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『懐古主義者の創世記』第四章

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実際のところ、利害の一致だけじゃ何処かで裏切ってた気がする。
だって、ねえ。途方もなく広大で、互いに争い合って、何処までも残酷な世界を相手にドンパチ仕掛けようってんだもの、バカだよね?
じゃあなんで3年も付き合ったんだって?
ははは、知りたい?……俺もわかんねえや。
ただ……心の何処かで彼らを『家族』として見てた節はある。
俺さ、実の親父とロクに会ったことねえんだわ。
毎日毎日仕事にかかりっきりで、親父の葬儀の時に顔を眺めたのが一番顔を付き合わせた時間かも。割と真面目な話。

実家の話は長くなりそうだからここまでにしとくけど、割と『家族』とかそういうものに憧れてたのかもなあ。
マクシムの叔父貴もミコっちゃんもアダムの旦那も、全うに俺を一人の人間として見ちゃってさ。
ミコっちゃんなんかジン兄ジン兄って事あるごとにじゃれついたり噛みついてきたりで『安全国』にいる双子の妹みたいだったよ。
カネと才能だけが全ての『資本企業』、しかも元は人質だった人間にだぜ?全く笑っちゃうよな?
本当に面白かったぜ、思わず泣けてくる位にはさ。 
アダムの旦那も似たような気持ちだったんじゃねえかな。
え?なんでかって?マクシムの叔父貴が言ってたのさ。
『兄さんの子供が生きていたら丁度ジン位の年齢だっただろうな』って。
多分だけどさ、あっちも俺のことを息子のように見てた気がするんだわ。『四文字』造ってる時ちょくちょく見にきてたし、こっちの体調をやけに気にしてたりさ。
それを言ったら俺の方もアダムの旦那のこと親父のように感じてたからお互い様なんだけど。

……本音を言うならさ。

このまんま『家族』みたいな関係でいつまでもやっていきたかった。
愛を知らず、あるいは誰かに奪われて。心にぽっかりと空いた穴をゆっくりと埋めていけるんじゃないかと思った。
だけど、無理だった。
賽は既に投げられた。後は勝つか負けるかの話でしかない。
だが俺はギャンブラーじゃない、金と利益にがめつい商人だ。
だから商売人らしく───どちらに転んでも『得』になるように立ち回らせてもらおうじゃないか。



白亜の翼よ彼方へ征け>>ヒジャーズ山脈攻略戦

 『侵食弾頭』。
ごく最近に流星の如く現れ、その性能に軍部の人間すら驚愕せしめた新兵器。
ロケットランチャーの弾頭ほどの大きさでありながら、オブジェクトの強さの根幹の一つである『オニオン装甲』に通用する威力を誇るそれは、とある貴族が輸入したことから始まり、僅か一月も経たない内に『正統王国』が正規装備として採用を決定するまでに至った。
それこそ、多くの人間に疑念を抱かれてしまう程の速さで。

「そういう訳で、ウチの電子シュミレート部門に『侵食弾頭』の出所である企業を探らせてみたら予想外の答えが出てきたわ」

そう言いながらフローレイティア=カピストラーノが左手に持っていた二枚の写真の内一枚を机の上に叩きつけるように置いた。

「以前『マッハストライカー』との戦闘で過去に死亡したはずのエリート、それを外部顧問として雇っていたのよ」
「でも、それだけじゃまだ怪しいだけで何かあると決まった訳じゃ」
「雇っていた人間の方に問題がある」

もう一枚の写真が突き出される。
そこに写っていたのは切れ長の赤い目に肩まで伸びた黒髪を持つ東洋系の青年の姿だった。

「『ヤナギカゲ重工』代表取締役社長兼CEO、ジン=ヤナギカゲ。この数年で『資本企業』で頭角を現したやり手よ。『ヤナギカゲ重工』や子会社の業績を見ても不審点は全くない。けど、このジンという男がとにもかくにも厄介でね」

今度は右手で抱えていた大量の資料をどさどさっと積み上げる。
目の前で積み上がっていく白い巨塔を前に、いつバベルの塔の如く崩れ落ちて来ないか心配なジャガイモ二名をよそに華麗なる女上官は話を続ける。

「オブジェクトの設計とかいう奇特な趣味を抱えていて、おまけにそれが下手の横好きならまだしも一定の評価を得てる。今じゃ本人も金になると分かって様々なところに設計図を売りさばいてるみたい」
「まさか、これ全部オブジェクトの設計図とかじゃないですよね?」
「良い勘をしているわねヘイヴィアくん。ジン=ヤナギカゲはつい先日、オブジェクトの設計図を様々な勢力に高額で売却しているわ」
「『オーリファント』、『ルーシオル』、『グレイライノ』、『リャンロン』……設計図の他に既に建造されてる機体の資料もあるんですね」

ジン=ヤナギカゲの作るオブジェクトはどれもこれも第一世代のオブジェクトではあるが、クウェンサーの見立てでは第二世代オブジェクト相手でも十全に戦えるスペックは持ち合わせていた。
天才が作るような隔絶したものこそないが、秀才程度の才覚をジン=ヤナギカゲは持ち合わせているようだ。

