向こう側の月の都 ~ Lunar craters




どうもこんにちは、稗田阿求です。
話の途中から急に消えてしまって、申し訳ないと思います。
そこでここではちょっとだけ私の活躍、と言うよりは失態を記しておこうと思いました。
折角ですので、私視点から見た今回の動きの一部を紹介します。
それでは、私の手記をよく読んで、素敵な貴方に安全なバトロワライフを。

…流石に無理か。



「阿求、貴方に折り入ってお願いがあるのだけど?」
幽々子さんが、私にそう言ったのはツェペリさんと幽々子さんでポルナレフさんと戦う直前のことだった。

「私に…ですか?」
「ええ、当然だけど。この戦いの結果によって、私たちの今後は多少なりと変わるわ。」

私は首肯する。私たちが全員生存の上で勝利すれば、
ポルナレフさんの肉の芽を問題なく外すことができる、ハッピーエンドの展開だ。
その逆もあり得る、この戦いに負けた時だ。

「この戦いにおける負けというか、一つの区切りは、何を指すかしらね?」
「全滅ですか…?」
「半分正解ね。じゃあ視点を変えましょうか?箒頭の一番の標的は誰だと思う?」
相変わらずというかなんというか、この御方は考えていることを率直に言うのがお嫌いなようだと感じた。
まあ、幻想郷に住む妖怪やらなんやらは、大体そんな感じだししょうがない。
「…ツェペリさんですよね。」

その名前を呼んでハッとした。私だって伊達に生きていないし(転生だけど)、
高い知性があることは認識している。
だから、幽々子さんが言わんとしていることが、なんとなくだが察した。

「貴方にはこれを渡しておくわね、使うべき時に使って頂戴。」
手渡されたのは2枚のエニグマの紙、少し開き中身を確認する。
一つは私が持っているスマートフォンとはまた違った電子端末、生命探知機だ。
ポルナレフさんはこれで私達の居所を掴んだのかと納得する。

もう一つは先ほどのツェペリさんの戦いをアシストした馬、ヴァルキリー。
乗馬の経験なんて、炎天下の元で行動するのにも厳しいというのにあるわけがない。

私は小声で、失礼を承知の上で尋ねる。
「ツェペリさんを見捨てるおつもりですか?」
「ふふふ、何言ってるの?考え過ぎよ、阿求。」
私の言葉に思わず笑っている幽々子さんを見て正直ホッとした。
いくらなんでも、そんな無慈悲な方とは思ってなかったし。
でも彼女は一頻り笑うと、急に真面目な顔になってこう口にした。
「でもね、最悪の事態を想定しないといけないわ。」

私は黙り込む。彼女が話していることは、一番の標的であるツェペリさんが倒され、
いや殺された場合のことだろう。

「おそらくだけど、私達には手を出さないと踏んでいるわ。
よく分からないけど自分の障害になる相手のみを倒そうとする感じだし。」

私も概ね同じ考えだ。懸念と言えば、肉の芽に干渉したことからメリーさんが狙われるのではないか、
といったことぐらい。

「そして、ツェペリが殺されたとして私たちはどうすべきかしら?」

その答えを私に尋ねるのは卑怯だと感じた。
私の『感情』はツェペリさんの敵討ちではないが、
ポルナレフさんを肉の芽から解放することまでしたいと言う。

私の『理性』は襲ってこなければ、無理に戦う必要はない。
危険を冒す必要はないと決めてその場を退くと言う。

しかし、私が『感情』から発した意見は多分口にできないだろう。
だって、この場合ポルナレフさんと戦う必要性が出てくる。
私には戦う力など持ち合わせていない、無力な存在だ。
そうなると誰が矢面に立つか、ここでは幽々子さんしかいない。
選択肢があるように見せて、一方の選択肢は無責任な発言となり、
よほど無神経でなければ選べないと思う。そして私はそこまで図太い神経の持ち主ではなかった。



「ごめんね、阿求。すごく底意地の悪い質問だったわね。でも、わかってほしいの。」

無言の答えが自身への不満だと察した幽々子さんは、素直に頭を下げて謝まってくれた。
要約すると、仮にツェペリさんが死んだとしても、
ポルナレフさんに戦う意思がなければ挑むことはしない、ということだ。

「いえ、幽々子さんの言いたいことは分かります。それに比べて、私にできることなんて本当に少なくて…」

「な~に言ってるのよ。貴方には生き残ってこの奇妙な体験を記す義務があるじゃない、
 寺子屋開いている牛より正確なものを期待しているわ。」

寺子屋を開いている牛って、思いつくのは上白沢慧音
私の妖怪の知人の一人で歴史が専門の教師をしていて、彼女の授業は稗田家の資料を提供している。
まあ確かに、彼女の編纂したものよりはよほど正確なものができる自信がある。

「だから、貴方の負った使命の為にも、逃げることを選ぶのを恥じちゃいけないわ。
 貴方にしかできないことはあるんだからね。」
「…分かりました。」

「それと最後に、これは本当に最悪の展開を迎えた場合よ。
 それはツェペリの次に私も戦わなければいけなくなったとき。」

私は次に幽々子さんが何を言うか、わかっていた。

「すぐにとは言わないけど、危険だと判断したらメリーと一緒に逃げなさい。」
ああ、やっぱりか。予想は的中。でも同時に仕方ないなと感じていた。
私にできることは生き延びたその先にある。
無力な私ができることなどタカが知れていたし。

「まあ、私もツェペリもそうならないように全力を尽くすわ。安心していなさい、阿求。」

私は、はいと返事をし、そこで幽々子さんとの会話は終わりにした。




今、見てみるとなんというか、非常に滑稽に見えてしまいますね…。
この後にあるのは、一番あってほしくない本当に最悪の展開だったんですから。
今度の場面はツェペリさんが死んだと、みんなが思い込んだところからですね。
ちょうど、私がメリーさんを支えながら二人から離れていたところです。




「そんな、ツェペリさん……いや、死んだの…生きてるの?」

私がメリーさんに肩を貸しながら歩く隣で彼女ははブツブツと呟いていました。

当然か、私もここに来て気さくに接してくれた幽々子さんが死ぬかもしれない、
と考えるだけでゾッとする。

そうあってほしくない、と考えていた矢先のこと。
背後から聞こえてきたのは幽々子さんとポルナレフさんとの話し声。
襲ってこないところを見る限り、やはり私達には敵意はないと見ていいだろう。
少し立ち止まり、話し声に耳を傾ける。


「ああ、貴方の誘蛾灯に私の大事な存在をあげたくないってね。」

大切な存在、私はどうなんだろうか?私は誰かにとって大切な存在なのか?ふと、考えてしまった。

「あっ!もちろん阿求もその中にいるわよ!」

残念ながら、幽々子さんの回想シーンに私の出番はなかったようだ。
まあ、彼女なりのジョークとして受け取っておこう。いちいち気に病んでも仕方ないし。
だけど、次の言葉には自身の耳を疑った。

「私が貴方を止める、ただそれだけよ。」

えっ、今なんて?

