You make me happy ◆gry038wOvE





「私は──!!」


 その先の言葉が、美希の喉に出かかったが、言うのをやめる。

 遠くへ羽ばたいてしまった赤い鳥の戦士をどうするか。
 今、蒼乃美希はその選択を強いられている。
 あの赤い鳥を探すか? ──少なくとも、この森の何処か、おそらくそう遠くない場所にあの鳥はいるだろう。チャンスは今だ。
 あるいは、無視して沖たちと合流する約束のために戻るか? ──単独行動は危険だし、その方が賢明な判断に違いない。

 完璧な判断。

 ──合理性を求めるなら、それは間違いなく後者だと思う。
 しかし、なんだろう……。この、いまいち踏み切れない感覚は。
 勇気を要するとするのなら、深い森へ行く方だろう。だから、なぜ帰ることを躊躇おうとしているのかが、美希自身もわからない。
 どちらも完璧からはほど遠い判断になってしまう気がするのだ。


「……っ!!」


 何も考えない。それが、美希の下した判断である。
 思考を放棄したわけではない。
 何も考えずに体が思うように突き進んだら、どこへ行くかを待ったのだ。
 そして、その結果────


(……何だかわからないけど、行かなきゃいけない気がするのよね)


 キュアベリーは森へ深く深く潜り込んでいった。


『────初めまして、参加者の皆さん。私の名はニードル』


 十分という時間は短かった。
 首輪から流れた音声に、キュアベリーは驚きもしない。一分前の段階で時計を確認して、覚悟していたからだ。
 無我夢中で赤い鳥を探していた、というわけではなかった。

 そして、同時にキュアベリーは耳を澄ます。
 この放送は首輪から発されるものだ。参加者全員に取り付けられているのだから、あの赤い鳥の首輪もまた音声を発するはず。
 全く同じ音声が流れているせいで、やや聞き取りにくいが、音の伝わる早さは距離によって違う。


『こ』『こ』『の』『の』『ゲ』『ゲ』『ー』『ー』『ム』『ム』『に』『に』


 確かに今、少しだけ音のずれた音声が聞こえた気がする。
 ニードルという男のどうでもいい前置きの部分であり、まだ死亡人数や禁止エリアに動揺する段階ではないからこそ、冷静にこの音を聞き取ることができた。
 ニードルの放送の内容を聞きながら、キュアベリーは周囲を見回し始めた。


『では、サラマンダー男爵の時と同じく、ここまでの死亡者を読み上げましょう』


 その言葉が聞こえた瞬間、キュアベリーは周囲を見回すのを、やめる。
 死亡者、という言葉がベリーの胸に刺さった。
 これを聞き逃すということは、死者への冒涜である気がしたのだ。
 ここで死んでしまった人間の名前を、せめて彼女の頭の中に刻んでおく。そのために、ベリーはここで死者の名前を聞き取っていかなければならない。

 彼女の記憶力は高い。
 だが、初めて聞いた名前を完全に覚えきれるほどではない。名簿に死亡者名をマーキングするための準備などは、今回はしていなかった。
 そのため、この戦闘の後はすぐに街に戻り、沖たちと合流してそちらのマーキングをしなければならない。


『相羽シンヤ、井坂深紅郎、五代雄介──』


 聞き覚えのある名前から始まった放送。
 そうだ、あのテープレコーダーから聞こえた少年の声。その主。
 相羽シンヤ────相羽タカヤという参加者の弟である。
 彼は死んだ。
 それを知ったタカヤはどう思うのだろう。
 美希の中で、憤りという感情が生まれてくる。
 相羽ミユキもおそらくその関係者。残されたタカヤは、一体何を思うのだろう。


 東せつな、桃園ラブ、山吹祈里など、知り合いの名前はほとんど終わりごろに呼ばれる名前ばかりだ。
 もし、蒼乃美希の名前が呼ばれたなら、その名前はきっと、すぐに呼ばれるだろう。
 しかし、彼女たちの名前が呼ばれるとは思わなかったし、自分の名前が呼ばれることなど想像したくもない。こう思えるのは、孤門の「諦めるな」という言葉のお蔭だろうか。


『早乙女乱馬』


 すぐに、美希の知る名前が呼ばれ、美希の中で時が止まった。
 早乙女乱馬。
 その人は、警察署で出会った美希より少し年上の男性の名前だ。チャイナ服におさげ髪というファッションから、やたらと美希の中に残った。
 そして、美希はその死体を確かに、見た。


『志葉丈瑠、筋殻アクマロ、スバル────』


 ────その刹那。
 森の茂みが疾風によって、ざわめき、ベリーはそちらを見た。

 赤。

 そちらを見た瞬間、ベリーの視界には森の緑色には似つかわしくない、真っ赤な花が見えたのである。
 否、それは花などではなかった。
 超高速でこちらに接近する、真っ赤な戦士────これは先ほど見かけた、赤い鳥だ。
 どうやら、探していた相手は最悪のタイミングでこちらに来たらしい。


『ランスター、パンスト太郎』


 名前が次々と呼ばれる中、ベリーは赤い鳥が真っ直ぐに突き刺そうとしてきた剣を白羽どりの要領で掴んでいた。
 その間も、容赦なく死亡者の名前が呼ばれている。
 しかし、赤い鳥の攻撃に気を取られていたため、聞き取ることができない。


