黒騎士ユリア・グラミネアの細腕奮闘記 その19

 「六号」を巡る情勢について書いておきながら、その後書いているのはシモの話ばかりである。というわけで今回はラウラのヰタ・セクスアリスなわけである。


 その夜、ラウラ・ヴォーデ・シュバイツがもよおして手洗いに行った帰りのことであった。眠い目をこすりながら、どこで迷ったのか真っ暗な屋敷の廊下で、自室を探すはめになってうろうろしていた時のことである。わずかに開かれている扉から、薄暗い明かりと人の声が漏れているのに気がついた彼女は、扉を閉めようと部屋に近づいた。そして、室内から漏れ聞こえる嬌声に、思わず全身が硬直してしまった。
 そのまま誘われるように扉の隙間から室内をのぞいたラウラは、自分が見た光景に全身が茹で上がる思いであった。
 そこはこの屋敷の女主人であるユリア・グラミネアの寝室で、中には大きな時代物の天蓋付寝台が置かれていた。その上でユリアと、リーネと、シャリアの三人が裸で絡み合っていたのだ。寝台脇の小机の上に燭台には魔道光の照明がともされ、薄暗い光に照らし出された三人の肢体の陰影は、あまりにも淫靡でラウラの知る三人とは全くの別人に見えた。

「シャリアのおっきくて、おなかいっぱいだよう……」
「リーネの身体はぷくぷくして、さわり心地がすごくいいんだ。ほら、胸もこんなにもみ心地がいいし」
「ひゃぁっ! やだぁ、きにしてるのにぃ……」

 高く尻を突き上げたユリアをその尻肉をつかんで後ろから犯しているリーネを、抱きすくめるようにシャリアが後ろから犯している。シャリアの腰の動きに合わせてリーネの腰も動き、寝台の上でユリアは嬌声を上げるばかりであった。

「も、もうイっちゃうよう……」
「ほら、我慢、我慢。ユリアさんももうイきそうだから、三人でいっしょに逝こうよ」
「あんっ、背中にシャリアの胸がこすれてくすぐったいよぅ」

 ま白くふっくらとしたリーネを肢体を、シャリアの筋肉質の身体が抱きしめ上下に動いている。二人の汗ばんだ肉体の間で、シャリアの大きな乳房が潰れて弾けている。二人とも全身を上気させていて息も荒い。
 ラウラは、ばくばくと早鐘を打つ心臓を押さえようと両手を胸に当てたとき、自分の肌もじっとりと汗ばみ始めているのに気がつき、そのままどうしたらいいのか判らないままその場に立ちすくんでしまっていた。

「……っ!!」
「ひゃぁっ!」
「くぅっ!」

 ひと際大きく、声にならない声をあげたユリアに続いて、彼女の尻肉を両手でつかんで抽送を繰り返していたリーネが、腰を押しつけて可愛らしい嬌声をあげてのけぞり、ふるふると震え、それと同時にリーネを背中から抱きしめていたシャリアが、二度三度と腰をふりつつ痙攣した。
 そのままがっくりとユリアの背中に倒れこんだリーネの中からシャリアの逸物が淫液の糸を引いて抜かれ、まだ硬さを失わないそれをそそり立たせたまま、彼女はその場に腰を下ろしてへたりこんだ。

「リーネはぷくぷくなのにきつきつだから、あっという間に逝っちゃった……」
「だから、ふとってるの言わないでっ それに、シャリアのおっきいから、まだ股になにかはさまっている感じがするよぉ……」
「えー、いいじゃん、リーネって抱き心地がいいだからさぁ、ほら」
「ひゃあんっ! やだぁ、そんなところ急にさわっちゃだめぇ」

 うつぶせに横たわっているユリアの身体にかぶさっているリーネにのしかかり、シャリアは彼女の身体をまさぐり始めた。その手の動きに身体をよじらせたリーネの下で、ようやく意識が戻ってきたのかユリアが首をひねった。

「あぁ…… 尻から犯されて興奮し過ぎた。よかったぞ、リーネ」
「……んっ、あ、気持ちよかったです? ユリアさん」
「ああ、たっぷりと堪能させてもらった。……今度はリーネの番だな」
「え? あ、あ、舐めちゃらめぇっ!?」

 ごろりと転がってリーネの下から抜け出したユリアが、彼女の股間に顔をうずめると、その舌でユリアとシャリアより一回り小ぶりのそれを舌で清め始めた。その感触にリーネは声をあげて身をのけぞらせ、よじらせる。
 リーネの逸物を唇と舌とできれいにしたユリアは、そのままシャリアの精液と本人の淫液とでべたべたになっている秘裂の中に舌を差し入れ、中身を音を立てて吸い出してゆく。ぴちゃぴちゃちゅるちゅると音を立てて股間を舐められる感触に、リーネは真っ赤になって目をつむったまま身体をこわばらせていた。

「ふっふー もう、リーネったら恥ずかしがりだなあ」
「!? ひぃあっ、シャリアさん、胸ばっかり、らめらったらぁ……」
「だーめ、こんなに揉み心地がいいリーネの胸が悪いんだからさ」
「もう、だったら、えいっ!」

 息を整えたシャリアがリーネによりそって、両手で彼女の双球を柔らかく揉みしだいてゆく。上と下とを同時に攻められて背中をのけぞらせたリーネは、お返しとばかりにシャリアの両胸をわしづかみにした。

「あはぁっ! もう、リーネったら。なら、こうだっ」
「あひゃんっ! やだ、もうっ」

 互いに互いの豊かな双球を揉み合う中、ユリアは並んでそそり立つ二人の逸物に舌を這わせ、両手の平で二人の股間をなでさすり、指をそのしとどに濡れそぼる秘裂の中へと沈めてゆく。
 下半身に加えられるユリアからの刺激に、リーネとシャリアは同時に嬌声を上げた。

「やあんっ! ユリアさん、突然ですよぉ……」
「ひゃっ! もう、ユリアさん、びっくりしたあ……」
「ふふっ、二人ともそうは言っても、しっかりくわえ込んで離さないではないか。ほら、二本目だ。こうやって中をくじられると気持ちよいだろう?」

 リーネとシャリアの膣内で、人差し指と中指を交互に動かし曲げ、二人の感じるポイントを的確に責めてゆくユリアに、薄茶色の髪をした、茶褐色の髪をした少女らは、互いに嬌声と双球を重ね合わせて身をよじらせる。二人は互いに指を絡ませあい、唇を重ねあい、胸を押しつけあって、こげ茶色の髪をした年上の麗人に絶頂へと導かれていった。
 ラウラは、絡み合う三人の姿に、気がつけば寝巻きの上からまだ膨らみかけの胸と、幼い肉棒をいじっていて、そして三人の絶頂に達する嬌声とともに下着を白濁した粘液で汚してしまっていた。そして、ことが済んで三人が荒い息をつきながら身体を寄せ合ったのを見て、自分が今まで何をしていたのかに気がつき、我に返って慌ててその場を離れた。


 次の日の朝、食堂に朝食を食べに下りていったラウラは、ユリアとリーネとシャリアの三人が、まるで昨晩の艶事など無かったかのようにきちっと軍服を着て席についているのを見て、真っ赤になって固まってしまった。そんな彼女の様子に不思議そうな表情を浮かべたミキアヌシアとシサラに向かって、ラウラはあわてて作り笑いを浮かべてごまかそうとした。

「お、おはよう、ございます」
「おはよう、ラウラ。どうした? 顔が赤いぞ、熱でもあるのか?」
「い、いえ、教官殿っ! 自分は、なんともありませんっ!」

 いぶかしげな表情でラウラのいつもと違う様子に声をかけてきたヴォルズニア上級騎士隊長に、彼女はあわてた様子で頭と両腕を左右に振り、自分が元気であることをアピールしてみせた。

「……そうか、ならばいい。さっさと席に着け。あと、私のことは副大隊長だ」
「し、失礼いたしました、ふくだいたいちょうどのっ!」

 急いで自分の席についたラウラを、ユリアが興味深げに見つめている。だが、少女がその視線に気がつくより先に、ユリアは女中達が並べた暖かい料理を前に食事前の祈りをささげた。最後に皆が「かくあれかし」と唱えてから食事が始まり、合間に今日の課業について差しさわりのない範囲で話が交わされる。そんな普段と変わらない皆の中で、ラウラだけが黙々と食事を続けていた。

