ヘカテー(ギリシャ神話)

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#center(){&font(#f1c232,b){&sizex(5){この御方に　クロノスの御子ゼウスは&br()&br()他の者たちに抜きんでた栄誉を与えられた&br()&br()&br()&br()ポセイドンが獲物を授けようとも&br()&br()ヘルメスが家畜を与えようとも&br()&br()&br()&br()彼女はそれに勝るものをたやすくさずけたり&br()&br()それらを造作も無く奪われたりもなさるのだ&br()&br()&br()&br()&br()その気ひとつで　気まぐれに&br()&br()お気の向くままに ―　}}}
 
  



#right(){&bold(){― ヘシオドス「神統記」　ヘカテ&ruby(しょう){頌}より抜粋}}






&bold(){ヘカテー(Hecate)((ヘカテー：ギリシャ語　Hekátē　古代ギリシャ語：Ἑκάτη))とはギリシャ神話に登場する女神である。}
冥府神であり月の女神、そして魔女たちの長としても有名。
しかし実際はギリシャ神話成立よりもさらに古くから存在し、現代にいたるまで独自に信仰を集め続けてきた類まれな女神。


*【概要】
ヘカテーは[[ギリシャ神話]]の女神として広く知られている。
オリュンポス十二神ではないものの、後述するようにかなり優遇されている女神でもある。
[[魔術>魔法]]とその行使者、そして産婆の守護者であり、[[月>月(天体)]]と[[闇>闇属性／暗黒属性]]・[[幽霊]]・豊穣・罪の&ruby(あがな){贖}いと浄め・出産を司る。

名前は日本語では「&bold(){ヘカーテ}」や「&bold(){ヘカーティ}」とも表現されるが、原文の発音に近い「&bold(){ヘカテー}」がメジャーである。
名前の由来は諸説あり、[[アポロン>アポロン(ギリシャ神話)]]の別名&bold(){ヘカトス}（Hecatos　遠くからはたらきかけるもの）の女性形とも
古代ギリシャ語で意思を意味する言葉、さらにはエジプト神話のカエルの姿をした女神&bold(){ヘケト（Hecete）}とも
言われているがどれが本当の由来かは未だに不明である。

多くの別名を持つことで知られており、「&bold(){[[ラミア>ラミア(ギリシャ神話)]]の母}」「&bold(){霊の先導者}」「&bold(){女魔術師の守護者}」「&bold(){死者たちの王女}」「&bold(){無敵の女王}」「&bold(){&ruby(ソテイラ){女救世主}}」、
カトリックからは「&bold(){冥界の女王}」「&bold(){[[魔女]]たちの女王}」「&bold(){[[地獄>冥府／地獄]]の雌犬}」という数々の厨二病じみたあだ名を進呈されている。
象徴は[[ナイフ>ナイフ(武器)]]（助産術の象徴）、[[犬]]、[[牝馬>馬]]、蛇（[[不死]]の象徴）、松明、くぼみのある自然石。
また彼女を象徴するとされる花は、[[ケルベロス]]とも関係の深い事で知られる[[トリカブト>トリカブト(植物)]]。


*【経歴】
ヘカテーは非常に長い歴史を持つ女神で、かつ現在に至るまで信仰され続けており
しかもその経歴の中で多数の神々を取りこんできたため時代ごとの変化が非常に大きい。
なので便宜上ここではヘカテーの経歴を4期に分けて解説する。

**&bold(){○ギリシア神話以前のヘカテー}
ヘカテーはギリシア神話の神として有名だが、その起源は&bold(){女神信仰発祥の地}といわれる&bold(){アナトリア半島（現代で言うトルコ近辺）で信仰されていた神}である。
それが紀元前6～5世紀ごろにギリシャ神話に取り込まれたものとも言われているが、
エジプトで初期王朝時代（BC30世紀ほど）より信仰され続けていたカエルの女神&bold(){ヘケト}が原型だという説も存在する。
ただ当のアナトリア語が既に死語となってしまっている上に資料そのものが少ない為、真実は謎のままである。

**&bold(){○ギリシア神話のヘカテー}
***・&bold(){血統・血縁について}
ギリシャ神話におけるヘカテーは、&bold(){古き神[[ティターン>ティターン十二神]]神族の直系とされる女神}である。
ペルセースと&link_anchor(pageid=39397,アステリアリンク){アステリア}の娘にしてティターン神族の末裔の一人であり[[アルテミス>アルテミス(ギリシャ神話)]]とは従姉妹の関係でもある。
ただしいくつかの異説があり、[[ゼウス]]と[[デメテル>デメテル(ギリシャ神話)]]の娘、&link_anchor(pageid=38960,コイオスリンク){コイオス}と&link_anchor(pageid=38960,ポイベリンク){ポイベ}の娘、
あと夜の女王&link_anchor(pageid=7350,ニュクスリンク){ニュクス}の娘であるという説もある。

またアルテミスと同様、&bold(){配偶神を持たない処女神}であり夫・子供は存在しない。
…しないはずなのであるが、魔女の守護者であるためか&bold(){数多くの魔女の母と同一視される}ことが多い。
有名なところでは[[スキュラ>スキュレー]]の母クラタイイス、キルケーの母ペルセーイスとメディアの母エイデュイアなど。
あとなぜか&bold(){海の神との関係が深く}、スキュラの父ポルキュスや、一説ではトリトンを愛人とするともされる。

またヘシオドスの名婦列伝では出自が異なっており、アルテミスの怒りを鎮めるために生贄に捧げられたミケーネの王女イーピゲネイアが、
[[彼女の毅然とした振る舞い>自己犠牲]]に怒りをおさめたアルテミスによって救い出されヘカテーとなったと言われている。

***&bold(){・神性・神格について}
ヘカテーの神性として代表的なものはまず第一に&bold(){死者を導く冥府神}、そして&bold(){月と闇夜の女神}、
&bold(){大地の恵みをもたらす母神}、そして&bold(){魔術とそれを扱うものの守護神}である。
しかし前述のとおりオリュンポス十二神には選ばれておらず、
彼らやそれに並ぶ神々よりは一歩譲る位置にいるような描写が多い。

冥府神の一柱としては[[冥王ハデス>ハデス(ギリシャ神話)]]、[[冥妃ペルセポネ>ペルセポネ(ギリシャ神話)]]に次ぐと言われる。
格は諸説あるがハデス>ペルセポネ>ヘカテーの準に格が高いというのが有力であり、
[[某ジャンプ漫画>幽☆遊☆白書]]の魔界三大勢力筆頭である[[雷禅>雷禅(幽☆遊☆白書)]]、[[躯>むくろ(幽☆遊☆白書)]]、[[黄泉>黄泉(幽☆遊☆白書)]]風に言うなら
この三柱の神で&font(#800080){三大冥府神}を形成しているといってもあながち間違いではない。
つまるところ&bold(){&sizex(4){冥界のビッグ3}}であろう。
//ハデスが冥府の王、ペルセポネが冥府の女王ならば彼女は
//冥府の姫といっても過言ではないと思われる。

しかしヘカテーは「ハデス夫妻の[[侍女>メイド]]」として扱われることが多く、この二人とは厳然たる格差がもうけられている。
冥王たるハデスは無闇に冥府を離れず助言や道具の貸与・人員の派遣という形で他者とかかわる事が多いが
ヘカテーはその指示を受けて実力を行使したり冥界の亡者や魔物を直接統括したりする、
いわば&bold(){ハデスの切り札・懐刀}といった立場にある。

平時は配下の妖精ランパスらとともに松明を手にして冥界を照らし亡者を導くほか、
冥府の刑罰を執行する実働部隊である復讐の女神エリニュスを配下に置く。
その他にも配下・眷族とされる魔物の数がやたらと多い。
そして主命とあらば自ら戦場に赴き、敵を冥界の業火で焼き尽くしてのける（詳しくは後述）

月の女神としては満月を象徴するセレネ、満ちゆく月・三日月を示すアルテミスと並び
&bold(){欠けゆく月・新月を司る}と言われている。
ただ前の二人ほどには月の女神として有名とは言えない。

大地の恵みをもたらす母神としては、特に&bold(){出産に関してあらかたなるご利益をもたらす}とされる。
ただその出産に関しても[[ヘラ>ヘラ(ギリシャ神話)]]・アルテミス・エイレイテュイアら出産の女神たちほどメジャーではなく
母神としての格式では前述のペルセポネ、そしてその母デメテルにはとても及ばない。

唯一、&bold(){魔術及びその使い手の守り神としての立ち位置はギリシャ神話の中でも特別}で、他の神とは一線を画している。
数々の高名な魔女・魔術師たちの守護者として扱われ、後世の「&bold(){魔女たちの女王}」という立ち位置の源となっている（後述）

ただその序列のわりには&bold(){不自然なほど格上として扱われるエピソードが多い}のも彼女の特長。
血統としてはティターン神の末裔でその栄光を引き継ぐものとされ、
その力は天上・地上・地底の三界にまたがるほか&bold(){[[ポセイドン]]の領域である海上にまで及ぶ}とされる。
後述するが神話や伝承の中でも凄まじい実力や特別扱いを思わせる記述が多い。

