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少し遅い目覚め
目を覚ました時。
部屋の窓から差し込む光は、すでに午後の色へ変わっていた。
ティーはしばらく天井を見つめたまま、昨夜のことを思い返した。
事故。
病院。
手術。
現実に残されている身体。
そして、その身体が回復し、もうすぐ戻れるようになること。
マカロンと朝まで話し続けたあと、いつ眠ったのかは覚えていない。
時刻を確認する。
<15:08>
「よく眠った……」
身体を起こす。
眠る前まで胸の中に渦巻いていた不安は、消えてはいない。
それでも、頭の中で一つずつ言葉へ変えられる程度には落ち着いていた。
机の上には、開いたままの灰色のノート。
青い花のページには、
<次はお弁当を持ってくる>
その横に、マカロンが書き加えた、
<二人で>
という文字がある。
別のページには、昨夜ティーが書いた一行。
<現実へ戻れるまでの日も、私の時間>
ティーは、その文字をしばらく見つめた。
現実へ戻る日が近い。
だからといって。
今日が、その日までを待つだけの時間になるわけではない。
連絡画面を開く。
マカロンから一件、メッセージが届いていた。
<起きたら教えて。私も準備してる!>
送られたのは十分ほど前だった。
<今起きた。カフェで会おう>
返信すると、すぐに既読がついた。
<うん! 待ってる!>
ティーはベッドから下り、鏡の前へ立った。
銀色の髪。
青い瞳。
猫耳。
目覚めた時から着ている、白と黒の服。
任務用の装備を除けば、ティーが持っている服はこれだけだった。
自分で選んだものではない。
けれど、今まで服に困ったことはなかった。
マカロンと話すまでは。
「新しい服……」
鏡の中の自分へ、小さく呟く。
今日は、みたらしっぽという学生と会う。
友人も一緒に来るらしい。
買い物へ行くと決まったわけではない。
それでも。
初めて会う人たちと、何か新しいことが始まるかもしれない。
その予感だけで、猫耳が少し前を向いていた。
ティーは髪を整え、灰色のノートを鞄へ入れた。
部屋の扉を開く。
「行ってきます」
返事はない。
けれど。
今日も、自分で決めた場所へ向かうことができた。
部屋の窓から差し込む光は、すでに午後の色へ変わっていた。
ティーはしばらく天井を見つめたまま、昨夜のことを思い返した。
事故。
病院。
手術。
現実に残されている身体。
そして、その身体が回復し、もうすぐ戻れるようになること。
マカロンと朝まで話し続けたあと、いつ眠ったのかは覚えていない。
時刻を確認する。
<15:08>
「よく眠った……」
身体を起こす。
眠る前まで胸の中に渦巻いていた不安は、消えてはいない。
それでも、頭の中で一つずつ言葉へ変えられる程度には落ち着いていた。
机の上には、開いたままの灰色のノート。
青い花のページには、
<次はお弁当を持ってくる>
その横に、マカロンが書き加えた、
<二人で>
という文字がある。
別のページには、昨夜ティーが書いた一行。
<現実へ戻れるまでの日も、私の時間>
ティーは、その文字をしばらく見つめた。
現実へ戻る日が近い。
だからといって。
今日が、その日までを待つだけの時間になるわけではない。
連絡画面を開く。
マカロンから一件、メッセージが届いていた。
<起きたら教えて。私も準備してる!>
送られたのは十分ほど前だった。
<今起きた。カフェで会おう>
返信すると、すぐに既読がついた。
<うん! 待ってる!>
ティーはベッドから下り、鏡の前へ立った。
銀色の髪。
青い瞳。
猫耳。
目覚めた時から着ている、白と黒の服。
任務用の装備を除けば、ティーが持っている服はこれだけだった。
自分で選んだものではない。
けれど、今まで服に困ったことはなかった。
マカロンと話すまでは。
「新しい服……」
鏡の中の自分へ、小さく呟く。
今日は、みたらしっぽという学生と会う。
友人も一緒に来るらしい。
買い物へ行くと決まったわけではない。
それでも。
初めて会う人たちと、何か新しいことが始まるかもしれない。
その予感だけで、猫耳が少し前を向いていた。
ティーは髪を整え、灰色のノートを鞄へ入れた。
部屋の扉を開く。
「行ってきます」
返事はない。
けれど。
今日も、自分で決めた場所へ向かうことができた。
初めまして
カフェのんびりひっそりへ着くと。
マカロンは木製の看板の近くで待っていた。
ティーを見つけると、ぱっと表情を明るくする。
「ティー、おはよう。じゃなくて、こんにちは」
「こんにちは」
「少し緊張してきた」
「私も」
マカロンは自分の服を軽く見下ろした。
いつもの白いブラウスと、深緑色を基調にした服。
「変じゃないよね?」
「うん。マカロンらしい」
マカロンは安心したように笑った。
「ティーも、いつものティーだね」
二人で扉を開く。
小さなベルの音が鳴り、街のにぎわいが背後へ遠ざかった。
「いらっしゃいませー」
店の奥から、店主のチロルが出てくる。
柔らかな接客口調だが、店内や猫たちへ向ける目には、店を預かる青年らしい落ち着きがあった。
「こんにちは、チロルさん」
「こんにちは!」
「お二人とも、よく眠れましたか?」
「はい」
ティーが答えると、マカロンも大きく頷いた。
「少し寝すぎましたけど、元気です!」
「それならよかったです」
カウンターでは、コハクが食器を整えていた。
窓際のソファーには、ノワールが座っている。
長い金色の髪へ白い猫が半分埋もれるように丸くなり、灰色の猫はノワールの膝へ顎を乗せていた。
二人の来店へ気づくと、青い瞳を上げる。
「……こんにちは」
「こんにちは、ノワール」
「こんにちは!」
ノワールはティーの耳を見たあと、小さく口元を緩めた。
「……今日は、よく動いてます」
ティーは自分の猫耳へ触れた。
「少し、楽しみにしてたから」
「……そうみたいです」
ノワールは眠っている猫の背中を、ゆっくり撫でた。
チロルが店の奥を示す。
「みたらしっぽさんたちは、あちらです」
低い仕切りの向こう。
一つのテーブルに、二人の利用者が座っていた。
少年の足元では茶色の猫が丸くなり、その背中を静かに撫でている。
その隣にいる少女は、髪を左右のお団子へまとめていた。
髪には花飾り。
黒いタイツを身につけ、膝の上へ乗ろうとする猫のために、少しだけ座る位置をずらしている。
ティーたちが近づくと、二人とも顔を上げた。
「こんにちは」
少年が先に立ち上がった。
「みたらしっぽです。初めまして」
「ティーです」
「コルメリーマカロンです。マカロンで大丈夫です!」
「わかった。僕も、みたらしっぽでいいよ」
隣の少女も立ち上がる。
少し緊張しているようにも見えたが、向けられた笑顔は柔らかかった。
「チョコチップです。よろしくお願いします」
「よろしく、チョコチップさん」
「よろしくお願いします!」
四人で席へ着く。
チョコチップは、自分の隣に置いていたメニューをティーたちへ渡した。
「ショコ姉とチロルさんから、お二人のお話を少し聞いています」
「どんな話?」
ティーが尋ねる。
「昼間に何をして過ごすか、探していると」
それ以上のことは知らされていないらしい。
夜の仕事も。
理定者であることも。
ティーの現実の身体についても。
「ショコラさんには、みたらしっぽさんへ会えば退屈しないって言われました!」
マカロンが言う。
みたらしっぽは、少しだけ困ったように笑った。
「何かしないといけないみたいだね」
「先輩なら、すぐに何か見つけると思われているんですよ」
チョコチップの声には、普段から先輩をよく見ている親しさがあった。
みたらしっぽは、ティーとマカロンへ視線を戻した。