「そろそろ「六号」量産試作機も完成ですが、貴女の研修の方はどうです? ブリュンヒルデ」
「正直、いくら目を通しても資料も報告書も終わりにならん。この三年近くでどれだけの研究が行われたのか、まったくもって感心するしかないよ。ユリア」
「自分はそろそろ試験運用のために「帝都」を離れる事になりそうですが、次の三機の方は大丈夫ですか?」
「それはなんとかなりそうだ。「ディエス・イレ」に乗った感触からすれば、かなりのじゃじゃ馬なのは予想ができるがな」

 これまで「六号」開発のために黒騎士や工部達が行ってきた諸々の研究課題について、その資料や報告書すべてに目を通させられているヴォルズニア上級騎士隊長が、心底感心した様子でそう答えた。なにしろ「六号」は、何度か仕様変更がなされており、そのたびごとに一から技術や運用の研究をやり直しているのである。それら全てに目を通すことを命ぜられているヴォルズニア上級騎士隊長は、しょっちゅう開発資料室に泊まりこんでいた。

「皆そう言いますが、正直なところ自分にはそこまで尖った機体には思えないのですが」
「それはあれを育てたのが貴様だからだろう。「ディエス・イレ」に比べれば「黒の二」なんて小馬みたいなものだ。乗りこなせれば、あれに勝てる機体はそうはないだろうが、乗りこなすまでに相当難儀するぞ、あれは。むしろ、あれを一発で乗りこなしてみせたイル・ベリサリウス元帥がどれだけ化け物なのかと思ったがな」

 現在「六号」原型試作機である「ディエス・イレ」は、開発に参加している黒騎士達が交互に搭乗して、彼ら彼女らのこれまでの研究課題の実証に使用されている。そしてこの機神に搭乗した黒騎士達は、異口同音に「悍馬」と呼んで乗りこなすのに苦労していた。

「……さすがに量産試作機の方は、もっと大人しい機体にさせるそうです」
「ふむ。……ラウラ、貴様はどう思う?」
「……へ? あ、いや、その、申し訳ありません、聞いておりませんでしたっ!!」

 皆との会話にまじらず、一人黙々と食事をしていたラウラは、ヴォルズニア上級騎士隊長に突然声をかけられ、一瞬何が起きたのか判らない様子であたふたすると、席を立って直立不動の姿勢をとって腰を折った。

「……そうか。今日は調子が悪いようだが、勤務中まで引きずるな。事故や怪我などしないようにしろ」
「は、はいっ。了解であります、副大隊長殿!!」

 真っ赤になったうつむいたまま腰を下ろしたラウラを気遣うような声をかけたヴォルズニア上級騎士隊長は、視線をユリアへと向けた。だがユリアは、自分にも判らない、という風に首を左右にふってみせただけであった。


 その日のラウラの課業は、散々であった。脳裏に三人の裸身と痴態がちらついて集中をさまたげ、おかげで先任の黒騎士らに何度も叱られる羽目になった。元々が気張って肩に力が入りすぎていたきらいのある彼女である。叱られればそれだけ失点を取り戻そうと焦ってりきみ、かえって空回りすることになった。さすがに機体をこけさせたり壊したりはしなかったものの、ひやっとする瞬間が何度もあったのは事実であった。
 そんなこんなでどんよりとした気分のまま下宿先の屋敷へと戻ってきたラウラは、軍服を脱ぎ散らかしたままごろんと寝台の上に転がり、頭からシーツをかむって自己嫌悪に陥っていた。

「どうした、被服の手入れは軍人としての基本だろう?」
「グラミネア騎士長どのっ!? は、はい。申し訳ありませんっ!!」

 シーツの中で、もぞもぞと自分の幼い身体をまさぐっていたラウラに向けて声がかけられる。あまりのことに心臓が口から飛び出すのではないか、というくらいに驚いたラウラは、慌てて寝台の上で飛び起きると、脱ぎ散らかした服をかき集め、ブラシがけを始めた。真っ赤になって一心不乱にブラシがけをしている少女の向かいの寝台に腰を下ろしたユリアは、しばらく黙って少女のことを見つめていた。
 ユリアの視線に居心地の悪いものを感じつつ、まずは被服をととのえ、長靴や革帯を磨き上げ、所定に位置に並べる。そしてラウラは、自分が下着の上からシャツ一枚で作業に没頭していた事に気がつき、あわてて室内着を引っ張り出して着替えた。

「お、お見苦しいところをお見せしましたっ!」
「ああ、気をつけろ。自分の被服の手入れは、軍人として基本中の基本だからな」
「ご、ご指導ありがとうございましたっ!!」

 ユリアの言葉に直立不動の姿勢をとって腰を折ったラウラに向かって、彼女は笑って楽にするよう言った。そして寝台の上に腰を下ろさせると、柔らかく微笑んだまま話を続けた。

「今日は、朝から散々だったな。何かあったのならば、話くらいは聞くぞ?」
「い、いえ、特に問題はありません」
「そうか? それにしては、随分と肩に力が入っているな。貴様はいつも緊張気味だから、疲れるだろう。確かに上官と一つ屋根の下では気も休まらないだろうが、そこはまあ何か気晴らしでも見つけるんだな。なんなら、外で友人と一泊して遊んでくるといい」
「あ、ありがとうございます。……ですが、その、遊びにゆくといっても、どこに遊びに行ったらよいのか判らないのであります」

 肩をすくめて消え入りそうな様子でそう答えたラウラに、ユリアは少々困ったような笑みを浮かべて首をかしげた。

「なに、旅行にゆけと言っているわけではないんだ。宿付きの飲み屋で飲み食いして、そのまま泊まってしまうだけでも結構な気晴らしになるぞ?」
「そ、そういうものでありますか?」
「ああ。私もしょっちゅう恋人とそうやって羽目を外している。貴様にも、そういう仲の相手はいないのか?」

 ユリアの言葉に、ラウラはまるで爆発したかのように真っ赤になって硬直し、「こ、こいびと」と一言つぶやいて絶句してしまった。恋人と外泊、と聞いた瞬間のラウラの脳内には、誰ともしれない相手と裸で抱き合っている自分の姿がイメージされ、そして同時に昨夜のユリア達の痴態も思い出してしまったのだ。
 そんなラウラの様子に、ユリアは、ふむと両腕を組んで興味深そうな表情で少女のことを見つめていた。その視線をまともに受け止めることができず、ラウラは服の裾を握ったまま、恥ずかしそうにもじもじしている。

「……本当に、何があったのだ? 今日の貴様は様子が変だぞ?」
「だ、だいじょうぶであります。じぶんはなにももんだいありません」
「……問題ないとは言いつつ、貴様、何を恥ずかしがっている? まさか、月のものが初めてきた、とか、そういうことか?」
「じ、自分は、既に来ておりますっ!!」

 いくら見た目が幼いとはいえ、さすがにそれは無いとラウラは叫んだ。確かに見た目は十代半ばと言っても通るくらいであるが、彼女とて帝国軍人として正規に志願し、兵卒から従士を経て騎士に叙任され、上級騎士課程を修了した身である。その歳で初潮がまだということなどあるわけがない。

「それは済まなかった。ふむ、だが他に思いつかなくてな。……誰か惚れた相手でもできたのか?」
「そ、そういうわけでは……」

 さすがに、目の前の相手の情事をのぞいてしまったから、と言えるわけがない。そしてラウラは、下げ気味の視線の先にユリアの豊かな胸の膨らみが視界に入ってきて、そのまま目が離せなくなってしまった。なにしろその服を張り詰めさせている膨らみは、昨夜二人の古人の手で散々に揉みしだかれ、肉竿を挟んで白濁した淫液にまみれていたのだ。その情景を思い出した彼女は、思わず生唾を飲み込んでしまった。