「まだ何もしていないと言えばそうだけど、『ジャンクヘッド』のエリートの件といい『侵食弾頭』の件といいどうにも胡散臭い。そういう訳でジン=ヤナギカゲを探ろうと思うんだけど、肝心の社長は仕事の都合でミラノにいるそうよ」
「ミラノって、『信心組織』の勢力ど真ん中じゃねえか!?」

当然敵の勢力圏内である場所に兵隊を通して良いですかと聞かれてハイどうぞとなる訳がない。だからと言って黙って強行すればより酷い事態になるのは明白である。

「ところで話は変わるが、お前達最近休みが欲しいと騒いでいたわね」
「その切り出し方、なんか嫌な予感しかしないんですけど」
「甘いなクウェンサー。俺はここに呼び出された時点で感じてたよ」
「ここ最近の戦果を鑑みて、2日程二人に休暇を言い渡しても良いという判断に至ったわ」

ドラゴンキラーのコンビが目の前で話を聞いていないことに気付きながらもフローレイティアは言葉を続ける。
実際、二人が話を聞いていなくともこの場で休暇を言い渡したという事実があれば大丈夫なのだ。

「折角だからどこか旅行にでも行って羽を伸ばしてきたらどうかしら。例えばそう……ミラノとか」



 そんなわけでミラノである。
北緯45度東経09度、イタリア半島北部に位置する世界的都市に降り立ったドラゴンキラー組は、中世と現代の雰囲気が入り雑じる町並みの只中に突っ立っていた。

「……で、まずはどうする?」
「そうだなー、やっぱりミラノ大聖堂かスフォルツェスコ城……レオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』も見に行きてえな」
「いや、そっちじゃなくってさ。というかターゲットのことは探さないの?」
「この人だかりの中でか?見つかりっこねえだろ。電子シュミレート部門の話だと近くのホテルに泊まってるって話だが、真っ昼間から籠ってるはずもねえだろうしよ。とりあえず今は誰かに疑われないように無害な観光客のふりでもしとこうぜ」

クウェンサーは辺りを見回す。
人、人、人。足の踏み場もない……とまではいかないが数えきれない程の観光客達が呑気に歩き回っている。
少なくともこの中にジン=ヤナギカゲがいたとしても群衆の森の中に紛れて見つけ出すのは困難を極めるだろう。

「ねえーしゃちょー。きょーかいとか、えばっかり見ててつまらなくないんですかー?」
「案外面白いぜ、フェン。ブレラ絵画館なんかはルネサンス美術の流れを組む傑作が多く展示されてるしな。見てるだけでも楽しめるもんだ」

人々のざわめきの中でも一等大きく、そして甲高く響く女性の声がなければの話だが。
クウェンサー達の視線に気づかないまま、ジンはフェンと呼ばれたオレンジ色のポニーテールの女性の大声に顔を僅かにしかめながら会話を続ける。

「しっかし、風情ってものを知らねえのか?火薬火薬とうるさいのは結構だが、そういう知見を深めるのもアリだろうが」
「やーでーすー!!かいがのかんしょうだとかじっとしてるのあたしちょー苦手なんですよー?」
「……ったく、しょうがねえな。小遣いやるから好きな所行ってこい。あんまりうるさいと他に迷惑かかるから」
「うちの会社でやってるじっけんにはどーなんですかー?」
「それはそれ、これはこれだ。ほらよ」
「ひゃっほーぅ!!」

写真とは違ってアッパーにしたやや短めの髪をかき上げながら、ジンは少し厚みのある紙幣の束をフェンに押し付ける。
それを受け取った女性は小躍りしながら雑踏の中に姿を眩ませ、後には青年一人が取り残された。

(案外近くにいるもんだね、ヘイヴィア)
(こんなん予想出来るわけねぇだろがっ!!と、とりあえず尾行してどこにいるか位は掴まねえといけねえだろ)

予想だにしなかった突然の邂逅に驚きながらも、ドラゴンスレイヤーコンビはふらりと再び何処かへと歩きだしたジンの尾行を開始する。
だが人だかりで混雑した状況にも関わらずジンはその隙間を抜けるようにすいすいと進んでいく一方、クウェンサー達は縦横無尽に移動する観光客の波に阻まれてじわじわと引き離され始めた。
恐らく仕事か何かで何度かこの辺りを訪れているのだろう、標的の青年の歩き方は目的地とそこへのルートがはっきり分かっているような感じが見受けられる。

「うおおおっ!?」

とうとうヘイヴィアが人波によって大きく流された。

「ヘイヴィア!!」
「テメェはそのまま行けっ!!見逃したら終わりだぞ!!」

人混みから突き出された右手の人差し指が戻ろうとするクウェンサーを引き止める。
それも一瞬のことで、直後ヘイヴィアの右手は人波に呑まれて少年の視界から消え失せた。
後に残されたのはクウェンサーただ一人。
ジン=ヤナギカゲの姿はまだ見える範囲に確認出来る。

