侵食機械の領空侵犯
何気ない日常のはずだった。
いつものように国境際をお姫様の乗る『ベイビーマグナム』と一緒に周回し、うだうだあれやこれやと仲間同士駄弁りながら終わる一日のはずだったのだ。
いつものように国境際をお姫様の乗る『ベイビーマグナム』と一緒に周回し、うだうだあれやこれやと仲間同士駄弁りながら終わる一日のはずだったのだ。
「……あ?なんだありゃ」
『それ』を目ざとくヘイヴィアが見つけて声を上げたのが始まりであった。今となっては忌々しく思える『それ』を横目で眺めながらクウェンサーは目の前で起きている事態の推移を見守っていた。
3m以上はあるだろう大型のドローン。
おそらくは偵察用、対人兵器として作られたそれは、どこかにぶつけたのかプロペラローターの一部が破損していた。東欧らしい針葉樹を半ばからへし折る形で墜落していたそのドローンをジャガイモ達がエンヤコラと運びだそうとした所までは良かったのだ。
3m以上はあるだろう大型のドローン。
おそらくは偵察用、対人兵器として作られたそれは、どこかにぶつけたのかプロペラローターの一部が破損していた。東欧らしい針葉樹を半ばからへし折る形で墜落していたそのドローンをジャガイモ達がエンヤコラと運びだそうとした所までは良かったのだ。
『たにんからものをぬすもうとはいいどきょうだ、きさまらにはさいばんもひつようない。ここでさばきを下してやる!!』
そこにドローンを探していた『信心組織』のオブジェクトと部隊とご対面である。その帰結の結果として。
「冤罪だこの野郎、誰か弾よこせ弾!!それか手榴弾!!」
「うわああああRPG出してきた!!たかがドローン一機に必死になりすぎだってば!?」
「弾!?持ってるぞ、下半身に二つな!!」
「敵の前にこいつからぶっ殺せ」
「女性もいるのに何抜かしてんだてめえは!!」
「うわああああRPG出してきた!!たかがドローン一機に必死になりすぎだってば!?」
「弾!?持ってるぞ、下半身に二つな!!」
「敵の前にこいつからぶっ殺せ」
「女性もいるのに何抜かしてんだてめえは!!」
当然ながら鉛玉と火薬の馬鹿騒ぎ開催である。
突然の事態にあちこちで訳の分からない怒号や銃声が響き渡る中、お貴族様は弾を補充しながら相棒である金髪に声を上げた。
突然の事態にあちこちで訳の分からない怒号や銃声が響き渡る中、お貴族様は弾を補充しながら相棒である金髪に声を上げた。
「おいクウェンサー!!もう三十分もやってるんだが!?俺らはいつまでドンパチしてなきゃいけねえんだ!?」
「お姫様が敵と決着を付けるまでが正念場だ!!オブジェクトという大黒柱を失えばあいつらも逃げるだろ!!」
「つまり!?」
「あと少しのはずだ!!お姫様が負けてなければな!!」
「チクショウ、なんでドローン見つけただけでこんな大事になるんだよ!!」
「お姫様が敵と決着を付けるまでが正念場だ!!オブジェクトという大黒柱を失えばあいつらも逃げるだろ!!」
「つまり!?」
「あと少しのはずだ!!お姫様が負けてなければな!!」
「チクショウ、なんでドローン見つけただけでこんな大事になるんだよ!!」
ズドンッ!!という音と衝撃が無法地帯と化した戦場を覆った。
ぴりぴりと肌にその残滓を感じとりながら、クウェンサーは衝撃が飛んできた方向を見やる。
銃声は消えた。怒号は止んだ。誰も彼もがそれを見ていた。
かつて針葉樹の森があったものの軒並み吹き飛び、見晴らしがよくなった地帯にオブジェクトが二機。
副砲が悉く千切れ飛び、あちこちが黒く焦げ付いて黒煙を吐き出している緑青色のオブジェクト。
それに対するは……特に目立った傷もなく、悠然とその白い巨体を駆動させる『ベイビーマグナム』。
既に、趨勢は決していた。
ぴりぴりと肌にその残滓を感じとりながら、クウェンサーは衝撃が飛んできた方向を見やる。
銃声は消えた。怒号は止んだ。誰も彼もがそれを見ていた。
かつて針葉樹の森があったものの軒並み吹き飛び、見晴らしがよくなった地帯にオブジェクトが二機。
副砲が悉く千切れ飛び、あちこちが黒く焦げ付いて黒煙を吐き出している緑青色のオブジェクト。
それに対するは……特に目立った傷もなく、悠然とその白い巨体を駆動させる『ベイビーマグナム』。
既に、趨勢は決していた。
『おのれ、はいきょうしゃめが……かみのおしえにさからうとは……』
『わるいんだけど』
『わるいんだけど』
ミリンダ=ブランティーニが通信越しに言い放つ。
『かみがどうとかのはなしはどうでもいい』
次の瞬間、ベイビーマグナムから放たれたプラズマ砲が、緑青色の機体を撃ち抜いた。
『トライアルキャノン撃破。不意の遭遇戦だったがみんなよくやってくれた』
フローレイティアさんからの通信にジャガイモ達が歓声を上げる。
『信心組織』の兵士の方は『スタンダードウェポン』が落ちた時からすぐに消え去るように撤退して、今や一人の影も見当たらなかった。見事なまでの変わり身の速さである。
ドラゴンスレイヤーの二人は防壁代わりにしていた装甲車に背中を預けて休息していた。
『信心組織』の兵士の方は『スタンダードウェポン』が落ちた時からすぐに消え去るように撤退して、今や一人の影も見当たらなかった。見事なまでの変わり身の速さである。
ドラゴンスレイヤーの二人は防壁代わりにしていた装甲車に背中を預けて休息していた。
「あー、くそ。なんでドローン見つけただけでこんな大騒ぎになるんですかねえ!!」
「……確かに妙だ」
「……確かに妙だ」
金髪の少年は呟いた。
一見する限り、ドローンにはこれといった特徴は見受けられない。どこの勢力でも使われていそうな軍用のものである。
その一つのドローンに『信心組織』はオブジェクトと部隊を駆り出した。明らかに異常な事態である。
だとするならば。『信心組織』が真に取り戻したかったのは、ドローンそのものではなく……ドローンが機体下部に抱えている、『中身』の方ではないのか?