「……なるほど、そういうことか」
「……は?」

 身を固まらせたラウラに向けて、納得がいった、という風にユリアは肯いてみせた。

「貴様も、見た目通りではなく、しっかりと大人だったのだな。安心した」
「な、なんのことでしょうか?」
「いや、うん、貴様もあと何年かしたら、きっと目を見張るような美人になれる。そうしたら相手もよりどりみどりだ」
「で、ですから、何を仰っているのか、判らないのでありますがっ!?」
「ああ、すまない。色を知ったのだな、と思ってな」
「っ!?」

 思わず寝台の上で飛び上がってしまったラウラは、そのままユリアから逃げるように寝台の上をずりすさった。そんな少女の姿に、口に右人差し指の腹をあてて微笑んだユリアは、それまでの上官らしい雰囲気が一切消えていて、まるで姉のように嬉しそうな様子となっている。

「すまなかったな。私はそういう機微に疎いものだから、気がついてやれなかった。その様子だと、まだ恋人ができたわけではないようだが、好きな人くらいはいるのだろう? どうだ、よければ聞かせてくれないか?」
「す、すきな、ひとでありますかっ!?」
「ああ。貴様も年頃だろうし、そういう相手がいてもおかしくはないということをすっかり失念していた。すまない」
「ち、ちがいますっ、じ、じぶんには、そういうあいてはいないのでありますっ!!」

 全身を茹で上がらせて、両手をぶんぶんと振り回し、ラウラは必死になってユリアの誤解をとこうとした。彼女は、なんだかんだで軍人になることを志願してから軍務一筋で生きてきた身であり、それ以外の何かに興味をもつ暇がなかったのだ。当然、好きな異性なんていはしない。

「……ふむ? いや、私の胸に随分と興味深そうだったし、その、なんだ、男の部分とか反応していたから、こう、色事かと思ったのだが」

 ユリアの言葉に、ラウラは慌てて股間に手をやって確かめてみると、彼女の男性器が服を立派に持ち上げていた。自分が気がつかない間にそんなことになってしまっていたのを目の前の相手に知られていたと教えられて、あまりの恥ずかしさにラウラは唇をかんで泣き出してしまった。

「す、すまない。そんなつもりで言ったわけではないんだ。悪かった、だから、泣き止んでくれ」
「……うっ、えっ、ひっく、も、もうしわけありません……」

 突然泣き出してしまったラウラに、ユリアは狼狽するばかりでどうしたらよいのか全く判らない様子であった。あげく、ラウラの寝台の上へとのぼると、そのまま少女のことを抱きしめて頭をなではじめた。
 ラウラは、ユリアの豊かでやわらかく弾む胸の中に抱かれて、もう何がなんだかさっぱり訳が判らなくなってしまって、とうとうわんわんと大声をあげて泣き出してしまった。


 ひとしきり泣いて落ち着いたラウラを前に、ユリアはへたりこむように寝台の上に座ってうつむいていた。さすがに自分の言葉が女性としては慎みのないものであり、色々と年頃の繊細さをもった少女を傷つけてしまったことに気がついたようであった。彼女とて木石ではない。当然、思春期をむかえ、恋もしてきた身である。いくら最近シモが緩くなったとはいえ、かつ相手が兵隊だからとはいえ、年頃の少女を相手にするには配慮に欠けていたのは事実であった。

「……配慮の足りないことを言った。許して欲しい」
「……い、いえ、その、自分も突然のことで、驚かせてしまい、申し訳ありませんでした」

 二人して消え入りそうな声でそう繰り返すばかりであった。正直、二人とも相手に何をどう言ったらいいのか、さっぱり見当がつかなかったのである。

「その、なんだ、私は全く気にしていないし、胸とか腰とか見られるのには慣れている。い、いやらしい視線も散々浴びてきたからな。だから、貴様も気にしないでいいのだぞ?」
「い、いえ、その、いくらなんでも失礼をいたしました。申し訳ありませんでした」
「ええとだ、そうだな、貴様も双性者なら、女性に興味を持つのは当然だろうしな。まあ、その、なんだ、私でよければ、いくら見てくれても構わないぞ。……そ、それに、さ、触ってみたいというのであれば、それでも構わない。なに、泣かせてしまったわび代わりだ。どうだ、触ってみないか?」
「え、え、え? その、グラミネア騎士長殿を、ですか?」

 どうもユリアは、まだ落ち着いてはいなかったらしい。彼女は、自分が何を言っているのか、さっぱり判っていない様子である。さすがにラウラも、この年上の女性が自分以上にてんぱっていて、そして思考が訳のわからないあさっての方向に向かっているのに気がついた。

「い、いえ、恋人のいる女性に触れるなど、そ、そんな失礼な真似はできませんっ」
「え? よく私に恋人がいると知っていたな?」
「あ、え、その、ええと」
「……も、もしかして、リーネかシャリアが、私の部屋に入るのを見たとかか? い、いや、二人とはそういう関係だが、こ、恋人というほど深い仲ではない。安心しろ」

 自分からあっさりと口にしてしまうあたり、色々と台無しである。ラウラは、目の前でほほを染めて色々と自分からしゃべくってしまっている女性を、どうにかして落ち着かせようとした。

「いえ、自分はそういう意味で言ったのではないのです。落ち着いてください、グラミネア騎士長殿。その、三人のことは絶対に口外しませんから」
「そ、そうか。すまないな、気を遣ってもらって。だが大丈夫だ。あと一人や二人や三人や四人……」
「お、落ち着いてください。そんなにたくさん相手をしたら、壊れてしまいます!」
「いや、大丈夫だぞ? これで結構鍛えているからな」

 実はこの人は、結構残念な人なんじゃないだろうか。ラウラは、これまでユリアに抱いていた印象ががらがらと音を立てて崩れていくのを脳内で凝視していた。自分の尊敬し敬愛するヴォルズニア上級騎士隊長すら一目置くほどの黒騎士であるはずが、軍服を着ていないだけでこんなにも残念な有様なのである。正直、ここまで駄目なところを見せられると、逆に自分がしっかりしなくては、と思えてくるのであるからおそろしい。

「そ、そうだ、私のことは、軍服を着ていない時はユリアで構わないぞ。同じ黒騎士同士だ、名前で呼び合っても問題はなかろう」
「判りました、ユリア殿。ですから、まず息を吸って、落ち着いて下さい。仰っていることが支離滅裂になってきています」
「そうなのか? いや、大丈夫だ。問題ない」
「ありまくりです。といいますか、いつのまに自分がユリア殿と、そういう関係になるという話になってしまっているのです?」
「む、そういえばそうだな。……だが、貴様も、その、なんだ、私の身体に興味はないのか?」
「……あ、ありますが、ですが、そういう問題では」

 ついさっきまでおろおろしていたかと思えば、今度はほほを膨らませてすねたように上目遣いでにらみつけてくる。その歳がいもない可愛らしい仕草にちょっとくらっときたラウラは、どうしたらいいのか、さっぱり訳が判らなくなってしまっていた。

「ああ、良かった。さすがに女としての魅力に欠けると思われていては、私も傷つく」

 よかったよかった、と言いながら抱きついてきたユリアに、ラウラは、やっぱりこの人の胸は柔らかいのに張りがあって弾んでいて、つまりはとても気持ちがいいと、その感触を抱きしめられた頭で感じていた。さすがに直にその感触を堪能させられては、また自分の男性自身が充血してくるのが判る。いっそこのまま押し倒されてしまおうか、と、ラウラが半ば観念しかけていたところで助けの手が入った。

「ユリア、貴様一体全体何をしている?」
「きょ、きょうかんどの!?」
「今は副大隊長だと言っているだろう。だから、私の教え子を離してやれ」
「し、失礼いたしましたっ!!」

 ばっと飛び退いたユリアと、ぐったりと背中を曲げたラウラの視線の先には、呆れ果てた様子で火のついていない紙巻をくわえたヴォルズニア上級騎士隊長が、入り口の梁に身体をあずけている姿があった。彼女は、さすがに動じたそぶりも見せずに、じっとその赤い瞳で二人のことをながめていた。

