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『地球より愛を込めて』第三章

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第3章 みんなトリガーハッピー>>秘密工場包囲突破制圧戦



コードネーム『マス・プロダクション』、『資本企業』での制式名称『アイリス』。
それが今回問題となっているオブジェクトであった。前回の戦いで得られた資料を解読していくと
これまた資本企業に属するどこぞの企業が新型のオブジェクトを建造中だと言うことがわかった。

「今回の件を説明すると、珍しく真っ正面からの情報戦に『資本企業』が『情報同盟』を上回った形みたいね。『情報同盟』の諜報部隊が用意していたダミーカンパニーが逆に『資本企業』の調査会社、つまりカウンター諜報部隊に取り込まれてしまった。『資本企業』らしく、お金で縛り付ける形で」
「なんて言うか、珍しく本当に間抜けな話ですね」

水着のフローレイティアさんがサングラスを付けてビーチベッドに寝そべり、状況を説明していく。

「敵は『資本企業』に所属する民間宇宙開発を標榜するベンチャー企業。『プライベートオブジェクト』。例の宇宙馬鹿がやってた毎号なんとかオブジェクトの発売元よ。そこが厄介なオブジェクトを建造している。出来ればこれを破壊、もしくは鹵獲したいってわけ」
「なるほど俺たちに何をさせたいのかなんとなくわかりましたけど……なんか思いっきしバカンス気分ですけど大丈夫です?」

ジャガイモたちが珍しく日光浴や海水浴を楽しんでいる。女性兵士たちがナンパ遠征に出ようとする馬鹿どもを鉄拳制裁する中で
クウェンサーは何故こんなことをしているんだろうと疑問をぶつけてしまう。

「今ウチの電子シュミレート部門が全力で修羅場ってるのよ。だから私たちは鋭気を養いましょうって事」
「いいのかな? こんな事してて……」

やっぱりこんな事している場合じゃ無かった。

『てきのかずが……おおい!』
「嘘だろ……? この数。本当に本当に、全部オブジェクトなのか!?」

その数、30機。それが今回出てきたオブジェクトの数だった。



およそ3時間前。


「ふざけんじゃねえ! 爆乳! 今すぐ拒否しろ!」

『貴族』ヘイヴィア=ウィンチェル上等兵に上官であるフローレイティア=カピストラーノ少佐が下した新しい指示はお偉いさんの接待。それも最前線でドンパチしながら相手しろと言うもの。

「私だって拒絶したいのは同じ。でも相手は王族の関係者よ。例のモローク家直系一族のハウス・スチュワード……

つまりは、超上級使用人。全権とまでは行かないけど下手な王族より一族当主……つまりは玉座に近い存在よ」

「それでも結局使用人だろ! 本人が慰問にくるってならまだ意味があるのはわかるが、全く違うぞ!?」
「知らないわよ! そもそも慰問じゃなくて、何かしらの確認のために視察したいって話! 全く上は何を考えているんだが」

『貴族』ならヘイヴィアだけしかいないわけでは無い。目の前のフローレイティア少佐も同様に貴族だ。けれど……。

「私は特殊な立ち位置だからね。指揮官としての挨拶とかはするけどそれ以上の事は関与したくないし、下手にやれば

面倒な事になる。王族のお手つきなんて話がでっち上げられたらもうどうしようも無くなってしまうからね」

「けっ……わかりましたよ。やればいいんだろ。で……そのスーパーなバトラーさん、名前は?」
「それが……向こうの希望で自分は今日、この場にはいなかった。いたのは民間の従軍カメラマンのハウス・スチュワード氏と言う事にしてくれとね」
「おいおい……役職名をそのまま個人名にして、結局ばれるだろ。モナーク王族の関係者だってのは俺ら知ってる訳だから」
「そうね……だから、期待しているわ。私の部下が賢明な判断が出来るって事を」

そして、2時間前。謎の戦場カメラマン、ハウス・スチュワード氏が明らかにカメラでは無い装備品を片手に堂々と戦場を歩く姿にクウェンサーたちは目を見張る。
礼服のフロッグコートをぴっちりと着こなし、真っ黒のサングラスを身につけた長身の黒人。
両手に『正統王国軍』のサブマシンガンを2丁持ち歩くその老人男性は何というか、場違い感とステゴロの強者を兼ね備えた雰囲気である。
SHIMAGUNIのコミックとかに描かれるようなスーパーバトル爺さんと言ったその礼服サングラス老黒人、ハウス・スチュワード氏はジャガイモ達の前に立ち止まり一言。

「急なご用件で失礼を。私、民間の戦場カメラマン、ハウス・スチュワードという物です。此度は受け入れてくださって大変感謝しております」
「……あんた本当にそのカバーストーリーがいけると思ってんのか?」

ヘイヴィアもさすがに自称カメラマンが礼服両手二丁サブマシンガンという出で立ちには頭を抱えながら応じるしか無い。

「こちらといたしましても急なご用件で、無理を言ってしまったことは自覚しております。後日その辺の適切な謝礼をさせて頂きます」
「……せめて、何が目的か、話せる範囲で話してくれよ……」
「ふむ……無理を言ってしまった事は確かですし、良いでしょう。あくまでも話せる範囲で。始まりは、姫殿下の死に悲しんだとある方が、せめてと……ある技術に救いを求めた事が発端でしょう。

それ自体は恐らくすべての親御さんが一度は願うことでしょう。1度で良いので死者と話したい。それが自分の子供ならなおのこと。醜悪な詐欺師どもにつけ込まれるまでは」
「……死者との対話? 死者蘇生とかそんなぶっ飛んだSFファンタジーを本気で願ったって言うのか?」