(落ち着け、ヘイヴィアは人混みに呑まれただけじゃないか。今はあいつを追うことが先決だ)

尾行を続けておよそ五分後、ジンが建物の中で立ち止まる。
それをクウェンサーは近くでパンフレットを立ち読みするふりをしながら監視する。
クラシックな外観の高級ホテル。
観光パンフレットには修道院などを改装したホテルが点在していると書かれていたが、恐らくこれもその一つだろう。

「お帰りなさいませ、ジン様」

古めかしい入り口の前で待機していたメイド姿の女性が恭しく会釈をし、青年にこれまた古ぼけた鍵を渡す。
『402』とナンバープレートが付属している鍵を眺めながらジンはメイドに問いかける。

「なあ、街中で落とさないようにっていう理由は分かるが面倒じゃないのか?鍵を間違える可能性だってあるのにさ」
「申し訳ありません。ですが規則ですので。鍵の間違えについてはホテルの開業以来1度も起こっておりませんのでご安心下さい」

規則ねえ、と何処か面倒そうな声で言葉を漏らして大きく伸びをしながら青年はホテルの中へと入っていく。
クウェンサーもそれを追おうと足を踏み出しかけて、思いとどまる。
高級ホテルに泊まる人間にはそれなりに身だしなみに『高級感』というものがある。先程のジンも高級そうなスーツと腕時計を纏っていた。恐らくトータルの金額では自動車一台程になるかもされない。
だがクウェンサーの服装にはそれがない。
高級感漂う空間に場違いな人間がいれば従業員など分かる人間には怪しまれるだろう。
今日このミラノではまだ後ろ暗いことはやらかしてはいないが、怪しまれてジンの耳に入るようなことになれば事だ。
ならばどうするか。
クウェンサーはホテルの裏口へ回る。

「……やるしかないか」

以前散々な目に遇ったが仕方がない。
『究極の迷彩』を纏うために、クウェンサーは従業員の通用口の扉に手を掛けた。


ギリースーツ、カウンターシェーディング、光学迷彩。
迷彩と一言に言えどもその種類は多岐に渡るが、さてここで一つ問題。
高級ホテルという『環境』で最も目立たない『迷彩』とは何か。

「お疲れ様です」

答えは明快、『従業員』の服装をすることである。
普通の格好をした人間よりも従業員の方がホテルの何処にいようと見咎められることは圧倒的に少ない。
何せ『仕事場』なのだから。
尤も、現在クウェンサーが纏っているのは───。

「ああ、ちょっとそこのメイドの……そうそう君だ。悪いけど上階の清掃を頼めるかな?」
「かしこまりました」

楚々とした行儀の良い会釈で答え、両手でスカートの裾を少しつまみお辞儀を返すメイド姿のクウェンサーを疑う者は誰もいなかった。
げに恐ろしきはクウェンサー=バーボタージュである。
偶然にも従業員の休憩室に置かれていた化粧品を利用し、男性でありながら一見ではそれと分からないほどの高度な変装を施してみせた。
かつて『安全国』で流星の如く現れた伝説の看板娘クウェン子ちゃん、一日限りの復活である。

(確か、402号室だったか)

清掃道具を満載したマイクロカーを引き、ゆっくりと通路を歩きながら部屋番号を一つずつ確認していく。
402号室は、当然と言うべきかあっさりと見つかった。

(……?扉が僅かに開いてる、閉め忘れたのか?)

扉の奥からは僅かに水が流れるような音と鼻歌らしき声が聞こえてくる。どうやらシャワールームに入っているようだ。
そっと、扉に手をかけて部屋の中を覗き込む。
誰もいない。床に何個か栄養ドリンクらしき小瓶が転がっており、奥にあるデスクの上にはパソコンが煌々とブルーライトの光で辺りを照らし上げていた。
音を立てないよう、足の踏み場に気を付けながらクウェンサーは部屋の中へと立ち入り、デスクに置かれたパソコンに近付く。

「……『Object Allmighty Plan』?」

『施工中・建造済』とでかでかと銘打たれた題名の下にずらりとオブジェクト達の図案が並んでいることに思わずクウェンサーは眼を剥き、画面を下へとスクロールさせていく。

第一号・キルキンチュ…想定スペック達成、安全性未達。
第二号・ヘッジホッグボマー…想定スペック未達。
第三号・サンジャオロン…試験中。
第四号・スティンクディール…建造中。
現状結論…『第三世代』未到達。別方向からのアプローチが必要だと考えられる。現状最も近いのは『スティングレイ』か。

