第32話 それぞれの休息
1482年 7月3日 マオンド共和国首都
「ジュー。この被害報告を見て、君はどう思うね?」
マオンド協和国国王ブイーレ・インリクは、首相のジュー・カングに聞いてみた。
「・・・・・・・・」
ジューは何も言わない。
「まあ、何も言わないか。そうだろうな。私とて、すぐに言葉が出ないからな。」
そう言うなり、インリクは重いため息をついた。
災厄は突然やって来た。
6月30日早朝、占領地域の海軍根拠地が、いつの間にか忍び寄ったアメリカ機動部隊の空襲を受けて大損害を被った。
北の占領地ゲンタールクでは、50機以上が来襲し、輸送船5隻が撃沈され、護衛艦3隻が大破した。
その南のエルケンラードでは100機以上の大編隊が来襲し、輸送船13隻、護衛艦3隻が沈没、2隻が大破し、
ワイバーン42騎が離陸する間もなく叩き伏せられ、町中の要所まで機銃掃射を受ける始末だった。
そして、日付が変わる前にグラーズレットが敵の新鋭夜間攻撃機の空襲を受け、戦艦1隻、巡洋艦、哨戒艇1隻を撃沈され、
輸送船1隻が魚雷を食らって大破した。
日付が変わった1日未明には、たまたま東海岸側に回航中であった第2艦隊が敵機動部隊を捕捉し、追い詰めようとしたが、
逆に戦艦2隻、巡洋艦3隻、駆逐艦6隻を撃沈されて撃退され、第2艦隊は壊滅。
6月30日早朝、占領地域の海軍根拠地が、いつの間にか忍び寄ったアメリカ機動部隊の空襲を受けて大損害を被った。
北の占領地ゲンタールクでは、50機以上が来襲し、輸送船5隻が撃沈され、護衛艦3隻が大破した。
その南のエルケンラードでは100機以上の大編隊が来襲し、輸送船13隻、護衛艦3隻が沈没、2隻が大破し、
ワイバーン42騎が離陸する間もなく叩き伏せられ、町中の要所まで機銃掃射を受ける始末だった。
そして、日付が変わる前にグラーズレットが敵の新鋭夜間攻撃機の空襲を受け、戦艦1隻、巡洋艦、哨戒艇1隻を撃沈され、
輸送船1隻が魚雷を食らって大破した。
日付が変わった1日未明には、たまたま東海岸側に回航中であった第2艦隊が敵機動部隊を捕捉し、追い詰めようとしたが、
逆に戦艦2隻、巡洋艦3隻、駆逐艦6隻を撃沈されて撃退され、第2艦隊は壊滅。
そして、夜が明けてから開始されたワイバーンの反復攻撃は、大損害を受けて失敗し、
攻撃を担当した第97空中騎士軍は戦力を半減された。
アメリカ機動部隊は、何事も無かったかのように悠々と帰還していった。
ボストン沖海戦以来、再び味わった大敗北である。
攻撃を担当した第97空中騎士軍は戦力を半減された。
アメリカ機動部隊は、何事も無かったかのように悠々と帰還していった。
ボストン沖海戦以来、再び味わった大敗北である。
「こっちにも竜母があれば・・・・建造中の竜母が既に完成していれば!」
インリクは血を吐くような表情で、そう言い放った。
「国王陛下、今後の対応はどうすべきかと思われますか?」
「方針は前と変わらない。沿岸区域の監視を続けて行う。今後は、就役してくる新鋭艦を西海岸防備にあたらせる。
監視艇の数を2倍に増やして、敵に寝首をかかれぬようにするしかない。」
「方針は前と変わらない。沿岸区域の監視を続けて行う。今後は、就役してくる新鋭艦を西海岸防備にあたらせる。
監視艇の数を2倍に増やして、敵に寝首をかかれぬようにするしかない。」
インリクはそう言いながら、玉座から立ちあがった。
「ジュー。シホールアンルは、とんでもない戦上手に喧嘩をふっかけたようだ。敵の動きからして、
私から見ても惚れ惚れとする鮮やかさだ。今後は、失った海軍戦力の充実に取り組みながら、
シホールアンルとの情報交換にも力を入れよう。そうでもしなければ。」
私から見ても惚れ惚れとする鮮やかさだ。今後は、失った海軍戦力の充実に取り組みながら、
シホールアンルとの情報交換にも力を入れよう。そうでもしなければ。」
