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harukaze_lab @ ウィキ

噴上げる花

最終更新:2019年11月26日 19:04

harukaze_lab

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管理者のみ編集可
噴上げる花
山本周五郎

-------------------------------------------------------
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)中畔《なかあぜ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#8字下げ]
-------------------------------------------------------

[#8字下げ]一[#「一」は中見出し]

 世間には、同名異人で妙なまちがいを起すためしが少なくない、この場合もつづめるとそれだけのことだが、あいだに立った人が上役でひどい性急だったため、まちがいかたも念がいったことになった。
 ――急用があるからすぐ来い。
 そういう使いを貰って、伊藤右太夫が組頭の家へまかり出ると、すぐにあるじの居間へと通された。中畔《なかあぜ》六左衛門は外出でもするところとみえて、ちゃんと麻裃を着て、なにかしきりに机のまわりをひっかきまわしていた。
「ただいまお呼びをうけました、ご急用とのことでございますが」
「ああ呼んだ、呼んだよ」
 うわのそらで云いながら、積み重ねてある書類や帳薄をあっちへどけたりこっちへ直したりしている。またなにかど[#「ど」に傍点]忘れをしたなと思いながら、右太夫は、しようがないので黙って待っていた。
「ええと、あれをこうしたときに、是をこうやってこうしたんだから、ここに是がある以上は、あれが無くてはならんはず、じゃないか」
「なにかおさがし物でございますか」
 いつまでも黙っていられないので、右太夫がちょっと口をいれた。
「なんだ、右太夫ではないか」
「はい」
「呼んだら早く来てくれなくては困るではないか」
「はい、じつは先刻からこれに控えておったのですが」
「なに来ていた、そこへ来ていたのか?」
「ご急用だとのことでしたから」
「来たら来たと申さなくてはいかん、こっちは出掛けるので待ちかねているところだ」
「申しわけございません」
「ええと、伊藤右太夫だな?」
 これが実にまじめなのだから、相手になる者は迷惑である。
「はなはだ突然でおどろくかも知れないが、立原玄蕃がそのもとをみこんで、ご三女を嫁に娶ってもらいたいというのだ。玄蕃は因業者だけれども三女は名を菊枝と申してなかなかでき[#「でき」に傍点]者だそうな。わしに仲人をせいというのでひきうけたのだが、どうだ承知するか、承知ならば来月八日が吉日じゃそうで、その日に盃をしたいと申しておる、聞いておるかも知らんが、玄蕃はお国詰めになって来月すえにしゅったつをせねばならんのでな、式張ったことはぬきにして、ともかく八日に祝言をしようという話だ。そのもとのほうでもべつにあらためて支度をするには及ばないと思うが、しかし猫の子をもらうわけでもないから、ひと通りの道具は揃えなければ」
「お話ちゅうでございますが、どうぞしばらく」
 とめどがないので右太夫が口をいれた。
「なんだ、不承知か」
「不承知とは申しませんが、あまり突然のお話で、どうもすぐこうこうとご返事は申しあげかねます、生涯の事でございますから、一応考えさせて頂きたいと存じます」
「それはもっともだ、生涯の事だからな。けれども玄蕃のほうはもうよく考えたうえのことらしいがな」
 あたりまえでしょうと云いたかった、しかし、右太夫にはべつに用件があった。
「そのお話は、たしかに承りました、よく考えてお返事をつかまつりますが。べつに一つお願いがございます」
「祝言の入費なら心得ておる」
「いえそうではございません、実はさきごろからわたくし消火の道具を考案しておりました」
「消火の道具とはなんだ」
「火消しに用います物で、これまでのように手桶をもって水を掛けているのでは高いところへ届きませんし、その手桶を運ぶために列をつくり、往来が止まってこのたびのようなお咎めを蒙るばあいも」
「それだ、それだったよ」
 六左衛門はにわかに眉をひらいた。そして、机の上から一綴の書類をとりあげながらそそくさと立った。
「なにかさっきから喉まで出ていてわからなかった。きょうはそのお咎めの申開きをするために、若年寄のもとへ出掛ける日だった、それをひょっとど[#「ど」に傍点]忘れしたもので眼の前にあるこの書類がみつからなかったのだ、では行って来る」
「ま、お待ちください、ただいまお話し申しました消火の道具につきまして」
「ああ見にゆく見にゆく、明日見にまいるから支度をしておけ」
 あるじがどんどん出て行ってしまうから、しかたがない右太夫も中畔家を辞した。すっかり頭がちらちらして、立原からの縁談などはまるで雲をつかむような気持だった。
「とにかく明日見に来るというのだから、こっちのほうを急がなくてはなるまい」
 家へ帰ると、すぐに右太夫は自分の仕事場へはいっていった。