クウェンサーが思わず会話に加わる。
死者蘇生、或いは死んだ人間ともう一度話す。それは古代から人間達が望んだ夢だ。けれど、実際問題そんなこと出来る訳が無いのだ。
数千年、下手すれば数万年の人類の夢物語でしか無い。

「ええ、その通り。死者本人と会うことは出来ない。降霊術に希望を見いだす人はいるでしょうが、実際問題降霊術が本物である確証は数百年にわたって一つも提示出来ない。ですがね、一つだけ、死んだ人間とお話をする方法はあるのですよ。厳密には死者本人では無いのですが……」

そこでいったん言葉はとまり、ハウス・スチュワード氏は周囲を見渡す。

「皆様は『デジタル・クローン』という言葉をご存じですか?」



そして、マス・プロダクションことアイリスの秘密工場があるとされている人工の山林地帯に足を踏み入れる馬鹿2人と
これまた部外者の2名のチーム。
すなわち、『マウストラップ』こと『リリアン』を操る差押人のエリート少女とハウス・スチュワード氏である。

「なぁ、エリートちゃん。まだ捕虜交換出来ないの?」  
「にっていはきまった。1しゅうかんさき。そのあいだにでかせぎだ」

クウェンサーがエリートの少女と話をしながら歩み、ヘイヴィアは周囲を念入りに警戒する。
そんなヘイヴィアを尻目に堂々と胸を張ってまっすぐ突き進むハウス・スチュワード氏。
当然ヘイヴィアは頭を抱え、どう対応するべきかと悩み始める。


「これ俺は間違ってねえよな?」  
「そうなんじゃ無い? ヘイヴィア。でもあの人どんどん突き進んでるよ」
「ああ! 待ってくれ! せめて敵の姿が無いか、確認しろォ! プライマリースクールの先公の気分だぜ」

オセアニアでも使用されていた緑地技術によって形成された森は風情だとか自然の持続可能性とやらでは無く
まず効率を優先された単一種による森だ。ただし、現在は一面銀世界。
木々には雪が降り積もり、針葉樹の単一森林であるが故に、森の中なのに見晴らしが良くてまぶしい。

「そうだ。俺等は間違っていないんだ」

そこに礼服サングラスの黒人はほどよく目立つ。『正統王国軍』の防寒コート組が浮いてしまう程度には。

「やっぱこれ、俺等が間違っているのか……!?」 
 「違う、絶対俺等が正しいハズなんだ!」

当然これほどに目立つ存在を見忘れるはずが無い。ついに敵と思われるライフル弾が飛んできた。
防寒コート組に。

「やっぱこれ、俺等が間違っていたッ!?」  
「いいからはんげきしろ! 最悪!」

ヘイヴィアがライフルの引き金を引いて応戦するその中、礼服サングラスの男が仁王立ちしながら敵へと
歩いて行く。何故か礼服男には飛んでこない弾丸。どうも敵側も戸惑っており、ひょっとして関係者か
新手の変態かと行動できないでいるようだ。


「お勤めご苦労様です! しかし、用件があり、本日は参りました! 一つ、聞きたいことがございます!! 
スポンサーのお一人、『殿下』の使者でございます!」

で、もって礼服男の大声に敵味方双方が銃撃を一度止める。

「何考えてんだあの使用人っ!?」  
「でも敵が撃ってこなくなったぞ。どうなってんだ」
「責任者へのお目通りを願います! 『姫様』のサンプルの取り扱いについて! 契約違反らしき物を見ました。
そのことについてのご説明をいただきたい!!」

『姫様』。それはいつものジャガイモ達の『お姫様』の事では無く



『皆様は「デジタル・クローン」という言葉をご存じですか?』
『それは、人工知能……いわゆるAIが残されたあらゆるデータを元に個人の人格を再現すると言う物です。この人ならこのように考える。この人はこんな風に発言する。この人ならこの人ならこの人なら……』
『現在の技術力を使えば脳内にチップを搭載することも可能ですから、本人の視覚データや発言データもあれば、恐らく限りなく確実性が上がると考えられています』
『……ここでは「殿下」という単語でお許し願いたい。「殿下」の願いは「姫様」ともう一度会うこと。一族内のごたごたで大変負担をかけた事が『姫様』の死の原因だと悔いておられるのです』
「むろん、所詮機会が再現したしゃべるプログラムに過ぎません。それでも姫様ともう一度会いたい。話がしたい。それが「殿下」の願いなのです』
『そして、「デジタル・クローン」を手がける企業に最高峰の技術、技能、可能性をつぎ込み限りなく本物の
「姫様」の「デジタル・クローン」を資本企業のとある企業に依頼することになったのです。その企業の名前が「プライベート・オブジェクト」。個人がオブジェクトを所有できるようにする企業です。元々並のテクノロジーでは無いのですよ』
『始まりは、何でも個人が宇宙船を乗り回す時代を始めようとか言う野心あふれる人材が集まったことだったとか。宇宙船がいつしかオブジェクトになり、そのために各方面の技術を集め、技術開発集団となっていったのだそうです。もちろん最終目標は個人が宇宙用オブジェクトを乗り回す時代の到来。そのために肉体的な死の克服さえも考えていたそうで』



ハウス・スチュワード氏が大声を張り上げる。確実に聞こえるように。

「こちらが提供した『姫様』のサンプルの使用に契約違反の恐れがあるとの話を聞きました! 責任者のご説明をいただきたい!」

それが、ハウス・スチュワード氏の目的。
銃声はやんで、いつしか敵兵の姿が堂々と見えるようになる。そして、その中から1人の人物が現れる。
ビジネススーツの上に防弾チョッキとヘルメットをかぶり、ライフルを握るその男。ビジネススーツとビジネスシューズが風景に似合わない。

