ジョイ・ヴァントルシーブ伯爵が親交のある子爵を訪ねた時の話
その子爵は甥と仲が悪く、遠からず武力闘争になることが予測されていた
しかし相手側の方が兵力が多く、戦いになれば子爵が負ける可能性が高かった
今は政治的な手段で開戦を遅らせているが、それも長引かせたとして二年ほど。翌々年の冬が来れば甥は攻め込んでくる
何とかして勝ちを拾えないものか? と助言を請う子爵のために、ヴァントルシーブ伯爵はとある屋敷の設計図を描いた
この屋敷を建てて敵を待て、とヴァントルシーブは言い聞かせた
子爵はそれから一年と半年をかけて設計図通りの屋敷を建て、その半年後に甥の進攻を迎えた
子爵は、すぐさま屋敷を放棄して逃げ去った。甥は主人の逃げ去った土地を占拠し、残された立派な屋敷に移り住んだ
戦闘らしい戦闘がおこなわれなかったので、屋敷は完全に無傷であり、新しい土地の支配者が暮らすにはこれ以上なくふさわしい場所のように思われた
異変はその日の夜に起きた
暖を取るために暖炉に火がともされると、屋敷の至るところで火の手が上がった
紅蓮の炎はまるで竜巻のように燃え広がり、屋敷を奪って移り住んだ甥と、彼を守る大勢の兵士を巻き込んで焼き尽くした
恐ろしいことに、その屋敷は石炭と木炭を土で練り固めた素材で作られていたのだ
石や煉瓦などの燃えにくい素材は土台や屋根の一部にしか使われておらず、一度火が着けばまわりの空気を効率良く取り込んで、あっという間に巨大な火の玉となってしまうように設計されていた
そんなでは、甥が攻めてくるまで子爵も屋敷で寝起きすることが恐ろしかっただろうと思う者もいるだろう
しかし、そこがヴァントルシーブ伯爵の設計の妙であった。全体が燃えやすい素材でできていたにも関わらず、彼は純粋な構造力学によって、普通に暮らす分には普通の屋敷より火が着きにくい構造になるようにしていたのである
屋敷全体が燃えるためには、主寝室にある一番立派な暖炉に火をともす必要があるように作り、そのことを子爵に教えていた。この暖炉に火をつけない限り、この屋敷は安全だと
こうして反逆者の甥は焼け死に、彼の軍勢も散り散りになって逃げ去った。避難していた子爵はその知らせを受けて帰り、再び同じ作りの屋敷を建てて、そこで五十年間無事に暮らしたのちに亡くなったという
その子爵は甥と仲が悪く、遠からず武力闘争になることが予測されていた
しかし相手側の方が兵力が多く、戦いになれば子爵が負ける可能性が高かった
今は政治的な手段で開戦を遅らせているが、それも長引かせたとして二年ほど。翌々年の冬が来れば甥は攻め込んでくる
何とかして勝ちを拾えないものか? と助言を請う子爵のために、ヴァントルシーブ伯爵はとある屋敷の設計図を描いた
この屋敷を建てて敵を待て、とヴァントルシーブは言い聞かせた
子爵はそれから一年と半年をかけて設計図通りの屋敷を建て、その半年後に甥の進攻を迎えた
子爵は、すぐさま屋敷を放棄して逃げ去った。甥は主人の逃げ去った土地を占拠し、残された立派な屋敷に移り住んだ
戦闘らしい戦闘がおこなわれなかったので、屋敷は完全に無傷であり、新しい土地の支配者が暮らすにはこれ以上なくふさわしい場所のように思われた
異変はその日の夜に起きた
暖を取るために暖炉に火がともされると、屋敷の至るところで火の手が上がった
紅蓮の炎はまるで竜巻のように燃え広がり、屋敷を奪って移り住んだ甥と、彼を守る大勢の兵士を巻き込んで焼き尽くした
恐ろしいことに、その屋敷は石炭と木炭を土で練り固めた素材で作られていたのだ
石や煉瓦などの燃えにくい素材は土台や屋根の一部にしか使われておらず、一度火が着けばまわりの空気を効率良く取り込んで、あっという間に巨大な火の玉となってしまうように設計されていた
そんなでは、甥が攻めてくるまで子爵も屋敷で寝起きすることが恐ろしかっただろうと思う者もいるだろう
しかし、そこがヴァントルシーブ伯爵の設計の妙であった。全体が燃えやすい素材でできていたにも関わらず、彼は純粋な構造力学によって、普通に暮らす分には普通の屋敷より火が着きにくい構造になるようにしていたのである
屋敷全体が燃えるためには、主寝室にある一番立派な暖炉に火をともす必要があるように作り、そのことを子爵に教えていた。この暖炉に火をつけない限り、この屋敷は安全だと
こうして反逆者の甥は焼け死に、彼の軍勢も散り散りになって逃げ去った。避難していた子爵はその知らせを受けて帰り、再び同じ作りの屋敷を建てて、そこで五十年間無事に暮らしたのちに亡くなったという