※このSSには残酷な描写が含まれます。
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ノルザンツが目を覚ました時、周囲は暗がりに覆われていた。何も見えず、しかしエルフや奴隷として扱われる種族の魔力だけは感じられる。ここはどこだとノルザンツは思考する。自分はこんなところにいるはずはないのだ。休暇を利用してブリジット――――――ノルザンツの幼馴染の親友、そして現在は帝都イルニアから離れた田舎で教師となり子供達の教育をしている――――――の元へ顔を出していたのだ。いつも通りにイルニアでの生活やアヴェントゥラの活躍ぶりを話し――――――その過程で積もりに積もった愚痴や不満、内心で抱えている不安、恐怖を話してしまいブリジットから慰められた――――――軽くお茶をしていた。そしていつも通りにイルニアに戻ろうとしていた。その道中で背後から襲撃を受け気絶したことをノルザンツは思い出した。その時だった。
急に明かりがつき暗がりが晴れる。その際のまぶしさに一度目がくらみ、顔をしかめるもすぐに慣れる。そこには第十六軍団《ルウィナ》の軍団長ヂロイザ――――――成人の平均身長よりも背の低い猫背に地面に着くほどに伸びた灰色の髪の女性エルフ――――――と彼女に付き従うエルフの研究者に《ルウィナ》で管理している奴隷達――――――研究の助手として招集された知識のある者たち、そして人体実験の被験者としての役割も兼ねている――――――の姿が見られた。
「ヂロイザ殿……、これは一体……」
ヂロイザに状況について尋ねつつ身じろぎをしようとして、身体を動かせないことに気が付く。拘束されているからだ。両手両足が縛られているだけで済むような生易しい拘束ではない。胴体はおろか頭部も身動きが一切取れないように処置されている。その上身体中のあちこちに刺さる様々な太さのチューブが何かに繋がっている。
「……ヂロイザ殿、これは何の真似ですか? 僕に何を……」
「貴方には私が開発した新兵器の魔力タンクになってもらう。貴方の返事はいらない」
「なんだと?」
ヂロイザの口から信じられないような言葉が放たれる。魔力タンク? それも新兵器だと? ノルザンツは一瞬混乱するもすぐに思考を取り戻し、そして心当たりの一つにたどり着く。以前ヂロイザはアヴェントゥラにある兵器の経過報告を行っていた。その名は――――――
「――――――超重魔導工学砲。完成していたのか」
「ようやく完成した。貴方を組み込むことでね」
その言葉にノルザンツは己の耳を疑った。自分を組み込んで完成した。目の前のエルフは確かにそう言った。そして先ほどの彼女の言葉を思い返し、己が超重魔導工学砲の魔力タンクにさせられたことを把握した。
「最も今までの肉体では魔力タンクに不向きだからある程度薬漬けにしたりちょっといろいろ弄ったりさせてもらったけどね。あ、これで貴方はもうまともに外に出ることはできないから。魔力タンクが動く必要なんてないからね」
そのあまりな言いようにノルザンツは絶句した。ノルザンツとヂロイザは政治的に対立していた。それ故にいつ彼女から暗殺の手を向けられるのではないかと警戒していた。しかし、暗殺すら生ぬるく感じるような所業を施されるとは考えもしなかった。
「なぜ……? なぜ私を……」
「本当は魔力さえ豊富であれば誰でもよかったのだけど条件に合致する奴隷が見つからなくてね。ちょうど邪魔だったし貴方を有効活用することにしたの。生ぬるい覚悟のノルザンツ軍団長。貴方は本当に邪魔でうざくて仕方がなかったの。私が素晴らしい魔導工学を発表するたびにやたら揚げ足を突くように欠点を指摘したり、人体実験が過激だのなんだの本当にうっとうしかったわ! 貴方が発表する魔法は安全なだけで私が作った兵器に比べて火力が足りないし戦場にもっていっても役に立ちそうもない物ばかり。傷を癒す? 戦いで荒れた土地や水源の浄化? 農作物を土地に負担をかけないで効率よく生産する魔法? 生ぬるいような物ばかり生み出してその癖アヴェントゥラ様からは気に入られちゃってさ!! 邪魔でうざくてうっとおしくて本当に仕方ないわこのぬるくて弱いだけのクズが!!!」
