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『懐古主義者の創世記』第二章

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第二章 超音速の決闘劇



ベイビーマグナムの側面に刻まれた、深々とした傷痕。
主砲である回転アームは七本中三本の砲身半ばから折れている。副砲に至っては半分以上の砲門が黒焦げになり使い物にならなくなっていた。
これがたった一度の攻撃、それも一瞬で付けられたものだと言われたら、30分前のクウェンサーなら笑っていただろう。

『クウェンサー。きずのぐあいはどう?』
「うわ……結構深々と抉られてるよ。モロに喰らってたら動力炉ごと消し飛んでたかも」
「しかも一瞬の交錯でだろ?どんな威力だよ全く」

真一文字に出来た真っ黒な斬撃痕をぼんやり眺めながらドラゴンキラーのコンビは駄弁り続ける。
『アタラクシア:α』の一件以降、『正統王国』は全土に警戒命令を出した。
『アタラクシア:α』を襲撃したオブジェクト群、『ジャンクヘッド』と『キルキンチュ』の出所が完全に不明であったこと、そして『アタラクシア:α』を所有していた陣営にスパイの存在がいたことから、内憂外患に対して警戒態勢を引き上げる必要性が出てきたからである。
そして第37機動整備大隊もそれに従って哨戒任務にあたっていた所だったのだが。

「突然中破の連絡が入ったから、ダメージがどの程度かっつー確認に向かわされた訳だが……これ、流石に続行は無理だろ」
「だよね。万が一戦闘に入ったら絶対不具合出るって」
『じゃあひきかえす?』
「その方が良いかもな。ちょっと待ってて、フローレイティアさんに通信を入れるから」

だがジャガイモ二名は忘れていた。
今まで任務が彼らの想定通りに終わったことがないことを、それを何度も身を以て経験していたのにも関わらずすっかり頭の中から追いやっていたことを。

「……なあクウェンサー。あれ見ろよ」

どこかひきつったような顔でヘイヴィアが指差す先には、青い空と白い雲、茶色い砂漠のキャンバスに映り込む不自然な鋼色の物体。

「あー……何処かで見た気がするのは気のせいだよな?」
「奇遇だなクウェンサー……俺も同じこと思ってたよ」

そんな二人の思いなど知ったことかとばかりに鋼色の物体は後部に装備された複数のプロペラントタンクと噴射装置を空中でパージ、その勢いのまま大量の砂を巻き上げながら着地する。
独特の球体部分、無数の副砲や主砲によってハリネズミのように武装したその姿は……先日『アタラクシア:α』を襲撃したオブジェクト、『ジャンクヘッド』であった。

「ふっざけんな、またあいつかよっ!!」
「言ってる場合じゃないって、この間みたいにまた巻き込まれるのはごめんだからな!!」

ベイビーマグナムが迎撃の為に主砲を動かしたのを横目に、この場で出来ることのないジャガイモ二名は乗ってきたジープを目指して全力疾走を開始した。



オブジェクトの突然の乱入による戦闘は『ベイビーマグナム』がじりじりと押されつつあった。
原因は言うまでもなく、既に機体に負わされたダメージだ。
特に主砲三門が破壊され、攻撃能力が半減したのは痛い。
もし主砲が全部無事であれば、今頃お姫様は敵を鉄屑に早変わりさせていただろう。

「くそ、ベイビーマグナムが万全だったら……」
「言ってる場合か!?お姫様が足止めしてくれてる間に俺らは安全な所まで逃げるぞ!!」

機銃やらコイルガンやらの流れ弾が飛んで来る度に冷や汗をかかされながらジープのアクセルを足が付くまで踏み込む。
その時不意に、なだらかな砂丘の地平線の向こうから何かの光が瞬いたのをクウェンサーは見逃さなかった。

「ヘイヴィア、ちょっと車止めてくれ!!」
「はあ!?どうして急に!!」
「向こう側に何かいる!!フローレイティアさん達がいる方向とは別だ!!」
「嘘だろおい、敵の増援か何かか!?」

慌てて車体が悲鳴を上げるのにも構わずにブレーキを踏んで急停止し、二人は双眼鏡を携えて飛び降りる。

「見間違いじゃねえよな、つーかそうであってくれ」
「こっちもそう思いたいよ」

光った辺りの方向を双眼鏡越しに捜索し……砂丘からその姿を見せつつある新たなオブジェクトの姿を見つける。
赤銅色に輝く球体部、側面に備えられた直角三角形の翼。そして前面部には全身に並べ立てられた砲とは形状の違う何らかの武装らしきものが備え付けられていた。
だが何より現在進行形でまずいのは。