ギリシャ神話では外様の神なので格付けでは一段下に置かれたものの、大衆からの人気・支持・信仰は絶大なものがあったということなのだろうか。

***・&bold(){神話・伝承について}
ギリシャ神話でのヘカテーは、基本的には冥王ハデス・冥妃ペルセポネ含めた12神や英雄たちをサポートするような役回りが多い。
その中でも一番有名なのは&bold(){ハデスによるペルセポネ誘拐}の際のエピソードだろう。（詳細については[[こちら>ハデス(ギリシャ神話)]]を参照のこと）

娘の行方が知れなくなったデメテルは、娘が何か悪いことに巻きこまれたのではないかと危惧した。
そんなデメテルは&bold(){「悪いこと」にかけては他のどの神よりも詳しい、闇と罪の女神ヘカテーを頼る。}
ヘカテーはペルセポネの叫び声を聞いていたが、姿までは見ていなかった。
デメテルはヘカテーに松明を借り暗闇のなかを片隅まで探すが、娘の姿はどこにも見当たらなかった。

途方にくれたデメテルにヘカテーは&bold(){太陽神ヘリオスを頼るように助言する。}
そのとおりにしたところ、果たせるかなヘリオスは&bold(){ニューサの野原で白昼堂々と行われた誘拐劇を目の当たりにしていた。}
娘をかどわかしたのがハデスであることを知ったデメテルはすべてを理解し、&bold(){&ruby(ヘリオス){日}と&ruby(ヘカテー){月}を連れてゼウスのもとへと向かったのである。}

しかしなんだかんだでペルセポネが正式にハデスの妃として冥府に降り立ったときは&bold(){ヘカテーが侍女として傍に付き添い、&br()そのまま冥府の怪物や魂達の女主人というポジションにおさまった}ということになっている。
ハデスとペルセポネの出会いの物語は、ヘカテーの冥府入りのエピソードでもあるのだ。

また、[[ヘラクレス>ヘラクレス(ギリシャ神話)]]誕生を手助けしたためにヘラの怒りをかいイタチに変えられてしまったガランティスを憐れんで自身の守護獣にするという厚遇で迎え入れたという逸話もある。（詳細は&link_anchor(pageid=39397,アルクメネリンク){こちら}を参照）
ヘラにエイレイテュイアさらにはモイライと、出産にかかわるすべての神にうとまれたガランティスにひとりヘカテーだけが手を差し伸べたのだ。

あとアルゴナウタイではコルキスの守護神にしてメディアの信仰する神として登場し、実際に召喚されて力を貸したりしている。

またトロイアの女王ヘカベーはヘカテーの巫女とも化身とも言われている。
オデュッセウスに奴隷としてさらわれた彼女は犬に化けて逃げ出し、彼に苦難がふりかかるよう呪いをかけた。
これがオデュッセウスの長い漂泊の旅の引き金になったのだという。

また[[アテナ>アテナ(ギリシャ神話)]]が[[アラクネ>アラクネ(ギリシャ神話)]]を蜘蛛に変えた際には「[[ヘカテーの薬草の汁>トリカブト(植物)]]」を振りまいたとされる。

しかしそういった裏方の役割にとどまらず、&bold(){絶大な実力をうかがわせる強烈なエピソードも同時に持っている}ところが彼女の独自性。
その中でも最たるものは[[巨人>巨人(種族)]]たちとの宇宙の覇権をかけた争い『&bold(){ギガントマキア}』参戦の際のものだろう。

「神の力では殺せない」&ruby(ギガス){巨人}たちに対し12神たちが遠くから[[弓矢>弓]]を射たり[[島や山などを投げつけたり>飛び道具]]して動きを封じる中、
冥王ハデスの命により主に代わって参戦した彼女は[[冥界の火をともした>火属性／炎属性]][[松明>鈍器]]を手にギガスの一体であるクルティオスを
&sizex(4){&bold(){&font(#ff0000){真正面から焼き殴り倒す}}}というとんでもない活躍を見せた。
とどめこそヘラクレスに刺してもらっているが、オリュンポス十二神以外でギガスを倒せたのは多数参加した神々の中でも
これも青銅の棍棒を手に真正面から巨人に挑み圧倒した&bold(){&sizex(14){「時間」}を司る三姉妹の女神&bold(){&link_anchor(pageid=36914,モイライリンク){モイライ}}}と彼女のみ。

また、上述したガランティスのエピソードにしても、見方を変えれば&bold(){&color(#F54738){怒りに燃えるヘラでさえヘカテーのやる事に関しては沈黙せざるを得ない}}という、ヘカテーの強大さが露になった話であるとも取れる。
ヘラの怒りを(しかもゼウスの浮気絡みである)買った者を眷属として取り立てるなど、&bold(){ヘラに喧嘩を売るに等しい行為}であるにも関わらず、恐れる様子もなくそれをやってのける。これもまたヘカテーという女神の底知れなさの一端を見せたエピソードといえよう。

ちなみに冥府神になった経緯は、天界で出生したときのヘカテーの魔力に神々が恐れをなし、
アケロンの河に投げ入れ冥府に流れ着いたからという逸話もある。((なおこの逸話では、最終的にヘカテーはハデスの妻になった。))

なおヘシオドスの神統記ではまるまる一章使ってヘカテーへの賛辞が述べられている。（冒頭文参照）
それによるとゼウスによって天界、地上、海洋の全てで自由な行動権を与えられており、人間にあらゆる分野での成功を与え、
他の神に祈る前にヘカテーに祈っておけばご利益が増すとも書かれており、オリュンポス12神でないにもかかわらず、優遇されている。((ただしホメロスの著作にはヘカテーはいっさい登場しない。))

***・&bold(){信仰の対象としてのヘカテー}
彼女を表すとされた像は、&bold(){背中合わせに張り付いたような三面三体の女人像}である。
この像は日本の道祖神のように三つ辻に、それぞれの道の方向を向くように安置された。
そして新月の夜には伝承通り手にした松明に火がともされ、これも道祖神と同じように旅人が旅の安全を祈願する場となった。

これは&bold(){ヘカテーが夜の十字路や三叉路に姿を現す}と伝えられていたからである。
古来より十字路や三叉路に精霊が集まる為と言われており、古代人はそこで集会を開き神々を傍聴人としたという。
冥府を照らす彼女の灯火は、そのまま暗い夜道を照らす明りとなり、またこれから死にゆく人を冥府まで導く灯火ともなった。
このため彼女は三叉路を意味する&bold(){トリウィア（Trivia）}という言葉を冠して呼ばれることもある。&bold(){((このトリウィア（Trivia）という言葉は、[[テレビ番組>トリビアの泉 ～素晴らしきムダ知識～]]で有名になった「トリビア」と全く同じものである。))}
またこの姿から「三位一体」が彼女を示す一つのキーワードとなり、他の神々を次々と取りこんでいくことになった。（後述）

彼女へのお供え物は卵や黒い山羊（冥府神なので黒い獣が捧げられた）・タマネギ・魚で、貧民達の食料とされた。
（これらの供物は「&bold(){ヘカテーのご馳走}」ともよばれる)
また彼女への供物として、家の戸口に鶏の心臓と蜂蜜の菓子を供える風習があったという。
また出産を司るため、彼女に祈れば陣痛を和らげられ、安産できるとも言われた。

あとギリシャの穀倉地帯テッサリアでは、彼女を信仰する巫女たちが彼女の力を使い魔女の薬を作っていたと言われている。
一説では彼女らは血なまぐさい儀式を行っていたともされ、「&bold(){ラミアの母}」「&bold(){魔女たちの女王}」という伝承の基になったと言われている。

**&bold(){○中世のヘカテー}
***・&bold(){魔女たちの女王}
中世において欧州全土で[[キリスト教]]の布教が進んだが、その当時ギリシャの神々はすでに信仰の対象から外れており
神話・物語の中だけの存在となっていた彼らは教化の妨げとして問題視されることは無かった。

その中でヘカテーは&bold(){中世でもなお魔術やその行使者・そして産婆たちの守護者としての信仰を集めており}
また他のギリシャ神話の神やルーツとなるアナトリアの神々のように生贄を要求することもあったため
それらを忌み嫌うキリスト教からは異教の神、&bold(){[[デーモン>悪魔]]として迫害されることとなった}。
そして彼らから彼女に進呈された異名が「&bold(){魔女たちの女王}」である。

デーモンとしての彼女は&bold(){犬、獅子、馬の三つの頭を持ち地獄の猟犬を引きつれた異形の女神}として描かれた。
&bold(){「地獄の雌犬」}とは、この姿のヘカテーに対する蔑称である。
また生贄としてカエルを要求したと言われ、ヘケトの影響を受けていた可能性もある。
しかし異端として迫害されながらも彼女への信仰は細々と続けられ、現代へと至ることになる。

***・&bold(){ワイルドハントの首領}
欧州全域に伝わる妖精、妖怪、精霊、魔女、死者で編成された狩猟団「&bold(){ワイルドハント}」。
兵隊の構成種族も代わり、[[ドラゴン>ドラゴン(西洋の神話)]]や[[悪魔]]、トロールなども加わる事がある。
そのリーダーの一人としてヘカテーの名も挙げられている。 