振り向くとポルナレフさんは駆け出していました。『スタンド』を従えて、
もちろん戦うつもりなのでしょう。

聞いていた話と違い、私は驚く。予定ではポルナレフさんが戦う気がないならば、
無理に戦わないと言っていたのに。

私はあの時、幽々子さんにツェペリさんが死んだときにどうするか、
という問いを受けてどちらか答えなかった。
でも、本音は私の『感情』を優先させたかったと思う。
死んだツェペリさんの意志をついで、ポルナレフさんを肉の芽から救う。
それが最も綺麗な終わり方に思えたから。

でも、今は違った。そんなもの放り出して今すぐ戻ってきてください。
幽々子さんにそう叫びそうになったのだ。

『恐怖』。人の死を目の当たりにして、私はそんな倫理ある思いをあっさりと投げ出しそうになった。
自身を支えてくれた存在の大きさを理解し、失いたくないと今更ながら強く感じ始めたのだ。
そんな私の思いとは裏腹に事態はより悪化していく。

幽々子さんが正面と背面にそれぞれ一太刀入れられてしまった。

「すぐにとは言わないけど、危険だと判断したらメリーと一緒に逃げなさい。」
幽々子さんがの言葉が私の頭に反響する。

私の使命は幻想郷で起きた有象無象を記し、伝えること。そのためには―――
「貴方の負った使命の為にも、逃げることを選ぶのを恥じちゃいけないわ。」



私とメリーさんに火の粉が降りかかるよりも早く、逃げ出さなければと思った。
一枚のエニグマの紙を開く。出てきたのは一頭の馬、ヴァルキリー。
この馬ならば、距離を取ることも容易だ。問題は乗れるかどうか…

手綱を握り、鐙を踏んで登ろうとするも何度もずり落ちる。
私の無様な姿に見かねたのか、ヴァルキリーはしゃがんでくれた。
…なんだか悔しいけど、これで乗れる。
私はメリーさんの方を向く。

「メリーさん、落ち着いて聞いてください。今から私たちは一旦ここから離れます。」
「えっ?ツェペリさんは…、それに幽々子さんだって…」

ツェペリさんを失ったショックか、その目はどこか虚ろだ。
私の言葉で感じたことを素直に返している。
「幽々子さんに頼まれていたんです。もし、彼女が戦うことになったら逃げろって。
 ヴァルキリーに乗って行きましょう。」
「幽々子さんを置いていくの…?」
つらい。私だって逃げ出すことに罪悪感はある。
それでも私の使命と幽々子さんの願いの為にも逃げなければいけない。

「今、私たちが残ってできることはありません。お願いですから、一緒に来てください。」
「幽々子さんも死んじゃうの…?」
やめて。私だって、私だって好きでこんな方法選んでるわけじゃない。
いつまでも問答しているわけにはいかない。そう判断すると、メリーさんの腕を掴み無理やり引っ張る。
「い、いや、は、放して!」

これでは私が悪者みたいだ。でも心を鬼にしてメリーさんを引きずる。
まだ夢の世界の体験での疲れがあるせいか、私でもなんとか連れ出すことができた。
ヴァルキリーの前にたどり着く。座って待ってくれていたおかげで簡単に跨ることができた。
メリーさんを見るが、やはり座ってくれない。

「メリーさん、お願いです。私を信じてください…!幽々子さんにもしものことがあって、
 貴方まで死なせてしまったら、彼女は浮かばれません。」
「う、浮かばれない、な、なんて!幽々子さんが死んだような扱いをしないでッ!」

私はもちろんそんなつもりはない。確かに、浮かばれないという言葉には
成仏するとかいった意味もある。
幽々子さんは亡霊だし、いわゆる幽霊ギャグか…(うまいこと言った?)
縁起でもないことを考えてしまったが、もちろんそんな意味で使ったわけではない。
「言葉のあやです。そんな揚げ足を取るようなことを言わないで下さい。」

「い、いや!わ、私は幽々子さんを、た、助けたいの!」


ここに来て唐突にメリーさんが私を見据えてはっきり伝えてきた。
何故かその目を見て私はたじろいでしまう。
「私に、私たちに、あの場でできることがあると思っているのですか?」
「わ、分からない。でも、幽々子さんの側にいてあげたいの、彼女を支えたい。」

何でこんなことが言えるのだろうか、
幽々子さんは貴方に生きてほしいから私に託したのに… どうして…?

「分からないで済ませないで下さいッ!貴方の行為は彼女の決意を踏みにじることに
 繋がりかねないのですよッ!」
「阿求さん、私は蓮子って友達とよく一緒に行動しているの。
 だから、私を大事な存在と認めてくれた幽々子さんも同じようにいてあげたい。」

そんな理由で…?それに幽々子さんは誰が大事な存在と口にはしてなかったのに…
あなたはどうしてそう思えるの?