「二人は、何かしてみたいことある?」
マカロンは、少し考えたあと。
自分とティーの服を見比べた。
「新しい服が欲しいです」
その言葉へ。
チョコチップがすぐに顔を上げる。
「服を見に行くんですか?」
瞳が、先ほどよりも明るくなっていた。
「うん。私たち、普段の服がこれしかなくて」
ティーも白い袖を見た。
「自分で選んだ服は、一着もない」
チョコチップは驚いたように二人を見る。
それから、店の外へ出かける予定を想像したのか、少し嬉しそうに微笑んだ。
「アバター用の服でしたら、V0092が見やすいですよ。お店も多いですし、試着もすぐにできます」
「チョコは、行ったことある?」
みたらしっぽが尋ねる。
「はい。友達と何度か」
答える声が弾んでいる。
「見ているだけでも楽しい場所です」
マカロンがティーを見る。
言葉にしなくても、行きたいことは表情だけで十分に伝わった。
「今から行ける?」
ティーが尋ねる。
「もちろんです」
チョコチップは、迷わず答えた。
「私も、久しぶりに見たいです」
みたらしっぽも立ち上がる。
「じゃあ、行こうか」
席にいた猫を、隣のクッションへそっと移す。
四人が店を出ようとすると、チロルがカウンターから声をかけた。
「楽しんできてください」
「帰ったら、新しい服を見せます!」
マカロンが言う。
ノワールも、猫を抱いたまま小さく手を上げた。
「……いってらっしゃい」
「行ってきます、ノワール」
ティーも手を上げる。
新しい二人と。
初めての買い物へ出かけることになった。
マカロンは木製の看板の近くで待っていた。
ティーを見つけると、ぱっと表情を明るくする。
「ティー、おはよう。じゃなくて、こんにちは」
「こんにちは」
「少し緊張してきた」
「私も」
マカロンは自分の服を軽く見下ろした。
いつもの白いブラウスと、深緑色を基調にした服。
「変じゃないよね?」
「うん。マカロンらしい」
マカロンは安心したように笑った。
「ティーも、いつものティーだね」
二人で扉を開く。
小さなベルの音が鳴り、街のにぎわいが背後へ遠ざかった。
「いらっしゃいませー」
店の奥から、店主のチロルが出てくる。
柔らかな接客口調だが、店内や猫たちへ向ける目には、店を預かる青年らしい落ち着きがあった。
「こんにちは、チロルさん」
「こんにちは!」
「お二人とも、よく眠れましたか?」
「はい」
ティーが答えると、マカロンも大きく頷いた。
「少し寝すぎましたけど、元気です!」
「それならよかったです」
カウンターでは、コハクが食器を整えていた。
窓際のソファーには、ノワールが座っている。
長い金色の髪へ白い猫が半分埋もれるように丸くなり、灰色の猫はノワールの膝へ顎を乗せていた。
二人の来店へ気づくと、青い瞳を上げる。
「……こんにちは」
「こんにちは、ノワール」
「こんにちは!」
ノワールはティーの耳を見たあと、小さく口元を緩めた。
「……今日は、よく動いてます」
ティーは自分の猫耳へ触れた。
「少し、楽しみにしてたから」
「……そうみたいです」
ノワールは眠っている猫の背中を、ゆっくり撫でた。
チロルが店の奥を示す。
「みたらしっぽさんたちは、あちらです」
低い仕切りの向こう。
一つのテーブルに、二人の利用者が座っていた。
少年の足元では茶色の猫が丸くなり、その背中を静かに撫でている。
その隣にいる少女は、髪を左右のお団子へまとめていた。
髪には花飾り。
黒いタイツを身につけ、膝の上へ乗ろうとする猫のために、少しだけ座る位置をずらしている。
ティーたちが近づくと、二人とも顔を上げた。
「こんにちは」
少年が先に立ち上がった。
「みたらしっぽです。初めまして」
「ティーです」
「コルメリーマカロンです。マカロンで大丈夫です!」
「わかった。僕も、みたらしっぽでいいよ」
隣の少女も立ち上がる。
少し緊張しているようにも見えたが、向けられた笑顔は柔らかかった。
「チョコチップです。よろしくお願いします」
「よろしく、チョコチップさん」
「よろしくお願いします!」
四人で席へ着く。
チョコチップは、自分の隣に置いていたメニューをティーたちへ渡した。
「ショコ姉とチロルさんから、お二人のお話を少し聞いています」
「どんな話?」
ティーが尋ねる。
「昼間に何をして過ごすか、探していると」
それ以上のことは知らされていないらしい。
夜の仕事も。
理定者であることも。
ティーの現実の身体についても。
「ショコラさんには、みたらしっぽさんへ会えば退屈しないって言われました!」
マカロンが言う。
みたらしっぽは、少しだけ困ったように笑った。
「何かしないといけないみたいだね」
「先輩なら、すぐに何か見つけると思われているんですよ」
チョコチップの声には、普段から先輩をよく見ている親しさがあった。
みたらしっぽは、ティーとマカロンへ視線を戻した。
「二人は、何かしてみたいことある?」
マカロンは、少し考えたあと。
自分とティーの服を見比べた。
「新しい服が欲しいです」
その言葉へ。
チョコチップがすぐに顔を上げる。
「服を見に行くんですか?」
瞳が、先ほどよりも明るくなっていた。
「うん。私たち、普段の服がこれしかなくて」
ティーも白い袖を見た。
「自分で選んだ服は、一着もない」
チョコチップは驚いたように二人を見る。
それから、店の外へ出かける予定を想像したのか、少し嬉しそうに微笑んだ。
「アバター用の服でしたら、V0092が見やすいですよ。お店も多いですし、試着もすぐにできます」
「チョコは、行ったことある?」
みたらしっぽが尋ねる。
「はい。友達と何度か」
答える声が弾んでいる。
「見ているだけでも楽しい場所です」
マカロンがティーを見る。
言葉にしなくても、行きたいことは表情だけで十分に伝わった。
「今から行ける?」
ティーが尋ねる。
「もちろんです」
チョコチップは、迷わず答えた。
「私も、久しぶりに見たいです」
みたらしっぽも立ち上がる。
「じゃあ、行こうか」
席にいた猫を、隣のクッションへそっと移す。
四人が店を出ようとすると、チロルがカウンターから声をかけた。
「楽しんできてください」
「帰ったら、新しい服を見せます!」
マカロンが言う。
ノワールも、猫を抱いたまま小さく手を上げた。
「……いってらっしゃい」
「行ってきます、ノワール」
ティーも手を上げる。
新しい二人と。
初めての買い物へ出かけることになった。
V0092へ
だんのこまちの中央接続施設まで、四人で歩いた。
道の途中。
チョコチップは、ティーとマカロンへ服の好みを尋ねた。
「ティーさんは、どんな色が好きですか?」
「まだ、よくわからない」
「今の服に近い白や黒は?」
「嫌いではない。でも、自分で選んだわけではないから」
チョコチップは少し考えた。
「それなら、いろいろ試してみましょう。着てみた時に、落ち着くと思えるものがあるかもしれません」
「チョコチップさんは、どんな色が好き?」
「淡い色が好きです。青やベージュも」
少し照れながら続ける。
「かわいい服を見るのも好きです」
先ほど服の話が出た時、表情が明るくなった理由がわかった。
マカロンも会話へ入る。
「私は、お菓子みたいな色が好きです!」
「桃色や、クリーム色でしょうか」
「そういう色です!」
チョコチップも楽しそうに頷く。
「似合いそうです。深緑色も残せたら、今のマカロンさんらしさも出そうですね」
「選ぶ前から楽しみになってきました!」
二人は、すでにどんな服がありそうか話し始めていた。
ティーは少し後ろから、その声を聞いていた。
チョコチップは落ち着いて見える。
けれど。
服の話をする時には、表情も声も年相応に弾んでいた。
中央接続施設へ着く。