「第三世代……『スティングレイ』。こいつは一体何を考えてるんだ?」
「だったら聞けばいいじゃねぇかよ。ご本人様がここにいるんだからさ」

背後からかけられた押し殺したような笑い声に振り返る。
濡れたタオルを首にかけ、全裸姿でジン=ヤナギカゲがそこに立っていた。

「……ッ!!」
「おっと銃は止めろ、流石にフルチンで死ぬのは御免被る。せめて下は履かせてくれよクウェンサー=バーボタージュ君」

スカートの中に隠していた銃を抜こうとしたクウェンサーを引き止めながらジンはのんびりとベッドの上に放り出されていたパンツとジーンズを履き始める。

「ちょっと待て、何で俺の名前を」
「こないだウチの会社にハッキング仕掛けただろ。ウチのねぼすけにかかりゃハッキング元を逆探知して情報引っこ抜くなんざ余裕だ」

ジーンズのチャックを締めて、どっかりとベッドに腰かけてからジンは抜け目ない視線をメイド姿のクウェンサーに送る。
彼の近くに武器らしきものは一切ない。
だがその眼はクウェンサーをここから逃がす気はないと口よりも雄弁に語っていた。

「殺しに来たわけじゃないんだろ?その気なら今頃俺は死体として床に転がっているはずだからな。となるとこの間取引した『商品』絡み辺りか?」

淡々と、それでいて楽しそうにジンはクウェンサーに話しかける。銃を突き付けられた状態であるにも関わらず、だ。
ジン=ヤナギカゲ。渡された情報では身一つで起業し、たった数年で『資本企業』内で頭角を現したやり手の商売人。
この程度で萎縮する人間というわけではないようだ。

「……まさか、俺達がいずれ接触してくることを分かっていてここに留まってたのか!?」
「まあ有り体に言えばそうなる。そちらがどういう意図でウチにハッキングを仕掛けたかの真意も直接聞きたかったしな」
「殺される可能性も充分あったっていうのに、正気なのか……!!」
「至って俺は正気だぜ、クウェンサー君。今まで何度も他人の命を商売にしてきたんだ、自分の命の売り時が来たってなんらおかしくない。真に商売人なら己の命すら商品にしてみせなきゃな」

主導権が奪われた、と今更ながらクウェンサーは感じた。
思えば最初の扉が開いていた所から既に『撒き餌』だったのだろう。ターゲットを引き込んで、己に有利な状況を作り上げるための。
何より当人の覚悟が決まっている。常人ならば無防備で、更に全裸姿で探りに来た相手の前に出てくるなど無理だ。
それが一歩間違えば己の死に直結しかねないなら、尚更のこと。
ジンはそれでも実行してみせた。
故にこそ、今この状況をジンは支配下におけたのだ。
牙を剥くように笑い、彼はクウェンサーの顔を真っ直ぐに見やる。

「さて、『商談』といこうじゃねえか。なに、ぼったくりはしねえよ。お互いに利益のあるWin-Winの妥協点になるまで話し合おうぜ」



 『───それで?真夜中に連絡が来たと思ったら、どうしてこんな状況になっているか教えて欲しいものね』
「いや、俺だって知らねえし想定出来ない状況なんですけど?なんだって全く、人込みに呑まれて見失ってる間に」

そう言いながら、ヘイヴィア=ウィンチェル上等兵は通信画面から背後の二人に視線を切り替える。

「次は『水中状況下におけるオブジェクト本体及び武装に発生する諸問題』についてだ。まずは水圧による砲身の圧壊、そしてそれに伴う攻撃能力の喪失について」
「オブジェクトが200から1,000メートルの中深層より下の深海で行動が不可能とされる一番の理由だ。俺個人の意見としては攻撃能力を捨てればオブジェクト本体の活動は既に可能な状態だと思う。例えばこの理論とかを上手く活用すれば……」
「良く分かってるじゃないかマイフレンド。実際にマリアナ海溝、水面下10,000m以上の極限環境でオブジェクトらしき物体の活動が確認された例がある。他にもだな……」

顔と顔とを突き合わせ、難しい用語やら理論やらをぶつけ合いながら熱く議論を繰り広げるクウェンサーとジン。

『……どういう状況なの?』
「ギーク同士、話が合ったんだと……おい社長さんよ、通信が繋がったぜ」

このままでは埒が明かないとため息を吐いてヘイヴィアがジンに呼び掛ける。

「なんだい、良いところだったのに」
『それは申し訳ないわね、なら端的に話を進めましょうか。……『侵食弾頭』、『ジャンクヘッド』、『キルキンチュ』。これらについて知っていることを吐いて頂きたい』
「本当に端的だねぇ」
『貴方に対して下手に搦め手を使うとロクなことにならないと分かったからね。そちらにとってもこの方がやりやすいでしょう?』
「全く以てその通りだ、フローレイティア=カピストラーノ少佐。尤も念のため確保していたネタがおじゃんになったのは痛いがね」

流石に逆ハッキングを仕掛けたということもあってかフローレイティアの素性も既に知っていた模様である。
僅かに表情を強張らせる女軍人に対しジンは肩をすくめながら言葉を続ける。

「この状況だ。聞かれたことに対しては素直に白状しよう。まず『侵食弾頭』だが、俺にとっては単なる商品だ。時期が時期だから怪しんだんだろうが、残念ながらハズレだよ」
「じゃあ残りの二つはどうなんだ?」
「そっちは大当たりだ。『ジャンクヘッド』と『キルキンチュ』は計画のために捨て駒になってもらった機体でな。役割はきっちり果たしてくれたよ」