クウェンサーは高まる疑念に突き動かされ、横に置かれているドローンへと手を伸ばす。
ふとその時、クウェンサーの耳朶に虫が羽を振るわせるような音が響いた。
蚊、虻、あるいは蜂か。……否、ありえない。
この音が虫によって引き起こされたものであるとするには、あまりに音が大きすぎる。
一見する限り、ドローンにはこれといった特徴は見受けられない。どこの勢力でも使われていそうな軍用のものである。
その一つのドローンに『信心組織』はオブジェクトと部隊を駆り出した。明らかに異常な事態である。
だとするならば。『信心組織』が真に取り戻したかったのは、ドローンそのものではなく……ドローンが機体下部に抱えている、『中身』の方ではないのか?
クウェンサーは高まる疑念に突き動かされ、横に置かれているドローンへと手を伸ばす。
ふとその時、クウェンサーの耳朶に虫が羽を振るわせるような音が響いた。
蚊、虻、あるいは蜂か。……否、ありえない。
この音が虫によって引き起こされたものであるとするには、あまりに音が大きすぎる。
「……ドローンだ。恐らくは、『信心組織』の!!」
直後クウェンサーの言葉を裏づけるかのように、ドローン達が戦闘機の如く編隊を組んで散開して『ベイビーマグナム』へと襲いかかった。
当然これに対して返ってくるのはレーザーとコイルガンの弾幕。
元来、オブジェクトに対して航空機による制空権は余り効果のないものだ。
同じオブジェクトの主砲でしか傷つかないオニオン装甲、確立された照準レーダー群などの並列演算技術、そして対空兵器による圧倒的な迎撃能力。
これらの要素がオブジェクト1に対し航空兵器500という絶望的な撃墜対被撃墜比率を産み出している。
ましてや20にも満たない数のドローンが戦場に出てきた所で、オブジェクトという戦争の要を潰すことなどありえない。
そう、ありえない『はずだった』のだ。
当然これに対して返ってくるのはレーザーとコイルガンの弾幕。
元来、オブジェクトに対して航空機による制空権は余り効果のないものだ。
同じオブジェクトの主砲でしか傷つかないオニオン装甲、確立された照準レーダー群などの並列演算技術、そして対空兵器による圧倒的な迎撃能力。
これらの要素がオブジェクト1に対し航空兵器500という絶望的な撃墜対被撃墜比率を産み出している。
ましてや20にも満たない数のドローンが戦場に出てきた所で、オブジェクトという戦争の要を潰すことなどありえない。
そう、ありえない『はずだった』のだ。
「……っ」
モニターに映し出された映像を見て、お姫様は息を呑む。
回避、回避、回避。
撃ち出される何百もの弾丸、レーザーを一発も受けることなく間隙を掻い潜り『ベイビーマグナム』へと肉薄する。
その秘訣はドローン達の動きの特徴にあった。
回避、回避、回避。
撃ち出される何百もの弾丸、レーザーを一発も受けることなく間隙を掻い潜り『ベイビーマグナム』へと肉薄する。
その秘訣はドローン達の動きの特徴にあった。
(じぜんのこうどうもないのにきゅうなうごきをおりまぜてくる。つぎのうごきがまったくよめない)
通常、航空機が方向転換や回避行動を取る際には必ず機首を上げるとか機体を傾けるなどといった『事前動作』がある。
だがこのドローン達にはそれがない。
機体も傾けず、事前動作もないのにまるで瞬間移動でもしたかのように上下左右に急制動を行うのだ。
それもまるで、フィクションに出てくるUFOのように。
だがこのドローン達にはそれがない。
機体も傾けず、事前動作もないのにまるで瞬間移動でもしたかのように上下左右に急制動を行うのだ。
それもまるで、フィクションに出てくるUFOのように。
奇怪かつ予測不能な動きをして来るドローンに初見のお姫様では対応が出来ず、易々と有効射程距離まで詰められる。
(でも、たしょうのこうげきなら『ベイビーマグナム』はたえられる)
だがまだお姫様の精神に焦りはなかった。
核爆発すら耐えうる対衝撃性、対熱性、堅牢性を誇るオニオン装甲。それが500層も『ベイビーマグナム』を取り巻いて護っている。
並大抵の火力では中にいるお姫様に危険が及ぶどころか、装甲を突き破ることは出来ないのだ。
その防御力は今まで何度も実証され、彼女もそれを少なからず信用している。
だからこそ……ドローンが放ったミサイルが、オニオン装甲が容易く食い破られたことに、愕然とした。
核爆発すら耐えうる対衝撃性、対熱性、堅牢性を誇るオニオン装甲。それが500層も『ベイビーマグナム』を取り巻いて護っている。
並大抵の火力では中にいるお姫様に危険が及ぶどころか、装甲を突き破ることは出来ないのだ。
その防御力は今まで何度も実証され、彼女もそれを少なからず信用している。
だからこそ……ドローンが放ったミサイルが、オニオン装甲が容易く食い破られたことに、愕然とした。
「おい、嘘だろ……!?」
両者の戦いを遠くから見守っていたクウェンサーは目撃した。
ミサイルが着弾した部分。そこが、ディッシャーでアイスクリームでも掬ったかのようにぽっかりと半球状に抉られていたのを。