「それは大変失礼を。いささか物騒で鉛玉での歓迎となったしまった事をお詫びいたします。ただし、そちらの兵隊の皆様には出来ればご遠慮願いたい。ビジネスの話に銃口は不要なので」

そう言って自分のライフルを地面に置き、ヘルメットを脱ぐ。そして、ハウス・スチュワード氏にも武装解除するようにとジェスチャー。

「それは大変失礼を。いささか物騒で鉛玉での歓迎となったしまった事をお詫びいたします。ただし、そちらの兵隊の皆様には

出来ればご遠慮願いたい。ビジネスの話に銃口は不要なので」

そう言って自分のライフルを地面に置き、ヘルメットを脱ぐ。そして、ハウス・スチュワード氏にも武装解除するようにとジェスチャー。


「おい! 使用人! やめとけ! こいつ等に交渉なんて! そういう任務じゃ無いんだぞこっちは!?」
「申し訳ございませんが、『正統王国軍』の皆様はただちに帰って――――」
「――これで、彼らも入れてくれませんか? 入れられる場所まででかまいません。事が事ですので」

ハウス・スチュワード氏がドルの札束を出したことで空気が変わった。

「……アポイントメントは取っておられますか?」  
「2時間前に今からそちらに行くと電話はしております。それ以上の事はわかりません。急ぎですので」
「わかりました。是非とも面会できるように私どもも全力を尽くしましょう」

『資本企業軍』の兵士たちが一斉に立ち上がり、花道を作って

「それでいいんかい!? 『資本企業』!?」 
「くそっ、あぽとるだけであんなりんじぼーなすか。うらやましい」
「あー『資本企業』ってやっぱこんなノリなのね」

色々な意味で諦めた馬鹿2人であった。



案内された小部屋は監視塔内部の物だった。元々誰かが訪ねてくる予定が無かったので
外部から来た人を待たせる事が出来そうな部屋がここぐらいしか無かったのだろう。
札束で簡単に買収される兵隊と言ってもなんだかんだで最低限の仕事はする。

「武器の持ち込みはここまでとお願いします。その先は命の保証が出来ません。あちらのモニターに

営業担当と責任者が映りますので、現状ではこれ以上はご勘弁を。お話をするだけならこれで十分ですよね?」
有無を言わさない迫力。まぁ、確かに話をするだけならこれでいいだろう。そして

「一応念のために言っておきますが、アポイントメントを取ることが今回私どもが受注したお仕事であって

あなた方を案内し、すべて見せることではございません。退去をお願いすることもありますので、そのときは即刻立ち去るように」
「そうはいきません。納得のいく話がされない場合は強行突破も考えてございます。一応そのときに備えておくことをおすすめしますよ」

無言の圧力を醸し出すビジネススーツに礼服グラサン男が立ち向かう。
もはや馬鹿2人とエリート少女は置物だ。
モニターに1人の女性が映る。営業担当だというその女性にハウス・スチュワード氏がなにやら色々と聞いているが
その内容はほぼ次の通りだ。

『契約違反が起きたと聞いた。状況の確認がしたい。今すぐ説明を求める』

それに対して相手の答えはずーと同じだ。

『そのような事実は現時点では聞いていない。一応確認するが無い物と考えている。その上で騒動を残念に思う』

それで終わり。ハウス・スチュワード氏があらゆる湾曲した表現を多用し

『無いと言うのなら、何故今回の騒動が発生しているのかクライアント兼スポンサーに詳細を報告せよ』

と何度も聞くが答えは変わらない。
礼服サングラスの黒人男性という出で立ちのハウス・スチュワード氏が立ち上がる。

「では、実際に立ち入らせてください。私どもは現状に強い不信感を抱いています。少なくとも私がこの目で
現状を確認しない限りその返答では『殿下』は納得しないでしょう。このまま施設への立ち入りを認めてもらいたいですな」
『それは困ります。せめて数時間前にそのことをお伝えしていただけ無ければ……。軍機が関係する場所も多いので
また後日お願いします』
「いえ。それを聞いて、強行突破の覚悟が出来ました。5分以内に返答が無ければそちらがなんと言おうと私は突入いたします」
『……それは困りましたね。では、警備の皆様、その人以外はどうでも良いので、その人を拘束してください。手足の1本は許容範囲で』
「「この流れは……」」

馬鹿2人の予感は的中した。と言うより、遅すぎた。
次の瞬間銃撃戦が始まったのだから。
ヘイヴィアとハウス・スチュワードがそれぞれライフルとサブマシンガンを引き金を引き、クウェンサーとエリート少女が地面に這いつくばって
その場か逃げ出せないか、辺りを見ている。

「って、エリートなんだからなんか、すっごい戦闘技術で戦えるでしょ!」
「しゅうきょうばかとはちがうんだぞ! 最悪!」

『資本企業』特有の黄色いエリートスーツの上に『正統王国軍』の防寒コートという出で立ちが故に微妙なチラリズムを発揮しているが
そんなこと考えてもいない少女が思いっきり焦ったように声をだす。

「しゅうきょうばかやせんもんのへいたいならいざしらず、えりーとがはくへいせんとくいなんてふつうじゃないからな!」
「「えっ?」」
「おまえたちのだいじなえりーとがはくへいせんしているいめーじあるの!? 最悪!」

