4. 戦いの、はじまり
牧場と畑が完成してから、1ヶ月。
わたし達の食料問題は、ほぼ解決したと言っても良いところまで来た。
特に畑の存在はとても大きく、校庭の隅で細々と育てていた頃とは比べものにならないほどの効率で野菜を育てられるようになり、御滴ちゃんの協力もあって全員に十分な量が行き渡るようになった。
牧場で育てている牛たちも、安定して牛乳を出してくれている。肉として食べる事になる牛や豚達の解体は流石にわたし達では難しいので、神楽坂さんが率先して行ってくれている。このあいだ彼女が血抜きした牛の血をがぶ飲みしているところを見てしまった気がするけど、忘れる事にしよう。
わたし達の食料問題は、ほぼ解決したと言っても良いところまで来た。
特に畑の存在はとても大きく、校庭の隅で細々と育てていた頃とは比べものにならないほどの効率で野菜を育てられるようになり、御滴ちゃんの協力もあって全員に十分な量が行き渡るようになった。
牧場で育てている牛たちも、安定して牛乳を出してくれている。肉として食べる事になる牛や豚達の解体は流石にわたし達では難しいので、神楽坂さんが率先して行ってくれている。このあいだ彼女が血抜きした牛の血をがぶ飲みしているところを見てしまった気がするけど、忘れる事にしよう。
食料問題が解決したら、次に行うべきは周辺の子供たちの捜索だ。以前は毎日行われていたラジオ放送も、数ヶ月前からほとんど放送されなくなってしまった。しかし先日、自分たちの今の居場所と人数を伝える、短い放送があった。彼らにいよいよ危機が迫っている、と判断したわたし達は、救出作戦を立てる事にしたのだ。
「……というわけで、みなみ地区の子供達を救出するための、作戦会議を行います!」
カン!と昔先生達が使っていた指示棒で、ライジングちゃんが黒板を指す。ご丁寧に伊達メガネまでかけている。気分はすっかり先生みたいだ。
カン!と昔先生達が使っていた指示棒で、ライジングちゃんが黒板を指す。ご丁寧に伊達メガネまでかけている。気分はすっかり先生みたいだ。
青空町みなみ地区。
以前はわたし達もよく遊びに行った、森や川などの自然が多く残る地区だ。
あの辺りは学区が違うため、青空学園に通っていない子供達も多く住んでいた。
だけど、あそこで遊んでいる時に仲良くなった子もたくさんいる。
以前はわたし達もよく遊びに行った、森や川などの自然が多く残る地区だ。
あの辺りは学区が違うため、青空学園に通っていない子供達も多く住んでいた。
だけど、あそこで遊んでいる時に仲良くなった子もたくさんいる。
もしかしたら、その子達が今も機人相手に懸命に戦っているかも知れない。
機人に狙われない体質だったとしても、
飢えや渇きに苦しんでいるかも知れない。
もしそうだとしたら、助けない理由はない。
以前は自分たちが生きるので精一杯だったけれど、今は違う。
わたし達は、この世界の希望なんだ!
機人に狙われない体質だったとしても、
飢えや渇きに苦しんでいるかも知れない。
もしそうだとしたら、助けない理由はない。
以前は自分たちが生きるので精一杯だったけれど、今は違う。
わたし達は、この世界の希望なんだ!
「まずわたしが空から偵察するから、
はもはもちゃんとアもちゃんが前衛、
よみちゃんとみっちゃんが後衛の4人チームで進んで。殿は御滴ちゃん、お願いできる?」
「任せナ。何かあれば、アチキが時間を止めて助けてやらァ」
「とにかく機人との戦闘は避けよう。
あれに出会っちゃったら、全力で逃げる。
それしかない」
「うん……戦っても、勝ち目はないもんね。私の『お友達』も、注意を引くくらいしかできないと思う」
「よみちゃんは気張りすぎなくていいんだよ。いざとなったらアタシが助けてやっから」
「……うん、わかった。ありがとう」
「べ、別に礼を言われるような事じゃ……」
カンカン!