巨大な環状ゲートが並び、それぞれ異なる世界への光を流している。
<V0092 バーチャルショッピングモール>
金色の案内が浮かんでいた。
ティーは、ゲートの前で足を止めた。
だんのこまち以外のサーバーへ移動するのは、初めてだった。
光の向こうに何があるかは、説明されている。
それでも。
別の空間へ身体を預けることに、少しだけ緊張した。
チョコチップが、その様子へ気づく。
「別のサーバーへ行くのは、初めてですか?」
「うん」
「私も最初は、少し怖かったです」
チョコチップはティーの隣へ立った。
「向こうへ着いた場所に、だんのこまちへ戻るゲートがあります。帰りたくなったら、すぐに戻れますよ」
帰る。
その言葉に、今までとは違う意味が重なる。
けれど。
今は、ティー自身が選んで別の場所へ行く。
みたらしっぽも、ゲートの中へ入らずに待っていた。
マカロンは楽しみを抑えきれない表情をしながらも、ティーのそばから離れなかった。
「行ける」
ティーは言った。
四人で、ゲートへ入る。
視界が白くなり。
足元の感覚が一度消えた。
次に光が薄れた時。
目の前には、天井の見えないほど巨大な吹き抜けが広がっていた。
何層にも重なる商業フロア。
中央を上下する透明な昇降路。
企業ごとに造られた店舗空間。
空中へ浮かぶ、大量の案内表示。
駅ビルやデパートを思わせる構造が、縦方向へどこまでも続いている。
「すごい……!」
マカロンが、吹き抜けを見上げる。
その隣で。
チョコチップも同じように目を輝かせていた。
「前に来た時より、お店が増えています」
新しい店舗を見つけたのか、案内表示を追う視線が忙しく動いている。
みたらしっぽは、三人が落ち着くまで急かさずに待っていた。
「まずは衣装フロアでいい?」
「はい」
チョコチップが答える。
「見たいお店があります」
四人は、透明な昇降路へ乗った。
道の途中。
チョコチップは、ティーとマカロンへ服の好みを尋ねた。
「ティーさんは、どんな色が好きですか?」
「まだ、よくわからない」
「今の服に近い白や黒は?」
「嫌いではない。でも、自分で選んだわけではないから」
チョコチップは少し考えた。
「それなら、いろいろ試してみましょう。着てみた時に、落ち着くと思えるものがあるかもしれません」
「チョコチップさんは、どんな色が好き?」
「淡い色が好きです。青やベージュも」
少し照れながら続ける。
「かわいい服を見るのも好きです」
先ほど服の話が出た時、表情が明るくなった理由がわかった。
マカロンも会話へ入る。
「私は、お菓子みたいな色が好きです!」
「桃色や、クリーム色でしょうか」
「そういう色です!」
チョコチップも楽しそうに頷く。
「似合いそうです。深緑色も残せたら、今のマカロンさんらしさも出そうですね」
「選ぶ前から楽しみになってきました!」
二人は、すでにどんな服がありそうか話し始めていた。
ティーは少し後ろから、その声を聞いていた。
チョコチップは落ち着いて見える。
けれど。
服の話をする時には、表情も声も年相応に弾んでいた。
中央接続施設へ着く。
巨大な環状ゲートが並び、それぞれ異なる世界への光を流している。
<V0092 バーチャルショッピングモール>
金色の案内が浮かんでいた。
ティーは、ゲートの前で足を止めた。
だんのこまち以外のサーバーへ移動するのは、初めてだった。
光の向こうに何があるかは、説明されている。
それでも。
別の空間へ身体を預けることに、少しだけ緊張した。
チョコチップが、その様子へ気づく。
「別のサーバーへ行くのは、初めてですか?」
「うん」
「私も最初は、少し怖かったです」
チョコチップはティーの隣へ立った。
「向こうへ着いた場所に、だんのこまちへ戻るゲートがあります。帰りたくなったら、すぐに戻れますよ」
帰る。
その言葉に、今までとは違う意味が重なる。
けれど。
今は、ティー自身が選んで別の場所へ行く。
みたらしっぽも、ゲートの中へ入らずに待っていた。
マカロンは楽しみを抑えきれない表情をしながらも、ティーのそばから離れなかった。
「行ける」
ティーは言った。
四人で、ゲートへ入る。
視界が白くなり。
足元の感覚が一度消えた。
次に光が薄れた時。
目の前には、天井の見えないほど巨大な吹き抜けが広がっていた。
何層にも重なる商業フロア。
中央を上下する透明な昇降路。
企業ごとに造られた店舗空間。
空中へ浮かぶ、大量の案内表示。
駅ビルやデパートを思わせる構造が、縦方向へどこまでも続いている。
「すごい……!」
マカロンが、吹き抜けを見上げる。
その隣で。
チョコチップも同じように目を輝かせていた。
「前に来た時より、お店が増えています」
新しい店舗を見つけたのか、案内表示を追う視線が忙しく動いている。
みたらしっぽは、三人が落ち着くまで急かさずに待っていた。
「まずは衣装フロアでいい?」
「はい」
チョコチップが答える。
「見たいお店があります」
四人は、透明な昇降路へ乗った。
まずは見るだけ
衣装フロアには、現実世界の商品とアバター用の衣装が並んでいた。
現実用の商品を購入すれば、登録された住所へ自動的に配送される。
身体情報を使い、実際に着た時のサイズや組み合わせを確認することもできる。
ティーは、現実配送と書かれた表示を見つめた。
登録住所。
身体情報。
現実側の自分。
今は病院にいる身体。
その身体の服のサイズさえ、まだ知らない。
チョコチップが、検索条件を切り替えた。
<アバター用アイテムのみ>
現実配送の商品が一覧から消える。
「今日は、こちらだけにしましょう」
詳しい理由は尋ねない。
ティーは小さく頷いた。
「ありがとう」
「はい」
チョコチップは、服が並ぶ通路へ目を向けた。
すぐに気になるものを見つけたのか、少し先の展示へ視線を向ける。
けれど。
そのまま進む前に、ティーとマカロンを振り返った。
「先に、使う金額だけ決めておきませんか?」
「服を見る前に?」
マカロンが尋ねる。
「はい。私、こういう場所へ来ると、欲しいものが増えてしまうので」
チョコチップは少し恥ずかしそうに、自分の候補一覧を開いた。
以前から保存している服が、何着も並んでいる。
「見るだけのつもりでも、気づくと増えているんです」
楽しそうに話す姿には、誰かを管理しようとする堅さはなかった。
自分も同じように買い物を楽しむからこその提案だった。
「私も増えそうです」
マカロンは、すぐに納得した。
ティーも簡易ウォレットを開く。
生活費として支給されている活動費。
飲み物や菓子を買ったことはある。
服のように金額の大きなものを選ぶのは、初めてだった。
「どのくらいあれば、一着揃えられる?」
チョコチップが価格帯を表示する。
「上下と靴までなら、この範囲で選べます。上着も含めるなら、少し多めに見ておいた方が安心です」
ティーとマカロンは、それぞれ無理のない上限を設定した。
購入額が上限へ近づけば、確認が出る。
「これなら、ゆっくり見られますね」
チョコチップは、どこか嬉しそうだった。
四人は最初の店へ入った。
現実用の商品を購入すれば、登録された住所へ自動的に配送される。
身体情報を使い、実際に着た時のサイズや組み合わせを確認することもできる。
ティーは、現実配送と書かれた表示を見つめた。
登録住所。
身体情報。
現実側の自分。
今は病院にいる身体。
その身体の服のサイズさえ、まだ知らない。
チョコチップが、検索条件を切り替えた。
<アバター用アイテムのみ>
現実配送の商品が一覧から消える。
「今日は、こちらだけにしましょう」
詳しい理由は尋ねない。
ティーは小さく頷いた。
「ありがとう」
「はい」
チョコチップは、服が並ぶ通路へ目を向けた。
