃなくて、何でお兄さんが!?」
かおりが何故親友の兄が来ているのか尋ねると、龍賢は申し訳なさそうに微笑んで。
「いや、君には以前記憶喪失の時に世話になったからな。それに、俺がいない間龍香を支えてくれた事もある。少しゴタゴタしていて遅れてしまったが、一度キチンと礼を言いたくて。」
「そ、そんな。支えたのは私一人じゃないし、それに全然私大したことはしてないですし、こんな大層な……」
畏まった態度の龍賢にかおりが慌てていると、龍賢は少しシュンとした顔になる。
「その……もしかして迷惑だったろうか。」
その表情にかおりはうぐっと揺さぶられる。このいじらしさは間違いなく龍香の兄だな…となるがとは言えこうまで言われてしまっては龍賢の気遣いを無碍にするのも気が引けた。
「わ、分かった分かりました!だからそんな顔しないで下さい!」
根負けしたかおりがそう言うと、兄妹の顔が明るくなる。
(ホント可愛いわねこの兄妹……)
なんてやっていると家の奥の方からかおりの母が顔を出す。
「あら、龍香ちゃん、それと……」
「申し遅れました。龍香の兄の龍賢と言います。かおりさんには妹が随分とお世話になっているそうで……そのお礼の方を言わせて貰いたいと思い。」
「あらあら、そうなの?わざわざご丁寧にありがとうございます。」
龍賢はそう言って菓子折りを包んだ袋を母に渡す。そして、受け取ったかおり母は頬に手を当て。
「こちらこそ世話になっているのに申し訳ないです。かおりったらずっと龍香が龍香が、って家でも言うものですから。」
「ちょっ、お母さん!」
かおりが抗議の声を上げるが、一度世間話というアクセルを踏み込んだ母が止まることはない。
「龍香ちゃんには私がついてないと、とか龍香ちゃんと何して遊んだのかを話す時はとても嬉しそうにするもので…。」
「えっ…なんか、照れるなぁ。」
赤裸々に暴露される自分の事情に、かおりは顔を真っ赤にして、龍香は照れる。
「もーっ!!お母さん!!」
そう叫ぶとかおりは靴を履いて龍香の手を取って家を出る。
「え、か、かおり?」
「ちょっと外出てくる!」
「お夕飯までには帰ってくるのよー。」
「分かった!!」
そう言うとのしのしとかおりは龍香を連れて、どこかへ行ってしまう。
すみません、とペコリとお辞儀をして龍賢もそれに続く。
その様子を微笑んで見送りながら、母は仲良さげに手を取り歩いていく二人を見て、微笑むのであった。
「今度は貴方が出る……ですか?」
「あぁ。カストルがやられたんだ。黙ってこのまま静観なんて言うなよ。」
蝋燭の灯が照らす部屋の中で椅子に座るプロウフにアルレシャが言う。
アルレシャの顔をプロウフはジッと見つめた後。
「良いですよ。」
「……お前ならそう言うと……なんだって?」
まさかプロウフが許可するとは思っていなかったようでアルレシャは思わず聞き返す。
「良いですよ、と言ったのです。カストルに勝ったとは言え、満身創痍の今なら“新月”メンバーも満足に動けないでしょう。」
「…どう言う風の吹き回しだ?」
「貴方いつも攻撃したがっていたじゃないですか。…勿論、こう言った手前前回のような失態を許す気はありませんが。」
「……嫌味な野郎だな。」
アルレシャがそう言うと、パチンとプロウフが指を鳴らす。その合図を皮切りにプロウフの背後から一人の少女が現れ、その少女の出現にアルレシャは面喰らう。
「なっ、何故お前が……」
「どーも。よろしくね♡」
そこにいたのはカストルが作り出した人形……白いドレスを纏った紫水龍香だった。カストルが死んだ事で龍香も消えたもの…と思っていたアルレシャにプロウフは言う。
「彼女を私が少し手を加えましてね。きっと役に立つでしょう。」
「お前……。」
「“本懐を果たしなさい”。吉報を持ち帰ればそれで良し。これ以上の失敗は許しませんよ。アルレシャ。」
ギロリ、とプロウフは威圧するような瞳でアルレシャを見据えた。