「ラウラが、今日は調子がおかしかったのは確かだが、だからといって押し倒そうとするな。いつからそんなふしだらな女になった、ユリア」
「も、申し訳ありませんっ! その、あまりにラウラが可愛かったもので、ついっ!!」
「……ラウラが可愛いのも、抱きしめてかいぐりしたくなるのも理解するし共感もするが、そういうのはせめて夜になってから誰にも見られないところでやれ。いい加減、いつ気がつくのかと思って外で待っていたが、いつまでたっても終わらんから、野暮をする羽目になった」
「……いつからご覧になっていらっしゃいました?」
「ラウラがわんわん泣いているのが聞こえたから、こうして来てみた」
「ご足労をおかけしました」

 寝台から降りたユリアは、直立不動の姿勢から腰を深く折って頭を下げると、ほほを真っ赤にそめたまま、右手と右足を一緒に出しつつ部屋を出ていった。それを見送ったヴォルズニア上級騎士隊長は、やれやれと声に出して肩をすくめると、扉を閉めてからラウラのへたりこんでいる寝台まで真っ直ぐ歩いてきてその上に腰を下ろした。

「まったく、ああいうところは昔から変わらん」
「そ、そうなのですか?」
「ああ。あいつは昔から女にだけはモテたからな。基本的に迫られたら嫌とは言わん奴だから、何人も恋人がいた。もっとも、それで男ができなかったんだから、不思議なものだ。気をつけろよ、下手にあれに惚れると、どこまで振り回されるか判らんぞ?」

 そう言って寝台の上にごろんと横になったブリュンヒルデは、火のついていない紙巻を服のぽけっとにつっこむと、視線だけラウラに向けた。

「で、今日はどうした? 何かに気をとられていて、集中できなかったのは判ったんだが」
「……ご心配をおかけしました」
「ああ。それで、あれの胸の感触は堪能したか?」
「!? い、いえ、その」
「堪能したか。……正直、これまで気恥ずかしくてお前らに性のなんたるかを教えなかったからな。それはすまなかった。だが、まあ、最初の相手は選べよ? あと、下手な娼婦は買うな。病気を移されても困る。……それを考えると、あいつに筆卸をして貰うのもありなのか」
「な、何を仰っているのです?」
「いや、お前のたまった性欲をどう処理したものか、という話なのだが」

 ごくごくなんでもない風にブリュンヒルデがそう言ったのを理解するまでいくらか間をおいたラウラは、その言葉の意味を理解すると、真っ赤になって叫んだ。

「な、なんで、そういう話になるんです!?」
「つまりは、そういう事だろう? ユリアの下着姿から裸でも見て、むらっときたんじゃないかと、さっきのやりとりから想像したんだが。そうでなかったら謝るが」
「……いえ、その」
「そこはしれっと嘘をつけるようになれ。この手の揉め事で馬鹿正直なのは、修羅場を招くだけだぞ。実際に体験した私が言うんだから間違いない」
「ふ、副大隊長殿も、恋人がいらっしゃったんですか!?」
「……気がついていなかったのか。シャルルは気がついていた様子だったんだがな。聞いていなかったのか」
「はい」

 ラウラは、ブリュンヒルデに恋人がいると聞かされて、なんとも切ない気持ちになってしまった。この女性が、「王冠盟邦」から「帝國」に送られて来たシャルルとラウラの二人を、一緒に引き取って育ててくれた間、ずっとそういう関係の相手がいるとは気がつかなかったのだ。

「その、今仰っているのは、赤ちゃんの作り方ですよね?」
「ああ、そうとも言うな。具体的にどうするのかは、知っているな?」
「……はい。その、男性の部分を、女性のお腹の中に入れて、子種を仕込むと、赤ちゃんができるのだと」
「そうだ。さきほどお前がユリアの胸の感触で大きくなった部分だ。あれを女の股の間の柔らかい月のものが来るところに挿し入れる」

 特に恥ずかしがる様子も、気負った様子もなくそう語ったブリュンヒルデに、ラウラは先ほどよりもずっと落ち着いた気持ちで話を聞くことができた。

「そしてその行為は、赤ん坊を作るためだけではなく、男女の恋愛感情を確かめ合うために行うことも多い。そのために、子供ができないようにする薬もあるし、魔術の術式もある。生憎と貴様の魔道の系統は「土」だからな。ちゃんと避妊薬は軍公認のところで調合してもらえ」
「……はい」
「これは個人的な経験からくる忠告だが、ミキアヌシアとシサラは二人とも処女で童貞、つまり性体験がない。そして処女と童貞が性交をしようとすると、かなりの確率で大惨事となる。古人はシモが緩いもんだが、だからといってあの二人とそういう関係になるのはやめておけ。それにお前は、あの二人にそういう感情は持っていないだろう?」
「はい」
「軍人として勤務に個人的なあれこれを引きずるのはご法度だ。勤務にさしつかえがあるほど溜まっているなら、ユリアに筆卸をさせてもらえ。身体だけの関係ならば、あれほど後腐れのない女も珍しいからな」


 散々な一日であったと疲れた足をひきずるようにして自室へ戻ろうとするラウラを、ユリアが呼び止めた。

「今日はすまなかったな。わびというわけではないが、一杯ひっかけてゆけ。身体が温まるぞ」
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えさせていただきます」

 ユリアの私室へと一緒についていったラウラは、女性らしさの全く無い質実な書斎の応接椅子に腰を下ろし、ユリアが注いでくれたブランデーに唇をつけていた。さすがに累代の近衛騎士の家だけあって、門前街の酒場で出されるような安酒ではない。ちょこんと椅子の上に座って、グラスを両手でもってちびちびとなめるように飲むラウラ向けて、ユリアは話しかけた。

「今日は済まなかったな」
「いえ、お気になさらないでください」
「そうか、ありがとう。そういえば、貴様はどういう訳があって「帝國」に来たのだ? 確か「王冠盟邦」の出身だったな」
「はい」

 つまみに出された干した杏や葡萄をつまみつつ、ラウラは二三度眼帯をしていない右目をしばたたかせてうなずいた。

「自分は、ブルゴン地方の出身です。……ブルゴン地方は、昔は一つの王国だったのですが、内紛で分裂してしまい、一部は「王冠盟邦」に吸収されました。「関税同盟」のブルグント王国が、ブルゴンの末裔を名乗っています」
「ああ、そういえば「王冠盟邦」と「関税同盟」の間の抗争地帯がそんな名前だったな」
「はい。もっとも「王冠盟邦」では、ブルゴーニュと呼ばれていますが」

 ラウラは、アルコールで上気した表情になって、ふうっと息をついた。そんな彼女のグラスにブランデーを注ぎ足したユリアが、話に続きをうながしてくる。

「係争地帯の出身だったのか。よく戦争に駆り出されなかったな。「神殿」系国家は古人の扱いは随分と手酷いと聞いていたが」
「元々「王冠盟邦」は「関税同盟」のグアベロ皇国の「神殿」とは仲が悪くて、「神殿」はあまり俗世のことに口出しできないようになっています。古人も、生まれた土地の領主に仕える事が前提で、出家する者はほとんどいませんし。それに、古人には相続権が認められませんから、何か技術を持たないと食べてゆけないんです」
「ほう」
「それで、自分は軍人の家に生まれたらしいのですが、この通り左目が魔眼で忌み子でしたから、領主の庇護も受けられずに物心ついた時には売られてしまいました。そして自分を買った商会が、商売上の利権の口利きのために先代の北方辺境候様に所有権を譲って、それで自分は「帝國」に来ました」

 そう言ってラウラは、左目を覆っている眼帯をめくってみせた。その下の瞳は、金色に輝いていた。

「そうか。先代の北方辺境候は、アドルファス・アレクシス将軍だったな。中々の人物でいらしたとうかがっている。では、ヴォルズニア教官とはその時にか」
「はい。「帝國」では奴隷は存在を許されない。だから自分達は自由人とならねばならない、と仰られて。それで「帝國」で生きてゆけるよう色々な事を教官殿から教わりました」
「よかったな。私もヴォルズニア教官からは色々教わった。505時代の話だ」