インリクは、背後に掲げられているレーフェイル大陸の地図を眺めた。
「明るい未来は二度とおがめんだろう。」
1482年 7月4日 シホールアンル帝国首都ウェルバンル 午後2時
「陛下!陛下はどこにおられる!?」
皇帝の住処でもあり、仕事場でもある荘厳な宮殿に、快活な声音が木霊していた。
「侍従長、どうなされました?」
1人のメイドが侍従長に聞いた。
「皇帝陛下がおらんのだよ。ここ数ヶ月ほどは、ずっと宮殿の中におられたのだが。」
「心配に及ばないでしょう。陛下は散歩好きですから、城下町を練り歩いているだけですわ。」
「馬鹿者!この北大陸を統べる大帝国の皇帝がそこらの街に出歩くのはあってはならんことだ!」
「心配に及ばないでしょう。陛下は散歩好きですから、城下町を練り歩いているだけですわ。」
「馬鹿者!この北大陸を統べる大帝国の皇帝がそこらの街に出歩くのはあってはならんことだ!」
侍従長は怒声を発しながら、宮殿の中をどすどすと歩き回った。
「散歩ねぇ。陛下も困った性格してるわね。」
メイドは苦笑しながらそう呟いた。そこで、メイドははっとなった。
「そういえば・・・・・陛下が宮殿から居なくなることは随分久しぶりね。」
侍従長は、またぞろ城下町に出て街娘を口説いているに違いないと確信していた。
そう思われているシホールアンル帝国皇帝、オールフェス・リリスレイは、
「はあ。」
どこぞで、仰向けに寝転がって、空を見渡していた。
「どうしたもんかねぇ。」
その表情は、どことなく暗い。
「南大陸では戦線が膠着状態。グンリーラ島では未知の新鋭機現る。レーフェイルではアメリカさんの奇襲攻撃。
どうも、悪いことばかり起きまくってるぜ。」
どうも、悪いことばかり起きまくってるぜ。」
と、深くため息をついた。彼が寝転がっている場所は、宮殿より西に1ゼルド離れた小高い山である。
山のなだらかな斜面は草原となっており、心地よい風が常時流れている。
季節はもう夏なのだが、さほど暑くはない。
山のなだらかな斜面は草原となっており、心地よい風が常時流れている。
季節はもう夏なのだが、さほど暑くはない。
「こっちは涼しいが、南は熱いな。」
オールフェスは他人事のような口調で、そう呟いた。
アメリカとの戦争が始まって早7ヵ月以上。最初に立てた予定は、もはや狂いまくっていた。
4月に行われた地上戦では、満を持して開始された攻勢がわずか1日で粉砕された。
ガルクレルフの前線には、見たこともない巨大爆撃機や、高速の戦闘機が飛び回り、前線軍や後方の基地に
定期便のように爆弾の雨を降らせている。
ここ最近は、対処法もつかめてきており、アメリカ軍機の撃墜数は上がっているが、もはやシホールアンル軍に
昔日の強さは無い。
アメリカとの戦争が始まって早7ヵ月以上。最初に立てた予定は、もはや狂いまくっていた。
4月に行われた地上戦では、満を持して開始された攻勢がわずか1日で粉砕された。
ガルクレルフの前線には、見たこともない巨大爆撃機や、高速の戦闘機が飛び回り、前線軍や後方の基地に
定期便のように爆弾の雨を降らせている。
ここ最近は、対処法もつかめてきており、アメリカ軍機の撃墜数は上がっているが、もはやシホールアンル軍に
昔日の強さは無い。
海軍は一応それなりの活躍を見せてはいるが、グンリーラ島沖海戦では、デヴァステーターに代わる未知の新鋭機によって
貴重な竜母を撃沈破された。
陸でも、空でも、海でも、シホールアンルは負け続けている。
貴重な竜母を撃沈破された。
陸でも、空でも、海でも、シホールアンルは負け続けている。
「本当に、どうしたものかねえ。」
同じ言葉を言って、再びため息をついた。
政務が忙し過ぎるときは、散歩したり、この小高い山で寝転がって気分転換をしている。
だが、ここ最近はこの方法でも、思うように気が楽にならない。