ミサイルが着弾した部分。そこが、ディッシャーでアイスクリームでも掬ったかのようにぽっかりと半球状に抉られていたのを。
「おい、オニオン装甲ってのは核攻撃にも耐えられる代物だろ!?なんであんな簡単に穴が開けられてやがる!!」
あっさりと装甲が食い破られた現実にヘイヴィアが悲鳴を上げた。
それに応えるように別のドローンが放った二発目のミサイルが別箇所のオニオン装甲に着弾、いやな金属の軋む音を立てて先程と同じような形に破壊される。
それを見て、クウェンサーは呻くように呟いた。
それに応えるように別のドローンが放った二発目のミサイルが別箇所のオニオン装甲に着弾、いやな金属の軋む音を立てて先程と同じような形に破壊される。
それを見て、クウェンサーは呻くように呟いた。
「俺にも分からない。ただ少なくとも……とんでもなくヤバい状況だ!!」
『不味いことになった』
開口一番、フローレイティアさんが放った言葉はどう考えても嫌な予感しかしないものだった。
ドローン達は『ベイビーマグナム』を取り囲んではいるが、弾幕を停止したことで機能停止したかと勘違いでもしたのか先程とはうってかわって一向に撃つ気配を見せなかった。
ドローン達は『ベイビーマグナム』を取り囲んではいるが、弾幕を停止したことで機能停止したかと勘違いでもしたのか先程とはうってかわって一向に撃つ気配を見せなかった。
『『信心組織』側から今連絡があった。あのドローン群は現在、誰のコントロール下にもないそうよ』
「はあ?そりゃどういうこったよ!?」
『説明すると、本来あのドローンはまだ戦闘に放り込む前段階で飛行試験中にウチと運悪く衝突した。それに焦った『トライアルウェポン』のエリートが目標もプログラミングせずにドローンをけしかけたみたいね』
「それじゃ、ただ闇雲に暴走する無人兵器を放り出した訳かよっ!!自分達に牙を剥くかもしれねえってのによ!!」
『……もう既に牙を剥いた後よ』
「……それって」
『『トライアルウェポン』のエリートは『信心組織』の回収部隊諸共死んだわ。自分の放ったドローン達によってね』
「はあ?そりゃどういうこったよ!?」
『説明すると、本来あのドローンはまだ戦闘に放り込む前段階で飛行試験中にウチと運悪く衝突した。それに焦った『トライアルウェポン』のエリートが目標もプログラミングせずにドローンをけしかけたみたいね』
「それじゃ、ただ闇雲に暴走する無人兵器を放り出した訳かよっ!!自分達に牙を剥くかもしれねえってのによ!!」
『……もう既に牙を剥いた後よ』
「……それって」
『『トライアルウェポン』のエリートは『信心組織』の回収部隊諸共死んだわ。自分の放ったドローン達によってね』
他のジャガイモ達は撤退の準備を続けている。
そもそも相手はオブジェクトの弾幕すら突破し、オニオン装甲を貫通せしめる兵装持ちのドローン。自分達ではどうにも出来ずに殲滅されるのがオチだ。
それよりも心配なのはお姫様である。
脱出時にドローンに狙い撃ち、などという事態は避けたい。
今はまだ多少は『ベイビーマグナム』を動かせるようだが、それでも最悪の事態に備えておかなければならないだろう。
そもそも相手はオブジェクトの弾幕すら突破し、オニオン装甲を貫通せしめる兵装持ちのドローン。自分達ではどうにも出来ずに殲滅されるのがオチだ。
それよりも心配なのはお姫様である。
脱出時にドローンに狙い撃ち、などという事態は避けたい。
今はまだ多少は『ベイビーマグナム』を動かせるようだが、それでも最悪の事態に備えておかなければならないだろう。
『何より不味いのは、近くに『安全国』があるんだけど』
「おい止めろ爆乳、これ以上嫌なニュースは耳に入れたくねえ!!」
『その『安全国』で貴族同士の結婚式が今日行われる予定なのよ。それも、結構な家柄同士のね』
「ひょっとしなくともだけど、もしドローンがそこに突撃なんかしたら」
「めでたく『正統王国』と『信心組織』の大喧嘩開始。下手すりゃ他の勢力も様子見どころか漁夫の利をかっさらいに来て泥沼だ」
「おい止めろ爆乳、これ以上嫌なニュースは耳に入れたくねえ!!」
『その『安全国』で貴族同士の結婚式が今日行われる予定なのよ。それも、結構な家柄同士のね』
「ひょっとしなくともだけど、もしドローンがそこに突撃なんかしたら」
「めでたく『正統王国』と『信心組織』の大喧嘩開始。下手すりゃ他の勢力も様子見どころか漁夫の利をかっさらいに来て泥沼だ」
この世界はステンドグラスのように勢力が入り乱れ、日常のことのように小競り合いが起こっている。
そんな火薬庫じみた状況に、火種を投げ込めばどうなるか。
その結末など、火を見るよりも明らかである。
そんな火薬庫じみた状況に、火種を投げ込めばどうなるか。
その結末など、火を見るよりも明らかである。
「じゃ、じゃあどうするんですか!?あんな高速で飛行するドローン、俺達には撃ち落とせませんよ!?」
『だから別の部隊に救援要請を出したわ。都合の良いことに件の貴族同士の結婚式を執り行う主催者が、酔狂で戦闘機部隊による航空ショーを予定してたの』
