神骸騎ディ・カダーベルTRPG

世界観

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◆世界観



「イクタリの物語を覚えている者は幸福です。きっと、心豊かであろうから――……」

              ――――年代記編纂者エタタヤ、子どもたちに物語を紐解いて―――







○用語

  • 神骸騎(ディ・カダーベル)〉……神の骸。神の末裔たる武威の証明。決戦兵器。数え方は「柱(はしら)」。
  • 魂魄(アニマ)〉……〈神骸騎〉の魂となる者。神の血を引く王族。貴種。
  • 御者(アウリガ)〉……〈神骸騎〉の手綱を執る者。王族の郎党や奴隷。
  • 心座(コル)〉……〈魂魄〉の座席。〈神骸騎〉の胸部にある事が多い。
  • 御者台(バクシム)〉……〈御者〉の座席。〈心座〉の前席である事が多い。
  • 魂緒(ナーヴァイ)〉……〈心座〉に備わった鋼線。〈魂魄〉と神骸騎を繋ぐ。ケーブル。
  • 手綱(レティネレ)〉……〈御者台〉に備わった金属の握り。〈御者〉の意を〈魂魄〉に伝える。操縦桿。
  • 接続(ネクスム)〉……〈魂魄〉と〈神骸騎〉を一体とすること。
  • 回生(ヴィーヴム)〉……〈神骸騎〉を再び蘇らせること。起動。
  • 神血(イコル)〉……霊液。死せる神の血。転じて〈魂魄〉たる証、適性。赤い色をしている。
  • 励起(エクステイト)〉……心身の限界を超えて〈神骸騎〉を稼働させること。リミッターカット。覚醒。
  • 戦技(アルス)〉……〈神骸騎〉の戦いにおける特殊な技能。マニューバ。奥義。





○イクタリ大陸

 イクタリ大陸は、嵐渦巻く大海に浮かぶ、自然豊かな、とてつもなく巨大な一つの大地です。
 この世界では人が一日に移動できる距離を一アルクと呼んでいます。
 イクタリ大陸の広さは一〇〇〇アルクとも、一万アルクとも言われています。
 誰も端から端まで、歩いて確かめた者がいないのです。
 森があり、山があり、砂漠があり、荒地があり、草原があり、様々な動物が暮らし……。
 ――そして、神々がいました。

 神々がいかなる存在で、どこからイクタリに現れ、どうして人をお作りになられ、なぜ死んでしまったのかは、謎です。
 ただ一つだけ確かなことは、神々は全て死に絶えてしまったという事だけです。

 二〇〇〇年以上の昔、イクタリ大陸に君臨していた神々は全て死に絶え、後にはその骸だけが遺されました。
 神の血を引く人々は、自らを失われた神の魂魄の代用として、神の骸を蘇らせて操るようになりました。
 彼らは王となり、神の骸、〈神骸騎(ディ・カダーベル)〉の武威を以って、人々の上に君臨し、国が生まれます。
 ですが神の骸は1つではなく、王も1人ではなく、そしてイクタリ大陸は広大とはいえ有限で、人の欲望は無限です。
 いつしか諸王は〈神骸騎〉を用いて争うようになり、この大陸では長らくの間、〈神骸騎〉による戦乱が続いています。
 多くの国が栄え、滅び、極稀に平和が訪れても、いずれまた崩壊して戦争が始まる……。
 イクタリ大陸の歴史は、この繰り返しでしかありません。

 事実、神の死から二一二〇年、大陸を統一していたイクタリ帝国が瓦解しました。
 偉大な先帝が崩御し、後を継いで即位した皇帝が暗愚であったため諸王が台頭し、乱世が訪れたのです。
 一説によれば跡継ぎの皇帝は血が繋がっておらず、〈神骸騎〉を動かせなかったのだともいわれています。
 ですが、確かなことは誰も覚えていません。
 今や帝都ヤコミも蛮族に飲み込まれて放棄され、その位置さえ忘れ去られています。