「それに、幽々子さんはなんだかどこかで会ったような、不思議な感覚になるんです。」


そうか…。メリーさんには、私には持たないものがあるから、
幽々子さんを別の形で支えようと考えるのか。

『理性』で動くよりも優先させたい『感情』がきっと彼女にはある。

「だから、お願いします。幽々子さんの元へ行かせてください!」

彼女の友達の宇佐見蓮子。どんな子かなのか知らないけど、
それはそれは彼女の大きな拠り所なのだろう。
だって彼女の名前を口にしたら、まるで自分の力に変えてしまったように彼女に活力が宿った。

ここで偶然出会った西行寺幽々子八雲紫を思わせる、
その容姿と能力は何かしら関係があるだろう。この場で紫様と生前からの仲である、
幽々子さんと会ったのも正に『縁』といったところか。(うまいこと言った?)

そこまで考えて、私は急にさびしくなった。
私にメリーさんのような『理性』を飛び越えるような『感情』を優先させたい拠り所なんてあるのかと。

友達はいる。
さっき話した上白沢慧音。彼女はお世辞にも教え上手とは言えないので、
たまに頼まれて指導の仕方なんかを教えたりする。
結構辛辣な感想を言ったりするけど。その分仲は良いかな?

本居小鈴。私の歳と近く、妖魔本の研究に熱心な女の子で、
私のおそらく最も友人と呼べる間柄だろう。
あの子は本が大好きだし、彼女には私の好きな幺樂団のレコードを貸したりもした。
そうやって思い返すと、友達はいるし彼女たちは私の大切な存在だ。

でも…彼女たちが危険に晒された時、私はどう動いていたのか、と考えた瞬間。

胸を張って彼女たちを助けに行けるかと言われたら……言えない。
だって私は今、幽々子さんを置いていこうとしたんだから。
同じことを彼女たちにしないなんて、今更ムシの良いこと言えない、言えなかった……

私は幽々子さんを助けるために、この場から離れろと言った。
彼女は幽々子さんを助けるために、この場に残り支えたいと言った。

同じ助ける手段をとるにしたって、何かできるかの有無で判断しないで、
側にいたいという思いを優先する。
ただの無謀にしか見えない、見えないのに…

酷く羨ましかった。
そして思った。

なんて私は侘しいのだろう…

私が酷く心の狭い人間に思えてしまった。

その思いが引き金となった。
「ヴァルキリー、走ってッ!」

私はどう扱っていいのかわからない、ヴァルキリーの手綱を握りしめ命令する。
座っていたヴァルキリーはスッと立ち上がる。

「阿求さんッ!?」

「わ、私は、私は…」

ヴァルキリーはあっという間に走り出した。
自分でもあの時メリーさんに伝えようとしたのか覚えていない。



どれだけ走ったのかはっきりとしないけど、数分にも満たない時間だったはず。
私はヴァルキリーの上で泣いていた。
自分の在り方に自信を無くしてしまったと思う。
ヴァルキリーを走らせたのは、そんな惨めな自分をメリーさんに晒したくなかったのか、
はたまた私の『理性』で取った行動の方が正しいことを主張するためなのか、わからない。
いろんな気持ちが溢れかえっては消えていく、そんな時間を過ごした。
しまいには、ヴァルキリーの首を両腕でぐるりと絡めて乗っていた。
さぞ不快だったと思う。そして私の走って、という気持ちが小さくなるのに、
呼応してヴァルキリーは足を止めた。

ゆっくり止まったのに、その反動でずり落ちてしまいました。本当に惨めで…
自分に嫌気がさしていた。

私はそのまま座り込んでしまった。今は何も考えず植物の様にありたいと願いながら。
短い時間だったけど、無防備なまま、私はぼんやりとしていた。
今なら襲われても何の抵抗もしないでしょう。
転生の儀式をすることなく死んでしまえば、私に次はないはず。
でも、今の幻想郷に私なんて必要ないのでは、とまで考え出した。
百年程度前なら危険に満ちていた幻想郷も、今では精神的平和が主となる住みやすい場所へと変わった。
妖怪の危険から守るための知識を伝えることが稗田家に与えられた使命。
もうその危険が薄まった今、私の存在意義も同様に不必要では、と感じ始めた。


ガサ、ガサリ


足音が私の鼓膜を叩く。
流石にハッとし思わず、エニグマの紙から生命探知機を取り出し、確認。
私の前方に2つの反応があった。
私はその存在に幽々子さん達への助けを求めることを思いついた。
いくら自暴自棄になっていても、助けたい気持ちだけは陰っていないようだったのは幸い。

誰かが来るのは分かる、しかしどういった人物が来るのかは分からない。
最低でも隠れる必要があるのに、私は怯えていたのでしょう、動けなかった。
下手をすれば殺される状況で、身動きが取れず、私は相当焦っていたと思う。

じゃなければ、こんなこと絶対に、絶対に言わなかったですし…




「助けてー、みこえもーん!」




私が最近執筆した宗教家三者会談での、ある人物の項目に記した。助けを求める方法だ。
耳の良い彼女なら、この言葉で駆けつけてくれる、とかそんなことを書いていたし。

「呼びましたか、阿求?」
「へ?」

まさか、その本人が現るとは夢にも思ってませんでしたが…
そう、そこにいたのは豊聡耳神子。何を隠そう最近幻想郷に現れた人物にして、
宗教家三者会談に参加した一人。

「まさか、君がいるなんてね。来るのが私だと分かってたみたいだけど、
 貴方って欲の声を聴けましたっけ?」

私は思わず赤面する。
そりゃあ、咄嗟のこととは言え、あんなこと言った自分すら何で口にしたのか、問い質したいぐらいだ。

「す、すみません……」

身を縮めて、頭を思いっきり下げた。

「まあいいわ、ジャイロ出てきて構わないわよ。」
「ヴァルキリー!いやー、こんなに早く出会えるなんて俺って運がいいぜ!」

後ろから出てきたのは、ゴーグルをつけたカウボーイ風のハットを冠っていた男性。
外の世界にあんな格好をした人がいるのを資料で見たことがあった。

「格好はアレだけど、一応安心してほしい。彼はジャイロ・ツェペリって言うわ。」
「は、はい。」
「阿求、一刻を争うんでしょう?急ぐわよ!」
「ええぇえッ!?」
私は驚いた、今思い返すと神子さんの能力を使われただけなんだけど。
「ジャイロ!私達3人乗せて、ある場所へ行くわ、準備して!」
「おいおい!人使いが荒すぎやしねぇか?もうちょっと再開を喜ぶ時間を―――」
「そんな女々しいことは後回し!阿求行くわよッ!」