北欧神話とヨーロッパ各所の伝承で出現した軍団の集合体のような組織だと思ってもいい。大体一緒くたで扱われる。 
活動場所はヨーロッパ全域で、地域によって率いる者が変わる。支部長みたいなもんだろうか。 

***・&bold(){日本での紹介}
日本では江戸時代後期の蘭学者・山村才助の著作である「&bold(){西洋雑記}」にその名を見ることが出来る。
この本ではディアナ・アルテミスのもう一つの姿、呼び名としてヘカテーが紹介されている。

彼女らは地獄及び現世と天上を統べる神であり、「&bold(){此神神通廣大}」などの仰々しい表現までされている。
西洋、東洋で地獄が分かれているという認識では無いらしく、ヤマ（閻魔）よりもやばい神様のような扱いにされている。
見様によっては三相の力で[[ヤマ>閻魔]]も兼任してる節がある。
また何故かヘカテーは三相の力でアテナや月そのものと合体しており、この時点で大分よく分からないモノに変貌している。
ちなみに当時の日本ではカタカナで「&bold(){ヘカッテ}」と呼ばれていたらしい。

**&bold(){○近世～現代のヘカテー}

現在ヘカテーは慈悲深い母神というよりは&bold(){冥府の女神・魔女の王といった、禍々しい存在としてのイメージが強い。}
しかし近現代の多神教的信仰・女神崇拝の再評価という流れの中、
&bold(){ウイッチクラフト}・&bold(){ウィッカ}と呼ばれる現代魔女信仰者たちの信仰の対象となり
&bold(){発祥から数千年の時を経て今なお魔術とその実践者たちの守護者として存在し続けている。}


*【解説】
**&bold(){○起源について}
前述したが、彼女が本来どのような女神であったかは明らかにされていない。
起源である古代アナトリア語がすでに死語化しており、発掘物などの資料も少ないためである。

しかし確実なのは、&bold(){&color(purple){神の力が及ばないはずの巨人を真っ向からねじ伏せる力を秘めた恐るべき女神}}でありながら、
一方で暗い夜道に明かりをともし、貧しい人々に精のつく食料を与え
死にゆく人々をその手の松明で導き、求めるものには知恵と力をさずけ
なにより女性にとって何ものにも代えがたい喜びであると同時に避けがたくこらえがたい苦痛でもある出産に際しはるかな高みから直接助けの手を差し伸べ寄り添ってきた、
&bold(){市井に暮らす人々にとって最も近しい神}でもあったという事実である。

そうであるからこそ彼女ははるか古代から現代に至るまで、弾圧を受けた時期もありながらも信仰の対象でありつづけたのだろう。
&bold(){最も古き神の一柱にしていまなお信仰を集め変化し続ける類まれな神性として。}

**&bold(){○三位一体について}
古代アナトリアでの女神信仰において、&bold(){女神は3つの相を持つ}とされた。
すなわち&bold(){躍動する生命力を体現するうら若き乙女}、&bold(){[[慈愛にあふれる成熟した母親>熟女]]}、
そして&bold(){[[知恵をたくわえ死を暗示する老婆>老婆(属性)]]}の三相である。
三面三体のヘカテー像もこの考え方に基づくものであり、&bold(){乙女：[[ヘベ>ヘベ(ギリシャ神話)]]、母親：ヘラ、老婆：ヘカテー}の三相で表されていた。
そしてその後も数々の女神の老婆の相、闇の部分として同一化されるようになっていったのである。

彼女の代表的な神話であるペルセポネの略奪においても、ヘカテーはデメテル・ペルセポネ母娘にとってもっとも近しく頼れる存在として登場する。
また、デメテル自身もヘカテーのように松明を持ち闇の中をさまよった。
これはこの三者が明確に同一視されていたことを示す神話であろう。
そして&bold(){芽吹きの春・収穫の秋}がそれぞれ&bold(){ペルセポネ・デメテル}によって象徴されたように&bold(){暗く閉ざされた冬}、
あるいは&bold(){すべての命を焼き尽くす夏}が&bold(){ヘカテーに割り振られ}彼女らは季節の三相を示す女神として定着したのである。

他にもヘカテーは&bold(){半月、満月、新月の月の三相}を表したり（セレネ・アルテミス・ヘカテー）
&bold(){天界・地上・冥界の世界の三相}を表すとされたりもした。（セレネ・アルテミス・ペルセポネ）
&bold(){言い換えれば、名だたる女神たちの闇の部分を一手に引き受けていたとも言えるだろう。}
後代においては三相とされた女神をすべて自身と同一化し、デメテルやアルテミス、ペルセポネらの化身として扱われたこともあったという。

見方を変えれば、ヘカテーが他の女神を自身に取りこんだというよりもむしろ、すべての女神の起源をたどれば
女神信仰の祖となった存在のひとりである彼女に行きつくという解釈もできるだろうか。
またヘカテー自身はキリスト教においては異端とされたが、彼女の「&bold(){天上・地上・地下に力を及ぼす}」という立ち位置は
&bold(){神の子[[イエス>イエス・キリスト]]のものとして引き継がれていった。}

**&bold(){○配下・眷族について}
前述のとおり冥界で魔物たちを直接率いる立場の彼女は、配下・眷族とされる魔物がやたらと多い。
代表的なのは彼女とともに松明を持ち闇を照らす、冥界のニンフである&bold(){ランパス}。
（[[東方Project]]「&bold(){[[クラウンピース]]}」のモデル）
罪人を執拗に追い立て残酷な刑罰を下す復讐の女神&bold(){エリニュス((エリーニュス（古代ギリシャ語：Erīnys　ローマ神話ではフリアエ（Furiae)　「フリアエ」は英語では「フューリー」（Fury）、複数形はフューリーズ（Furies）&br()東方紺珠伝6ボス純狐のテーマソング「ピュアヒューリーズ～心の在処」のヒューリーズとは彼女らのことを指す。))}の三姉妹&bold(){アレークトー・ティーシポネー・メガイラ。}
（FFシリーズ・女神転生シリーズ「&bold(){フリアイ}」、[[ファイブスター物語>ファイブスター物語(FSS)]]&bold(){「アレクトー」「ティスホーン」「メガエラ」}のモデル）
青銅とロバの足を持ち悪夢を操る女怪物&bold(){エンプーサ((詳細は[[ラミア(ギリシャ神話)]]の項目を参照。))}（女神転生シリーズなど）、変身術に長けた女吸血鬼&bold(){モルモー}が有名。

また彼女はしばしば犬を引き連れて現れるとされているが、その犬は&bold(){ヘルハウンド・ブラックドッグ}と呼ばれる地獄の猟犬、
果ては冥王ハデスの直轄である地獄の番犬&bold(){ケルベロス}のことさえあるという。

もともと他の地域での主神格で眷族・配下ごとギリシャ神話入りしたのと、
それ以降も多数の女神たちと関連付けられたように、類似した要素を持つ魔物たちを取りこんでいったためであろうか。

なお彼女の異名の一つに&bold(){「ラミアの母」}というものがある。
ラミアという言葉は[[蛇の姿をした魔物>ラミア(ギリシャ神話)]]の固有名詞であると同時に
[[吸血鬼]]・[[夢魔]]などのあらゆる女の怪物たちを指す総称でもある。
これを踏まえれば「ラミアの母」とは、&bold(){「&color(purple){すべての女怪たちの母}」}という意味なのかもしれない。


*【創作文化におけるヘカテー】
ヘカテーはギリシャ神話の神々の中ではわりと有名なほうではある。
さすがにオリンポス12神にはかなわないが、それでも数多くの創作物の中に彼女の名を見ることが出来る。
ただその場合慈悲深い母神というよりは「冥府の女王」「魔女たちの王」のダークなイメージで登場する事が多い。
これはキリスト教の影響が大きいのはもちろんだろうが、暗闇や地獄、魔術など悪とされることが多い分野をつかさどりながら、
けして単に邪悪な神というのではなく光り輝く神々と対等の地位と同等の力を持つ女神だという独自性を買われてのことでもあるだろう。

有名なところでは[[シェイクスピア>ウィリアム・シェイクスピア]]の四大悲劇のひとつ&bold(){[[マクベス]]}で、3人の魔女達の崇める女神として登場している。
ヘカテーは魔女らに、主人公マクベスに「[[予言>予言／預言]]」を伝えたことを諫め、彼に新たな(かつ不吉を齎すような)予言を与えるように仕向けたのである。
またゲーテの戯曲&bold(){「[[ファウスト>ファウスト(古典)]]」}では哲学者ターレスと口論するアナクサゴラスが月の女神に対し「[[ディアナ>アルテミス(ギリシャ神話)]]、ルナ、ヘカテの三つの名と姿を持つ神」と呼びかける描写がある。


現在でも多くの媒体でヘカテーの名を見ることが出来る。
上記した独自性からか、ソーシャルゲームなど実在の神話を世界観の下敷きにしたユニットが多数存在するゲームには大抵出演している。（LOV、神撃のバハムート他多数）
また[[灼眼のシャナ]]の&bold(){[[頂の座ヘカテー>ヘカテー(灼眼のシャナ)]]}や[[Gのレコンギスタ>ガンダム Gのレコンギスタ]]の&bold(){MSヘカテー}、&br()また現実世界でもPGM社の対物ライフル&bold(){「へカートII」}の名前の由来になっている。