ヂロイザはノルザンツに暴行を加え始める。腹を殴り、顔を蹴り、鞭で叩きのめす。
「その屑を徹底的に痛めつけなさい! 二度と反抗する気が起きないように! やらなきゃ次の実験は貴方たちが被験者よ!!!」
ヂロイザの命令に助手や奴隷達が慌てて従う。ヂロイザがそうしたように内臓機能に支障をきたすほどに胴体を攻撃し、元の顔がどんな状態だったか分からなくなるまで殴る蹴るを繰り返し、身体のあちこちに鞭跡や蚯蚓腫れが出来るまで鞭打ちを繰り返した。恐怖に駆られるように、ヂロイザの気が済むまで、ノルザンツへの暴行が続いた。暴行の激しさからノルザンツは悲鳴を上げることすら出来なかった。
急に明かりがつき暗がりが晴れる。その際のまぶしさに一度目がくらみ、顔をしかめるもすぐに慣れる。そこには第十六軍団《ルウィナ》の軍団長ヂロイザ――――――成人の平均身長よりも背の低い猫背に地面に着くほどに伸びた灰色の髪の女性エルフ――――――と彼女に付き従うエルフの研究者に《ルウィナ》で管理している奴隷達――――――研究の助手として招集された知識のある者たち、そして人体実験の被験者としての役割も兼ねている――――――の姿が見られた。
「ヂロイザ殿……、これは一体……」
ヂロイザに状況について尋ねつつ身じろぎをしようとして、身体を動かせないことに気が付く。拘束されているからだ。両手両足が縛られているだけで済むような生易しい拘束ではない。胴体はおろか頭部も身動きが一切取れないように処置されている。その上身体中のあちこちに刺さる様々な太さのチューブが何かに繋がっている。
「……ヂロイザ殿、これは何の真似ですか? 僕に何を……」
「貴方には私が開発した新兵器の魔力タンクになってもらう。貴方の返事はいらない」
「なんだと?」
ヂロイザの口から信じられないような言葉が放たれる。魔力タンク? それも新兵器だと? ノルザンツは一瞬混乱するもすぐに思考を取り戻し、そして心当たりの一つにたどり着く。以前ヂロイザはアヴェントゥラにある兵器の経過報告を行っていた。その名は――――――
「――――――超重魔導工学砲。完成していたのか」
「ようやく完成した。貴方を組み込むことでね」
その言葉にノルザンツは己の耳を疑った。自分を組み込んで完成した。目の前のエルフは確かにそう言った。そして先ほどの彼女の言葉を思い返し、己が超重魔導工学砲の魔力タンクにさせられたことを把握した。
「最も今までの肉体では魔力タンクに不向きだからある程度薬漬けにしたりちょっといろいろ弄ったりさせてもらったけどね。あ、これで貴方はもうまともに外に出ることはできないから。魔力タンクが動く必要なんてないからね」
そのあまりな言いようにノルザンツは絶句した。ノルザンツとヂロイザは政治的に対立していた。それ故にいつ彼女から暗殺の手を向けられるのではないかと警戒していた。しかし、暗殺すら生ぬるく感じるような所業を施されるとは考えもしなかった。
「なぜ……? なぜ私を……」