「ったく、あんまヴァルキリーに乗せたくないんだがな…」
無駄口を叩きながらも、着々とヴァルキリーの装備を確認し、私でも乗れるように座らせる。

「さあ、乗った乗った!よくわかんねぇけど、急げばいいんだな?神子よぉ。」

神子さんは乗りながら、生命探知機に指差して話す。
「ええ、人命がかかっている。目的地はこいつと私の耳がある!指示通りに走りなさいッ!」
「いよっしゃあぁ!飛ばすぜ、ヴァルキリー!」

そう言うと、ヴァルキリーは私が乗っていた時と比べものにならないスピードで、竹林を駆け出した。

その間、彼らと会って僅か2分程度で私は元いた場所へとトンボ帰りを果たす。








大して離れていなかったのと、ヴァルキリーの全速力で走ったかいもあり、一分もせずに到達した。

状況は幽々子さんが倒れた直後。
私はなんとか状況を理解しようと周囲を見渡す。
幽々子さんが肉の芽を取り除く際に用いると言っていた
白楼剣の存在を必死で探し、すぐに発見する。

「うわあああああああぁああぁああ!!」

白楼剣はメリーさんの手中にあり、今まさに『スタンド』目掛けて突き刺さんとしていた。

「おいッ!無茶だぜ、『スタンド』相手によぉ!あの子がやられちまうぞ!!」
「あぁぁ、あぁあ…」
「阿求ッ!君の意見を聞かせてッ!」

倒れている幽々子さんと『立ち向かう』メリーさんの姿を見て私は声が震わせていた。
さっきのメリーさんとのやり取りを、自身への後ろめたさせを感じていたから。

 やっぱり、あの子は私とは違う… なんで、なの?

そう感じている間に白楼剣はチャリオッツの額に命中する。

 ああ、自分の力で決着をつけようとしている… 私にはとても…

だが、その白楼剣の動きが止まるのを見て、私はあることを尋ねたのを思い出す。
メリーさんが体験した夢の世界での話をしてくれたときのことだ。

「肉の芽ってどれぐらいの長さがありましたか?」
深い意味はなく、ただの知的好奇心からの質問だった。
「うーんと、詳しく見ていないけど、頭に刺さったら脳の真ん中までいきそうな感じだったわ。
 すごく気味が悪くってね。」
ちょっとだけ顔をしかめていたのまで、はっきりと覚えていた。


じゃあ今、刺さっている白楼剣の位置はどこだと考えた瞬間だ。


「だ、だめ…足りない……」
「阿求?」
「あ、あれじゃあ、足りないッ!脳へのあと一押しが足りていないッ!
『スタンド』に刺さった剣をもう少しだけ進まないと届かない!!」

私は無我夢中だった。声を荒げて必死に伝えようとする。

「要はあの剣が深く刺さらないといけないのね、阿求。」
私は首をブンブンと振り正しいと伝える。
「聞いたわね、ジャイロ!貴方の出番よッ!あの剣がより刺さるように鉄球をかましなさいッ!」
「だろうと思って準備しておいたぜッ!」

ジャイロさんの足元には円を描くように風が纏う、それらはやがて右手に収める鉄球へと集約される。

「俺の鉄球を食らええぇえッ!!」

掛け声と共に鉄球は白楼剣目掛けて投擲される。鉄球は黄金の回転の力を得て、空を切り裂き殺到する。

そして、メリーさんはまだあの場にいてくれた。白楼剣をその手に放すことなく。

鉄球が衝突する。
ギャルギャルギャルっと奇妙な音だが、威力は十分だった。

白楼剣はついにその力の発揮に成功したのだ。


私もその一助になれたような気がした。




メリーさんは泣いていた。この殺し合いの場で最初に出会い、支えてくれた存在を
今度こそ失ったから当たり前か。

対して私は泣いていなかった。

やっぱり私は…

「阿求、ちょっといい?」

話し掛けてくれたのは神子さん。彼女が迅速にことを運んでくれなかったら、幽々子さんも
メリーさんも助からなかった。本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。

「本当に、ありがとうございましたッ!」
「ちょ、ちょっと、そんなかしこまらなくていいのに。」

「それで、私に何か?」
「君の心の問題よ。心当たりあるでしょ。」

神子さんの顔を見ると、『うまいこと言った』と書いてあった。
まあ、面白いけど…

「聞かないでもらえますか?」
「駄目よ、自分の口から吐き出しなさい。私への感謝の気持ちがあるなら、貴方の悩みを聞かせて頂戴。」
「貴方の能力で…」
「もう一回言うわね、自分の口から吐き出しなさい。」

神子さんはニッコリとこちらを見てきた。意地でも聞いて来るつもりだろう。
確かに彼女への感謝の念がある、そのために伝えよう。とそれを言い訳に
私は内に秘めた思いを吐き出すことにした。

話していて途中から涙が止まらなかった。
私は不必要な存在だとか、私は大切な存在のために行動できないとか、
自分をぼろ雑巾のように貶めた。

神子さんはと言うと、そんな私の独白にただただ頷き、言葉に詰まったら
その言葉を言い当てる。泣き出してしまったら背中をさすってあげる、
正に聞き上手の鑑と言ってよかった。

そうして時間が過ぎていった。
私は目を大きく腫らしていたと思う。
あまり、解決策というか的確なアドバイスは言ってもらえなかったけど、
彼女は私にこう言いました。





「阿求、一つだけ言っておくわね。貴方はこの一連の流れを見てどう思う?」
「どうって…」
「はっきり言いましょうか。貴方の行動もマエリベリーの行動も正しかった。
 誤っていなかったってことよ。」

「どちらも…ですか?」
「ええ、マエリベリーの行動の結果、幽々子は殺されることなく守ることができた、わかるわね?」
「は、はい。」
「そして、貴方の行動のお蔭で私たちは駆けつけることができた。
 マエリベリ―だけでは守れなかったでしょうから。」
「で、でも、私は、あ、あの時幽々子さんを、おっ、置き去りに…」
「今は、結果だけで判断しなさい。」
「それに、貴方たちが自力でたどり着くことだってできたはずッ。そのペンデュラムを持っていたならッ!」
「…しょうがないわね、じゃあ阿求。貴方と出くわすまでの話をしましょうか?」