その中でも女神ヘカテーをモチーフとしたキャラクターとして特筆すべきものは女神転生シリーズの&bold(){魔王ヘカーテ}、
そして東方projectシリーズの&bold(){ヘカーティア・ラピスラズリ}だろう。

-&bold(){魔王ヘカーテ（女神転生シリーズ}）&br()伝承の神や悪魔をコンピュータを用いて召喚するという一連のシリーズ。&br()この作品でヘカテーは「ヘカーテ」名義で初作から一貫して魔王として登場しており、しばしばストーリー上のボス役も務めた。&br()[[初作（旧約Ⅰ）>デジタルデビル物語 女神転生]]では&bold(){マズルカの回廊}をあずかる魔王として登場。その姿は人間とあまり変わらず、美しい女性のもの。宵闇のような色の髪と肢体の美しさが印象に残る。&br()[[Ⅱ（旧約Ⅱ）>デジタルデビル物語 女神転生Ⅱ]]では蛙の顔をした鬼女&bold(){「ボルボ」}名義で登場。公式の解説によると、ヘカテーと同一視された地母神であるらしいが詳細は不明。&br()そして[[真・女神転生Ⅱ]]以降は&bold(){獅子・犬・馬の三頭を持つ「地獄の雌犬」}の姿で登場。&br()服装はなんと&bold(){ボンテージファッション}で、異様な頭部と妖艶な肉体のギャップが強烈な印象を残した。&br()&br()
-&bold(){[[ヘカーティア・ラピスラズリ]]（[[東方Project]]）}&br()東方紺珠伝7面ボスとして初登場したキャラクター。&br()月、地球、異界それぞれの地獄を司る女神で、それぞれの世界にひとつずつの体を持っている。&br()また配下に松明を持つ地獄の妖精&bold(){「[[クラウンピース]]」}を持つなど、随所にヘカテーの要素がちりばめられている。&br()また首のチョーカーから異界・地球・月を象徴する球体を鎖につけてつないでいるというファッションをしており、&br()&bold(){「三つの世界を縛りつけつなぎとめる女神」}すなわち&bold(){&color(purple){「重力」} を具象化した存在}であるということを暗示するような外見をしている。&br()なお現時点で設定上&bold(){東方Projectの全キャラクター中ぶっちぎりの最強キャラである}。ヘカテーがモチーフの時点で察しがついていた人が多かったとか。&br()&br()
と、数々の凄まじいエピソードをもつ彼女であったが、何故かアニオタwikiにヘカテーの項目が作られなかった。
前述の通り、ヘカテーをモチーフにしたキャラや兵器は少なくないのだが… 
//おそらく、[[東方紺珠伝>東方紺珠伝 ～ Legacy of Lunatic Kingdom.]]でヘカーティアが登場するまで、ヘカテーそのものをモチーフとしたキャラクターをだしたアニメ･ゲーム作品が無かったからではないだろうか。（マイナーな作品はあるかもしれないが…）
//敵として出す場合、ヘカテーよりも位の高いハデス辺りを出してしまえばよい。
//味方として出すとしたらあまりに強すぎる、と扱いが難しいのが一因であろうか。
//あとは、彼女が今もなお「信仰の対象」であることも一因だろう。
//現在進行形で人々の信仰を得ている神は、どうしても創作活動で好きに扱うわけにはいきがたい。
//近年魔女信仰の再評価が進んでいる状況ではなおのことだろう。
//編集を重ねた結果ちぐはぐになった部分を一本化




追記・修正はギガスを松明で殴り殺した方がお願いします。

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- デビルサバイバーでは全門耐性ですごくお世話になった  -- 名無しさん  (2016-10-29 13:00:33)
- 遊戯王にもバイオレットヘカテーやレッドヘカテーってキャラがいたな  -- 名無しさん  (2016-10-29 13:09:03)
- ↑懐かしい！でもなんでOCGには登場しないんだろう？  -- 名無しさん  (2016-10-29 18:03:38)
- ハデスより強いらしいね  -- 名無しさん  (2016-10-29 20:12:50)
- もしかすると、部下と嫁の尻に敷かれているかもしれん、ハデスさん......  -- 名無しさん  (2016-10-29 20:26:26)
- ヤリチンゼウスから貞操を守り切ったんだっけ？　アルテミスと同様に配偶神を持たない処女神だそうだけどパネェわ  -- 名無しさん  (2016-10-29 20:54:22)
- 某ジャンプ漫画の三大妖怪とか言われても分からん  -- 名無しさん  (2016-10-29 21:06:59)
- 項目名を追加。　…「出白」って「出自」のことだよね？  -- 名無しさん  (2016-12-13 19:21:55)
- 東方のヘカーティアのページから記述を逆輸入しました。結構大きな編集をしたので、ご確認願います。  -- 名無しさん  (2016-12-18 02:18:09)
- ↑ありがとうございます。項目の作者ですが読みやすくできており、とても助かります。  -- 名無しさん  (2016-12-18 02:41:42)
- 今尚信仰を得る神様って凄まじいな、類い稀なる神性という表現は妥当だな  -- 名無しさん  (2017-09-13 19:20:47)
- なぜかFateではメディアの師匠になってるという。  -- 名無しさん  (2017-11-06 21:53:40)
- ↑記事の中に「アルゴナウタイではコルキスの守護神にしてメディアの信仰する神として登場し、実際に召喚されて力を貸したりしている」って書いてありますよ。メディアはヘカテーを信仰する巫女だったのだから、ヘカテーの神託を通して魔術を習ったのだとしたら、師匠ということでいいのでは？  -- 名無しさん  (2017-11-08 19:26:05)
- ↑2キルケ―と間違えてないか？  -- 名無しさん  (2018-04-29 18:29:25)
- ゼウス「ん？ハデスのやつまだヘカちゃんに手つけてねーのか。あいつ相変わらずだなｗｗｗｗ」  -- 名無しさん  (2018-06-07 17:23:52)
- ↑ページ内の記載にもある「神々によってアケロン河に投げこまれ冥府に流れ着く」というエピソードでは、流れ着いたあとにハデスの妻になったとも伝えられています。  -- 名無しさん  (2018-06-10 22:30:58)
- あれ?ヘカテーと同じ位活躍したヘラクレスって……  -- 名無しさん  (2018-11-20 13:33:50)
- 追記修正のハードルが高い…高くない？  -- 名無しさん  (2019-11-17 09:37:46)
- ギリシャでは唯一まともな神かと思えば、コイツも幼女が主食で大好物だから、ロクなもんじゃない……これでも神がまともな方のギリシャって……  -- 名無しさん  (2020-03-05 02:11:48)
- ↑6　キルケー・メディア共々ヘカテーの弟子だったって事になってるっぽい。二人の発言から見るに型月のヘカテーもかなり強い＆ヤバいヒトっぽい  -- 名無しさん  (2020-06-12 14:05:00)
- 魔術の頂点の癖に物理で巨人殴り殺したのか(困惑)  -- 名無しさん  (2020-09-21 22:48:35)
- ↑　型月あじを感じる...（あかいあくま的な  -- 名無しさん  (2020-09-21 22:50:42)
- ↑2　巨人は「神の力では殺せない」ので・・・　他の神も島や山をぶんなげたりしてます  -- 名無しさん  (2020-09-22 21:50:25)
- 変Tの異名を持ち重力を自在に操る高貴なる女性騎士  -- 名無しさん  (2020-11-20 12:14:47)
- >「すなわち『重力』そのものを神格化した存在だとする説がある」←ここソース見つからないんだけど、独自研究？  -- 名無しさん  (2021-05-01 11:51:47)
- ↑２・３　こうしてみると雪合戦みたいだ  -- 名無しさん  (2021-09-22 22:31:42)
- 魔女たちの守護女神にして冥府の王の懐刀、ステゴロも強いという万能な女神さま。  -- 名無しさん  (2021-11-24 15:47:05)
- ↑3 俺も聞いたことないなぁ　派手にアピールしてる割にはマイナーすぎる説だと思うんだが出典が気になる  -- 名無しさん  (2022-03-04 01:20:03)
- 一応「重力の神格化」の出展が怪しい事を記述しました。無論、学術的な出典をご存知の方がいました、削除していただいて結構です。  -- 名無しさん  (2022-03-04 14:52:43)
- 新月や悪夢とかかわり  -- 名無しさん  (2022-03-05 20:17:19)
- グラブルのヘカテーは胸の谷間に棒を挟んでて素晴らしいぞ  -- 名無しさん  (2022-10-02 00:22:40)
- 「重力を神格化した存在」の件は出典も出てこず、いつのまにか項目から記述が丸々消えていたため、タグの重力も削除しました  -- 名無しさん  (2023-05-18 14:27:45)
- グラブルのヘカテーは声がえっちすぎて前屈みになる  -- 名無しさん  (2023-05-18 18:19:44)
- 冥王しかり冥妃しかり冥府に関わりを持つ神様は総じて心優しい神々が多いイメージ。(もちろんヘカテー様も)  -- 名無しさん  (2023-05-18 18:46:07)
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&font(#6495ED){登録日}：2016/10/28 (金) 22:59:00
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#center(){&font(#f1c232,b){&sizex(5){この御方に　クロノスの御子ゼウスは&br()&br()他の者たちに抜きんでた栄誉を与えられた&br()&br()&br()&br()ポセイドンが獲物を授けようとも&br()&br()ヘルメスが家畜を与えようとも&br()&br()&br()&br()彼女はそれに勝るものをたやすくさずけたり&br()&br()それらを造作も無く奪われたりもなさるのだ&br()&br()&br()&br()&br()その気ひとつで　気まぐれに&br()&br()お気の向くままに ―　}}}
 
