ある日のこと、あるオブジェクトについて、日本支部における更なる実験が命令された。
そのオブジェクトとは…SCP-V1L3-J。
見慣れない番号や末尾がJの時点でお察しの方も多いだろうが、ジョークオブジェクトである。
一体どういう代物かざっくり言うと
「回すと、
SCPオブジェクトもしくは一部著名な財団職員や財団施設同士によるカップリング小説(R-18)を吐き出すスロットマシーン」【
ワンダーテインメント博士製】
…うん、言いたいことは色々あるだろうがひとまず言葉を呑みこんでほしい。
実際に排出された小説の内容は総じて(色々な意味で)ひどく、そんなものが職員の目に触れては業務に支障が出かねないというか単に目の毒なので、倫理委員会は自主的な記憶処理が可能なレベル4以上のクリアランスの職員に限り、当オブジェクトの実験を可能とする通達を出している。
それで日本支部もこの
未知の悪意によって作られた恐るべき機械を回してみたところ、スロットは
SCP-036-JPとSCP-1045-JP(本オブジェクト)を示した柄で止まり、例に漏れず紙束を吐き出した。
以下は排出された文章冒頭の内容である。
技術準備室には夕日が差し込んでいた。何かが溶けるようなジュゥという音と、サリサリという摩擦音が交互に聞こえてくる。
ふと、そのリズミカルなルーティンが途切れた。技術準備室にいた男は、椅子を回転させて振り返る。
「待っていましたよ、田中先生。」
その言葉に、彼女の細い体はびくりと震えたようだった。
「もう少ししたら迎えに行こうと思ってたんですが、貴方から来てくれるなんて。(1)嬉しいな。」
(1) ─ギメッセプ先生、貴方が来いって言ったんじゃないですか…!
技術準備室を始めとした諸々の描写から、ギメッセプ先生とはSCP-036-JP-11のことらしい。
男は錆びた金属を思わせる深く低い声(1)でからかうように笑いながら、細いテンプルに蛇のようにしっとりと指を這わせた。笑顔の下にある獰猛な獣の欲望(2)に、昨夜は滑らかに開閉したヒンジ(3)が、強張ったように引っかかる。
(2) ─学校現場において不適切な感情です、削除してください。
(3) ─私、そんないやらしくありません。削除してください。
(1) ─その声に私、昨日も騙されて…
昨日は何されたんだよ。
「緊張しているのかい?」
曇ったレンズに彼女の肯定を読み取ると、男は安心させるように口を寄せて囁く。(4)
(4) ─近すぎます。生徒に見られたらどうするんですか。
ギメッセプ先生のアプローチが本格的になっていく。
最初こそ抵抗の意志を見せる田中先生だったが…
「大丈夫。今日はヌンパ災の準備があるから、生徒達もここには来ないさ。」
溶解部の生徒達も県大会で全滅(2)したから、新学期まで活動は休みだ…そう呟きながら、男ははんだごてを脇に置き、ポケットからメガネ拭きを取り出した。
(2) ─おめでとうございます。
オカルトな言葉には疎い先生にしては珍しく、ヌンパ災への理解は示しているようだ。
「田中先生は、こんな風にされるのが好き(5)なんだよね?」
(5) ─個人情報ですので削除して頂けると助かります。
否定せず、個人情報としているあたり、つまりそういうことである。
男は技術教員らしい繊細な手つきで、彼女のささやかに膨らんだ2枚のレンズ(6)を優しく拭いていく。自分で拭くのとは違う、熱を帯びた男の拭浄に、くすんでいた彼女の体は艶やかに湿った黒色(7)に輝いていく。頑なに閉じられていたヒンジはゆるみ(8)、無意識にその滑らかなブリッジ(9)と、テンプルの裏側に秘められた恥ずかしい製造番号(10)を露わにしていた。
(6) ─不適切です、削除してください。
(7) ─同様に、削除してください。
(8) ─削除してください。
(9) ─削除を。
(10) ─さ、削除
ギメッセプ先生(とSCP-SCP-V1L3-Jによる官能的な描写)の攻めを前に、自らの姿勢を崩すまいとするものの徐々にたじろいでしまう田中先生。
そして…
男は彼女の製造番号を優しくなぞりながら、そっと囁く。
「君(11)を、はんだづけしたい。」
(11) ─としこって呼んで。
落ちたな(確信)
なお実験の担当であった遠藤主任研究員によると、以降100ページ以上に渡ってギメッセプ先生の執拗な眼鏡クリーニングが行われるが、ついに性的行為には至らなかったとのこと。