計画。その言葉を聞いた全員の空気が急激に張り詰める。

『計画ね……。一体何を目的として動いているのかしら?』
「───『旧世界』への回帰。絶対たる『力』の象徴、オブジェクトの存在しない時代への逆行だよ」
「そ……そんな無茶苦茶出来る訳がねえ!!まず間違いなく四大勢力が結託して潰しにかかる、一人じゃ勝てる訳がねえって!!」
「だからこそ、『勝てる』オブジェクトを作ったのさ。四大勢力のそれに比べりゃチンケなもんだが」

だがオブジェクトの建造には金と資源がかかる。必然、オブジェクトの技術で上を行くにはそれらを多く持つ側が有利となる。
多くの傘下企業を持つとはいえ、一介の企業が世界をひっくり返すに足るオブジェクトを産み出すのは至難の業だろう。

「それでも……時間と手間と人材を費やして造り上げた。俺だけじゃない、『信心組織』、『情報同盟』、果ては『正統王国』。様々な勢力と連携したよ」
「……『ジャンクヘッド』のサイボーグエリートか」
「ああ。可哀想に『カルメン』に轢かれて死んじまったがな。他の二人も並みの立場じゃないぜ?」

そう言いながら、ジンが端末を操作して二人の女性の写真を画面越しのフローレイティアへ見せつける。

『……!!こいつらは……!!』
「流石に分かるか。『信心組織』は生物の存在出来ない極限環境を神の住まう『聖地』として崇拝する新興宗教の教祖。そして『情報同盟』は人材育成計画を始めとする複数プロジェクトに関わる少女。『資本企業』には俺。若手ホープ共が結託して作り上げたのが───この『スティングレイ』だ」 


【スティングレイ/STINGRAY】
  全長…200m
最高速度…1500km/h(戦闘時は650km)
  装甲…0.5cm厚×1500層
  用途…対オブジェクト殲滅用反物質武装搭載型戦略航空兵器
  分類…空戦特化第二世代(仮称第三世代)
 運用者…
  仕様…翼形状+プラズマ式ラムジェットエンジン+大型ローターによる高高度飛行
  主砲…物資弾頭超電磁加速射砲
  副砲…大型ガトリングレールガン×2、高出力レーザーキャノン×4、ホーミングレーザー発振器×4、44連装対オブジェクト用マイクロミサイルポット×6、対空対地機銃×50、斥力フィールド発生装置
コードネーム…スティングレイ
       (エイに酷似した形態から)
       ────正式には■■■■■■■■
メインカラーリング…白亜色


『飛行する、オブジェクト……!?』
「オブジェクトの防御力の一端を担う球状形態は一部捨てざるを得なかったが誤差の範囲内だ。それよりも利点の方が大きいしな」
「二次元だった移動領域が三次元になったことで高高度への退避、地形を無視した移動……戦闘において圧倒的な優位性を獲得したわけか」
「100点満点の回答をありがとうクウェンサー。これにより『スティングレイ』は高空から一方的な攻撃が可能となった訳だ。例えそれがどこであろうとも、な」

ジンの押し殺したような笑い声と共に、最悪の運用方法に思い至ったフローレイティアは呻くように呟いた。

『……四大勢力本国への爆撃……!!正気なの!?』
「前にも言った気がするが至って俺は正常だ。この『スティングレイ』で『旧世界』への変革を成し遂げ……」

甲高い着信音が、ジンの演説染みた言葉を打ち切る。
音源はデスクの上に広げられたパソコン。画面を見るにメールが届いたようだ。
中途で水を差されたことに僅かに眉を潜めながら青年は額を掻き、近くにいるヘイヴィアに無言で目線をやる。

「お前がやれってか!?」
「俺にやらせたらメール消されるかもしれねえだろ?頼むぜお坊ちゃん、そう難しいことじゃねえんだからさぁ。そこでデクの棒みたく突っ立ってんなら有効活用くらいさせてくれや」
「へーへー分かりましたよ……っと。……『Alea iacta est.
Do whatever you want』?なんじゃこりゃ」
「───ふ、あはははっはははははは、ハアッハハハハハハッ!!」

ヘイヴィアの読み上げた手紙の内容を聞いて、部屋中を震わせるほどの声量で以てジンはけたたましく哄笑の声を上げた。
クウェンサー達が思わず銃を突きつけるが、そんなことも意に介さない様子で男は腹を抱えて笑い転げる。
ただ一人、冷静なのは遠隔でこの状況に参加していたフローレイティアのみ。

『一体何が可笑しいのかしら、ジン=ヤナギカゲ』

彼女の問いに対して、笑みを絶やさず不敵な態度も変えぬままジンは堂々と宣告する。

「あんたらの詰みだ。『スティングレイ』は既に空の彼方だ、もう俺には何処にいるかも分からねえ」
「分からねえだと……『計画』の首謀者でオブジェクトも作っておきながら、今更そんなこと通る訳ねえだろうが!!」
「……いや、こう考えれば筋も通る。『情報同盟』と『信心組織』の協力者も、『ジャンクヘッド』のエリートも。そして『こいつ自身も駒の一つだった』ってな」