すぐに気になるものを見つけたのか、少し先の展示へ視線を向ける。
けれど。
そのまま進む前に、ティーとマカロンを振り返った。
「先に、使う金額だけ決めておきませんか?」
「服を見る前に?」
マカロンが尋ねる。
「はい。私、こういう場所へ来ると、欲しいものが増えてしまうので」
チョコチップは少し恥ずかしそうに、自分の候補一覧を開いた。
以前から保存している服が、何着も並んでいる。
「見るだけのつもりでも、気づくと増えているんです」
楽しそうに話す姿には、誰かを管理しようとする堅さはなかった。
自分も同じように買い物を楽しむからこその提案だった。
「私も増えそうです」
マカロンは、すぐに納得した。
ティーも簡易ウォレットを開く。
生活費として支給されている活動費。
飲み物や菓子を買ったことはある。
服のように金額の大きなものを選ぶのは、初めてだった。
「どのくらいあれば、一着揃えられる?」
チョコチップが価格帯を表示する。
「上下と靴までなら、この範囲で選べます。上着も含めるなら、少し多めに見ておいた方が安心です」
ティーとマカロンは、それぞれ無理のない上限を設定した。
購入額が上限へ近づけば、確認が出る。
「これなら、ゆっくり見られますね」
チョコチップは、どこか嬉しそうだった。
四人は最初の店へ入った。
四つの耳
店内には、体格やアバターの固定パーツへ合わせて形を変えるカジュアル衣装が並んでいた。
服へ触れるだけで、鏡の前にいるアバターへ試着表示が重なる。
マカロンは一つ目の棚へ着いた直後。
白いパーカーを手に取った。
フードの上には、大きな猫耳がついている。
「ティー、これを着てみて」
「耳がある」
「かわいいから大丈夫!」
ティーが試着を受け入れる。
白いパーカーが身体へ重なった。
頭の上には、元からある銀色の猫耳。
その外側に、フードについた白い猫耳。
鏡の中へ、四つの耳が並んだ。
ティーは左右を向き、自分の姿を確認する。
「増えた」
隣から、小さな笑い声が聞こえた。
チョコチップが口元へ手を添えている。
普段の控えめな表情とは違い、目元まで楽しそうに緩んでいた。
「かわいいです」
少し笑いを残したまま言う。
「でも、ティーさんの耳がきれいなので、隠さない服の方がもっと似合いそうです」
「私も、そう思う」
ティーが試着を解除する。
マカロンはパーカーを自分にも重ねた。
彼女の頭上にも元から獣耳がある。
やはり、鏡の中には四つの耳が現れた。
チョコチップが、今度は声を抑えきれずに笑った。
マカロンも鏡を見て笑う。
ティーも。
二人の姿を並べて見ると、自然に口元が緩んだ。
「写真を撮ってもいいですか?」
チョコチップが尋ねる。
その手には、すでに撮影画面が開かれていた。
ティーとマカロンが並ぶ。
みたらしっぽが撮影役になり、チョコチップも二人の間へ入った。
撮影音。
三人の頭上には、合わせて八つの耳が写っていた。
チョコチップは完成した写真を見て、しばらく楽しそうに笑っていた。
最初の一着を決める前に。
三人の間にあったわずかな緊張は、すっかり薄れていた。
服へ触れるだけで、鏡の前にいるアバターへ試着表示が重なる。
マカロンは一つ目の棚へ着いた直後。
白いパーカーを手に取った。
フードの上には、大きな猫耳がついている。
「ティー、これを着てみて」
「耳がある」
「かわいいから大丈夫!」
ティーが試着を受け入れる。
白いパーカーが身体へ重なった。
頭の上には、元からある銀色の猫耳。
その外側に、フードについた白い猫耳。
鏡の中へ、四つの耳が並んだ。
ティーは左右を向き、自分の姿を確認する。
「増えた」
隣から、小さな笑い声が聞こえた。
チョコチップが口元へ手を添えている。
普段の控えめな表情とは違い、目元まで楽しそうに緩んでいた。
「かわいいです」
少し笑いを残したまま言う。
「でも、ティーさんの耳がきれいなので、隠さない服の方がもっと似合いそうです」
「私も、そう思う」
ティーが試着を解除する。
マカロンはパーカーを自分にも重ねた。
彼女の頭上にも元から獣耳がある。
やはり、鏡の中には四つの耳が現れた。
チョコチップが、今度は声を抑えきれずに笑った。
マカロンも鏡を見て笑う。
ティーも。
二人の姿を並べて見ると、自然に口元が緩んだ。
「写真を撮ってもいいですか?」
チョコチップが尋ねる。
その手には、すでに撮影画面が開かれていた。
ティーとマカロンが並ぶ。
みたらしっぽが撮影役になり、チョコチップも二人の間へ入った。
撮影音。
三人の頭上には、合わせて八つの耳が写っていた。
チョコチップは完成した写真を見て、しばらく楽しそうに笑っていた。
最初の一着を決める前に。
三人の間にあったわずかな緊張は、すっかり薄れていた。
ティーの色
何着か試していくうちに。
ティーは、鏡の中へ映る自分の姿を少しずつ見慣れていった。
薄い紫色のワンピース。
黒い長めのコート。
白いニットと青いスカート。
どれも着ることはできる。
似合わないとも思わない。
けれど。
自分の服にしたいかと問われると、すぐには答えが出なかった。
チョコチップは、ティーを急かさなかった。
自分も近くの棚を見ながら。
時々、気になった服を一着だけ持ってくる。
やがて。
ティーの視線が、一つの展示で止まった。
薄い青灰色の短いジャケット。
白いインナー。
黒に近い紺色のキュロット。
濃い色のレギンス。
白と黒を組み合わせた軽い靴。
チョコチップも、その視線へ気づいた。
「こちら、着てみませんか?」
ティーは頷いた。
試着を選択する。
今まで着ていた服が消え。
青灰色のジャケットが身体へ重なる。
フードは猫耳の根元を避けるように形を変え、銀色の耳を隠さずに残した。
ティーが鏡の中の自分を見る。
その横で。
チョコチップが、ほとんど間を置かずに言った。
「かわいいです」
声には、素直な驚きが混ざっていた。
チョコチップは鏡へ近づき、ティーの正面と横を見比べる。
「髪の色が、すごくきれいに見えます。目の青色にも合っています」
本当に気に入ったらしく。
自分が服を着ているわけでもないのに、表情が明るい。
「少しだけ、襟を触ってもいいですか?」
「うん」
チョコチップが襟元を整える。
フードの線を猫耳へ重ならない位置へ動かし、ジャケットの裾をまっすぐにした。
「これで、もっときれいに見えます」
ティーは鏡の前で腕を動かした。
一歩進む。
身体を横へ向ける。
夜の任務用装備ほどではない。
それでも、動きを邪魔しない。
「落ち着く」
自分の姿を見ながら呟く。
マカロンも隣へ来た。
「ティーらしい。いつもの白い服より少し色が増えたけど、ちゃんとティーだよ」
みたらしっぽも頷いた。
「似合ってる」
三人の言葉を聞き。
ティーはもう一度、鏡の中の自分を見た。
誰かに与えられた服ではない。
まだ購入していない。
けれど。
自分が目を止め。
自分で着てみたいと思った服だった。
「これが好き」
言葉にすると。
青灰色が、少しだけ自分に近づいたように感じた。
チョコチップの顔が、嬉しそうに綻ぶ。
「よかったです」
それ以上は何も加えず。
四人で鏡に映るティーを見た。
ティーは購入画面を開く。
金額を確認し。
入力する。
<WARDROBE ITEM REGISTERED>
<OWNER:T>
試着表示だった衣装が、ティーのワードローブへ正式に追加された。
「買えた」
マカロンが小さく拍手する。
チョコチップも笑顔で手を合わせた。
「初めて、ご自分で選んだ服なんですよね」
「うん」
「大事な一着になりますね」
ティーはジャケットの袖へ触れた。
本当の名前は、まだ知らない。
けれど。
自分が好きだと思う色を、一つ知ることができた。
