ふたりの物語 ◆gry038wOvE



 ──一方、こちらは警察署である。

「──黙祷」

 翔太郎の掛け声とともに、全員が目をつぶる。翔太郎も帽子を外して、放送で呼ばれた死者に対する黙祷を行う。最初の放送の時も、タカヤや京水と一緒に、黙祷をした事を思い出す。二人の名前は、今この時、呼ばれてしまった。
 二人の死を目にした者は、ここにはいない。タカヤはシンヤと決着をつけられたのか、京水と克己は出会えたのか、それさえ、今はわからない。

 ゴハットによって告げられた情報は、既に多くの情報を持っていた彼らにとっても、驚きを禁じ得ないものだった。
 告げられた名前を一つ一つ探っていく。

『相羽タカヤ』
 左翔太郎が歩む道を切り開いた男。テッカマンブレードとなり、共に敵と戦った戦友である。その死は惜しいとしか言いようがなかった。

『アインハルト・ストラトス』
 忘れるわけがあるまい。翔太郎と杏子を除く全員の前で死に、今もこの警察署に遺体が眠る少女の事だ。

『泉京水』
 街を泣かせるNEVRでありながら、彼もまたこの場では翔太郎と一時共同戦線を張った。翔太郎を奮い立たせてくれたのは彼だ。

『一文字隼人』
 沖の友人にして、この場に人を集める事を知らせた男。栄光のダブルライダーの死に、沖自身も戸惑いを隠しきれなかった。

『梅盛源太』
 ここについ先ほどまでいたはずのムードメーカーだ。変わり者だが、少なくとも『良いヤツ』だったし、『優しいヤツ』だった。ダークプリキュアとともに姿を消した後、もう姿を消してしまったようだが、その後死亡したという……。

『西条凪』
 孤門たちナイトレイダーの副隊長にして、頼れる女性だ。まさか、ここで彼女との合流が果たされなくなるとは、孤門も思わなかっただろう。

『大道克己』
 風都を泣かせたテロリスト、悪の仮面ライダーエターナル。翔太郎は、その死にだけは、どこか安堵さえ感じた。

『バラゴ』
 ザルバによると、この男は慢心から闇に堕ちた魔戒騎士だという。

『溝呂木眞也』
 孤門たちの世界の敵でありながら、最後にはダークウルトラマンではなく、ウルトラマンとして散った男。ここでは敵だったのかもしれないが、どこか感慨深くなる。

『村雨良』
 沖の知らない、後の時代の仮面ライダー。その男が、この時『BADAN』だったのか、『仮面ライダー』だったのか、どちらでもないのかは、沖には知る由もないが、会う機会が絶たれたのは残念であった。

『モロトフ』
 悪のテッカマンだ。危険人物であるという情報はいきわたっていたので、ともかく彼がいなくなった事に安心する者もいただろう。風都タワーは彼に崩され、せつなは彼に殺された。そういう意味で、因縁の深い相手だったが、もういないという事だ。

『ン・ダグバ・ゼバ』
 霧彦、ヴィヴィオ、祈里、アインハルト、乱馬、沖……あらゆる人物と戦い、そして強さを見せつけた殺人鬼もまた、散った。もし、本当に彼が倒されたのなら、あるいは喜ぶ者も出たかもしれないが、素直に彼の死を喜べないのは、「誰が倒したのかわからない」という一点にあった。
 この死が、もし、「ダグバより強い者」による死であったなら……。

「もう、ずいぶんたくさんの人が、死んじまったんだな……」

 この時点で三分の一しか参加者は残っていない。
 残る参加者たちは、全て、その中で偶然にも選ばれた存在であった。
 次は自分かもしれない。
 このペースで死ぬとしたら、また身近な人間が死ぬかもしれない。
 そんな恐怖が、ここにいる誰にもあったに違いない。
 ダグバのような巨星がその命を絶たれているという事は、強さと生存率は関係なく、そこには、ただ単純に「運」が起因しているような気がした。

 だから、彼らの中に、少しずつでも恐怖や焦りの感情はあっただろう。
 それを押し殺しながら、彼らは何とかこれから先戦っていこうとしていた。


 放送担当者ゴハットはふざけた男だったが、心当たりを持つ人間はここにはいない。
 彼はウルトラマンや仮面ライダー、魔戒騎士やプリキュアのほか、シャンゼリオンという人物にも呼び掛けていたが……まあ、相手はこちらの姿を見ているのだから当然か。


 禁止エリアは、だんだんと警察署を囲み始めている。
 このまま、E-8エリアやE-9エリアを禁止エリアにされてしまうと、彼らも動く事ができなくなるだろう。
 しかしながら、まだ余裕はあるし、ここが集中的に禁止エリアに囲まれたという事は、参加者が集まりつつあるという事にも思える。それに、九時以降は逆に敵襲の方角を限定できるというメリットもある。周囲を禁止エリアにされた場合でも、一時間あれば脱出も不可能ではない。
 まだもう少し、警察署で待ってみようと彼らは思っていた。


 ボーナスの「制限解除」については、各人としても大きく思い当たる節はないようであった。
 これはゴハットの言い方が曖昧なのがいけない。沖のレーダーハンドや翔太郎にとってのフィリップのように、もしかすれば何らかの没収物や人質を解放してくれる可能性もあるが、それははっきりとはわからない。
 ただ、戦いが今後激化するかもしれない事、そして、いざという時はチャンスを利用してそれに頼ってみた方がいいかもしれないという事を各々は考えていた。