「……ちょっと! なんで今襲ってくるの……!?」


 赤い鳥の無骨なマスクは答えない。
 そのマスクの下には何があるのだろうか。
 男か、女か。それさえもわからない。
 知ってる人か、知らない人か。それさえもわからない。
 わかっているのは、この剣から伝わる殺意だけだった。


『東せつな、姫矢──』

「えっ!?」


 と、ベリーが驚いた瞬間に、赤い鳥は左足を上げ、ベリーの脇腹に強力な蹴りを叩き込んだ。
 ベリーの体がジェットコースターのような速さで木に激突する。
 だが、そんな痛みよりも、「東せつな」という名前の方がベリーの脳内で強く響いていた。
 ……東せつなの名前が呼ばれた。
 この放送は死者の名前を呼ぶ放送だ。
 つまり、せつなは死んだ。
 そんな三段論法で全てを理解するとともに、ベリーは全身の力を失う。


『──山吹祈里……以上15名』


 更に無情なのは、そこに幼馴染の名前まで追加されたことだ。
 間の名前が聞き取れなかったため、もしかしたら桃園ラブも……と、ベリーは不安な気持ちになった。
 目のピントは、赤い鳥の方に合っていなかった。
 いや、意識そのものが戦いの最中にあることを忘れていたのだ。


(嘘……よね、そんなわけ……)


 傷ついた体ながらも、ベリーの体ははがれるように木の幹から落ちた。
 涙はこぼれない。
 百パーセント信じているわけではないからだろう。
 少なくとも、親友の死があるのなら、それを予期する出来事──たとえば、病気の発覚とか──があったり、自分の目の前で死んでいくものだと思っていた。
 しかし、こうして自分も知らないうちにどこかで仲間が死んでいる、というのは不思議だった。
 実感、というやつがないのだ。


「クッ……」


 真っ先に湧き出るのは、悲しみじゃない。
 怒りだ。
 祈里やせつなとの別れが来るのは、美貌の美希がしわくちゃのお婆さんになっている頃であると思っていたのに。
 こんなくだらないゲームに、ある日突然。何の前触れもなく招かれた。
 人が次々と死んでいった。
 それは、事故でも天災でもない。人の手に、そして明確な悪意によって起きた出来事だった。


「……!」


 ベリーはふと我に返る。
 何かの動きがあったとしても、まるで何も起きていないかのように感じてしまっていた視界が、ようやく機能した。
 何故、機能したのか。

 それは、フレームいっぱいに映った赤に、気づいたからである。────赤い鳥は、眼前まで迫っていたのだ。
 赤──それはキュアパッションを連想させる色だ。
 彼女が近くにいるような錯覚に陥るとともに、彼女ははっと気づいた。これはせつなではない、と。意識を取り戻したベリーは、咄嗟に左に避けたのだ。


『【エリア】、15時に【F-8】エリア』

「はぁっ!!」


 前に拳を突き出す掛け声を、はっきりと発していたかどうか不安だった。下手をすれば、放送の音声より聞こえが悪かったのではないだろうか。
 突発的に出た声さえも、大観衆の中で初めて漫才をやる時のような──不思議な抵抗感があった気がした。
 ふと、いつか実際にそんな事があったのを思い出す。
 目の前で赤い鳥が持つ剣が木へと突き刺さり、木をなぎ倒したのを見て、そんな懐かしい光景も消えた。

 あの細い剣は、ただ、斬ったり凪いだり刺したりする程度の道具ではないらしい。
 そう、この怪人自体の能力と相まって、敵を粉々に破壊してしまうのだ。相手が人間ならば、どこに突き刺しても体中の骨が砕けるほどの衝撃を受けるのではないかと思う。剣本体の耐久性も高いため、今も折れずに残っている。
 不思議な力に守られたプリキュアならば、並みの刃は通さない。
 しかし、この剣はわからない。


『「青+黄色」の式が示す施設に』

(いけない……集中集中。そうよ……パインやパッションがそんなにやられるわけがないんだから……っ!!)


 ベリーはそんな赤い鳥の後ろ姿に向かって、まっすぐ駆けていく。
 その細く長い脚は、同年代のどんな女性よりも早く地面を掴んでいくだろう。それがプリキュアとなっているのだから、尚更地面を早く掴む。
 彼女が赤い鳥の後ろに立つのは、刹那、瞬の出来事であった。


 ドンッ


 ベリーの真っ直ぐ伸びた腕が、的確に赤い鳥の体を狙う。
 しかし、相手も戦闘においてはプロだった。素早く身体を翻し、ベリーの右腕を握りこむように掴む。
 ベリーの拳は、決して優しくない鳥の腕によって、めきめきと音をたてはじめた。
 折れる音ではない。折ろうとする力に必死で耐える音だ。


「……い、た……」


 三文字目が出ないほど、強い痛みに襲われる。
 プリキュアになってから、こんな事はなかった。どんな激しい戦いをしても、プリキュアとなった彼女を相手には、内臓や骨にダメージを与える事ができない。
 だのに、どうしてこんなにまで痛むのだろう。
 答えは簡単。これまで肉弾戦で戦ったどんな敵よりも力強いからだ。


「……ッッッ!!!」


 声は出さなかったが、ベリーはもう片方の手・左手で怪人の腕にパンチを叩き込んだ。
 大振りなパンチのため、大きなダメージを与えるには不適切だ。しかし、敵の右腕を麻痺させるにはちょうどいい。
 とりあえず、敵にダメージを与えるよりも、悲鳴をあげている右拳の救出が先決だ。
 もし、彼女にプリキュアとしての経験がなければ、敵の右腕を掴んで引きはがそうとしただろう。それは、きっとこの鳥には無効だったに違いない。