ティーは、鏡の中へ映る自分の姿を少しずつ見慣れていった。
薄い紫色のワンピース。
黒い長めのコート。
白いニットと青いスカート。
どれも着ることはできる。
似合わないとも思わない。
けれど。
自分の服にしたいかと問われると、すぐには答えが出なかった。
チョコチップは、ティーを急かさなかった。
自分も近くの棚を見ながら。
時々、気になった服を一着だけ持ってくる。
やがて。
ティーの視線が、一つの展示で止まった。
薄い青灰色の短いジャケット。
白いインナー。
黒に近い紺色のキュロット。
濃い色のレギンス。
白と黒を組み合わせた軽い靴。
チョコチップも、その視線へ気づいた。
「こちら、着てみませんか?」
ティーは頷いた。
試着を選択する。
今まで着ていた服が消え。
青灰色のジャケットが身体へ重なる。
フードは猫耳の根元を避けるように形を変え、銀色の耳を隠さずに残した。
ティーが鏡の中の自分を見る。
その横で。
チョコチップが、ほとんど間を置かずに言った。
「かわいいです」
声には、素直な驚きが混ざっていた。
チョコチップは鏡へ近づき、ティーの正面と横を見比べる。
「髪の色が、すごくきれいに見えます。目の青色にも合っています」
本当に気に入ったらしく。
自分が服を着ているわけでもないのに、表情が明るい。
「少しだけ、襟を触ってもいいですか?」
「うん」
チョコチップが襟元を整える。
フードの線を猫耳へ重ならない位置へ動かし、ジャケットの裾をまっすぐにした。
「これで、もっときれいに見えます」
ティーは鏡の前で腕を動かした。
一歩進む。
身体を横へ向ける。
夜の任務用装備ほどではない。
それでも、動きを邪魔しない。
「落ち着く」
自分の姿を見ながら呟く。
マカロンも隣へ来た。
「ティーらしい。いつもの白い服より少し色が増えたけど、ちゃんとティーだよ」
みたらしっぽも頷いた。
「似合ってる」
三人の言葉を聞き。
ティーはもう一度、鏡の中の自分を見た。
誰かに与えられた服ではない。
まだ購入していない。
けれど。
自分が目を止め。
自分で着てみたいと思った服だった。
「これが好き」
言葉にすると。
青灰色が、少しだけ自分に近づいたように感じた。
チョコチップの顔が、嬉しそうに綻ぶ。
「よかったです」
それ以上は何も加えず。
四人で鏡に映るティーを見た。
ティーは購入画面を開く。
金額を確認し。
入力する。
<WARDROBE ITEM REGISTERED>
<OWNER:T>
試着表示だった衣装が、ティーのワードローブへ正式に追加された。
「買えた」
マカロンが小さく拍手する。
チョコチップも笑顔で手を合わせた。
「初めて、ご自分で選んだ服なんですよね」
「うん」
「大事な一着になりますね」
ティーはジャケットの袖へ触れた。
本当の名前は、まだ知らない。
けれど。
自分が好きだと思う色を、一つ知ることができた。
マカロンの一着
次は、マカロンの服を選ぶことになった。
彼女の候補一覧には。
桃色。
黄色。
クリーム色。
深緑色。
赤茶色。
さまざまな服が、すでに大量に保存されていた。
最初に試着したのは。
何層にも重なる桃色のスカートと、大きなリボンを持つドレスだった。
裾には小さな菓子の飾り。
肩の近くには、クリームを思わせる白い装飾まで浮いている。
マカロンが鏡の前で一回転する。
大きなスカートが、柔らかく広がった。
チョコチップの瞳が輝く。
「すごくかわいいです」
すぐにマカロンのそばへ行き、スカートの模様を見ている。
「この飾り、全部少しずつ違います」
「本当です!」
二人は並んで、菓子を模した装飾を一つずつ確かめ始めた。
ティーは少し離れた場所から、その様子を見た。
服を選ぶ時のチョコチップは。
初対面で静かに挨拶した少女より、ずっと表情が豊かだった。
かわいいものを見つければ、素直に喜び。
マカロンと同じ目線で楽しんでいる。
「写真を撮りましょう」
チョコチップが言った。
マカロンは大きなドレスのまま、花を模した背景の前へ立つ。
ティーも隣へ呼ばれた。
撮影画面の中では。
落ち着いた青灰色の服を着たティーと。
大きな桃色のドレスを着たマカロンが並んでいる。
まったく違う服。
それでも。
マカロンは隣にいるティーを見て、嬉しそうに笑っていた。
何着も試したあと。
チョコチップが、普段使いしやすい組み合わせを一つ作った。
クリーム色の柔らかなトップス。
落ち着いた赤茶色の短いカーディガン。
深緑色のキュロットスカート。
茶色の短いブーツ。
今のマカロンが持っている色を残しながら。
少し暖かな色が増えている。
マカロンが試着する。
鏡を見た瞬間。
表情が明るくなった。
「これ、好きです」
先ほどまでのドレスより、ずっと早い返事だった。
チョコチップはマカロンの後ろへ回り、カーディガンのリボンを整えた。
「はい。とても似合っています」
マカロンが鏡の前で、もう一度ゆっくり回る。
大きすぎない裾が、身体の動きへ合わせて柔らかく揺れた。
「これにします」
購入の入力。
<WARDROBE ITEM REGISTERED>
<OWNER:KORMELIE MACARON>
マカロンは新しい袖を両手で軽く広げた。
ティーが一番先に手を叩く。
「おめでとう、マカロン」
「ありがとう!」
二人で鏡の前へ並ぶ。
青灰色。
赤茶色と深緑。
それぞれ違う色を選んだ。
その違いが。
並んだ時には、どこか心地よく見えた。
彼女の候補一覧には。
桃色。
黄色。
クリーム色。
深緑色。
赤茶色。
さまざまな服が、すでに大量に保存されていた。
最初に試着したのは。
何層にも重なる桃色のスカートと、大きなリボンを持つドレスだった。
裾には小さな菓子の飾り。
肩の近くには、クリームを思わせる白い装飾まで浮いている。
マカロンが鏡の前で一回転する。
大きなスカートが、柔らかく広がった。
チョコチップの瞳が輝く。
「すごくかわいいです」
すぐにマカロンのそばへ行き、スカートの模様を見ている。
「この飾り、全部少しずつ違います」
「本当です!」
二人は並んで、菓子を模した装飾を一つずつ確かめ始めた。
ティーは少し離れた場所から、その様子を見た。
服を選ぶ時のチョコチップは。
初対面で静かに挨拶した少女より、ずっと表情が豊かだった。
かわいいものを見つければ、素直に喜び。
マカロンと同じ目線で楽しんでいる。
「写真を撮りましょう」
チョコチップが言った。
マカロンは大きなドレスのまま、花を模した背景の前へ立つ。
ティーも隣へ呼ばれた。
撮影画面の中では。
落ち着いた青灰色の服を着たティーと。
大きな桃色のドレスを着たマカロンが並んでいる。
まったく違う服。
それでも。
マカロンは隣にいるティーを見て、嬉しそうに笑っていた。
何着も試したあと。
チョコチップが、普段使いしやすい組み合わせを一つ作った。
クリーム色の柔らかなトップス。
落ち着いた赤茶色の短いカーディガン。
深緑色のキュロットスカート。
茶色の短いブーツ。
今のマカロンが持っている色を残しながら。
少し暖かな色が増えている。
マカロンが試着する。
鏡を見た瞬間。
表情が明るくなった。
「これ、好きです」
先ほどまでのドレスより、ずっと早い返事だった。
チョコチップはマカロンの後ろへ回り、カーディガンのリボンを整えた。
「はい。とても似合っています」
マカロンが鏡の前で、もう一度ゆっくり回る。
大きすぎない裾が、身体の動きへ合わせて柔らかく揺れた。
「これにします」
購入の入力。
<WARDROBE ITEM REGISTERED>
<OWNER:KORMELIE MACARON>
マカロンは新しい袖を両手で軽く広げた。
ティーが一番先に手を叩く。