『相羽タカヤ、泉京水、大道克己、梅盛源太……それに、一文字隼人や村雨良まで死んでしまったのか』

 翔太郎は、タオルを胸に当てて休みつつ、ドライバーを用いてフィリップに放送の情報を伝えた。
 いずれの命も尊いものだが、特に気にかかる名前をフィリップは口にした。NEVERの二人は死亡し、タカヤや源太といった心強い仲間も死んだ。そして、残る仮面ライダーはスーパー1とダブル、そしてライダーマンのみという状況だ。
 1号、2号、ZX、アクセル、エターナル……彼らはみな死んだ。

「おい、フィリップ……どう思う? 源太の事」
『直前まで梅盛源太と行動していたのは、ほかならぬダークプリキュアだ。……おそらく、彼女が殺害したか、或いは行動中に敵に殺されたか、だろうね。ダグバを倒したのが誰なのかも気になるけど……今気がかりなのはダークプリキュアだ』

 ダークプリキュア。
 やはり、彼女が怪しいのだろうと、翔太郎も感じている。ダークプリキュアとはおおよそ面識もなく、危険人物とだけ知らされていたから、他の人たちのように裏切られたような感情はない。
 ただ、翔太郎は、軽快していく胸の痛みとは裏腹な胸中の複雑さを感じていた。
 プリキュア──翔太郎は、その名前を持つ人間に助けられた。今も目の前にいる。きっと、それぞれの住まう街の人々は、プリキュアを絶対的信頼のまなざしで見守っているはずだ。
 その名を騙りながら、こんな事をするダークプリキュアを、許す気には……とてもなれない。仮面ライダーエターナルを目にした時の怒りにも似ていた。

「翔太郎くん。どうだい、胸の傷は」

 仮面ライダースーパー1こと沖一也がそう呼びかける。
 一文字隼人の死を知り、少し瞳を曇らせながらも、ある程度の元気はあるようだ。
 ある意味、仮面ライダーの鑑ともいえる態度である。悲しみを仮面の下に隠し、涙を流しても、それが乾いてから仮面を外す。仮面の下の涙はぬぐえないのだ。

「……大した事ないっすよ、先輩」

 話を聞いてみたところ、どうやら沖一也は仮面ライダーとして活躍していた年代も、年齢も、翔太郎よりも少し上であるらしい事が判明した。
 その結果が、この呼び方の変化だ。
 先輩ライダーとして、沖は翔太郎を「翔太郎くん」と呼び、翔太郎は沖を「先輩」と呼ぶ。翔太郎としてはかなりノリノリで、沖はこの呼ばれ方に恥ずかしさを感じているようだった。

 ……当然といえば、当然だ。
 ドグマとジンドグマを滅ぼして、まだそう時間は経っていないというのに、この呼ばれ方である。本来なら、ゼクロスなる仮面ライダーともこんな関係になったのだろうか。
 ともかく、翔太郎の胸骨骨折は、放っておけば痛まない程度ではあったし、今は折り曲げても何とか問題はない。おそらくは、折れたというほどではなく、ヒビが入ったとか、その程度の骨折なのだろう。動くのには問題ない程度だった。戦うのも問題はないが、そこで完全に折れて心臓に破片が突き刺さる等の大事に至らないかが問題だ。
 よって、基本的には戦闘メンバーとして活躍させるわけにはいかない。
 改造人間である沖ならばともかく、彼のように生身の人間では今後の戦いも少し辛いだろう。

「ういー、ただいまー」

 放送の後、買い出しに行かせていた杏子が胸いっぱいに食べ物と飲み物と医療用具を抱えて帰ってくる。
 湿布やら軟膏やら、結構たくさんある。これは、殆ど翔太郎やヴィヴィオのように結構重度の外傷(主に骨折や火傷、痣)を治療するための物である。
 フィリップが持つ「地球の本棚」で検索し、簡易な治療方法を調べたお陰で、楽な体制や応急処置もできそうだった。とりあえずは、タオルで応急的な処置をしていたが、これで何とかなる。

 放送のすぐ後、買い出しに行ったのは、杏子のほかに、孤門といつきと美希である。小さな薬局が近かったので、そこに行く事にしたのだ。沖もここまでの道のりをほぼ覚えていたが、道案内は必要なく、説明は口だけでも充分だった。杏子も薬局の位置をちゃんと覚えていたらしい。

「おう、帰ったか杏子」
「言われた薬がなかなか見つからなくてさー。お菓子ばっかり見つかっちまったよ」

 杏子の口には既にポッキーが咥えられている。杏子は手いっぱいの荷物を全部机の上にばらまくが、その中に開封済みのお菓子が二つほどあった。清涼飲料水なんかもかなり多く、これは薬屋のロゴが入ったのビニール袋に入れられていた。

「なあ、それどう考えてもお前それ自分が食いたいから買ってきただろ! ……ていうか、残りの三人は?」
「ああ、後から来るよ」

 杏子は、八重歯を見せながら笑顔で言った。
 その笑顔は屈託がないが、何か悪戯っぽく、どこか含みも感じられた。

「杏子……お前、まさか……俺に一刻も早く薬を渡すために来たのか!? おいおい……いや、まさか俺、お前がそんなに良い奴だったとは思ってなかったぜ……」

 だから、杏子だけ先に帰ってきて、この大荷物を持ってきてくれたのか。
 そう思って翔太郎は、照れて後ろ髪を掻きつつ、感動する。なるほど、一刻も早く翔太郎に薬や医療用具を渡したかったに違いない。
 いやはや、ただのヤンキーだと思っていた杏子が、まさかこんなに良い奴だったとは……。