 しかし、こうしてベリーが敵の腕を力強く殴ったのは、……有効だった。
 ベリーの右拳は、敵の拳の力が一瞬緩んだ隙に、重力が自動的に解放してくれた。
 窮屈な世界から抜け出した彼女の右拳は、思いっきり開かれる。多少痛んだが、先ほどのように握りつぶされそうな状態と比較すると、随分解放感に溢れており、痛みがまた心地いいとさえ感じる。


「いたたたた……」


 やっと、ベリーは声を取り戻した感覚だった。
 痛みをこんなにも軽く表現できるのは、幸福だった。
 今の痛みは、本気だっだ。握りつぶされるのではないか、と本気で思ったのである。利き腕である右手の骨を、粉々に折ってくるのではないか……。
 それは、殺気と共に差し出された痛みだ。


(くっ……こんな時、みんながいてくれたら……)


 こんな強敵と戦う時、一人だった事があっただろうか。
 真っ先に立ち向かっていくピーチや、それに続くベリーとパインとパッションがいる。それがプリキュア・クローバーではないか。
 しかし、そんな考えは逆に自分自身の心を痛めつけてくる。
 まだ、祈里やせつなという仲間が死んだと報じられた事が、心の中で曖昧にしか映っていないが──それでも、不安は大きいのだ。
 美希の中での彼女たちの死は曖昧なものだが、ニードルの言葉ははっきりと口に出されたものだ。彼女たちの死を確信してから口に出したもの。誤報だったとしても、あの瞬間、ニードルは確かに躊躇いもなく、言葉を濁さず、彼女たちの死を伝えていたのである。
 だから、不安は大きくなる。
 信じたい気持ちこそが、今は曖昧だったのだ。


 放送で死んだ名前が正真正銘の事実である可能性。
 これは高い。
 まず、アインハルトや沖やいつきが言っていた名前は、実際に放送で呼ばれた名前そのものだったし、えりかもここでは会っていない。
 実際に死体を見た乱馬の名前も確かに呼ばれた。
 そのうえ、首輪によって全く別の放送を流すという手段を使うとしても、目の前の赤い鳥の怪人の首輪から流れた音声とほぼ同一である時点で、その可能性は低い。
 もし、主催側が知り合いの死を伝えることで精神的動揺を誘おうとしているのなら、第一回放送で呼ばれる名前はこうなるはずだ。

『来海えりか、月影ゆり、花咲つぼみ、東せつな、明堂院いつき、桃園ラブ、山吹祈里』

 ここまで死んだ人間にも会っていないのもベリーが放送の内容の信憑性を確かに感じている理由である。

 それを思うと同時に、首輪からの音声が途絶える。


『────今回の放送は終了です。……みなさん、ごきげんよう』



 話を戻そう。

 美希が聞き間違いをしていた可能性。
 これは低い。
 もし、「東せりな」とか、「山吹みのり」とか、そんな名前の参加者がいるのなら、可能性はゼロではないが、そんな参加者はいない。東せつな、山吹祈里。どちらも、似通った名前が全くないのである。
 それに、あれだけはっきり聞こえた音声を無視することはできない。今、すべての放送が終了したばかりだ。放送自体は割とはっきりと伝わるような音声である。
 祈里やせつなは、ずっと一緒に遊び、一緒に踊り、一緒に戦ってきた仲だし、その名前が聞こえたら、聞き逃さないだろう。


 つまり、どれだけ信じたくても、美希はこの真実からは、逃れられない。
 考える事を完全に捨てられるのなら幸せだっただろう。
 たとえ、考えたくなくても、人間は不思議なもので、考えるのをやめる事が絶対にできない。特に、美希のように几帳面なタイプはそうだ。


 結局、自分でついている嘘を信じ込む……なんて事が、彼女にはできなかった。


「……ック…………」


 何故か、今頃になって涙が流れているのを感じる。
 テレビの女優のように、涙がツーと頬を伝うわけではない。
 鼻の奥がツンとして、鼻の中が柔らかくなって。顔中が、意思とは無関係に自分を歪めようとしてきた。
 こんな感覚はいつ以来だろうか。
 永遠のお別れなのだ。それも、もっと続くと信じていた日常がある日突然、凄惨な現実とともに降り注いだ。
 卒業式や、離婚──美希が経験してきた何かの形でのお別れ。そんなの、まだずっとマシな話かもしれない。
 ラブとも祈里とも和希とも、また会えた。
 そう、死んだ人間は蘇らない。
 せつながラビリンスのイースから、キュアパッションへと変わった時は、死んだ人間が蘇る瞬間を見たけど……それは、きっとあの時限りの奇跡だった。


 そうだ。奇跡や、魔法。そんなものがあるのだろうか。


「うわああああああああああああああ!!!!!」


 ────無いから、キュアベリーはこんな風に、赤子のように泣いているのだ。


 ただ、周りが何も見えなくなるほど泣く事でしか、思考を放棄できない。
 思考を放棄したかったのは、辛い事から逃れるためだった。
 しかし、今たしかに辛いと感じているのだから、全てが無意味だった。
 意味もなく、ただ自動的に感情が溢れて泣いてしまう。
 それが今の美希の姿だった。


