神骸騎ディ・カダーベルTRPG
斯くの如く物語は始まる
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◆斯くの如く物語は始まる 著者:KUMO
――グーニプオンの城が、燃える。
赤黒く焦げる空も、崩れ落ちる石も、もはや炭化した何かと化した父と母も。
その全てが現実味の無いものとしか思えなかった、その中にあって。
その全てが現実味の無いものとしか思えなかった、その中にあって。
オオオォオオォオオォオン…………!
全てを睥睨する、その威容だけが、たしかにそれを現実だと物語っていた。
それは神だった。
全身を鋼鉄で鎧った、巨大な人形。
それは神だった。
全身を鋼鉄で鎧った、巨大な人形。
――神。
――違う。
――あれはもう、死んでいるのだよ、チュリア。
チュリア姫は瓦礫に挟まれたドレスのスカートを無意味に引っ張りながら、かつての父の言葉を思い出した。
幼い頃、父は怯えるチュリアを抱き上げて、そう教えてくれた。優しく、強い父。
だが、それももう――……。
幼い頃、父は怯えるチュリアを抱き上げて、そう教えてくれた。優しく、強い父。
だが、それももう――……。
「姫……ッ!」
「トール……!?」
「トール……!?」
不意に聞こえたその声は、チュリア姫が今、心の底から欲していた人物の声であった。
焼け崩れる城郭の向こうから、煤けて鎧具足の若武者が、懸命な様子で駆けて来る。
トールはチュリア姫が「助けて」と言うよりも前に、その状況を見て取った。
焼け崩れる城郭の向こうから、煤けて鎧具足の若武者が、懸命な様子で駆けて来る。
トールはチュリア姫が「助けて」と言うよりも前に、その状況を見て取った。
「おまかせください!」
「きゃ……ッ!?」
「きゃ……ッ!?」
彼はぐいとひと押しで瓦礫を押し退けると、素早い動きでチュリア姫の華奢な体を抱き上げた。
思わず彼の首に腕を回し、抱きしめてしまう。幼い頃よりも逞しく、鍛え抜かれた肉体の感触。
このような時にさえ羞恥と高揚を覚える自分が、チュリア姫にはひどく浅ましく感じられた。
思わず彼の首に腕を回し、抱きしめてしまう。幼い頃よりも逞しく、鍛え抜かれた肉体の感触。
このような時にさえ羞恥と高揚を覚える自分が、チュリア姫にはひどく浅ましく感じられた。
「あれはイムビウ国のバーンです! 姫の誕生祝宴を狙って不意討ちなど、なんと卑怯な……!」
「トール……っ!」
「ご安心ください。彼奴らの狙いは姫でしょうが、必ずや私が外に――……」
「違うわ、トール! 違うの……っ」
「チュリア姫……?」
「神殿へ、連れていきなさい」
「トール……っ!」
「ご安心ください。彼奴らの狙いは姫でしょうが、必ずや私が外に――……」
「違うわ、トール! 違うの……っ」
「チュリア姫……?」
「神殿へ、連れていきなさい」
だからこそチュリア姫は、努めて無機的に、続く言葉を発したのだ。
「あなたが私の……〈御者 〉なのですから」
「は……ッ!」
「は……ッ!」
トールの返事は一瞬の躊躇もなく、そして彼の動きは音よりも速かった。
チュリア姫を抱いたトールはまさに色のついた風と化して、燃え上がる城内を駆け抜ける。
だがその動きを、死せる神が見逃すわけもない。
忌むべき黒兜の下、煌々と揺らめく瞳がぐるりと蠢き、自分たちの後を追う。
その事がわかっているからこそ――……神殿に飛び込んでからの、チュリア姫の行動は迷いが無かった。
だがしかし、その名を呼ばわる声には、震えがあった。
チュリア姫を抱いたトールはまさに色のついた風と化して、燃え上がる城内を駆け抜ける。
だがその動きを、死せる神が見逃すわけもない。
忌むべき黒兜の下、煌々と揺らめく瞳がぐるりと蠢き、自分たちの後を追う。
その事がわかっているからこそ――……神殿に飛び込んでからの、チュリア姫の行動は迷いが無かった。
だがしかし、その名を呼ばわる声には、震えがあった。
「ストーテ……」
そこにもやはり、神の姿があった。
死せる神。白き鎧のスト―テ。
恭しく跪いたその巨躯の胸、重厚な胸甲は開かれ――何かを待ち受けているようであった。
欠けたもの。意識。生命。――――魂を。
死せる神。白き鎧のスト―テ。
恭しく跪いたその巨躯の胸、重厚な胸甲は開かれ――何かを待ち受けているようであった。
欠けたもの。意識。生命。――――魂を。
――これが私の十五歳の誕生日だなんて、あんまりじゃあない?