 ……しかしながら、そんな翔太郎の感動は直後に怒号によってぶち壊される。

「こらー!」

 杏子の後を追って、警察署に現れたのは、美希であった。息を切らせているところを見ると、どうやら全力で走ってきたらしい。
 どうやら、かなり怒っている様子で、表情を崩して杏子を追いかけてきている。
 その視線は杏子に向いている。美希の怒りが杏子に対しての怒りではるのは明らかだった。そんな様子に、杏子は挑発的に笑って答えた。

「おー、きたきた」
「……………………どうしたんだよ、杏子。お前、何かしたのか?」

 美希が怒っているという事はよほどの事なのだと、翔太郎も薄々感じている。
 沖とヴィヴィオは、ただ二人の様子に茫然という様子であった。
 美希がやってきた後から、いつきと孤門が現れる。この二人は、先に行った二人を追いかけて、少し困惑しつつも息も切れて何も言えないようだった。
 杏子が口を開く。

「あたしは何も悪い事なんかしてねえよ。ただ、ちょっとその辺の店からこれを戴いて来ただけだ」
「いくら無人だからって、お金を払わないのはどうなの!?」

 美希が怒っているのは、その一点らしい。
 この状況下でお金を払う必要はないと思うが、……まあ、美希にとっても、そういう事ではないのだろう。
 こうして、お店という場所で物をもらうからには、お金とのトレードが必要となる。
 中学生ながら、モデルとして少しはお金を稼いでいて、そのうえ真面目な美希だからこういう几帳面な事を言うのだろう。

「だって、これ全部あいつらが用意したモンだろ? わざわざ金なんか払う必要がないだろ」

 当の杏子はけろっとした態度で、全く無反省という様子である。悪びれる様子はまるでなく、むしろそれを正当な事として内心抑え込んでいる。
 善悪とかそういう物には縛られていないらしい。

「そういう問題じゃないの!」
「どういう問題だよ!」
「道徳の問題よ! お店で食べ物や飲み物を買う時は、ちゃんとお金を払う! これはどんな時でも当たり前! 火事場泥棒じゃないんだから……」
「その道徳が食い物にでもなるのかよ! あ?」

 杏子と美希が、顔を近づけていがみ合う。目元から火花が散り、二人の仲が険悪になっていくのがはっきりと見て取れた。
 二人の後ろに虎と龍みたいなオーラが現れ、二人とも「がるるるるる……」と吠えている。
 二人の背後で雷が鳴ったような錯覚をする。

「だいたい、この大量の飲み物。これは盗むどころか、自販機壊して手に入れてたじゃない! お店にいっぱい売っているのに……」
「自販機壊す!? ここは日本だぞ……」

 流石の翔太郎も呆れ模様であった。日本国外だと、お金の入った機械が置いてあると壊されるから、自販機なんて置いていないらしい。
 日本でもたまに自販機を壊す人間はいるが、まさか目の前にいたとは。

「一回やってみたかったんだよ。別にいいだろぉー」
「良くないわよ!!」

 うん。これは美希が正しい。杏子が悪い。──翔太郎はそう思った。間違いなく、杏子が悪い。
 店の金を払わないくらいなら、美希の言う事もわかるし、杏子の言う事もわかる……という状態だったのだが、これは普通に強盗である。

「まあまあまあ……」

 そんな二人の間に割って入ったのは、孤門であった。孤門は二人のオデコを掌で押して引き離し、愛想笑いを浮かべる。正反対の二人の少女の目元の火花が遠ざかっていく。しかし、視線は相手の方を見つめたままで、下手をすれば孤門の掌が頭に当たっている事に気づいていないのではないかという感じである。

「美希ちゃん、杏子ちゃん、ストップ、ストップ」

 この二人と特に親しいのは孤門だ。ここまでほぼ美希と行動している孤門と、姫矢やウルトラマンを通して知り合いになった杏子。その共通点のお陰か、孤門はこの二人それぞれと、自然と親しくなっている。
 ……が、当の美希と杏子は、買い出しだけで極めて深刻な仲になったようだ。はっきり言って、不仲だろう。翔太郎は、これから孤門がどう頑張るのか見届けようと思って、帽子の唾を少し上げた。

「えーっと、杏子ちゃん。君の言う事もわかるけど、人として、盗みはいけない。物を買う時はお金を払わなきゃ。……ね? じゃないと、元の世界に戻った時も盗み癖がつくかもしれない。あと物を壊すのもナシ」

 杏子に有無を言わさずに言い聞かせた後、すぐに振り向いて今度は美希に言う。

「美希ちゃん。君の言う事は尤もだ。でも、この状況だから杏子ちゃんがした事もわかる。彼女は、効率よく食料や薬を得るには、お金を払う必要はないと思ったんだ。きっと、もしこれが普段の日常なら杏子ちゃんだってこういう事をする子じゃないはずだよ」

 孤門は、明らかに冷や汗をかき、本心とは違う焦りを込めた笑みを見せて相手を抑えながら、なんとか仲を取り持とうとしていた。
 ……が。

「いや、あたしは普段から欲しいものは盗んでたけどさ」

 杏子は空気を読まなかった。そして、美希はその一言に過敏に反応した。

「ちょっと! 今の聞きました!? 普段からやってるって! 犯罪ですよ!?」
「だってそれしか生きる方法なかったんだもん」

 孤門が折角取り持とうとした仲は、一瞬で崩れ去る。
 流石に、こうなるとため息しかでない。孤門の後ろに隠れた杏子を美希が捕まえようとしたり、杏子がそれを避けて美希をもっと怒らせたり。
 孤門は、この杏子の倫理観や道徳観よりも、チーム内の仲が悪くなっていく事を案じて、ため息をついた。受難の男である。特に、女性に振り回される事必至だ。