「おめでとう、マカロン」
「ありがとう!」
二人で鏡の前へ並ぶ。
青灰色。
赤茶色と深緑。
それぞれ違う色を選んだ。
その違いが。
並んだ時には、どこか心地よく見えた。
チョコチップも
ティーとマカロンの服が決まったあとも。
四人は、すぐには店を出なかった。
チョコチップは、案内をしながら何度も一つの棚へ視線を向けていた。
淡い水色のカーディガン。
柔らかな生地。
白い小さなボタン。
派手な装飾はなく。
普段の黒いスカートやタイツにも合わせやすそうだった。
一度手に取り。
価格を確認し。
そのまま棚へ戻す。
少し歩いたあと。
もう一度振り返っている。
マカロンが水色のカーディガンを持ち、チョコチップの前へ差し出した。
「チョコチップさんも、着てみませんか?」
チョコチップは少し驚いた。
「私は、今日はお二人の案内で……」
言いながら。
手にしたカーディガンへ、もう一度目を向ける。
やがて、小さく笑った。
「では、試着だけ」
鏡の前へ立つ。
淡い水色のカーディガンが、チョコチップの身体へ重なった。
白いインナー。
黒いスカート。
いつもの黒いタイツ。
髪のお団子と、花飾りにもよく合っている。
チョコチップは袖口を軽く整え、鏡の中の自分を見た。
「かわいい」
ティーが言う。
マカロンも、すぐに頷いた。
「すごく似合っています」
チョコチップの頬へ、わずかに照れた色が浮かぶ。
それでも。
嬉しそうに鏡へ向き直った。
「先輩は、どうでしょうか」
みたらしっぽは少し離れた場所から全体を見て、頷いた。
「うん。似合ってる。かわいいよ、チョコ」
「……ありがとうございます」
チョコチップは少しだけ視線を落とした。
指先で、カーディガンの袖をそっと撫でる。
すぐには試着を解除せず。
横から見たり。
髪の花飾りとの組み合わせを確かめたりしていた。
その声も。
表情も。
先ほどまでより明らかに弾んでいる。
「候補に入れておきます」
一度そう言ったあと。
チョコチップは、自分の予定と所持額を確認した。
しばらく考え。
購入画面を開く。
「やっぱり、これにします」
決定を押す。
<WARDROBE ITEM REGISTERED>
チョコチップの新しいカーディガンが登録された。
購入を終えたあとも。
彼女は鏡の中の姿を、もう一度嬉しそうに確かめていた。
ティーは、その横顔を見た。
しっかりしていて。
周りへ気を配ることができる。
それでも。
気に入った服を見つけ。
先輩に褒められれば、素直に照れる。
チョコチップは、ティーが思っていたよりもずっと身近な少女に見えた。
四人は、すぐには店を出なかった。
チョコチップは、案内をしながら何度も一つの棚へ視線を向けていた。
淡い水色のカーディガン。
柔らかな生地。
白い小さなボタン。
派手な装飾はなく。
普段の黒いスカートやタイツにも合わせやすそうだった。
一度手に取り。
価格を確認し。
そのまま棚へ戻す。
少し歩いたあと。
もう一度振り返っている。
マカロンが水色のカーディガンを持ち、チョコチップの前へ差し出した。
「チョコチップさんも、着てみませんか?」
チョコチップは少し驚いた。
「私は、今日はお二人の案内で……」
言いながら。
手にしたカーディガンへ、もう一度目を向ける。
やがて、小さく笑った。
「では、試着だけ」
鏡の前へ立つ。
淡い水色のカーディガンが、チョコチップの身体へ重なった。
白いインナー。
黒いスカート。
いつもの黒いタイツ。
髪のお団子と、花飾りにもよく合っている。
チョコチップは袖口を軽く整え、鏡の中の自分を見た。
「かわいい」
ティーが言う。
マカロンも、すぐに頷いた。
「すごく似合っています」
チョコチップの頬へ、わずかに照れた色が浮かぶ。
それでも。
嬉しそうに鏡へ向き直った。
「先輩は、どうでしょうか」
みたらしっぽは少し離れた場所から全体を見て、頷いた。
「うん。似合ってる。かわいいよ、チョコ」
「……ありがとうございます」
チョコチップは少しだけ視線を落とした。
指先で、カーディガンの袖をそっと撫でる。
すぐには試着を解除せず。
横から見たり。
髪の花飾りとの組み合わせを確かめたりしていた。
その声も。
表情も。
先ほどまでより明らかに弾んでいる。
「候補に入れておきます」
一度そう言ったあと。
チョコチップは、自分の予定と所持額を確認した。
しばらく考え。
購入画面を開く。
「やっぱり、これにします」
決定を押す。
<WARDROBE ITEM REGISTERED>
チョコチップの新しいカーディガンが登録された。
購入を終えたあとも。
彼女は鏡の中の姿を、もう一度嬉しそうに確かめていた。
ティーは、その横顔を見た。
しっかりしていて。
周りへ気を配ることができる。
それでも。
気に入った服を見つけ。
先輩に褒められれば、素直に照れる。
チョコチップは、ティーが思っていたよりもずっと身近な少女に見えた。
色違い
衣装店を出る前。
マカロンが小物の棚で足を止めた。
透明な、小さなチャーム。
内部には光の粒が浮かび、動くたびにゆっくり揺れる。
色は二つ。
淡い青。
柔らかな桃色。
「ティー」
マカロンが二つを手に取った。
「これ、色違いで持ちたい」
ティーは青いチャームを見る。
機能はない。
能力も上がらない。
必要なものではなかった。
ただ。
マカロンと一緒に選び。
二人で持つためのもの。
「うん。欲しい」
マカロンの表情が、嬉しそうに綻んだ。
二人で一つずつ購入する。
マカロンが、ティーのジャケットへ青いチャームをつける。
ティーも。
マカロンのカーディガンへ桃色のチャームを取りつけた。
鏡の中。
二つの小さな光が、服の端で揺れている。
チョコチップは、その様子を穏やかに見ていた。
無意識に。
自分の髪についている花飾りへ指先を触れさせる。
「素敵ですね」
小さな声だった。
「きっと、大切なものになります」
ティーは青いチャームを手のひらへ乗せた。
昨夜。
現実へ戻ったあとも、約束は消えないとマカロンが言った。
この小さな光も。
アカウントが残っている限り、二人のワードローブへ残る。
「大事にする」
「私も」
マカロンは桃色のチャームを、嬉しそうに見つめていた。
マカロンが小物の棚で足を止めた。
透明な、小さなチャーム。
内部には光の粒が浮かび、動くたびにゆっくり揺れる。
色は二つ。
淡い青。
柔らかな桃色。
「ティー」
マカロンが二つを手に取った。
「これ、色違いで持ちたい」
ティーは青いチャームを見る。
機能はない。
能力も上がらない。
必要なものではなかった。
ただ。
マカロンと一緒に選び。
二人で持つためのもの。
「うん。欲しい」
マカロンの表情が、嬉しそうに綻んだ。
二人で一つずつ購入する。
マカロンが、ティーのジャケットへ青いチャームをつける。
ティーも。
マカロンのカーディガンへ桃色のチャームを取りつけた。
鏡の中。
二つの小さな光が、服の端で揺れている。
チョコチップは、その様子を穏やかに見ていた。
無意識に。
自分の髪についている花飾りへ指先を触れさせる。
「素敵ですね」
小さな声だった。
「きっと、大切なものになります」
ティーは青いチャームを手のひらへ乗せた。
昨夜。
現実へ戻ったあとも、約束は消えないとマカロンが言った。
この小さな光も。
アカウントが残っている限り、二人のワードローブへ残る。
「大事にする」
「私も」
マカロンは桃色のチャームを、嬉しそうに見つめていた。
デパ地下
衣装フロアを出ると。
四人は下層の食品区画へ向かった。
V0092のデパ地下には。
バーチャル世界で味わう料理。
現実へ配送できる菓子。
各地域の名物。
飲み物。