 神の死から二三〇〇年。イクタリ大陸は、戦火の只中にあります。
 そして群雄割拠する無数の国家のひとつ。
 かの国の〈神骸騎(ディ・カダーベル)〉、〈魂魄(アニマ)〉と〈御者(アウリガ)〉が、物語の主人公――――あなたです。





神骸騎(ディ・カダーベル)

 イクタリ大陸に君臨する神の骸です。
 いずれも人類には理解も再現もできない未知の金属で作られた、鋼鉄の神です。
 形状は様々ですが、大きさは人の背丈の十倍ほどで、神の似姿である人と同じ型をしている事が多いです。

 〈神骸騎〉は、生前の神々のそれより衰えたるとはいえ、人では到底抗えぬ隔絶した神威を持っています。
 その力は山をも崩し、その歩みは音を超えて光の速さにも近く、鎧兜は見たこともない金属で作られ……。
 長い歳月を経て、神々の力や武具は多くが失われてしまいました。
 乱世の中で操手を亡くして眠りにつき、あるいは蛮族に奪われた〈神骸騎〉も多くあります。
 事実、イクタリ帝国の皇帝騎は、もはや戦火の中で失われ、どうなったか誰も知りません。
 ですがそれでも尚〈神骸騎〉の力は圧倒的です。誰もが、神の前には平伏するしかないのです。

 イクタリ大陸の文明は地球でいう中世くらいで、石造りの城を建てています。
 しかし未熟な人の力では〈神骸騎〉よりも巨大な壁も、頑丈な壁も作れません。
 人が揮う武器では、どうあがいても〈神骸騎〉を傷つけることはできません。
 それこそ奇跡でも起こらない限り、〈神骸騎〉に抗えるのは〈神骸騎〉だけなのです。

 故に国の力は、ひとえに〈神骸騎〉の数と性能によって決定されます。
 いくさにおいても勝敗を左右するのは、〈神骸騎〉同士の戦いのみです。
 兵士たちの戦いは、あくまでも〈神骸騎〉の戦場を決定する程度の役割しか持ちません。
 自分たちが奮戦すれば、それだけ味方の〈神骸騎〉を敵地奥深くで戦わせる事ができる。
 そしていずれにせよ、全てに決着をつけるのは〈神骸騎〉です。

 ですが、誰もが〈神骸騎〉を操れるというわけではありません。
 〈神骸騎〉は神の骸であり、その魂は失われてしまいました。
 故に、神の魂のかわりとなる〈魂魄(アニマ)〉が必要なのです。





魂魄(アニマ)

 〈魂魄(アニマ)〉とは、神の血……〈神血(イコル)〉を引くもの、つまりは王家のものです。
 〈魂魄〉はその呼び名通り、失われた神々の魂のかわりとなり、その骸に宿る者です。
 〈神骸騎〉ごとに異なる儀式を施された〈魂魄〉は、それによって〈神骸騎〉と〈接続(ネクスム)〉する契約を結びます。
 そうして〈神骸騎〉の胸部にある〈心座(コル)〉に収まった〈魂魄〉は、〈神骸騎〉の魂となってその体を制御するのです。

 しかし〈神骸騎〉との〈接続〉は、心身に多大な負荷をかけます。
 人の心で神の体を操るのは、とてつもない苦行であり、高熱で浮かされたような消耗が〈魂魄〉を襲います。
 そのため〈魂魄〉の役目を務めるのは、体力のある若年の王族が多いです。
 高齢のものでは〈接続〉に耐えきれず、命を落としてしまうからです。

 また〈魂魄〉となるのは、女性の王族が多いとされています。
 これは〈神骸騎〉に対する巫女の役目があるからだとか、女性の方が耐久力があるからだともいいます。
 あるいは血を繋いでいくのに、女性の方が容易であるからとか、そうした意見もあります。
 理由は様々ですが、女性の王族が〈魂魄〉を務める事が多いという事実だけは存在します。
 ただあくまで多いだけで、男性王族が〈魂魄〉を担っている国も一般的です。