「……」


 意識ある者ならば、突然泣き出したキュアベリーを不気味がったかもしれない。
 だが、意識を捨て去ってしまった赤い鳥────無骨で、もはや感情のようなものが無いようにさえ見えるこの鳥は、それを好機と見た。
 頭がろくに働かない相手は、物と同じ。
 物を破壊するのは、人を殺すよりずっと楽だ。
 それと、同感覚で鳥はキュアベリーに刃を向け駆けだした。


「うわああああああああああああああああああ!!!!!!」


 誰に響いてもいい。
 誰に聞かれてもいい。
 それくらいの大声で、キュアベリーは泣いていた。
 赤い鳥は、そんなキュアベリーの無防備な腹を、剣を野球のバッドのように振りかぶって吹き飛ばす。
 キュアベリーの華奢な体が、地面を削りながら滑っていく。
 摩擦や、地面の凹凸がキュアベリーの体を傷つける。
 砂埃が、自動的にベリーの口の中に入り、ベリーはむせた。しょっぱい味と、土のしゃりしゃりとした食感が、口の中で入り混じる。最悪の味だ。
 だが、味覚よりも視覚が映す光景に、ベリーは心を奪われた。



 キュアベリーの真上に、空が広がっている。
 太陽。
 眩しい。
 これだけ眩しいのだから、涙を早く蒸発させてほしいのだが、光は瞳孔に刺激を与える。涙のせいで、光が目を沁みさせる。それで、余計に涙が流れる。
 こんな晴れた日に、みんなで集まったり、遊んだり、旅行に出かけたり、した事があった。文化祭とか、ダンス合宿とか、ダンス大会とか、いろいろあった。
 ベタな話だが、それが全部フラッシュバックした。
 祈里の父親、祈里の母親、せつなの友人である隼人、瞬、幼い頃の祈里とか、ラブとか……彼女たちに関係のある人物の顔も浮かんでくる。
 全部、笑顔だ。
 祈里がいた事で、両親は笑顔になってる。祈里が大事なのだ。こんな所で死んでるなんて、絶対に知らない。
 隼人や瞬もそうだ。一緒にラビリンスを復興させるために、せつなを待ってる。前にせつなの寿命が尽きた時のような淡泊な反応は、きっともうしないだろう。
 ラブ。彼女も生きているかわからないが、祈里やせつなが死んだら、きっと今の美希以上に悲しむんじゃないだろうか。
 しかし、これ以上の悲しみなんて、きっと生涯味わう事ないからわからないだろう。


 ……今見ている思い出を見て、思う。
 なんで、あの日、雨じゃなかったのだろう。空は黒くなかったのだろう。
 あの日が雨だったら、思い出は作られなかった。
 あの日の空が真っ暗だったら、遊びに行くこともない。
 笑顔でいられた記憶が、こんなに重々しく圧し掛かってくる事もない。
 ラブが、祈里が、せつなが、元々いなかったら……。
 地球もラビリンスのように幸せのない世界だったら……。


 ずっと、あの楽しい時間が続いていくはずだから、一緒にいる間はそんな風に思った事が無かったのに……。


「……」


 そんなベリーの視界に影が落ちる。
 赤い鳥が歩いてきたのだ。もはや、戦意喪失しているベリーを前に、駆けてくる事さえなかった。
 剣を握り、寝ころぶベリーの左隣に立つ。これも、ベリーが相手ならば、相手の動きを封じずとも殺せると思ったからだろう。普通なら、足と足の間にベリーを挟み込むように立つと思う。
 しかし、どうしてだろうか、剣の刃の切っ先が、まったく怖く見えなかった。
 祈里やせつなも体感したものが、すぐ先にある。
 親しい人が二人も死んで、死というものが身近に思えてきたのだろうか。
 それとも、それが最も簡単な悲しみからの逃避方法だからだろうか。


 いや、ただ単純にもうどうでもよくなっているだけなのかもしれない。
 これが、自分をどう痛めつけようが、もはや関心がないだけなのかもしれない……


『駄目!』


 真っ直ぐに振り下ろされた刀は、ベリーの首元を狙っている。
 ギロチンのように、刀を首に落とそうとしたのだ。
 だが、それは、生身の肉体を切り裂くことなく、柔らかい地面に落ちていった。
 ベリーが右に寝ころんで避けていた。
 ベリーの意思や、想いとは全く無関係に、ベリーの体は敵の攻撃を避けていたのだ。
 ベリー自身が、無意識にそれを望んだのだろうか。言われてみれば、そうかもしれない。その可能性は大いにありうる。否定はできない。
 しかし、何だろうか。
 直前に聞こえた声や、今ベリーの肌が感じた温もりは。
 ベリーは思わず立ち上がった。そこには、赤い鳥以外に誰もいないのである。


「……ブッ、キー?」


 何かに反応して突然泣き止んだ赤子のように、ベリーの声は不思議な平静を取り戻していた。
 いまの声、確かに山吹祈里の声だったように思う。
 プリキュアに変身しているにも関わらず、ベリーは彼女を慣れ親しんだあだ名で呼んだのだが、本人でさえその事には気づいていない。


「何処にいるの、ブッキー!?」


 ベリーは、思わずそう叫ぶ。
 赤い鳥の事などお構いなしだ。それは、彼女が完全に我を忘れてしまっているという事だった。


「……」


 鳥は、またも機械的に彼女の姿を捉え、破壊しようとした。
 右上から左下へ、斬りやすいように斜めにそれを振り下ろす。


『前を見て!』


 はっとしたベリーは、前方のそれを避ける。
 今の声は、東せつなだ。
 彼女が、何処かからアドバイスを送ったのだ。
 しかし、脳内に直接響いたかのようなその声が、どこからのアドバイスなのか、特定できなかった。
 周囲を見回しても、人の姿はない。



『────────』



 だが、その瞬間に誰かがまた、キュアベリーの耳に耳打ちをした。
 その言葉で、急にジェットコースターが落ちていくような、不思議な感覚を感じる。
 はっとする。
 ベリーは目を見開く。
 それと同時に、涙が目から伝っていくが、目は乾いている気がした。


(────そうか……!)


