戸田奈津子

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戸田奈津子 - (2021/11/14 (日) 04:57:37) の編集履歴(バックアップ)


登録日:2010/06/05(土) 10:45:54
更新日:2024/05/05 Sun 01:47:03
所要時間:約 6 分で読めます




概要

ファンからの愛称はなっち。1936年7月3日生まれ、東京都出身。津田塾大学学芸学部英文学科卒業。

日本で最も有名な女性翻訳家であり、映画字幕翻訳の先駆けとなった一人。翻訳業界の重鎮。
戦前から字幕翻訳を務めた清水俊二の弟子。
その多大な実績から大作ハリウッド映画の翻訳は彼女に任されることが多い。
最近では超翻訳版という新たな試みにも挑戦している。

しかし
  • 若い役のセリフでも「せにゃ」などの年寄り口調を使う
  • 「ファック野郎」のような不自然な単語
  • 体言止めを多用する
等の戸田語と呼ばれる癖の強い文章は人を選ぶ。

それに加えて
  • 誤訳が多いこと
  • 作品の設定や独特な固有名詞を無視した翻訳も多いこと
  • 原語の慣用句やことわざを無視して無難な表現に変えてしまう。または直訳して逆に意味が通じなくなる
  • 強烈な罵倒や差別語を無難な言葉に変えてしまう(これは彼女の責任だけでなく時勢の都合もあるかもしれないが)
  • それらを指摘されても自分こそが正しいと言い張る姿勢
という欠点もある。

二番目の問題点の影響で世界観が壊れて没入感が霧散し易いことから、特にSF界隈では倦厭される傾向にある。
当wikiで例えるなら、ガンダムシリーズの「ニュータイプ」という単語を「超能力者」などと訳してしまうようなものである。
ハートマン軍曹で有名な「フルメタル・ジャケット」の訳も最初は彼女の担当だったが、
彼女の訳の再英訳を見たキューブリックに「汚さが出ていない」と交代させられたとか。


誤訳ばかりと思われがちだが、その一方で名訳も多い。

  • 『ターミネーター』
「Hasta la vista, baby」→「地獄で会おうぜ、ベイビー」

  • 『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』
「I have the high ground!」→「地の利を得たぞ!」

などは、格好良さでもネタ的な意味でも広く知られている。

「仕事は選ばず、回ってきた仕事は大小問わず全て引き受ける」というスタイルを貫いているため、
作品の規模や知名度に関わらずバンバン仕事をこなしていく姿勢については、翻訳者自体が人数の少ない専門職であるため評価すべき点である。
加えて1970年から半世紀近く精力的に活躍し続け、翻訳した作品は映画.comに登録されているだけで)688本。
翻訳者、通訳者として80歳を超えて尚現役である。



有名な誤訳

映画タイトル

×戸田訳
○正訳
解説

オペラ座の怪人

×情熱のプレイ
○受難劇
原語はpassion-play。これは成句で、全てで「(キリストの)受難劇」という単語を意味するが、passion playとハイフンを無視して訳してしまった凡ミス。
でもクリスティーヌの情熱のプレイはちょっと見たいかも


パイレーツ・オブ・カリビアン

×大尉から准将
○大佐から代将(准将)
原語はそれぞれ「Captain」と「Commodore」。
より正確には「勅任艦長から戦隊司令」(この時代ではCommodoreは役職名であって階級では無い)。

他の映画訳でも「中佐」(LieutenantColonel)の呼びかけ「Colonel」を直訳して大佐とするなど、軍の階級が訳しきれないようだ。
また『地獄の黙示録』では50口径と50ミリを誤訳する*1など、軍事系には誤訳が目立つ。
生まれた年から分かる通り彼女は幼少時に第二次世界大戦を体験しており、だからこそ軍事系といったものには嫌悪感を抱いてるかもしれない。
…が、翻訳仕事に私情を持ち込んでいい理由にはならない。映画は架空の物語で、実際の戦争とはまた別なのだから。


ロード・オブ・ザ・リング

×韋駄天
○馳夫
原語は「Strider」
原義は「大股で歩く者(アメンボ)」。原作世界に存在しない仏教の神様の名前を出してしまったことで世界観が崩れた。*2

×わしは生命の創造主、秘密(アノル)の炎に仕える者だ!
○わしは神秘の炎に仕える者、アノールの焔の使い手じゃ!
原語は「a servantof the Secret Fire, wielder of the flame of Anor!」
原語にはない「生命の創造主」をつけ足し、さらにSecret Fireとflame of Anorを混同している。
もちろんこの翻訳は原作の設定と異なっている。アノールの焔は太陽のことであり、原作の中で強いて「生命の創造主」にあたる存在を探すと創造神イルーヴァタールになる。この作品において、新たな生命の創造は神にのみ可能な御業である。
原文に無い単語を付け足すという、戸田奈津子の誤訳の中でも特に凄まじいものである上、文章としても「わし=生命の創造主」という誤解を招きかねない悪文である。
他にも『ロード・オブ・ザ・リング』ではボロミア関連で誤訳が目立ち、高潔で責任感の強い人物であったが故に、祖国と民を守れる力を欲して指輪の魔力に囚われてしまった彼が、指輪目当てに裏切った悪人と受け取られかねない事態になっている。
このあたりに関しては、激しい抗議運動の結果、上記も含めてDVDであらかた修正された。