[#8字下げ]二[#「二」は中見出し]

 火事は江戸の華《はな》と云われた。「華」という表現は江戸人のやけくそ[#「やけくそ」に傍点]とから[#「から」に傍点]景気をまぜたもので、火事になると大きくなるし、いつも巨万の財物を灰燼し人畜の命を失うのが例だった。それで明暦の大火の翌る年、すなわち、万治元年九月に川ではじめて四人の「火消役」を置いた、これが定火消というものである。それからおいおい制度が備わるにつれて、「方角火消」「近所火消」「大名火消」などというものがはっきりと定った。この大名火消の中では、加賀藩前田家のものが最も有名で、ひと口に「加賀鳶《かがとび》」と云われるくらい名の通ったものだったのである。
 加賀鳶の名がはじめて世に知られたのは、享保三年十二月、本郷弓町の火事のときのことだった。その辺は幕府の定火消仙石兵庫の責任地区になっていたが、出火と共に、加賀家の消火隊が出てすばやく消してしまい、仙石兵庫の隊が駈けつけたときは、すでに鎮火したあとであった。そのとき両者のあいだに争闘があり、兵庫の隊の者に死傷者が出たりしたが、幕府の決裁によって前田家の勝になった。この事件でいっぺんに「加賀鳶」は江戸市中へ名を売ったのである。
 いわゆる加賀鳶と呼ばれるものを完備したのは、前田家五代綱紀の功績であって、本郷の上屋敷に二班、駒込の中屋敷に二班、つごう四班の消火隊が設けられていた。直接消火にあたるのは、市中から選抜して傭った腕っこきの鳶人足であるが、支配には物頭二名、その下に大小姓組の者八名がおり、ほかにもちゃんと予備隊のそなえができていたのである。……中畔六左衛門は物頭六百石で、上屋敷「二の手」支配だった、そして伊藤右太夫はその支配うちで「水がかり」という役を勤めていた。
 その頃の消火法は幼稚なもので、さあ火事だというと何百となく手桶(玄蕃という)を持ちだし、井戸なり川なりまた用水なり、手都合によって汲み上げたものを、現場まで人を列べて順繰りに送って消したものである。だからおいそれとは消えないし、大きくしないためには風下にある家をぶち壊して火止めにするのだが、烈風のときなどは役に立たなかった。伊藤右太夫はその水がかりの役で、火事のたびに手桶送りを指揮しなければならない、そして手桶の水をやっこらさと火へうち掛けるのを見るたびに、これは埒のあかぬことだという感をふかくした。
 ――なにか方法はないものか。もっと敏速に、もっと高く水を届かせる法がありそうなものだ。