「結婚式サマサマだな、こりゃ」
『今装備を積み直して再出撃の準備中よ。今のウチの部隊じゃ打つ手なしだから、おとなしく戻って来なさい』
『だから別の部隊に救援要請を出したわ。都合の良いことに件の貴族同士の結婚式を執り行う主催者が、酔狂で戦闘機部隊による航空ショーを予定してたの』
「結婚式サマサマだな、こりゃ」
『今装備を積み直して再出撃の準備中よ。今のウチの部隊じゃ打つ手なしだから、おとなしく戻って来なさい』
そんなこんなで、撤退の準備を続けるジャガイモ達である。
だが、その中でただ一人クウェンサーだけは携帯端末の画面とにらみ合いを続けていた。
だが、その中でただ一人クウェンサーだけは携帯端末の画面とにらみ合いを続けていた。
「おいクウェンサー、さぼりか?お姫様は別の部隊が救出してくれるって、俺らはとっとと逃げる準備しようぜ……あ?なんだそりゃ……『軍用ドローン全集』?」
「お姫様を散々ボコられてすごすごと引き下がる訳にはいかない。せめて何か糸口を掴まないと」
「それ何ページあるんだよ?」
「514ページ」
「ごひゃ……!?馬鹿かテメェは、見つかりっこねえだろうが!!」
「けど、見つけなきゃならない」
「お姫様を散々ボコられてすごすごと引き下がる訳にはいかない。せめて何か糸口を掴まないと」
「それ何ページあるんだよ?」
「514ページ」
「ごひゃ……!?馬鹿かテメェは、見つかりっこねえだろうが!!」
「けど、見つけなきゃならない」
ヘイヴィアの言うとおり、短時間で500ページ以上もの情報量の山の中から一つの答えを見つけ出すのは至難であろう。だがやらなければならない。お姫様の生存の可能性を繋ぐ為には。
真剣な面持ちで画面と見合うクウェンサーを見て、ヘイヴィアはため息を吐いた。
真剣な面持ちで画面と見合うクウェンサーを見て、ヘイヴィアはため息を吐いた。
「全く、今回ばかりは付き合えねえ。他にやらなきゃならねえ仕事があるからな。……おいミョンリ!!学生の道楽に付き合ってやれ!!あと暇そうにしてる奴数人連れてこい!!」
「ヘイヴィア……」
「ほどほどにしとけよ。いつドローンの矛先がこっち向くか分かんねえんだからよ」
「ヘイヴィア……」
「ほどほどにしとけよ。いつドローンの矛先がこっち向くか分かんねえんだからよ」
そして、ヘイヴィアの指示によってミョンリと暇人を加えた十数人体制で『軍用ドローン全集』の全ページを手分けしてしらみ潰しに探し始めて10分後。
「あった、絶対これだっ!!間違いないって!!」
スキンヘッドの兵士が興奮に顔を上気させてとあるページの画面を皆に見せた。
クウェンサー達がこぞって覗き込むと、そこにはヘイヴィアが見つけ、そして『ベイビーマグナム』を襲撃したドローンと全く同じ形をしたものが写真として映し出されていた。
クウェンサー達がこぞって覗き込むと、そこにはヘイヴィアが見つけ、そして『ベイビーマグナム』を襲撃したドローンと全く同じ形をしたものが写真として映し出されていた。
「これですよ!!プロペラの数も形も一緒だし!!」
ミョンリの興奮した声を横から聞き流しながら、クウェンサーはその画面を見て呟いた。
「ヤナギカゲ重工製造軍用ドローン、『ノスタルジア』」
名前:『ノスタルジア』
種別:対戦車・兵士用攻撃兵器
所属:『ヤナギカゲ重工』
全高:1.0m
全長:3.5m
全幅:2.7m
重量:5.5kg
動力系:ヤナギカゲモーターズ製・JuggernautII×1(VTOLプロペラ推力モデル)、緊急回避用高圧ガスジェット×8
最高速度:時速900㎞/h
武装:高出力イオンレーザーx1、可変オプション式搭載装置
乗員人数:0人
その他:メインカラーリング・銀
種別:対戦車・兵士用攻撃兵器
所属:『ヤナギカゲ重工』
全高:1.0m
全長:3.5m
全幅:2.7m
重量:5.5kg
動力系:ヤナギカゲモーターズ製・JuggernautII×1(VTOLプロペラ推力モデル)、緊急回避用高圧ガスジェット×8
最高速度:時速900㎞/h
武装:高出力イオンレーザーx1、可変オプション式搭載装置
乗員人数:0人
その他:メインカラーリング・銀
「ちょっと貸してくれ……ってこれ、様々な環境ごとに推奨する使用法まで詳細に載せてるな。相当マメな奴が書いたみたいだ……っと、あった。『使用上の注意』」
細かい字がびっしりとならぶ画面でも見やすいように、目立つように赤い文字で書かれた『使用上の注意』の欄に目を通す。
「……このドローンはレーザーなどの電磁波や空気の振動を感知することで迅速な回避を行えるが、電磁波の乱反射や遮断された場所では動作に致命的なバグが起こる可能性が高く……これだ」
クウェンサーが声を張り上げた。
だがその内容を、誰も聞き取ることは出来なかった。
何故ならば、彼が声を上げた全く同じタイミングで遠くにスタンバイしていた軍用車両がドローンの放ったレーザーで吹き飛び、同時に発生した爆音がそれを掻き消してしまったが為である。