チュリア姫は自らの使命がわかっていた。ひきつった笑みが、わずかに唇を歪めた。
チュリア姫はトールの腕から滑るように飛び降りると、そのままストーテの元へと駆け寄る。
そして胸甲の内側、本来心臓があるべき場所に設けられた玉座の如き〈心座 〉へとその身を納めた。
その座席は、まるでそう誂えたかのように、ぴたりとチュリア姫の体を受け止める。
チュリア姫はトールの腕から滑るように飛び降りると、そのままストーテの元へと駆け寄る。
そして胸甲の内側、本来心臓があるべき場所に設けられた玉座の如き〈
その座席は、まるでそう誂えたかのように、ぴたりとチュリア姫の体を受け止める。
「…………ッ」
恐怖が、途端にチュリア姫の胸中を襲った。
それは果たして近づきつつ遠雷、忌まわしきバーンの足音のせいだろうか。
それともあるいは、このストーテによってもたらされる、運命のせいだろうか。
それは果たして近づきつつ遠雷、忌まわしきバーンの足音のせいだろうか。
それともあるいは、このストーテによってもたらされる、運命のせいだろうか。
「姫、ご安心を」
「……トール」
「……トール」
だが、それもつかの間の事だった。
前席、〈御者台 〉に身を踊りこませたトールの存在が、チュリア姫の心を温かく包み込む。
トールは座席に据え付けられた篭手をはめ、金属の桿――〈手綱 〉を握りしめていた。
前席、〈
トールは座席に据え付けられた篭手をはめ、金属の桿――〈
「私が……いえ、俺がついている。大丈夫だ、チュリア」
「……ええ。そうね、お願い――……」
「……ええ。そうね、お願い――……」
どん、と。轟音と共に雷が神殿の入り口へと落ちる。崩れる石の狭間から現れる、暗黒の巨兵。
チュリア姫は唇を噛みしめると、〈心座〉から伸びる〈魂緒 〉を手に取った。
そして鋼線の、針の如く鋭い先端を自らの首筋に突き立てる。
チュリア姫は唇を噛みしめると、〈心座〉から伸びる〈
そして鋼線の、針の如く鋭い先端を自らの首筋に突き立てる。
「……ッ!!」
ずくん、と。頭の中で何かが蠢いた。
自分の体の中の全てを絞り出されて、無理やり引き伸ばされるような錯覚。
ぶつり、ぶつりと、焼鏝で頭蓋骨の中をかき混ぜられ、引きちぎられるような熱と、痛み。
悲鳴を上げたい。だが声が喉から出ない。体を震わせたい。だが彼女の体は〈心座〉に縛り付けられたよう。
自分の体の中の全てを絞り出されて、無理やり引き伸ばされるような錯覚。
ぶつり、ぶつりと、焼鏝で頭蓋骨の中をかき混ぜられ、引きちぎられるような熱と、痛み。
悲鳴を上げたい。だが声が喉から出ない。体を震わせたい。だが彼女の体は〈心座〉に縛り付けられたよう。
――いや。
違う。そうではない。
今やチュリア姫の肉体は鋼鉄の巨兵であり、その体は跪いたまま、次の動きを待っているのだ。
今やチュリア姫の肉体は鋼鉄の巨兵であり、その体は跪いたまま、次の動きを待っているのだ。
「チュリア……ッ!」
「――――〈心座 〉、〈接続 〉」
「――――〈
心から何かが零れ落ちるように、するすると平易な声が口から漏れた。
ぽたりと鼻から何か赤色が滴っていることを、ただの情報とだけ認識する。情報。頭が熱い。認識。
ぽたりと鼻から何か赤色が滴っていることを、ただの情報とだけ認識する。情報。頭が熱い。認識。
「敵騎、接近中。胸甲を閉鎖します」
「あ、ああ……っ」
「あ、ああ……っ」
それは服のボタンを止めるが如しだ。開かれていた扉が、跳ね橋のように持ち上がって閉鎖され、施錠される。
〈心座〉と〈御者台〉は薄闇に閉ざされ、わずかに覗き穴から漏れる光だけが仄かに二人の姿を照らし出す。
〈心座〉と〈御者台〉は薄闇に閉ざされ、わずかに覗き穴から漏れる光だけが仄かに二人の姿を照らし出す。
「〈神血 〉、導管内で正常に加圧中。心臓、脈拍開始。関節の解放。制御は私に。動作はそちらに」
トールが――〈御者〉が何かを言ったようだった。だが、それは戦闘には関係のない事だ。
今やチュリア姫の意識にあるのは、目前の敵と、自らの肉体と、そして戦闘の行く末だけだった。
そしてその戦闘の結果は明白だ。撃破し、勝利する。それ以外にない。
だが、どうしてだろう。
〈手綱〉を通して、〈魂緒〉を伝って、〈御者〉の心が流れてくる。
立ち上がる。戦う。守る。命に変えても。
心臓が、跳ねた。自分のものも。神のものも。
今やチュリア姫の意識にあるのは、目前の敵と、自らの肉体と、そして戦闘の行く末だけだった。
そしてその戦闘の結果は明白だ。撃破し、勝利する。それ以外にない。
だが、どうしてだろう。
〈手綱〉を通して、〈魂緒〉を伝って、〈御者〉の心が流れてくる。
立ち上がる。戦う。守る。命に変えても。
心臓が、跳ねた。自分のものも。神のものも。
「〈神骸騎 〉―――――……〈回生 〉!」
瞬間、白い巨神がその全身に神血を巡らせ、筋骨を隆々と動かし、力強く立ち上がる。
目前の敵、〈神骸騎〉バァンを認識したその瞳に、炎が灯った。
目前の敵、〈神骸騎〉バァンを認識したその瞳に、炎が灯った。
「戦闘行動を開始します。……行きましょう、トール」
「あ、ああ。……行こう、チュリア! ―――〈神骸騎〉ストーテ、行くぞッ!!」
「あ、ああ。……行こう、チュリア! ―――〈神骸騎〉ストーテ、行くぞッ!!」
――新たな〈魂魄 〉を得て、神がこの地上に蘇ったのだ。