クウェンサーの言葉に一層笑みを深くするジン。
それだけで、もう彼の推理を認めたも同然であることは誰の目にも明白だった。

「『Alea iacta est.Do whatever you want』」……『賽は投げられた、お前は好きにやれ』。既にこいつと『首謀者』は切れている。俺達の疑念の目を向けさせて、『スティングレイ』の準備が整うまでの時間稼ぎとして、ジン=ヤナギカゲは利用されたんですよ」
「概ね正解だ。しかし一つだけ違うねクウェンサー。俺は利用されたんじゃねえ、時間稼ぎを引き受けたのさ」

『スティングレイ』が既に彼の手から離れたことを知って肩の荷でも下りたのか身体の力を脱いでリラックスするジン。
未だ銃口は彼に向けられているが、ここで撃たれたとしても彼は無念も抱かず死んでいくだろう。

「俺としても『スティングレイ』が実力を出せずに落ちてもらうのは非常に困る。だからこうしてお前達が疑いを持つように仕向けた訳だ」
『……一応、聞いておくわね。何故『首謀者』に『スティングレイ』を建造するような真似をしたのかしら?』

浪漫。
男は大したことでもないように言い放った。

「『資本企業』においてカネは重要だ。だが男という生物は厄介でね、『浪漫』って奴をたまに欲するのさ。
『世界の歴史をたった一機のオブジェクトが変える』なんて特級の浪漫、最高にカッコいいじゃねえか!!」




『ついさっき上層部から通達があった。『四大勢力』合同でメインターゲット、オブジェクト名『スティングレイ』を速やかに撃滅する合同作戦を展開するそうよ。大方頭上に爆弾を満載したオブジェクトが飛んでいることを知って尻に火が付いたんでしょうね』

数時間後。
草木も眠る丑三つ時、ドラゴンスレイヤー組が誰にも悟られぬようひっそりと捕らえたジン=ヤナギカゲを車に押し込んでいる中、面倒そうな声でフローレイティアはため息交じりにジャガイモ二名に告げた。

『『信心組織』の内通者ブリジット=ペンテコスタル、『情報同盟』の内通者ユリーカ=ディープシーは既に確保。両者から取れた自白もジンの証言と一致している』
「だから言ったじゃねえかよ、聞かれたことには素直に白状するって。実際嘘じゃなかったろ?」
『言ってくれる。こちらが聞かなければ話さなかっただろう?』
「そりゃ全て話すとは言ってないからな」

車の中に抵抗されないよう拘束され、押し込められている状態でも相変わらずのらりくらりとした答弁を崩さないジンに思わず舌打ちしてから、麗しの女上官は再び状況説明に戻る。

『当初はジン=ヤナギカゲと『ジャンクヘッド』のエリートも含めた少人数での計画だと思われてたけど、実際はもっと大規模な組織的な計画だった。確保した者達の情報が確かだとするなら、今回の騒動の犯人の名は……『ジェネシス』』
「創世記、か。ずいぶんと御大層な名前だな」
「俺もそう思う」
「テメェは引っ込んでろ!!」
『ジン=ヤナギカゲが語っていた『旧世界』への回帰、戦場からのオブジェクトの駆逐という目的は本来『ジェネシス』が標榜していたようね。普段は戦災孤児の保護や生活補助の活動をしていたらしいけど、組織内部のことは全く不明よ』

ともあれ、とフローレイティアは話を区切り、画面越しにジンを睨み付けながらクウェンサー達に命令する。

『ジン=ヤナギカゲにはまだ聞きたいことは山程あるから、ウチのベースゾーンまで連行してきて頂戴。絶対に逃がすなよ』
「「い、イエスマム」」

最後の声音にかなりの怨念が籠っていることに気付き背筋が凍る二人。散々ジンによってペースを握られ、神経に障る言動をされ続けたのだから当然と言えば当然なのだが。

「さて、行こうかマイフレンド」
「なんでそんな乗り気なんだよ……というかなんでマイフレンド呼び?」
「お前は気付いちゃいないだろうが、俺に多大な知見と新たな発想を与えてくれた。同じ存在を好きになった者同士、仲良くしようや」
「おいクウェンサー、こいつすげー馴れ馴れしいな」

メアド交換しない?と後部座席から突き出されるジンの携帯端末を頬に押し付けられながら、金髪の少年は苦虫を噛み潰した表情でヘイヴィアの言葉に無言で首肯を返す。
とにもかくにも自分達がやるべきことはこの男をベースゾーンまで連れていくことだ。
任務のことに頭を切り替え、車を運転しようとキーを差し込んだ瞬間。
ほんの僅か、1秒にも満たない時間。地面が明らかに縦に揺れた。