爆発によって生じた衝撃と光によってその場にいた全員が身を屈める。
だがその内容を、誰も聞き取ることは出来なかった。
何故ならば、彼が声を上げた全く同じタイミングで遠くにスタンバイしていた軍用車両がドローンの放ったレーザーで吹き飛び、同時に発生した爆音がそれを掻き消してしまったが為である。
爆発によって生じた衝撃と光によってその場にいた全員が身を屈める。
「ぐうううっ!!」
「……待って、今の爆発があった場所ってヘイヴィアさんが歩いてった方向じゃ」
「おい、嘘だろ……!?おいヘイヴィア、いるなら返事してくれ!!ヘイヴィア!!」
「……待って、今の爆発があった場所ってヘイヴィアさんが歩いてった方向じゃ」
「おい、嘘だろ……!?おいヘイヴィア、いるなら返事してくれ!!ヘイヴィア!!」
だが、クウェンサーの叫ぶ声に返事はなく。
盛んに燃え盛る炎と空を汚す黒煙を前に、クウェンサーは崩れ落ちた。
盛んに燃え盛る炎と空を汚す黒煙を前に、クウェンサーは崩れ落ちた。
「ヘイヴィアアアアアアア!!」
「なんだよさっきっからうるせえな!!」
「うわああああああお化けだああああああ!?」
「散々人の名前呼んどいてその扱いはねえだろうがあ!!」
「なんだよさっきっからうるせえな!!」
「うわああああああお化けだああああああ!?」
「散々人の名前呼んどいてその扱いはねえだろうがあ!!」
絶賛大炎上中の車両群を背景に、運良く攻撃に巻き込まれなかったジャガイモ達が面を突き合わせて話し合う。
「つーかなんで急に襲って来たんだ?さっきまで興味もない様子で飛んでただろうが」
「いや俺に聞かれても。ヘイヴィアは分かる?」
「俺も知らねえよ。車両が吹っ飛んだ時は真逆の方向に居たんだから」
「いや俺に聞かれても。ヘイヴィアは分かる?」
「俺も知らねえよ。車両が吹っ飛んだ時は真逆の方向に居たんだから」
そこに、煤で顔を真っ黒にしながら女性兵士が愚痴をぶつぶつと呟きながら歩いてきた。
普段は薄く化粧もしている彼女のメイクは完全に台無しになってしまっていた。
普段は薄く化粧もしている彼女のメイクは完全に台無しになってしまっていた。
「ああもうっ、ふざけんなっ!!なんであんなバカなことやったのよアイツはっ!!」
「どしたん?」
「車両に積み込み終わった辺りにさ、近くにいたダズがドローンを見てて『アレ撃ち落とせるんじゃねーか?』ってドローンに向けて銃口構えたらあっちからレーザーがズドン。めでたくダズ諸共車両が吹っ飛んだって訳さ。全く迷惑な奴だよ」
「どしたん?」
「車両に積み込み終わった辺りにさ、近くにいたダズがドローンを見てて『アレ撃ち落とせるんじゃねーか?』ってドローンに向けて銃口構えたらあっちからレーザーがズドン。めでたくダズ諸共車両が吹っ飛んだって訳さ。全く迷惑な奴だよ」
ぷりぷりと怒り心頭で大股で去っていく女性兵士の尻を眺めながらヘイヴィアが呟いた。
「なあ、銃口が文字通りトリガーなんじゃねーのか?」
「いや、それだったら未だにお姫様に向けて攻撃を続けてるはずだ。あり得るとしたら───標準レーザーだ。アイツらは電波を感知して攻撃する。レーザーも単一の電波を発生させるものだからそっちに反応したのかもしれない」
「いや、それだったら未だにお姫様に向けて攻撃を続けてるはずだ。あり得るとしたら───標準レーザーだ。アイツらは電波を感知して攻撃する。レーザーも単一の電波を発生させるものだからそっちに反応したのかもしれない」
ともかく、とクウェンサーは皆に『ノスタルジア』の解説が載せられた液晶画面を見せながら、彼らへ対抗策を告げる。
「コイツらは閉鎖空間……例えば洞窟とかに入れば十中八九コントロールを失って墜落する。俺らがやるべきことはその洞窟に当てはまるような場所を探すことだ」
戦闘機。オブジェクトが存在する現在では戦場からその数を大きく減らした存在の兵器。
『正統王国』には、その戦闘機を駆るとあるパイロットがいる。並外れた操縦技能を誇り、乱立するビル群の中をマッハの速度で容易く走り抜けて見せる天才。
彼はこう嘯く。
『クラシックが聞こえたら、俺が来た合図だ』と。
コールサイン、バーニング・アルファ。
その名はスタッカート=レイロング。
正統王国の朱き邪眼が、クラシックと共に戦場に姿を現せた。
『正統王国』には、その戦闘機を駆るとあるパイロットがいる。並外れた操縦技能を誇り、乱立するビル群の中をマッハの速度で容易く走り抜けて見せる天才。
彼はこう嘯く。
『クラシックが聞こえたら、俺が来た合図だ』と。
コールサイン、バーニング・アルファ。
その名はスタッカート=レイロング。
正統王国の朱き邪眼が、クラシックと共に戦場に姿を現せた。
彼の到来を告げるように、ドローンが爆散した。
突然の攻撃に残る14機のドローン達は動揺もすることもなく襲撃者に総攻撃をかける。
だが───当たらない。唯の一度も。まるで先程のドローンと『ベイビーマグナム』との攻防劇を逆にしたように、ドローン達の放つレーザーもミサイルもたった一機の戦闘機には届かない。