言われてみればお姫様がライフル片手にヒャッハーしてるシーンは全く思い浮かばない。
プタナだったらヒャッハーは言わなくても遠慮無く引き金を引いてそうだが。

「言い分はわかった。でも真っ先に逃げるのは違うよな!?」

ヘイヴィアが叫び、エリート少女はすでに部屋の外。

「そもそもわたしは、ちをみるのがにがてなんだ!!」
「「えっ!?エリートだよね!?」」
「おまえたちのなかのえりーとのいめーじどうなってる!?そもそもわたしはえりーとでとりたてにんだ!さしおさえにんだ!
かのうなかぎり、いきてつかまえるのがわたしのしごとだ!しんだらしたいいじょうのかちがないだろ!最悪!」
「おいおい……」
「マジかよ」

エリートなのに血を見るのが苦手、可能な限り生きたまま制圧と言う変わり種のエリート少女だったことにクウェンサーが驚き、ヘイヴィアがお荷物が増えたと小さな絶望を抱える中、ハウス・スチュワードのサブマシンガン二刀流が勝負を付ける。
右のサブマシンガンが弾切れ。すぐさま左のサブマシンガンで牽制しつつ、拳銃に持ち替えて敵兵をヘッドショット。
身を隠して、右のサブマシンガンのマガジンを交換。その間にも時折左のサブマシンガンで牽制。
よく見たら腕が2本増えてる。

「「すげぇ……」」
「AIせいぎょのほじょぎしか。あんなつかいかたがあるんだな」
「マガジン交換、或いは牽制にとりあえず弾丸をばらまきたい時に拳銃を持たせるなどしたら便利ですぞ」

『資本企業』兵はすでに戦死したか、うめき声を上げてるだけになっていた。

「若い頃はガンカタという物にあこがれてましてな。しかし上には上がいる。映画のようにスタイリッシュアクションで無双とは行きませんで、このような邪道に走りました。おかげで旦那様に護衛としての能力もまた高く評価されるように
なったので痛し痒しでございます」
「スーパー使用人かよ。王族様は格がちげーわ」
「それはさておき、ここを移動しましょう。さすがに増援までは相手しきれません」

よく見たらスーツ武装男の姿が見えない。奴は奴で撤収しているようだ。ひょっとしたら増援とともにやってくるかもしれない。
『資本企業』軍の施設の小部屋と考えるとここに長居するのは悪いことだ。

ドアでは無く、窓をぶち破り、外から走る。先頭にいるのはヘイヴィア。最後尾は、実は戦闘力に疑問が付くらしいエリート少女。
クウェンサーはそんな強い連中の真ん中で周囲を見渡す。
オブジェクトの建造施設としては、不思議な場所だ。雪山で、緑化技術によって山林にされてる場所。
お金大好き『資本企業』にしてはいくら軍事施設だからといってなんだか不自然な場所だ。だってこんな場所を軍事施設として開発するのにお金がかかりそうだもの。
新型のオブジェクトの開発施設にしてもこんな場所じゃなくても良いはずだ。それともこの場所である理由でもあるのだろうか?
そんな風に思っていたら、雪山の斜面に作られた奇妙なモニュメントのような構造物を見つけた。

「…………? マスドライバー……か?」
クウェンサーの知識の中にアレを説明できそうな物はそれしか無い。だが、仮にマスドライバーだとしてあまりにも
奇妙だ。アレでは人を乗せた宇宙船なんて打ち上げる事は出来ないだろう。
ただし……。

「おい! クウェンサーなんで立ち止まる!」
「……どこからエネルギーを手に入れている。仮にアレが本物だとして……」
「ごちゃごちゃ言ってないで、危ないからさっさと走れ!」
「待ってくれ! この施設、地下に伸びてるかもしれない!」

ロケット単体で宇宙に人や物を運ぼうとすると、できる限り赤道に近い方がいい。地球は丸い。おまけに重力を振り切る一番の方法は
ある程度の高度まで進出した後、地球重力に従って落ちる事だ。うまいこと落ちると、地球に落ちずに地球の重力に引っ張られて
地球が丸いが故にさらなる高高度に猛スピードで突入することが出来る。こうやってロケットは宇宙に到達する。
なので、できる限り赤道に近い方がいい。赤道なら地球が丸いが故に安心して北でも南でも東でも西でも適当な場所に落ちるだけで良いからだ。

「でも、実は赤道じゃ無くても良かったりする。有名なバイコヌールとかは色々工夫して落っこちる形で地球から離脱するんだ。
その工夫がやりやすい経度って奴が南北それぞれにある。普段は世界的勢力の軍事衛星や防空レーダーなんかがこの軌道やこの軌道に何かを進入させやすい場所に変な物を立ててないか監視してるけど、ここはまさにそう言う場所に近いんだ!」

だから、こんな辺鄙な雪山。何かを宇宙に大量に投入したいのであればマスドライバーの動力源が必要だ。
おまけにオブジェクトの開発まで行ってるともなれば……表面から見える範囲だけですむ規模じゃ無い。

「最悪の場合、ここは第2の北欧禁猟区になるぞ! アースガルドみたいなJPlevelMHD動力炉をオブジェクトじゃ無くて施設中心に設置したちょっとした要塞都市であってもおかしくない! 宇宙空間に無数の衛星を打ち上げる研究都市だ!」

そして、轟音が轟く。マスドライバーらしきそれが稼働したようだった。尤もマスドライバーで何かを射出するわけでは無い。
マスドライバーに何かを乗せる搬入口に動きがあると言うだけだ。マスドライバーの搬入口付近が開く。