「な、なんだっ!?地震か!?」
「そう騒ぐなよお坊ちゃん。今のはそうデカい揺れじゃねえ、精々マグニチュード2か3位だ」
「ずいぶん落ち着いてるな」
「そりゃ俺の生まれは地震と台風と噴火が起きる『島国』だからな。この程度の揺れじゃ誰もヒィヒィ言わなかったぜ」

なにそれ『島国』怖い。
クウェンサー達が言葉に出さず戦慄するなか、ふと怪訝そうな顔をしてジンは呟いた。

「……けどおかしいよな。地震の揺れにしちゃ時間が短すぎる。それにさっきの揺れ方……横じゃなく縦だった。直下型地震ならマグニチュード7位はあって良いはずなんだが」
「まっ、マグニチュード7?さっきの倍位のデカい揺れが来るのかっ!?」
「ヘイヴィア、ちょっと落ち着こうよ。確かマグニチュードって1大きくなる度に32倍のエネルギーになるっていうから、えーと」
「大体100万倍だな」
「ひゃ、100万倍だあ!?」
「つってもそんなデカい地震そうそう来ねえよ。『島国』だと50年に一度そういうのが来たらしいが」

『島国』超怖い。
ジンの故郷の魔境具合にクウェンサー達が震え上がる。
その時、ジンの端末が音楽を鳴らし、電話の着信を知らせる。
画面に映された名前には『ツバキ』の三文字。

「ツバキか。珍しいな、こんな夜中に電話してくるなんて」
「誰だよツバキって……」
「俺の妹。母親違うけど」
「は???」

さらっと家庭の闇をバラしつつジンが通話ボタンを押す。

『ジン兄!?ジン兄起きてる!?』
「はーいジン兄起きてまーす。どうしたツバキ、明日学校のはずだろ?」
『ツバキ繋がった!?ジン兄生きてる!?』
「なんだよカスミ、お前まで起きてるなんて。お前ら徹夜は美容に悪いって言ってたじゃねえか」
『良かった、生きてる……じゃないんだってば!?ジン兄今どこにいるの!?イタリア半島行くって行ってたけどまさか『アルゲーノ』じゃないよね!?』
「いやミラノだけど?なんで『アルゲーノ』?……なんかあったのか?」

はああ、という安堵と呆れが混じった全身の力が抜けたようなため息。

『ジン兄、テレビ見てないの?……安全国『アルゲーノ』の首都が爆撃されたんだよ!!』
『首相官邸を狙った爆撃らしくて、街はもう滅茶苦茶なんだって!!ひょっとしたら核じゃないかって皆大騒ぎなんだよ!?』
「……はあ!?」

ジンが初めて、クウェンサー達の前で余裕を崩す。
それは同時に、この状況が完全な予想外であることを悟らせるには十分な反応であった。

『……あっ、速報来た!!『爆心地付近に放射線反応なし』だって!!核じゃなくて良かったぁ……』
「放射線、反応、なし……ね……」
『でもでもジン兄、絶対近くにいるのマズいって。すぐにでも避難した方が良いんじゃない?』
「……あ、ああ。そうだな。ツバキ、カスミ。明日は学校休んで家にいろ。尤もこの騒ぎじゃ休校になりそうだが」
『うん、分かった。ジン兄も気をつけて。お休み』

お休み、と言い残して通話を切ってから、ジンは頭を抱えて後部座席にもたれ掛かる。

「マジかよあの野郎……オブジェクトじゃなくて市民相手に使いやがった……」
「おい、一体何がどうしたんだよ!?テメェ何か知ってるなら吐きやがれ!!」
「落ち着こうヘイヴィア。なあジン、ショックは分かるが隠してることを話してくれないか」

妹達から告げられたことにかなりショックを受けたらしく、暫しの間ジンは口を噤んだまま黙りこくっていたが、やがてゆっくりと重い口を開いた。

「……『スティングレイ』の主砲は、実弾頭超電磁加速射砲だ。金属製の砲弾をレールガンの要領で射出する単純な理屈の武装。だからこそ、弾頭を自在に変更出来るという利点がある」
「お前が何か細工をしたのか?」
「俺じゃない。『ジェネシス』がその弾頭にとんでもねえモノ詰めやがった」

反物質。
その言葉に、クウェンサーの脳内は真っ白になった。

「……聞き間違えじゃないよな?」
「反物質弾頭だよ。……クソが、向けるならオブジェクトだけにしろって俺は散々警告したのに撃ちやがった!!」
「なあ、反物質ってのはなんなんだよ?」
「物質と反応して、質量を莫大なエネルギーとして放出して消滅する……平たく言えば爆弾や燃料にするには最高の存在だ」

反物質。
通常の物質と衝突すると対消滅を起こし、質量をエネルギーとして放出する物質。
自然界にはほぼ存在せず、そのため人工的に作られるのが殆どである。

「反応した時の威力はとにかく馬鹿げてる。戦術核2~3発分に匹敵するとさえ言われてるくらいだ」
「なんだよ、高々戦術核2~3発分ならオブジェクトはびくともしねえじゃねえか」
「馬鹿。それはほんの1gの反物質で発生するエネルギー量に過ぎねえよ。……『ジェネシス』はその数倍の量の反物質弾頭を積んでやがる」