 基本的に〈魂魄〉の扱いは、彼ら彼女らが王族であるという以上に尊重されます。
 〈魂魄〉こそは国の最重要人物の一人であり、守護者であり、神の御使い、神そのものであるからです。
 一方で、領地国内から離れる自由というものは持ち合わせていません。
 小国なら〈魂魄〉が一人しかいないというのも珍しくはないですし、大国でもそう大勢いる国は稀だからです。
 〈魂魄〉が国を離れる事ができるとすれば、それは戦争か、何らかの外交か、あるいはいくさに敗れた時くらいのものです。

 敗れた〈神骸騎〉とその〈魂魄〉は、敵国の虜囚とされます。なるべく生かして、無事に手に入れたいからです。
 その後の運命は様々ですが、和睦などによって穏便に返還されるなら、極めて幸運だといえるでしょう。
 様々な方法で恭順を迫られたり、〈神骸騎〉を得るため強引に婚姻を結ばされ、子供を作らされる事も多いのです。
 一部の蛮族が〈神骸騎〉を保有しているのは、おそらくかつて、悲惨な運命を辿った〈魂魄〉がいた証拠だといえます。

 また予備の〈魂魄〉を用意したいという考えから、王族は複数人の子を儲ける事が多いです。
 しかし彼らはあくまで王族として扱われ、公爵などの貴族とされる事は少ないです。
 もしそうして血を分けたなら、万一にでも造反された際、〈神骸騎〉を奪われて大変な事になるためです。
 事実イクタリ帝国が崩壊したのは、各地の諸王が〈神骸騎〉を有していたがためでしょう。
 とはいえ大国ともなるとイクタリ帝国同様、各地の領主に血を分け、〈神骸騎〉を託すしかないのですが。

 こうして様々な負担を強いられる〈魂魄〉を支え、守り、助け、共に戦う者。
 それこそが〈御者(アウリガ)〉と呼ばれる戦士たちです。




御者(アウリガ)

 〈御者(アウリガ)〉は王族たる〈魂魄〉の家臣として、文字通り〈神骸騎〉の御者となる戦士のことです。

 ただでさえ巨大な神の骸と〈接続〉し、これを制御する〈魂魄〉には多大な負荷がかかっています。
 激しい戦いの中で〈神骸騎〉の動きまで御すとなれば、一戦するだけで命を落としかねません。
 そのため〈御者〉たちが操手、御者となって〈神骸騎〉を動かし、戦闘を行うのです。

 ですが〈神骸騎〉の戦いにおいて武勲を讃えられるのは、基本的に〈魂魄〉たちです。
 〈御者〉はあくまで〈魂魄〉の〈神骸騎〉による戦いを支える、補佐役として認識されています。
 なぜならば〈神骸騎〉の持ち主は〈魂魄〉であり、その戦いは〈魂魄〉の戦いであるからです。
 いわば〈御者〉たちは、騎士の従卒、槍持ちのようなものだといえるでしょう。

 〈御者〉の役目は、あくまで〈神骸騎〉の動きを、〈魂魄〉が理解し制御できるようにするための中継機です。
 人が体を動かすように、〈神骸騎〉を動かす。これによって〈神骸騎〉と〈接続〉する〈魂魄〉の負担は大きく減ります。
 〈魂魄〉と〈御者〉が日頃から常に行動を共にしているのも、この連携を容易にする方法の一つです。
 〈魂魄〉、〈御者〉、二人の絆こそが、〈神骸騎〉を〈神骸騎〉たらしめる強さへと繋がるのです。

 また契約と〈接続〉によって心身に負担の多い〈魂魄〉たちの身を守るのも、〈御者〉の役目です。
 〈神骸騎〉に搭乗していない〈魂魄〉は無防備であり、かつその血を求めて大勢から狙われます。
 戦場で、城の中で、いついかなる時でも〈魂魄〉を守り抜く事が、〈御者〉には求められます。
 必然、〈御者〉は他の兵士たちとは比べ物にならない強者、勇士が選ばれる事が多いです。
 無論何事にも例外はつきものですが、まともに戦えぬ〈御者〉など、何の役にも立ちません。