シャンデル、インメルマンターン、ヴァーティカルローリングシザース。アクロバットのように豪快な空中戦闘機動で以て鋼の鳥は蒼空を自由自在に飛翔する。
突然の攻撃に残る14機のドローン達は動揺もすることもなく襲撃者に総攻撃をかける。
だが───当たらない。唯の一度も。まるで先程のドローンと『ベイビーマグナム』との攻防劇を逆にしたように、ドローン達の放つレーザーもミサイルもたった一機の戦闘機には届かない。
シャンデル、インメルマンターン、ヴァーティカルローリングシザース。アクロバットのように豪快な空中戦闘機動で以て鋼の鳥は蒼空を自由自在に飛翔する。
『こちら、『正統王国』アクロバット飛行隊所属スタッカート=レイロング大尉。応答を願う』
大破した『ベイビーマグナム』の応急処置を続けるお姫様の下にクラシックのBGMを響かせて通信音声が届いた。
「こちら『正統王国』だい37きどうせいびだいたい、ミリンダ=ブランティーニ」
『なんだお嬢ちゃんじゃねぇか。中々大変な目に遭ってんなオイ』
「そのドローンには気を付けたほうがいい。かいひせいのうもたかいし、なによりミサイルが……」
『なんだお嬢ちゃんじゃねぇか。中々大変な目に遭ってんなオイ』
「そのドローンには気を付けたほうがいい。かいひせいのうもたかいし、なによりミサイルが……」
レイロングが放ったミサイルがドローン二機を巻き込んで爆発した。爆炎を背にドッグファイトを繰り広げながら彼は飄々とした様子で言い放つ。
『ああ。確かにちょいと厄介な動き方はしてるが、慣れりゃ問題ない。ミサイルがヤバいってのは嬢ちゃんの機体を見りゃ分かる。けどな……当たらなきゃ問題はねえよ』
戦闘機乗りは、僅か一度の被弾で命取りとなりうる。
そんな生と死を日常茶飯事としてきたレイロングにとって、『当たれば死ぬ』は脅しにもならないのだ。
そんな生と死を日常茶飯事としてきたレイロングにとって、『当たれば死ぬ』は脅しにもならないのだ。
『……にしてもだ。お貴族様の結婚式の為に呼ばれたと思ったら、なんで俺UFO相手に空戦してんだ?ハリウッド映画かゲームの世界観じゃねぇか。フィクションだけにしてくれよ、全く』
『左翼エンジンに被弾……これ以上の戦闘は無理です、一旦離脱します。すいません先輩っ!!」
最後の援軍が戦場から離脱する。
対するドローン達も残り3機に数を減らしたものの未だ健在。
その事実に舌打ちしながらレイロングは機体を旋回させ、激しい空戦を続行する。
対するドローン達も残り3機に数を減らしたものの未だ健在。
その事実に舌打ちしながらレイロングは機体を旋回させ、激しい空戦を続行する。
(本格的に不味い状況になってきたな……燃料もそろそろ尽きかけてきやがった)
もうレイロングは30分以上も戦闘を続けていた。
流石にここまでの長期戦になるとまでは想定出来る訳がなく、多く見積もってもあと10分以上の飛行は望めないだろう。
残るドローンは3機。
どうする、とレイロングが思考を巡らせようとしたその時、通信に乗って少女の声が届いてきた。
流石にここまでの長期戦になるとまでは想定出来る訳がなく、多く見積もってもあと10分以上の飛行は望めないだろう。
残るドローンは3機。
どうする、とレイロングが思考を巡らせようとしたその時、通信に乗って少女の声が届いてきた。
『こちら、『ベイビーマグナム』。少し耳をかしてもらえる?』
『こっちも手詰まりになり始めてた。俺に出来ることがあるなら言ってくれ』
『りょうかい。てはずは……』
『こっちも手詰まりになり始めてた。俺に出来ることがあるなら言ってくれ』
『りょうかい。てはずは……』
お姫様の話す作戦の内容を聞いて男は苦笑を浮かべる。
作戦の成功の為に要求される技量が桁違いに高い。
それこそ、並みの戦闘機乗りではこなすことは出来ないと断言出来る程に。
作戦の成功の為に要求される技量が桁違いに高い。
それこそ、並みの戦闘機乗りではこなすことは出来ないと断言出来る程に。
『───成る程。ずいぶんと賭けに出たな?他の奴じゃ尻込みして考えても決行出来ねえ作戦だ』
『むり?』
『……いや、ここにそれをやりたい馬鹿がいる。その作戦乗った!!やってくれ嬢ちゃん!!』
『むり?』
『……いや、ここにそれをやりたい馬鹿がいる。その作戦乗った!!やってくれ嬢ちゃん!!』
レイロングが牙を剥くような笑みを浮かべる。
『ベイビーマグナム』が主砲からプラズマの奔流を放出したのは、全く同時のことであった。
標的は残る三機のドローン。当然機械達はこれを咄嗟に回避するが、そこを狙い済ましたように機銃の嵐が襲いかかる。
『ベイビーマグナム』が主砲からプラズマの奔流を放出したのは、全く同時のことであった。
標的は残る三機のドローン。当然機械達はこれを咄嗟に回避するが、そこを狙い済ましたように機銃の嵐が襲いかかる。
『来な、木偶共!!』
そのレイロングの通信音声を聞いたかどうかは定かではないが、ドローン達は機体を翻して飛び去る戦闘機を追い始めた。
(そうだ、そのまま追ってこい……!!)
