私は姫巫女候補たちの住まう宮を訪れていた。
華やかなけれど静かな宮。
その一室、紫藤 桃花の部屋。
本日の依頼人であり、姫巫女候補の一人。
「失礼いたします」扉をとんとんと叩いて、合図が返ってきたのを見て、開ける。
「貴方が、依頼人である紫藤 桃花様でよろしいでしょうか?」
私は恐る恐る尋ねる。
淡藤色の髪のカラスの有翼人の彼女は答える。
「ええ、あっていますわ!わたくしが紫藤 桃花でしてよ!あなた絵師であっていらっしゃいます??わたくしにふさわしくないものは描かないでくださいませ」
「もちろんでございます。依頼の手紙で聞いていたこと、執筆、家柄、そして今紫藤 桃花様に会ったことで感じた想い、紫藤 桃花様に似合う一着の絵を作成いたしますことをお約束します」
頭を下げて、依頼人である女性を見つめた。
「ええ、頼みますわよ!」
その声を受けて、私は顔を上げて、帳面と筆を取り出し、今見た彼女に似合う図案を描き始める。
華やかなけれど静かな宮。
その一室、紫藤 桃花の部屋。
本日の依頼人であり、姫巫女候補の一人。
「失礼いたします」扉をとんとんと叩いて、合図が返ってきたのを見て、開ける。
「貴方が、依頼人である紫藤 桃花様でよろしいでしょうか?」
私は恐る恐る尋ねる。
淡藤色の髪のカラスの有翼人の彼女は答える。
「ええ、あっていますわ!わたくしが紫藤 桃花でしてよ!あなた絵師であっていらっしゃいます??わたくしにふさわしくないものは描かないでくださいませ」
「もちろんでございます。依頼の手紙で聞いていたこと、執筆、家柄、そして今紫藤 桃花様に会ったことで感じた想い、紫藤 桃花様に似合う一着の絵を作成いたしますことをお約束します」
頭を下げて、依頼人である女性を見つめた。
「ええ、頼みますわよ!」
その声を受けて、私は顔を上げて、帳面と筆を取り出し、今見た彼女に似合う図案を描き始める。
強気ながらも、その声色からそれが本心というよりはそのように振る舞っていることがわかる。
また、元気が良いこともわかった、手紙の段階のエピソードと、町の人や巫女候補となる前に流れ出ていた情報からかなりお転婆であったという。駆け回るようなタイプでお祭りなどでは、部下が大変な思いをしていたらしいという噂を仕入れている。
内面ではなく、外面に目を向けると、淡藤色の髪はよく手入れがされている。
烏の有翼人なだけあり、身体に烏の翼が生えている。
それは漆色のようであり輝いていた。
そして家柄へ目を向ければ、紫藤家の分家の出。
つまり、格の低い家であると同時に中立派閥である。
そのことから、書面などを取り扱うことも多い家だった。
家紋は藤。
また、元気が良いこともわかった、手紙の段階のエピソードと、町の人や巫女候補となる前に流れ出ていた情報からかなりお転婆であったという。駆け回るようなタイプでお祭りなどでは、部下が大変な思いをしていたらしいという噂を仕入れている。
内面ではなく、外面に目を向けると、淡藤色の髪はよく手入れがされている。
烏の有翼人なだけあり、身体に烏の翼が生えている。
それは漆色のようであり輝いていた。
そして家柄へ目を向ければ、紫藤家の分家の出。
つまり、格の低い家であると同時に中立派閥である。
そのことから、書面などを取り扱うことも多い家だった。
家紋は藤。
そんな彼女に似合う図案を、私は描いていく。
まず色としては、濃藤。彼女の髪の色を少し濃くした物の紙を選ぶ。
これは実際には、灰見のある濃藤を発注する予定となるものだ。
そして、そこに描くのは藤。色は金。
枝垂れるように咲く花房を背中から、袖に。 そして少しだけ、袖には花びらを散らす。
それを光を受ける角度で陰影が変わるように描いていく。
想定する帯は、金糸で織り込まれた織帯。 そして帯の真ん中には家紋である藤を描く。