 ラウラの金色の瞳を見ても一切動じたそぶりを見せなかったユリアに、ほっと安心したのか、ラウラは少しだけアルコールを飲むスピードが上がった。

「ここだけの話だが、貴様ら三人が黒騎士として「六号」開発に参加した時、かなり内部では軋轢があった。それを身体を張って顕在化しないようにしてくれたのが、設計主任のイサラ親方とヴォルズニア教官だ。私も、帝國軍人としては近衛騎士団から横滑りで黒騎士になった口だった。やはり兵卒から始めて実力で黒騎士になった連中とは軋轢があった。それをまとめて下さったのが、あの方だった。本当にいくら感謝してもし足りることはない」
「……イサラ親方がですか。正直、しょっちゅう怒鳴られて拳骨を落とされていて、そんな人だとは思ってもみませんでした」
「本当に、怒鳴って、殴るのか? イサラは。正直、想像もできないんだが」
「はい。自分も最初、あの見た目でたかをくくっていたんですが、怒らせると本当に怖い人です。ゴーラのへちょい機装甲を何機か喰ったくらいで一人前になれたと思うな、貴様らはまだ機装甲様を動かすための替えの効く部品に過ぎない、とか、散々に怒鳴られました」
「……それは酷いな」

 アルコールが全身に回って身体が温まってきたのか、ラウラの瞳がぼうっとうるんできていて、ほほが上気している。そして彼女は、少しづつ肩から力が抜けたような様子でとつとつと色々なことをしゃべり始めた。

「でも、他の黒騎士の人達と違って、ジャクだと見下されたことはなかったです。機体の点検をこまめにやらされるのも、泥をこまめに落とすよう、機体をきれいにするよう言われるのも、いざという時に機体が故障する原因を作らないようにするためだからですし。ですから、手抜きをすると泣きたくなるほど怒られますけど、判らない事を聞いても嫌なそぶりも見せずに懇切丁寧に教えて下さいます」
「ああ、確かに彼女は、仕事の手抜きは絶対に許さないからな。質問するのは、つまりそれだけきちんと仕事をしようという態度の表れと思っているのだろう。ああいうのを、本物の職人というのだろうな」
「はい。自分もそう思います」

 つまみの干し葡萄をつまんで、もぐもぐと食べているラウラは、見た目相応に可愛らしい。その静脈が透けて見えるような白い肌と、澄んだ宝玉のような赤い瞳と、細い銀糸のような銀色の髪のせいもあって、まるで兎のような印象をユリアは抱いた。

「そういえば、貴様は友人と一緒に「帝國」に来たのだったな。その友人はどうしている?」
「はい。今は902で騎士をやっているそうです。自分が上級騎士課程を修めたと話したら、随分とうらやましがられました。シャルル・オーギュスト・デュ・ノワールといいます」
「ほう、領主家の出身か。ん? 確か一緒に商会に売られて「帝國」に来たのだったな? 彼もか」
「はい。なんでも母親が諸侯の愛人だったそうで、厄介払いに「帝國」に送り出されたそうです。とても、そんな苦労をしてきたとは思えないほどほんわかした奴で、笑顔がおひさまみたいなんです」
「そうか。それが、貴様の惚れた相手か?」
「いえ、そういうんじゃないです。仲は良いですけれど、んん、なんていうのか、自分にとっては兄弟みたいな相手で、そういう感情は、持てそうにないです」

 ちょっとしたユリアの戯言にも、真面目に考えるそぶりをみせるラウラに、彼女は今日のところはラウラをからかうのはやめにすることにした。

「シャルルも、そのつもりがあれば国で軍人にも官吏にもなれたのを、「帝國」にゆくと言ってきかなかったそうです。自分は、この左目のせいで売られましたが、元々王冠盟邦では古人は、官吏や軍人としてどこかの領主に雇われるのが当然なんです。相続権は無いですし、どれだけ偉くなっても子供は庶人扱いで。それでも「神殿」が強い国よりもずっと扱いはましですから。自分もゼニア商人に売られていたら、きっと南方王朝に奴隷として売られて、娼婦にさせられていたと思っています」
「まあ、「帝國」の古人の扱いは、かなり他の国々とは違うからな」
「はい。「帝國」では、古人はそれと判る服装でなければならないとか、住む場所も決められているとか、そういうのが一切なくて。それどころか、普通の男女よりも古人の方が尊ばれていて、少なくない数の諸侯が古人で、本当にこんなことをよくも許しているものだと驚きました。よく並人が嫉妬しないものだと」
「そういえば、確かに「帝國」の人間は古人に嫉妬しないな。むしろ、古人だから優れていて当然だし、優れているからそれだけ多くを期待されるわけだが」
「自分には、それが驚きでした。皇帝陛下も、副帝陛下も、皇太子殿下も、皆古人で。古人と並人が同じように競争すれば、古人が勝つのが当然なのに、「帝國」では古人が勝たねばならないという考え方で。他の国々では、古人が並人と同じ事をするのは許されないのに。今でも、それがよく判りません」

 本当に判らない、という様子で小首をかしげるラウラに、ユリアは、少女がなぜこうも緊張しっぱなしなのか得心がいったような気になった。「帝國」では古人は優れていて当たり前なのである。だが当然、経験による実力の差は厳として存在し、いくら古人であってもその差を埋めるためには一生懸命努力しなくてはならない。何しろ並人の中には、平然と古人を上回る才能を発揮する者も少なくはないのだ。そうした天才と比較されたとしても、古人は優れていなくてはならないのが「帝國」なのである。それは外国から来たラウラにとっては、気の休まる暇もなかろう。

「古人だから優れていなくてはならない、というのがおかしい、か。それでは貴様も、周囲の期待が重いだろうな」
「はい。実際にやってみて判りましたが、経験の差は絶対的な実力の差で。確かに自分は、並人よりも頑丈な方ですし、物覚えも良い方ですし、魔術も使えますが、でも、例えば教官殿は女性ですが、どうしたって勝てるところを想像すらできません」
「確かにな。902長は男だが、あの化け物と殺し合えと言われたら、私も速攻で逃げるぞ。生身でも、機装甲に乗っても、あれと戦って生き残れるとは思えん」

 そう言って笑ったユリアに、ラウラも誘われたのかくすくすと笑った。

「そういえば、「帝國」で最も撃墜数が多いのは、女性だそうですね。確か「円卓の鬼神」と呼ばれる化け物だとか」
「ああ。確認撃墜数が、確か150機を超す本物の化け物だ。貴様はまだ5機撃破にもいっていなかったな」
「はい」
「5機撃破で黒鉄剣勲章、15機撃破で青銅剣勲章、25機撃破で白銀剣勲章、50機撃破で黄金剣勲章。「内戦」前まではこの四つだったんだが、「円卓の鬼神」が撃墜数を稼いだからな、さらに75機撃破で精霊銀剣勲章、100機撃破で神聖金剣勲章、そして150機撃破で宝玉付神聖金剣勲章が制定されたわけだ。それで古人でもなんでもない、ただの女性だというのだから、本当に人間の可能性というのは大したものだと思う」
「……ユリアさんは、勲功章に、黄金剣勲章を拝受なさっているのですね」
「ああ。気がついてみれば、そうなっていた。それだけ長い間戦場にいた、というだけのことなのにな」

 気がつけば、ラウラは尊敬のまなざしでユリアを見つめていて、その上気したほほと潤んだ瞳がたいそう可愛らしかった。そんな視線が面映くて、ユリアは何か話題を変えようとして、だがアルコールのせいで頭が回らずに困ってしまった。

「自分も、ユリアさんのような立派な騎士になれるのでしょうか?」
「さあな、判らん。山ほど勲章を貰えるというのは、それだけ「帝國」が戦争続きだということになるし、それは決して誰にとっても幸せなことではないしな。貴様らが黒騎士に任ぜられたのも、平和な時代の黒騎士のあり方を模索してのことだそうだ。私は戦場でしか生きられない身となってしまったが、貴様は国を戦場にしないための黒騎士になって欲しいと思っている。……すまんな、説教くさいことを言って」
「いえ、仰る通りだと思います。実は、そのお話を教官殿からうかがって、ものすごく安心したのです。自分は黒騎士でいてよいのだと」
「ああ、貴様らには期待している。それは教官も同じなのだろう。……教官も残念なことになったな。やむを得ぬこととはいえ、恋人が自決なされるとは」
「……なんでもないふりをしていらっしゃいますが、とても傷ついていらっしゃると思います。教官殿が煙草を吸い始めたのも、あの方が自決なされた後なんです。でも、自分もシャルルにも、そういうところは一切見せないんです。何かお役に立ちたいのですが」