「本当は魔力さえ豊富であれば誰でもよかったのだけど条件に合致する奴隷が見つからなくてね。ちょうど邪魔だったし貴方を有効活用することにしたの。生ぬるい覚悟のノルザンツ軍団長。貴方は本当に邪魔でうざくて仕方がなかったの。私が素晴らしい魔導工学を発表するたびにやたら揚げ足を突くように欠点を指摘したり、人体実験が過激だのなんだの本当にうっとうしかったわ! 貴方が発表する魔法は安全なだけで私が作った兵器に比べて火力が足りないし戦場にもっていっても役に立ちそうもない物ばかり。傷を癒す? 戦いで荒れた土地や水源の浄化? 農作物を土地に負担をかけないで効率よく生産する魔法? 生ぬるいような物ばかり生み出してその癖アヴェントゥラ様からは気に入られちゃってさ!! 邪魔でうざくてうっとおしくて本当に仕方ないわこのぬるくて弱いだけのクズが!!!」
ヂロイザはノルザンツに暴行を加え始める。腹を殴り、顔を蹴り、鞭で叩きのめす。
「その屑を徹底的に痛めつけなさい! 二度と反抗する気が起きないように! やらなきゃ次の実験は貴方たちが被験者よ!!!」
ヂロイザの命令に助手や奴隷達が慌てて従う。ヂロイザがそうしたように内臓機能に支障をきたすほどに胴体を攻撃し、元の顔がどんな状態だったか分からなくなるまで殴る蹴るを繰り返し、身体のあちこちに鞭跡や蚯蚓腫れが出来るまで鞭打ちを繰り返した。恐怖に駆られるように、ヂロイザの気が済むまで、ノルザンツへの暴行が続いた。暴行の激しさからノルザンツは悲鳴を上げることすら出来なかった。
しばらくしてノルザンツは強制的に意識を起こされた。拘束具に何らかの刺激を与えるよう仕掛けが施されているのだ。目の前にはヂロイザと彼女の助手たちがいた。
「貴方に素晴らしい光景を見せてやろう。ノルザンツ」
そう言ってノルザンツの目の前に何らかの結晶体が持ち運ばれる。その結晶体は発光するとともに外の景色を映し出す。おそらく魔導工学の産物の一つだろうとノルザンツは判断する。結晶体からは戦場の様子が映し出されている。どこかで戦闘が行われているのだ。このご時世においてそう珍しいものではなかった。
「今から貴方がもたらす光景を見せてあげる。愉しみでしょう?」
その言葉でヂロイザが何を見せようとしているのかノルザンツは理解した。辞めろと叫ぼうとして呼吸に失敗して咳き込む。その間にヂロイザの助手たちが超重魔導工学砲への操作を終える。そしてヂロイザは端的に命令を発した。
「撃て」
身体に繋がれたチューブを通してノルザンツの魔力が一斉に超重魔導工学砲へ注がれる。ノルザンツに体内の血を一斉に抜かれるような痛みと喪失感が走る。その痛みに喉が引きつり悲鳴を上げることもできず空気だけが零れる。砲身から戦場に向け一筋の光が放たれる。そして着弾位置を中心に大きな爆発が起きる。その戦場にいた者たちの命が一瞬で消え去り、彼らがいた場所は焦土と化し草木を含め命ひとつ残らず焼き尽くされた。その光景を最後に結晶体は砕け散る。一回きりの、それも短時間で砕け散るような消耗品だからだ。結晶体から映された光景を見たヂロイザの助手たちは驚愕した。超重魔導工学砲の威力に、自分たちが作り上げた兵器がもたらした結果に。言葉も出なかった。一方ヂロイザは笑っていた。自らが生み出した兵器とそれがもたらした結果に。一瞬で叛徒共が消え去ったことに、地獄のような光景が広がっていることに狂笑を抑えることができなかった。
「素晴らしいわノルザンツ! これが私の生み出した超重魔導工学砲! 貴方がもたらした地獄だ! 貴方さえいなければこんなことにはならなかったのにね!!!」
自らの行いを棚に上げヂロイザはノルザンツを罵倒する。彼女の狂笑を耳にしながらノルザンツは驚愕と悲痛と、苦悶が入り混じった表情を浮かべ、ストレスが精神の許容範囲を上回ったため過呼吸に陥り気を失った。
「貴方に素晴らしい光景を見せてやろう。ノルザンツ」
そう言ってノルザンツの目の前に何らかの結晶体が持ち運ばれる。その結晶体は発光するとともに外の景色を映し出す。おそらく魔導工学の産物の一つだろうとノルザンツは判断する。結晶体からは戦場の様子が映し出されている。どこかで戦闘が行われているのだ。このご時世においてそう珍しいものではなかった。