神子さんは私と出会うまでの話を聞かせてくれた。


「…つ、つまり、どちらかでも欠けていたら幽々子さんを守れなかったと…?」
「そういうこと、気に病むことはないのよ。」

「そ、それじゃあ!私はこれから『感情』と『理性』のどちらを
 選ぶのが正しかったと言うんですか!?」

私の心からの疑問だった、答えてほしかった。


「貴方が考える『理性』と『感情』の考えで白黒つけるのは難しいわ。
 正直言って、その場その場で答えは変わる。私も無責任なことは言いたくないもの。」

「そう、ですか……」

「でもね、阿求。貴方があの場で『感情』の選択を取れなかったことをクヨクヨするのは良くないわ。
 まして、大切な存在がいても助けるために行動できないとか、ね。」
「できる、できないは誰にだってである。その中で思い悩み
『可能性』を信じ、できると思い行動する。『勇気』を持って、できないと判断する。
『人間賛歌』って貴方の言う『感情』や『理性』のどちらにも転ぶものよ。」

「つまり…?」
「『人間賛歌』を掲げて動けば、そのどっちにも当てはまる。少しだけでも
 信じてあげるのも一興かもねってことよ。」



「まあ私は仙人だし、『仙人賛歌』とか『妖怪賛歌』とかあってもいいと思うけどねぇ。」

なるほど、それは面白そうな感じがした。

「後は貴方が考えなさい、私から言えるのはそれまでだし。」
「少しだけ気が楽になりました、ありがとうございます、神子さん。」

「ふふ、力になれて何よりよ。カウンセリング、受けたいならいつでも歓迎するわ。」
「いえ、できれば今回までにしてみせますよ。だって…」
「だって…?」

「これからの稗田家の信仰が狙われそうだから、かな?
 宗教家に借りを作るのはマズいですもの。」

「あら残念ねぇ、ちょっとだけ期待していたのに…まあその内頂くことにするわ。」





以上が私の体験した一連の動きです。
結局のところ、ツェペリさんには本当に申し訳ないですが
今回はうまく行き過ぎたのかもしれません。

力のない私たちが二手に分かれて各々の使命を果たせたんですから。
最悪の事態だって十分にあり得ました。

でも、今回は相手が一人だったからうまくいったのでしょう。
次も決して簡単には済まないだろう、と記して、
私の手記は終わりに致します。

まあ、誰も読むことはないでしょうけど…(失態だらけだし)
それでは、もしまた書くことになったら会いましょう。さようなら。

―――で終わろうかと思いましたが、

一つだけ追記したいと思います。
ジャイロさんと神子さんのご活躍も合わせて、私の手記に書き足しておきます。

よろしかったら、もうしばらくお付き合い願えますか?



「ふざけんなッ!このペンデュラム壊れやがったのか!?」
「圏外に移動してしまっただけよ、ジャイロ。」

永遠亭を出発したジャイロ・ツェペリさん、豊聡耳神子さんの二人は迷いの竹林を彷徨っていたようです。
支給品、ナズーリンのペンデュラムをジャイロさんに持たせて、
ヴァルキリーを探していたのは良かったのですが、その反応が少しずつ失われました。
ヴァルキリーのスピードを考えると、有効範囲の200mから離されてしまったのだと思います。

「ちぃッ!折角見つけたと思ったら、急にいなくなりやがって。
 乗ってた野郎はただじゃあすまねえぜ。」
「少し頭を冷やしなさい。無理に追いかけようとすれば必ず道に迷うわよ。」

進むべき道は分かっていてもここは迷いの竹林。
迂闊に走って追いかけるのは良くないと神子さんは窘めます。

「君はそのヴァルキリーって馬に随分御執心のようね。」
「当ったり前だろうが!あいつがどれだけレースの力になったのか計り知れないんだぞ!」
「馬が、ねえ…」

ああ、そうか。神子さんって厩で生まれた(うまいこと言った?)逸話がある方でしたね。
何とも言えない表情してるし。
本人は違うって言ってましたけど。後でジャイロさんに伝えてみましょう。うん、そうしよう。
お二人には馬という縁があったのかもしれませんね。

「ジャイロ、私についてきて。遠すぎるから曖昧だけど、私の耳で一旦探りを入れるわ。」

「そういや、アンタ、永遠亭で俺が何を考えていたのか読み取ったよな?読心能力でも持ってるのか?」

ジャイロさんは出会ってすぐに、神子さんの能力で何を考えているのかを読み取られたとか。
読まれる側はたまったものじゃないです。

「ちょっと違うけど、そんな感じね。私は生きている者の欲を感じ取ることができるわ。」

「欲か…ヴァルキリーは馬だけど平気なのか?」
「生きている存在ならね。それと欲がなかったり、心を閉ざしていたり、
 半人半霊だったりするとうまく読み取れなくなるわ。」
「欲がない、心を閉ざす、その二つはいいけど半人半霊って何だよ…」

「いいからいいから。ちょっとの間黙ってくれる?」


神子さんは目を閉じて辺りに耳を澄ます。ほんの数秒経って彼女は口を開きます。


「駄目ね、聞こえが悪い…。うーん、こんなものじゃないんだけどなぁ。」
「いくら耳がいいって言っても限度があるぜ。聞こえるわけないだろ。」

ジロリと神子さんはジャイロさんを睨みます。ちょっと軽い方だけど、
それなりにプライドあるだろうし。

「近くに雑音があるかしらね、うん。困ったものよね…」
「何だとぉ!俺はちゃんと黙っていただろうが!どーして悪く言われなくちゃあいけねえんだよ!」
「さっき言ったでしょ、私は欲を聞き取る。早い話、周囲がうるさいかどうかよりも、
 そういった欲の声が小さくないと聞こえは悪いわ。」