 ふとそう思いついてから、彼はこつこつと独りで工夫をはじめたのである。右太夫は決して才能すぐれた人物ではない、食禄は百石、小姓組のきわめて平凡な、その代りこのうえもなく気の弱い善良な男だった。だから工夫にかかるといっても、べつに奇想を凝らすなどということはなく、まず誰でも考えつきそうなところから手をつけた。すなわち子供の水鉄砲である、それも自分で思いついたのではなかった。ある年の秋、江ノ島へ旅をしたとき、藤沢山清浄光寺へ参詣にたち寄った。清浄光寺はつまり時宗総本山の遊行寺である。そこの役僧に清光院喜善という人がいて、その人が大小無数の水鉄砲を作り、寺内の水まきに使っているのをみた、それから思いついてはじめたのである。以来一年あまり、誰にも会わずに根気よく作ったものが五つ、ようやく完成したので、今日はじめて中畔支配に見てもらうことに決めたのであった。
 中畦六左衛門は急がしかった。その数日まえ根岸のほうに火事があって、加賀家の消防隊が出動したとき、例の手桶送りの列が往来の邪魔をしたというので幕府からお咎めがあった。これは曽ての仙石事件とおなじく、定火消と大名火消との反目が原因で、べつに加賀家に失策はないのである。しかし六左衛門は責任者として当時の事情をしらべたり、若年寄へ出頭したりしなければならなかったのだ。
 六左衛門の多忙は右太夫もよく知っていた。それで消火道具の工夫ができたことも知らせてよいかどうか迷っていたのであるが、呼ばれたのをさいわい思いきって話しだしたのだ。
「さあ、明日こそ一年の苦心の花が咲くぞ」
 すっかり準備を済ませて、右太夫はひさかたぶりにぐっすり眠った。その明くる朝である、眼がさめると、なんだか気持がうきうきしていた、ばかに愉快で、からだ中が幸福でいっぱいになっているような感じだった。
「へんだな、苦心した消火道具が世に出るにはうれしいが、それだけでこんなにうきうきした心持になるかしらん」
 独り言を云いながら、夜具の中から起きだしたとき、ひょいとその幸福の原因に思い当った。思い当ると同時に、右太夫はうおっ[#「うおっ」に傍点]と大きく喚き、
「そうだ、立原から縁談があったんだ」
 と自信たっぷりに呟《つぶや》き、両の拳でとんとんと胸を叩いた。するとまるでそれを合図のように、若い家士が走って来て、
「申上げます、ご支配役がおみえになりましたが、いかが仕りましょうや」
「ご、ご支配役?」
 右太夫はあっと慌てだした。
「いま、いままいる、しばらくお待ちを願っておけ、いますぐにまいる」
「なにやら急用との仰せでございます」
「いますぐ、すぐだ」