「今から貴方がもたらす光景を見せてあげる。愉しみでしょう?」
その言葉でヂロイザが何を見せようとしているのかノルザンツは理解した。辞めろと叫ぼうとして呼吸に失敗して咳き込む。その間にヂロイザの助手たちが超重魔導工学砲への操作を終える。そしてヂロイザは端的に命令を発した。
「撃て」
身体に繋がれたチューブを通してノルザンツの魔力が一斉に超重魔導工学砲へ注がれる。ノルザンツに体内の血を一斉に抜かれるような痛みと喪失感が走る。その痛みに喉が引きつり悲鳴を上げることもできず空気だけが零れる。砲身から戦場に向け一筋の光が放たれる。そして着弾位置を中心に大きな爆発が起きる。その戦場にいた者たちの命が一瞬で消え去り、彼らがいた場所は焦土と化し草木を含め命ひとつ残らず焼き尽くされた。その光景を最後に結晶体は砕け散る。一回きりの、それも短時間で砕け散るような消耗品だからだ。結晶体から映された光景を見たヂロイザの助手たちは驚愕した。超重魔導工学砲の威力に、自分たちが作り上げた兵器がもたらした結果に。言葉も出なかった。一方ヂロイザは笑っていた。自らが生み出した兵器とそれがもたらした結果に。一瞬で叛徒共が消え去ったことに、地獄のような光景が広がっていることに狂笑を抑えることができなかった。
「素晴らしいわノルザンツ! これが私の生み出した超重魔導工学砲! 貴方がもたらした地獄だ! 貴方さえいなければこんなことにはならなかったのにね!!!」
自らの行いを棚に上げヂロイザはノルザンツを罵倒する。彼女の狂笑を耳にしながらノルザンツは驚愕と悲痛と、苦悶が入り混じった表情を浮かべ、ストレスが精神の許容範囲を上回ったため過呼吸に陥り気を失った。
その後も超重魔導工学砲は戦場で使われた。そして地上から一つの文明が消えるのも時間の問題であった。そしてそこで終わるはずもなく。叛徒共の鎮圧を名目に何度も放たれ続けた。何度も、何度も、何度も。その度に多くの土地が焦土と化しそこにあった命が消え去っていく。その光景をノルザンツは何度も見せつけられた。ヂロイザの命令だった。徹底的にノルザンツの意思を砕こうとする彼女の思惑だ。ノルザンツは苦悩した。自分がエルフに魔法を教えなければ、『原初の悪魔』に魔法を乞わねばこんなことにはならなかったのではないかと。しかしそれではエルフは、己の友人たちは、アヴェントゥラは魔物にすりつぶされていくだけだと理解していた。それでも自らがもたらした結果に苦悩することを止めることができないまま時間が過ぎていった。
そして超重魔導工学砲の砲撃回数が二桁を優に越した頃にそれは起きた。
いつも通りにエルニア帝国への無駄な反乱行為を繰り返す愚か者共に砲撃を敢行しようとした瞬間、ノルザンツの魔力が変質した。それをヂロイザはすぐに異変として認識した。そしてノルザンツの様子を確認しようとした。その直後に、ノルザンツを中心に爆発が起きた。ヂロイザはそれを防ごうとしたが間に合わなかった。彼女の助手たちも奴隷達も皆巻き込まれ、魔力タンクに誘爆し、戦場の代わりに室内が焦土と化したのだった。
そして超重魔導工学砲の砲撃回数が二桁を優に越した頃にそれは起きた。
いつも通りにエルニア帝国への無駄な反乱行為を繰り返す愚か者共に砲撃を敢行しようとした瞬間、ノルザンツの魔力が変質した。それをヂロイザはすぐに異変として認識した。そしてノルザンツの様子を確認しようとした。その直後に、ノルザンツを中心に爆発が起きた。ヂロイザはそれを防ごうとしたが間に合わなかった。彼女の助手たちも奴隷達も皆巻き込まれ、魔力タンクに誘爆し、戦場の代わりに室内が焦土と化したのだった。