「ったく!言い訳ばかり言いやがって。俺が連れ添っていたのは
『聖人』でも『仙人』でもない、ただの『女の子』だったわけかよ。」




ああ、まずいって。怒らせるとロクな目に合わないのに…

神子さんは少し低い声でゆっくりと言う。
「ジャイロ…。せっかく君の欲の一つを解消しようって思ったのにねぇ…!」

「はんッ!ヴァルキリーを見つけられないアンタがよく言うぜ。」
「これ、壊すわよ…」
神子さんはエニグマの紙から何かを取り出す。


「うわああぁああッ!やめろ、やめろぉッ!そいつだけはーッ!」


彼女の手には一つの鉄球があった。何の変哲もないその鉄球は、ジャイロさんの生命線だ。

「私には無用の長物、困るのは貴方だけ。こんなおもちゃが大事だなんて、君も好き者ねぇ…」
「ぐッ!へん、よくよく考えたら女のアンタじゃあ壊せるわけないか、
 チョイとばかし取り乱しちまったぜ…」

早く折れた方がいいのに…


「あら、私はやろうと思えば大きな岩の一つや二つ持ち上げれるわ、試してみる…?」


神子さんとまともに相対すると、すごいプレッシャーを感じるって言われています。
それなりに怒っている彼女となると、なおさら大きなものになるでしょう。


(こいつ、目がマジだ…!だが無理に決まってるあいつの凄味に負けるかよ!
『できるわけがないッ!』)




「次に君は『できるわけがないッ!』と言う」
「『できるわけがないッ!』…ハッ!」



神子さんはニコニコとしている。ある意味タチが悪い。

「こんの野郎ーッ!おちょくりやがってェーーッ!!」

ジャイロさんは激しく地団駄を踏みながら怒ります、
ひょっとして言われたくない言葉だったのかしら。


「本題に移るわ、雑音が過ぎる君のためにこの鉄球をあげてやってもいいわよ?」




「んなにぃ!?ホントか!!」

神子さんは鉄球を上に投げたり、なでたりと、弄りまわしながら言います。

「君がこんなおもちゃを欲しがるお子様だと、認めたらね?」

神子さんはそれはそれは愉快そうな笑顔を貼り付けて、伝えます。



「ふっざけんなああぁあ!どうしてそうなるんだよぉ!!」



「君の口からそう言ってくれれば、素直に渡すわ。さぁ早く聞かせてくれないかな~?」

神子さんは耳の後ろに広げた手の平を当てて、聞こえないなぁ~といったジェスチャーをします。
あんまりだ。
そんなことよりヘッドホン外した方がよっぽど聞こえ…いや、よそう。

「ちっくしょおぉお…」

遂にジャイロさんが観念したのか口を開きます。

「俺は、俺はッ……おもちゃ、を…

「うん?」




「駄目だッ!そんなことは言えねぇ、言えるわけがねぇッ!!」
「あらら?」



「俺は、俺はッ…先祖代々から追求してきた回転の技術の継承者、ツェペリ一族の末裔だッ!
 鉄球をおもちゃだとぉッ!そんなことを認めちまったらよぉ、
 ツェペリ一族の、その名をッ、貶めることになるだろうがッ!!」


「そんな条件なら飲まねぇ、絶対にな!こっちから願い下げだぜ!神子ォ!!」

「ふふ、いい度胸ね…!」

神子さんはついに握りしめていた鉄球を放り投げた。
迷いの竹林でそんなことされたら見つかるわけがない。私は話を聞いてて、そう思っていました。



鉄球は転がる。ジャイロさんの足元へと。
「へ?」

ジャイロさんは神子さんを見ると、クツクツと笑っていました。
「ほん、と…おも、しろい……わねぇ、君は……」

「?」
なおも茫然としているジャイロさん。私も良く分からない、早く教えて、みこえもん。
神子さんは一頻り笑い終えるとようやくジャイロさんに話しかける。




「いい返事じゃない、ホント。従順な輩だと信仰を頂くのも容易い。君みたいなのは願い下げだけどね。」


「君のそういう真っ直ぐな性根…とまではいかなくても。
 内にある確かな信念、しかと見せてもらったわ。その鉄球は餞別よ。」

「ま、まさか試していやがったのかぁ!?」

あれで試していたんですか、割と本気に見えたんですけど…

「さっきも言ったけど私の能力はある程度制限されている。
 そんな中で信用、いや信頼に足りる存在は貴重よ。」

「お、俺を信頼してるだとぉ!?」

上手いこと言って、ジャイロさんを小間使いにしてしまうのでは…

「殺し合いの場で武器よりも信念を優先したのは無謀に見えるけど、君にはこの状況でも貫く思いがある。
 『恐怖』に屈さない奴は、今のうちに味方に引き込まないとね。」

「おいッ!勝手に決めつけるんじゃあねぇぞ!いくら試したって言っても、
 鉄球をおもちゃ呼ばわりしたのは謝罪の一つ…」

その声とからの欲から察した、神子さんの行動は素早いものです。
腰から上半身を綺麗にぴったり45度前に傾ける体制、謝罪の意を表するお辞儀を彼女はしていました。


「この通りよ、ジャイロ・ツェペリ。ごめんなさい。」

「……!」

「でも、聴いてほしい。私はこんな殺し合いを止めるためならいくらでも頭を下げるわ。
 聖人とは人を救うものよ、当たり前のことなの。
 ふざけた殺し合いなんかさっさと片付けてやるわッ!」

 (こいつ、目先のことじゃなくて殺し合い全体のことを見据えていやがったのかッ!)

