太古の時代、樹魔カジューパラスと名付けられた死妖の魔王がいた。その魔王は巨大な樹木に寄生しては周辺一帯を自身のテリトリーに改編する性質を持っていた。そしてテリトリー内の樹木はすべてジューパラスによって汚染され内側を食い荒らされた挙句、毒や瘴気を放ち命ある存在を殺す魔物に変貌させられてしまっていた。その様は正しく侵略者と呼んでも過言ではない。そしてその侵略者は留まることを知らず、周りを汚染し続けそこに住まう生物を殺し自らの養分へと変え暴れ続ける。中心にある巨大な樹木を破壊するために森の中へ突入すれば魔物にされた木々が放つ毒と瘴気によって死に晒され、運よく巨大な樹木に到達し破壊しようとも自らのテリトリー内に存在する別の樹木へ移ることによって命を繋ぎ続ける。どんな生物であっても生存本能の強いこの魔王を滅ぼす手段などないはずであった。
ある時の事だった。自らがテリトリーとする森全体に火が放たれたのだ。突然のことに魔王カジューパラスは混乱する。テリトリー内に何らかの存在が侵入した形跡はない。だが一方的にこちらが攻撃されている。それも今まで受けたことのない攻撃だ。かジューパラスの特性として破壊されようとも時間をかけて復活し耐性を得るというものがある。そのため物理的な手段で攻撃されればそれらに対する対策が取られることとなる。それが自らを守る手段であり外敵に対する攻撃でもあった。
しかし、火に対する対策を学習する機会など今まで一度たりともなかったのだ。それ故になす術もなくテリトリーが、魔物とかした樹木たちが、そして自身の身体である巨大樹木が燃えていく様から逃れることができない。熱い、痛い、苦しい、この熱さと苦痛から逃れたい、だが逃れられない。焼け死んでしまう。それが樹魔カジューパラスの最後の思考であった。
そして、樹魔カジューパラスは火を放った相手に一矢報いることもなく一方的に焼き滅ぼされるのであった。
しかし、火に対する対策を学習する機会など今まで一度たりともなかったのだ。それ故になす術もなくテリトリーが、魔物とかした樹木たちが、そして自身の身体である巨大樹木が燃えていく様から逃れることができない。熱い、痛い、苦しい、この熱さと苦痛から逃れたい、だが逃れられない。焼け死んでしまう。それが樹魔カジューパラスの最後の思考であった。
そして、樹魔カジューパラスは火を放った相手に一矢報いることもなく一方的に焼き滅ぼされるのであった。
「あっけない物ね。あの厄介な魔王がなす術も焼かれていくなんて……やっぱり魔法って凄いわ」
樹魔カジューパラスが燃えていく様を遠くから眺めていたアヴェントゥラはそうつぶやく。魔法を手に入れたことで厄介な魔王の討伐が容易になったもののあまりにも一方的に討伐が可能となってしまったため困惑と魔法に対する称賛の念が湧き上がっているのだ。近くにいる臣下たちもアヴェントゥラと同じ感想を抱いていた。悲し気な表情を浮かべるノルザンツただ一人を除いて。
「……これが魔法がもたらした結果……。あまりにも残酷で一方的すぎる……」
森が、魔王が一方的に焼かれていく光景を見たノルザンツはぽつりとつぶやく。魔法が魔物、ひいては魔王との戦いに使われるであろうことは容易に想像ができた。自身もそのような使われ方をすることを望んでいた。しかし、このような結果がもたらされることに危機感を覚えることになるとは予想もつかなかった。ノルザンツの頭の中では魔法が魔王や魔物以外への攻撃に使われればどのような結果になるのか容易に想像ができてしまっていた。アヴェントゥラへ、エルフへ魔法を教えたことは正しかったのか、魔法から生まれ齎した大火がエルフ自身をも焼き尽くすことになるのではないか、そのような迷いがノルザンツの胸中にあふれかえることとなった。ノルザンツの様子に気づく者はいない。アヴェントゥラも、その周りにいる臣下たちも、ノルザンツに対し気を遣うような視線を送るサヴァンでさえも、誰一人として気づく者はいなかったのであった。
樹魔カジューパラスが燃えていく様を遠くから眺めていたアヴェントゥラはそうつぶやく。魔法を手に入れたことで厄介な魔王の討伐が容易になったもののあまりにも一方的に討伐が可能となってしまったため困惑と魔法に対する称賛の念が湧き上がっているのだ。近くにいる臣下たちもアヴェントゥラと同じ感想を抱いていた。悲し気な表情を浮かべるノルザンツただ一人を除いて。
「……これが魔法がもたらした結果……。あまりにも残酷で一方的すぎる……」
森が、魔王が一方的に焼かれていく光景を見たノルザンツはぽつりとつぶやく。魔法が魔物、ひいては魔王との戦いに使われるであろうことは容易に想像ができた。自身もそのような使われ方をすることを望んでいた。しかし、このような結果がもたらされることに危機感を覚えることになるとは予想もつかなかった。ノルザンツの頭の中では魔法が魔王や魔物以外への攻撃に使われればどのような結果になるのか容易に想像ができてしまっていた。アヴェントゥラへ、エルフへ魔法を教えたことは正しかったのか、魔法から生まれ齎した大火がエルフ自身をも焼き尽くすことになるのではないか、そのような迷いがノルザンツの胸中にあふれかえることとなった。ノルザンツの様子に気づく者はいない。アヴェントゥラも、その周りにいる臣下たちも、ノルザンツに対し気を遣うような視線を送るサヴァンでさえも、誰一人として気づく者はいなかったのであった。