岸辺露伴は動かない 〜エピソード11‥ドリッピング画法〜

登録日:2022/05/26 Thu 00:07:32
更新日:2022/06/16 Thu 14:45:50
所要時間:約 10 分で読めます







これは、岸辺露伴が語る

『暗闇へのエピソード』


2022年4月30日から5月28日まで、石川県の金沢21世紀美術館にて「荒木飛呂彦原画展 JOJO 冒険の波紋」が開催されることを記念して、『ウルトラジャンプ』2022年5月号・6月号に2号連続で前後編を掲載された作品で、原作・漫画は荒木飛呂彦


岸辺露伴は動かない」シリーズの第10弾で、前編30P・後編35Pの計65P構成になっており、これまで読み切り作品として展開されてきた同シリーズでは初の前後編の作品になっている。

また、ジョジョ本編自体は第7部の途中からウルトラジャンプで掲載され始めてからかなりの歳月が経つが、そのスピンオフである本シリーズは実はウルトラジャンプでは初の掲載となる。*1



◆あらすじ

これから話すエピソード⑪は……

ある身元のちゃんとした人物の家に取材に行った時の話だ

先方から話をしようと呼ばれたんだ

地球環境温暖化とかCO2とかそういった話題だった

でもこのエピソード⑪は
前向きな所がどこを探してもひとつも見当たらないエピソードだ

漫画はいつも読者の希望や心の糧になりますようにと願って描いているのだけれど

これは絶望的に厭なエピソードでひたすら暗闇へと落ちて行く


もし読むなら覚悟をして欲しい

出来ることなら隠して蓋をしておきたい

でも蓋なんかどこにもないんだ



隠す為の蓋さえ誰にも見つける事は出来ない


◆登場人物

  • 岸辺露伴
漫画家。
仕事場でドリッピング画法を用いて原稿の細部を仕上げている中で、何故か泣きながら今回のエピソードを語り始める。


  • 泉京香
原稿を受け取りに来たのか露伴宅を訪れており、持ってきたカフェオレを零すふりをするなど気ままな言動を見せるが、彼が泣いていることに対して怪訝そうな反応を見せた。


  • バキン
露伴の飼っている犬。本作では何故か「BAKIN」とローマ字表記されている。
前作の終盤での成長した容姿で登場する。
前作では詳細がなかったが、バキンを飼い始めたこと自体は雑誌等のメディアを通して世間にも公表されている模様。


  • 村瀬美月
主婦。37歳。
杜王町の隣町にて浮気相手とホテルでうっかり長居してしまい、娘の恵茉の迎えの時間を大幅に過ぎ、ホテルから車で急いで幼稚園へ向かう。
元の理由がそもそも自分の蒔いた種な上に、運転時も娘のことよりも自己保身のことを中心に考えるなど、お世辞にも褒められた人間ではない。
渋滞を避けて峠道へ向かうが、途中で棘の生えた黒い謎の物体と接触する……。


  • 美月の夫
美月が恵茉の迎えに来ないことに対して、彼女に怒りの電話をよこす。
彼女の言動を訝しんでおり、幼稚園で合流し、そこで話をしようと考えている。













以下ネタバレ注意。




接触部に異常が無いことを確認した美月。しかし今いる場所からは麓の方角に発電所までかなり距離があり、幼稚園に到着するまでは30分はかかる。
「5分でいく」という口約束をしてしまった美月は急いで幼稚園への急行を再開するが、そんな彼女に対して突如何者かが後方から煽り運転を仕掛けてきた。
車種はSUV。美月はホテルから出る際に隣に止めてあったSUVにドアをぶつけたため、その車が追ってきたのかと考えたが、よくよく見るとその際に確認した傷が追ってきたSUVにはなく、そもそも車の色も違っていた。
その事を怪訝に思うと、相手のSUVは美月の車を追い抜き、いきなり彼女の車に消火器を噴射しながら急ブレーキをかけながら進路を塞いできた。

突然の出来事と相手の異様なまでの執着に戦慄する美月。
まるで自分の進行をひたすら妨害するような相手の行動に凍り付きながらも、やはり急ぐ必要がある為に妨害を振り切ってボロボロの車を走らせる。

しかし相手のSUVは追ってくる。半ば錯乱状態になりながら返り討ちにすることすら視野に入れ始めた美月。

すると、とうとう相手のSUVが横に並んで窓を開け、美月に怒鳴りつけてきた……。









以下「後編」における更なるネタバレ注意。








窓を下ろせっ!! 窓を開けろォオオ――ッ!!