神子さんは頭を上げると、元の調子に戻って少しだけ茫然としているジャイロさんに言います。

「あれ?…鉄球いらないの?」
「ふ、ふざけんな、貰うに決まってんだろ。」

ジャイロさんは取られまいと、そそくさと拾います。
「さて、これで欲の声が少しは静かになるわね。」



「神子、その…なんだ、スマン!!」

「うん?」


「元はと言えば、俺が余計なこと言ったのが始まりだったんだ。
 それに、アンタなんだかんだ言って俺のこと褒めてんじゃねえかよ!
 このままじゃあ『納得』できねぇ!謝っとくぜ。悪かった…」

ジャイロさんは頭を垂れました。


「素直でよろしい。でも、そうやって騙されないことね、
 貴方に渡したそれは私には不必要なものなんだから。」

「けッ、そんなもの見抜けないほど俺は間抜けじゃないね。
 それにアンタは俺の内にある信念を認めたんだろ。だったらその信念に従って動いてやるぜ。
 俺なりのアンタに対する『敬意を払え』ッ、ってやつだ!」

流石神子さんというか、なんというか。人の心を掴むのがうまいですね、天性のものもあるでしょうが。
やっぱり借りを作ったのはマズかったなぁ…




「さて、もう一度欲の声を聴いてみます。気持ちを落ち着けて、
 無理に抑え込まない様に頼みます。ジャイロ。」
ジャイロさんは首肯する。神子さんは再び目を閉じ、しばらくすると目を見開く。



「ふう…」
「どうだ、神子。なんか引っかかったか?」
「そうね。」

神子さんは言います。
「聞こえなかったわ。」
「は?じゃあ、俺の欲がどうってのは…?」
「関係ないわね。」
「俺のせいじゃあないんだよな。」
「うん。」

ジャイロさんはわなわなと震えだす。私でもちょっとは怒るかも…

「俺が悪かったってのは、じゃあ?」
「しつこいなぁ、君は悪くないわよ?」
「俺が侘び入れる必要ってのは…!?」
「な・い・わ・よ!」

 『プッツン』

「ふざあけんじゃあああねええええッ!今までのやり取りは何だったんだよぉ!!」

「君は鉄球を手に入れた。私は信頼できる相手を見つけた。それじゃあ不満?」 
神子さんはにこやかに微笑む。

結局、ジャイロさんは別の意味で騒がしくなりましたとさ。



その後、ジャイロさんと神子さんは再び歩き出します。
しかし、行けども行けどもペンデュラムは反応しません。
それなのに、神子さんの耳は欲を捉えていました。

「おかしい、どこかに欲が集まってるのは分かる。近くに人はいる。でも…」
「ペンデュラムは反応しないか…、ちっくしょう、どうなってんだ?」

「二つ考えられるわね、一つはエニグマの紙にしまわれた可能性。もう一つは…」
「何だよ?」

「ヴァルキリーが既に殺された、とか。」


「おい、冗談でも言うモンじゃねえぞ!?」
「まあ、ここでの有用な移動手段を殺す奴なんていないと思うわ。」

そこまで神子さんが口を開いた瞬間。

彼女たちから見て少し先の前方が紫色の光が少しだけ見えたそうです。
おそらく幽々子さんの幽胡蝶がポルナレフさんを襲った時だと思います。

「うおッ!なんだありゃあ!?」
「行くわよ、ジャイロ。」
「おう!」


二人はさらに走ります。それで本来なら私達と遭遇していてもおかしくはなかったのですが、
ここは迷いの竹林。
普通に真っ直ぐ歩いていても、微妙な傾斜や変わらない景観で人の感覚を狂わせるのです。



光りが見えて数分が経ちジャイロさんが口を開きます。


「だぁーーッ!ほんと馬鹿にしやがって、この竹林はよぉーッ!」
「!ジャイロ、ペンデュラムを見なさいッ!」

ペンデュラムはいつの間にか道を指していました。ヴァルキリーへと至る道を。

「うおおおッ!?マジかよ!いやったぜぇーッ!」
「ジャイロ、落ち着きなさい!こっちに向かって来ている!」

そう、私がヴァルキリーに乗って走っている時、偶然にも彼らの方へと走っていたのです。
本当に、幸運だったとしか言い様がないくらいに…!


ドサリ


「何か落ちた音、いや馬から落ちた音か!近いぜ、待ってろよォー!ヴァルキリー!」
「ジャイロ、止まりなさい!!」

ジャイロさんは不服そうですが、止まりました。

「私が先に行く、相手の心はかなり錯乱している。相手を落ち着かせるのは私に任せて!」

「…しゃあねえか、分かったよ。だが、俺はすぐ後ろの物陰に隠れている。
 危険な相手と判断したら、俺は鉄球を放つぜ。」

「…分かったわ、君だって無暗やたら撃たないでしょうから。信頼してるわね、ジャイロ。」
「おう。」

神子さんは進もうとした瞬間、ふと思ったことをジャイロさんに伝えました。

「それにしても私の呼びかけに随分素直に応じたわねぇ。
 てっきり、さっさと行っちゃうと思ってたけど…」


「俺って信用ねえなぁ、さっきまでの大して知らない相手のままならいざ知らずよォ。」

ジャイロさんはしっかりと神子さんを見て言いました。


「俺はアンタが止まれって言ったから止まってやったんだぜ?」


あらま…

「ふーん、わかったわ。」
「何でそんな軽いんだよ!もうちょっと、こうッ、何かねえのかよッ!」

「あら、告白のつもりだったの?」
「んなわけあるかあぁあー!!頼まれてもごめんだぜ、絶対に嫌だね!」

「ジャイロ…」
「何だよ、まーだ、からかうつもりかよ!」

神子さんはしっかりとジャイロさんを見て伝えます。その顔はとてもにこやかで。


「ありがとう。心だけじゃなくて、その気持ちを口にしてくれてね。」



「んなッ…!?」

ジャイロさんは凍り付いたように動かなくなりました。

それがどういった意味がなのかは知りませんけど…



私を助ける直前だと言うのに、二人は随分と仲良しさんになっていたとさ。



【D-6 迷いの竹林/早朝】

【西行寺幽々子@東方妖々夢】
[状態]:気絶、霊力消費(極大)、疲労(大)、出血(大)、左腕を縦に両断(完治)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。紫や妖夢、メリーを守る。
1:紫や妖夢、メリーを失わいたくない。
2:あの子(メリー)は、紫に似ている。どうやって尋ねましょうか?
3:阿求には迷惑かけちゃったわね…
4:主催者を倒す為に信用できそうな人物と協力したい。
※参戦時期は神霊廟以降です。
※『死を操る程度の能力』について彼女なりに調べていました。
※波紋の力が継承されたかどうかは後の書き手の方に任せます。
※左腕に負った傷は治りましたが、何らかの後遺症が残るかもしれません。