「なあ、なんかめっちゃ速くないか……?」
「やばいこれお姫様の方向に向かってる、あの速度で突っ込まれたらただじゃすまないぞ!!」

かなり遠くから見ていても明らかに異常な速度で砂漠を突っ走るオブジェクト。その先には円弧の軌道を描きながら戦闘を続ける『ベイビーマグナム』と鋼色のオブジェクトの姿がある。
考える間もなく、クウェンサーは反射的に通信機を引っ掴んでいた。

「お姫様、背後から敵が高速で来てる!!回避運動を!!」
『りょうかい』

短い返事と共に『ベイビーマグナム』が砂埃を上げながら大きく走行速度を落とす。赤銅のオブジェクトがその横合いを掠めるように奔ったのは正にその瞬間のことであった。
音速の領域を超え、最早ぼやけたシルエットしか分からなくなった赤銅色の閃光は、矢の如く『ベイビーマグナム』の向こう側にいた未塗装のオブジェクトへ突き刺さり───その巨大な図体を文字通り『消し飛ばした』。
遠くにいたクウェンサー達は、まるでビデオをスキップしたかのようにいつの間にか機体の大部分を吹き飛ばされ黒煙を上げる鋼色の機体と、颯爽と砂漠の向こう側に走り去っていく赤銅のオブジェクトの姿をただ見送ることとなったのである。



「ミコ。突然ばくさんしたといってもけいいを話さなければ私たちにもよく分からないじゃないか」
『だって、ほんとうに突然ふきとんだのよ!?いきなり何かがちかづいてきたと思ったしゅんかんにはもうレーダーの信号がとぜつしてたんだから!!』

電話越しに話しかけてくるヒトミコ=ニューホライズンの切羽詰まった調子の声を聞きながら、マクシムは破壊されたオブジェクト『ジャンクヘッド』の開発者であるジン=ヤナギカゲをちらりと見た。

「……そんなヤワな造りじゃなかったはずだが。主砲の砲撃でも5~6発は耐えられるようにはしたはずだぞ?」
「だがじっさいに一撃ではかいされた。何処のオブジェクトだ?」
『そうよ、どんなオブジェクトなのか知らないけど、わたしたちにきばをむいたいじょう、ただじゃすまさないわ』

深く息を吐いて、机に置いていた端末を起動してからジンが重くなった口を開いた。

「……今回ばかりは、オブジェクトのスペックを過信し過ぎたな。俺としても『ジャンクヘッド』の設計を見直す必要がある」
「……ジン。何もお前だけが悪…「よっし反省終わり。叔父貴その端末貸して」…えっ」

引ったくるようにヒトミコと繋いだままの端末をマクシムから奪い取り、それを肩と耳で抑えながらジンは自らの端末の画面を弄り始めた。

「叔父貴達にゃどうでもいい仕様だから黙ってたが、全ての『ジャンクヘッド』にはこの端末に情報を逐一送信する用のカメラが付いてる。何のためかって?戦闘状況、接敵したオブジェクトのスペック、武装。様々な情報をオブジェクトの開発に生かす為だ」

そう言いながらマクシムに向けて見せたジンの端末には、様々な形状をしたオブジェクトの形状、武装などの情報が一覧として並べ立てられていた。

「ミコっちゃん操縦桿の右辺りに緑色のボタンあるから押して。『四文字』の下部カメラからの情報も欲しい」
『ジン兄そんなとこにもカメラしこんでたの!?』
「今はそんなこと良いだろ、はい早ーく!!ハリー、ハリー!!」

ヒトミコの突っ込みにも構わずジンは破壊されたオブジェクトの映像を見てぽつりと呟いた。

「この形状見たことがあるな。Hey,Galaxia.『資本企業』のオブジェクト一覧を」

AIで絞り込みの検索を行い───数秒後、ニヤリと笑みを浮かべて操作していた端末をゆっくりと置いた。
その画面には……『ジャンクヘッド』を粉砕した赤銅色のオブジェクトと一寸の間違いもない形状のオブジェクトが映っていた。

「いたぜ、戦い方からしてまずコイツしかあり得ねえ。『資本企業』所属第二世代オブジェクト。名前は、『カルメン』」
『しほんきぎょうですって?』
「おっと早とちりは勘弁だミコっちゃん。『資本企業』は企業の連合体。その一員でしかない俺には知らされてないことだって多くあるんだから」
「その辺りのことはあとでいい。この『カルメン』は一体どういうオブジェクトなんだ?」