政務が忙し過ぎるときは、散歩したり、この小高い山で寝転がって気分転換をしている。
だが、ここ最近はこの方法でも、思うように気が楽にならない。
「ストレスの溜めすぎだな。」
そう言って、彼は苦笑する。ふと、どこからか気配を感じた。
「誰かな?」
オールフェスはそう言った直後、体を左脇に転がした。
ザクザク!という何かが突き刺さる音が聞こえた。彼は転がる際にそれが何であるかが見えた。
太く、黒光りする鉄の矢。
ザクザク!という何かが突き刺さる音が聞こえた。彼は転がる際にそれが何であるかが見えた。
太く、黒光りする鉄の矢。
「く、何で!?」
困惑の様子を敵は浮かべた。オールフェスは、2本の矢を放った相手を見た。
そこには、黒いショートヘアに、上は薄手の赤い半袖、下は長い丈の服を付けた女性がいた。
その手には、クロスボウが握られている。
そこには、黒いショートヘアに、上は薄手の赤い半袖、下は長い丈の服を付けた女性がいた。
その手には、クロスボウが握られている。
「おっ、こいつぁかわいいね。ふむふむ、俺好みのスタイルだ。これなら引く手数多だな。ねえ、お姉さん。
いつもなら一緒に遊んでくれと言うところだが、悪いけど今日は帰ってくれねえかな?」
いつもなら一緒に遊んでくれと言うところだが、悪いけど今日は帰ってくれねえかな?」
オールフェスは満面の笑みで暗殺者に問いかけた。
「うるさい!あんたはここで死ぬのよ!」
暗殺者は凶暴な眼つきでオールフェスを睨み、手慣れた手つきで矢をクロスボウに取り付け、構える。
動きからしてかなりの使い手のようだ。
動きからしてかなりの使い手のようだ。
「俺、今ちょっと機嫌悪いんだわ。」
「黙れ!」
「黙れ!」
暗殺者は容赦なく矢を放った。
クロスボウは2本ずつ矢を同時に放てる。そのうちの1本を放ち、オールフェスを串刺しにするはずだった。
距離は近く、避ける暇は無い。彼女は暗殺は成功したと確信した。だが、
クロスボウは2本ずつ矢を同時に放てる。そのうちの1本を放ち、オールフェスを串刺しにするはずだった。
距離は近く、避ける暇は無い。彼女は暗殺は成功したと確信した。だが、
「えっ!?」
オールフェスの姿は消えていた。そのオールフェスは、
「う、あ・・・!」
後ろから女性の手と、顔を後ろから掴んでいた。クロスボウを握っていた手は、後ろに捻られていた。
「いい腕だ。でも、まだまだ甘いね。」
オールフェスは笑みを浮かべながら、暗殺者に語りかけた。
この時点で、女暗殺者はもう逃げ切れないと悟った。
これまで、血の滲むような訓練を行い、既に何度か仕事をこなしている。
仲間内からは一流といわれていたが、オールフェスの動きは全く見えなかった。その時点で、彼女の敗北は決定している。
この時点で、女暗殺者はもう逃げ切れないと悟った。
これまで、血の滲むような訓練を行い、既に何度か仕事をこなしている。
仲間内からは一流といわれていたが、オールフェスの動きは全く見えなかった。その時点で、彼女の敗北は決定している。
「ほほう、こっから見ると、結構いいね。特にその2つの大きい物に目がいってしまうぜ。」
オールフェスは愉快そうな口調で言った。
「く、くそ。私は何も喋らないわ!」
彼女は意を決したように叫んだ。
スパイはなるべく殺さないのが常識であり、知っていることを吐き出すまで自白を強要される。
しかし、彼女はそのための訓練を受けており、口は堅いと自負していた。
スパイはなるべく殺さないのが常識であり、知っていることを吐き出すまで自白を強要される。
しかし、彼女はそのための訓練を受けており、口は堅いと自負していた。
「うん、喋らなくて良いよ。」
オールフェスは相当すると、いつの間にか奪い取ったクロスボウを彼女の背中に押しつけた。
暗殺者の表情が青白くなった時、ズグッという何かが突き刺さる音が鳴る。
暗殺者の表情が青白くなった時、ズグッという何かが突き刺さる音が鳴る。