 そう言って肩を落としたラウラのグラスに、ユリアはさらにブランデーを注ぎ足した。二人ともすっかり酔いが回っていて、そして頭の中の回転が妙な傾斜をしている。当然のことではあるが、彼女らは自分達がそういう状態にあることの自覚はない。

「……それは言っても詮無きことではあるんだがな。正直、慰められればと思う時がある。まあ、こんなことを本人に言っても鼻で笑われるだけだろうがな」
「……はい。……実は自分は、教官殿の寝所に忍んでいったことがあります」
「それで?」
「腕枕をされて、そのまま何もせず寝て過ごしました」
「くくっ、確かにあの人らしい。そうか、腕枕か。……私も久しくしてもらっていないな。いっそ、二人で腕枕をしてもらいにゆくか」
「怒られないでしょうか?」
「別にふしだらな真似をしようというのではないんだ。女同士三人で川の字になって寝たところで問題はなかろう?」
「それもそうですね」
「では行くか」
「行きましょう」

 そういうことになった。


 ブリュンヒルデ・ヴォルズニアという女性は、優れた黒騎士であり、優れた指揮官であり、優れた教育者である。だが、まことに残念なことに、女性として優れているとはお世辞にも言いがたいところがあった。例えば女性らしいたおやかな仕草とは縁遠く、家事の類は一切駄目で、そして絶望的なまでに漢らしかった。

「それで、この酔っ払いどもは、そんな理由でわざわざこの夜更けに人ところに押しかけてきたというのか。莫迦どもが」

 下着姿の上からシャツ一枚羽織っただけの格好のブリュンヒルデの前で、そこら中に書類が山と積まれ、脱ぎ散らかした衣類が散乱している室内の床に、ユリアとラウラの二人は頭にこぶを作ってしりもちをついて座らされていた。このこ汚い部屋の主は、中ほどまで吸った紙巻を乱暴に灰皿で消すと、さてどうしたものか、という表情で執務机の上に頬杖をついた。

「いっそのこと、二人がかりで寝込みを襲いにきた、という方がまだマシだったぞ。確かに自分がもう歳で、ついでに女らしくないという自覚はあるが、だからといって腕枕だけというのは納得がゆかん」

 じろり、といってよい目つきでユリアとラウラをにらみつけたブリュンヒルデは、微妙に不機嫌そうで、そして残念そうであった。

「ですが、教官を襲うなどと、そんな真似はできません」
「そうです。自分は教官殿をお慕いしていますが、だからこそ無理強いはしたくはありません」

 涙目でそう訴えるユリアとラウラを視線で黙らせると、ブリュンヒルデは、つい先ほどまで目を通していた書類をまとめて机の隅においやると、四半分ほど残ったグラスの中のアルコール臭のする液体を一気に飲み干し、ぷはっと息を吐いた。

「貴様ら、そんなに私に女としての魅力が無いと言うのか」
「まさか。私は、教官のような女性あこがれております」
「自分もです。教官殿」
「だったら、嘘でもいいから、押し倒しにきたと言わんか。くっ、これでも夜鳴きする身体を自分で慰めているんだ。そこは建前と本音を見分けるくらいせんか」

 どうやら、ここにもアルコールが回って思考が妙な傾斜をしている人間が一人いたようである。そして、傾斜角が一致すれば、その場の雰囲気はある方向に定まるわけであり、そうなればユリアもラウラもその方向に暴走し始めることに異常を覚えるわけがなかった。

「では、お言葉に甘えまして」
「え、ちょっと待て、そんな売り言葉に買い…… んんっ……」
「あ、自分も!」

 アルコールで色々なたがの外れているユリアが、バネが弾けるかのように立ち上がり、ブリュンヒルデの両手をつかんで唇を押し付ける。それに身をよじって抵抗しようとしたところで、ラウラが彼女の身体に抱きつき、ユリアの次に唇を奪った。

「ラウラ、ただ唇を押し付けるだけでは駄目だ。女性に喜んでもらう口付けはこうするんだ。ん……」
「あ、舌を使うのですね。判りましたユリアさん。ん……」
「……や、やめんか、バカものども…… ん、や、やめ……」

 ユリアとラウラの二人がかりで唇だけではなく、耳や首筋に口付けの雨をふらされ、さすがのブリュンヒルデも息が荒くなってくる。そして、片方が口付けをしている間にもう片方が着衣を脱ぎ、気がつけば三人とも下着姿になってしまっていた。
 そしてブリュンヒルデは、アルコールとキスにぼうっとした頭で二人をながめていて、何か違和感を感じ、それがなんなのかに思い至った。

「……ユリア、お前、その股間についているのはなんだ?」
「男根です、教官」
「い、いつのまに生えたんだ!? それに、ちょっと、いや、かなり大きいぞ、そいつは」
「え、ユリアさんは古人ではなかったのですか?」
「ああ。ここだけの話だが、「六号」計画のために生やすことになった」

 しごく真面目にかつあっさりとそう言ってのけたユリアに、ブリュンヒルデはかなり本気で二人の双性者から逃れようと身をよじらせた。だが、先ほどの彼女の言葉を真っ正直に受け止めた二人は、暴れる彼女を二人がかりで抱き上げると、そのまま寝台へと直行した。

「ま、待て、さすがに古人二人を同時には無理だ! いくら私でも身体がもたん!!」
「大丈夫です。教官、いえ、ブリュンヒルデ、貴女一人だけ攻めるわけではありませんから」
「はい。教官ど、いえ、ブリュンヒルデさま、自分も今日は男と女に同時になる覚悟でいます」
「そういう意味じゃない! いや、そうじゃなくてだな、ん!? んんっ……」

 寝台の上の横たえられ、両手と両足をユリアとラウラに抑えこまれたブリュンヒルデは、そのまま左右から繰り返される口づけと愛撫に、だんだんとその真紅の瞳はもやがかかってくるように潤んでゆき、唇からこぼれる吐息も熱を帯びて艶っぽくなってゆく。軍服姿で見るよりもずっとボリュームのある胸の膨らみを、時に優しく、時に激しく、下着の上からや直に愛撫され、下着に覆われていない場所には唇と舌が這わされる。
 じょじょにブリュンヒルデの抵抗が弱くなってゆくにつれ、ユリアとラウラの愛撫は遠慮がなくなってゆき、二人は自分の全身を絡めるようにして、彼女の肢体をつま先からつむじまで、くまなく性感を開いていった。

「ゆ、ゆりあ、お前、どこでこんな技術をおぼえた……!?」

 息も絶え絶えになったブリュンヒルデの問いかけに、ユリアは、すっかり獣欲でにごった紫紺色の瞳を細め、嬉しそうに答えた。

「ヴィーキアの娼館に入り浸っていた古人から教わりました。いかがです、ブリュンヒルデ?」
「く、おまえら、人のからだを好き放題おもちゃにして。あとでおぼえていろ……」
「……でも、ブリュンヒルデさま、もう下着がぐっしょりです」

 くやしそうに顔をゆがめたブリュンヒルデの言葉に、ユリアに言われるままに彼女の内股をたっぷりと唾液を絡めた舌で丹念に舐めていたラウラが視線を上げてそう指摘した。すでにブリュンヒルデの黒い下着は、あふれ出た秘蜜で傍目にも判るほどにぐっしょりと濡れきっていて、その染みは愛撫が重ねられてゆくほどに広がってゆく。

「くっ、こ、こんなに簡単に感じさせられるなんてっ、……ああっ!?」

 悦楽と羞恥とがない混ぜになった表情でそう呟いたブリュンヒルデは、たくし上げられた胸帯からこぼれた豊かな双球の頂点をユリアに攻め立てられて、はしたない声を上げてしまった。そのまま、左側の胸を丹念に揉みほぐされ、攻め立てられ、こらえようとしてこらえきれぬ嬌声とともに身をよじる。