爆発の影響でノルザンツの拘束は灰と化し崩れ去る。その体を拘束する物がなくなったためにノルザンツは勢いよく倒れ込んだ。受け身を取る余力など残ってはいなかった。それでも体を起こし周囲を確認しようと首を動かす。
――――――目に映った光景は惨劇としか言いようのない物であった。無事な者など誰一人としていなかった。大半は体の半分が吹き飛ばされ、そうでなくても体が瓦礫によって潰されたことで命を落としている。ヂロイザは五体満足で生き残っているようだが重傷を負っており血を流しながら意識を失っているようだった。ノルザンツはこれが己が起こしたものであると直ぐに理解した。それ以外に説明のしようがないのだ。同時に自らが引き起こした事態を直視することができず慟哭する。
「何故だ……!何故、こんなことに……!」
「決まっているだろう? 君が魔法を教えたからだよ。ノルザンツ」
苦悶するノルザンツの目の前に『原初の悪魔』が現れる。彼に魔法を教えた存在が。意地の悪い笑みを浮かべながら。
「僕が……?」
「そうだよノルザンツ。君が魔法をエルフにもたらしたから、君が僕から魔法を教わったからこんなことになったんだ」
『原初の悪魔』は笑いながら言葉を紡ぐ。ノルザンツを打ちのめすために。その精神を砕くために。
「僕が君に魔法を教えたのはこうなることが分かっていたからだよ。君は魔法を必ず仲間に伝える。君の仲間はすぐに魔法を使えるようになる。そうすれば魔法を力として扱うようになるって簡単に予想できたよ。実際にそうなったでしょ? そして魔法が力として伝わればそれはあらゆる知的種族に向けられるようになる。そして統一という名の侵略行為が開始され多くの命が失われるようになる。君の仲間たちはどんどん傲慢になって行ってその内世界の支配者を気取るようになる。さらに君の仲間達は身内同士で対立し争い合うようになっていく」
『原初の悪魔』はつらつらと言葉を並べ立てる。淀みなく、どもることもなく。そして爽やかな笑みをノルザンツに向ける。
「そうなるよう僕が仕向けたんだ。始めからね」
その一言をノルザンツは受け止められなかった。
「僕は最初からこうなることが分かっていたしこうなるようエルフたちをそそのかしていたんだ。まさか君自身を道具みたいに扱うことまでは予想できなかったけどその分面白い光景が見れたよ。うん、すごく楽しいよノルザンツ」
友人に思い出を語りかけるような声色でノルザンツに言葉を投げかける。楽し気に、悪意の一切を感じさせないような口調で『原初の悪魔』はノルザンツの精神を砕こうと言葉を紡ぎ続けた。
「……僕を騙していた……? 最初からこうなることが……分かっていた……? 嘘だ。そんなの嘘だ。これは夢だ……そうだ……悪い夢だ……」
ノルザンツの呼吸が荒くなる。『原初の悪魔』の言葉が受け止めきれない。目の前の現実から逃避しようとして。
「夢じゃない。君がもたらした悪い現実さ。ノルザンツ」
それを『原初の悪魔』は許さず、ノルザンツの頭を掴み目の前の破壊の限りを尽くされた光景を目の当たりにさせる。ノルザンツは後悔と慟哭、そして逃避から叫んだ。自らがもたらした現実に耐えきれなかった。この日ノルザンツの精神は完全に崩壊、自暴自棄に陥り暴走を開始し、知的種族はおろかエルニア帝国へ数々の被害をもたらすようになった。そのうちダークエルフと呼ばれる魔族へと変貌しアヴェントゥラを自らと同じ存在に堕とすことを決めた。『原初の悪魔』はその姿を楽し気に眺め続けるだけであった。
――――――止められる者はただの一人としていなかった。
――――――目に映った光景は惨劇としか言いようのない物であった。無事な者など誰一人としていなかった。大半は体の半分が吹き飛ばされ、そうでなくても体が瓦礫によって潰されたことで命を落としている。ヂロイザは五体満足で生き残っているようだが重傷を負っており血を流しながら意識を失っているようだった。ノルザンツはこれが己が起こしたものであると直ぐに理解した。それ以外に説明のしようがないのだ。同時に自らが引き起こした事態を直視することができず慟哭する。