 〈神骸騎〉の戦いで讃えられるのは〈魂魄〉ですが、それは神の血を継ぐという資質も大きく影響しています。
 ですが〈御者〉ならば、鍛えに鍛え、王家からの覚えが良ければ、誰でも選ばれる可能性があります。
 そのため〈御者〉になる事を望む若き兵士、戦士たちは世に多く存在します。

 とはいえ、前述通り例外はあります。
 大国であれば、箔付けのために無理くり子息を〈御者〉に据える貴族なども存在します。
 その慢心の報いを受ける者もいれば、運良く切り抜けて役目を終える者もいるでしょう。
 あるいはそうした親の七光と思われた〈御者〉が、卓越した才能を開花させる事もあるかもしれません。

 いずれにせよ〈御者〉は、もしイクタリ大陸に〈神骸騎〉がなければ英雄として名を残したであろう逸材です。
 ですが〈神骸騎〉が君臨するこの世界においては、〈御者〉だけでは歴史に名を残す事はできません。
 〈魂魄〉一人だけでも不可能です。神骸騎だけでも、やはり無理でしょう。

 〈魂魄〉、〈御者〉、〈神骸騎〉の三位一体こそが、このイクタリ大陸の歴史を変えうる存在なのです。




○儀式

 〈魂魄〉が〈神骸騎〉の魂として認められるには、儀式を経てその資格を得ねばなりません。

 儀式の内容については、各王家が秘伝としているため、詳しく知られてはいません。
 ですが多くの場合、重要となるのは〈神骸騎〉と初めて〈接続(ネクスム)〉するという、その行為そのものです。
 〈神骸騎〉との〈接続〉は、〈魂魄〉の心身に多大な影響をもたらし、多くの場合はその機能を損ないます。
 それを以って〈神骸騎〉との〈接続〉が完了した、神に認められた、儀式を終えたと判断されています。

 また中には〈神骸騎〉との〈接続〉を容易にするため、あえて体の一部を切除し、鋼鉄に置き換える場合もあります。
 こうした儀式を行う場合、やはりその手順や作法については家伝の秘術とされ、公にはされていません。
 ですが長い歳月を経たことでその詳細な意味は失われ、何を行っているのかは忘れ去られました。
 今では文字通りの儀式として、その手順を継承した王族や神官によって、意味を理解せずに執り行われます。

 いずれにせよ、契約には代償を伴います。
 〈魂魄〉に多大な負荷を及ぼす儀式と契約は、時として多くのものを奪い去ってしまいます。
 名君から寿命が失われ、忠臣から心が失われ……。
 目に見えるものばかりではないその代価は、イクタリ大陸を覆う乱世を引き伸ばす、大きな要因となっています。

 とはいえ、眠りについていた〈神骸騎〉を発見し、たまたま乗り込んだ者に神の血が流れていた、という事もあります。
 そうして〈神骸騎〉を〈回生〉させてしまった場合は、〈接続〉を行った後に、〈魂魄〉は自分が何を失ったか気づくことでしょう。
 ですが多くの場合、そうした状況というのは〈神骸騎〉を立ち上がらせねば死んでしまうという場合が大半でしょう。

 生き延びるため、国のため、人々のため。そうした理由で、〈魂魄〉たちは〈神骸騎〉と契約する儀式を行うのです。





○神骸騎の操縦

 〈神骸騎〉の〈心座(コル)〉は、〈魂魄〉と〈神骸騎〉を〈接続〉するための機構しか有していません。
 〈神骸騎〉の動作を司り、操縦を行う機構は、多くの場合は〈御者台(バクシム)〉の方に備わっています。

 〈神骸騎〉の構造も様々ですが、一般的に、〈心座〉からは〈魂緒(ナーヴァイ)〉と呼ばれる鋼線が伸びています。
 〈心座〉に収まった〈魂魄〉はその〈魂緒〉を体に結線したり、冠を通して繋がることで、〈神骸騎〉との〈接続〉を行います。
 また手足を〈心座〉に直接繋ぐこともあり、それがために儀式として肉体の一部を鋼鉄に置き換える国があるのだと思われます。
 これによって〈魂魄〉は〈神骸騎〉と一体化し、〈神骸騎〉の六感の全てが脳に流れ込んでくることになります。
 自分が神に等しい存在に成ったという全能感を覚える〈魂魄〉もいると聞きます。