マエリベリー・ハーン@秘封倶楽部】
[状態]:疲労(極大)、ツェペリを失った悲しみと感謝、精神はだいぶ落ち着いている。
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:蓮子と一緒に此処から脱出する。ツェペリさんの『勇気』と『可能性』を信じる生き方を受け継ぐ。
1:ツェペリさん、ありがとう…
2:阿求さんと仲直りがしたい。
3:蓮子を探す。ツェペリさんの仲間や謎の名前の人物も探そう。
4:幽々子さんと一緒にいてあげたい。
5:幽々子さんってどこかで会ったことがある?夢の世界でとか?
[備考]
※参戦時期は少なくとも『伊弉諾物質』の後です。
※『境目』が存在するものに対して不安定ながら入り込むことができます。
 その際、夢の世界で体験したことは全て現実の自分に返ってくるようです。
※ツェペリとジョナサン・ジョースター、ロバート・E・O・スピードワゴンの情報を共有しました。
※ツェペリとの時間軸の違いに気づきました。


ジャン・ピエール・ポルナレフ@第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:気絶、疲労(極大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:???
1:???
[備考]
※参戦時期は香港でジョースター一行と遭遇し、アヴドゥルと決闘する直前です。
※肉の芽の支配から脱しました。



【稗田阿求@東方求聞史紀】
[状態]:疲労(中)、自身の在り方への不安
[装備]:なし
[道具]:スマートフォン@現実、エイジャの赤石@ジョジョ第2部    
     稗田阿求の手記@現地調達、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いはしたくない。自身の在り方を模索する。
1:私なりの生き方を見つける。
2:メリーさん、幽々子さんが助かって良かった…
3:神子さんに感謝、できれば何か恩返ししたい。
4:メリーさんと仲直りできるでしょうか…
5:主催に抗えるかは解らないが、それでも自分が出来る限りやれることを頑張りたい。
6:荒木飛呂彦、太田順也は一体何者?
7:ジャイロさんに神子さんが厩から生まれたと伝える?
[備考]
※参戦時期は『東方求聞口授』の三者会談以降です


【ジャイロ・ツェペリ@第7部 スティール・ボール・ラン】
[状態]:疲労(小)
[装備]:ナズーリンのペンデュラム@東方星蓮船 、ジャイロの鉄球@ジョジョ第7部
[道具]:ヴァルキリー@ジョジョ第7部、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ジョニィと合流し、主催者を倒す
1:鉄球とヴァルキリーを見つけてくれた恩を神子に返す、彼女を信頼する。
2:ジョニィや博麗の巫女らを探し出す
3:リンゴォ、ディエゴ、ヴァレンタイン大統領、青娥は警戒
4:あのオッサン、ツェペリって言うのか?
[備考]
※参戦時期はSBR19巻、ジョニィと秘密を共有した直後です。
※豊聡耳神子と博麗霊夢八坂神奈子聖白蓮霍青娥の情報を共有しました。
※この会場でも、自然には黄金長方形のスケールが存在するようです。
※豊聡耳神子の能力を理解しました。

【豊聡耳神子@東方神霊廟】
[状態]:疲労(小)、少し気分がいい
[装備]:生命探知機@現実
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:聖人としてこの殺し合いを打破する
1:阿求は立ち直ってくれたかな?
2:ジャイロは信頼に足りる存在と認める
3:博麗の巫女など信頼できそうな人物を探し出す
4:あのペンデュラムを白蓮に渡したら面白いかも
5:……青娥、もしかしたら裏切るかもしれないわねぇ
[備考]
※参戦時期は『東方求聞口授』の三者会談を終えた後です。
※ジャイロ・ツェペリとジョニィ・ジョースターリンゴォ・ロードアゲイン
 ディエゴ・ブランドーファニー・ヴァレンタインの情報を共有しました。
※能力制限については、後の書き手の方にお任せします。
※ジャイロが自分の能力の詳細を伝えました。

※八雲紫の傘@東方妖々夢、白楼剣@東方妖々夢、星熊杯@東方地霊殿が周囲に落ちています。

稗田阿求の手記@現地調達
稗田阿求が書き記した手記。手記と言っても支給品のA4用紙に書かれた簡素なものである。
彼女がが体験したこと、その時の心情などを事細かに書かれている。
時間があれば他人からも話を聞いて書き記し、最終的には自身の在り方の糧にする予定。
阿求が生き残った時間の分だけ、その内容は充実していくだろう。
果たして阿求はこの手記を完成させることができるのだろうか…

白楼剣@東方妖々夢
白玉楼の庭師兼剣術指南役の魂魄妖夢の愛用の刀の一つ。人の迷いを断ち切るとされる短刀。
副次的な効果として、幽霊などの霊的存在に対して迷いを断ち切ることで成仏させることが可能。
よって、『守護霊』とも称される『スタンド』が相手でも迷いを断ち切ることができる。
その他にも武器として斬り付けることで『スタンド』にダメージを与えられる可能性も…

072:Trickster ーゲームの達人ー 投下順 074:何ゆえ、もがき生きるのか
072:Trickster ーゲームの達人ー 時系列順 074:何ゆえ、もがき生きるのか
015:ルイとサンソン ジャイロ・ツェペリ 106:DAY DREAM ~ 天満月の妖鳥、化猫の幻想
015:ルイとサンソン 豊聡耳神子 106:DAY DREAM ~ 天満月の妖鳥、化猫の幻想
012:彷徨える魂、巡り会う者達 マエリベリー・ハーン 106:DAY DREAM ~ 天満月の妖鳥、化猫の幻想
012:彷徨える魂、巡り会う者達 稗田阿求 106:DAY DREAM ~ 天満月の妖鳥、化猫の幻想
012:彷徨える魂、巡り会う者達 西行寺幽々子 106:DAY DREAM ~ 天満月の妖鳥、化猫の幻想
012:彷徨える魂、巡り会う者達 ジャン・ピエール・ポルナレフ 106:DAY DREAM ~ 天満月の妖鳥、化猫の幻想
012:彷徨える魂、巡り会う者達 ウィル・A・ツェペリ 死亡

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最終更新:2014年11月24日 20:08