その問いに待ってましたとばかりにジンは、マクシムの端末をヒトミコと繋げたまま『カルメン』を映した自身の端末に並べてから解説を始める。

「『カルメン』は第二世代オブジェクト、すなわち特化型の機体だがこの場合コイツが特化しているのは───」



「───『超音速飛行』、そして『一撃必殺』。これが今回お姫様を襲ったオブジェクトの特徴です」

奇しくも同時刻、クウェンサーは通信機越しにフローレイティア=カピストラーノ少佐にそう告げていた。

『目標オブジェクト、『マッハストライカー』。こちらも『ベイビーマグナム』からの映像で確認したわ。恐らく先程破壊されたオブジェクトは別口、不幸な遭遇戦というべきかしらね』
「なんでこう、俺たちは不幸に見舞われやすいんだろうな」
「考えると暗い気持ちになるからその話やめようヘイヴィア」
『無駄話は後よ馬鹿共。とりあえず『マッハストライカー』が来ない内に『ベイビーマグナム』共々戻って来なさい』

フローレイティアの命令にやれやれ、と伸びをしながらとっととジープの運転席に乗り込むヘイヴィア。それに続こうとクウェンサーも歩き出して……。

『……こちら、『ベイビーマグナム』。脚部システムにいじょうはっせい、だっしゅつきのうもこしょう。 多分もどるまえに『マッハストライカー』においつかれるかも』

通信機から聞こえてきたお姫様からの報告に、その足を縫い止められた。



「『カルメン』は元々航空業界にいた一企業が採用コンペの為に作った機体だ。だからスペックもこの通り、細部まで詳しく知ってる」
「コンペ……ということはジンも出していたのか?」
「そりゃあ自分の設計が評価される場だ、俺は喜んで参加したぜ?尤もこのカルメンと決戦投票になって負けちまったが。なんでも『エリートへの負担が重い』ってよ」
「じゃあジン兄のせっけいしたオブジェクトより『カルメン』はすぐれてるってこと?」
「───それは、少し違うな」

今まで聞いたこともないような冷ややかな声が、その場の空気を支配した。

「オブジェクトの性能に上下関係はあれどもそれは求められた運用を前提にしたものだ。環境や条件が変わればそれは容易く壊れる」

例えば。と青年は中指でオブジェクトの画面を指し示す。
まるで、生徒の間違いを正す教師のように。

「この『カルメン』は元々は『高速飛行』を目的としているが、ある意味では不完全とも言える。何故か?重量の問題をノウハウの不足で解決出来なかったからだ」
「結果として地面効果を利用した飛行形式を採用したが、起伏の大きい地形での運用が難しい上に超低空だから隆起した地面が機体底面を擦る可能性がある。そうなりゃ機体のコントロールが大きく乱れて最悪の場合は横転する」

内部構造、採用素材、形状。ありとあらゆる点からカルメンの持つ欠点を挙げ続ける。

「何より致命的なのは旋回性能だ。『カルメン』の攻撃力は殆どのオブジェクトを一撃で葬れる程だが、万が一外せばその重量とそれに見合わない速度のせいで安全に旋回するのに恐ろしく時間がかかる。……とまあ、こんな感じでどんなオブジェクトも弱点があるということで、ミコっちゃん質問ある?」

長々とした講義染みた話を終えて、途中から黙りこくっていたヒトミコは大きな欠伸を一つしてから簡潔に一言。

「はなしがながい」
「ははは、ごめーん。簡単に言えば速い、曲がれない、止まれないってことよ。とにかく、こいつと真っ向からの勝負は間違いなく自殺だ。それでもやろうって奴は───変態か阿呆だな」



「『マッハストライカー』が戻ってくるのは長めに見積もってもあと2、30分だ」
一方その頃、その真っ向からやり合おうとしている馬鹿二名は動けない『ベイビーマグナム』の援護のために額を突き合わせて話し合っていた。

「意外と長げーな。もっとすぐ舞い戻ってくるもんだと」
「オブジェクトの重量で戦闘機みたいな挙動ははっきり言って無理だ。速度を落とすのにも気を使わないと脚部に負担がかかる」
「問題は、戻ってくる間にどうすりゃいいってことだな」
フローレイティアさんには?」
「念のためいくらか車両と生け贄を要請しといた」
「ナイス判断」