「おいでなすったぞ……」
「これはこれは……」
「リリアンのほうがかっこいいな」
「……オブジェクト!」

『資本企業』軍の新型機。噂の『マス・プロダクション』こと、『アイリス』。

「「「ん?」」」

1機出撃して、即座に2機目が姿を見せる。3機目が、4機目が、5機目が――――

「――数がおかしくないか?」
ヘイヴィアの呆然とした感想がすべてを説明していた。



『正統王国軍』第37機動整備大隊の所属オブジェクト、ベイビーマグナムのエリート、ミリンダ=ブランティーニもさすがにこの事態には唖然としていた。その数30機。いくら何でも絶望的な差だ。
即座に白旗を上げても許されただろう。が、彼女はそれをしなかった。自分がそれを許せなかったから……。

「1ぱつも……うたずに……こうふくなんてさすがにいやだ……!」

そして、それは奇しくも

「カピストラーノ少佐!」
「1発も撃たずに白旗を上げるなんて許される立場な訳が無いだろ!」
「しかし、30機です! 無理です! 1対30なんてこの状況下で戦うのは無謀です。上もわかってくれますよ!」
「……お姫様! そっちの感覚でかまわない。1機だけで良いからやれる!?」

ミリンダからの返答は沈黙。フローレイティアさんとしても本当はわかっている。
オブジェクト戦にとって数は重要な要素だ。1対1なら勝てても2対1なら厳しいと言う事例は数多い。
30倍の数相手に戦って勝つなんてオブジェクトとエリートはさすがに存在しないのが現実だ。

「……お姫様。5分耐えて。その間になんとか出来そうならそうする。駄目なら白旗を送信する。と言うわけでおまえ達は急ぎ撤収の準備を!可能な限り100秒以内に全部終わらせろ!!」
「少佐! いくらなんでも!」
『わかった』
「お姫様!?」

ベイビーマグナムの表示の中に300秒のカウントが入る。死のカウントダウン。或いは命のカウントダウン。
ミリンダはそのままベイビーマグナムをアイリスたちの中に突っ込ませた。
最高速に到達、主砲の下位安定式プラズマ砲を辺り一面にばらまく。

(でてきたばかり、じんけいができてないいまなら、ふところにはいりこめる。どうしうちをさけるためにうてなくなる!せっきんせんをするしかない!)

ベイビーマグナムは最高速度530キロに到達。この速度で1機のアイリスに突っ込みながら主砲のプラズマ砲をたたき込む。
その直後、1門を除く6門の主砲をこの状況では段数に不安のあるコイルガンで正面真下の地面を撃つ。
轟!! と衝撃波が空間を揺らし、反動と衝撃と慣性の法則がベイビーマグナムの進路をゆがめ、急カーブ。

(今――!)

――すれ違いざまにさらに1機にプラズマ砲をたたき込む。

(せめてちゅうはしてくれたら……ッ!)

ベイビーマグナムの敵機の表示が変わる。

【エネミー24 撃破】

【エネミー06 大破】

「えっ……?」

直後、ベイビーマグナムに敵の砲弾がぶち当たった……。



『お姫様!?』
「だ、だいじょうぶ、フローレイティア。それより、こいつら、やわらかい!」

ベイビーマグナムは右旋回。敵機を接近戦で撃破したと言うことは皮肉にも敵機を肉壁として利用する事が出来なくなる。
つまり、同士討ちを気にせず、撃てる。遠慮無く敵のレールガンが次々とベイビーマグナムに向けて撃ってくる。

(よけられない――!)

――操縦桿を握った手を大きく動かす。ボタン操作やタッチパネルを高速で操作する。
FCSの自動計算による……――やってる暇なんて無い。

        微調整。   もうカンで良い。

引き金を引いて、

          レーザーの照射。

轟!!


空中で敵のレールガンの砲弾が爆発した。爆破の衝撃波が空間にとどろき渡る。
空中での砲弾迎撃。オブジェクトの主砲級レーザーによる対空攻撃の成功。ベイビーマグナム、損害軽微。

「……いける。のこり265びょう。いける」

お姫様が覚悟と自信を決める中、クウェンサー達もまた、数の暴力と戦っていた。



「ただのライフルで軍用パワードスーツ軍団と戦ってくださいなんて無茶を命令する爆乳もこの気持ちをいい加減味わってみろって!」
「むりむりむり。最悪。すたんぐれねーどかえんまくでたいしょふのうなてきはもうむり!」
「君いつもスタングレネード一本で戦ってきた口!?」
「なんでも良いのですが、サブマシンガン二刀流で相手するには厄介ですなぁ……」
『資本企業軍』の軍用パワードスーツ部隊のやたら口径のでかい専用ライフルに狙われ動けない。

50口径のアサルトライフルが放つ銃弾の威力は皆が隠れている壁を2発で粉々に砕いていく。
それでもそこにしか隠れ場所が無いのだから、だんだん押しくらまんじゅう状態。

「おとこどもはまえにでろ!おんなこどもをたてにするな!って、どこさわってるぅ!?最悪!」
「えっ、俺何処触ってるの?つか、もっとつめて、マジで余裕無い!」
「ふわっ!! ほんとうにやめろ、さわんな!!」  
「こんな時でもラキスケ出来るとか余裕だなクウェンサー!」

切れ気味のヘイヴィアが手榴弾を投げる。爆発。お返しに大量の銃弾が帰ってきた。

「マジでなんもないの!? エリートって普通の人間より色々パワフルだったりするじゃん!」
「さいむしゃやよにげしたばかをつかまえるのとぐんようぱわーどすーつとたたかうのをいっしょにするな!ええい、もうわかった! むりょくかするほうほうにはこういうのもある!」