 キュアベリーの胸の中に、また奇妙な感情が湧きあがった。
 落ち着いて、息を吸い、それを深く吐いた。
 そうすると、まだ、少し咽そうになる。泣きっ面に土……だから仕方がない。
 しかし、心はだんだんと落ち着いてくるようになった。


(そうよね、……なんで、今までわからなかったんだろう……あたしって、ほんとバカ)


 そういえば、こんな風に誰かを説得した覚えがある。
 それも、ごく最近の話だ。
 セリフが最初に思い浮かぶ。


『その人達は、あなたを守ろうと頑張ったはずでしょ! でも、あなたが簡単に命を捨てたら、その人達の思いはどうなるの!? 何にもならないわ!』


 その台詞は少女の顔が思い浮かぶ。
 アインハルト──彼女も親しい人を亡くして、傷つき、死ぬ事を考えていた。
 美希は、自分で諭しておきながら彼女と同じになっていたのだ。
 ベリーは思わず、自分の「完璧」とはほど遠い心情に、思わず苦笑する。


 そうだ、人は完璧じゃない。
 だから、自分で言った事を守れない事だってある。
 他人の傷口をえぐりながらも、自分には全く同じ傷口がある事もある。
 他人の傷口を撫でながらも、自分にはもっと深い傷口がある時もある。
 不完全なのが人間なのだ。どこか不出来なのが人間なのだ。


 ……しかし、完璧になるための努力は絶対に怠ってはいけない。
 反省すればいい。改善すればいい。完璧に近づくために頑張ればいいのだ。


「私、やらなきゃ……!」


 キリッと、ベリーは眉を整え、レーダーが敵を補足して睨みつけるように、目を細めた。
 前に見えるのは、先ほどから同じ。赤い鳥だ。
 しかし、見えてはいなかった。
 他の事がずっと気になって、倒すべき敵の事など、まったく見ていなかったのだ。
 こいつは無差別に敵を襲う。実際、キュアベリーも同じようにして襲われた。
 どんな事情があるかも知れない。
 けれど、放っておいてはいけない。
 このまま負けて、やられて、こいつが他の人たちを傷つけるような事があってはならないはずだ。
 赤い鳥の心を、浄化する。
 それが、キュアベリーの果たすべき使命なのだ。


「……さあ、来なさい。あなたの名前は聞かないわ」

「……」

「けど、あなたの心に完璧に私を残しておくために、私の名前を教えてあげる!」


 先ほど、誰かがそっと教えてくれた事を、キュアベリーは頭に焼き付ける。
 そう、────だから、落ち込んで自暴自棄になる事なんて、無くていいのだ。
 今やるべき事をやる。
 今しかできない宿題を、頑張らなくちゃいけない。
 そのために────


「ブルーのハートは希望のしるし!」


 青い空の下で、キュアベリーがハートを作る。
 希望。
 その名前が意味するものを、危うくキュアベリー本人が捨ててしまうところだった。
 今まで名乗ってきた、五十回以上に及ぶこの言葉を、ベリーは自分で否定してしまうところだった。


「つみたてフレッシュ! キュアベリー!」


 キュアベリーは、敵にこの名前を刻ませるために、再び赤い鳥を睨みつけた。
 右足が、左足が、前へ前へと勝手に動く。


「はぁぁぁぁっっっ!!」


 鳥の前で高く飛び上がったベリーは、そのまま垂直に落下し、敵に熱いキックを放った。
 更に、まるで敵を踏み台にしたアクトバット技のように、そこからぐるりと背面飛びをして、大地に再び立つ。
 その足は、再び動くと、敵の顔面めがけてキックを放った。
 軟体と長い脚。その両方があって、初めて実現される技だ。


「……」


 AIのように無口だが、赤い鳥はその攻撃にひるんでいるようだった。
 しかし、次の瞬間その右足を両手で掴んだ赤い鳥は、その足を掴んだままジャイアントスイングのようにぐるぐると回転し始めた。
 そして、ベリーの足がその手から放たれ、ベリーは体ごと吹っ飛ぶ。


「はぁぁっ!!」


 だが、ベリーも体勢を立て直し、近くの木を踏み台にして、人間大砲のように赤い鳥へと突っ込んでいく。
 木を蹴ることで勢いをつけたベリーは、そのまま前へ拳を突き出した。
 赤い鳥は当然のようにそれを避けた。
 しかし、これもまたベリーの狙いである。


「はぁっ!!」


 グーにしていた拳を開くと、ベリーはそのまま赤い鳥が元いた地面に手をついた。
 足はつかない。
 滞空している足が、そのまま赤い鳥を蹴り飛ばしたのだ。
 今のベリーは、まるで逆立ちしているような状態だった。手が足、足が手。
 クローバーとして特訓したダンスの演目にはないが、ブレイクダンスのようなものだった。プリキュアとして高まった身体能力やバランス感覚が成す技だ。
 本来、キック技を得意とするベリーは、わざと敵の回避を狙ったのである。
 赤い鳥も、その瞬間だけは思わず、「ぐっ!」と声をあげて吹き飛んだ。その声ははっきりとは聞こえなかったし、中性的な声で、仮に聞こえたとしてもベリーの耳はその正体を知る事が出来なかっただろう。