後ろにいるんだ!! 車を停めろッ!!


後ろに乗り込んでるぞォォ―――ッ







執拗なまでに彼女の移動を妨害し、最終的に彼女に怒鳴りつけてきたのは露伴だった。


だが怒鳴る彼の表情から読み取れるのは「怒り」ではなく「焦り」。
血相を変えて必死に彼女に上記の警告をしてきたのだ。


だがそんな警告の意味をのみこむ間もなく、美月が接触した例の「黒い物体」が突如後部座席から現れたかと思うと両手を彼女の顔へやり、そのまま首をへし折った。
直後、ドライバーが死んだ事で、バランスを崩した彼女の車が露伴のSUVにぶつかり、双方ともに大破してしまった。

血を流しながら車外に放り出された露伴は急いで電話で警察に一帯の道を封鎖するよう要請。




すると、ガードレールを突き破って放り出された彼女の車からその物体……否、人間が姿を現した。

ゴツゴツした重装備(中身は後述)に長い棘が大量に付いた黒いコートを纏った男……。
今回の物語のキーマンとなる男だった。


彼の目的は峠内にあった火力発電所への自爆テロ

コート下やリュックにアンホ爆弾40kg分・釘・ネジ類、そして水素系燃料と濃縮液化酸化剤を背負っており、両腕に付けられた起爆スイッチを押すだけで爆発*2するという状態であり、しかも横槍が入るなどして本人の意識が無くなってもフェンスを越えて100m先まで体が吹っ飛んで上記の爆破が可能だと本人は語る。


彼と露伴の間に何があったかは不明だが、冒頭のやり取りを見るに、取材に行った先で男が自爆テロの行動を開始し、露伴がそれを阻止すべく警察に連絡しつつ追ってきたものと考えられる。
(美月への執拗な煽り運転や消火器での妨害も、「急いで発電所から離れろ」と言う彼女への実力行使による警告が目的。)


ボロボロの露伴に対して男は語る。


2018年時のIPCCのIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の「地球の平均気温が現状から1.5℃以上上昇すると地球環境は壊滅状態になる」という提示見解から僅か数年で平均気温は1℃上昇、曰く「リミットは後0.5℃分」と言う状態まで差し迫っている。



地球環境に対して並々ならぬ関心と危惧を抱くその男は12年前まで環境保護団体に所属し、二酸化炭素・CO2削減のために行動を続けていたが、組織のトップが熱帯雨林伐採に投資する企業との癒着が判明。
その後男は活動の関係で治安当局に逮捕され、殺し屋からは命を狙われ、職を失い、家族とも別れてしまった。


自身の辿った悲惨すぎる境遇(曰く「沈んでいく船」。)に加えて、上記のリミット。
絶望の中で疲れ切った彼は上記のテロを決行するに至ったのだ。


露伴をこの場所へ誘導したのは、彼をこの事件の目撃者にすることで追い詰められたジレンマの向こうに不屈の魂が「在る」事を漫画として描いてもらうため*3で、露伴の目の前で美月を殺したのも、目的地である発電所がすぐそばになったのを確認した上で、上記の事故を意図的に誘発、露伴を車外へ放り出させる+車が壊れることでそこから容易に移動できなくするため。


露伴は彼の境遇には同情を示しつつも、凶行の制止や、それがダメならばせめてここでのテロ行為を止める*4などして、何とか止めるよう懇願するが、男は聞き入れずに火力発電所へと向かってしまう(ただ、露伴の「他の場所でやれ」と言う懇願には、自分の生まれた杜王町を想う気持ちの表れとして評価している。)



女性の車は…「ガソリン車」


「時代」なのか……只の何かの「皮肉」か…


それとも「山の神」のおかげなのか…




もはや一刻の猶予もない。露伴は近くに生えていたオナモミにヘブンズ・ドアーを使用し、苦渋の決断を下す……。






“ひっつき虫”をしぼませろ!その空洞を。

衣服に付着したら。


















事態は収まった。

現場には露伴と駆けつけた警官隊。そして倒れた男がいた。



女性の車はガソリン車。つまり排気ガス内に一酸化炭素・COを含んでいる。
それをオナモミのひっつき虫*5内に排気ガスを空洞内に充填。内部にCOをためた状態で(方法は不明だが)男にひっつき虫をくっつけ、萎ませて内部の排気ガスを排出させることで男に排気ガスを間接的に吸わせてCO中毒状態にしたのだ。