「はいそこイチャつかなーい。会議に戻りまーす」
はもはもちゃんとアもちゃんが前衛、
よみちゃんとみっちゃんが後衛の4人チームで進んで。殿は御滴ちゃん、お願いできる?」
「任せナ。何かあれば、アチキが時間を止めて助けてやらァ」
「とにかく機人との戦闘は避けよう。
あれに出会っちゃったら、全力で逃げる。
それしかない」
「うん……戦っても、勝ち目はないもんね。私の『お友達』も、注意を引くくらいしかできないと思う」
「よみちゃんは気張りすぎなくていいんだよ。いざとなったらアタシが助けてやっから」
「……うん、わかった。ありがとう」
「べ、別に礼を言われるような事じゃ……」
カンカン!
「はいそこイチャつかなーい。会議に戻りまーす」
「目的地に着いても、すぐに見つかるとは限らないよね。探す時間を確保するためにも、安全のためにも、機人を連れて来ないようにしないと!」
「あぁ。逃げながらなんとか着きましたー、じゃカッコがつかねぇ。最善なのは見つからねぇ事だが……そう上手く行くかどうかは分からないからな。万が一見つかっちまったら、とにかくアレを振り切る。……逃げの一手とは情けない話だけどな」
「戦っても敵わないんだもん、仕方ないよ。
何よりも大事なのは、生き残ること。
それと今回はみなみ地区の子達を助ける事だね」
「分かってら。オレ達は世界の希望、だろ?」
「も、もう!アもちゃん、茶化さないでよ!」
覚悟を決めた皆の様子を見て、ライジングちゃんはうんうんと頷き、眼鏡をピカーンと光らせる。
「作戦の流れは決まったね。
じゃあ、みんな!ケガのないように行こう!」
「「「お───!!!」」」
「あぁ。逃げながらなんとか着きましたー、じゃカッコがつかねぇ。最善なのは見つからねぇ事だが……そう上手く行くかどうかは分からないからな。万が一見つかっちまったら、とにかくアレを振り切る。……逃げの一手とは情けない話だけどな」
「戦っても敵わないんだもん、仕方ないよ。
何よりも大事なのは、生き残ること。
それと今回はみなみ地区の子達を助ける事だね」
「分かってら。オレ達は世界の希望、だろ?」
「も、もう!アもちゃん、茶化さないでよ!」
覚悟を決めた皆の様子を見て、ライジングちゃんはうんうんと頷き、眼鏡をピカーンと光らせる。
「作戦の流れは決まったね。
じゃあ、みんな!ケガのないように行こう!」
「「「お───!!!」」」
……………………
………………………………
…………………………………………
ライジングちゃんが示してくれる方向に、前後左右を警戒しながらゆっくりと進む。
食料を自給自足できるようになってからはほとんど必要がなくなっていたので、結界の外に出るのは久しぶりだ。
比較的戦闘が得意なメンバーで来ているとはいえ、機人に遭遇してしまったら無事で済むとは限らない。その緊張感からか、まだ学園からそう離れていないにも関わらず、誰も言葉を発しようとはしない。
食料を自給自足できるようになってからはほとんど必要がなくなっていたので、結界の外に出るのは久しぶりだ。
比較的戦闘が得意なメンバーで来ているとはいえ、機人に遭遇してしまったら無事で済むとは限らない。その緊張感からか、まだ学園からそう離れていないにも関わらず、誰も言葉を発しようとはしない。
住む人のいなくなった住宅街を、静かに進んでいく。あちこち崩れた家や、管理する人間がいなくなり、荒れ放題の庭。そして生々しい銃痕や血の跡が、つい1年前にここで起きた凄惨な出来事を物語っている。遺体が見当たらない事はせめてもの救いかも知れない。
(みんな、伏せて!)