  



#right(){&bold(){― ヘシオドス「神統記」　ヘカテ&ruby(しょう){頌}より抜粋}}






&bold(){ヘカテー(Hecate)((ヘカテー：ギリシャ語　Hekátē　古代ギリシャ語：Ἑκάτη))とはギリシャ神話に登場する女神である。}
冥府神であり月の女神、そして魔女たちの長としても有名。
しかし実際はギリシャ神話成立よりもさらに古くから存在し、現代にいたるまで独自に信仰を集め続けてきた類まれな女神。


*【概要】
ヘカテーは[[ギリシャ神話]]の女神として広く知られている。
オリュンポス十二神ではないものの、後述するようにかなり優遇されている女神でもある。
[[魔術>魔法]]とその行使者、そして産婆の守護者であり、[[月>月(天体)]]と[[闇>闇属性／暗黒属性]]・[[幽霊]]・豊穣・罪の&ruby(あがな){贖}いと浄め・出産を司る。

名前は日本語では「&bold(){ヘカーテ}」や「&bold(){ヘカーティ}」とも表現されるが、原文の発音に近い「&bold(){ヘカテー}」がメジャーである。
名前の由来は諸説あり、[[アポロン>アポロン(ギリシャ神話)]]の別名&bold(){ヘカトス}（Hecatos　遠くからはたらきかけるもの）の女性形とも
古代ギリシャ語で意思を意味する言葉、さらにはエジプト神話のカエルの姿をした女神&bold(){ヘケト（Hecete）}とも
言われているがどれが本当の由来かは未だに不明である。

多くの別名を持つことで知られており、「&bold(){[[ラミア>ラミア(ギリシャ神話)]]の母}」「&bold(){霊の先導者}」「&bold(){女魔術師の守護者}」「&bold(){死者たちの王女}」「&bold(){無敵の女王}」「&bold(){&ruby(ソテイラ){女救世主}}」、
カトリックからは「&bold(){冥界の女王}」「&bold(){[[魔女]]たちの女王}」「&bold(){[[地獄>冥府／地獄]]の雌犬}」という数々の厨二病じみたあだ名を進呈されている。
象徴は[[ナイフ>ナイフ(武器)]]（助産術の象徴）、[[犬]]、[[牝馬>馬]]、蛇（[[不死]]の象徴）、松明、くぼみのある自然石。
また彼女を象徴するとされる花は、[[ケルベロス]]とも関係の深い事で知られる[[トリカブト>トリカブト(植物)]]。


*【経歴】
ヘカテーは非常に長い歴史を持つ女神で、かつ現在に至るまで信仰され続けており
しかもその経歴の中で多数の神々を取りこんできたため時代ごとの変化が非常に大きい。
なので便宜上ここではヘカテーの経歴を4期に分けて解説する。

**&bold(){○ギリシア神話以前のヘカテー}
ヘカテーはギリシア神話の神として有名だが、その起源は&bold(){女神信仰発祥の地}といわれる&bold(){アナトリア半島（現代で言うトルコ近辺）で信仰されていた神}である。
それが紀元前6～5世紀ごろにギリシャ神話に取り込まれたものとも言われているが、
エジプトで初期王朝時代（BC30世紀ほど）より信仰され続けていたカエルの女神&bold(){ヘケト}が原型だという説も存在する。
ただ当のアナトリア語が既に死語となってしまっている上に資料そのものが少ない為、真実は謎のままである。

**&bold(){○ギリシア神話のヘカテー}
***・&bold(){血統・血縁について}
ギリシャ神話におけるヘカテーは、&bold(){古き神[[ティターン>ティターン十二神]]神族の直系とされる女神}である。
ペルセースと&link_anchor(pageid=39397,アステリアリンク){アステリア}の娘にしてティターン神族の末裔の一人であり[[アルテミス>アルテミス(ギリシャ神話)]]とは従姉妹の関係でもある。
ただしいくつかの異説があり、[[ゼウス]]と[[デメテル>デメテル(ギリシャ神話)]]の娘、&link_anchor(pageid=38960,コイオスリンク){コイオス}と&link_anchor(pageid=38960,ポイベリンク){ポイベ}の娘、
あと夜の女王&link_anchor(pageid=7350,ニュクスリンク){ニュクス}の娘であるという説もある。

またアルテミスと同様、&bold(){配偶神を持たない処女神}であり夫・子供は存在しない。
…しないはずなのであるが、魔女の守護者であるためか&bold(){数多くの魔女の母と同一視される}ことが多い。
有名なところでは[[スキュラ>スキュレー]]の母クラタイイス、キルケーの母ペルセーイスとメディアの母エイデュイアなど。
あとなぜか&bold(){海の神との関係が深く}、スキュラの父ポルキュスや、一説ではトリトンを愛人とするともされる。

またヘシオドスの名婦列伝では出自が異なっており、アルテミスの怒りを鎮めるために生贄に捧げられたミケーネの王女イーピゲネイアが、
[[彼女の毅然とした振る舞い>自己犠牲]]に怒りをおさめたアルテミスによって救い出されヘカテーとなったと言われている。

***&bold(){・神性・神格について}
ヘカテーの神性として代表的なものはまず第一に&bold(){死者を導く冥府神}、そして&bold(){月と闇夜の女神}、
&bold(){大地の恵みをもたらす母神}、そして&bold(){魔術とそれを扱うものの守護神}である。
しかし前述のとおりオリュンポス十二神には選ばれておらず、
彼らやそれに並ぶ神々よりは一歩譲る位置にいるような描写が多い。

冥府神の一柱としては[[冥王ハデス>ハデス(ギリシャ神話)]]、[[冥妃ペルセポネ>ペルセポネ(ギリシャ神話)]]に次ぐと言われる。
格は諸説あるがハデス>ペルセポネ>ヘカテーの準に格が高いというのが有力であり、
[[某ジャンプ漫画>幽☆遊☆白書]]の魔界三大勢力筆頭である[[雷禅>雷禅(幽☆遊☆白書)]]、[[躯>むくろ(幽☆遊☆白書)]]、[[黄泉>黄泉(幽☆遊☆白書)]]風に言うなら
この三柱の神で&font(#800080){三大冥府神}を形成しているといってもあながち間違いではない。
つまるところ&bold(){&sizex(4){冥界のビッグ3}}であろう。
//ハデスが冥府の王、ペルセポネが冥府の女王ならば彼女は
//冥府の姫といっても過言ではないと思われる。

しかしヘカテーは「ハデス夫妻の[[侍女>メイド]]」として扱われることが多く、この二人とは厳然たる格差がもうけられている。
冥王たるハデスは無闇に冥府を離れず助言や道具の貸与・人員の派遣という形で他者とかかわる事が多いが
ヘカテーはその指示を受けて実力を行使したり冥界の亡者や魔物を直接統括したりする、
いわば&bold(){ハデスの切り札・懐刀}といった立場にある。

平時は配下の妖精ランパスらとともに松明を手にして冥界を照らし亡者を導くほか、
冥府の刑罰を執行する実働部隊である復讐の女神エリニュスを配下に置く。
その他にも配下・眷族とされる魔物の数がやたらと多い。
そして主命とあらば自ら戦場に赴き、敵を冥界の業火で焼き尽くしてのける（詳しくは後述）

月の女神としては満月を象徴するセレネ、満ちゆく月・三日月を示すアルテミスと並び
&bold(){欠けゆく月・新月を司る}と言われている。
ただ前の二人ほどには月の女神として有名とは言えない。

大地の恵みをもたらす母神としては、特に&bold(){出産に関してあらかたなるご利益をもたらす}とされる。
ただその出産に関しても[[ヘラ>ヘラ(ギリシャ神話)]]・アルテミス・エイレイテュイアら出産の女神たちほどメジャーではなく
母神としての格式では前述のペルセポネ、そしてその母デメテルにはとても及ばない。

唯一、&bold(){魔術及びその使い手の守り神としての立ち位置はギリシャ神話の中でも特別}で、他の神とは一線を画している。
数々の高名な魔女・魔術師たちの守護者として扱われ、後世の「&bold(){魔女たちの女王}」という立ち位置の源となっている（後述）

ただその序列のわりには&bold(){不自然なほど格上として扱われるエピソードが多い}のも彼女の特長。
血統としてはティターン神の末裔でその栄光を引き継ぐものとされ、
その力は天上・地上・地底の三界にまたがるほか&bold(){[[ポセイドン]]の領域である海上にまで及ぶ}とされる。
後述するが神話や伝承の中でも凄まじい実力や特別扱いを思わせる記述が多い。

