登録日:2014/12/20(土) 19:40:04
更新日:2023/12/23 Sat 17:46:53
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それいけアンパンマン
茶色のマントをひるがえし
世界の果てまでとんでいけ
今や知らない人はいない、あんこがいっぱい詰まった優しいヒーロー『
アンパンマン』。
原作の絵本を飛び越え、
テレビアニメや映画など様々なジャンルで活躍を続ける彼だが、その歴史は非常に古く、現在の彼が登場した初めての作品「あんぱんまん」が世に送り出されたのは1973年の事である。
しかし、『アンパンマン』と言う名前のヒーローが登場したのはこれよりも前に掲載された短編童話に遡る。後に「十二の真珠」と言う作品集に収録される作品なのだが、そこにいるアンパンマンは皆様が良く知るリンゴ色の頬や鼻、アンパンの頭を持つ笑顔のヒーローではない。こげ茶色のマントをつけた、ただの太ったおっさんなのだ。
この項目では、そんな格好悪いヒーロー、『初代アンパンマン』について紹介していく。
◇概要
漫画家として活動を続けていたやなせたかし氏が初めて本格的に手がけた童話は、1967年に月刊雑誌『PHP』に掲載された「
やさしいライオン」と言う作品である。一頭の孤児のライオンと親代わりの犬の切なくも優しい物語は非常に高い評価を浴び、アニメーション作品として劇場版も製作された。
この人気を受け、やなせ氏は1年の間雑誌内で短編童話の連載を行う事となった。「ジャンボとバルー」「チリンの鈴」「バラの花とジョー」など、後の童話作家・やなせたかしの原点となった作品の数々が生み出されていく中、1969年10月号のPHPにて『
アンパンマン』と言う名を持つヒーローが初めて登場したのである。その後、1970年に山梨シルクセンター
(後のサンリオ)からこれらの短編を集めた童話集「十二の真珠」が発売され、近年も復刻版が出版されている。
『本当の正義は、ひもじい人に食べ物をあげる事である』と言う根幹は現在のアンパンマンと同じだが、この作品では『本当の正義は格好良いものではないし、そのために自分も深く傷ついていく』と言う側面も色濃く表現されている。
なお、「アンパンマン」と言う名前が始めて登場したのはこれより前、やなせ氏が出演していたラジオ番組のコント内らしい。
◇登場人物
○アンパンマン
茶色のマントにこげ茶色の衣装を纏ったヒーロー……なのだが誰も知らず、アニメにも漫画にも登場していない(1960年代当時)。
見た目は全然格好良くなく、汚らしい服装は勿論、外見も団子鼻に丸顔、出っ張った腹とぶっちゃけただの太ったおっさん。
一応ヒーローらしく空は飛べるのだがヨタヨタしたもので、煙突にぶつかりそうになったり物干し竿の下を何とか潜り抜けたりと非常に情けない。
悪者と戦うような事もせず、愛と勇気だけを胸に、ひもじい人にアンパンを渡していく。
○子供
町に住むごく普通の子供。
見知らぬヒーロー『アンパンマン』を見て最初は目を輝かせるが、その格好悪さを見て幻滅してしまった。
「かっこわりぃ!あんなの駄目だなぁ」
アンパンよりもソフトクリームやキャンデーのほうが大好き。
●スーパーマン、バットマン、吸血鬼など
世界の名だたる漫画やコミックのヒーローたち。
格好悪くてダサくて冴えないアンパンマンを全員揃って敵視しており、名前ですら呼ばず「ニセモノ」と言っては蔑んでいる。
「あんな薄汚い奴のために我々まで文句を言われる」
「ニセモノ落っこちろ!」
↓以下、結末のネタバレが含まれています。閲覧の際にはご注意下さい。↓
◇物語の結末
戦争が続き、何もかもが荒地と化した国。そこに、今にも死にそうな顔をした子供たちがいた。この国にはもう食べるものが何も残されていなかったのだ。
もうこれで最後か。そう思った時、空の向こうから何かが飛んできた。その影は子供たちに近づくと、焼きたてのアンパンを彼らに渡したのである。
そう、アンパンマンがやってきたのだ!
「しっかりするんだ、死んじゃいけない!
私は何度でもアンパンを運んでくるぞ」
そう言って子供たちを励ました直後だった。轟音と共に、アンパンマンの胸から白い煙が上がったのは。
彼を飛行機と間違えた高射砲陣地が、火を噴いたのだ。
そう、初代アンパンマンの物語は、人間に撃墜されると言うあまりにも悲惨な形で終わってしまったのである――。
――果たして彼はどうなったのか。それは誰にも分からない。
だが、アンパンマンは決して死ぬ事は無いだろう。お腹を空かせて泣いている子供たちがいる限り、『正義の味方』アンパンマンはどこへだって飛んでいくのだから。
もしかしたら、今もどこかで……。
格好悪くてもダサくてもアンパンマンを応援してくれる人がいたら、追記・修正お願いします。
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