「何故だ……!何故、こんなことに……!」
「決まっているだろう? 君が魔法を教えたからだよ。ノルザンツ」
苦悶するノルザンツの目の前に『原初の悪魔』が現れる。彼に魔法を教えた存在が。意地の悪い笑みを浮かべながら。
「僕が……?」
「そうだよノルザンツ。君が魔法をエルフにもたらしたから、君が僕から魔法を教わったからこんなことになったんだ」
『原初の悪魔』は笑いながら言葉を紡ぐ。ノルザンツを打ちのめすために。その精神を砕くために。
「僕が君に魔法を教えたのはこうなることが分かっていたからだよ。君は魔法を必ず仲間に伝える。君の仲間はすぐに魔法を使えるようになる。そうすれば魔法を力として扱うようになるって簡単に予想できたよ。実際にそうなったでしょ? そして魔法が力として伝わればそれはあらゆる知的種族に向けられるようになる。そして統一という名の侵略行為が開始され多くの命が失われるようになる。君の仲間たちはどんどん傲慢になって行ってその内世界の支配者を気取るようになる。さらに君の仲間達は身内同士で対立し争い合うようになっていく」
『原初の悪魔』はつらつらと言葉を並べ立てる。淀みなく、どもることもなく。そして爽やかな笑みをノルザンツに向ける。
「そうなるよう僕が仕向けたんだ。始めからね」
その一言をノルザンツは受け止められなかった。
「僕は最初からこうなることが分かっていたしこうなるようエルフたちをそそのかしていたんだ。まさか君自身を道具みたいに扱うことまでは予想できなかったけどその分面白い光景が見れたよ。うん、すごく楽しいよノルザンツ」
友人に思い出を語りかけるような声色でノルザンツに言葉を投げかける。楽し気に、悪意の一切を感じさせないような口調で『原初の悪魔』はノルザンツの精神を砕こうと言葉を紡ぎ続けた。
「……僕を騙していた……? 最初からこうなることが……分かっていた……? 嘘だ。そんなの嘘だ。これは夢だ……そうだ……悪い夢だ……」
ノルザンツの呼吸が荒くなる。『原初の悪魔』の言葉が受け止めきれない。目の前の現実から逃避しようとして。
「夢じゃない。君がもたらした悪い現実さ。ノルザンツ」
それを『原初の悪魔』は許さず、ノルザンツの頭を掴み目の前の破壊の限りを尽くされた光景を目の当たりにさせる。ノルザンツは後悔と慟哭、そして逃避から叫んだ。自らがもたらした現実に耐えきれなかった。この日ノルザンツの精神は完全に崩壊、自暴自棄に陥り暴走を開始し、知的種族はおろかエルニア帝国へ数々の被害をもたらすようになった。そのうちダークエルフと呼ばれる魔族へと変貌しアヴェントゥラを自らと同じ存在に堕とすことを決めた。『原初の悪魔』はその姿を楽し気に眺め続けるだけであった。
――――――止められる者はただの一人としていなかった。
「――――――以上が事の顛末となります。アヴェントゥラ様」
帝都イルニア、その中心部の居城、その内の玉座にてヂロイザはアヴェントゥラに報告する。許しを請うような声色で。その報告を聞いていたアヴェントゥラは無言を貫いていた。
「……何故、ノルザンツを超重魔導工学砲の魔力タンクにしていた? そのような報告は聞いていないわ」
冷たい声でヂロイザに問い質す。彼女に向けられる視線はとても冷ややかな物であった。