「あ・・・・は・・・・」
暗殺者は、うつろな視線をゆっくりと下し、2つの膨らみの真ん中から生えた、血の付いた矢を見た。
「さっきも言っただろ?今日は機嫌が悪いって。だからさ、ゆっくり眠ってくれよ。」
暗殺者は、自分の武器で背中から貫かれたと理解すると、急に意識が薄れた。
頭の中では必死に意識を鮮明にしようともがくのだが、それも徒労に終わった。
オールフェスは、掴んでいた手を離して、暗殺者の体は草原に倒れた。
女性の背中と胸元が、赤みをじわじわと増しつつある。
頭の中では必死に意識を鮮明にしようともがくのだが、それも徒労に終わった。
オールフェスは、掴んでいた手を離して、暗殺者の体は草原に倒れた。
女性の背中と胸元が、赤みをじわじわと増しつつある。
「全く、こんな下手糞の相手もしなくちゃならんとは。それもこれも、アメリカのせいだな。」
オールフェスは、死体に目もくれずにその場を離れた。
「さて、宮殿に戻ってから、侍従長のありがたいお話でも聞くか。」
自分が乗っている軍艦が、主砲や副砲を雨霰と撃ちまくる。
4基あると言われていた3連装式の主砲は、6~7秒おきに、連装式の副砲はそれよりも短い間隔で弾を撃ちまくる。
その砲撃を受けている前方の軍艦らしい影も、こちらに砲を向けて発砲する。
次の瞬間、もの凄い水柱が乗っている艦の絃側に立ちあがる。
敵と思われる軍艦は、形からして戦艦に間違いない。
4基あると言われていた3連装式の主砲は、6~7秒おきに、連装式の副砲はそれよりも短い間隔で弾を撃ちまくる。
その砲撃を受けている前方の軍艦らしい影も、こちらに砲を向けて発砲する。
次の瞬間、もの凄い水柱が乗っている艦の絃側に立ちあがる。
敵と思われる軍艦は、形からして戦艦に間違いない。
「無理よ・・・・勝てるわけがない・・・・」
フェイレは、甲板でへたりこみながら、空しい抵抗を試みる軍艦に言い放つ。
だが、軍艦はその声を聞くはずもなく、より激しく砲弾を撃ちまくる。
向こうの船の形をした影に、12発の砲弾が降り注ぎ、連装式の砲から放たれる砲弾も次々に影に落ちていく。
影は多量の砲弾に包み込まれ、確実に数発ずつが命中し、破片を飛び散らせるが、応えた様子もなく主砲をぶっ放す。
だが、軍艦はその声を聞くはずもなく、より激しく砲弾を撃ちまくる。
向こうの船の形をした影に、12発の砲弾が降り注ぎ、連装式の砲から放たれる砲弾も次々に影に落ちていく。
影は多量の砲弾に包み込まれ、確実に数発ずつが命中し、破片を飛び散らせるが、応えた様子もなく主砲をぶっ放す。
もの凄い衝撃と共に、乗っていた軍艦が飛び上がるように感じられる。
だが、軍艦は自艦より口径の大きい巨弾に叩かれようが、退く事無く主砲と副砲を撃ちまくる。
後ろに視線を向けると、この軍艦と同じ形の艦が、全部2基の主砲とその後ろの連装式の副砲を同じように乱射している。
そのずっと後方には、乗っている軍艦とは違う形の船が、炎上しながら右に傾いている。
階段式に3つ積み上げられた連装式の砲は、まだ戦えると言っているかのように砲身を右に向けているが、火を噴く様子はない。
だが、軍艦は自艦より口径の大きい巨弾に叩かれようが、退く事無く主砲と副砲を撃ちまくる。
後ろに視線を向けると、この軍艦と同じ形の艦が、全部2基の主砲とその後ろの連装式の副砲を同じように乱射している。
そのずっと後方には、乗っている軍艦とは違う形の船が、炎上しながら右に傾いている。
階段式に3つ積み上げられた連装式の砲は、まだ戦えると言っているかのように砲身を右に向けているが、火を噴く様子はない。
「あっちは重い砲弾でも耐えられるように作っているのに、この艦の軽い砲弾では・・・・・・
話にならないじゃない・・・・・なのに・・・・」
話にならないじゃない・・・・・なのに・・・・」
どうして?どうして諦めない?