 対して〈御者台〉には、主に〈手綱(レティネレ)〉と呼ばれる金属の操縦桿が一対存在しています。
 〈御者〉はこの〈手綱〉を握りしめてイメージすることで、体の動きを〈魂魄〉に伝え、その通りに〈魂魄〉が〈神骸騎〉を動かします。
 〈御者〉が優れた戦士である事を要求されるのも、より鮮明に〈魂魄〉に動きを伝えるためです。

 失われた神の魂の代理として、模倣(エミュレート)によりその肉体を蘇らせるのが〈魂魄〉の役目です。
 ですがその行為は〈魂魄〉に多大な負荷を及ぼし、とてもではありませんが脳の役割までは果たせません。
 それ故に、〈神骸騎〉の脳となって体の動きを伝える〈御者〉が必要なのです。

 ですが実際に〈神骸騎〉を動かし敵と切り結んでいるのは、〈御者〉ではなく、〈魂魄〉です。
 そのため英雄として讃えられるのは〈魂魄〉であり、〈御者〉はその介添人として扱われるのです。





○戦争

 諸王が戦争を行う理由は様々です。
 他国の〈神骸騎〉と〈魂魄〉を奪い取って勢力を増やすため。大陸を統一して帝国の後継者となるため。
 何十年か前に奪われた領土を取り戻すため。鉱物資源や貴重な物品を奪うため。
 ですが結局の所、その本質はたった一つしかありません。

 『〈神骸騎〉での戦いで勝利したものが正義であり、神である』

 これこそが、今日のイクタリ大陸を支配している絶対の法則です。
 その法則に抗う者もいますが、しかし結局の所、変えることはできないでいます。
 なぜならこの法則が間違っていることを証明するためには、やはり〈神骸騎〉で勝利せねばならないからです。

 イクタリ大陸は何百年もの間、戦争が続いていますが、しかし平和が無いわけではありません。
 数十年に渡って戦火に巻き込まれない国や、安定した統治によって和を尊ぶ国も存在するからです。
 しかし、そうした国が幾つも近隣にあるわけではありません。また内部で野心を燃やす者も現れるでしょう。
 蛮族の襲撃がおきたり、魔獣が出現したり、他国から国を追われた〈神骸騎〉が逃れて来るかもしれません。

 平和は必ず崩れ、また再び戦乱が巻き起こります。イクタリ帝国が、そうして崩壊してしまったように。
 それがこの大陸の、何百年と続く戦乱の日常なのです。





○神骸騎の修復

 神の骸である〈神骸騎〉は通常破壊することができません。
 ですが時の重みは神の骸にも等しくのしかかり、また〈神骸騎〉同士の戦いでは当然破壊されます。
 不可思議なことに未だ残る〈神血(イコル)〉によるものか、〈神骸騎〉は自然と治癒していきます。
 ですが、それにも限度があります。人の手で〈神骸騎〉の傷を繕わねばなりません。

 〈神骸騎〉の修復は、二千年以上のはるか昔より伝承された技術技法を頼りに行われます。
 しかし、長い歳月の中で詳細は失われ、何故そうすると治るのかは、もはや誰も理解していません。
 伝承の中で抜け落ちた技術も数多く、またそもそも人の技術は神々のそれに大きく劣っています。
 必然、長い歳月を経て〈神骸騎〉の形状は大きく変わり、またその力も劣化しつつあるのが実情です。

 こうした〈神骸騎〉の修復方法は、契約の儀式などと並び、国家の機密、秘中の秘とされています。
 他国の技術を得た事で、これまで〈回生(ヴィーヴム)〉できなかった〈神骸騎〉を扱えるようになる事さえあります。
 そのため、こうした〈神骸騎〉関連の技法を求めて、戦争が起こる事さえあるのです。