「……あの男の存在がいずれ我らがアヴェントゥラ様の覇道の障害になると考えたからですからです。あの男はとても生ぬるい。いずれ貴方様の足を引っ張る存在に成り下がることが目に見えるように分かったが故に先んじて取り除こうとした次第です。第一あの男は昔から覚悟が足りないのです。何事も犠牲は付き物です。それは避けようがないが故に積極的に被らねばならない物。なのにあの男はそれから逃げようとしたのです。これはアヴェントゥラ様、ひいてはエルニア帝国に対する裏切りでございます。それ故に私は――――――」
「もういい。分かったわ」
ヂロイザの言い訳をアヴェントゥラは端的に切り捨てる。聞くに堪えないと言いたげに。
「……ノルザンツに付き従う連中も出てきたわ。私への忠誠を叫びながら反逆行為を繰り返しているそうよ。笑ってしまうわよね。私に忠誠を誓いながら叛乱するとかどんな冗談なのよ。ヂロイザ? 貴方はどちらなのかしら? 私に付き従う臣下か、もしくは忠誠を誓いながら叛乱してくる馬鹿どもの同類か?」
「……無論、貴方様に忠実な臣下でございます。アヴェントゥラ様」
「なら、今後は私の命令に従いなさい。どんな些細なことでも報告する事。そして――――――事が済み次第、天空要塞都市カエルムから超重魔導工学砲を完全に撤去する事、そして一生をカエルムの内部で過ごすことを命じるわ。いいわね?」
「かしこまりました。アヴェントゥラ様」
「ならさっさと行きなさい。これ以上ここに用はないでしょ?」
ヂロイザはその命令を了承した。それ以外の返答など許されなかった。ヂロイザが玉座を後にするのを見届けアヴェントゥラは頭を抱えた。己の浅薄さに、臣下の暴走を止められなかった不甲斐無さに。この日からアヴェントゥラは己が信じて歩み続けた道のりが過ちであったのではないかと悩み続けることとなった。他に道を選ぶことができたのではないか、死ぬまで苦悩し続けることとなったのだ。
帝都イルニア、その中心部の居城、その内の玉座にてヂロイザはアヴェントゥラに報告する。許しを請うような声色で。その報告を聞いていたアヴェントゥラは無言を貫いていた。
「……何故、ノルザンツを超重魔導工学砲の魔力タンクにしていた? そのような報告は聞いていないわ」
冷たい声でヂロイザに問い質す。彼女に向けられる視線はとても冷ややかな物であった。
「……あの男の存在がいずれ我らがアヴェントゥラ様の覇道の障害になると考えたからですからです。あの男はとても生ぬるい。いずれ貴方様の足を引っ張る存在に成り下がることが目に見えるように分かったが故に先んじて取り除こうとした次第です。第一あの男は昔から覚悟が足りないのです。何事も犠牲は付き物です。それは避けようがないが故に積極的に被らねばならない物。なのにあの男はそれから逃げようとしたのです。これはアヴェントゥラ様、ひいてはエルニア帝国に対する裏切りでございます。それ故に私は――――――」
「もういい。分かったわ」
ヂロイザの言い訳をアヴェントゥラは端的に切り捨てる。聞くに堪えないと言いたげに。
「……ノルザンツに付き従う連中も出てきたわ。私への忠誠を叫びながら反逆行為を繰り返しているそうよ。笑ってしまうわよね。私に忠誠を誓いながら叛乱するとかどんな冗談なのよ。ヂロイザ? 貴方はどちらなのかしら? 私に付き従う臣下か、もしくは忠誠を誓いながら叛乱してくる馬鹿どもの同類か?」
「……無論、貴方様に忠実な臣下でございます。アヴェントゥラ様」
「なら、今後は私の命令に従いなさい。どんな些細なことでも報告する事。そして――――――事が済み次第、天空要塞都市カエルムから超重魔導工学砲を完全に撤去する事、そして一生をカエルムの内部で過ごすことを命じるわ。いいわね?」
「かしこまりました。アヴェントゥラ様」
「ならさっさと行きなさい。これ以上ここに用はないでしょ?」