ライジングちゃんの声だ。
わたし達はさっと物陰に身を潜める。
グオォォォン…………!
もはや聞き慣れた、
しかし絶対に聞きたくない機械音。
機人のエンジンの、駆動音だ。
(1機だけだけど、機人がいる。
みんな、気をつけて)
ライジングちゃんの声だ。
わたし達はさっと物陰に身を潜める。
グオォォォン…………!
もはや聞き慣れた、
しかし絶対に聞きたくない機械音。
機人のエンジンの、駆動音だ。
(1機だけだけど、機人がいる。
みんな、気をつけて)
機人のCPUは、ネットワークを介して繋がっている。1機に見つかれば、付近の機人全てに位置がばれてしまう。
それだけは絶対に避けなくてはいけない。
今のところ近くに他の機人は見当たらないけれど、だからと言って安心はできない。
それだけは絶対に避けなくてはいけない。
今のところ近くに他の機人は見当たらないけれど、だからと言って安心はできない。
(どうしよう……。みなみ地区に行くには、今あいつがいる道を抜けないといけないよ)
(私が『お友達』を呼んで気を引いてみようか……?)
(ダメだ!それでもしよみちゃんの居場所がバレたら危険すぎる!)
「なぁにをつべこべ言ってるんでィ。ここは
アチキに任せナ。『時の螺子を一巻き(タイム・リミテッド・ルーラー)』!」
「えっ、御滴ちゃん!?」
(私が『お友達』を呼んで気を引いてみようか……?)
(ダメだ!それでもしよみちゃんの居場所がバレたら危険すぎる!)
「なぁにをつべこべ言ってるんでィ。ここは
アチキに任せナ。『時の螺子を一巻き(タイム・リミテッド・ルーラー)』!」
「えっ、御滴ちゃん!?」
ガコン…………!
チッ、チッ、チッ………………。
…………………………………………。
時の歯車が動いた音が聞こえた、気がした。
チッ、チッ、チッ………………。
…………………………………………。
時の歯車が動いた音が聞こえた、気がした。
「これでアイツの周囲の時間は止まった。
今なら目の前を通ったってアイツにゃ認識できネェって寸法よ。さ、早く行きナ!」
「す、すごいよ!御滴ちゃん!」
「チート能力だ…………」
御滴ちゃんの力で『時間が止まっている』状態の機人の前を通り過ぎて、みなみ地区へと向かう。最後のラジオ放送で子供達が示していた場所まで、あと少しだ。
「ん、御滴ちゃん、どうかした?」
「……なんでもねぇヨ。さ、早いとこ行こうぜ」
今なら目の前を通ったってアイツにゃ認識できネェって寸法よ。さ、早く行きナ!」
「す、すごいよ!御滴ちゃん!」
「チート能力だ…………」
御滴ちゃんの力で『時間が止まっている』状態の機人の前を通り過ぎて、みなみ地区へと向かう。最後のラジオ放送で子供達が示していた場所まで、あと少しだ。
「ん、御滴ちゃん、どうかした?」
「……なんでもねぇヨ。さ、早いとこ行こうぜ」
「目的地は、この辺りのはずだけど……」
「……何もないね。人の気配も感じない」
指定された場所の周辺には、空き地が広がっているだけだった。雑草も伸び放題で、人がいた形跡もない。
「これって、もしかして……」
「時既に遅し、ってやつなんじゃねぇか。
あるいは、機人に追われて別の場所に移ったか、だ」
「そんな……せっかくここまで来たのに」
「……待って。あそこ……雑草がないところがある」
よみちゃんが、空き地の隅の一角を指差す。
確かに、そこだけ雑草がなく、細い獣道のようになっている。
「最近人の出入りがあった、って事だね。この道を辿ってみよう」
「……何もないね。人の気配も感じない」