きっと似合うだろうそう思いながら、描き終えて彼女へと見せる。
まず色としては、濃藤。彼女の髪の色を少し濃くした物の紙を選ぶ。
これは実際には、灰見のある濃藤を発注する予定となるものだ。
そして、そこに描くのは藤。色は金。
枝垂れるように咲く花房を背中から、袖に。 そして少しだけ、袖には花びらを散らす。
それを光を受ける角度で陰影が変わるように描いていく。
想定する帯は、金糸で織り込まれた織帯。 そして帯の真ん中には家紋である藤を描く。
きっと似合うだろうそう思いながら、描き終えて彼女へと見せる。
「完成いたしました、紫藤 桃花様。こちらをご覧ください」 私は彼女へ描いた図案を見せる。
「あら?あまり派手ではなくて?その何というか地味と言いますか………わたくしが動いたときに目立つようなものを想像してましたわ」
彼女はやや不満げに物を言った。 だからこそ、私はその疑問に答える。
「ええ。ですが、紫藤様。派手である必要はないと、私は思いました。 貴女は、すでに十分目を引く存在です。さらに言えば………貴女の強さの在り方を表現させていただいたものです」 「強さ?わたくしの?」
目を見開くような彼女に私は畳み掛ける。
「ええ、強さです。貴女のその強気な態度も、私は見抜いています。それは見せ方であり、役割であるのでしょうと。けれど、根底にあるものは、揺るがない芯の強さ、それが、私には藤の姿に見えました。ですから藤なのです。そしてこの金糸に使われているのは、本来使われることの多い平金糸ではなくて、撚金糸です。光は反射せずに浮かび上がるもの。これが一番貴方の強さを再現できると思いました」
「それは、なんでかしら?」
聞かれると思っていた私はそれを答えた。
「はい。紫藤 桃花様の強さは、派手に主張する強さではなく、人を引き寄せるような芯のある強さであると感じました。撚金糸は、見る角度や動きによって微細に光が変わります。動けば映え、止まれば沈みます。貴方にはすごくお似合いだと思います」
「一見の余地はあるわね、可能性の一つとしては認めて差し上げますわ」
「それはうれしいです、そして他の部分、花びらの散り具合は貴方の活発さを引き立ててるように、動くと映えるようになっております」
「あら、それはいいじゃないの!」
「喜んでいただけて何よりです、そして葉や蔓の部分は青藤の絹糸を想定しております。これは、藤の若さ、そしてこれから伸びる存在を象徴する色合いで、紫藤 桃花様、貴方の成長と、若さを意識しております。」
「かなり考えてくださっているのかしら!成長、成長………しなくてはなりませんもの」
少し考え込むような声色をした彼女にラストにさらに畳み掛けた。
「そして最後に、この布の色合いです。この藤色の布地は、貴女の髪色より少しだけ濃い濃藤です。 ただの濃色ではありません。ほんのわずかに灰味を含ませ、深さと静けさを帯びた染めにしています」
「どうして灰味を?華やかではなくなってしまうのでなくて?」
「藤という花は、ただ華やかであればいいというものではありません。その奥に、寂しさや誇り、そして覚悟があります。貴女のように。派手な色では、貴女の“本当の姿”が隠れてしまう。ですから、纏って初めて気づく静けさを仕込んでいるのです貴方のなかに秘められた本来の、強さを見て貰いたいそう願ったからこそなのです」
「本当に、わたくしのことをよく見ていらっしゃいますわね、あなたは」
相手の笑顔を見て、私はこの仕事をやり切れた。 満足していただけた。 そう感じ取ることができた。
「はい。私は、お客様方に一番似合うものを、願いを、思いを、信念をお客様のすべてを詰め込むこと。それを仕事の時の信念にしております。ですから紫藤 桃花様の事もよく見させてもらいました」
「ええ、こちらでおねがいしますわ!きっとこの衣に似合う人になってみせますの!」