ギリシャ神話では外様の神なので格付けでは一段下に置かれたものの、大衆からの人気・支持・信仰は絶大なものがあったということなのだろうか。

***・&bold(){神話・伝承について}
ギリシャ神話でのヘカテーは、基本的には冥王ハデス・冥妃ペルセポネ含めた12神や英雄たちをサポートするような役回りが多い。
その中でも一番有名なのは&bold(){ハデスによるペルセポネ誘拐}の際のエピソードだろう。（詳細については[[こちら>ハデス(ギリシャ神話)]]を参照のこと）

娘の行方が知れなくなったデメテルは、娘が何か悪いことに巻きこまれたのではないかと危惧した。
そんなデメテルは&bold(){「悪いこと」にかけては他のどの神よりも詳しい、闇と罪の女神ヘカテーを頼る。}
ヘカテーはペルセポネの叫び声を聞いていたが、姿までは見ていなかった。
デメテルはヘカテーに松明を借り暗闇のなかを片隅まで探すが、娘の姿はどこにも見当たらなかった。

途方にくれたデメテルにヘカテーは&bold(){太陽神ヘリオスを頼るように助言する。}
そのとおりにしたところ、果たせるかなヘリオスは&bold(){ニューサの野原で白昼堂々と行われた誘拐劇を目の当たりにしていた。}
娘をかどわかしたのがハデスであることを知ったデメテルはすべてを理解し、&bold(){&ruby(ヘリオス){日}と&ruby(ヘカテー){月}を連れてゼウスのもとへと向かったのである。}

しかしなんだかんだでペルセポネが正式にハデスの妃として冥府に降り立ったときは&bold(){ヘカテーが侍女として傍に付き添い、&br()そのまま冥府の怪物や魂達の女主人というポジションにおさまった}ということになっている。
ハデスとペルセポネの出会いの物語は、ヘカテーの冥府入りのエピソードでもあるのだ。

また、[[ヘラクレス>ヘラクレス(ギリシャ神話)]]誕生を手助けしたためにヘラの怒りをかいイタチに変えられてしまったガランティスを憐れんで自身の守護獣にするという厚遇で迎え入れたという逸話もある。（詳細は&link_anchor(pageid=39397,アルクメネリンク){こちら}を参照）
ヘラにエイレイテュイアさらにはモイライと、出産にかかわるすべての神にうとまれたガランティスにひとりヘカテーだけが手を差し伸べたのだ。

あとアルゴナウタイではコルキスの守護神にしてメディアの信仰する神として登場し、実際に召喚されて力を貸したりしている。

またトロイアの女王ヘカベーはヘカテーの巫女とも化身とも言われている。
オデュッセウスに奴隷としてさらわれた彼女は犬に化けて逃げ出し、彼に苦難がふりかかるよう呪いをかけた。
これがオデュッセウスの長い漂泊の旅の引き金になったのだという。

また[[アテナ>アテナ(ギリシャ神話)]]が[[アラクネ>アラクネ(ギリシャ神話)]]を蜘蛛に変えた際には「[[ヘカテーの薬草の汁>トリカブト(植物)]]」を振りまいたとされる。

しかしそういった裏方の役割にとどまらず、&bold(){絶大な実力をうかがわせる強烈なエピソードも同時に持っている}ところが彼女の独自性。
その中でも最たるものは[[巨人>巨人(種族)]]たちとの宇宙の覇権をかけた争い『&bold(){ギガントマキア}』参戦の際のものだろう。

「神の力では殺せない」&ruby(ギガス){巨人}たちに対し12神たちが遠くから[[弓矢>弓]]を射たり[[島や山などを投げつけたり>飛び道具]]して動きを封じる中、
冥王ハデスの命により主に代わって参戦した彼女は[[冥界の火をともした>火属性／炎属性]][[松明>鈍器]]を手にギガスの一体であるクルティオスを
&sizex(4){&bold(){&font(#ff0000){真正面から焼き殴り倒す}}}というとんでもない活躍を見せた。
とどめこそヘラクレスに刺してもらっているが、オリュンポス十二神以外でギガスを倒せたのは多数参加した神々の中でも
これも青銅の棍棒を手に真正面から巨人に挑み圧倒した&bold(){&sizex(14){「時間」}を司る三姉妹の女神&bold(){&link_anchor(pageid=36914,モイライリンク){モイライ}}}と彼女のみ。

また、上述したガランティスのエピソードにしても、見方を変えれば&bold(){&color(#F54738){怒りに燃えるヘラでさえヘカテーのやる事に関しては沈黙せざるを得ない}}という、ヘカテーの強大さが露になった話であるとも取れる。
ヘラの怒りを(しかもゼウスの浮気絡みである)買った者を眷属として取り立てるなど、&bold(){ヘラに喧嘩を売るに等しい行為}であるにも関わらず、恐れる様子もなくそれをやってのける。これもまたヘカテーという女神の底知れなさの一端を見せたエピソードといえよう。

ちなみに冥府神になった経緯は、天界で出生したときのヘカテーの魔力に神々が恐れをなし、
アケロンの河に投げ入れ冥府に流れ着いたからという逸話もある。((なおこの逸話では、最終的にヘカテーはハデスの妻になった。))

なおヘシオドスの神統記ではまるまる一章使ってヘカテーへの賛辞が述べられている。（冒頭文参照）
それによるとゼウスによって天界、地上、海洋の全てで自由な行動権を与えられており、人間にあらゆる分野での成功を与え、
他の神に祈る前にヘカテーに祈っておけばご利益が増すとも書かれており、オリュンポス12神でないにもかかわらず、優遇されている。((ただしホメロスの著作にはヘカテーはいっさい登場しない。))

***・&bold(){信仰の対象としてのヘカテー}
彼女を表すとされた像は、&bold(){背中合わせに張り付いたような三面三体の女人像}である。
この像は日本の道祖神のように三つ辻に、それぞれの道の方向を向くように安置された。
そして新月の夜には伝承通り手にした松明に火がともされ、これも道祖神と同じように旅人が旅の安全を祈願する場となった。

これは&bold(){ヘカテーが夜の十字路や三叉路に姿を現す}と伝えられていたからである。
古来より十字路や三叉路に精霊が集まる為と言われており、古代人はそこで集会を開き神々を傍聴人としたという。
冥府を照らす彼女の灯火は、そのまま暗い夜道を照らす明りとなり、またこれから死にゆく人を冥府まで導く灯火ともなった。
このため彼女は三叉路を意味する&bold(){トリウィア（Trivia）}という言葉を冠して呼ばれることもある。&bold(){((このトリウィア（Trivia）という言葉は、[[テレビ番組>トリビアの泉 ～素晴らしきムダ知識～]]で有名になった「トリビア」と全く同じものである。))}
またこの姿から「三位一体」が彼女を示す一つのキーワードとなり、他の神々を次々と取りこんでいくことになった。（後述）

彼女へのお供え物は卵や黒い山羊（冥府神なので黒い獣が捧げられた）・タマネギ・魚で、貧民達の食料とされた。
（これらの供物は「&bold(){ヘカテーのご馳走}」ともよばれる)
また彼女への供物として、家の戸口に鶏の心臓と蜂蜜の菓子を供える風習があったという。
また出産を司るため、彼女に祈れば陣痛を和らげられ、安産できるとも言われた。

あとギリシャの穀倉地帯テッサリアでは、彼女を信仰する巫女たちが彼女の力を使い魔女の薬を作っていたと言われている。
一説では彼女らは血なまぐさい儀式を行っていたともされ、「&bold(){ラミアの母}」「&bold(){魔女たちの女王}」という伝承の基になったと言われている。

**&bold(){○中世のヘカテー}
***・&bold(){魔女たちの女王}
中世において欧州全土で[[キリスト教]]の布教が進んだが、その当時ギリシャの神々はすでに信仰の対象から外れており
神話・物語の中だけの存在となっていた彼らは教化の妨げとして問題視されることは無かった。

その中でヘカテーは&bold(){中世でもなお魔術やその行使者・そして産婆たちの守護者としての信仰を集めており}
また他のギリシャ神話の神やルーツとなるアナトリアの神々のように生贄を要求することもあったため
それらを忌み嫌うキリスト教からは異教の神、&bold(){[[デーモン>悪魔]]として迫害されることとなった}。
そして彼らから彼女に進呈された異名が「&bold(){魔女たちの女王}」である。

デーモンとしての彼女は&bold(){犬、獅子、馬の三つの頭を持ち地獄の猟犬を引きつれた異形の女神}として描かれた。
&bold(){「地獄の雌犬」}とは、この姿のヘカテーに対する蔑称である。
また生贄としてカエルを要求したと言われ、ヘケトの影響を受けていた可能性もある。
しかし異端として迫害されながらも彼女への信仰は細々と続けられ、現代へと至ることになる。

***・&bold(){ワイルドハントの首領}
欧州全域に伝わる妖精、妖怪、精霊、魔女、死者で編成された狩猟団「&bold(){ワイルドハント}」。
兵隊の構成種族も代わり、[[ドラゴン>ドラゴン(西洋の神話)]]や[[悪魔]]、トロールなども加わる事がある。
そのリーダーの一人としてヘカテーの名も挙げられている。 

