日が登り始める頃合いの桜姫島、姫巫女――――――龍神に仕える役職にして秋津列島における最高指導者――――――が住まう屋敷の庭にて鈴華は龍神に舞を捧げていた。現姫巫女としての役割だけではない。龍神への信仰心が篤い彼女にとって幼い頃からの習慣だった。自分たちを見守り続けていることに対する日頃の感謝の思いを伝えるために。
一通り踊り終え一息ついていると
「お疲れ様です。こちらをどうぞ」
彼女の護家人――――――姫巫女の護衛を務め支える強き武士――――――犬山春弥が手拭いと竹の水入れを持って背後に立っていた。背中から声を掛けられたためか思わず驚きの声を上げながら後ずさる。
「は、春弥か…。い、いきなり声をかけるではない! しかも背後から! 驚くであろうが!!」
「申し訳ありません。つい見惚れていました」
抗議の声を上げるもにこやかな笑顔で対応されてしまう。この男、鈴華が舞を終えるたびに背後から出現してくるのだ。何度注意しても華麗に聞き流されてしまうためこういったやり取りが毎回のごとく続いている。
笑顔のまま手拭いと水入れを差し出す春弥からむくれ顔を浮かべて鈴華はそれらを受け取る。言いたいことはいくつかあるが言っても聞き流されるのが目に見えているため飲み込む。
「……ありがとう。春弥」
一言お礼を言うと「恐縮です」とにこやかに返される。そう言った対応に更にむくれつつ鈴華は手拭いで汗を拭き水入れを口に付ける。適度に冷えた水が妙においしく感じられる。
「いつものことだがご苦労なことだな。それで今日の予定は?」
「本日は午後から御門様ならびに将軍様との対談が予定されております。書類仕事は午前中に済ませてしまいましょう」
「御門に将軍かぁ……。わらわはあの人たち苦手。また嫌味とか言われたらどうしよう…」
政務処理能力に関して特段秀でているわけではない鈴華はちょくちょく御門や将軍から発せられる嫌味が苦手であるようだった。
「政務の一巻です。嫌味は頑張って聞き流してしまいましょう」
「春弥みたいに特定の言葉を聞き流せる耳を持ってるわけじゃないぞ?」
「大丈夫ですよ。僕が一緒にいますから」
午後の対談に今から憂鬱な気分に陥りそうな鈴華を春弥は励ます。
「……頼りにしているからな? 春弥」
「はい、いくらでも頼ってください」
春弥の励ましが効いたのか鈴華はいくらか気を持ち直す。そして身支度を整えるべく春弥と共に庭を後にするのであった。
一通り踊り終え一息ついていると
「お疲れ様です。こちらをどうぞ」
彼女の護家人――――――姫巫女の護衛を務め支える強き武士――――――犬山春弥が手拭いと竹の水入れを持って背後に立っていた。背中から声を掛けられたためか思わず驚きの声を上げながら後ずさる。
「は、春弥か…。い、いきなり声をかけるではない! しかも背後から! 驚くであろうが!!」
「申し訳ありません。つい見惚れていました」
抗議の声を上げるもにこやかな笑顔で対応されてしまう。この男、鈴華が舞を終えるたびに背後から出現してくるのだ。何度注意しても華麗に聞き流されてしまうためこういったやり取りが毎回のごとく続いている。
笑顔のまま手拭いと水入れを差し出す春弥からむくれ顔を浮かべて鈴華はそれらを受け取る。言いたいことはいくつかあるが言っても聞き流されるのが目に見えているため飲み込む。
「……ありがとう。春弥」
一言お礼を言うと「恐縮です」とにこやかに返される。そう言った対応に更にむくれつつ鈴華は手拭いで汗を拭き水入れを口に付ける。適度に冷えた水が妙においしく感じられる。
「いつものことだがご苦労なことだな。それで今日の予定は?」
「本日は午後から御門様ならびに将軍様との対談が予定されております。書類仕事は午前中に済ませてしまいましょう」
「御門に将軍かぁ……。わらわはあの人たち苦手。また嫌味とか言われたらどうしよう…」
政務処理能力に関して特段秀でているわけではない鈴華はちょくちょく御門や将軍から発せられる嫌味が苦手であるようだった。
「政務の一巻です。嫌味は頑張って聞き流してしまいましょう」
「春弥みたいに特定の言葉を聞き流せる耳を持ってるわけじゃないぞ?」
「大丈夫ですよ。僕が一緒にいますから」
午後の対談に今から憂鬱な気分に陥りそうな鈴華を春弥は励ます。
「……頼りにしているからな? 春弥」
「はい、いくらでも頼ってください」
春弥の励ましが効いたのか鈴華はいくらか気を持ち直す。そして身支度を整えるべく春弥と共に庭を後にするのであった。