力強くはっきりと彼女はこれにするという決意を伝えてきた。 「承知いたしました。紫藤 桃花様。 この衣が、貴女の最初の一歩となるよう、心を尽くして仕立てさせていただきます」
私はその言葉に、一礼し、図案とともに添えるための、製作指示の帳面に筆を走らせ始めた。
この図案が無事に完成することを祈って。
「あら?あまり派手ではなくて?その何というか地味と言いますか………わたくしが動いたときに目立つようなものを想像してましたわ」
彼女はやや不満げに物を言った。 だからこそ、私はその疑問に答える。
「ええ。ですが、紫藤様。派手である必要はないと、私は思いました。 貴女は、すでに十分目を引く存在です。さらに言えば………貴女の強さの在り方を表現させていただいたものです」 「強さ?わたくしの?」
目を見開くような彼女に私は畳み掛ける。
「ええ、強さです。貴女のその強気な態度も、私は見抜いています。それは見せ方であり、役割であるのでしょうと。けれど、根底にあるものは、揺るがない芯の強さ、それが、私には藤の姿に見えました。ですから藤なのです。そしてこの金糸に使われているのは、本来使われることの多い平金糸ではなくて、撚金糸です。光は反射せずに浮かび上がるもの。これが一番貴方の強さを再現できると思いました」
「それは、なんでかしら?」
聞かれると思っていた私はそれを答えた。
「はい。紫藤 桃花様の強さは、派手に主張する強さではなく、人を引き寄せるような芯のある強さであると感じました。撚金糸は、見る角度や動きによって微細に光が変わります。動けば映え、止まれば沈みます。貴方にはすごくお似合いだと思います」
「一見の余地はあるわね、可能性の一つとしては認めて差し上げますわ」
「それはうれしいです、そして他の部分、花びらの散り具合は貴方の活発さを引き立ててるように、動くと映えるようになっております」
「あら、それはいいじゃないの!」
「喜んでいただけて何よりです、そして葉や蔓の部分は青藤の絹糸を想定しております。これは、藤の若さ、そしてこれから伸びる存在を象徴する色合いで、紫藤 桃花様、貴方の成長と、若さを意識しております。」
「かなり考えてくださっているのかしら!成長、成長………しなくてはなりませんもの」
少し考え込むような声色をした彼女にラストにさらに畳み掛けた。
「そして最後に、この布の色合いです。この藤色の布地は、貴女の髪色より少しだけ濃い濃藤です。 ただの濃色ではありません。ほんのわずかに灰味を含ませ、深さと静けさを帯びた染めにしています」
「どうして灰味を?華やかではなくなってしまうのでなくて?」
「藤という花は、ただ華やかであればいいというものではありません。その奥に、寂しさや誇り、そして覚悟があります。貴女のように。派手な色では、貴女の“本当の姿”が隠れてしまう。ですから、纏って初めて気づく静けさを仕込んでいるのです貴方のなかに秘められた本来の、強さを見て貰いたいそう願ったからこそなのです」
「本当に、わたくしのことをよく見ていらっしゃいますわね、あなたは」
相手の笑顔を見て、私はこの仕事をやり切れた。 満足していただけた。 そう感じ取ることができた。
「はい。私は、お客様方に一番似合うものを、願いを、思いを、信念をお客様のすべてを詰め込むこと。それを仕事の時の信念にしております。ですから紫藤 桃花様の事もよく見させてもらいました」
「ええ、こちらでおねがいしますわ!きっとこの衣に似合う人になってみせますの!」
力強くはっきりと彼女はこれにするという決意を伝えてきた。 「承知いたしました。紫藤 桃花様。 この衣が、貴女の最初の一歩となるよう、心を尽くして仕立てさせていただきます」
私はその言葉に、一礼し、図案とともに添えるための、製作指示の帳面に筆を走らせ始めた。
この図案が無事に完成することを祈って。