疑問がわき起こる。ふと、遠くから何かの会話が聞こえる。
疑問がわき起こる。ふと、遠くから何かの会話が聞こえる。
「無茶です!戦艦相手に軽巡の豆鉄砲は通用しません!」
その声は、恐怖にわなないていた。だが、
「馬鹿野郎!クリーブランドが敵のへっぽこ弾にやられるか!このクリーブランドとコロンビアが撃ちまくればいずれ・・・・」
目が覚めた。
フェイレは、自分の体が汗をかいていることに気が付いた。
フェイレは、自分の体が汗をかいていることに気が付いた。
「うわ・・・・」
彼女は顔をしかめながらも、姿勢を起こした。
ここは山奥の木陰。夜間は涼しいはずなのに、体は汗で濡れている。
だが、なぜか、
だが、なぜか、
「体が、熱い?」
体が熱かった。ふと、風邪でもこじらしたのかと思ったが、違うようだ。
珍しいことに、体の芯が熱かった。おまけに興奮もしているようだ。
「どうして、また。」
ふと、今見た夢を思い出した。場所はどこかの暗い海。フェイレはその暗い海で、船に乗っていた。
船と言っても、異常なほど大砲を積んだ船だった。
おおまかながらも、夢に出てきたその軍艦は、前と後ろに2基ずつの3連装式の主砲を持ち、それだけのみならず、
見ただけでも3基の連装式の副砲を持っていた。
それに、名前もつけられていた。夢にしては、嫌にリアルだ。
珍しいことに、体の芯が熱かった。おまけに興奮もしているようだ。
「どうして、また。」
ふと、今見た夢を思い出した。場所はどこかの暗い海。フェイレはその暗い海で、船に乗っていた。
船と言っても、異常なほど大砲を積んだ船だった。
おおまかながらも、夢に出てきたその軍艦は、前と後ろに2基ずつの3連装式の主砲を持ち、それだけのみならず、
見ただけでも3基の連装式の副砲を持っていた。
それに、名前もつけられていた。夢にしては、嫌にリアルだ。
「クリーブランド?コロンビア?船の名前のようだけど、これって・・・・・」
フェイレは、前にもリアルな夢を見たことがあった。
それは、自分が住んでいた村が、不可思議な現象に襲われ、村人達が喉を押さえながら次々と倒れ伏していくものだった。
あまりにも現実味を帯びた夢に、フェイレは飛び起きて、凄まじい吐き気と恐怖を感じた。
それは、2週間後に現実のものとなり、フェイレはその後、シホールアンル軍に連れて行かれたが、護送中に脱走した。
その夢と、今さっきの夢はどこか似ていた。
何よりも、まるでそこにいるかのような酷く現実味を帯びていた。だが、
それは、自分が住んでいた村が、不可思議な現象に襲われ、村人達が喉を押さえながら次々と倒れ伏していくものだった。
あまりにも現実味を帯びた夢に、フェイレは飛び起きて、凄まじい吐き気と恐怖を感じた。
それは、2週間後に現実のものとなり、フェイレはその後、シホールアンル軍に連れて行かれたが、護送中に脱走した。
その夢と、今さっきの夢はどこか似ていた。
何よりも、まるでそこにいるかのような酷く現実味を帯びていた。だが、
「前とは、違う物もある。」
フェイレはそう呟きながら、胸元に触れる。心臓は、未だに鼓動が早い。
不思議なことに、彼女は軽い高揚感に見舞われていた。
以前はそのような事は起きず、底知れぬ不安と体の不調に襲われていた。