さて、『マッハストライカー』をどうするかという問題にクウェンサーは思考を巡らせる。
お姫様から送られた映像では、スローモーションで『マッハストライカー』が攻撃を行う一連の動きが映されていた。
初撃。機体前部のプラズマブレードによるオニオン装甲の破壊。
第二撃。僅かに軌道を変えて完全な正面衝突を避けつつ溶解した装甲に超音速ミサイルを集中放火。
第三撃。すれ違う瞬間に機体後部の電磁加速重粒子砲を放射、加速しつつ背後のオブジェクトへ追撃。
少なくとも一秒にすら満たない交錯の間に『マッハストライカー』は三度もの攻撃を行っていた。
(このままもう一度来たら間違いなく『ベイビーマグナム』はお姫様諸共に消し炭だ)

どうする。タイムリミットは刻一刻と死刑の時へと近付いてゆく。様々な作戦が浮かんでは、オブジェクトのスペックに叩き潰されて消えていく。
一手足りない。『マッハストライカー』に致命足り得る一撃を与えるためには。
焦るクウェンサーの視界にあるものが止まった。
ぽっかりと大穴を空けられ、黒煙をあげながら沈黙したまま佇む鋼色のオブジェクトの残骸。
───一手を埋めるものが、そこに存在した。

「おいクウェンサー、俺らは何すりゃいいんだ?」
「なあ、ヘイヴィア」

脳内で瞬く間に作戦が組み上げられる。
遠くから見える第37機動整備大隊の車列を眺めながら、クウェンサーは笑みを浮かべた。
「数十万トンのオブジェクトが転ぶところ、見たくないか?」



『マッハストライカー』、資本企業名は『カルメン』のエリートは焦っていた。
二度も必殺の一撃を標的から外したことは今までなかった。この状況自体が有り得るべからずイレギュラーなのである。
これで三度しくじろうものなら、親企業に自らのエリートとしての能力に疑問符を持たれかねない。
次で決める。否、決めなければならない。
赤銅の閃光が、加速を開始した。

『『マッハストライカー』が突入軌道に入った。総員作業中止、速やかに退避せよ』
「来たか。おいクウェンサー、『本命』の方は大丈夫なんだろうな?」
「丁度今仕込みは終わった。後は賭けるしかない」

砂漠の向こうから『マッハストライカー』の推進装置のものらしき轟音が近付いてくる。
このまま突っ立って心中する気もないので馬鹿二名は命令に従って退避を始めた。
5、600mほど先にある大きな砂丘まで駆け上がり、その陰に隠れようとヘイヴィアが砂丘の頂上からダイブ。
クウェンサーもそれに続こうとジャンプした瞬間───青い空の中、雲の間に飛ぶ白亜の翼を持つ何かを垣間見た。
それに一瞬気を取られたクウェンサーは着地地点を見誤り、先んじて着地していたヘイヴィアの上へ尻餅。

「ぐえええッ!!」

往年の某名作横スクロールゲームなら「200」というスコアが出て来そうな感じのヒップドロップをかまされたお貴族さまはたまったものではない。

「うわああああヘイヴィアごめん!?鳥に気を取られて!!」
「てめえ、あとで覚えてろよ……ぐふっ」
「ヘイヴィアあああああああ!?」

砂丘の裏でジャガイモ二名のコントが繰り広げられていることなど知るよしもなく『マッハストライカー』は真っ向から主砲を向ける『ベイビーマグナム』へ突貫する。
勝負は一瞬でケリが付くだろう。それこそ、西部劇の決闘のように。
だが『マッハストライカー』は未だ無傷、対する『ベイビーマグナム』は動いているのが奇跡に近い程にボロボロだ。
この勝負、もらった。
『マッハストライカー』のエリートのその考えは、次の瞬間文字通り『根底』から覆される。
轟。と、細かい砂の大地が爆ぜる。
それも一度や二度ではなく、何十もの爆音が連なる連鎖爆破。
上から突き上げるような衝撃に、『マッハストライカー』の機体が大きく左右にブレ始めた。

「高速移動っていうのは多くのメリットがあるが同時にデメリットも多数抱えている。その一つがコントロールの問題だ」

高速道路と普通の道路では、ハンドルの切り具合による左右の移動の幅はかなり違いがある。
高速走行における方向のコントロールは、繊細に行わければならないのだ。

「それを、外部から変えてやったらどうなると思う?」

少なくとも───まともな操縦をすることは難しいだろう。
『マッハストライカー』のエリートはなんとか機体のバランスを保てたようだが、それは目の前の『ベイビーマグナム』への注意を逸らしたということであり。