「あぁ……」

 孤門は、防御壁か柱か何かだと思われて使われているらしい。しかも、杏子と美希が交互に目の前を横切るため、その位置から動きづらい。
 そんな孤門に、翔太郎は野次をとばす。

「……あんたも大変だな、モテ男さん。女難の相が見えてるぜ」
「なんでこんな事になってるんだろう……」

 翔太郎の野次も無視して、かしましい二人の少女に振り回される自分の状況に孤門は、ただただ残念な気分になっていた。
 沖とヴィヴィオといつきと翔太郎も、いま明らかに……必死に笑いをこらえている。彼らは、のんきだ。ほほえましいとさえ思っているだろう。杏子の窃盗行為に関しては咎める必要ありだと考えているに違いないが、……それでも、先に出てしまうのはこの状況への笑い。
 トムとジェリーのように追いかけ合う美希と杏子。壁に使われて一人ため息をつく孤門。笑わずにはいられない。

(つかの間の休息か……)

 ……まあ、笑うだけの余裕があるというのは良い状況だと、ここにいる全員は思う。心の片隅には、まだどこか、人の死とか、殺し合いとか……そんな物があるような気がして、ふと自分が本当に心の底から笑っているのか、怪しくもなる。
 それでも、笑うのをやめる事はできなかった。

 孤門にしてみれば、凪や溝呂木の死が少しばかり辛かったが、それでもまだ、この場にいる美希たちのような仲間が辛うじて生きている事に対する安堵はある。
 ここにいる人が、これから死んでいくのではないかと思うと怖い気持ちも、やはり心のどこかにある。あるいは、それが自分かもしれないと思うと、たぶん、もっと怖い。
 既に四十人以上、孤門が経験していない恐怖を、通り越し、死んでしまったという事もまだ信じられないくらいだ。
 ……まあ、今なんとかしなければならないのは目の前の二人だ。

「はぁ……仕方がない」

 ため息を合図に、孤門は思考を切り替える。一度、シャキッとしようと思ったのだ。
 二人の少女は、いま、孤門を軸に、それぞれの正義をぶつけ合って(?)、壮絶な追いかけっこを繰り広げている。
 二人の少女がお互いを捕まえる事はできない。
 ただ、柱である孤門ならばこの二人のどちらが正しいのかを見極め、その少女を捕まえて制裁を加える事もできる。
 つまるところ、今の孤門は絶対正義の審判。杏子か美希、好きな方を選んで贔屓できる立ち場にある。
 それじゃあ、と。孤門は少し遠慮する気持ちを粉砕して、二人のうちから正義を決めよう。

「えいっ! 二人とも反省しろ」

 右と左に来た二人の少女の頭を、孤門はグーで殴った。
 喧嘩両成敗である。






 いま、この会議室の一室には、男性だけが固まる形になった。杏子が盗み、美希が後から金を払った例の薬で、翔太郎とヴィヴィオがそれぞれ上半身の服をめくって、軽く応急処置をしているのである。
 流石にこれで同室にするわけにはいかない。

 で、当の翔太郎は、とっくにその作業を終えて服を着替え、どこにあったのか、変な鏡を前に櫛で髪を梳いた後、手に唾をつけて髪型を直している。帽子を手に取って、頭にかぶせ、鍔を直した後に、キリッとした表情でネクタイを上げる。
 ……と、そんな彼は、何故か上半身スーツで、下半身はトランクスだ。ダメージを受けたのは主に上半身である。
 そんな翔太郎の姿が意味不明すぎて茫然とする二人を後目に、翔太郎は椅子に座った。トランクスのままで。

「まったく、大変だよなー、“モテる男”は」

 そう孤門に語り掛ける翔太郎の口調は、どこか含みのあるものだった。モテる男──孤門の事に違いない。まさか、翔太郎は、女性陣と積極的に絡んでいる孤門を妬んでいるのだろうか(小学生と中学生しかいないが)。
 そもそも翔太郎にはパートナーや恋人がいない。……というか、できない。他の奴ら(照井とかフィリップとか霧彦とか井坂とか大道とか)は何だかんだでモテているのに、翔太郎は何故か全くモテないのである。ので、翔太郎は少し、モテない男の嫉妬じみた感情を孤門に向けていた。
 しかし、孤門は、そんな翔太郎の言葉のニュアンスにも気づかずに、素直に訊いた。

「翔太郎さんって、モテるんですか?」

 孤門は天然である。しかも、何かと人の色恋に首を突っ込みたがる性格でもある。当人としては、斎田リコくらいしか頭になかったし、それがおそらく唯一の恋人だ。中学生と親しくなった事を、「モテた」とも言わない。だから、翔太郎の言葉のニュアンスをはき違えた。「モテる男」とは翔太郎の事だと思っているのだ。
 まあ、確かに元の世界からして少女には縁があるが、凪や詩織といった特殊な人種しかいない職場では恋人の真柄になるような人との出会いも滅多にない。リコを失った今だから、また新しい相手を見つけるべきと周りも急かす事があるのだが。
 ともかく、孤門は翔太郎の目をじーっと見て、解答を待った。翔太郎は、一瞬黙る。そして、呆けた状態から、ふっと意識が戻ったように言った。