「あぁ。カストルがやられたんだ。黙ってこのまま静観なんて言うなよ。」
蝋燭の灯が照らす部屋の中で椅子に座るプロウフにアルレシャが言う。
アルレシャの顔をプロウフはジッと見つめた後。
「良いですよ。」
「……お前ならそう言うと……なんだって?」
まさかプロウフが許可するとは思っていなかったようでアルレシャは思わず聞き返す。
「良いですよ、と言ったのです。カストルに勝ったとは言え、満身創痍の今なら“新月”メンバーも満足に動けないでしょう。」
「…どう言う風の吹き回しだ?」
「貴方いつも攻撃したがっていたじゃないですか。…勿論、こう言った手前前回のような失態を許す気はありませんが。」
「……嫌味な野郎だな。」
アルレシャがそう言うと、パチンとプロウフが指を鳴らす。その合図を皮切りにプロウフの背後から一人の少女が現れ、その少女の出現にアルレシャは面喰らう。
「なっ、何故お前が……」
「どーも。よろしくね♡」
そこにいたのはカストルが作り出した人形……白いドレスを纏った紫水龍香だった。カストルが死んだ事で龍香も消えたもの…と思っていたアルレシャにプロウフは言う。
「彼女を私が少し手を加えましてね。きっと役に立つでしょう。」
「お前……。」
「“本懐を果たしなさい”。吉報を持ち帰ればそれで良し。これ以上の失敗は許しませんよ。アルレシャ。」
ギロリ、とプロウフは威圧するような瞳でアルレシャを見据えた。
「もぉー!!お母さんったら!!ホントデリカシーないんだから!」
ぷりぷりと怒りながら文句を言うかおりに龍香はあはは…と苦笑いをする。
「でも、何かかおりがそこまで私を思ってくれたのは嬉しいな。ありがとう。」
「も、もう。改めて言わないでよ!結構恥ずかしいんだから!」
なんて二人がキャイキャイしているのを龍賢が眺めていると龍賢の中のトゥバンが話しかけてくる。
《おっ、あの時の女か。アイツは面白い女だぞ。何せただの人間の癖に俺に張り手をする位にはガッツがある。しかも他人のために、だ。》
「それは俺も見ていた。…龍香は良い友を持ったようだな。」
龍賢とトゥバンが話しているとポスンッと足に何かが当たる感触がする。
「?ボール?」
足元に転がってきたサッカーボールを龍賢が拾い上げると、向こうのサッカースタジアムから声がする。
「あっ!すみませーん!」
すると向こうから一人の茶髪の少年が走ってきた。
「君達のか。ほら、返すよ。」
「すみません、ありがとうございま…あれっ、龍香と桃井?」
その少年がふと、龍賢から少し離れた場所にいた二人に声をかけると二人は反応して。
「あれ?藤正君?」
「何してんの?」
二人は龍賢と藤正の所へとやってくる。
「知り合いか?」
「うん!私の、学校のクラスメイト!」
龍香と仲良さげに話す龍賢を見ながら、藤正は桃井に訪ねる。
「…なぁ、この人誰?」
「ん?あぁ。アンタ知らなかったっけ?この人が龍香のお兄さんよ。」
「この人が!?」
驚愕する藤正に龍賢はニコリと笑って手を差し出す。
「君が藤正君、か。龍香が世話になったと聞いている。これからもよくしてやってほしい。」
「あ、ど、どうも。」
藤正は差し出された手を恐る恐る握り返す。それに龍賢が満足そうにしていると、電話の着信音が鳴る。
「すまないな。」
龍賢はそう言うと携帯に出て、ふんふんと電話口の相手と何やらビジネス用語で会話をすると、一旦電話を切り。
「すまないが、少し用事が出来た。桃井さんや、藤正くんとはもう少し話したかったが…また今度とさせて貰う。龍香、友達は大事にな。」
「うん。」
そう言うと龍賢はその場から去ってしまう。龍香が龍賢に手を振ってる間に、藤正はかおりにこそこそと話しかける。
(な、なぁ俺失礼なこととかしてなかったよな!?)
(何よ急に…してなかったわよ、全然。)
(ほ、ホントに!?ホントにそうか!?)