人体は一呼吸時に約500mlの空気を吸うが、この仮定で濃度0.64%のCOを空気中から吸うと15回程度の呼吸で失神。それ以上ならば死の危険がある。
オナモミのひっつき虫でこの条件を満たすには30~40程度必要となる。
男の顔面付近には明らかにその必要数を上回るオナモミが付けられている。ひっつき虫全てのCOを吸っているかどうかは不明だが、少なくとも意識を失わせるには十分な量だった。


男の生死は明かされていないが、露伴の様子や現場の状態からして死亡した可能性が高い。
男を止める手立てとして彼の命を脅かす行為に及ばざるを得なかった露伴はやりきれなさから涙を流し、その場に立ち尽くすのだった。








以下、最後のネタバレ。







事件の一部始終が語られた後、舞台は再び露伴の仕事部屋に。

事件の事を思い出していたのか、涙を浮かべる露伴だったが、採食していないはずの自身の原稿にオレンジ色の染みが付いている事に気が付いた。
(原稿内に車が描かれ、必死に運転する様が描かれている所からして、どうやら男からの約束は守ったようである。)


部屋では泉京香がレンチンしたパスタを食べていた。
言うまでもないがオレンジの染みの正体はそのパスタから飛んできたトマトソースのオイル。

仕事部屋で食事をするのも非常識だが、それによって原稿を汚されたことに露伴は激怒し、彼女を部屋から追い出す。





ワザと狙ってみたの だってさぁ~~~先生落ち込んでいるんだもん


作品描きながらそれで落ち込むなんて絶対駄目だよ


あの話はハッピーエンドだよねェ


BAKINちゃん……そうに決まっている


京香の「ドリッピング画法」は意図的に行ったもので、悲しみで「暗闇」へ落ちて行きそうになる露伴に対する荒療治だった。


露伴の話に「蓋」をし終えた彼女は普段の姿からは想像できない程重く、暗い表情でバキンにその事を告げるのだった。


【余談】


  • 読んでいて分かった人も多いだろうが、タイトルになっている「ドリッピング画法」は露伴を非日常の感慨から引きずり出すきっかけになってはいるが、前作同様にメインの物語の非日常に一切関わっていない。更に言うと、前半での露伴の美月への執拗な煽りや後半の男のテロ行為の双方ともに常軌を逸した行動ではあるるが超常現象の類ではない。


  • 劇中でキーアイテムとして使用されたオナモミだが、実はレッドデータブック上では絶滅危惧Ⅱ類に指定されており、皮肉にも後編内のテーマである地球環境の悪化の被害者的な存在になっている。



追記・修正は暗に落ちない為の「蓋」を準備できた方がおいします。





………wiki篭りくん。君 そこで何をやってるんだ?

……先生も食べます?チンしたパスタですけどまだありますよ

そーゆー事じゃあないだろ……あのねェ

編集ページでの食事を許可した覚えは一度もないしまずこの追記・修正用の文を見ろよ。

なぜか「闇」と「願」の文字の色は…オレンジ色だ

その隣の文字たちは色コードなしの基本色なのに……そうだろ?ブラックなのに

この2文字だけオレンジ色!色についての反対意見は無いよな?


つまり君のトマトソースのオイルが飛んでいるんだよッ!!

それでも項目編集者かァ―――ッ 出てけェェ――ッ!!


はーい


この項目が面白かったなら……\ポチッと/

最終更新:2022年06月16日 14:45

*1 ただし付録としてならば過去4度にわたって短編小説集の小冊子が掲載されている。

*2 水素系燃料と酸化剤の影響でCO2の排出を極力抑えるという計算までされている。本人曰く「発電所の爆発と火災でのCO2排出は別計算」らしいが……。

*3 マスコミではなく漫画家である露伴を利用したのは事実を極端に歪曲されることを嫌ったため。

*4 止めさせるための苦し紛れの発言なのか、それとも周囲に警察が来ていることから話を吞んだ場合でもある程度は勝算があると踏んで発言したのかは不明。

*5 動物の体表等に種子を付着させて種子を遠くまで運んでもらう「動物散布」による種子の散布を行う植物の果実や種子の事を指す