反物質弾頭を満載した『スティングレイ』が空を飛んでいる。
それが意味するところはとどのつまり……。

「その気になれば、『ジェネシス』は世界を直ぐにでも滅ぼせるはずだ」
「本当に詰みじゃねえか!?もう俺達がどうこう出来る話のスケールじゃねえだろうが!!」
「……いや、まだどうにかなる」

ジンが呟く。そこには先程までの悠然とした態度もニヤついた笑みもなく、年相応の雰囲気を纏う青年の姿があった。

「少なくとも……どうにかなるかもしれない場所を俺は知っている。敵で、裏切り者で、信用出来ないとは思うが、一度だけ聞いてくれ」

同時刻


情報同盟領、某『安全国』付近のベースゾーン。
その一室にあるシャワールームで、一人の女性が端末越しに何者かと会話を続けていた。

『……はんぶっしつ?』
『そうですわ。くだんの『ひこうオブジェクト』とやらによる『安全国』のばくげき、どうにもはんぶっしつが使われてるようでして』
『ほうどうでは、すでに3つふきとばされたときいたが』
『じっさいにはすでに7つですわね、おほほ。さいわいというべきかダメージはしゅとのみをはかいしたていど。たてなおしじたいはよういですけど、もんだいはその『反物質弾頭』のでどころですわ』

僅かに、会話が途切れる。

『……ノービス=オシファイアか』
『ええ。まえにウチで『新エネルギーの開発』をしていたけんきゅうしゃ。そのけんきゅうのほうこうがきけんなほうにむかったことであなたが『始末』したはずですわね?』
『ああ。かれがもっていたしりょうは全てしょりしたはずだ』
『それがどうにも、ノービスはほかのにんげんにたくしていたようでして。くだんの『ジェネシス』がらみですわ』
『……』
『よんだいせいりょくをてきに回したいじょう、『ジェネシス』は近いうちにつぶれますわ。ただ、そのあとの『交渉』でおくれを取るようなことはさけたいと上はかんがえているようですわね』
『しごとか』
『オブジェクト名『スティングレイ』のごうどうとうばつせん。あなたにも加わっていただきますわ。『情報同盟』と『反物質弾頭』のつながりをけすために』

年下の少女の鈴のような声を聞きながら、キョウカはシャワーを浴びて濡れていた黒髪をヘアゴムで纏め上げる。

『りょうかいした。こちらとしてもしごとのやりのこしだ、全力でにんむに当たらせてもらう』
『たのみましたわよ、キョウカ=トージョー。おほほ』

───同時刻、信心組織領。

「だからさ、だんな。オレは『うんめいのであい』ってやつをもとめてるんだよ」
「それで、またえんだんをことわったのか。これでなんどめだ、フレイ」
「さてね。20かいめか30かいめか、はたまたそれいじょうか。かのじょたちにはわるいとは思うが、『うんめい』じゃなかったんでね。なに、そのうちオレよりもいいオトコに会えるだろうさ」
「その前に『死のうんめい』がおとずれなければいいが」
「オレとしてもそれはごめんだね。行こうかマフティのだんな、いつも通りにやろうや」

───同刻、資本企業領。

『なんともまあ、はずかしいことだな。カネかせぎにむちゅうでだれもかれもみうちのあんやくに気付けないとは』
『しかたあるまいよ。ジン=ヤナギカゲ……『狐』とよばれるあのおとこが本気でいんぺいにかかればこの位ぞうさもなかろうて』
『かれのほゆうオブジェクト、いま『大陸』やら旧コンゴの『森林地区』とかのちいきにおくられてて、ヘタにうごかしたらせんそうまったなしなんですけど……ぜったいねらってやってますってこれ』
『ともあれ、今回のことでそうおうのツケは払わされるだろう。かいしゃのそんぞくはかのうだろうがしばらくはおもて立ったかつどうはむりだろうな』
『では、みうちの尻ぬぐいに行くとするかのう……』
『のるのはすうねんぶりときくが』
『足手まといにはならぬよ。まあにくのたてが増えたと思ってくれればそれでかまわん』
『はあ……またあのオンボロにのらなきゃならないのかぁ……』

───正統王国領。

『やれやれ、こんなばあさんまでかりだすとはよほどのじたいのようねえ』
『なあに、きんにくさえきたえてりゃもんだいないさ』
『それはあんただけよ、スティーブン。ところでタチアナのおじょうちゃんはどこにいったんだい?』
『どこかであそびほうけてるよ。いつものことだ』
『ざんねん、きょうはちゃんときてますよーだ』
『あらめずらしい、あしたはなまりだまでもふるのかしら』
『それはいつものことだろうよ、メイファのばあさん』
『ひどーい、アタシのことなんだと思ってるんですかぁ』
『そりゃあ、ねえ?』
『いつものようすを見てりゃそういうことばだって出るだろうよ』

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