(うっさいわねー…。)
なんてやり取りをしている時だった。
「おーい!遅いぞフジマサー!何してんだー!?」
「あっ、悪い悪い。知り合いに会ってさ…。」
サッカースタジアムから声がして藤正はそちらの方へと向かう。何となしに龍香とかおりも観戦するかとそちらの方に向かうと。複数人の子供達に混じって、龍香にとって見覚えのある赤茶の髪の少女が藤正を呼んでいた。
「全くー、コーナーキック頼むぞー。アタシのクロスシュートでまた点数を取ってやるから!」
「あいよ。」
藤正の肩をバシバシ叩くその少女、シオンの姿を見た龍香は思わず声をかける。
「シオンちゃん?」
「んー、その声……龍香!?」
声をかけた龍香に気づくと、シオンはすぐさま龍香に駆け寄ると、ムギューと挨拶代わりと言わんばかりの熱烈なハグをする。
「龍香ー♪また会ったな!約束もなしに会えるなんてこれはもはや運命かもしれないな!」
「ちょ、ちょっとシオンちゃん…は、恥ずかしいよ…」
「「は、はぁぁぁぁぁぁぁ!!?」」
ギュッと龍香に抱きつくシオンを見て、藤正とかおりは絶叫する。
「ちょ、ちょちょ龍香!凄い仲良さげだけど誰!?誰なのその子!?」
「り、龍香って、もしかして女の人の方が好きなのか!?」
「ふえぇっ!?ち、違うよそう言うんじゃなくて…!」
「龍香は私の命を救ってくれた恩人だからな!そして、唯一無二の友だ!」
龍香に抱きついて、目を輝かせながら言うシオンに龍香はあはは…と苦笑いしながら尋ねる。
「でも、何で藤正君達とサッカーを?」
「んー、何か楽しそうだったから入れてくれるよう頼んだ!そしたらオッケーしてくれたからな!」
あっけからんと言うシオンに藤正が言う。
「…龍香と知り合いだったのか…。でも、実際ソイツ凄いぜ。めっちゃサッカー上手いんだよ。何か習ってたのか?」
「いや、全然?今日やるのが初めてだけど。」
キョトンとした様子でそう言うシオンに藤正は驚愕する。
「えぇ!?い、いやそれは嘘だろ!あのドリブルとか、シュートとか、絶対初心者じゃ無理だって!」
「うーん、テレビとか見てたら覚えたって感じ。」
「み、見て覚えたって…。」
「まぁまぁ、そんなことより皆待たせてるし、続きを早くやろう!あ、龍香も入る?」
「い、いやー。私は観戦させて貰おうかなーって…。」
「あ、そう?なら龍香!観客席でアタシの凄いプレーを見ててよ!」
「う、うん。」
そう言うとシオンと藤正はグラウンドに戻ってゲームを再開する。
「凄い知り合いが出来たのね、アンタ。」
「う、うん。まぁちょっとした成り行きって奴かな…」
《初めて見る顔だな、いつ会ったんだ?》
「あー、そっか。カノープスも会ってないんだっけ?カノープスが……その、私のこと丸くなったって言った時の…。」
《あー、…いや、あれはすまんかった。あれは流石に無神経だった。》
「その時に何かお腹すいて倒れてて…それで、ご飯をあげたら懐かれちゃった。」
「桃太郎か何かの話してる?」
「じ、事実なんだよ!それに、何かあの子の家すっごいお金持ちみたいで…助けたお礼、って言ってあの子のおじいちゃんにすごく高い喫茶店に連れて行って貰ったりして…」
《聞けば聞くほど何か胡散臭い話だな。》
「いや、ホントなんだって!雪花ちゃんや黒鳥さんもいたから!」
なんて龍香が二人に懐疑的な目を向けられている中、必死に事情を説明しているその時だった。
サッカーグラウンドからワァッと歓声が上がる。三人が目を向けるとそこには藤正からのパスを受け取ったシオンがまるで脚にボールが吸い付いているのではないかと思わせる程の華麗なドリブルで次々とボールを奪おうと向かってくる子供達を避けていた。
「す、すっご…」
その足捌きはサッカーにあまり興味のないかおりでさえも感嘆させる程で、龍香もプロと遜色がないような動きに見える。
「そぉれっ!!」
そしてあっという間にゴール手前まで来ると、思い切りボールを蹴り上げる。そして蹴り上げられたボールは凄い勢いでゴールネットに向かい、そして網を突き破らんばかりに突き刺さると、ポトっと落ちる。
「ご、ゴール!!」
審判役の誰かが言うとまたもやうおおおっと歓声が湧き上がる。