「お、おう……。それはもう、俺はハードボイルドだからな」
『嘘は良くないよ、翔太郎』
「依頼人と惹かれあいながらも、最後はその依頼人が犯人で、俺はカッコよくその依頼人を警察に引き渡すわけよ……」
『嘘は良くないよ、翔太郎(二回目)』

 フィリップの声を無視しながら、翔太郎は事実を誇張してハードボイルド仕立てにしたハードボイルド映画のような自慢をする。
 内容は嘘だらけ。見栄を張った結果がコレである。

「……へえ。翔太郎さんって、凄いんですねー」

 孤門は、その話を聞いて、笑みを浮かべて翔太郎を尊敬のまなざしで見つめていた。
 再度言う。孤門は天然である。翔太郎が言っている事がでまかせだとは、沖も思っていないだろう。そんな孤門の言葉を聞いた翔太郎は、思わず孤門の姿に後光が差しているように見えてしまった。

「うおっ! 孤門の笑顔が眩しい! やめろ……そんなまなざしで俺を見るな! すまねえ、今のは全部、俺の卑しい心が生み出した嘘なんだ! どうせ俺はモテない男だ!」

 翔太郎が孤門の視線を遮ろうと、自分の顔を隠すようにガードする。
 一人芝居のように滑稽ではあるが、彼なりに楽しんでいるのだろう。ちくりと胸が痛んだのは、おそらく普通に胸骨の痛みだろう。

「はは……。流石、二人で一人なだけはあって、仮面ライダーダブルくんは騒がしいな」

 沖はそんな二人の姿を見て横から笑う。しかし、一応外の様子からも目を離さない。今、会議室の窓から、警察署の外の様子を見張っているのは沖だ。実際のところ、今は翔太郎が一人で話しているだけなのだが、少しくだけた言い方をしたのだろう。仮面ライダーダブル、という言い回しは別に嫌味ではない。

「そうだ、沖さんはどうですか?」

 そんな折、孤門は次に沖に話しかけた。

「どうですかって、何が?」
「ほら、彼女とか、いるんですか?」

 孤門はけろっとして、どこか期待を含んだまなざしで訊いた。どうも短絡的に恋愛沙汰と結びつけるのは、まるで小学生のような興味である。
 沖は、思わず笑った。

「ははは……。いや、俺には残念ながら、いないよ」

 しかし、沖には、恋人という立場の人間はいない(沖の事を追いかけている草壁ハルミという女性の好意にはまだ気づいていないようだ)。それは正直に言った。この余裕を見た感じでは、おそらく恋愛絡みでも結構上手なのだろうと、翔太郎は思う。
 一方、孤門は、なぜ沖が笑っているのかわからないといった表情で首を傾げた。

「なんでここの兄ちゃんは、こう、天然揃いなのかねぇ……」

 机上で、ザルバ(コイツも♂)が目の前の男性らの様子を見て、呆れたように呟いた。






「えーと、あの……そろそろ仲直りした方がいいんじゃないかな? ね?」

 いつきは、(イメージ的には頭にタンコブを作った)美希と杏子と杏子をなだめようとしている。治療のために男女でそれぞれ別室を使っているが、その結果として、いつきとヴィヴィオにとって非常に居づらい空気が漂っていた。
 二人をどれだけ丁寧になだめようとしても、どうにも二人は頑固で、それぞれのスタンスを崩さない。正直言って、いつきは自分をこの二人と同室にした男性陣三名を少し恨んでいる。
 先ほど、いつきは二人の喧嘩を前に笑っていたが、今は到底そんな気分になれない。ひきつった笑みで、ちょっと遠慮気味に言う。

「あんまり二人が仲悪くしていると、せつなも喜ばないよ……? ほら」

 二人の接点といえば、やはり東せつなの存在だろう。東せつなの存在、そして死は、二人にとって大きな影響を与えたに違いない。
 いずれも、せつなの友達なのだから、きっと分かり合えるだろうと信じて(しかし七割疑って)、いつきは二人の様子を見た。

「全く、なんでせつなはこんな子に力を託したのかしら」

 やはりというべきか、美希は杏子の方を見ずに言う。美希は、意図的に杏子を見ないようにしているので、壁の方を向いて目をつぶっている。
 手には、薬屋で仕入れてきた美容パックの箱を持っている。

「なんで、せつなはこんな奴と友達なんだろうな」

 杏子もまた、美希の方を見もせずに言った。
 口の中にチョコを入れながら、杏子は喋っている。美希としては、「口の中に物を入れたまま喋らないで」と言いたいところだろうが、そんな言葉が出るより前に、杏子の台詞に苛立ったようである。
 ちゃんと杏子の方を見て怒気の混じった声をあげる。せつなとの友情を侮辱されたようで気が立ったのである。

「私の方がせつなと長くいたわ!」
「一緒にいた時間の長さしか言う事が無いのかよ……大した友情だね!」
「何ですって!」
「何だよ!」

 二人はまたいがみ合っている。まるで、その姿は犬と猿(さっきの龍と虎より少し格が下がっただろうか)。先ほど、せつなの名前を出したのがかえって逆効果になってしまったらしい。いつきは、また頭を悩ませる。
 それでも、何とか二人の仲を取り持とうと必死になった。

「え、えーと……二人とも、一緒にお菓子食べる? あ、そうだ。お風呂入ろっか。ホラ、みんなでお風呂に入って仲良く……」

 最後の希望、裸の付き合い。いつきの思考は体育会系である。

「勝手にやってろ」
「悪いけど、この子とは仲良くなれる気がしないわ……」

 だが、その最後の希望で杏子と美希がそんな事でどうにかなるはずがない。いつきも、万策尽きたところである。
 孤門がいかに二人を上手く扱っていたのかがいつきにもよくわかった。
 まあ、成人男性という事もあって、先生のような立場で二人を叱れたのかもしれない。いつきはそういう立場ではないので、少し勇気がいる。