エリート少女は一瞬だけライフルを構えて再び隠れる。

「……よし。いける」
「何が!?」
「おまえたちは10びょうだけなにもしないであたまをさげてろ!」

そして、再びライフルを構えて引き金を引く。小さな爆発の衝撃。『資本企業軍』の軍用パワードスーツ1機大破。

「「えっ?」」
「おぇ……。やっぱちはきらいだ」
「なにしたんでしょうか?」  
「ばってりーぱっくをらいふるぐれねーどでそげきした。わたしはしほんきぎょうのえりーとだぞ。じこくのそうびのきほんてきなとくちょうくらいわかる」
「なんでもいいぜ! やっぱエリートは頼りになるな! これからも頼むよ!」

手のひら返しのヘイヴィアに言いたいことがあるが、エリート少女はそれを無視する。血を見るのは嫌いだ。ましてや自分が原因になったものは気分が良くない。
とはいえ、エリートという因果な商売の自分がそれを言うのは偽善者っぽくてこれもまた好きでは無い。

(かちょうはいつもたよりなさそうなめでわたしをみていた。とうぜんだな)

『資本企業軍』の軍用パワードスーツ部隊はさすがに1機撃破されただけで止まらない。けれど戦い方がわかった
3人組は銃弾で、或いはハンドアックスで器用にバッテリーパックを狙う。ライフルグレネードは無くても数を重ねれば敵は一度身を引く。その隙に移動を繰り返す。

「で! クウェンサー、地下に行けばなんとかなりそうなのか!?」
「それはわからない!でもこの基地の本命は間違いなく地下だ!」

そして、4人は見つける。

「脳みそ……の工場?」

映画のような培養槽が並びそこに人間の脳みそを模したと思われる何かしらの肉塊がいくつも転がっていた……。

「おい、まさかにんげ――」
「――ではなさそうだよ。ヘイヴィア。これたぶんネズミだ。薬ななんかで無理矢理肥大化させてる」
「…………」
「……これはこれは」

エリート少女が1人沈黙し、ハウス・スチュワードが興味深そうに一つ一つを観察する。
そして、その中の一つにあるラベルを発見する。そのラベルを見たハウス・スチュワードが血相を抱えてなんとか脳みそのような何かをなんとかして取り出そうとする。

「おい! 何しているんだよ使用人!」
「姫様です。姫様の名前が印字されていて!」
「「えっ?」」
「…………はいぶりっとぷろせっさ……。なんでこんなもの……いまさら……しっぱいしたやつなのに」
「……何を知っているのです!? 教えてください!」

ハウス・スチュワードがエリート少女に詰め寄り、身長の違いからか、大男が小さな女の子を高圧的に接している絵面が出来上がる。

「でじたるくろーんのはなしをきいたときからおかしいとおもっていた。たしかにそれはきゅうせいきのころにてーしょうされて、じっさいにつくろうとしたけど、うまくいかなかったんだ。けっきょくえーあいがあたえられたあるごりずむにしたがってかいわっぽいことをするだけのしゃべるきかいでしかなかったから」
「そうか、結局アンジェリナ・リストの問題からは逃げられない。フレーム問題の一つも解決出来ないAIではいかにもそれっぽい言葉を並べるだけだ」
「……だけど、ふれーむもんだいってけっきょくきかいてきなちせいにはいざってときにもしもちょうこうしてしまったら、とりあえずこうする!ってこうどうができないっていみだ。ならさ、きかいてきなちせいじゃなくしればいいんだって」

それがハイブリッド・プロセッサ。生体組織と機械組織……一種のサイボーグ型の演算装置。

「でもあいであはよかったけど、しっぱいした。だって、きかいにできることはきかいにさせて、にんげんにできることはにんげんにさせることがいちばんこすぱがいい。わざわざはいぶりっどにしなきゃいけないひつようせいがないしせいぞうにじかんとかねがかかる」

そんなハイブリッド・プロセッサに目を付けた奴らがいた。ここの奴らだ。
単純なAIシステムではデジタル・クローンは失敗だった? なら生物と機械の両方の演算システムなら?

「たぶん、ねずみをつかっているのはそれがいちばんやすいから……」
「なんてこった。生命倫理って奴は何処に消えちまった? って言いたくなる惨状じゃねえかよ。まだネズミだから

マシだけどさ、その理由がカネってところがおまえ達らしいぜ」

「で、なんでそれを君は知っているのさ?」
「かいしゃのこきゃくりすとのなかにはいぶりっどぷろせっさのけんきゅうしゃがのってた。わたしがつかまえたさいむしゃのなかにもひとりいたはず。最悪なんで、こんなところで」
「では、何故『姫様』の名前があるので? よく見れば一つ一つ全部に人の名前が付いてますぞ」

少女は部屋を見渡しながら……小さな声で

「……たぶん、ねずみだけじゃ、たりないんだ。ほんのうてきすぎる。にんげんののうさいぼうをまぜなきゃえんざんのやくにたたない――」
「――その通りだよ君」

直後聞こえた声に全員が反応し頭上の渡り廊下を見る。ヘイヴィアやスチュワードが銃口を向けるそこには

「そう言う物騒なものはやめてくれよ。普通に死んじゃうから」

何故かSMの女王様の格好に白衣を身にまとったお姉さんがいた。



 『情報同盟軍』所属のオブジェクト、インビジブル014の乱入はお姫様が4機目のアイリスを撃破したところであった。
残り146秒カウントでの乱入。

『どこからやってきた!?』  『わかりません! お姫様を援護するために展開中の航空部隊の偵察にも痕跡はなく……』

「アクティブ・カニッツァ!」

お姫様はそれを知っていた。以前、警戒するべき敵性オブジェクトの定期講座で教えられたそれ。
事前の諜報活動によって判明した『情報同盟』における名称は『インビジブル014』。
未だ、世界は『光学迷彩』を完成させてはいない。けれど限りなくそれに近づいた機体。