「す、凄いよシオンさん!」
「マジでスゲー!!プロじゃん!」
「へへん!どんなもんよー!」
周りの子供達がシオンを褒め称える。
《…子供にしちゃえらく動くな。》
「最近の子って凄いんだねー。」
《むぅ……》
カノープスは怪訝な目をシオンに向ける。だがシオンは皆からの賛美を程々に受け取ると、龍香に近づいてくる。
「どう?龍香!見てた?アタシのシュート!凄かったでしょ?」
「うん。見てたよ。凄かった!」
「えへへぇ。」
龍香が褒めるとシオンはえへへ、と嬉しそうににへら、と笑う。
「さぁて、見ててね龍香!またスゴイシュートを…」
シオンがそこまで言いかけた瞬間だった。ポーンポーンと公園の時計が四時になったことを伝える電子音が流れる。
それを聞いたシオンはビクッとなって慌てて時計を見ると。
「あ、もう四時!?うぅ〜もうちょっと遊びたかったけど、しょうがない…悪いけど、アタシもう帰らなきゃ!」
「えっ、もう帰るのか?」
「帰らないと怒られちゃうから!あっ、龍香!」
「何?」
シオンは龍香に顔を近づけ、紅いほっぺにキスをすると公園の入り口へと駆け出して。
「じゃあね、龍香!また今度!」
「あっ、シオンちゃ……もう。」
小さくなって消えていく後ろ姿を龍香が苦笑しながら見送っていると。
「り、りりりり龍香!!あ、あんアンタほっぺにち、ちちちちゅーを…!?」
「えっ、あぁ。初めてやられた時にはビックリしたけど、外国だと普通なのかなぁって。」
「り、龍香!や、やっぱりお前は女の人が好きなのか!?」
「いやだから違うって!!」
《うーん、まぁ俺は良いと思うぞ。俺がとやかく言う事ではないだろうが。》
「誤解だよぉー!!」
シオンの凶行にびっくりした三人に詰め寄られた龍香の抗議の声が公園に響き渡るのだった。
ぷりぷりと怒りながら文句を言うかおりに龍香はあはは…と苦笑いをする。
「でも、何かかおりがそこまで私を思ってくれたのは嬉しいな。ありがとう。」
「も、もう。改めて言わないでよ!結構恥ずかしいんだから!」
なんて二人がキャイキャイしているのを龍賢が眺めていると龍賢の中のトゥバンが話しかけてくる。
《おっ、あの時の女か。アイツは面白い女だぞ。何せただの人間の癖に俺に張り手をする位にはガッツがある。しかも他人のために、だ。》
「それは俺も見ていた。…龍香は良い友を持ったようだな。」
龍賢とトゥバンが話しているとポスンッと足に何かが当たる感触がする。
「?ボール?」
足元に転がってきたサッカーボールを龍賢が拾い上げると、向こうのサッカースタジアムから声がする。
「あっ!すみませーん!」
すると向こうから一人の茶髪の少年が走ってきた。
「君達のか。ほら、返すよ。」
「すみません、ありがとうございま…あれっ、龍香と桃井?」
その少年がふと、龍賢から少し離れた場所にいた二人に声をかけると二人は反応して。
「あれ?藤正君?」
「何してんの?」
二人は龍賢と藤正の所へとやってくる。
「知り合いか?」
「うん!私の、学校のクラスメイト!」
龍香と仲良さげに話す龍賢を見ながら、藤正は桃井に訪ねる。
「…なぁ、この人誰?」
「ん?あぁ。アンタ知らなかったっけ?この人が龍香のお兄さんよ。」
「この人が!?」
驚愕する藤正に龍賢はニコリと笑って手を差し出す。
「君が藤正君、か。龍香が世話になったと聞いている。これからもよくしてやってほしい。」
「あ、ど、どうも。」
藤正は差し出された手を恐る恐る握り返す。それに龍賢が満足そうにしていると、電話の着信音が鳴る。
「すまないな。」
龍賢はそう言うと携帯に出て、ふんふんと電話口の相手と何やらビジネス用語で会話をすると、一旦電話を切り。
「すまないが、少し用事が出来た。桃井さんや、藤正くんとはもう少し話したかったが…また今度とさせて貰う。龍香、友達は大事にな。」
「うん。」
そう言うと龍賢はその場から去ってしまう。龍香が龍賢に手を振ってる間に、藤正はかおりにこそこそと話しかける。
(な、なぁ俺失礼なこととかしてなかったよな!?)
(何よ急に…してなかったわよ、全然。)
(ほ、ホントに!?ホントにそうか!?)