数え切れないほどの店舗が並んでいる。
区画へ入った瞬間。
マカロンの足が少し速くなった。
隣では。
チョコチップも、季節限定と書かれた菓子の展示へ目を向けている。
そこに並んでいたのは。
小さなチョコレートケーキと。
果実を使った色鮮やかな焼き菓子だった。
「先輩、これ……」
チョコチップが展示を見ながら呼ぶ。
声には、隠しきれない期待が混ざっていた。
みたらしっぽも足を止める。
「食べていく?」
「はい」
答えは早かった。
チョコチップは嬉しそうに、小さなケーキを一つ選んだ。
マカロンは果実の焼き菓子。
ティーは、店頭に並んでいた淡い紫色の飲み物へ自然に手を伸ばす。
みたらしっぽは、全員で分けられる軽食をいくつか選んだ。
共有スペースのテーブルへ座る。
チョコチップは、最初にケーキの写真を撮った。
フォークを入れると、内側から柔らかなチョコレートが流れ出す。
一口食べ。
表情がすぐに明るくなった。
「おいしいです」
普段の控えめな声より、少しだけ高い。
マカロンも焼き菓子を食べ、嬉しそうに頷く。
買い物の途中から。
二人はすっかり打ち解けていた。
どの服がかわいかったか。
次に試してみたい色。
食品区画で気になった店。
話題は次々に移っていく。
ティーは紫色の飲み物へ口をつけながら、その会話を聞いていた。
「ティー」
みたらしっぽが、静かに呼ぶ。
「何?」
「今日は楽しかった?」
ティーは、自分の新しい袖を見る。
青いチャーム。
隣にいるマカロン。
水色のカーディガンを着たチョコチップ。
「うん。楽しい」
答えると。
みたらしっぽは安心したように笑った。
「ショコラさんから、退屈させないようにって頼まれたわけではないけど。会ってよかったと思ってもらえたなら、よかった」
ティーは少し考えたあと、口を開いた。
「私とマカロンは、夜に仕事をしてる」
みたらしっぽとチョコチップが、ティーを見る。
「詳しいことは、今は話せない」
マカロンも小さく頷いた。
みたらしっぽは、理由を尋ねなかった。
「わかった」
それだけ答え。
チョコチップも、穏やかに微笑んだ。
「話せることだけで大丈夫です」
少し間を置き。
二人の新しい服を見ながら続ける。
「昼間に、また一緒に遊びましょう」
その言葉に。
マカロンの表情が明るくなる。
「青い花のフィールドへ行きませんか?」
「花が一面に咲いていて、大きな風車がある場所です」
ティーも説明した。
チョコチップは、すぐに興味を示した。
「行ってみたいです」
「次は、お弁当を持っていく予定なの」
「では、私たちも持っていきます」
「僕も行っていい?」
みたらしっぽが尋ねる。
「もちろんです!」
マカロンが答えた。
次の予定が。
自然に、四人のものへ変わっていく。
ティーは、その会話を聞きながら。
今日が終わる前に、次に楽しみにできる日が生まれたことを感じていた。
四人は下層の食品区画へ向かった。
V0092のデパ地下には。
バーチャル世界で味わう料理。
現実へ配送できる菓子。
各地域の名物。
飲み物。
数え切れないほどの店舗が並んでいる。
区画へ入った瞬間。
マカロンの足が少し速くなった。
隣では。
チョコチップも、季節限定と書かれた菓子の展示へ目を向けている。
そこに並んでいたのは。
小さなチョコレートケーキと。
果実を使った色鮮やかな焼き菓子だった。
「先輩、これ……」
チョコチップが展示を見ながら呼ぶ。
声には、隠しきれない期待が混ざっていた。
みたらしっぽも足を止める。
「食べていく?」
「はい」
答えは早かった。
チョコチップは嬉しそうに、小さなケーキを一つ選んだ。
マカロンは果実の焼き菓子。
ティーは、店頭に並んでいた淡い紫色の飲み物へ自然に手を伸ばす。
みたらしっぽは、全員で分けられる軽食をいくつか選んだ。
共有スペースのテーブルへ座る。
チョコチップは、最初にケーキの写真を撮った。
フォークを入れると、内側から柔らかなチョコレートが流れ出す。
一口食べ。
表情がすぐに明るくなった。
「おいしいです」
普段の控えめな声より、少しだけ高い。
マカロンも焼き菓子を食べ、嬉しそうに頷く。
買い物の途中から。
二人はすっかり打ち解けていた。
どの服がかわいかったか。
次に試してみたい色。
食品区画で気になった店。
話題は次々に移っていく。
ティーは紫色の飲み物へ口をつけながら、その会話を聞いていた。
「ティー」
みたらしっぽが、静かに呼ぶ。
「何?」
「今日は楽しかった?」
ティーは、自分の新しい袖を見る。
青いチャーム。
隣にいるマカロン。
水色のカーディガンを着たチョコチップ。
「うん。楽しい」
答えると。
みたらしっぽは安心したように笑った。
「ショコラさんから、退屈させないようにって頼まれたわけではないけど。会ってよかったと思ってもらえたなら、よかった」
ティーは少し考えたあと、口を開いた。
「私とマカロンは、夜に仕事をしてる」
みたらしっぽとチョコチップが、ティーを見る。
「詳しいことは、今は話せない」
マカロンも小さく頷いた。
みたらしっぽは、理由を尋ねなかった。
「わかった」
それだけ答え。
チョコチップも、穏やかに微笑んだ。
「話せることだけで大丈夫です」
少し間を置き。
二人の新しい服を見ながら続ける。
「昼間に、また一緒に遊びましょう」
その言葉に。
マカロンの表情が明るくなる。
「青い花のフィールドへ行きませんか?」
「花が一面に咲いていて、大きな風車がある場所です」
ティーも説明した。
チョコチップは、すぐに興味を示した。
「行ってみたいです」
「次は、お弁当を持っていく予定なの」
「では、私たちも持っていきます」
「僕も行っていい?」
みたらしっぽが尋ねる。
「もちろんです!」
マカロンが答えた。
次の予定が。
自然に、四人のものへ変わっていく。
ティーは、その会話を聞きながら。
今日が終わる前に、次に楽しみにできる日が生まれたことを感じていた。
おかえり
だんのこまちへ戻った頃には。
街の空が夕方へ変わり始めていた。
四人は、カフェのんびりひっそりまで歩いて戻った。
マカロンは通り沿いの窓へ姿が映るたび、新しい服を嬉しそうに確かめている。
チョコチップも。
時々、水色の袖口へ目を落としていた。
みたらしっぽに似合うと言われたことを思い出しているのか。
そのたびに、口元がわずかに緩んでいる。
カフェの扉を開く。
「ただいま」
ティーが言った。
「ただいま!」
マカロンも続ける。
チロルがカウンターから顔を上げた。
「おかえりなさい」
コハクも、二人の新しい服へ目を向ける。
ノワールは、猫を抱いたまま静かに二人を見た。
ティー。
マカロン。
それから、チョコチップ。
新しい姿を順番に確認する。
「……みんな、新しいです」
「買いました!」
マカロンが、その場でゆっくり回る。
赤茶色のカーディガンと、深緑色の裾が柔らかく揺れた。
「どう?」
「……かわいいです」
ノワールが答える。
マカロンは満面の笑みを浮かべた。
ティーも、ノワールの前へ立つ。
ノワールは青灰色のジャケットと。
銀色の猫耳。
青いチャームを見る。
「……似合ってます」
「ありがとう、ノワール」
ティーの猫耳が前を向く。
ノワールも、ほんの少しだけ笑った。
チョコチップも水色のカーディガンを見せる。
「私も、一着買ってしまいました」
「……きれいな色です」
「ありがとうございます」
チョコチップは嬉しそうに袖へ触れた。
チロルが、みたらしっぽを見る。
「ずいぶん本格的なお出かけになりましたね」
「服を見るだけのつもりだったんだけどね」
みたらしっぽは、楽しそうな三人を見た。
「みんな、いいものが見つかったみたい」
マカロンが、今日撮った写真を開く。
四つの耳。