[#8字下げ]三[#「三」は中見出し]

 顔を洗うのも、身支度をするのも夢中だった。玄関へとびだしてゆくと、
「やあ騒がせて済まぬ」
 と、六左衛門のほうから声をかけた。
「いえ、わたくしこそ無礼を仕りました、かように早くおみえ下さるとは存じませんでしたので」
「早すぎるとは思ったが、なにしろ一刻も捨ておけぬことなのでな、実は昨日はなした立原の三女の話だが」
「あれは、あれは謹んでお受けをいたします」
 右太夫はちょっと赤面しながら、
「少々身分ちがいとは存じますが、わたくしを見込んでとの仰せ、ご辞退申すべきではないと考えますので」
「まあ待て、それに就て詫びにまいったのだ、とにかく、ひどい間違いをしでかして申しわけがない、なにしろ眼のまわるようなさいちゅうのことだから」
「なにごとでございましょうか」
「つまり、立原の三女のことだがな、ぜひ伊藤右太夫にもらって呉れという話で、すぐにまあそともとに申し伝えたわけだ」
「たしかに、承りました」
「それが間違ったのだ、つまりそこもとの伊藤右太夫でないほうの伊藤右太夫だったというわけだ、つまりこっちの右太夫ではなくて、あっちの右太夫だったのだ」
 ぜんぶ同じ字で書く伊藤右太夫がもう一人いる、たしか半年ほどまえに駒込の中屋敷から来た男で、書院番かなにかしているという話を聞いていた。
「気がついてみるとあっちの右太夫は三百五十右、立原とは、身分も家柄も相応で、そこもとと間違えるのがおかしいくらいのものだが、はずみというものは恐しい、とにかくそういうわけだから、どうか六左衛門一代の失策として忘れてもらいたい、頼む」
「いえ、そのご会釈では痛みいります。わたくしも実は、いささか身分がちがいすぎますので、どうかしらんと考えてはみたのですか」
「なにまた良縁はほかにいくらでもある、決して気をおとすことはないぞ。これでわしも落ち着いた、ゆうべふと気がついてから独りで汗のかき通しだった。ではこれで……」
 云いたいことをいうと、そのままさっさと帰りそうにした。
 右太夫は急いで、
「ああしばらく、お待ちを願います」
「……うん?」
「昨日申しあげました消火道具、支度ができておりますゆえ」
「おお、そんなことを聞いたっけな」
「おてまはとらせませぬ、ごらんになって頂きとうございます」
 右太夫は、あたふたと組長屋のほうへ走って行った。
 なんにも考えたくなかった。問題は明白である、「六左衛門が感ちがいをした」それで話はきれいさっぱりである。考えてはいけない。右太夫は頭を振りながら、組長屋からの者を呼びだして来た。そして南の火の見櫓の下へ消火道具の実演の用意をさせた。
「ほう、これがその道具か」
 六左衛門はさすがに興味を惹かれたとみえ、近寄って来て手に取った。
「まるでところてん[#「ところてん」に傍点]を突き出すような物だな」
「はあ、水鉄砲から思いつきました」
「いやところてん[#「ところてん」に傍点]だ、ところてん[#「ところてん」に傍点]を突き出す道具によく似ておる、ふうむ」
 ひどく感心したので、握っていた鳶人足たちがくすくす笑った。
 それは実際ところてん[#「ところてん」に傍点]の道具によく似ていた、厚い板を四角に合せて真鍮の輪をかけ、元が大きく先が細い、その細い先から、更に細くなった筒が出ている、そして、棒の先に四角な板の付いたものを中へ入れ、水を吸い込み押し出す仕掛けである。
「これは一人持ちでございます」
 右太夫はいちばん小さいのを取り、用水桶から水を吸い取ってやっと押し出してみせた。水は出た、勢よく出はしたが、子供の水鉄砲とたいして違いはなかった。
「つまりこの理窟です、是では玩具も同様ですが、五人持ちの分は役に立とうかと存じます。これ、ここへまいれ」
 蔦人足を呼んで、最も大きい物をまん中へ運びだした。是は大きかった。筒を五人で持ち、棒を二人で扱うという水鉄砲の豪華版である。六左衛門は興ありげに前へのりだした。

[#8字下げ]四[#「四」は中見出し]