「な、なんで左側しか、攻めないんだ?……」
「その方が切なくて、身体が火照って耐えられないほど気持ちがよくはありませんか? 私も、同じ愛撫をされて、鳴いてもう片方をいじめて欲しいとねだらされたものです」
「そ、そんなまねを私がすると思っているのかっ!? ……んんっ、あ、くそっ、……な、なんで下着を脱がせない」
「いえ、脱がして欲しい、と仰るまでは、脱がさないでおこうかと」

 時にさわさわと微妙に、時にぐにぐにと強目にブリュンヒルデの左胸をいじめるユリアが、彼女の顔中に口付けの雨を降らせつつ、慈愛のこもった微笑みを浮かべてそう宣言した。その言葉の意味を朦朧としつつある頭で理解したブリュンヒルデは、うっすらと涙を浮かべて悔しそうな表情になった。

「くっ、わ、私から頼みこむように焦らし続けるつもりかっ」
「焦らすつもりはありません。ただ、無理矢理犯すような真似はしたくはないのです、ブリュンヒルデ。だって、私もラウラも、貴女のことが大好きなのですから」
「……………」

 ユリアに耳元に息を吹きかけられるように、大好きです、と何度もささやかれ、ブリュンヒルデはその言葉の心地良さにぼうっとひたってしまった。そして、その心地良さに全身に加えられる愛撫の感覚が混じり合い、とうとうブリュンヒルデは、嬌声とともにびくんびくんと背筋を弓なりにそらして痙攣した。

「逝きましたね? ブリュンヒルデ」
「……くっ、こ、こんな簡単に逝かされるなんて……」
「ふふっ、夜鳴きする身体を自分で慰めていると言ったのは、貴女でしょう? ……この通り、私ももう我慢しきれなくなってしまっています。それに、ラウラも、すっかりできあがってしまっていて」
「ラウラ……? お前……」
「……はい。もう、我慢できません」

 視線を下に向けたブリュンヒルデに見せるように、ラウラは彼女の膝の間で身体を起こし、下穿きを下ろし、肌着をまくり上げて、その幼い身体がすっかり出来上がっているのをさらした。恥ずかしそうにうつむく銀色の少女の幼い逸物は、その腹に当たるように反り返り、産毛しか生えていない股間からは、秘蜜が太腿と伝って滴っている。
 快楽に焙られ続け蕩けきった表情になったブリュンヒルデは、ゆっくりと身体を起こすと、そっとラウラのことを抱きしめ、そして優しく口付けをした。そして、黒い下着を剥ぎ取るように脱ぎ捨てると、少女の幼い逸物を自らの秘処に導き、少女の耳元にささやいた。

「そのまま、腰を前に突き出せ。焦らなくていいぞ? こうなったら最後までつきあってやるからな」
「あ、ありがとうございます、ブリュンヒルデさま……」
「ふふ、まったく、そんな泣きそうな顔をするな、夜は長いんだ、たっぷりと私を楽しませてくれ……」

 ラウラは、返事の代わりに勢い良く腰を突き出し、一気にブリュンヒルデの胎内に自分の肉竿を沈みこませた。


 一度身体を許してしまえば、あとはそのままなし崩しであった。ブリュンヒルデは、もてあまして熟しきった肢体をユリアとラウラに開き、口と秘処で二人を同時にくわえこみ続けた。

「本当に良いのか?」
「……はい。できることなら、ブリュンヒルデさまに自分の純潔を捧げたかったのです。それがかなって、自分は幸せであります」

 真っ赤になって恥じらいながらそう答えたラウラは、背中からユリアに抱きしめられるようにして愛撫され、太腿を大きく開いて自分から秘裂を開いてみせた。そこは桃色のまだ幼い綺麗なままで、いまだ誰にも触れさせたことのない純潔を保っていた。
 ブリュンヒルデは、膝立ちになって優しくラウラに口付けを繰り返しつつ、そっと指先で少女の秘処になぞり、あふれ出てくる秘蜜で指を濡らすと、ゆっくりと柔肉をかきわけるようにしてまず小指を沈めていった。

「んん……」
「痛いか?」
「いえ、変な感じです……」
「そうか。次は人差し指だ」

 ゆっくりと抜かれた小指に変わって、ブリュンヒルデの人差し指が飲み込まれてゆく。ユリアに優しくその幼い肢体を愛撫され、ブリュンヒルデに優しく口付けを繰り返され、ラウラはぎゅっと目とつむって初めて知る肉の快感に耐え続けた。

「判るか? 今、私はお前の処女に触れている」
「……ん、は、はい。判ります。……では、お願いします」
「ユリア、施術は大丈夫だな?」
「はい。痛みはそれほどではないはずです」
「そうか。では、ゆくぞ」

 その瞬間を待ち受けて、全身を強張らせたラウラに優しく口付けをしながら、ブリュンヒルデは指に力を込めて奥へと侵入させた。ぶつりとした感覚が彼女の指先に伝わった瞬間、ラウラはぶるっと震えて、両目から涙をこぼした。

「痛かったか?」
「……いえ、それほどでもありませんでした。あ、ありがとうございます、ブリュンヒルデ様」

 なんどかまばたきを繰り返しつつ、そう言って一生懸命に微笑んでみせたラウラを、ブリュンヒルデは優しく微笑んで抱き寄せ、柔らかな愛撫をほどこしていった。
 そうしてしばらくブリュンヒルデとラウラが二人きりで互いを愛撫し合ってから、くったりと寝台の上に横たわった少女の肢体から身体を起こした彼女は、首の後ろでまとめていた癖の強い黒髪を解き、艶然と微笑んでユリアのことを手招きした。

「お前もまだまだゆけるのだろう? どうせ孕まぬのならば、たっぷりとお前の精液を飲ませてくれ」
「はい、ブリュンヒルデ。お胎一杯になるまで精を注ぎ込まさせていだきます」

 嬉しそうにほほを染めて近づいたユリアを抱き寄せ、ブリュンヒルデは熱く情感のこもった口付けで彼女との立場を逆転させると、とろとろと淫液と精液がこぼれしたたる秘処に、彼女の並の男よりもはるかに逞しい肉竿を飲み込み、嬌声を上げた。


「……やってしまった」

 その後、体力が回復したラウラも参戦し、また三人で肉体を絡み合わせ、精も根も尽き果てるまで交じり合ってから、ブリュンヒルデは両腕でユリアとラウラの頭を抱きかかえて呆然とした表情でそう呟いた。
 そして肝心の二人といえば、満足しきった表情でブリュンヒルデの首筋に顔をうずめていて、敬愛するかつての教官の身体に腕を回して抱きしめている。

「あの、後悔なさっていらっしゃいますか?」

 ブリュンヒルデの呟きに、恐る恐るラウラがそう問いかけてきた。少女は、普段はしている眼帯を外していて、その黄金色と真紅の瞳を不安気に細めながら彼女のことを見つめている。

「そんな訳があるか、莫迦者。正直、自分の娘のように思っていた子の初めての面倒もみてやって、なんと甘やかしてしまっているのだと自分で自分に呆れているだけだ。それに、膜こそ私が破ったが、初めての男根は、この見境無しのだろうが? あのご立派様を、よく飲み込めたな?」
「は、はい。その、とても痛かったんですが、でも、ブリュンヒルデさまが抱きしめていてくださったので、我慢できました」
「そうか。まあ、いくらこれのが大きいとはいっても、赤ん坊よりは小さいからな。……だが、避妊には気をつけるように。お前の身体で妊娠出産はまだ早い」

 そう言ってブリュンヒルデは、また優しくラウラに口付けした。まだまだ性感の幼い少女は、それをくすぐったそうに受け止め、唇が触れるたびに自分の身体を彼女にこすりつけた。

「それにしても、お前も随分と安くなったものだな。いくら生えたからといって、どれだけふしだらになった?」
「色々と個別の事情が積み重なってのこななのですが、貴女ならばご存知でしょう?」
「ふん、まあ、な」