「ラブ、祈里、せつな……私に力を貸して!!」


 その声は、仲間にすがるような意味ではなかった。
 この強敵を倒すために、ベリーだけでは引き出せないほどの力が要る。
 それを引き出したいのだ。
 キュアベリーの心の中にいる仲間たちが、何をしてくれるのか。


「響け、希望のリズム! キュアスティック!」


 そう言って、ベリーソードを構える。
 ベリーソード。これは、キュアベリーの専用武器であるキュアスティックだ。
 それを、赤い鳥の更に向こう側へと放り投げながら、キュアベリーは迫っていく。


「……受けてみなさいっ!」


 反射的に、鳥はベリーソードの方に目を向けた。
 ……しかし、何もない。
 再びキュアベリーの方に目をやると、その顔面にまたも強力なキックが繰り出された。
 長い脚が、かなりの回転とともに赤い鳥の顔面にキックを叩き込む。
 痛くないはずがない。


「ベリーソードは囮よ!!」


 倒れた赤い鳥に向かって、キュアベリーはそう声をかけた。
 ベリーソードを投げた事────その行動には、何の必殺技的な意味もない。
 ただ、敵の注意を引くためにベリーソードを投げ、こちらを向いた瞬間に蹴りを入れて怯ませる。ただそれだけの、ごく単純な作戦だ。
 しかし、単純でもいい。
 作戦が思い浮かぶだけの思考回路が取り戻せた事が、大きな戦果なのだ。



 上空で、放り投げたキュアソードをキャッチして、キュアベリーはまた赤い鳥の方に向きなおす。
 赤い鳥は、ちょうど起き上がろうとしているところだった。剣を杖代わりに使い、よろよろとしている。


 今更ながら、ベリーはそう言ってキュアスティックを構える。
 そして、いつもの向上を敵に向けて叫んだ。


「悪いの悪いの飛んでいけ! プリキュア・エスポワールシャワー! フレーッシュ!」


 スペードを象ったマークをなぞり、そこから青色の光線が放たれる。弾丸よりもずっと疾く、弾丸よりもずっと優しい光が真っ直ぐに赤い鳥へと向かっていく。
 その光線は、空中で爆ぜる事などなく、赤い鳥の姿を包み込んだ。赤い鳥には避ける間すらなかったのだ。
 だが、これは攻撃のための技ではない。
 言ってみれば、敵を浄化するための、心の剣。
 もし何かに支配されて悪い事をしているのならば、その支配から救い出してあげる力だ。
 赤い鳥はそれから数秒間、光に包まれたままの状態だった。


 光輝く赤い鳥を前に、キュアベリーはたそがれる。


(ありがとう……ブッキー、せつな……)


 あの時、蒼乃美希に声をかけたのは、紛れもない彼女たちだ。
 山吹祈里、東せつな。その二人だから、助けれくれた。
 本来、会えるのならずっと会いたい存在だが、長い言葉など彼女たちには不要だった。


(あなたたちは、私の心の中にいる……)


 それに、あれは祈里やせつな本人でもなければ、祈里やせつなの霊なんてものでもない。
 言ってみれば、美希が思い描いた祈里やせつなの姿。
 懐かしい思い出から抜け出した、美希の中に残っている二人の記憶だった。


(私は、ブッキーやせつなが、あんな時私にどう声をかけるか、知ってた。……自分でも無意識のうちに、私は二人の声を……)


 それは、現実に魂を持っている祈里でもせつなでもない。
 美希自身が、自分を守ろうとして作り出した優しい幻覚であり、あまりにも精巧に彼女たちを象った「想像」であった。
 しかし、そう言って切り捨ててしまうにはあまりにも勿体ない存在だ。
 彼女たちが実際にそこにいたら、……幽霊として出てくることができたなら、きっと全く同じ言葉をかけてくれるからだ。


(私たちはお互いの事を完璧に知り合ってる。だから、たとえ誰かがいなくなったとしても、いなくなった子が思う事が、手に取るようにわかるのよ)


 人と人とは完全には理解し合えないかもしれない。
 しかし、友達が困っていれば美希はそれがわかる。その友達が、もし困っている人を見かけたら、どう声をかけるのかもわかる。
 困っている自分に、友達がどう声をかけてくれるのかも、わかる。


(私たち、プリキュアクローバーは誰も欠ける事はない! たとえ一人になっても、心は通じ合っているから……)


 祈里やせつながもういない事には変わりはないかもしれない。
 それでも、美希は祈里やせつなの死を怒っても、もう悲しむ事はないと思う。


(私たちは、世界で一番の完璧な友達だから)


 祈里やせつなが何と呟いて彼女を立ち直らせたのかは聞くだけ野暮だろう。
 プリキュアの使命を説いたのか、変わらぬ友情を説いたのか、生きる事の大切さを説いたのか、それははっきりとはわからない。
 しかし、本当に親友が声をかけてくれたのかというほどの説得力が、美希の中にはあった。


(ブッキーたちが残した、優しさや強さ、青い空の下の思い出は、今も私の胸にある。それが消えない限り、彼女たちは消えない)