(うっさいわねー…。)
なんてやり取りをしている時だった。
「おーい!遅いぞフジマサー!何してんだー!?」
「あっ、悪い悪い。知り合いに会ってさ…。」
サッカースタジアムから声がして藤正はそちらの方へと向かう。何となしに龍香とかおりも観戦するかとそちらの方に向かうと。複数人の子供達に混じって、龍香にとって見覚えのある赤茶の髪の少女が藤正を呼んでいた。
「全くー、コーナーキック頼むぞー。アタシのクロスシュートでまた点数を取ってやるから!」
「あいよ。」
藤正の肩をバシバシ叩くその少女、シオンの姿を見た龍香は思わず声をかける。
「シオンちゃん?」
「んー、その声……龍香!?」
声をかけた龍香に気づくと、シオンはすぐさま龍香に駆け寄ると、ムギューと挨拶代わりと言わんばかりの熱烈なハグをする。
「龍香ー♪また会ったな!約束もなしに会えるなんてこれはもはや運命かもしれないな!」
「ちょ、ちょっとシオンちゃん…は、恥ずかしいよ…」
「「は、はぁぁぁぁぁぁぁ!!?」」
ギュッと龍香に抱きつくシオンを見て、藤正とかおりは絶叫する。
「ちょ、ちょちょ龍香!凄い仲良さげだけど誰!?誰なのその子!?」
「り、龍香って、もしかして女の人の方が好きなのか!?」
「ふえぇっ!?ち、違うよそう言うんじゃなくて…!」
「龍香は私の命を救ってくれた恩人だからな!そして、唯一無二の友だ!」
龍香に抱きついて、目を輝かせながら言うシオンに龍香はあはは…と苦笑いしながら尋ねる。
「でも、何で藤正君達とサッカーを?」
「んー、何か楽しそうだったから入れてくれるよう頼んだ!そしたらオッケーしてくれたからな!」
あっけからんと言うシオンに藤正が言う。
「…龍香と知り合いだったのか…。でも、実際ソイツ凄いぜ。めっちゃサッカー上手いんだよ。何か習ってたのか?」
「いや、全然?今日やるのが初めてだけど。」
キョトンとした様子でそう言うシオンに藤正は驚愕する。
「えぇ!?い、いやそれは嘘だろ!あのドリブルとか、シュートとか、絶対初心者じゃ無理だって!」
「うーん、テレビとか見てたら覚えたって感じ。」
「み、見て覚えたって…。」
「まぁまぁ、そんなことより皆待たせてるし、続きを早くやろう!あ、龍香も入る?」
「い、いやー。私は観戦させて貰おうかなーって…。」
「あ、そう?なら龍香!観客席でアタシの凄いプレーを見ててよ!」
「う、うん。」
そう言うとシオンと藤正はグラウンドに戻ってゲームを再開する。
「凄い知り合いが出来たのね、アンタ。」
「う、うん。まぁちょっとした成り行きって奴かな…」
《初めて見る顔だな、いつ会ったんだ?》
「あー、そっか。カノープスも会ってないんだっけ?カノープスが……その、私のこと丸くなったって言った時の…。」
《あー、…いや、あれはすまんかった。あれは流石に無神経だった。》
「その時に何かお腹すいて倒れてて…それで、ご飯をあげたら懐かれちゃった。」
「桃太郎か何かの話してる?」
「じ、事実なんだよ!それに、何かあの子の家すっごいお金持ちみたいで…助けたお礼、って言ってあの子のおじいちゃんにすごく高い喫茶店に連れて行って貰ったりして…」
《聞けば聞くほど何か胡散臭い話だな。》
「いや、ホントなんだって!雪花ちゃんや黒鳥さんもいたから!」
なんて龍香が二人に懐疑的な目を向けられている中、必死に事情を説明しているその時だった。
サッカーグラウンドからワァッと歓声が上がる。三人が目を向けるとそこには藤正からのパスを受け取ったシオンがまるで脚にボールが吸い付いているのではないかと思わせる程の華麗なドリブルで次々とボールを奪おうと向かってくる子供達を避けていた。
「す、すっご…」
その足捌きはサッカーにあまり興味のないかおりでさえも感嘆させる程で、龍香もプロと遜色がないような動きに見える。
「そぉれっ!!」
そしてあっという間にゴール手前まで来ると、思い切りボールを蹴り上げる。そして蹴り上げられたボールは凄い勢いでゴールネットに向かい、そして網を突き破らんばかりに突き刺さると、ポトっと落ちる。
「ご、ゴール!!」
審判役の誰かが言うとまたもやうおおおっと歓声が湧き上がる。
「す、凄いよシオンさん!」
「マジでスゲー!!プロじゃん!」
「へへん!どんなもんよー!」
周りの子供達がシオンを褒め称える。
《…子供にしちゃえらく動くな。》
「最近の子って凄いんだねー。」
《むぅ……》
カノープスは怪訝な目をシオンに向ける。だがシオンは皆からの賛美を程々に受け取ると、龍香に近づいてくる。