「いつきさん……」

 ヴィヴィオがうるうると涙を浮かべながら上目づかいでいつきを見つめている。
 泣きたいのはいつきの方である。
 男性陣が談笑している間、女性陣はこの微妙な空気に頭を悩ませていた。

「はぁ……どうして、この二人、仲良くできないんだろう」

 ため息しか、出ない。






 ────そして、そんな彼ら、彼女らの間に流れるこの微妙な空気を切り裂いたのは、外部から聞こえた轟音であった。果たして、何が起こったのかは誰にもわからない。ともかく、女性陣は男性陣のいる会議室へと足を急かせた。

 ドアを開け放って──

「沖さん!」

 会議室に、この場にいた女性たちが押し寄せてくる。真っ先にドアを開いたのはいつきであった。沖、翔太郎、孤門ともに、その速さに驚いているようだったが、まさかいつきが一刻も早くあの場を抜け出そうとか考えていたなど、誰も思うまい。
 会議室は窓から外が見えるし、彼らが女性陣の部屋に行くよりは、女性陣が男性陣の部屋に行った方が良い。

「……って、何でパンツ!?」

 いつきが思わず顔を隠した。翔太郎は何故かトランクスのまま、上半身はスーツを着ているというスタイルなのである。
 翔太郎は慌てた様子だ。

「あー! ノックもせずに入ってくんじゃねえ! お母さんかよっ!」

 慌てて手探りでズボンを掴もうと手で椅子を叩いている。

「……いったい何やってたの?」

 後から来た美希が翔太郎の様子を見て呆れたように言う。翔太郎は慌ててズボンを履いている。何をしていたのかはわからず、美希は視線を翔太郎の方に向けた。美希は、ジト目で、「本当に何をしていたの?」と語り掛けたが、孤門は、首を傾げた。
 なんで翔太郎があんな恰好をしていたのか、孤門にも理解しかねるところである。
 たぶん昔のハードボイルド(?)なドラマの真似事だが、それは誰も知らなかった。

「……で? レディたち、何しにここへ?」

 とにかく、今の出来事をなかった事にして、翔太郎は帽子を直し、キリッとした表情で壁にカッコよくもたれながら訊く。女性陣は更に黙った。

「おい、兄ちゃん。なんか出てるぞ」
「え?」

 杏子が指差した先は、翔太郎のズボンのチャックである。思いっきり開いており、その中からシャツが出ている。これはかなり情けない。

「うおっ! 恥ずかしいっ!」

 翔太郎は慌てて飛び上がり、シャツとチャックを直す。

「で、あの……翔太郎さんはともかく、今の音は?」

 ヴィヴィオが、そんな翔太郎を無視して沖に訊いた。翔太郎は、彼女の後ろで胸骨に微ダメージが入ったらしく、呻いており、彼の断末魔らしき声が聞こえたが、それは右耳から入ろうとして、すぐに同じ右耳から出ていった。なんでもいい。ようやく本題に入れたようだ。
 沖は先ほどから街の様子を見ていたが、街の中には、その音源らしき物はないのである。

「……わからない。ここから見える範囲じゃないみたいだ」

「今の音、すごかったけど……」

 いつきが言った。確かに、震動さえ感じるほどの轟音である。一瞬、地震かと思ったほどだ。美希と杏子もいがみ合うのをやめて、すぐにこちらへ走ってきたくらいである。
 まあ、壁数枚の距離にとはいえ、戦力が分散している事への不安感も少なからずあったのだろう。すぐにでも彼らと合流したかったのだ。

「誰かが戦っているんだ。……近くかもしれない」

 孤門はディバイトランチャーを構えて顔をしかめた。いつでも戦闘の準備ができるように。今は確かに、戦うだけの力は持っていないかもしれないが、それでも力になる事はできる。ビーストだって葬ってきたのだ。

「……一度屋上に出よう。周囲を見渡せるはずだ」

 沖の提案で、全員屋上に出る事になった。
 屋上ならば、見通しは良いし、音源もわかるかもしれない。おそらくは戦闘音だろうから、その戦闘を行っているのが誰なのか確認できるかもしれない。
 七人は屋上へ急いだ。






 屋上。誰も使っていない時空魔法陣がいまだに光を放っている。時空魔法陣の周囲には、アインハルトの支給品であるデンデンセンサーによって見張りが行われている。ここに見張りをつけるのはやはり酷いものだろう。
 デンデンセンサーは、この時空魔法陣を通って誰かが現れた時に警告音を発するようにしている。
 ……が、翔太郎は一度それを手元に戻した。メモリを外し、暗視ゴーグルとして利用する。
 真っ暗闇でも、これを目につければ目視する事が出来る。

「あそこか……」

 沖は、煙を漂わせる山の一角を見つめた。レーダーハンドさえあればそこを注視できるが、没収されている現状では難しい。ただ、暗闇でも発達している彼の視力でははっきり見えるし、他の人々も煙や小火を目にするくらいはわけなかっただろう。
 山まではここから数キロはあるかもしれない。確かに結構な距離がある。しかし、今はそこを気にかけずにはいられない。