『少佐ァ!? 敵軍に動きあり! まだ新たなオブジェクトを投入しようとしています!』
『何だと……!? 「マス・プロダクション」はいったい何機あるんだ!?』

しかし、戦場の混乱はまだ終わらない。



「お姫様!?」

地下で、唐突に謎の痴女白衣が手元の端末を操作したかと思うと地上の状況が画面に映った。

「あー『情報同盟』め……ちょっと、あいつらのクリエイト005とか言う機体を好きにしてただけなのにあんなに激おこで。
まぁ、スパイ活動も普通にさせてたけどさ。そっちの資料かな? まぁ、いいやちょうど良いからそちらの『正統王国』のオブジェクト共々アイリスのプレゼンテーション用の資料作成に付き合ってもらうよ」
「ふざけるな!? あんた誰だ!」

SMの女王様は鞭の代わりに端末を持っていた。その扇情的な体にやたらでかい胸をアピールするような姿の女性はクウェンサー達に対して意にも介さず、端末を口元に当てて

「アイリス・コンセプトモデルはこのように我々が当初考えていた究極のコストパフォーマンスに優れた『純規格品』オブジェクトとして、すでに完成と言って良いでしょう。しかし、あくまでもコンセプト・モデルであるが故にいささか改良の余地がある事は素直に認めなければなりません」

唐突に、記録もしくはプレゼンの予行演習が始まった。

「オブジェクトは職人芸によって製造されるオニオン装甲用の装甲板を何百と束ねる事でその防御能力を発揮し、JPlevelMHD動力炉のエネルギーによって数多の兵装システムを稼働させる事で莫大な火力を作り出すと言う事を基本とする大型機動兵器です。
従来、職人芸によるオニオン装甲と動力炉の価格の問題からオブジェクトは1機辺り約50億ドルが基本であると言われておりました。
我々はそこにメスを入れたのです」

身振り手振りを交え、時に大きく注目を浴びるように。もしかして、SMの女王様はそのためか?

「アイリスの基本はバイタルパート以外の職人芸を廃止。動力炉の価格問題は徹底的な量産効果による価格の低下。この2点により約50億ドルで最低3機は作れる事を目指した物です。現在のアイリス・コンセプトモデルの価格は約19億ドル。約50億ドルで3機ラインはぎりぎりで満たした……といささか強引ではありますが、主張できるのでは無いでしょうか?
しかし、同時に問題があります」

地上には最初の30機も含めると60機のアイリス。それも新たに投入されたアイリスたちは明らかにそれまでのアイリスとは姿形が変わっていた。変わっていないのはカラーリングくらい。

「数を優先したせいで、このように第1世代相手に数の暴力で襲いかかっても瞬殺出来ないという点です。これではいくら安上がりな1機19億ドルでも積もり積もればオブジェクト1機が撃破されただけの損失となり、最後は勝利のコストパフォーマンスに大きな問題となるでしょう」
「そりゃそうだ。お姫様がこんなに頑張れるって事は俺たちが潰してきた機体よりも怖くないって事だ! わかったら――」

クウェンサーの大声の発言はすぐに、

「――ふふっ」

謎の痴女の冷笑でかき消された。

「それ故に、我々はアイリスにさらなる改良と多様性、そして戦術能力を目指すことにしました。カタログをご覧ください!」

その言葉とともに画面に無数の文字情報を表示される。


【アイリス・ローエンドVer.アタッカー】
【アイリス・ローエンドVer.ディフェンダー】
【アイリス・ローエンドVer.モビリティー】
【アイリス・ローエンドVer.スラッグ】
【アイリス・ハイエンドVer.インファントリィ】
【アイリス・ハイエンドVer.アーチャー】
【アイリス・ハイエンドVer.キャバリー】
【アイリス・ドラグーンVer.アウトレンジ】
【アイリス・ドラグーンVer.ミドルレンジ】
【アイリス・ドラグーンVer.クロスレンジ】
【アイリス・オーダーVer.リリアン】
【アイリス・オーダーVer.Project:I-チャイルド】
【アイリス・オーダーVer.フロイライン】
【アイリス・ウォーロードVer.クインビー】
【アイリス・ウォーロードVer.ウォーデン】


「は?」
「おまけに我々はさらなるコストカットの可能性を発見。すなわち、エリートのコストカットです」

彼女はその両腕を広げ、高らかに宣言する。

「ハイブリッド・プロセッサを活用した、デジタルクローン! これらを搭載することでエリートの搭乗そのものをオミット出来ます!
我々が提唱したいのは質のアイリスと数のアイリスによる『ハイローミックス戦略』であり、連携戦術による確実な敵オブジェクトの撃破、並びにその圧倒的な『軍勢』と呼ぶに値するアイリスたちが発揮するであろう抑止力による紛争抑制効果!」

プレゼン用に作ったであろう画像が次々と……まるでゲームのTVコマーシャルのように流れていく。
それらは次のような簡素な単語がでかいフォントでいかにも重要事項であると目に入ってきた。

『防御型アイリス』が防御し、『火力型アイリス』が攻撃、『機動型アイリス』が牽制と追撃を。
最後に『アイリス・クイーン』がアイリス達を率いてだめ押しの一撃必殺を。
最低15機のアイリスが、連携しオブジェクト50機の効力を発揮する事を願って。
エリートを乗せる必要性は無し。後方の安全な場所から基本戦術を入力し、それを基本方針として活動する
ハイブリッド・プロセッサによるエリートのデジタルクローンを活用。安全にも配慮。

「これぞ! 我が社が提唱する究極のコストパフォーマンス追求型オブジェクト!
純規格品オブジェクト、アイリスです!」
「ちょっとまって! なんでりりあんのなまえがあるの!? 最悪!」