不思議なことに、彼女は軽い高揚感に見舞われていた。
以前はそのような事は起きず、底知れぬ不安と体の不調に襲われていた。
「まさか、あたしの未来は・・・・・・・」
フェイレは、あの夢の光景はいつか来る自分の未来なのでは?と思いった。
「馬鹿馬鹿しい。きっと、旅の疲れで体のどこかがおかしいんだわ。」
彼女はその思いを振り払って、夢のことは忘れようと思った。
1482年 7月6日 カレアント公国ロゼングラップ 午後4時
誘導路沿いに、B−17は駐機場にゆっくりと入ってくる。
誘導員の指示に従いながら、機長のダン・ブロンクス大尉は慎重に機体を定位置に持ってくる。
機体は無事に、元の駐機位置に着いた。
誘導員の指示に従いながら、機長のダン・ブロンクス大尉は慎重に機体を定位置に持ってくる。
機体は無事に、元の駐機位置に着いた。
「よし、これでしまいだ。」
ブロンクス大尉は安心したかのようにそう言い放った。回っていたエンジンが回転を緩め、やがて止まった。
「さて、降りようか。」
ブロンクス大尉は副操縦士のリーネ・カースル中尉に微笑んだ。
「ええ。任務後のアイスが待ってますぜ。おい、野郎共!先に行ってアイスを確保してこい!」
カースル中尉は後ろに向けて叫ぶと、気合いの入った返事が返ってきた。
「これで17ソーティーか。今日の敵の迎撃は気合いが入っていたな。」
ブロンクス大尉は機体から降りながらカースル中尉に感想を言う。彼も同感ですと、返事する。
「敵さんは足の早いミッチェルには光弾で、こっちには光弾とブレスを混ぜて攻撃してきます。それに、敵の対空砲火も最初と比べて激しくなっています。」
「あいつらも学習してるんだよ。」
「あいつらも学習してるんだよ。」
ブロンクス大尉は、ぶっきらぼうな口調で言った。
この日、飛行場から発進したB−17爆撃機40機は、護衛のP−38を60機引き連れてシホールアンル軍の後方支援基地を叩いた。
この任務で、B−17の2機が対空砲火で、ワイバーンの襲撃で戦闘機4機に爆撃機2機が撃墜された。
損傷を受けたのはこれの倍以上で、シホールアンル側の防備態勢が格段に強化された事を如実に物語っている。
この日、飛行場から発進したB−17爆撃機40機は、護衛のP−38を60機引き連れてシホールアンル軍の後方支援基地を叩いた。
この任務で、B−17の2機が対空砲火で、ワイバーンの襲撃で戦闘機4機に爆撃機2機が撃墜された。
損傷を受けたのはこれの倍以上で、シホールアンル側の防備態勢が格段に強化された事を如実に物語っている。
「ミッチェル隊は1機の喪失のみで済んだようです。」
「ほう。出撃の度に未帰還機を2、3機ずつ出していたのに珍しいな。」
「敵の迎撃が薄い時間を狙ったようですよ。」
「そうか。」
「ほう。出撃の度に未帰還機を2、3機ずつ出していたのに珍しいな。」
「敵の迎撃が薄い時間を狙ったようですよ。」
「そうか。」
ブロンクス大尉はそう言いながらタバコに火を付けた。
ふと、飛行場の一角、B−25の駐機場のほうで、10数人ほどが宴会のように騒いでいた。
ふと、飛行場の一角、B−25の駐機場のほうで、10数人ほどが宴会のように騒いでいた。
「その件のミッチェル隊はお祭りのようだ。ちょっくら見てくるか。」