「チェックメイトだ」

『ベイビーマグナム』の放ったプラズマ砲が、赤銅色のオブジェクトの鼻っ面を至近距離から貫いた。



ど真ん中を撃ち抜かれた『カルメン』が失速し、『ベイビーマグナム』の側面ぎりぎりを掠めながら通りすぎ、横転。そして───大爆発。
音速の決闘劇の結末の一部始終をヒトミコの乗るオブジェクトのカメラから眺めていたマクシムは、大きく息を吐いて思わず入れていた全身の力が抜けて椅子に体を預けた。

『あー、惜しいっ!!あと少しでやれたのにっ!!』
「まあ時にはこういうこともあるだろう。なあ、ジンよ。……ジン?」
「……マジかよ」

どこか気の抜けたような空気の中、ジンが笑った。

「マジか、マジかよ、マジでっ!!ありえねえっ、たった三十分だぞ!?三十分で『カルメン』の弱点見つけて、対抗策考えたっつーのかよオイ!!」
『ちょっ、うるさいジン兄!?弱点なんか散々分かってたじゃないの!!』
「そりゃ事前に分かってりゃ驚くことでもねえけど、こいつらそんな事前情報なしで看破しやがった!!変態か、阿呆か、それともギークかァ!?」

興奮に顔を赤らめ、ジンは早口で言葉を紡ぎ続ける。
マクシムやヒトミコにはさっぱり分からない領域の話だが、ジンにとってはいたく琴線を刺激することだったのだろう。

「警戒段階を引き上げる必要がある。少なくとも弱点なんかあったら、こいつらは十中八九突いてくると俺には確信出来るね!!こうしちゃいられねえ、場合によっちゃ『スティングレイ』の手直しも───」
『───『スティングレイ』ではない。『四文字』だ』

ジンの加熱した思考を冷やしたのは、マクシムに似た冷徹な声であった。
ジンの携帯端末はオブジェクトの画像から左目に眼帯をつけた老人の顔を映し出す。
0.1秒でジンは思考を完全に仕事に切り替え、にこやかな笑顔を貼り付けて会話に応じる。

「……失礼。いささか興奮しすぎました。どうかご容赦のほどを」
『貴様は仕事は必ず遂行するが、激しやすい面があるな。……まあ良い。『商談』は、上手くいったのか?』
『信心組織』の幹部と話が付きました。つい先程、『アレ』を輸送したところです」
「ジン兄、いつもとようすがちがってきもいんだけど」

予想だにしない幼女の心ない一撃に心を削られながら、ジンはゆっくりと口を開いた。

「ただ、もう少し時間を頂ければと。そうすれば……より広く『アレ』を行き渡らせられると思います」



「『マッハストライカー』の撃破、おめでとう諸君」

『ベイビーマグナム』の応急修復と回収作業中でてんやわんやしている中、フローレイティアはそう言ってクウェンサーとヘイヴィアの元にやって来た。

「それにしても、先に破壊されたオブジェクトの弾頭を地雷として利用するとはね。今回ばかりはお姫様のことも覚悟したけど」
「正直アレがなかったらお手上げでした。……で、『マッハストライカー』とは別口らしきあのオブジェクトについては何か分かったんですか?」

それがね、とフローレイティアは額に指をあてて呟く。

「整備科曰く、『パッチワークみたいな機体』だそうよ」
「パッチワークぅ?」
「そう、なんでも他国のパーツをごちゃ混ぜにしたみたいだったそうよ。多分、どこの勢力のものなのかを隠すためでしょうね」
「エリートはいたはずでしょう?そっちからは聞けないんですか?」

その問いに麗しの上官は首を横に振り、告げる。

「残念だけど『マッハストライカー』の一撃で死亡していたわ。いや……元々死んでいた人間だった」
「……それは、一体?」
「死体の顔をデータベースで照合したら過去に『正統王国』でオブジェクトに搭乗していたエリート、数年前の任務で行方不明になってMIAという扱いになったはずの人間だったの。肉体を半分サイボーグ化してたというおまけ付きでね」

謎しかない。
パッチワークのような機体、過去に死んだはずのエリート、『ベイビーマグナム』を襲った理由。何もかも意図が読み取れない。
ともかく、とフローレイティアは二人に注意する。

「今回のことは深く調べても無駄ね。下手につついて蛇を出すのは嫌でしょう?酷い目にあったと思って早々に忘れることね」

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