悲鳴のような声。エリート少女の食い入るような言葉。オブジェクトは通常専用のエリートを用意されている。
逆また言える。エリートは用意された専用のオブジェクトのみを操縦できる。
双方がそう言う風に作られている。にもかかわらず彼女が知らない所で『リリアン』の名前のオブジェクトの建造が進んでいる。


「りりあんはじしゃせいさんだ! おまえたちのよくわからないものじゃない!」
「そうはいっても受注生産の話が来てるんだもの。そっちの上司に聞きなさい。幸いにもまだ製造は開始されてないから今ならキャンセル料も安くてすむわよ」
「なっ……! そんな最悪、ばかな!?」

エリート少女の顔が真っ青になる。その額には大粒の汗が噴き出し、今にも泣きそうな顔を必死で食いしばって耐えている。
彼女のワンカールした髪の毛の数本がが汗で顔に張り付いて、まさに何かあった女の子という雰囲気を醸し出し、彼女の両手は強く握られている。

「さて、ここまでは兵器としてのアイリスの話をしました。ここからは未来の我々の最終目標としてのアイリスについて」

【アイリス・ラバーVer.シティシップ】
【アイリス・ラバーVer.コロニスト】

謎の機体が表示される。想定される機体構造はもはや意味不明の領域だ。強いて言えばアレは


「UFO?」
「おお! オーソドックスなアダムスキー型を目指したかったけどさすがに効率が悪すぎてね」

アイリス・ラバーのラバーは恋人のラバー。

「結局お椀型か葉巻型が適切って事で、どっちもくっつけることにした。名称も悩んだよ。旧世紀で人気なE号、Y型戦艦でもね、E号もY型も実のところあんまり現時点の技術レベルじゃ適切な形状じゃないし、その形状をしていない以上その名前を付けるのもアレだろうって事で、わかりやすく『シティシップ』に『コロニスト』という2系統、2つの名前で通すことにしたんだ。
これでいつでも宇宙人に会いに行けるね!」

その返答に思わず、その場にいた4人全員が耳を疑った。

「……ま、まぁ、人の趣向はそれぞれでですから……。それより質問に答えて頂きたい。何故『姫様』の印字がされてる物があるのか。
確かに『殿下』は『姫様』のデジタルクローンを求めました。しかしそれはまだ完成していないという話でしたが?」
「あー……そちらが提供したサンプルだけでは足りなくてね。同じ年齢のちょうど良い個体が見つかっていないんだよ。ネズミの脳みそだけじゃ無理だから人間の脳細胞が少し必要だって言っただろ? 出来れば目的の人に限りなく近い人間が良い。
貧困層のガキどもからなんとか確保出来ないか、色々ハンティングして、調理しているからそれ待ちなんですよ」
「まて、ハンティング……? 調理?」
「当然でしょう? お金をちゃんと持っている人間ならいざ知らず、カネのない子供なら多少乱暴に扱っても問題は無いですよ。
まぁ、所詮は貧困層。臓器とかでも実はそうですが、健康で栄養運動ストレスの無い富裕層の方が結局は性能が良くて売れるんですよ。
だから、集めたガキどもを半年ほど太らせて遊ばせて、時が来たらそのための費用を回収する。むしろ慈善事業ですよ。
命までは取りませんからね。いささか知的障害は発生するようですが……それは、コラテラルダメージという奴で」
「姫様のデジタルクローンを作るのに…………同じ年頃の娘を使う……そう言う意味で間違っていませんか?」
「ええ、間違っていません。もう少しお待ちください。養殖がそろそろ終わるので。候補が3つほどいますから一番適合する個体を探す意味も込めて実際に製造してみます。完成をお楽しみください!」

晴れやかな笑顔で痴女は言い切った。



「幼い頃にさ、今思えば子供だましな物だったと思う。でも宇宙物のSFを見てさ、惚れ込んだんだよ。
色々な宇宙人にさ。あの日から私は、恋する乙女になったんだ」
「……だからこれ?」

「その通り。私にとってオブジェクトって言うのは都合がいい入れ物だ。宇宙船の!
宇宙人に会いに行く宇宙船を作り出すための都合の良い大義名分、そして都合の良い入れ物だ!」
「呆れた……。おじいちゃんだったら、それもまたロマンって言ったかもしれないけど……」
「きみのおじいさん、君に近づくなって言うんだよ。ひどくない?」

「痴女は子供の教育に悪い」
「ひどいなぁ……子供が子供の教育に悪いって言うのかい?」
「……お姉さん、自分は処女ですってよく自己紹介するけど、アレなんなの? そんな格好して」
「決まっているじゃん。地球外知的生命体と出会ったら絶対にヤりたいことがあるの。私の子宮は
宇宙人の子供を孕むためにある。だからね、そのためにもまず地球人のメスという個体がどういう感じなのか目で見てわかってもらわないと」
「……ごめん意味がよくわからない」
「あーごめんね。さて、そろそろ行くよ。あなたたちの一世一代の大勝負の前に、私は星の海に船出する」

「…………未完成って聞いてるけど?」
「うん、そうだよ。でもあなたたちの大勝負に巻き込まれたら宇宙人に会えなくなっちゃう。大丈夫。未完成だけど時間をかければ光速まで加速出来るし、一応冷凍冬眠装置も用意した。私自身のデジタルクローンだってそれなりの数用意した。
いつか私は必ず、宇宙人に出会う。この恋が終わるそのときまで、私は例えおばあちゃんになっても恋する乙女は大暴走し続ける」
「……普通の人間の男に絶対向けないエロい顔……」
「そう? あなたも真剣に恋をすればわかるわ。恋は戦争、恋する乙女は最強なんだから」


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