「どう?龍香!見てた?アタシのシュート!凄かったでしょ?」
「うん。見てたよ。凄かった!」
「えへへぇ。」
龍香が褒めるとシオンはえへへ、と嬉しそうににへら、と笑う。
「さぁて、見ててね龍香!またスゴイシュートを…」
シオンがそこまで言いかけた瞬間だった。ポーンポーンと公園の時計が四時になったことを伝える電子音が流れる。
それを聞いたシオンはビクッとなって慌てて時計を見ると。
「あ、もう四時!?うぅ〜もうちょっと遊びたかったけど、しょうがない…悪いけど、アタシもう帰らなきゃ!」
「えっ、もう帰るのか?」
「帰らないと怒られちゃうから!あっ、龍香!」
「何?」
シオンは龍香に顔を近づけ、紅いほっぺにキスをすると公園の入り口へと駆け出して。
「じゃあね、龍香!また今度!」
「あっ、シオンちゃ……もう。」
小さくなって消えていく後ろ姿を龍香が苦笑しながら見送っていると。
「り、りりりり龍香!!あ、あんアンタほっぺにち、ちちちちゅーを…!?」
「えっ、あぁ。初めてやられた時にはビックリしたけど、外国だと普通なのかなぁって。」
「り、龍香!や、やっぱりお前は女の人が好きなのか!?」
「いやだから違うって!!」
《うーん、まぁ俺は良いと思うぞ。俺がとやかく言う事ではないだろうが。》
「誤解だよぉー!!」
シオンの凶行にびっくりした三人に詰め寄られた龍香の抗議の声が公園に響き渡るのだった。
一人の青年と少女が公園を歩いていた。
「………。」
ゆらゆら、ゆらゆらとまるで海に揺蕩う藻屑のように頼りない足取り。だが、その目。黒く濁ってはいるが抱えきれぬ憎悪と狂気的な妖しい光が渦巻いていた。
《随分とご機嫌だな?そんなに今から戦えるのが、嬉しいのか。》
「それは、お互い様だろう。」
《確かにな。》
青年……龍斗は自分の中から話しかけてくるアルレシャにそう返す。そんなやり取りをしていると、プロウフが適当に見繕った私服に着替えていた白龍香が龍斗のズボンの裾を引っ張る。
「って言うかさぁ、喉乾いたんだけど。」
龍香の視線の先には車を屋台代わりにしている出店があった。
《今から戦いだってんのに、何言ってやがるクソガキ。》
「だからこそ、だよ。英気を養うんだよぉ。ねぇ。いいでしょう?」
「まぁ、そのくらいいいだろう。」
龍斗はそう言うと、白龍香と一緒に出店で飲み物を購入する。
「わぁい!さっすがお兄ちゃん♡話が分かる♡」
《随分と甘いようで。》
「後からゴネられるよりかはマシだ。」
二人はストローから飲み物を啜りながらさらに歩を進めて、適当なベンチに腰掛ける。
「一旦打ち合わせの方をしておこう……。お前は龍香を。俺は龍賢が狙いだ。そこまではいいな?」
「うん、そうだね!」
「だが、今回は龍賢の奴には俺の息がかかった連中が一旦呼び出してるから、いるのは龍香と金髪のガキと黒いのと赤いのだろう。」
「へぇ、もう手回ししてたんだ。」
「あぁ。今回の戦いは出来る限り奴らの頭数を減らす。そのために、お前は龍香の足止めをしていろ。残りは俺達がやる。」
「三対一になるけどぉ、大丈夫?」
「心配ない。」
龍斗はそう言うと飲み干した空の容器をグシャッと握り潰した。
「今の俺達に油断も、慢心もない。そうだろう?」
《あぁ。俺様達の本気を見せてやる。》
「ふーん…。ま、お兄様が言うなら任せるわ。」
「なら早速作戦開始だ。これを。」
そう言うと龍斗は紙切れを取り出し、白龍香に渡す。
「何これ。」
「その紙に書いてある通りにしてくれれば、いい。」
尋ねる白龍香に龍斗は薄暗い怨嗟の焔で歪んだ笑みを浮かべて言い放つ。
「それが奴らの終わりへの第一歩になる…!」
「………。」
ゆらゆら、ゆらゆらとまるで海に揺蕩う藻屑のように頼りない足取り。だが、その目。黒く濁ってはいるが抱えきれぬ憎悪と狂気的な妖しい光が渦巻いていた。
《随分とご機嫌だな?そんなに今から戦えるのが、嬉しいのか。》
「それは、お互い様だろう。」
《確かにな。》
青年……龍斗は自分の中から話しかけてくるアルレシャにそう返す。そんなやり取りをしていると、プロウフが適当に見繕った私服に着替えていた白龍香が龍斗のズボンの裾を引っ張る。
「って言うかさぁ、喉乾いたんだけど。」
龍香の視線の先には車を屋台代わりにしている出店があった。
《今から戦いだってんのに、何言ってやがるクソガキ。》
「だからこそ、だよ。英気を養うんだよぉ。ねぇ。いいでしょう?」
「まぁ、そのくらいいいだろう。」