「それ、先を充分に水へつけて、いやもっと深く入れるのだ。よし、棒の者はいっきに引く、力いっぱいにぐいぐい引け、そうでないと水が充満しないぞ。そらよし」
 鳶人足たちは云われる通り上手にやった、用水桶の水はまるで底を抜かれたように、大きな筒の中へみるみる吸い込まれた。
「よしよし、そこで筒をあげる。いいか、押すんだぞ、それ!」
 五人が担ぎあげた筒。棒を持った二人はうんとひとつ、顔を赤くしながらけんめいに押した。水は筒先から噴き出したか……否! 前へは出なかった。むしろ筒の口からうしろへと噴き出した、すさまじい勢で四隅からびゅーっとはしり出た。そして棒持ちの二人は云うまでもない、そばにいた右太夫も、六左衛門までが頭からこいつをかぶった。
 わっ[#「わっ」に傍点]という短い叫び声は誰があげたかわからない、しかし、わあっ[#「わあっ」に傍点]と大きく残ったのは、筒を担いでいる五人がいっせいにふきだす笑い声だった。
「これは、こ、これは粗忽を致しました」
「ええたくさんだ」
 右太夫が慌てて駈け寄るのを、濡れ鼠のようになった六左衛門は、ふきげんに手を振って、
「あんまり馬鹿げていて腹も立たん。いや云うな、なるほど思いつきはよいかも知らん、しかし水を掛けるのは火事場の火で、火を消す者が浴びたってしようがないぞ」
「はっ、是はまことに思いのほかの失策でございました、けれどもこちらの三人持ちのほうなれば必ず」
「たくさんだ、また夏にでもみせてもらおう」
 六左衛門は精いっぱいの皮肉を云って、羽織の裾から水をたらしながら去って行った。
 どんなに右太夫ががっかりしたか、ここでくどく説明するには及ばないだろう。あんなにうきうきして起きたのに、からだいっぱい幸福感にあふれた朝だったのに、早くも今は雲泥月亀の差になってしまった。あんまりひどい。左様あんまりひどい話である。せめて消火道具でも花を咲かせてくれたら、その朝の不幸も半分で済んだろうに、両方いっぺんとはひどすぎる。
 ――あの遊行寺の喜善和尚のせいだ、あんな物を作って人を迷わせるなんて、僧職に似合わしからぬ男だ。
 ――ご支配役だってなんだ、そこもとの人物を見込んだから三女を娶ってやれなんて、それがひと晩のうちに感ちがいだ、こっちの右太夫じゃなくってあっちの右太夫。まるで、まるで……。
 二三日むしゃくしゃしていた、こんなときに酒でも呑めるといいのだが、酒屋の前を通っても酔うというほうで、気を晴らすという方法がない。ただ消火道具だけには未練があるので、そっと自分の家の裏へ取り出して試してみた。
 一人持ちから二人持ちまではよかった、しかし三人持ちとなるともういけなかった、それだけの量の水を遠くへ飛ばすには人間の力では不可能なのである、それに小さいものだといいが、三人持ちになるともう、どうやっても口元の方へ水が噴きだしてしまうのであった。
「これだ、この口元の方へ噴きださない工夫をすればいいんだ」そう思いつくと、
 ――よし、きっとやるぞ! と、また元気が出はじめた、もう立原の三女もくそもない。この工夫ひとつが成功すれば、なにもかもみかえ[#「みかえ」に傍点]してやれるんだ。
 元気がつけばもと[#「もと」に傍点]の伊藤右太夫である、すっかり気持も落ち着いて、火事さえ無ければ閑職だから、また自分の仕事場へはいってこつこつやり始めた。……するとある宵のことだった。仕事を終ったあとで風呂場へ行ったが、考えごとをしていたのでひょいと湯壷へはいってしまった。それは俗に五右衛門風呂というやつで蓋が浮いている、その蓋をしずかに沈めて底にしてはいるようになっているのだが、そのとき右太夫はいきなり蓋の上から踏みこんだ。蓋はほとんど縁とすれすれになっている、それをいきなり上から踏みこまれたので、体重で沈むと同時に、まわりの隙間からびゅっと湯が噴出した。
 びしっと、叩きつけられるように顔へ湯をくらった右太夫は、舌打ちをしながらとび退いた、しかしとび退いた刹那、彼の眼がきゅうにいきいきと光りだした。
「ははあ、なるほど、こいつは……」すぐにもういちど、浮いてきた蓋へ足をかけた、ぐいと押すと、こんどは少し傾いたので、一方だけから湯が噴きだした。もういちどやった、更にもういちど、真直ぐにしてやったり、片方へ傾けたり、押す力も色々に変えて繰返しやった。
「これだこれだ。これだ」
 右太夫はそのまま風呂場をとびだし、着物をひっかけて仕事場へとびこんだ。
「はっくしゃん、はあっくしょん」
 連発するくしゃみ[#「くしゃみ」に傍点]の声といっしょに、仕事場の灯はその夜おそくまで消えなかった。

[#8字下げ]五[#「五」は中見出し]