レイロングが目指すは『ベイビーマグナム』の放ったプラズマ砲の先。
───例のドローンは電波の届きにくい洞窟などでは機体のコントロールが効かなくなる、とこの作戦を提案した人間は言ったという。
同時に、『それに合致するような環境はこの一帯にはない』とも。
ならば、どうするか。
答えは極めて単純明快、ないなら作れば良いのである。
レイロングの目の前に山が迫る。
ベイビーマグナムの砲撃によって、ぽっかりと穴を開けられた山の姿が。
その直径はおよそレイロングの乗る戦闘機がギリギリ通れるかどうか。
少しでも操縦を誤れば翼が壁に引っ掛かって墜落死は免れないだろう。
だがレイロングは止まらない。ここで止まれば誰かが代わりに犠牲になるが故に。
───例のドローンは電波の届きにくい洞窟などでは機体のコントロールが効かなくなる、とこの作戦を提案した人間は言ったという。
同時に、『それに合致するような環境はこの一帯にはない』とも。
ならば、どうするか。
答えは極めて単純明快、ないなら作れば良いのである。
レイロングの目の前に山が迫る。
ベイビーマグナムの砲撃によって、ぽっかりと穴を開けられた山の姿が。
その直径はおよそレイロングの乗る戦闘機がギリギリ通れるかどうか。
少しでも操縦を誤れば翼が壁に引っ掛かって墜落死は免れないだろう。
だがレイロングは止まらない。ここで止まれば誰かが代わりに犠牲になるが故に。
迫る。山が迫る。死が追ってくる。
一秒か、あるいは知覚出来ないほどの刹那の内か。
ただ、事実であるのは。
レイロングの乗る戦闘機は何事もなかったかのように山の中腹に開けられた穴を通過したこと。
そして、彼を追走していたドローンが電波を遮断されたことでコントロールを喪失し、後続の二機と衝突して大爆発を起こしたことであった。
一秒か、あるいは知覚出来ないほどの刹那の内か。
ただ、事実であるのは。
レイロングの乗る戦闘機は何事もなかったかのように山の中腹に開けられた穴を通過したこと。
そして、彼を追走していたドローンが電波を遮断されたことでコントロールを喪失し、後続の二機と衝突して大爆発を起こしたことであった。
「……ですからねえ。こちらに責任を問われてもどうしようもないんですよ」
何度目か分からない言葉を吐きながら、ジンは呆れ気味な様子で空を仰いだ。
社長室で新たなオブジェクトの設計図をコンピュータの中に書き出しながら彼は頭を抱える。
社長室で新たなオブジェクトの設計図をコンピュータの中に書き出しながら彼は頭を抱える。
「元々暴走したのはそちらが初期プログラミングを怠ったのが原因でしょう?こちらには何の落ち度もないじゃないですか」
『商談』も纏まっていい気分だったところに彼の耳に飛んで来たのは、『商品』を売り付けた『信心組織』が勝手に自爆しエリートとオブジェクトを失った挙げ句、こちらにその責任を擦り付けようとする買い手の人間の怒声であった。実に面白くない事態である。
「こちらは『オブジェクトを破壊できる兵器』を売りましたし、それが勝手に爆発したというのなら補填も致しますが、そもそも操作を間違えて被害が出たというなら銃の誤射も同じ。単なるそちらの自損事故ではないですか」
より大きな声でこちらの話を遮るように相手が喋り出す。
さほど高尚なものでもない相手のプライドをいたく傷つけたらしい。堂々巡りで延々と時間を浪費している事実にジンは怒りを抑えながら、努めて冷静な調子でゆっくりと口を開いた。
さほど高尚なものでもない相手のプライドをいたく傷つけたらしい。堂々巡りで延々と時間を浪費している事実にジンは怒りを抑えながら、努めて冷静な調子でゆっくりと口を開いた。
「……ええ、ええ。あくまでこちらの責任と言うのであれば、こちらにも考えが。ヤナギカゲグループは御社に対する全て契約を破棄、今後一切の取引も停止させて頂きます」
電話口の向こうにいる相手が一瞬、狼狽した様子を見せたのをジンは聞き逃さなかった。
「都合の良いことに『正統王国』のある貴族がそちらの提示した倍の額で件の商品の購入を望んでおりましてね。実に良い取引でしたよ」
声が一旦途切れ、それからひどく混乱したような調子で舌をもつれさせながら話す相手をジンは心の中で嘲笑った。
『商品』の破壊力は実際に『ベイビーマグナム』を実験台にして示されている。
それが自分達に向けられた時の脅威を今更になって理解したのだろう。だがもう遅い。
『商品』の破壊力は実際に『ベイビーマグナム』を実験台にして示されている。
それが自分達に向けられた時の脅威を今更になって理解したのだろう。だがもう遅い。
「では失礼させて頂きます。次の商談がありますのでね」