北欧神話とヨーロッパ各所の伝承で出現した軍団の集合体のような組織だと思ってもいい。大体一緒くたで扱われる。 
活動場所はヨーロッパ全域で、地域によって率いる者が変わる。支部長みたいなもんだろうか。 

***・&bold(){日本での紹介}
日本では江戸時代後期の蘭学者・山村才助の著作である「&bold(){西洋雑記}」にその名を見ることが出来る。
この本ではディアナ・アルテミスのもう一つの姿、呼び名としてヘカテーが紹介されている。

彼女らは地獄及び現世と天上を統べる神であり、「&bold(){此神神通廣大}」などの仰々しい表現までされている。
西洋、東洋で地獄が分かれているという認識では無いらしく、ヤマ（閻魔）よりもやばい神様のような扱いにされている。
見様によっては三相の力で[[ヤマ>閻魔]]も兼任してる節がある。
また何故かヘカテーは三相の力でアテナや月そのものと合体しており、この時点で大分よく分からないモノに変貌している。
ちなみに当時の日本ではカタカナで「&bold(){ヘカッテ}」と呼ばれていたらしい。

**&bold(){○近世～現代のヘカテー}

現在ヘカテーは慈悲深い母神というよりは&bold(){冥府の女神・魔女の王といった、禍々しい存在としてのイメージが強い。}
しかし近現代の多神教的信仰・女神崇拝の再評価という流れの中、
&bold(){ウイッチクラフト}・&bold(){ウィッカ}と呼ばれる現代魔女信仰者たちの信仰の対象となり
&bold(){発祥から数千年の時を経て今なお魔術とその実践者たちの守護者として存在し続けている。}


*【解説】
**&bold(){○起源について}
前述したが、彼女が本来どのような女神であったかは明らかにされていない。
起源である古代アナトリア語がすでに死語化しており、発掘物などの資料も少ないためである。

しかし確実なのは、&bold(){&color(purple){神の力が及ばないはずの巨人を真っ向からねじ伏せる力を秘めた恐るべき女神}}でありながら、
一方で暗い夜道に明かりをともし、貧しい人々に精のつく食料を与え
死にゆく人々をその手の松明で導き、求めるものには知恵と力をさずけ
なにより女性にとって何ものにも代えがたい喜びであると同時に避けがたくこらえがたい苦痛でもある出産に際しはるかな高みから直接助けの手を差し伸べ寄り添ってきた、
&bold(){市井に暮らす人々にとって最も近しい神}でもあったという事実である。

そうであるからこそ彼女ははるか古代から現代に至るまで、弾圧を受けた時期もありながらも信仰の対象でありつづけたのだろう。
&bold(){最も古き神の一柱にしていまなお信仰を集め変化し続ける類まれな神性として。}

**&bold(){○三位一体について}
古代アナトリアでの女神信仰において、&bold(){女神は3つの相を持つ}とされた。
すなわち&bold(){躍動する生命力を体現するうら若き乙女}、&bold(){[[慈愛にあふれる成熟した母親>熟女]]}、
そして&bold(){[[知恵をたくわえ死を暗示する老婆>老婆(属性)]]}の三相である。
三面三体のヘカテー像もこの考え方に基づくものであり、&bold(){乙女：[[ヘベ>ヘベ(ギリシャ神話)]]、母親：ヘラ、老婆：ヘカテー}の三相で表されていた。
そしてその後も数々の女神の老婆の相、闇の部分として同一化されるようになっていったのである。

彼女の代表的な神話であるペルセポネの略奪においても、ヘカテーはデメテル・ペルセポネ母娘にとってもっとも近しく頼れる存在として登場する。
また、デメテル自身もヘカテーのように松明を持ち闇の中をさまよった。
これはこの三者が明確に同一視されていたことを示す神話であろう。
そして&bold(){芽吹きの春・収穫の秋}がそれぞれ&bold(){ペルセポネ・デメテル}によって象徴されたように&bold(){暗く閉ざされた冬}、
あるいは&bold(){すべての命を焼き尽くす夏}が&bold(){ヘカテーに割り振られ}彼女らは季節の三相を示す女神として定着したのである。

他にもヘカテーは&bold(){半月、満月、新月の月の三相}を表したり（セレネ・アルテミス・ヘカテー）
&bold(){天界・地上・冥界の世界の三相}を表すとされたりもした。（セレネ・アルテミス・ペルセポネ）
&bold(){言い換えれば、名だたる女神たちの闇の部分を一手に引き受けていたとも言えるだろう。}
後代においては三相とされた女神をすべて自身と同一化し、デメテルやアルテミス、ペルセポネらの化身として扱われたこともあったという。

見方を変えれば、ヘカテーが他の女神を自身に取りこんだというよりもむしろ、すべての女神の起源をたどれば
女神信仰の祖となった存在のひとりである彼女に行きつくという解釈もできるだろうか。
またヘカテー自身はキリスト教においては異端とされたが、彼女の「&bold(){天上・地上・地下に力を及ぼす}」という立ち位置は
&bold(){神の子[[イエス>イエス・キリスト]]のものとして引き継がれていった。}

**&bold(){○配下・眷族について}
前述のとおり冥界で魔物たちを直接率いる立場の彼女は、配下・眷族とされる魔物がやたらと多い。
代表的なのは彼女とともに松明を持ち闇を照らす、冥界のニンフである&bold(){ランパス}。
（[[東方Project]]「&bold(){[[クラウンピース]]}」のモデル）
罪人を執拗に追い立て残酷な刑罰を下す復讐の女神&bold(){エリニュス((エリーニュス（古代ギリシャ語：Erīnys　ローマ神話ではフリアエ（Furiae)　「フリアエ」は英語では「フューリー」（Fury）、複数形はフューリーズ（Furies）&br()東方紺珠伝6ボス純狐のテーマソング「ピュアヒューリーズ～心の在処」のヒューリーズとは彼女らのことを指す。))}の三姉妹&bold(){アレークトー・ティーシポネー・メガイラ。}
（FFシリーズ・女神転生シリーズ「&bold(){フリアイ}」、[[ファイブスター物語>ファイブスター物語(FSS)]]&bold(){「アレクトー」「ティスホーン」「メガエラ」}のモデル）
青銅とロバの足を持ち悪夢を操る女怪物&bold(){エンプーサ((詳細は[[ラミア(ギリシャ神話)]]の項目を参照。))}（女神転生シリーズなど）、変身術に長けた女吸血鬼&bold(){モルモー}が有名。

また彼女はしばしば犬を引き連れて現れるとされているが、その犬は&bold(){ヘルハウンド・ブラックドッグ}と呼ばれる地獄の猟犬、
果ては冥王ハデスの直轄である地獄の番犬&bold(){ケルベロス}のことさえあるという。

もともと他の地域での主神格で眷族・配下ごとギリシャ神話入りしたのと、
それ以降も多数の女神たちと関連付けられたように、類似した要素を持つ魔物たちを取りこんでいったためであろうか。

なお彼女の異名の一つに&bold(){「ラミアの母」}というものがある。
ラミアという言葉は[[蛇の姿をした魔物>ラミア(ギリシャ神話)]]の固有名詞であると同時に
[[吸血鬼]]・[[夢魔]]などのあらゆる女の怪物たちを指す総称でもある。
これを踏まえれば「ラミアの母」とは、&bold(){「&color(purple){すべての女怪たちの母}」}という意味なのかもしれない。


*【創作文化におけるヘカテー】
ヘカテーはギリシャ神話の神々の中ではわりと有名なほうではある。
さすがにオリンポス12神にはかなわないが、それでも数多くの創作物の中に彼女の名を見ることが出来る。
ただその場合慈悲深い母神というよりは「冥府の女王」「魔女たちの王」のダークなイメージで登場する事が多い。
これはキリスト教の影響が大きいのはもちろんだろうが、暗闇や地獄、魔術など悪とされることが多い分野をつかさどりながら、
けして単に邪悪な神というのではなく光り輝く神々と対等の地位と同等の力を持つ女神だという独自性を買われてのことでもあるだろう。

有名なところでは[[シェイクスピア>ウィリアム・シェイクスピア]]の四大悲劇のひとつ&bold(){[[マクベス]]}で、3人の魔女達の崇める女神として登場している。
ヘカテーは魔女らに、主人公マクベスに「[[予言>予言／預言]]」を伝えたことを諫め、彼に新たな(かつ不吉を齎すような)予言を与えるように仕向けたのである。
またゲーテの戯曲&bold(){「[[ファウスト>ファウスト(古典)]]」}では哲学者ターレスと口論するアナクサゴラスが月の女神に対し「[[ディアナ>アルテミス(ギリシャ神話)]]、ルナ、ヘカテの三つの名と姿を持つ神」と呼びかける描写がある。


現在でも多くの媒体でヘカテーの名を見ることが出来る。
上記した独自性からか、ソーシャルゲームなど実在の神話を世界観の下敷きにしたユニットが多数存在するゲームには大抵出演している。（LOV、神撃のバハムート他多数）
また[[灼眼のシャナ]]の&bold(){[[頂の座ヘカテー>ヘカテー(灼眼のシャナ)]]}や[[Gのレコンギスタ>ガンダム Gのレコンギスタ]]の&bold(){MSヘカテー}、&br()また現実世界でもPGM社の対物ライフル&bold(){「へカートII」}の名前の由来になっている。

