ある日のガスペリ家本邸、リリアーナの自室。
彼女は、天蓋つきベッドに寝そべって本を捲っていた。
本の内容は神聖イルニクス帝国の詩集である。
そんな彼女の空間、彼女の時間を引き裂くようにノックの音が響く。
彼女は、天蓋つきベッドに寝そべって本を捲っていた。
本の内容は神聖イルニクス帝国の詩集である。
そんな彼女の空間、彼女の時間を引き裂くようにノックの音が響く。
「お嬢様。茶とお茶菓子をお持ちしました。そろそろ必要だと思いましたので」
その声は落ち着いた女性のものであり、リリアーナからすれば幼少期から聞き慣れたものでもあり。一言「入りなさい」と返すのみだった。
そうして入ってきたのは平均的な女性よりも高い背丈、少し赤みがかかった黒く艶やかで床まで届きそうな髪、銀縁眼鏡の向こうには金色の鋭い目、そして主人と違って豊満な身体のメイド――メリーザ・エル=トリアであった。
彼女は室内の一角にあるサイドテーブルに紅茶と茶菓子を置くと、主とその本を見た。
そうして入ってきたのは平均的な女性よりも高い背丈、少し赤みがかかった黒く艶やかで床まで届きそうな髪、銀縁眼鏡の向こうには金色の鋭い目、そして主人と違って豊満な身体のメイド――メリーザ・エル=トリアであった。
彼女は室内の一角にあるサイドテーブルに紅茶と茶菓子を置くと、主とその本を見た。
「お嬢様、また新しい詩集をお読みに?」
「ええ。これくらいせねば、帝国貴族に舐められるもの」
「体型の都合、既に自国の商人に舐められているのに努力を続けるとは。見事です」
「前半分が余計。主人をこうして煽って、何が楽しいのかしら」
「お嬢様がむやみにやり返さないところ、でしょうか」
「……屋敷の折檻部屋ってどうなってたかしら」
「カロリーナがネズミを連れていっていましたよ」
「そう。残念ね」
「ええ。これくらいせねば、帝国貴族に舐められるもの」
「体型の都合、既に自国の商人に舐められているのに努力を続けるとは。見事です」
「前半分が余計。主人をこうして煽って、何が楽しいのかしら」
「お嬢様がむやみにやり返さないところ、でしょうか」
「……屋敷の折檻部屋ってどうなってたかしら」
「カロリーナがネズミを連れていっていましたよ」
「そう。残念ね」
そう他愛ない会話をしたのち、リリアーナは身体を起こして腰かける形となる。
それに合わせてメリーザが紅茶を注ぐ。周囲に蒸らされた茶葉の良い香りが漂い、一口飲んだリリアーナも満足そうな顔をする。
それに合わせてメリーザが紅茶を注ぐ。周囲に蒸らされた茶葉の良い香りが漂い、一口飲んだリリアーナも満足そうな顔をする。
「相変わらず良い腕ね」
「……お嬢様はもっと有り難みを知るべきです」
「感謝しているわ。毎日ありがとう」
「もう一声」
「……私は何時から露店商になったのかしら」
「……お嬢様はもっと有り難みを知るべきです」
「感謝しているわ。毎日ありがとう」
「もう一声」
「……私は何時から露店商になったのかしら」
等と簡単なやり取りをする二人だったが、ふとリリアーナがこう切り出す。
「そういえば、市井で最近聞いた話を教えなさい。なんでもいいわ」
「……そうですね。最近ですと「お嬢様は魔王」というような冗談のような話が」
「具体的に」
「……そうですね。最近ですと「お嬢様は魔王」というような冗談のような話が」
「具体的に」
そう言われ、少し困ったような顔をするメリーザ。
だが、主人の顔を見て話を続ける。
だが、主人の顔を見て話を続ける。
「……「リリアーナは悪魔を従えている。故に魔王だ」と」
そう言われた瞬間リリアーナの顔こそ変わらなかったが、眉が少し動く。何を言われても余裕であった筈の頬が少しひきつる。己のことより嫌なものを突かれたように。
しかし、従者の手前取り繕うと命令を出す。
しかし、従者の手前取り繕うと命令を出す。
「言わせて、思い出させて、私が悪かったわ。メリーザ、下がりなさい。そして、その話は忘れなさい」
「なにもしないでよろしいので?」
「下手に『ガスペリ家』が何かしたら問題ですもの。こういうのは飽きるまでさせておけば、勝手に終わるわ」
「であれば、そのように」
「それと……同じ話を聞くのが、或いは妹達に聞かせるのが嫌なら、暫く市井を歩くのはやめることね。他の者を使いなさい」
「なにもしないでよろしいので?」
「下手に『ガスペリ家』が何かしたら問題ですもの。こういうのは飽きるまでさせておけば、勝手に終わるわ」
「であれば、そのように」
「それと……同じ話を聞くのが、或いは妹達に聞かせるのが嫌なら、暫く市井を歩くのはやめることね。他の者を使いなさい」
そう言うと、リリアーナはカップを置き、ベッドに勢い良く飛び込む。放置されていた詩集が些か動く。
それを見たメリーザは1杯だけ飲まれた紅茶と手付かずのお茶菓子を片付けるべく部屋を出ようとする。
それを見たメリーザは1杯だけ飲まれた紅茶と手付かずのお茶菓子を片付けるべく部屋を出ようとする。
その時、リリアーナはこう言い残すのだった。
「食べたいのなら、従者の皆で食べなさい。ポットの紅茶もまだ温かいなら飲みなさい。
それと……メリーザ、気負わないように」
それと……メリーザ、気負わないように」
メリーザは只、「はい」と返して部屋を出る。
そうして暫く歩き、誰も聞いていないタイミングでこう溢した。
「お嬢様は私達に優しすぎます」と。
そうして暫く歩き、誰も聞いていないタイミングでこう溢した。
「お嬢様は私達に優しすぎます」と。