リング

×66回の流産
○66年の流産
訳してる途中で気づきそうなものだが……
66回ってビッチ通り越して妖怪だよ…

レッドドラゴン

×バッキングハム
○バッキンガム宮殿
原語はBuckingham。

タイタニック

×SOS
○CQD
タイタニック号が氷山に衝突した当初、タイタニック号は旧遭難信号CQDを発信した(史実・映画共に途中からSOSに切り替えた)。
監督はリアリティを考慮してわざわざ古い遭難信号を使ったのだが、それをSOSと訳してしまった。*3

アポロ13

×入れろ(open)⇔切れ(close)
○切れ⇔入れろ
電気回路の勘違い。
電気回路は回路の一部をスイッチとしてわざと「開放(open)」、つまり繋がっていない状態にしてあり、
これを「閉じる(close)」と回路が完成して電気が流れ、機器が作動する。

ミッションインポッシブル ゴースト・プロトコル

×冥王星は太陽系じゃない
○冥王星は惑星じゃない
コードネームとして惑星の名前を使用した際に冥王星を割り振られた人物が言った時事ネタなのだが、全く意味不明な会話になってしまった。
円盤では修正されている。

ハリー・ポッターと秘密の部屋

×マグルの母
○穢れた血の母
マグル(非魔法族)を「穢れた血」と呼んで侮辱するシーンだが、毒気が完全に消えた。
主人公達が不当な差別に対して憤る場面でこうした変更をしているので、主人公達の方が突如怒り出す頭のおかしい人寸前となってしまっている。
侮辱語や差別語、スラングがなくなるのは戸田訳ではよくあること。
汚い言葉を嫌悪するのは人間としては正しいかもしれないが翻訳家としては間違いである。

スターウォーズエピソードI

×バトルシップ艦隊
○戦艦隊
スターウォーズおなじみの、冒頭のあらすじでいきなり飛び出てくる珍訳。BattleShipをカタカナにしただけである。
これに限らず、訳すべき部分で不必要なカタカナ語を使うことが多く、手抜きと受け取られかねない仕事も多い。
でも遠い未来を描いた作品で「戦艦」と言った聞き覚えのある言葉を使うよりかは横文字でスタイリッシュに決めたほうが世界観に没入できるという意見もある。そこまで考えてるかはともかく。

×ボランティア軍
○義勇軍
原語はA Volunteer。
上記では横文字の方が…と言ったが、さすがにこれでは情けなさが目立つ。ボランティアという言葉が一般的なのも敗因。
敵と戦う兵士がボランティアでは不安もあるだろう。自分の意志かつ見返りを求めずに来た…という意味では義勇軍と変わらないが、言葉によって受ける印象が変わるのは言語の常である。
他にも「ローカルの星人(正しくは原住民)」「ジャバ・ザ・ハット族」など、EP1では誤訳が多い。

ギャラクシー・クエスト

×ネビュラ星雲
○クラードゥ星雲
原語klaatu nebula。「星雲」を表すのはnebulaのほうであってklaatuは固有名詞(星雲の名前)。
つまり、戸田の訳だと「星雲星雲」となってしまう。

ハンティング・パーティ

×キリル語
○キリル文字
架空の言語を作ってしまう。

13デイズ

×2ヶ月
○2週間
タイトル通りほぼ2週間、それをテーマにしているのに2ヶ月と勘違いしてしまう。
というか2 weeksを2ヶ月と訳すのは中学生でもやらんぞ。

トップガン

×脱出装置
○カタパルト
空母の「カタパルト(catapult)」は脱出装置ではない(艦載機を離艦させるための装置)。
これも軍事ネタの翻訳ミス。

アマデウス

×デスマスク
○レクイエム
原語はdeath mass。
この誤訳によって「まずデスマスク(遺体から型をとって作るマスク)を手に入れてから、彼を殺す」という矛盾したセリフが出来上がった。
映像ソフト版では字幕担当が松浦美奈女史に変更、この部分は訂正されている。

ゴスフォード・パーク

×鳥ではなくウサギを
○鳥ではなくチーズトーストを
ウサギ(Rabbit)ではなくウェルシュ・レアビット(Welsh Rarebit)*4
ウェルシュ・レアビットはチーズトーストの一種。
なお、この台詞はベジタリアンに食事を出すシーンなので、ウサギを出すわけがない。

ダイ・ハード ラスト・デイ

×親は子の為に尽くす
○イピカイェー・マザーファッカー
主人公、ジョン・マクレーンの決め台詞。これも凄まじい誤訳の一つである。
元の表現が日本人に馴染がないものだが、「イピカイェー」とはウルドゥ語が元とされるカウボーイのロデオ時の口癖で、「これでも喰らえ!」等、相手を挑発する意図を込めた多義語。
つまり、「イピカイェー・マザーファッカー」とは
「ヒャッハー!ざまぁ無ぇな!クソッタレ!!」
とでも言った意味の勝鬨のような、アウトロー気質のあるはみ出し者刑事らしさが滲み出たキャラの特徴を表す台詞である。
戸田訳恒例、汚い言葉を洗浄する流儀に則った結果として意味のかけ離れた一言と化してしまった。
これではマクレーンが敬虔なクリスチャンか何かになってしまう。


ヤング・ブラッド

×我らは銃士、結束は固い
○一人は皆のために、皆は一人のために
「“One for all, all for one”」の意訳だが実はこれ元ネタが存在しており、「三銃士」作中の名セリフである。
つまりこの映画が放映される前からも決まった台詞と翻訳が存在するのにあえてそれを無視してしまった例。
しかし結束が固いその理由は単に「銃士」だからだという単純な台詞は普通にかっこよく、元ネタを知らなければ名訳かもしれない。






追記・修正せにゃ

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