「……助けに行くぞ」

 翔太郎が言った。
 ダブルドライバーを構えて、今すぐにでも助けに行こうという準備をしている。
 悪人同士の相打ちかもしれないが、そこに誰かがいる可能性だって否めないのである。
 それならば、行くしかない。行って戦うしかない。そこに仲間がいるかもしれない可能性にかけて、助けに行くべきである。

「待って。全員で向かうわけにはいきません」

 孤門が言った。極力、出会った対主催陣の仲間とは共に行動する予定だった孤門は、翔太郎の提案をあまり快く思ってはいないが、それが仕方ないとはわかっていた。
 ただ、警察署内に人を置いておく必要はあるだろう。外部から街を目指してやってくる人間が、この警察署に来る可能性が高い。

「そうだな。向こうに三人、ここに四人で分かれよう。孤門はここに残って、俺か翔太郎くんが向かう」

 沖が提案する。

「俺が行く。先輩は残っていてくれよ」

 翔太郎はすぐさま、そう言った。沖は怪訝そうに翔太郎の顔を見た。
 確かに、仮面ライダーは二人それぞれ場所を変えた方がいい。変身能力や人知を超えた能力を持たない孤門は確実に警察署で待つ側として、残る男性二名は分断されなければならないだろう。

「胸の傷は大丈夫なのか?」
「ああ。何とか。……それに、俺が──いや、俺たちが行けば、向かうのは三人じゃなく、四人になる。だから任せてくれよ、先輩」

 フィリップ。そう、彼を数に入れ忘れていた。これで四人と四人だという事か。なるほど、流石は「二人で一人」の仮面ライダーだ。

「……そうだな。じゃあ、翔太郎くん。君が見に行ってきてくれ」

 ならば、彼を向かわせよう。沖は残り、翔太郎が行く形になるようだ。
 残りは女性四人だが……。

「僕も行きます。ダークプリキュアがどこに向かったのかもわからないし。もしかしたら、彼女やつぼみがいるかもしれない」
「それなら、私も行きます」

 いつきとヴィヴィオが挙手する。いつきとヴィヴィオはこの中でもなかなか親しかった。
 しかし、そうなると今度は骨折レベルの怪我人が二人も危険な場所に向かうという状況になってしまう。ヴィヴィオは極力、建物から外に出さずに待っているべきだし、できるなら美希か杏子を向かわせるのが得策だろう。

「いや、いつきちゃんはともかく、ヴィヴィオちゃん、君は残っていてくれ。怪我人を何人も連れていくわけにはいかない」

 ヴィヴィオと翔太郎。この二人は他の人に比べてもダメージが違う。そんな手負いの二人を纏めて行かせてしまうと、今度はいつきの負担まで大きくなる。ヴィヴィオは反射的に自分が行くと言ったが、実際考え直してみれば、確かにそうなってしまう。

「……そうですか」

 そのため、ヴィヴィオはすぐにおとなしくあきらめた。
 ここで名乗り出たのは、蒼乃美希であった。

「なら、私が行きます」

 この中でいつきとのコンビネーションが高いのは、同じプリキュアである美希に違いない。それはこの場にいる誰にもわかりきっている事であった。
 指名するわけにはいかなかったが、美希の側から名乗り出た事で、問題はなく進行する事になった。

「……わかった。おそらくこれが最も良い形になる。……翔太郎くん、いつきちゃん、そして美希ちゃん。あの山の捜索は君たちに任せた。俺たちは、ここで他の参加者が来るのを待つ」

 沖がそう言うと、それぞれチームが分かれる事になった。
 全員、また帰ってくれば問題はないはずである。






 一度、会議室に戻った彼らは、荷物を整理する。その場に或る食べ物を少しずつ摘まんで、少し口に入れ、喉に通す。のんびりしている暇はないが、ある程度の準備は整えなければならない。
 翔太郎、美希、いつきの三人はそれぞれ必要な物だけを持って出かける事にした。

 翔太郎が選んだのは、まずは当然必要となるダブルドライバー。それから、ガイアメモリについて最も詳しい専門家として、沖の持つT2アイスエイジメモリも回収する。
 あとは、翔太郎の支給品の類を見る事になった。
 勿論、翔太郎もとうに支給品の確認くらいは済ませていたし、そのうえで必要ではないと判断したから、殆ど装備する事はなかった。

「これは……スーパープリキュアの種」

 一つは、スーパープリキュアの種。ハートキャッチミラージュに装填するプリキュアの種だが、これはもう二度と機能する事がないだろう。本来、ハートキャッチミラージュを使い、スーパーシルエットとなるには四人のプリキュアがそろう必要がある。しかし、もうそのうち二人が死んだ。ただ、その場にはいつきがいた。

「……翔太郎さん。これを、僕に、貰えませんか」

 だが、このスーパープリキュアの種はいつきにとっても思い出の品だ。
 だから、お守りのつもりで、それを受け取っておきたいのだ。本来の持ち主として。

「これはもともと、君のものだ。貰うんじゃない、返してもらう……って事だな」

 翔太郎にとっては、何の意味もない支給品。ならば、いつきに返すのが自然だ。
 残りの二つの支給品は、ネットを発射する銃と短刀である。
 ネット銃は犬探しや猫探しには有効そうだが、あまり使いどころもないので放置していた。一応、探偵として、これまでも懐にしまっていたが、使いどころはほとんどない。
 短刀──これは、散華斑痕刀と呼ばれるものである。これはまあ、銃刀法違反確定な長さだし、普通の刀とは違う形状ながらダブルの能力ほど大きな力を持ってはいなさそうだ。だから、基本的に使う予定はないし、これも置いておこうと思っていた。しかし、まあこの短刀は何かのトラブルで変身して戦えなくなった時に、護身用程度には使えるだろう──そう思って、懐に入れた。