と、機長は副機長を連れて偵察に出た。
近づくなり、1人の若い兵が周りからやっかみをあびせられたり、肩を叩かれている。
近づくなり、1人の若い兵が周りからやっかみをあびせられたり、肩を叩かれている。
「イヤッホウ!トカゲ野郎をハチの巣にしてやったぜ!」
「あの泣き虫リチャードが初撃墜とはな、驚いたもんだぜ。おい、どうやってやっつけたんだ?」
「ああ、シホットのワイバーンが俺達の機を前から襲ってきたんだ。だが、あちらさんの射弾は外れちまって、
ワイバーンは後ろに飛び抜けていった。」
「あの泣き虫リチャードが初撃墜とはな、驚いたもんだぜ。おい、どうやってやっつけたんだ?」
「ああ、シホットのワイバーンが俺達の機を前から襲ってきたんだ。だが、あちらさんの射弾は外れちまって、
ワイバーンは後ろに飛び抜けていった。」
中尉の階級章をつけた機長が説明する。その説明に一同は黙って聞き耳を立てた。
「そしたら、こいつが後ろからバリバリバリ!気が付けばワイバーンは錐もみになって落ちていった。」
「「ヒュゥー、やるぜ!」」
「「ヒュゥー、やるぜ!」」
なぜか、皆が言いながら、再びリチャードをもみくちゃにする。
「なるほど、高速で飛び抜けていくワイバーンに命中させるとは、見事な腕前だな。」
ブロンクス大尉はおもむろに口を開いた。何人かが後ろに振り返る。
「ああ、そうさ。って、気を付け!」
中尉が慌てて命じ、全員が直立不動の態勢を取る。
「おいおい、そう堅くなるなよ。いくら大尉の階級章をつけているからといって、年齢的には君らと近いんだ。
普通に行こうぜ普通に。」
普通に行こうぜ普通に。」
陽気な口調で機長が言うと、ミッチェルの搭乗員達は破顔して頷いた。
「大尉はどの機体に乗って居るんです?」
「B−17さ。愛機の名前はイリス・ブリジットだ。そうだ、君たち、明日は非番かね?」
「ええ、非番です。これからリチャードの初戦果祝いをやろうとしてたんです。」
「そうか。ならイリス・ブリジットの皆と飲まんか?俺のおごりだ。」
「ええ!?良いんですか?」
「B−17さ。愛機の名前はイリス・ブリジットだ。そうだ、君たち、明日は非番かね?」
「ええ、非番です。これからリチャードの初戦果祝いをやろうとしてたんです。」
「そうか。ならイリス・ブリジットの皆と飲まんか?俺のおごりだ。」
「ええ!?良いんですか?」
ミッチェルの搭乗員達が仰天して聞き返した。
「ここにいるメンバー限定ならオーケーだ。俺もそこのリチャードに酒をおごりたくなったよ。
金の心配なら不要だ。1週間前にポーカーで1500ドルを稼いで使い道に困ってたんだ。」
「ワオ、太っ腹だぜ!」
金の心配なら不要だ。1週間前にポーカーで1500ドルを稼いで使い道に困ってたんだ。」
「ワオ、太っ腹だぜ!」
リチャードが素っ頓狂な声をあげると、その声を聞いた皆が爆笑した。
「よし!今夜7時からバーに集合!貴様ら、遅れるんじゃないぞ!」
ブロンクス大尉の言葉に、ミッチェルの搭乗員達は、
「イエッサー!」
と、今まで以上に見事な敬礼で答えた。
その後、ブロンクス大尉らは楽しい夜を過ごしたが、翌日の非番は、飲み会に参加した半数以上の者がベッドで唸る事になった。