ヂロイザはその命令を了承した。それ以外の返答など許されなかった。ヂロイザが玉座を後にするのを見届けアヴェントゥラは頭を抱えた。己の浅薄さに、臣下の暴走を止められなかった不甲斐無さに。この日からアヴェントゥラは己が信じて歩み続けた道のりが過ちであったのではないかと悩み続けることとなった。他に道を選ぶことができたのではないか、死ぬまで苦悩し続けることとなったのだ。
「――――――そんな馬鹿な話があるものか!」
東マジョリア方面への侵攻を続けていたエルニア帝国第十九軍団《リウ》軍団長のサヴァンは部下からの報告――――――ノルザンツがエルニア帝国を裏切り叛乱行為を開始したという旨のものだ――――――に耳を疑い声を荒げる。ノルザンツのアヴェントゥラへの忠誠を、憧れを昔から知っているサヴァンからすればとても信じられるものではない。
「彼奴が陛下に逆らうはずがあるまい……! よって今回の件は敵国や魔王などによる計略だと見るべきだ! そうに決まっている!」
それ故にノルザンツの反逆行為を敵国、もしくは魔王などによる計略であると断じる。友人がアヴェントゥラを裏切るはずがないとそう信じこもうとした。
「し、しかしこの伝達書は本国からの、アヴェントゥラ様からの物です! ゆ、故に事実であるかと……」
「あり得ぬ! あり得るはずがない!」
サヴァンは部下の進言を斬り捨てようとする。しかし、アヴェントゥラからの伝達であることを示す証明が――――――帝国国璽による押印がされた公的文書が事実であることをサヴァンに突き付けていた。
「何故だ……何故なのだ……! ノルザンツ……!」
サヴァンの口からこの場にいない友人への疑問が零れる。しかし、その疑問に答えられるものは一人もいなかったのだった。そしてその後のサヴァンの人生においてノルザンツと再会することは二度となく、友人の考えを、思いを、彼が辿った境遇を知る機会が訪れることは一切なかった。
東マジョリア方面への侵攻を続けていたエルニア帝国第十九軍団《リウ》軍団長のサヴァンは部下からの報告――――――ノルザンツがエルニア帝国を裏切り叛乱行為を開始したという旨のものだ――――――に耳を疑い声を荒げる。ノルザンツのアヴェントゥラへの忠誠を、憧れを昔から知っているサヴァンからすればとても信じられるものではない。
「彼奴が陛下に逆らうはずがあるまい……! よって今回の件は敵国や魔王などによる計略だと見るべきだ! そうに決まっている!」
それ故にノルザンツの反逆行為を敵国、もしくは魔王などによる計略であると断じる。友人がアヴェントゥラを裏切るはずがないとそう信じこもうとした。
「し、しかしこの伝達書は本国からの、アヴェントゥラ様からの物です! ゆ、故に事実であるかと……」
「あり得ぬ! あり得るはずがない!」
サヴァンは部下の進言を斬り捨てようとする。しかし、アヴェントゥラからの伝達であることを示す証明が――――――帝国国璽による押印がされた公的文書が事実であることをサヴァンに突き付けていた。
「何故だ……何故なのだ……! ノルザンツ……!」
サヴァンの口からこの場にいない友人への疑問が零れる。しかし、その疑問に答えられるものは一人もいなかったのだった。そしてその後のサヴァンの人生においてノルザンツと再会することは二度となく、友人の考えを、思いを、彼が辿った境遇を知る機会が訪れることは一切なかった。
ブリジットはダークエルフへと変貌したノルザンツの前に立っていた。彼が襲ってきたわけではない。自らの意思でノルザンツの元へ来たのだ。思わぬ人物の到来に戸惑いを隠せないノルザンツを余所にブリジットは口を開いた。
「……私は君の味方だ、ノルザンツ。私を君と同じ存在にして欲しい」
そして一人の女がダークエルフへと変貌した。それを止める者は一人もいなかった。
「……私は君の味方だ、ノルザンツ。私を君と同じ存在にして欲しい」
そして一人の女がダークエルフへと変貌した。それを止める者は一人もいなかった。