「私は全部置いていきます。あの、これの使い方がわからないんですけど……誰かわかる人は……」
「ああ、それなら俺が解析しておこう」

 美希は、マイクロレコーダーと双ディスクを含む三つの支給品を全て警察署に置いていく事にした。相羽家の人間は先ほどの放送をもって全員死亡、モヂカラのディスクを使える人間ももういない。
 そして、残る彼女の支給品は、「D-BOY FILE」と書いてある機械だ。中を開けると、カードなどが残っている。美希には、これの使い方はわからなかった。孤門も同様だ。これは全て置いておく事にする。
 沖はそういう方面で詳しいので、一応それを受け取った。


 いつきの支給品は、刃の長いナイフであった。熊でも殺すのかと思うほどの大きさで、これまた銃刀法違反レベルには間違いない。

「……ん。それ、どっかで見た事あるな」
「大道克己が使っていたナイフだって、説明書に書いてあります……。おそらく……」
「ああ……あいつのナイフか」

 これは参加者の大道克己が使っていたものらしい。
 いつきは少し考えて、それを翔太郎に差し出した。

「……もしよければ、スーパープリキュアの種と交換で……これ」
「あ、いや……いい。護身用に持っておいたらどうだ? 人殺しに使わないにしても、邪魔な草とかを斬るとかにも使えるだろ」

 翔太郎が拒否する。仕方がないので、いつきが持っていく事になった。
 大道克己のナイフが、いつきの掌に握られる。なかなか重い。確かに、これで人を殺すのは辛いから、敵を倒す時だけ使う事にしよう。
 そっと体の内にそれを隠して、各々は準備に乗り換える事にした。

「…………はい」






 各々は、警察署の玄関まで移動していた。全員そろっているが、向かう三人と残る四人は何となく見えないラインで分かれている。

「おい……死ぬなよ。ヤバくなったら逃げろよ」

 杏子が、翔太郎に言った。
 表情には不安の色が見られる。杏子がその死、安否を不安に思うような相手が出来たのは、本当に久々な気がした。
 だが、翔太郎は言った。

「大丈夫さ。まあ、様子を見に行くだけだからな。状況によっては戦うし、状況によっては人助けもする」

 こんな時にメモリガジェットがたくさん手元にあればもう少し便利なのだが、そういうわけにもいかないらしい。
 デンデンセンサーは警察署にいる連中のために残しておき、翔太郎は山へ向かう事にした。どちらにせよ、デンデンセンサーは今後の捜索に向いている道具でもない。

「おい。あんたも死ぬんじゃねえぞ」
「あ、うん」

 いつきにも、杏子は声をかけた。いつきも立派な仲間だ。

「それからお前も。……ま、死なれると後味悪いからな」

 いつきを見たついでのように、美希にもそう言葉をかけた。杏子は、美希の目を、はっきり見ていない。
 随分と翔太郎に比べて態度に違いがあるものだ。全く、素直に死んで欲しくないと言う気はないらしい。

(……わ、私を、ついでのように……! ……ま、まあ、でも、別にいいわ……。この子に心配してもらえなくても……)

 美希は、そんな杏子の労いの言葉にも、何も答えなかった。
 杏子を認められない。
 この中に一人、杏子がいるのはいい。でも、仲良くできるとは到底思えなかった。
 美希が好きじゃないタイプだ。不真面目、不良、怠惰、挑発的……。美希とは正反対で、そのうえ犯罪までやっているというその生き方が、美希には認めがたいものだった。
 美希は杏子の言葉に答えなかった。

「おい、無視すんなよ。おい」
「……」
「……ったく。……おらっ!」

 杏子は、自分の目を見ようともしない美希に向かって何かを投げた。美希は、慌てて、……直撃を回避するようなつもりで、それを胸元で受け取った。杏子はいったい、突然、何を渡したのだろうと、胸元のそれを手に取って、見つめた。

「……何これ。どうして……?」

 美希は思わず、杏子の方を見て、杏子に声をかけてしまう。
 それは山吹祈里が持っていたリンクルンであった。
 美希は、祈里のリンクルンを杏子が持っていた事など知らなかったので、これが出てきた事に驚く。
 杏子が、これを持っていたのか。

「苦労したんだぜ、それを悪い奴から奪い返すのも。……ま、お守り代わりってやつさ。持っていきなよ」
「どうして……」
「だから、悪い奴から取り返したんだって。せつなの友達の物を盗んでいるのは許せねえ」

 意外そうに杏子を見つめる美希であった。
 胸の中にある幼馴染の形見。それを取り返したのが、目の前にいる少女。
 ……まさか、普段からの「盗み癖」とやらが、こんな所で活かされたのだろうか。
 美希は、杏子を見直す事はなかったが、……まあ、少しだけ認めてあげてもいいだろうと思った。

「この事に関しては、素直にお礼を言っておくわ。でも、人の物を盗んで平然としているあなたの事は……」

 美希は、なお険しい目で杏子を見つめた。

「ちょっと待てよ! 折角、渡してやるってのに……なんだよ! その態度は!」

 杏子もまた、決して優しい目とは言えなかった。
 二人の視線は、また、激しくぶつかっている。

「おいおい、喧嘩は後にしろよ。さっさと俺と一緒にちょっとだけ出かけんぞ。……Pretty Girls」

 翔太郎が気障に言うと、美希と杏子はお互いを睨んだまま警察署を立った。





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最終更新:2014年03月27日 17:12