指定された場所の周辺には、空き地が広がっているだけだった。雑草も伸び放題で、人がいた形跡もない。
「これって、もしかして……」
「時既に遅し、ってやつなんじゃねぇか。
あるいは、機人に追われて別の場所に移ったか、だ」
「そんな……せっかくここまで来たのに」
「……待って。あそこ……雑草がないところがある」
よみちゃんが、空き地の隅の一角を指差す。
確かに、そこだけ雑草がなく、細い獣道のようになっている。
「最近人の出入りがあった、って事だね。この道を辿ってみよう」
慎重に、獣道を辿っていく。
瓦礫の下をくぐり、林を抜け、民家の庭を通り……その先にあったのは……。
「これって……シェルターの入り口?」
「小さいけれど、確かにシェルターだね。
エイリアンが来た時に作られたものかな」
入り口には鍵がかかっていなかった。
警戒しつつ、扉を開ける。
瓦礫の下をくぐり、林を抜け、民家の庭を通り……その先にあったのは……。
「これって……シェルターの入り口?」
「小さいけれど、確かにシェルターだね。
エイリアンが来た時に作られたものかな」
入り口には鍵がかかっていなかった。
警戒しつつ、扉を開ける。
「だ、だれっ!?」
そこにいたのは、10歳くらいの女の子。
ボロボロの服を纏い、敵を警戒してか
小さな石を削ったナイフで武装していた。
「待って、落ち着いて!わたし達は敵じゃない。ラジオを聞いて、助けに来たの!」
「えっ……ほ、本当に……?
私達……助かるんですか……!?」
「える!どうした、敵襲か!?」
シェルターの奥からまた別の女の子が出てきた。こちらはわたし達と同じ、15〜6歳くらいの女の子だ。
えると呼ばれた女の子は、瞳にうっすら涙を浮かべながら振り返る。
「純乃さん……!助けが、来てくれたよ!!
私達……助かるんだ!!」
「ほ、本当か……?!君たち、疑いたくはないが、奴らの仲間じゃないだろうな?」
純乃(じゅんの)と呼ばれた女の子は、期待と不安が入り混じった目をこちらに向ける。
「奴ら?奴らって機人のこと?
機人に人間の仲間なんていないんじゃ……」
ライジングちゃんがきょとんとした顔で聞き返す。
「いいや。敵はあの機人だけじゃない。
人間の敵もいる。武装した、大人の兵士だ。
私の仲間の何人かは、奴らに連れ去られた。
そして、奴らのボスの名はDr.マッド。
狂気に囚われた、マッドサイエンティストだ」
そこにいたのは、10歳くらいの女の子。
ボロボロの服を纏い、敵を警戒してか
小さな石を削ったナイフで武装していた。
「待って、落ち着いて!わたし達は敵じゃない。ラジオを聞いて、助けに来たの!」
「えっ……ほ、本当に……?
私達……助かるんですか……!?」
「える!どうした、敵襲か!?」
シェルターの奥からまた別の女の子が出てきた。こちらはわたし達と同じ、15〜6歳くらいの女の子だ。
えると呼ばれた女の子は、瞳にうっすら涙を浮かべながら振り返る。
「純乃さん……!助けが、来てくれたよ!!
私達……助かるんだ!!」
「ほ、本当か……?!君たち、疑いたくはないが、奴らの仲間じゃないだろうな?」
純乃(じゅんの)と呼ばれた女の子は、期待と不安が入り混じった目をこちらに向ける。
「奴ら?奴らって機人のこと?
機人に人間の仲間なんていないんじゃ……」
ライジングちゃんがきょとんとした顔で聞き返す。
「いいや。敵はあの機人だけじゃない。
人間の敵もいる。武装した、大人の兵士だ。
私の仲間の何人かは、奴らに連れ去られた。
そして、奴らのボスの名はDr.マッド。
狂気に囚われた、マッドサイエンティストだ」