龍斗はそう言うと、白龍香と一緒に出店で飲み物を購入する。
「わぁい!さっすがお兄ちゃん♡話が分かる♡」
《随分と甘いようで。》
「後からゴネられるよりかはマシだ。」
二人はストローから飲み物を啜りながらさらに歩を進めて、適当なベンチに腰掛ける。
「一旦打ち合わせの方をしておこう……。お前は龍香を。俺は龍賢が狙いだ。そこまではいいな?」
「うん、そうだね!」
「だが、今回は龍賢の奴には俺の息がかかった連中が一旦呼び出してるから、いるのは龍香と金髪のガキと黒いのと赤いのだろう。」
「へぇ、もう手回ししてたんだ。」
「あぁ。今回の戦いは出来る限り奴らの頭数を減らす。そのために、お前は龍香の足止めをしていろ。残りは俺達がやる。」
「三対一になるけどぉ、大丈夫?」
「心配ない。」
龍斗はそう言うと飲み干した空の容器をグシャッと握り潰した。
「今の俺達に油断も、慢心もない。そうだろう?」
《あぁ。俺様達の本気を見せてやる。》
「ふーん…。ま、お兄様が言うなら任せるわ。」
「なら早速作戦開始だ。これを。」
そう言うと龍斗は紙切れを取り出し、白龍香に渡す。
「何これ。」
「その紙に書いてある通りにしてくれれば、いい。」
尋ねる白龍香に龍斗は薄暗い怨嗟の焔で歪んだ笑みを浮かべて言い放つ。
「それが奴らの終わりへの第一歩になる…!」
「なんかあの子と絡むとドッと疲れるなぁ…」
「いやー、だっていきなりその…チューしたら誰でもビックリするわよ…。」
龍香とかおりがわいわいと雑談しながら帰路に着く。シオンが帰った後もしばらく観戦していたが、なんとなくお開きムードになったのでかおりと一緒に帰ることにしたのだ。
そんな風に今日あったことを二人が話しながら歩く帰り道。ふと前を見ると向こうから見覚えのある二人がやってくる。
「あれ?」
《雪花と黒鳥か?》
何か急いでいるようにこちらに走ってくる二人を龍香が眺めていると、段々とこちらに近づいてきて…そしてかおりと一緒にいる龍香に慌てた様子で尋ねる。
「龍香!敵は!?シードゥスは?」
「え?」
「この辺に手強いシードゥスがいるのか!?」
「え?え?何の話?」
焦ったように捲し立てる二人に何がなんだか分からない龍香は困惑する。
すると、その様子に二人も頭の上に?マークを浮かべ、怪訝な顔つきになる。
「えっ、アンタが私達に電話で言ったじゃない。一人では手に負えないシードゥスがいるって。」
「えっ、言ってない言ってない。私、そもそも電話してないよ?」
「……どう言う事だ?」
食い違うお互いの主張。三人がどう言うことだと考え始めたその時だった。
「こう言う事よ♡」
聞き覚えのある声。三人が一斉にその声がした方向に振り向くと、そこには白いドレスに身を包んだ龍香……白龍香がいた。
「あなたは…!!」
「えっ!?り、龍香が二人!?」
姿形どころか声までそっくりな白龍香にかおりは驚愕する。黒鳥、雪花の二人も驚くが、すぐに険しい顔つきに戻る。
「成る程。アンタが赤羽が言ってた偽物ね。通りでアイツとは思えない程ふてぶてしい面してるわ。」
「何のつもりかは知らないが。そちらの出方次第では…」
雪花と黒鳥が構える。それと同時に二人の言葉に白龍香のこめかみに青筋が浮かぶ。
「アンタ達も、バカなのかしら…?」
白龍香が殺気立ち、二人も応戦しようとした瞬間。
「あまり、妹をいじめないで貰おうか。」
スッと白龍香の後ろから一人の青年が現れる。その青年の顔を見た龍香は目を見開く。
「龍斗……お兄ちゃん…?」
《お前……ッ!》
「久しぶりだな。?三人か。てっきりあの赤いのも来るかと思ったんだが。」
「アンタは…ッ!!」
その青年は紫水龍斗…龍香の兄だった。龍斗の登場に彼の所業を知る雪花は怒りに顔を歪ませる。
「何?また龍香を苦しめるつもり…!?アンタ龍香の家族なんでしょ!?何でまた…!」
「……家族が全て幸せとは限らない。中に憎しみ合う家族も、分かり合えない家族もいる。」
龍斗の言葉に黒鳥は顔をしかめる。そして龍斗はスッと前に手を出して言う。
「……言っておくが、俺はあの時の中途半端な俺ではない。…アイツを、紫水龍賢を殺すためなら…。」
龍斗の身体が地面から湧き出た水に包まれる。そしてギュッと圧縮したかと思うと弾けて水滴が散らばる。
そこにいたのは以前よりも凶悪な顔つきになった魚の怪物が立っていた。
「龍香。お前の死すら厭わない。」
「──ッ」
龍香が思わず後ずさる。だが、代わりに雪花が“マタンII”を構える。