○貨幣

 イクタリ大陸では貴金属を用いた通貨が使われています。
 この貨幣制度はイクタリ帝国時代に作られたもので、今日でも大陸全土で通用しています。
 もちろん独自の貨幣を鋳造する国もありますが、結局は両替されてしまいます。
 平民にとっては面倒なことでしょうが、両替商にとっては喜ばしいことですね。

 イクタリ大陸では銅貨はクブルム、銀貨はアージェント、金貨はアウルムと呼ばれます。
 ですが、これらの貨幣は〈神骸騎〉の関わる領域ではほぼ出てきません。

 というのも、まず銀貨が1,2枚もあれば平民の大人が一人一日暮らせます。
 王侯貴族ならば、天井知らずとしても、おおよそ銀貨10枚が一日の最低限の生活費となるでしょう。

 その上で、平民の歩兵一人に与えられる禄は、一年で銀貨500枚ほどです。
 銀貨100枚がだいたい金貨1枚ですから、平民一人を一年養うのに金貨5枚がかかるわけです。
 小国なら兵士の数は二百人程度ですので、単純計算で軍事予算は年に金貨1000枚です。
 そして小国の税収は、だいたい年に金貨2000枚もあれば良いほうです。

 〈神骸騎〉を手に入れるとなれば、下級とされる従卒騎ですら金貨100万枚が必要となります。

 もちろん、これは最低限であるという事を忘れないでください。
 〈神骸騎〉はそもそも市場で取引されませんから、相場なんてものは存在しないのです。
 さらに〈神骸騎〉を運用するには膨大な財貨と、それに何より鉱物資源が必要になってきます。
 〈神骸騎〉の武具を整え、整備し、修繕するには、どうしたって金属がなければ話になりません。
 そのため鉱山や鉱床は、イクタリ大陸では凄まじい戦略的価値を持っています。

 こういった事情から〈神骸騎〉を扱うような領域では、特別な、青白く輝く白金貨(プルトニオン)が用いられます。

 白金貨は特殊な金属で鋳造され、1枚で金貨1万枚以上の価値を持ち、基本的に〈神骸騎〉に関してしか使われません。
 逆に言えば〈神骸騎〉にかかわる〈魂魄〉〈御者〉が扱う貨幣は、白金貨だけになります。
 もし仮に白金貨が平民に下賜されるとすれば、それはある種の勲章、名誉の代わりといった意味でしょう。
 なにせ平民の間に出回ったとしても、白金貨を崩せる両替商などいませんしね。

 つまり〈神骸騎〉を扱うような領域では、細かい金勘定などする余地は無いのです。
 あなたが〈魂魄〉や〈御者〉なら、気にしなくて構いません。







○暦

 イクタリ大陸では、一日が二十四時間、一ヶ月が三十日、一年が十二ヶ月で巡ります。
 月の呼び方は剣、槍、斧、槌、弓、砲、礫、弓、矢、盾、拳、翼の十二通りです。
 「神の死から二三〇〇年、剣の月、十三の日」といった表記が一般的です。

 これはイクタリ帝国皇帝騎の具足なのだとも、あるいは偉大な十二の神々の名だともされます。
 いずれにせよイクタリ帝国時代に定められたもので、大陸全土で一般的に用いられています。
 無論、独自の暦を用いる国もいましたが、いずれも尽く滅び、大陸全土に敷く事はできていません。

 またイクタリ大陸では四季もはっきりと分かれており、三ヶ月で春夏秋冬が移ろっていきます。
 とはいえ東西南北に広大な土地ですから、場所によって、季節による変化も様々ではありますが。

 こうした時間や歳月がなぜハッキリとしているかといえば、それは〈神骸騎〉に基づくものです。
 〈神骸騎〉の中には時を刻む権能を持っているものがあり、操手にそれを伝える事がわかっています。
 基本的に数字だけの無機質な時刻ですが、神の告げた時は寸分違わず一致し、狂いはありません。
 各国の教会や神殿、寺院は〈神骸騎〉の告げた時刻をもとに、時を計る仕組みをこしらえています。
 そしてその時計に従い、大砲や鐘の音を用いて時刻を報じるのも、神殿の大事な役目の一つです。