その中でも女神ヘカテーをモチーフとしたキャラクターとして特筆すべきものは女神転生シリーズの&bold(){魔王ヘカーテ}、
そして東方projectシリーズの&bold(){ヘカーティア・ラピスラズリ}だろう。

-&bold(){魔王ヘカーテ（女神転生シリーズ}）&br()伝承の神や悪魔をコンピュータを用いて召喚するという一連のシリーズ。&br()この作品でヘカテーは「ヘカーテ」名義で初作から一貫して魔王として登場しており、しばしばストーリー上のボス役も務めた。&br()[[初作（旧約Ⅰ）>デジタルデビル物語 女神転生]]では&bold(){マズルカの回廊}をあずかる魔王として登場。その姿は人間とあまり変わらず、美しい女性のもの。宵闇のような色の髪と肢体の美しさが印象に残る。&br()[[Ⅱ（旧約Ⅱ）>デジタルデビル物語 女神転生Ⅱ]]では蛙の顔をした鬼女&bold(){「ボルボ」}名義で登場。公式の解説によると、ヘカテーと同一視された地母神であるらしいが詳細は不明。&br()そして[[真・女神転生Ⅱ]]以降は&bold(){獅子・犬・馬の三頭を持つ「地獄の雌犬」}の姿で登場。&br()服装はなんと&bold(){ボンテージファッション}で、異様な頭部と妖艶な肉体のギャップが強烈な印象を残した。&br()&br()
-&bold(){[[ヘカーティア・ラピスラズリ]]（[[東方Project]]）}&br()東方紺珠伝7面ボスとして初登場したキャラクター。&br()月、地球、異界それぞれの地獄を司る女神で、それぞれの世界にひとつずつの体を持っている。&br()また配下に松明を持つ地獄の妖精&bold(){「[[クラウンピース]]」}を持つなど、随所にヘカテーの要素がちりばめられている。&br()また首のチョーカーから異界・地球・月を象徴する球体を鎖につけてつないでいるというファッションをしており、&br()&bold(){「三つの世界を縛りつけつなぎとめる女神」}すなわち&bold(){&color(purple){「重力」} を具象化した存在}であるということを暗示するような外見をしている。&br()なお現時点で設定上&bold(){東方Projectの全キャラクター中ぶっちぎりの最強キャラである}。ヘカテーがモチーフの時点で察しがついていた人が多かったとか。&br()&br()
と、数々の凄まじいエピソードをもつ彼女であったが、何故かアニオタwikiにヘカテーの項目が作られなかった。
前述の通り、ヘカテーをモチーフにしたキャラや兵器は少なくないのだが… 
//おそらく、[[東方紺珠伝>東方紺珠伝 ～ Legacy of Lunatic Kingdom.]]でヘカーティアが登場するまで、ヘカテーそのものをモチーフとしたキャラクターをだしたアニメ･ゲーム作品が無かったからではないだろうか。（マイナーな作品はあるかもしれないが…）
//敵として出す場合、ヘカテーよりも位の高いハデス辺りを出してしまえばよい。
//味方として出すとしたらあまりに強すぎる、と扱いが難しいのが一因であろうか。
//あとは、彼女が今もなお「信仰の対象」であることも一因だろう。
//現在進行形で人々の信仰を得ている神は、どうしても創作活動で好きに扱うわけにはいきがたい。
//近年魔女信仰の再評価が進んでいる状況ではなおのことだろう。
//編集を重ねた結果ちぐはぐになった部分を一本化




追記・修正はギガスを松明で殴り殺した方がお願いします。

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- デビルサバイバーでは全門耐性ですごくお世話になった  -- 名無しさん  (2016-10-29 13:00:33)
- 遊戯王にもバイオレットヘカテーやレッドヘカテーってキャラがいたな  -- 名無しさん  (2016-10-29 13:09:03)
- ↑懐かしい！でもなんでOCGには登場しないんだろう？  -- 名無しさん  (2016-10-29 18:03:38)
- ハデスより強いらしいね  -- 名無しさん  (2016-10-29 20:12:50)
- もしかすると、部下と嫁の尻に敷かれているかもしれん、ハデスさん......  -- 名無しさん  (2016-10-29 20:26:26)
- ヤリチンゼウスから貞操を守り切ったんだっけ？　アルテミスと同様に配偶神を持たない処女神だそうだけどパネェわ  -- 名無しさん  (2016-10-29 20:54:22)
- 某ジャンプ漫画の三大妖怪とか言われても分からん  -- 名無しさん  (2016-10-29 21:06:59)
- 項目名を追加。　…「出白」って「出自」のことだよね？  -- 名無しさん  (2016-12-13 19:21:55)
- 東方のヘカーティアのページから記述を逆輸入しました。結構大きな編集をしたので、ご確認願います。  -- 名無しさん  (2016-12-18 02:18:09)
- ↑ありがとうございます。項目の作者ですが読みやすくできており、とても助かります。  -- 名無しさん  (2016-12-18 02:41:42)
- 今尚信仰を得る神様って凄まじいな、類い稀なる神性という表現は妥当だな  -- 名無しさん  (2017-09-13 19:20:47)
- なぜかFateではメディアの師匠になってるという。  -- 名無しさん  (2017-11-06 21:53:40)
- ↑記事の中に「アルゴナウタイではコルキスの守護神にしてメディアの信仰する神として登場し、実際に召喚されて力を貸したりしている」って書いてありますよ。メディアはヘカテーを信仰する巫女だったのだから、ヘカテーの神託を通して魔術を習ったのだとしたら、師匠ということでいいのでは？  -- 名無しさん  (2017-11-08 19:26:05)
- ↑2キルケ―と間違えてないか？  -- 名無しさん  (2018-04-29 18:29:25)
- ゼウス「ん？ハデスのやつまだヘカちゃんに手つけてねーのか。あいつ相変わらずだなｗｗｗｗ」  -- 名無しさん  (2018-06-07 17:23:52)
- ↑ページ内の記載にもある「神々によってアケロン河に投げこまれ冥府に流れ着く」というエピソードでは、流れ着いたあとにハデスの妻になったとも伝えられています。  -- 名無しさん  (2018-06-10 22:30:58)
- あれ?ヘカテーと同じ位活躍したヘラクレスって……  -- 名無しさん  (2018-11-20 13:33:50)
- 追記修正のハードルが高い…高くない？  -- 名無しさん  (2019-11-17 09:37:46)
- ギリシャでは唯一まともな神かと思えば、コイツも幼女が主食で大好物だから、ロクなもんじゃない……これでも神がまともな方のギリシャって……  -- 名無しさん  (2020-03-05 02:11:48)
- ↑6　キルケー・メディア共々ヘカテーの弟子だったって事になってるっぽい。二人の発言から見るに型月のヘカテーもかなり強い＆ヤバいヒトっぽい  -- 名無しさん  (2020-06-12 14:05:00)
- 魔術の頂点の癖に物理で巨人殴り殺したのか(困惑)  -- 名無しさん  (2020-09-21 22:48:35)
- ↑　型月あじを感じる...（あかいあくま的な  -- 名無しさん  (2020-09-21 22:50:42)
- ↑2　巨人は「神の力では殺せない」ので・・・　他の神も島や山をぶんなげたりしてます  -- 名無しさん  (2020-09-22 21:50:25)
- 変Tの異名を持ち重力を自在に操る高貴なる女性騎士  -- 名無しさん  (2020-11-20 12:14:47)
- >「すなわち『重力』そのものを神格化した存在だとする説がある」←ここソース見つからないんだけど、独自研究？  -- 名無しさん  (2021-05-01 11:51:47)
- ↑２・３　こうしてみると雪合戦みたいだ  -- 名無しさん  (2021-09-22 22:31:42)
- 魔女たちの守護女神にして冥府の王の懐刀、ステゴロも強いという万能な女神さま。  -- 名無しさん  (2021-11-24 15:47:05)
- ↑3 俺も聞いたことないなぁ　派手にアピールしてる割にはマイナーすぎる説だと思うんだが出典が気になる  -- 名無しさん  (2022-03-04 01:20:03)
- 一応「重力の神格化」の出展が怪しい事を記述しました。無論、学術的な出典をご存知の方がいました、削除していただいて結構です。  -- 名無しさん  (2022-03-04 14:52:43)
- 新月や悪夢とかかわり  -- 名無しさん  (2022-03-05 20:17:19)
- グラブルのヘカテーは胸の谷間に棒を挟んでて素晴らしいぞ  -- 名無しさん  (2022-10-02 00:22:40)
- 「重力を神格化した存在」の件は出典も出てこず、いつのまにか項目から記述が丸々消えていたため、タグの重力も削除しました  -- 名無しさん  (2023-05-18 14:27:45)
- グラブルのヘカテーは声がえっちすぎて前屈みになる  -- 名無しさん  (2023-05-18 18:19:44)
- 冥王しかり冥妃しかり冥府に関わりを持つ神様は総じて心優しい神々が多いイメージ。(もちろんヘカテー様も)  -- 名無しさん  (2023-05-18 18:46:07)
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