 まがりなりにもラウラの前である。ブリュンヒルデもユリアも、それ以上深くは語ろうとはしなかった。ただ、二人してラウラの事を優しくなでただけである。

「それで、これからどうするつもりだ? ユリア」
「これまで通りで構わないのでは? 私は、貴女を敬愛していることに変わりはありませんし、実はこうした睦事も恋人や結婚相手公認でやっていますし。さすがに相手は選んでいますが」
「……結婚? 待て、いつの間にそんな話が出た。それに相手は誰だ? 私の知っている奴か?」
「ご存知ないと思います。「白の五」開発で一緒になった古人で、今は黒騎士教育課程を受講しています。性格はきついですが、優しい時にはとことん優しくしてくれますし。まあ、そこら辺も色々と事情があります」
「……よ、よろしかったのですか? その、ご結婚の予定があるのに、自分とこのような真似をしてしまって」

 さすがにラウラが青くなって、ユリアの顔をのぞきこんでくる。だがユリアは、笑ってラウラに口付けをした。

「だから、向こうも了承していると言っただろう? なにしろ私が公衆便所扱いされても変わらず愛してくれると言ってくれたし、なんなら私と一緒に精液まみれにされても構わないとまで言ってくれた。そのうち紹介するから、ラウラも仲良くしてやってくれ」
「……は、はい」
「ふふ、そんな顔をするな。貴様さえいいなら、三人でよろしくやっても構わないぞ? どうする?」
「ええと、その、じ、自分は、今日みたいにブリュンヒルデさまと三人なら……」
「だ、そうです。どうします?」
「……身体が夜鳴きするようならば、鎮めてくれ」
「だ、そうだ。よかったな、ラウラ」

 照れたようにそっぽを向いたブリュンヒルデの癖のある黒髪に顔をうずめたユリアは、そう言ってラウラに向けて微笑みかけた。そしてラウラは、恥ずかしそうにほほを染めてもじもじとブリュンヒルデに抱きつくばかりである。
 ユリアは、自分の癖の強いこげ茶色の髪をすく年上の彼女の指先に心地良さを感じつつ、柔らかな指使いで相手の身体を撫で続けた。


 それからラウラは、まるで見違えるようにその才能を開花させ、「六号」開発に参加している黒騎士達を驚かせた。まず彼女の悪癖であった緊張癖がひそめられた。肩に力が入らなくなった分、先輩の黒騎士達の教導を伸び伸びと受け止め、自分のペースで消化してゆくようになったのである。そうなれば、元々が魔導に対して「魔眼」という形で親和性の高かった彼女である。その実力はめきめきと伸びていった。
 そして肝心の魔導に関しても、その認識をそれと判るほどに深化してゆき、魔導の教育を担当しているグラミネア騎士長を喜ばせた。

「……正直、色々と話を聞いていて思っていたのですが、ユリアさんと寝ると幸運が訪れるような魔導的特性でもあるのでしょうか?」
「さあ? 正直なところ、単なる偶然ではないかと思っているのだが」

 「ディエス・イレ」に搭乗して「闇」相結界を展開させているラウラを見つつ、イサラは眉根をもみつつユリアのことをじと目でにらみつけた。

「それで、シュヴァイツ上級騎士とはどうするつもりです?」
「彼女が慕っているのは、ヴォルズニア上級騎士隊長だ。私ごときが間に入れるわけがなかろう」
「なるほど。……ちなみに、悪い話と、非常に悪い話とがありますが、聞きます?」
「聞かせてくれ。非常に悪い話の方からだ」

 イサラは、周囲に結界を展開して自分達の会話が他人の耳に入らないように措置してから、努めて感情の篭らない声で話し始めた。

「「六号」量産機の製造数の削減が正式に決定しました。配備先は、13R、505、機甲学校、501、502の順に各1個小隊づつです。501教導隊、503、504、506、12Rへの配備は、無期延期です」
「なん、だと? ……まさか、そこまで開発予算が超過したのか!?」
「まさか。このわたしが仕切っているのに、そんなはずがないです。……これは他言無用に願います。削減した予算で、「クルル=カリル」の追加調達が決定しました」
「機数は?」
「2機」

 イサラの言葉に、グラミネア騎士長は愕然となった。確かに機神「クルル=カリル」はゴーラ帝国との戦争において、その帰趨を決定するほどに大きな役割を果たした機体である。だが、それをたった2機調達するだけで、黒騎士らが切望してやまない「六号」量産機の調達数を半減せねばならないとは、さすがの彼女にも想像外のことであった。
 そんなグラミネア騎士長の驚きをよそに、イサラは表情を変えずに話を続けた。

「そして、これは悪い話ですが、12Rと503への「六号」配備中止と、505への配備にともない、503から魔導騎士を引き抜いて505へ配備する「六号」小隊の小隊長をやらせます。そしてシュヴァイツ上級騎士には、機甲学校の開発実験隊への異動が発令されます」
「……何故、彼女を?」
「ヴォルズニア上級騎士の連れてきた三人のうち、最も魔導覚醒の深度が深いのがラウラさんだからです。機甲学校では、これから魔導戦技研究を本格化させるつもりでいて、そのための実験要員として魔導騎士が必要とされています。そしてその魔導騎士は、「六号」が配備されない重駆逐機大隊から転属させる事になりました」
「つまりそれは、決定事項なのだな?」
「はい。……これが、あの陰険髭親父のやらかしに対する、関係各所からのツケの取立ての一つです。当然、ツケの取立てはこれだけじゃ済みませんが」
「……一体全体、どこまで広がるのだ、そのツケの取立てとやらは?」

 さすがに険しい表情を隠しきれなくなったのか、グラミネア騎士長は右手で顔を隠して鋭くなった視線をイサラからそらした。この工部の親方は、キュリロス機甲総監の横槍の後始末をして回っているだけであり、そのことでグラミネア騎士長が何かを言う権利などないことをよく理解していたからである。そもそも彼女は、この導師の所有物であるのだ。所有物が持ち主に対して、そうそう異議を唱えることはできはしない。

「確実に、ユリアさんの子供にまで」
「くっ! ……志願の強制ならば、絶対に受け入れるつもりはないぞ、私はっ!!」
「それはありません。さすがにそれは、わたしが反対しますから。ただ、ユリアさんの産む子の配分先を巡っては、キュリロス総監はほぼ発言権がなくなっているとだけ覚えておいて下さい」
「……そうか。私の身でなんとかなるのであれば、子供に重荷を背負わせたくはないのだが」

 苦渋に満ちたユリアの言葉に、イサラは感情の篭らない声で付け加えた。

「子供らの婚姻相手の強制まではゆかないでしょう。ですがその分は、ディートリヒ・ヴィルケ公やキュエリエ連隊長の子供ら、ラウラさんの子供らにも回されることになります。……そもそも、それを前提としてのユリアさんへの処遇です。「帝國」は、それだけ数多くの「使える」双性者を欲しているのです」
「そうか。……だが、それで子供らに最高の教育と待遇が与えられると思えば」

 絞り出すようにそう言葉を発して、自分を無理矢理納得させた。自分のまったくあずかり知らぬところで、まだ生まれてすらいない自分の子供らの処遇について決められてしまっている事実に対して、今の無力なグラミネア騎士長では何もできないのが明らかであったからである。ここでわめき散らし騒いだところで、何が変わるわけでもない。それならば、彼女自身が相応の発言権を持つ立場に這い上がるのが正しい選択肢である。

「判った。私の「帝國」への忠節は揺るぐことはない。むしろ覚悟が固まった、礼を言う、イサラ」
「はい。……わたしは、ユリアさんの味方です。それだけは信じて下さい」
「言われるまでもない。この身はイサラに捧げた。それは私の信も捧げたということだ」

 ユリアのきっぱりとした物言いに、イサラはそれ以上は言葉を続けず、少しだけ間をおいた。

「それで、「六号」量産機の完成は来週中になりそうです。慣熟訓練の後に、計画通りペネロポネス海を経由して、ヒルドブルグ王国へ移動していただきます」
「そうか。そこで架空の傭兵騎士団を編成させるのだったな」
「実は架空ではないんですけれども。ただ、金の出処が「帝國」内の有力者で、騎士団上層部が元帝國軍人で占められているというだけで。実際、中原での紛争にはそれなりに名前を売っている傭兵達ですよ?」
「ほう? その名前は?」
「「虹彩騎士団(シュバリエール・デュ・ブーレイ)」」

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最終更新:2013年03月10日 23:36