 そのため、〈神骸騎〉にかかわる人々や〈魂魄〉〈御者〉は、上記のような小難しい言い回しはしません。
 「1月13日」などと数字でサッと言う者の方が多いでしょう。





○蛮族

 蛮族とは、かつてイクタリ帝国に臣従しなかった、〈神骸騎〉を持たない、まつろわぬ民のことです。
 今もおおよそ意味は変わっていませんが、イクタリ帝国崩壊後、一部の蛮族は〈神骸騎〉を手に入れています。

 ですが蛮族もまた神の血を引いているという事について、多くの人は認めていません。
 蛮族たちがはるか昔から〈神骸騎〉を神像として崇めていたのだと言っても、それを信じる者はいません。
 おそらくかつてどこかで蛮族に囚われ、悲惨な運命を辿った〈魂魄〉がいたのだろうと考えられています。
 事実そうして〈神骸騎〉と、それを操る資格としての神の血を手に入れた蛮族も珍しくはありません。
 それもあって、蛮族は多くの場合、文明国家の敵として認識されています。

 蛮族はイクタリ帝国から継承されたのとは違う独自の文化を持っています。
 そしてそれが理由となって文明国家を襲ったり、揉めたりしており、諸国にとって悩みの種です。
 しかし戦乱の世にあっては力こそ全てと、積極的に蛮族と手を結び、その力を求める国もまた存在します。
 またイクタリ帝国の継承ではなく新たな秩序を目指し、蛮族との融和を目指す国もいるでしょう。
 この乱世の中では、蛮族たちの立場もまた不安定なものなのです。





○魔獣

 イクタリ大陸には大いなる脅威として、魔獣と呼ばれる生物が存在しています。
 これは神々が滅ぼし損ねたのか、神々が死んだ後に生まれでたのかわかりませんが、尋常な生命ではありません。
 軍隊ですら抗えるかどうかというこれらの魔獣は、辺境の小国や集落にとって極めて危険なものです。

 魔獣はその姿かたちから能力に至るまで千差万別ですが、三つの特徴が存在します。
 「生身の人間では到底太刀打ちできない強さである」こと。「人間を襲って食らう」こと。
 そして「〈神骸騎〉に対して、異常なまでの敵意を燃やしている」ことです。
 全ての魔獣は〈神骸騎〉を認識すると興奮し、それを襲いたくて仕方なくなるのです。
 それが〈神骸騎〉に流れる神血を求めてのことか、神々と敵対した邪悪なものの末裔だからかは不明です。
 いずれにせよ、〈神骸騎〉が一柱でもあれば、辺境における魔獣の被害は驚くほどに減少します。

 もちろん小型の魔獣であれば、〈御者〉のような勇士が倒す事もできるでしょう。
 ですが大型の魔獣ともなれば、〈神骸騎〉で立ち向かうよりほかに術はありません。
 これもまた、〈神骸騎〉を有する王族が王として国を治める事ができる、その理由の一つといえます。
 〈神骸騎〉でなくば、民を守ることもできないのですから。

 とはいえ、大型の魔獣が現れる事はそう多くはありませんし、〈神骸騎〉の前ではさしたる敵でもありません。
 ですが中には〈神骸騎〉に匹敵する、恐るべき魔獣も存在しています。
 なればこそ、それに立ち向かえる〈魂魄〉、〈御者〉、〈神骸騎〉は、イクタリ大陸の新たなる神なのです。





○イクタリ大陸の地理


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 これがおそらく、イクタリ大陸の全体だと考えられている絵図面です。
 外洋は激しい嵐と潮流によって閉ざされており、この大陸の外に何があるのかは誰も知りません。
 極稀に漂着する人々がいるため、他にも土地はあるのだろうとは考えられています。

 イクタリ大陸では神の死から二千年以上に渡って戦乱が続いています。
 そのため数多の国の興亡があり、国境線は曖昧で地形の変動も大きいため、詳細は不明です。

 この地図に歴史を刻んでいくのは〈魂魄〉、〈御者〉、〈神骸騎〉……つまりは、あなたです。
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