何か話そうとしていた相手の声を聞く前に通話を切って、ジンは大きく息を吐き出し、社長室の柔らかな椅子に背を預けながら伸びをした。
『信心組織』での取引先を一つ失ったが、グループ全体の利益の1%程の存在でしかない。引き替えに得た新しい取引先である女系の多い貴族との取引はその倍以上の利益を見込めるだろう。
『信心組織』での取引先を一つ失ったが、グループ全体の利益の1%程の存在でしかない。引き替えに得た新しい取引先である女系の多い貴族との取引はその倍以上の利益を見込めるだろう。
「しかし『ホワイトレディ』の家は大変だな。姉妹が多いせいで後継者争いが一向に終結しないとは」
だがその分、こちらが漬け込めるだけの『隙間』はあった。
『信心組織』は『正統王国』もあの『商品』を持ち始めれば危機感を感じて配備を始めようとするだろう。
そしてそうなれば残る勢力もこぞって配備し、かくしてジンの思惑は達成されるという訳だ。
『信心組織』は『正統王国』もあの『商品』を持ち始めれば危機感を感じて配備を始めようとするだろう。
そしてそうなれば残る勢力もこぞって配備し、かくしてジンの思惑は達成されるという訳だ。
「とっかかりは出来た。あとはより広く、より早く根付かせるだけだな」
と、そこへ新たな着信が届く。
先程の『信心組織』の相手か、と思いながら青年は通信に出る。
予想していたものとは違う、錆び付いた老人の声がジンの耳朶を打った。
先程の『信心組織』の相手か、と思いながら青年は通信に出る。
予想していたものとは違う、錆び付いた老人の声がジンの耳朶を打った。
『ジンか』
「……これはどうも。夜分にご苦労様です」
「……これはどうも。夜分にご苦労様です」
苦手……と言い切るにはどうにも違う感覚を覚える相手からの連絡。
僅かに口調が固くなるのを自覚しながらもジンは丁寧な言葉でアダムを歓迎する。
僅かに口調が固くなるのを自覚しながらもジンは丁寧な言葉でアダムを歓迎する。
『『商談』の進捗はどうだ』
「順調と断言出来ます。『信心組織』と『正統王国』に『商品』を売り付けました。残る二勢力も同様の武器を求めて早晩接触するでしょう」
『そうか、ならば話が早い。……始めるぞ、我々の戦いを」
「……とうとう、ですか」
『貴様と出会ってから3年か。案外長い付き合いになったものだ』
「あの時ほど死んだと思ったことはないですよ」
「順調と断言出来ます。『信心組織』と『正統王国』に『商品』を売り付けました。残る二勢力も同様の武器を求めて早晩接触するでしょう」
『そうか、ならば話が早い。……始めるぞ、我々の戦いを」
「……とうとう、ですか」
『貴様と出会ってから3年か。案外長い付き合いになったものだ』
「あの時ほど死んだと思ったことはないですよ」
半ば自嘲気味に笑いながらジンは呟く。
ジンとアダムは最初からビジネスパートナーという関係性ではなかった。
三年前、彼らはテロリストとその被害者……平たく言えば、身代金目的の人質として初めて邂逅したのである。
ジンとアダムは最初からビジネスパートナーという関係性ではなかった。
三年前、彼らはテロリストとその被害者……平たく言えば、身代金目的の人質として初めて邂逅したのである。
『こちらもあの時は驚いた。まさか命乞いならばともかく、こちらの計画に協力しようと言い出す人間がいるとはな」
「死にたくなかったですからね。それに俺にも利益のあることだった。お互いに利益があったから組んだ……俺達の関係はそれだけのことです」
『……ああ。我々は利害関係、何かあればすぐに断ち切れる関係でしかない』
「死にたくなかったですからね。それに俺にも利益のあることだった。お互いに利益があったから組んだ……俺達の関係はそれだけのことです」
『……ああ。我々は利害関係、何かあればすぐに断ち切れる関係でしかない』
お互いに確認し合うように言葉を重ね合う二人。
彼らの心の奥に潜む何かを隠してはいたが、お互いにそれがどういう感情であるかを察していた。
だが共にそれを口に出すことはなかった。
言ってしまったが最後、何か決定的なものが壊れることを恐れたが故に。
彼らの心の奥に潜む何かを隠してはいたが、お互いにそれがどういう感情であるかを察していた。
だが共にそれを口に出すことはなかった。
言ってしまったが最後、何か決定的なものが壊れることを恐れたが故に。
『世界はかつての戦争を忘れた。故に我らはかくあるべき姿に戻さねばならない。ジンよ、覚悟は出来たか』
「そちらの思想は俺にとってはどうでも良い。俺が出せる全力は尽くした、後は世界を相手に試すだけ。やろうかアダムの旦那」
「そちらの思想は俺にとってはどうでも良い。俺が出せる全力は尽くした、後は世界を相手に試すだけ。やろうかアダムの旦那」
「『───世界を変える創世記の始まりを」』