 明る日には作業方から大工が四人呼ばれて来た、しかし家士も家僕も仕事場へは入れない、四人の大工を相手に籠りっきりで、朝早くから夜ずっと更けるまで、木を挽いたり釘を打ったりする物音がつづいていた。
「またなにか珍物ができるとみえるぜ」
「当人は本気だからかなわねえ」
「気をつけねえと、また水をかぶせられるぜ」
 組長屋では鳶の者達がしきりに悪口を云いあっていた。
 日は遠慮なく経って十二月になった。その六日の夕方のことだったが、明かずの仕事場の大戸ががらがらとあいて、右太夫と大工四人がなにか大きな物をえっさえっさと担ぎだして来た。それをみたのは組長屋の者たちだった。「それ、なにか持ちだしたぞ」
「また恐しくでけえもんだな、こんどはご家中まとめていっぺんに水をあびせようというのだろう」
「あぶねえから遠く寄ってろよ」
 担ぎだして来たのは縦三尺に横二尺、深さ三尺五寸ばかりの厚板の箱で、まん中に支柱があり、それへ横に天秤のような棒が附いている、またまん中の支柱の横のところからは、木で作った筒が斜に伸びていた。右太夫はその天秤のような棒を二三度うごかしてみたが、
「おい長屋の者」と、振り返って呼んだ。
「玄蕃(水手桶)で用水桶から水を運んで来てくれ、どんどん持って来るんだ」
「へい。そらおいでなすったぞ」
 鳶の者たちは首をすくめたが、いやとは云えない、しぶしぶ手桶を持ちだして、用水桶から水を運びはじめた。……もうかなり黄昏の色が濃くなって、夜霜のひどさを思わせるようにしんしんと冷えて来た。水はどんどん箱へ汲みこまれた、右太夫は四人の大工に、
「では二人ずつ左右へかかれ」と命じた。大工は左右にわかれて、天秤をがっしと握った。このまえ水をあびた蔦の者たちは、慌てて遠くへ逃げだした。
「さあ、用意はいいか」右太夫がそう云ったときである、向うから中畦六左衛門が息せき切ってとんで来たと思うと、いきなり右太夫の袖をつかまえて、
「待て、ちょっと待て右太夫、たいへんだ」
「どうなさいました」
「どうしたではない、わしはえらい失策をやらかした、まず家へはいってくれ、家へ」
「もうたくさんです、お支配」右太夫は袖をふり払って、「それより今日こそごらん下さい、あれから籠りっきりで作りあげた消火道具を、これから試してみようとしているところです」
「な、なに、また水か」
 六左衛門は本能的にとび退いた。右太夫は見向きもせずに道具のそばへ寄って、
「ごらん下さい、是は五右衛門風呂から思いついたのです、いや、五右衛門風呂の蓋をいきなり踏み込んだときに思いついたのです」
「だが右太夫、それよりもわしは」
「蓋をいきなり踏み込んだときに、蓋と湯壷の縁との隙間から恐しい勢いで湯がとびだしました。つまり先日の五人持ちの水鉄砲の、口元から水が吹きだしたのと同じ理窟です」
「けれども待ってくれ、右太夫」
「押し出す力を強くし、水の逃げ口を狭くするほど、噴きだす水の勢いは大きく、かつ烈しくなります、ごらん下さい。……この箱の中に筒がありましょう、これがつまり五右衛門風呂です、この筒の中には蓋と同じ仕掛け板があり、それを上のこの天秤で上げ下げするのです、水の出口はこの横に出ている細い筒です。つまり天秤をこうすれば湯壷に相当する筒の中へ水が充満し、片方を上げれば、充満した水がこの細い筒口から出るのです」
「ええ待てと云うのに、細い筒も太い筒もない、五右衛門風呂などはそっちへどけて、ちょっとわしの申すことを聞けというのだ」六左衛門は、声いっぱいに喚きたてた。
「このまえわしは感ちがいと申したろう」
「……はあ」
 あまり声が大きいので、右太夫もひょいと振り返った。
「あれは間違いじゃ、感ちがいと申したのはやはり感ちがいで、本当は感ちがいではなかったんじゃ、あっちの右太夫だと思ったのがつまり感ちがいだったんじゃ、わかるか」
「まるで、相わかりません」
「つまりこうじゃ、わしがあのとき感ちがいと申したのは」