「なんだか知らないけど、もう一回痛い目を見たいって言うなら…!!」
雪花はそのまま怪物と化した龍斗へと向かっていき、そして“マタンII”を振り上げる。
「もう一回ぶっ潰してやる!」
「……馬鹿め。」
振り下ろされた“マタンII”が龍斗にぶつかる直前、雪花の腹に目にも止まらぬ速さで龍斗は水を纏った拳を叩き込む。
「がっ──」
そして拳の水が轟音と共に弾けたかと思うと雪花は大きく吹っ飛ばされて地面へと叩きつけられる。
「雪花ちゃん!?」
「藍!?」
打ちのめされた雪花はピクリとも動かない。あまりの剛腕に驚く三人を見ながら龍斗は拳を緩めて、三人を見据える。
「まずは──一人。」
「いやー、だっていきなりその…チューしたら誰でもビックリするわよ…。」
龍香とかおりがわいわいと雑談しながら帰路に着く。シオンが帰った後もしばらく観戦していたが、なんとなくお開きムードになったのでかおりと一緒に帰ることにしたのだ。
そんな風に今日あったことを二人が話しながら歩く帰り道。ふと前を見ると向こうから見覚えのある二人がやってくる。
「あれ?」
《雪花と黒鳥か?》
何か急いでいるようにこちらに走ってくる二人を龍香が眺めていると、段々とこちらに近づいてきて…そしてかおりと一緒にいる龍香に慌てた様子で尋ねる。
「龍香!敵は!?シードゥスは?」
「え?」
「この辺に手強いシードゥスがいるのか!?」
「え?え?何の話?」
焦ったように捲し立てる二人に何がなんだか分からない龍香は困惑する。
すると、その様子に二人も頭の上に?マークを浮かべ、怪訝な顔つきになる。
「えっ、アンタが私達に電話で言ったじゃない。一人では手に負えないシードゥスがいるって。」
「えっ、言ってない言ってない。私、そもそも電話してないよ?」
「……どう言う事だ?」
食い違うお互いの主張。三人がどう言うことだと考え始めたその時だった。
「こう言う事よ♡」
聞き覚えのある声。三人が一斉にその声がした方向に振り向くと、そこには白いドレスに身を包んだ龍香……白龍香がいた。
「あなたは…!!」
「えっ!?り、龍香が二人!?」
姿形どころか声までそっくりな白龍香にかおりは驚愕する。黒鳥、雪花の二人も驚くが、すぐに険しい顔つきに戻る。
「成る程。アンタが赤羽が言ってた偽物ね。通りでアイツとは思えない程ふてぶてしい面してるわ。」
「何のつもりかは知らないが。そちらの出方次第では…」
雪花と黒鳥が構える。それと同時に二人の言葉に白龍香のこめかみに青筋が浮かぶ。
「アンタ達も、バカなのかしら…?」
白龍香が殺気立ち、二人も応戦しようとした瞬間。
「あまり、妹をいじめないで貰おうか。」
スッと白龍香の後ろから一人の青年が現れる。その青年の顔を見た龍香は目を見開く。
「龍斗……お兄ちゃん…?」
《お前……ッ!》
「久しぶりだな。?三人か。てっきりあの赤いのも来るかと思ったんだが。」
「アンタは…ッ!!」
その青年は紫水龍斗…龍香の兄だった。龍斗の登場に彼の所業を知る雪花は怒りに顔を歪ませる。
「何?また龍香を苦しめるつもり…!?アンタ龍香の家族なんでしょ!?何でまた…!」
「……家族が全て幸せとは限らない。中に憎しみ合う家族も、分かり合えない家族もいる。」
龍斗の言葉に黒鳥は顔をしかめる。そして龍斗はスッと前に手を出して言う。
「……言っておくが、俺はあの時の中途半端な俺ではない。…アイツを、紫水龍賢を殺すためなら…。」
龍斗の身体が地面から湧き出た水に包まれる。そしてギュッと圧縮したかと思うと弾けて水滴が散らばる。
そこにいたのは以前よりも凶悪な顔つきになった魚の怪物が立っていた。
「龍香。お前の死すら厭わない。」
「──ッ」
龍香が思わず後ずさる。だが、代わりに雪花が“マタンII”を構える。
「なんだか知らないけど、もう一回痛い目を見たいって言うなら…!!」
雪花はそのまま怪物と化した龍斗へと向かっていき、そして“マタンII”を振り上げる。
「もう一回ぶっ潰してやる!」
「……馬鹿め。」
振り下ろされた“マタンII”が龍斗にぶつかる直前、雪花の腹に目にも止まらぬ速さで龍斗は水を纏った拳を叩き込む。
「がっ──」
そして拳の水が轟音と共に弾けたかと思うと雪花は大きく吹っ飛ばされて地面へと叩きつけられる。
「雪花ちゃん!?」
「藍!?」
打ちのめされた雪花はピクリとも動かない。あまりの剛腕に驚く三人を見ながら龍斗は拳を緩めて、三人を見据える。
「まずは──一人。」
To be continued……。