 とにかく、蒼乃美希は、それを知ったのだ。
 空が青くて良かった。あの時、心に残る思い出を作っておいて良かった。
 それが美希の胸の中にある限り、二人の存在は永遠に消えない。
 だから、美希もこのままこの殺し合いで死ぬわけにはいかないのだ。

「……っ、く…………ここは……」


 ベリーが、その声を聞いて赤い鳥の方に意識を向ける。ベリーの視覚は見覚えのある女性の姿を捉えた。
 そう、あのショートヘアはどこかで見たことがある。顔、体つき、声……それは赤い鳥のものではなく、美希が知っている人間のものだ。


「あかね、さん……?」


 天道あかね。
 美希より年上の、ショートヘアの少女である。服装が前に見た時とは違い、中華風の胴着を身に着けた格好に変わっている。
 早乙女乱馬の前で怒りを爆発させ、天井を破壊するほどの腕力を見せた感情的な彼女と、先ほどまでの機械的で無感情な赤い鳥は、まるで別人のようだった。
 しかし、不思議と驚きはなかった。
 そう、美希は彼女を見たとき、何かを感じたのだ。もしかしたら──と心のどこかで思っていたのだろう。
 あかねがこちらに気づき、訝しげな目で美希を睨みつけていた。


「あなたは……?」

「キュアベリー、蒼乃美希です。警察署で会いましたよね?」

「……」


 あかねは、何かを思い出そうとしているようだった。
 本当はプリキュアの正体はあまり教えてはならないのだが、状況的に仕方がないし、この場ではもう多くの人にその正体が発覚してしまっている。


「……そうか、あの子か……」


 あかねが、美希の事を思い出したように、そう呟いた。
 自分の傍らに落ちているガイアメモリをチラリと見てから、キュアベリーの姿をまた見た。


 キュアベリーは、あかねに対する警戒など無かった。
 かなり高い確率で、彼女は何かに操られていたのだろうと思っていたのである。
 プリキュア・エスポワールシャワー・フレッシュによって浄化されたとき、彼女の姿が元に戻ったのが主な理由だ。
 そう、たとえばハートキャッチプリキュア──キュアブロッサムたちが戦った砂漠の使徒などは、人の心を利用して怪物を生み出す。
 それと同様の原理であの赤い鳥は生まれたのではないか、と思ったのである。
 では、そうした場合、彼女を操るに至った心の弱さとは何だったのか。


 早乙女乱馬。


 その死に違いない。
 美希はずっと乱馬やあかねと行動していたわけではないが、二人が旧知の仲であり、かなり親しい仲なのは二人のやり取りを見てよくわかった。
 恋人、と断定していいだろう。現実に、美希はそういう関係なのだと思っていた。
 もしそうなら、あかねはきっと、乱馬の死に相当のショックを受けただろう。
 そう、例えるのなら先ほどまでの美希のように。


 ……そうだ。
 赤い鳥がキュアベリーを襲撃した時も、あの名前があった。
 あの時、あの意思なき赤い鳥は、なぜか立ち止まって放送を聞いていた。それは、その名前が呼ばれるのを確認するためなのではないだろうか。
 呼ばれないことを期待したのか、それともただその名前が呼ばれる瞬間を期待したのかは、わからないが。
 そして、乱馬の名前が呼ばれた瞬間に、放送を聞くことさえ忘れて、キュアベリーに襲いかかってきた。


「あの、」


 あかねは何も言わないが、美希は言葉を何かに遮られた気がした。
 美希は、彼女にどう声をかければ良いのかわからなかった。
 親しい人を喪い、その後暴走して人を襲撃した……その事をどう切り出せばいいのだろうか。
 美希も、先ほどのように親友の死を聞いた直後に、誰かに話しかけられたらデリカシーが無い人間だと感じるだろう。
 ただ、美希は押し黙った。
 あかねが何かを言うのを待った。自分からは、何も言えなかった。



「……」


 あかねは、美希が何も言ってこないのを確認した。彼女が近づいてくる事もない。
 それで、先ほどから考えていた行動を実行した。
 あかねは、少し間を置いた後に、“何か”(無論ガイアメモリだが、ベリーには見えない)を拾い上げると、そのまま一目散に走り出した。

 何か彼女に危害を加えるわけではない。ただ、逃げるだけなのだ。

 はっとしたベリーが、あかねを追いかけ、すぐに追いつき、彼女の手を掴んだ。
 しかし、その手は必死でベリーを振りほどこうとする。乱暴に振り回すが、ベリーの手はすぐには離れない。
 ベリーは、大きな声で言った。


「ちょっと待ってください、そっちは禁止エリアです!」


 そう言ったベリーも、そういえば第二回放送での禁止エリアを聞き逃したことに気づく。
 そうだ、あと一時間くらいしかない。
 幸い、まだ放送が終わってから十分程度。
 残り五十分のうちに、他の人から死亡者と禁止エリアを聞かなければ……


 ……と思っている隙に、あかねの手はキュアベリーの手を振りほどいた。
 それは人間の力ではなかった。伝説の胴着によって強化された力は、プリキュアに匹敵するレベルである。
 意識を集中していれば握り続けることができただろうが、思わず注意が反れたのだ。