桃色のドレス。
ティーとマカロンの新しい服。
水色のカーディガンを着たチョコチップ。
四人で撮った一枚。
チロルとコハク。
ノワールも。
画面を順番に見ていく。
足元へ、灰色の猫が近づいてきた。
新しい靴の周囲を歩き。
一度匂いを確かめる。
そのまま。
いつものようにティーの足元へ座った。
ティーはしゃがみ、猫の背中を撫でる。
「服が変わっても、わかるんだ」
「声や動きも覚えていますから」
チロルが答えた。
誰かに与えられた服ではなく。
自分で選んだ服を着ている。
それでも。
同じティーだとわかってもらえた。
そのことが。
思っていた以上に嬉しかった。
街の空が夕方へ変わり始めていた。
四人は、カフェのんびりひっそりまで歩いて戻った。
マカロンは通り沿いの窓へ姿が映るたび、新しい服を嬉しそうに確かめている。
チョコチップも。
時々、水色の袖口へ目を落としていた。
みたらしっぽに似合うと言われたことを思い出しているのか。
そのたびに、口元がわずかに緩んでいる。
カフェの扉を開く。
「ただいま」
ティーが言った。
「ただいま!」
マカロンも続ける。
チロルがカウンターから顔を上げた。
「おかえりなさい」
コハクも、二人の新しい服へ目を向ける。
ノワールは、猫を抱いたまま静かに二人を見た。
ティー。
マカロン。
それから、チョコチップ。
新しい姿を順番に確認する。
「……みんな、新しいです」
「買いました!」
マカロンが、その場でゆっくり回る。
赤茶色のカーディガンと、深緑色の裾が柔らかく揺れた。
「どう?」
「……かわいいです」
ノワールが答える。
マカロンは満面の笑みを浮かべた。
ティーも、ノワールの前へ立つ。
ノワールは青灰色のジャケットと。
銀色の猫耳。
青いチャームを見る。
「……似合ってます」
「ありがとう、ノワール」
ティーの猫耳が前を向く。
ノワールも、ほんの少しだけ笑った。
チョコチップも水色のカーディガンを見せる。
「私も、一着買ってしまいました」
「……きれいな色です」
「ありがとうございます」
チョコチップは嬉しそうに袖へ触れた。
チロルが、みたらしっぽを見る。
「ずいぶん本格的なお出かけになりましたね」
「服を見るだけのつもりだったんだけどね」
みたらしっぽは、楽しそうな三人を見た。
「みんな、いいものが見つかったみたい」
マカロンが、今日撮った写真を開く。
四つの耳。
桃色のドレス。
ティーとマカロンの新しい服。
水色のカーディガンを着たチョコチップ。
四人で撮った一枚。
チロルとコハク。
ノワールも。
画面を順番に見ていく。
足元へ、灰色の猫が近づいてきた。
新しい靴の周囲を歩き。
一度匂いを確かめる。
そのまま。
いつものようにティーの足元へ座った。
ティーはしゃがみ、猫の背中を撫でる。
「服が変わっても、わかるんだ」
「声や動きも覚えていますから」
チロルが答えた。
誰かに与えられた服ではなく。
自分で選んだ服を着ている。
それでも。
同じティーだとわかってもらえた。
そのことが。
思っていた以上に嬉しかった。
自分で選んだもの
夜。
住宅区の部屋へ戻ったあとも。
ティーは、新しく買った服を着たままでいた。
鏡の前へ立つ。
青灰色のジャケット。
白いインナー。
濃い色の脚元。
銀色の髪。
青い瞳。
猫耳。
服の端では。
マカロンと色違いの青いチャームが、小さく揺れている。
試着用の表示ではない。
ティーのワードローブへ登録された。
自分の服だった。
机の上へ、今日撮った写真を並べる。
みたらしっぽ。
チョコチップ。
マカロン。
ティー。
数時間前までは知らなかった二人と。
同じ画面の中で笑っている。
灰色のノートを開いた。
新しいページへ、青いペンを置く。
<みたらしっぽさんに会った>
<チョコチップさんに会った>
<V0092へ行った>
<初めて、自分で服を選んだ>
少し考え。
その下へ続ける。
<青灰色が好き>
<マカロンと色違いのチャームを買った>
<チョコチップさんは、服を見ると楽しそうに笑う>
最後の一行を書き。
ティーは、今日のチョコチップを思い出した。
静かに挨拶した時の顔。
服を選んでいる時の明るい表情。
水色のカーディガンを褒められた時。
少し俯きながらも、嬉しそうに袖を撫でていた姿。
連絡画面へ、新しいグループが作られていた。
名前は、
<青い花のフィールド>
作成したのは、みたらしっぽ。
マカロンが、すでに写真と予定を書き込んでいる。
<次はお弁当を持っていきます!>
チョコチップからもメッセージが届いた。
<今日はありがとうございました。とても楽しかったです>
<青い花も、楽しみにしています>
みたらしっぽ。
<日程は、みんなの予定が合う日にしよう>
ティーは短く入力した。
<私も楽しかった>
送信。
しばらく画面を見たあと。
ノートへ最後の二行を書いた。
<本当の名前は、まだ知らない>
<でも、今日選んだ色は知っている>
ペンを置く。
現実の自分が。
どんな色を好きだったのかはわからない。
この服を見ても、同じように好きだと思うのかも知らない。
けれど。
今日。
ティーは青灰色を選んだ。
誰かに命じられたからではない。
治療のためでも。
任務のためでもない。
自分が着たいと思ったから。
現実へ戻れるまでの日も。
ティーの時間だった。
その中へ。
自分で選んだ色と。
また会いたいと思える人たちが増えていた。
住宅区の部屋へ戻ったあとも。
ティーは、新しく買った服を着たままでいた。
鏡の前へ立つ。
青灰色のジャケット。
白いインナー。
濃い色の脚元。
銀色の髪。
青い瞳。
猫耳。
服の端では。
マカロンと色違いの青いチャームが、小さく揺れている。
試着用の表示ではない。
ティーのワードローブへ登録された。
自分の服だった。
机の上へ、今日撮った写真を並べる。
みたらしっぽ。
チョコチップ。
マカロン。
ティー。
数時間前までは知らなかった二人と。
同じ画面の中で笑っている。
灰色のノートを開いた。
新しいページへ、青いペンを置く。
<みたらしっぽさんに会った>
<チョコチップさんに会った>
<V0092へ行った>
<初めて、自分で服を選んだ>
少し考え。
その下へ続ける。
<青灰色が好き>
<マカロンと色違いのチャームを買った>
<チョコチップさんは、服を見ると楽しそうに笑う>
最後の一行を書き。
ティーは、今日のチョコチップを思い出した。
静かに挨拶した時の顔。
服を選んでいる時の明るい表情。
水色のカーディガンを褒められた時。
少し俯きながらも、嬉しそうに袖を撫でていた姿。
連絡画面へ、新しいグループが作られていた。
名前は、
<青い花のフィールド>
作成したのは、みたらしっぽ。
マカロンが、すでに写真と予定を書き込んでいる。
<次はお弁当を持っていきます!>
チョコチップからもメッセージが届いた。
<今日はありがとうございました。とても楽しかったです>
<青い花も、楽しみにしています>
みたらしっぽ。
<日程は、みんなの予定が合う日にしよう>
ティーは短く入力した。
<私も楽しかった>
送信。
しばらく画面を見たあと。
ノートへ最後の二行を書いた。
<本当の名前は、まだ知らない>
<でも、今日選んだ色は知っている>
ペンを置く。
現実の自分が。
どんな色を好きだったのかはわからない。
この服を見ても、同じように好きだと思うのかも知らない。
けれど。
今日。
ティーは青灰色を選んだ。
誰かに命じられたからではない。
治療のためでも。
任務のためでもない。
自分が着たいと思ったから。
現実へ戻れるまでの日も。
ティーの時間だった。
その中へ。
自分で選んだ色と。
また会いたいと思える人たちが増えていた。