「いや拙者から話そう」
 そう云って進み出て来たのは、かねて顔だけは見知っている立原玄蕃だった。おやいつの間にと、ふり向いた右太夫の眼にもう一人、玄蕃のうしろに十七八の美しい娘が、じっと眼を伏せている姿がはっきりとうつった。
「これは……立原さま」
「こっちだのあっちだのとばかげた話だ、一言にして云えばわし[#「わし」に傍点]が頼んだのは貴公なのだ。それが今日この中畔がまいって、伊藤右太夫はすでに妻帯をしておると申す、よく訊いてみるとつまり書院番の右太夫じゃ。ばかばかしい、それも今日になってやっと……」
「待て待て、それはわし[#「わし」に傍点]も緩怠であった、だからそれは重々詫びておる、しかし知っての通りわし[#「わし」に傍点]は全く多忙で」
「多忙は多忙、縁談は縁談じゃ、こっちは娘の一生のことなんじゃ、それを『伊藤右太夫はもはや妻帯しておる』などと。ばかな、わしは初めから伊藤右太夫に娘をやりたいと申しておるんじゃ」
「だからわし[#「わし」に傍点]も初めに伊藤右太夫にそうしたのだ、けれどもふと考えると身分が」
「身分がなんじゃ、人物にみどころさえあれば乞食にでもくれるぞ」
「ばかなことを云う、まさか乞食などに」
「いや遣る、必ず遣る、誰がなんと申しても」
 老人ふたりやっきと口論をはじめた。こうなるときりがない。右太夫は構わず振り返った。
「さあ始めよう」
 と、消火道具のほうへ戻って来た。
「用意はいいか、では力いっぱい頼むぞ」
 大工四人は天秤の左右へ手をかけた。
「それ!」
「えっさ、えっさあ、えっさ」
「えっさ、えっさあ、えっさ」
 天秤の片方が上れば片方が下がる、三回、四回、力まかせに押しているとやがて、支柱の横に出ている筒口から水が噴きだしはじめた。まるで息をつくように、高くなり低くなりして四五尺あまりのところに上下する。
「そら、力をいれて、そら」
「えっさ、よいさ」
「えっさ、よいさ」
 四人の大工はけんめいだった。そのうちに見ていた鳶の者が一人、天秤の左へとびついた。
「よし、おいらが手を貸そう」
「おれもいくぞ」
 また一人、右の天秤へとびついた。それをきっかけにばらばらと三四人、誘われるようにとびだして来た。えっさえっさ、天秤が烈しく動きだすと共に、筒口の水はざっ[#「ざっ」に傍点]と、飛沫をあげながら見上げるほど高く噴きあがった。
「やったー、あがったあがった」
「わああ」
 天秤を押す者も見ていた者も、いっせいにわっと躍りあがって叫んだ。
「水を運べ、水が足りないぞ」
 右太夫が叫んだ。見ていた者たちが言下に手桶をつかんで走ってゆく。すると……立原玄蕃の娘菊枝は、手早く裾をからげ襷をかけたが、そのまま空いている手桶を取っていっさんに駈けだした。
「あ、これ菊枝」
 玄蕃がびっくりして呼び止めようとした、すると六左衛門が袖をひいてうなずいた。
「止めるな、この方が話は早そうだ」
「なに?……ああそうか」
「そうだとも、はっはっは。それより見ろ、こいつは竜のように水を噴きあげるぞ」
 菊枝はけんめいに水を運ぶ、筒口は天にも届けと水を噴きあげる。……宝暦五年に「竜吐水」として世にあらわれた手押し喞筒《ポンプ》の原案は、斯くしていま高く高く成功の花を噴きあげている、あたりはすっかり暮れていた。



底本:「滑稽小説集」実業之日本社
   1975(昭和50)年1月10日 初版発行
   1979(昭和54)年2月15日 11版発行
底本の親本:「譚海」
   1942(昭和17)年1月号
初出:「譚海」
   1942(昭和17)年1月号
入力:特定非営利活動法人はるかぜ

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山本周五郎
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