「あっ!」


 と声を出したときにはもう遅い。
 また、あかねは走り去ってしまった。そして、今度はすぐに視界から消えて行ってしまう。高く跳ね、人の身の丈の何倍もある一歩を踏みながら。
 人間の速さでは、なかった。
 キュアベリーは、禁止エリアの事を考えてしまい、あかねを逃してしまった事を後悔する。
 もっと、他に考えてあげるべき事があったのではないだろうか。
 ぐっ、と拳に力を込めてから、キュアベリーは彼女の姿のあった方を見た。
 そこにはもう、何もなかった。


(仕方がないわ……1時になる前に、沖さんかいつきと合流しないと)


 もしかしたら、追っている間に自分のいるエリアが禁止エリアになってしまうかもしれない。そうなれば、美希は当然、死んでしまうのだ。
 勿論、そうなっていいはずがない。
 美希は、みんなのために生きなければならない。
 キュアベリーは躊躇いつつも、街へ向かって走り出した。街に向かうまで、何度も振り向いた。



【1日目/日中】
【H-7/森】

【蒼乃美希@フレッシュプリキュア!】
[状態]:ダメージ(中)、キュアベリーに変身中、祈里やせつなの死に怒り
[装備]:リンクルン(ベリー)@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式、シンヤのマイクロレコーダー@宇宙の騎士テッカマンブレード、ランダム支給品1~2
[思考]
基本:こんな馬鹿げた戦いに乗るつもりはない。
0:市街地あるいは警察署に戻り、放送の内容を誰かに聞く。
1:後で孤門やアインハルトと警察署で落ち合い、情報交換会議をする。
2:プリキュアのみんな(特にラブが) やアインハルトが心配。
3:相羽タカヤと出会えたらマイクロレコーダーを渡す。
[備考]
※プリキュアオールスターズDX3冒頭で、ファッションショーを見ているシーンからの参戦です。
※その為、ブラックホールに関する出来事は知りませんが、いつきから聞きました。
※放送を聞いたときに戦闘したため、第二回放送をおぼろげにしか聞いていません。



★ ★ ★ ★ ★




 天道あかねは右手に握ったガイアメモリを見る。
 ナスカメモリ。
 これがこの手にあるということは、まだ戦える……という事なのだ。乱馬を守る、ただそのために戦えるのである。
 しかし、どういうわけか、これを使う前と同じく、これに対する嫌悪感さえあった。
 つい先ほどまでは、使わなければいられないほどだった。
 ガイアメモリは、ドラッグのような中毒性を持っていたのである。


「────っく」


 あかねは、泣いていた。
 何が今、起きているのかわからない。
 どうして、他人を傷つけるような行動を繰り返してしまったのか。
 彼女がそんな風になったのは、このメモリを使った瞬間だった。


 乱馬が死んだ。
 だから、優勝し、メモリを使って戦おうと思った。
 ここまでは、確かにわかる。
 それ以降のあかねの行動は、あかね自身が知っているあかねではなかったのだ。


 本来、ガイアメモリの毒素が注入された彼女は、自分の凶行が間違った行いである事に気づく由もなかったはずである。
 しかし、どういうわけか今はあれが間違った行いだったのではないか、という強い反省さえも出てくる。
 それはおそらく、────あかねはまったくその事を知らないが、プリキュアによる浄化技を受け、これまでに注入されていった毒素が消滅したから、だろう。


「ック……乱馬ぁ」


 確か、このメモリを使った時、あかねは全てを乱馬のせいにした。
 このまま乱馬のせいにして戦い続ければ、もしかすればあかねは完全にあかねではなくなるかもしれない。
 現に、ある一定期間の記憶があかねにはないのだ。
 意識を完全に失い、それでも人を襲い続けていた事になる。
 もしかすれば、それは少しの間だったかもしれないし、太陽が一周し、一日が終わるほどの長い時間だったかもしれない。
 パンスト太郎に響良牙──彼らは生きているのだろうか。


 とにかく、あかねは再びメモリをどうするか悩んでいた。
 悩みながら、どうすればいいのかわからず泣いていた。
 キュアベリーの手から放たれ、逃げて、そのあと森で座り込んで泣いていた。


 このメモリがなければ、戦いを勝ち抜く事は出来ないかもしれない。
 しかし、メモリを使い続ければあかねは完全にあかねとしての意思をなくし、乱馬の事さえも忘れて、彼を守れなくなってしまうかもしれない。


 毒素は消えたが、あかねの心にある乱馬を想う心は消えないままだ。
 言ってみれば、これは不完全な心の浄化だった。
 それは、むしろ、一人の少女に毒をもたらしてしまったのかも、しれない……。



【1日目/日中】
【H-6/森】
【天道あかね@らんま1/2】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、精神的疲労(大)、とても強い後悔、とても強い悲しみ、毒素は一時浄化、伝説の道着装着中
[装備]:伝説の道着@らんま1/2、T2ナスカメモリ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式、女嫌香アップリケ@らんま1/2、斎田リコの絵(グシャグシャに丸められてます)@ウルトラマンネクサス
[思考]
基本:”乱馬たちを守る”ためにゲームに優勝する
0:再びメモリを使うかどうか決める
1:良牙君……
[備考]
※参戦時期は37巻で呪泉郷へ訪れるよりは前で、少なくともパンスト太郎とは出会っています。
※伝説の道着を着た上でドーパントに変身した場合、潜在能力を引き出された状態となっています。また、伝説の道着を解除した場合、全裸になります。
※ガイアメモリでの変身によって自我を失う事にも気づきました。
※第二回放送を聞き逃しています。



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最終更新:2014年03月17日 14:21